説明

親綱設置用具

【課題】コストをかけずに容易に取り付けられ、作業の支障とならないように親綱を設置することができる親綱設置用具を提供することを課題とする。
【解決手段】親綱設置用具1は、両端が開口するとともに、開閉自在な扉である側板5を有する本体2を備え、本体2は、側板5を閉じることにより、取付対象物である柱などを囲繞する。また、本体2には、本体2に取付対象物を押しつけて固定する押し付け部12,15が設けられ、さらに、本体2から延出するL形鋼3が設けられる。親綱はL形鋼3によって、本体2から離れた位置において、親綱設置用具1に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は親綱を設置する用具に関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事現場においては、高所での作業の安全対策の1つとして、作業場所または作業用通路に沿って親綱が設けられる。作業者は、安全帯と呼ばれる腰ベルトを装備するが、安全帯には命綱が接続され、命綱の先端には外れ止めを備えた金属製のフックが接続されている。高所において、作業者は、装備した安全帯のフックを親綱に取り付けて作業及び移動を行い、高所から転落することを防ぐことができる。
よって、親綱は人の転落の衝撃に耐えうる強度を必要とし、また、親綱が取り付けられる取付対象物も強固な構造を要する。従って、取付対象物として、柱部材や、親綱を取り付けるために別個に設けられた支柱等が使用される。また、この取付対象物に設置用具を取り付け、取付対象物に取り付けられた設置用具に親綱は取り付けられる。
【0003】
例えば、特許文献1において、親綱を施工途中の柱鉄筋に取り付けるための設置用具が記載されている。この設置用具は、鋼製であり、柱鉄筋を貫通させるための貫通路と、貫通路の側部に固定用ねじとを備え、さらに親綱を緊結するための取付孔を備えている。この設置用具は、貫通路に挿入された柱鉄筋を固定用ねじにより貫通路の内壁面に押しつけることによって、柱鉄筋に固定される。また、設置用具の取付孔には、親綱が取り付けられる。
【特許文献1】特開平11−303412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1における設置用具は、柱鉄筋の上方側の端部を貫通路に挿入させる必要があるため、この設置用具の設置または撤去のために、作業者が柱鉄筋の上方側の端部に到達する必要がある。よって、この設置または撤去のために、新たに足場が作成されたり、梯子及び脚立等が使用されたりする。しかし、新たな足場の作成は余分な手間とコストを発生させるという問題があり、梯子及び脚立等の使用は高所において作業者が不安定な姿勢で作業を行うため安全上の問題がある。また、親綱は、柱鉄筋に近接した位置で設置用具と接続されるため、柱鉄筋の近傍において作業者が作業する場合、親綱が作業の支障になるという問題があり、また、柱と柱との間に設けられる壁部材に親綱が絡むなどにより作業能率が悪化するという問題もある。
【0005】
この発明は、このような問題を解決するためになされたもので、コストをかけずに作業者が立った姿勢で容易に取り付けられ、作業の支障とならないように親綱を設置することができる親綱設置用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の問題を解決するために、この発明に係る親綱設置用具は、この親綱設置用具を介して、親綱を取付対象物に取り付ける親綱設置用具であり、両端が開口するとともに、開閉自在な扉を有し、扉を閉じることにより、取付対象物を囲繞する箱状体と、箱状体に設けられ、箱状体に取付対象物を押しつけて固定する押し付け部と、箱状体から延出し、箱状体から離れた位置に親綱を連結する腕部とを備えることを特徴とする。
【0007】
親綱設置用具は、その箱状体に開閉可能な扉を備えるため、例えば、柱状の取付対象物に対して、その側方から、箱状体を取付対象物に取り付けることができる。さらに、箱状体は、押し付け部が取付対象物を箱状体に押し付けることによって、取付対象物に簡単に固定され得る。よって、親綱設置用具の取付において、取付対象物の一端から箱状体を差し込む必要はなく、例えば、取付対象物が鉛直方向に延在する柱である場合でも、柱の上方端部から作業者が差し込むことを必要とせずに、作業者は立った姿勢のまま親綱設置用具を取付対象物に簡単に取り付けることができる。従って、親綱設置用具を取付対象物に取り付けるために、新たな足場の作成よる手間やコストが削減でき、また、高所において作業者が梯子や脚立等を使用した不安定な作業を行う必要がなくなることにより作業の安全性が高められる。また、親綱は腕部によって箱状体と離れた位置に取り付けられるため、取付対象物から離れた位置に親綱は保持される。従って、取付対象物の近傍において作業者が作業する場合に親綱が作業の支障になることを防ぎ、また、取付対象物どうしの間に設けられた部材に親綱が絡むことなどによる作業能率の悪化を防ぐことが可能になる。
【0008】
押し付け部は、少なくとも2以上設けられ、押し付け部のそれぞれの押し付け方向が異なっていてもよい。箱状体は、取付対象物を囲繞しており、箱状体に設けられた押し付け部は、取付対象物を箱状体に対して異なる2つ以上の方向から押し付けることができるため、取付対象物に対して箱状体は安定して固定され得る。また、矩形断面及び矩形断面以外の取付対象物に対して、箱状体は安定して固定され得る。さらに、例えば、押し付け面を2つしか有さないH形鋼の取付対象物に親綱設置用具を設置する場合において、腕部の突出方向を90°毎に4つの方向に変更することができるように、作業場所に応じた親綱の設置が可能になる。
【0009】
腕部は、腕部と異なる方向に腕部から延出する支柱を備え、親綱は、支柱に連結されてもよい。支柱の先端を箱状体及び腕部より上方とすることができるため、親綱を高い位置に設置することができる。従って、親綱に安全帯のフックを取り付けて作業を行う作業者が転落した場合、親綱及び安全帯の命綱が緊張するまでに要する作業者の落下距離が短くなるため、安全帯を介して作業者の体に与えられるダメージが低減される。また、作業において、親綱が作業者の足や腰道具等に引っかかる危険が低減される。
箱状体はヒンジ及び挿入孔を備え、扉は、ヒンジにより開閉自在に回動し、挿入孔にピンを挿入することにより閉じた状態に保持されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、親綱設置用具は、コストをかけずに容易に取り付けられることができ、作業の支障とならないように親綱を設置することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、この発明の実施の形態について、添付図に基づいて説明する。
実施の形態.
この実施の形態に係る親綱設置用具1の構造は、図1及び2を参照すると、以下のとおりとなる。
図1を参照すると、親綱設置用具1は鋼製であり、コの字形状の断面を有するコ形側板21を有している。コ形側板21は、矩形をした側板21bの両端に矩形をした側板21a及び21cの端部がそれぞれ接続されたもので、側板21a及び21cは同形状となっている。また、コ形側板21の側板21aの外周面には、腕部としてL形鋼3の一端が接続されている。L形鋼3は、側板21aに対して垂直に延在し、その他端3aは自由端となっている。さらに、他端3aには、L形鋼3に対して垂直な方向に延在する鋼製の支柱4の一端が接続されている。支柱4の他端は自由端となっており、U字形状をした親綱取付金具4aが設けられている。
【0012】
また、コ形側板21の側板21cにおいて、側板21bとの接続部と反対側の端部は、ヒンジである蝶番6によって、側板5の端部と接続されている。側板5は側板21bと同形状であり、また、蝶番6を中心として回転自在な扉を形成し、側板21aの端部と当接して側板21a,21b,21cとともに両端が開口した箱状体を形成する。ここで、コ形側板21及び扉である側板5は、箱状体である本体2を構成する。従って、本体2は、側板5によって開閉される。
【0013】
また、側板5において、蝶番6との接続部と反対側の端部には、間隔を空けて配置された2つの同軸同径の円筒を備える第1の連結金具7aが設けられている。一方、側板21aにおいて、側板21bとの接続部と反対側の端部には、第1の連結金具7aの円筒と同径の3つの円筒が間隔を空けて同軸に配置された第2の連結金具7bが設けられている。側板5が側板21aに当接するとき、第2の連結金具7bの円筒間に第1の連結金具7aの円筒がはめ込まれ、これら全ての円筒は同軸となる。さらに、第2の連結金具7bの上端の円筒からL字形状をした連結固定ピン8aが挿入される。連結固定ピン8aは第1の連結金具7aの円筒の孔である挿入孔7a1及び第2の連結金具7bの円筒の孔である挿入孔7b1の全てを貫通し、側板5を側板21a、すなわちコ形側板21に対して固定する。
また、側板21aには、環状の保持金具8bが設けられている。保持金具8bは、ひも8cによって連結固定ピン8aと連結されており、連結固定ピン8aの紛失を防止している。
【0014】
次に、図2を参照すると、本体2は閉じられ、側板5がコ形側板21に対して固定された状態が示されている。
側板21cには貫通孔21c1が形成されている。さらに、側板21cの外周面にはナット14が設けられており、ナット14は側板21cに溶接等で固定されて、その中心軸は貫通孔21c1と同軸となっている。なお、貫通孔21c1の径は、ナット14の内径より大きくなっている。
【0015】
ナット14には、側板21cの外側からボルト12dが螺合しており、その先端は貫通孔21c1を貫通して、側板21cの内側に延在している。ボルト12dの先端は、円筒形状をしたニードルベアリング12cとその内部で嵌合し、ニードルベアリング12cによって回転自在に支持されている。なお、ニードルベアリング12cは、ボルト12dの中心軸と平行な中心軸を有し、ボルト12dの側面に当接する棒状のローラを複数備えており、このローラによってボルト12dを回転自在に支持するものである。また、ボルト12dの先端をニードルベアリング12cの底部に当接させて支持している。
【0016】
さらに、ニードルベアリング12cは矩形をした第1の固定板12aの側面に接続し、溶接等で固定されている。第1の固定板12aにおいて、ニードルベアリング12cとの接続面と反対側の側面には、第1の固定板12aと同形状のゴム板12bが設けられ、ゴム板12bは接着剤等によって第1の固定板12aに固定されている。
よって、第1の固定板12a及びゴム板12bは、ボルト12dの回転に伴って、ボルト12dを中心として回転することなく、ボルト12dの軸方向に往復移動する。
ここで、第1の固定板12a、ゴム板12b、ニードルベアリング12c及びボルト12dは第1の押し付け部12(図1参照)を構成する。
【0017】
また、側板5においても、側板21cと同様に、貫通孔5aが形成され、側板5の外周面にはナット17が設けられている。ナット17には、螺合するボルト15dが設けられ、ボルト15dはニードルベアリング15cを介して、第2の固定板15aに回転自在に接続されている。また、第2の固定板15aにはゴム板15bが設けられている。
ここで、第2の固定板15a、ゴム板15b、ニードルベアリング15c及びボルト15dは第2の押し付け部15(図1参照)を構成する。
従って、第1の押し付け部12の移動方向と第2の押し付け部15の移動方向とは、垂直になっている。
【0018】
次に、この実施の形態に係る親綱設置用具1は、図1〜3を参照すると、以下のとおりに、取付対象物である柱に設置される。なお、柱は施工途中において仮設柱として設置され、下端のみが固定されて鉛直方向に延在する溝形鋼である。
図1を参照して、親綱設置用具1を柱に設置する際、本体2に対して側板5は開かれており、柱の側方から本体2におけるコ形側板21の凹部21dに柱がはめ込まれる。柱がコ形側板21の凹部21dに収容された後、側板5は閉じられ、連結固定ピン8aが第1の連結金具7aの挿入孔7a1及び第2の連結金具7bの挿入孔7b1に挿入されて、側板5がコ形側板21に固定される。すなわち、柱が本体2によって囲繞される。(図2参照)
【0019】
さらに、図2を参照して、ボルト12dを回転させることによって第1の固定板12aが摺動し、第1の固定板12aは、本体2の内側の柱10を側板21aに押しつけ、柱10に対して本体2を固定する。また、第1の固定板12aと柱10との間のゴム板12bの摩擦力によって、本体2の柱10への取付強度が増大する。一方、ボルト15dを回転させることによって、第2の固定板15aは、柱10を側板21bに押しつけ、柱10に対して本体2を固定する。
従って、柱10は、第1の固定板12a及び第2の固定板15aによって、本体2に対して、垂直な2方向から押し付けられて固定されている。
【0020】
また、柱10が矩形に近い断面形状を有するため、本体2は、第1の固定板12a及び第2の固定板15aによって固定されていたが、例えば、柱10がH形の断面を有するH鋼などの場合は、第1の固定板12a及び第2の固定板15aのいずれか一方の固定板によって固定される。
【0021】
次に、図3は、柱10に設置された親綱設置用具1を示している。親綱設置用具1は、L形鋼3及び支柱4が柱10に対して同じ側に位置するように、柱10に対して設置されている。さらに、親綱設置用具1の支柱4に設けられた親綱取付金具4aには、親綱9が設けられている。また、親綱9は、隣接する2つの親綱設置用具1の間において、2つの親綱設置用具1を結ぶように設けられている。なお、親綱9は、本体2から離れた位置に保持されており、2つの柱10の間に設けられた柱20に絡んだり擦れたりすることがない。
【0022】
このように、この実施の形態に係る親綱設置用具1は、両端が開口するとともに、開閉自在な扉である側板5を有し、側板5を閉じることにより、柱10を囲繞する本体2と、本体2に設けられ、本体2に柱10を押しつけて固定する押し付け部12,15と、本体2から延出し、本体2から離れた位置で親綱を連結するL形鋼3とを備える。
【0023】
よって、上記のような構成の親綱設置用具は、その本体2に開閉可能な側板5を備えるため、柱10に対して、その側方から、本体2を柱10に取り付けることができる。さらに、本体2は、押し付け部12,15が柱10を本体2に押し付けることによって、柱10に簡単に固定される。よって、親綱設置用具1の取付において、柱10の上方端部から作業者が差し込むことを必要とせずに、作業者は親綱設置用具1を柱10に簡単に取り付けることができる。従って、親綱設置用具1を柱10に取り付けるために、新たな足場の作成よる手間やコストが削減でき、また、高所において作業者が梯子や脚立等を使用した不安定な作業を行う必要がなくなることにより作業の安全性が高められる。また、親綱はL形鋼3によって、本体2から離れた位置に取り付けられるため、柱10から離れた位置に親綱は保持される。従って、柱10の近傍において作業者が作業する場合において親綱が作業の支障になることを防ぎ、また、柱10同士の間に設けられた柱20などの部材に親綱が絡むことなどによる作業能率の悪化を防ぐことが可能になる。
【0024】
また、本体2は、柱10を囲繞しており、本体2に設けられた押し付け部12,15は、柱10を本体2に対して垂直な2つの方向から押し付けることができるため、柱10に対して本体2は安定して固定される。また、矩形断面以外の取付対象物に対しても、本体2は安定して固定され得る。さらに、例えば、押し付け面を2つしか有さないH形鋼の柱に親綱設置用具1を設置する場合において、L形鋼3の突出方向を90°毎に4つの方向に変更することができるように、作業場所に応じた親綱の設置が可能になる。
【0025】
また、支柱4の先端を本体2及びL形鋼3より上方とすることができるため、親綱を高い位置に設置することができる。従って、親綱に安全帯のフックを取り付けて作業を行う作業者が転落した場合、親綱及び安全帯の命綱が緊張するまでに要する作業者の落下距離が短くなるため、安全帯を介して作業者の体に与えられるダメージが低減される。また、作業において、親綱が作業者の足や腰道具等に引っかかる危険が低減される。
【0026】
この実施の形態において、側板5は蝶番6によって開閉されていたが、これに限定されるものではなく、例えば、スライド式の開閉機構によって開閉されてもよい。
また、L形鋼3に支柱4を設け、この支柱4の端部の親綱取付金具4aに親綱を取り付けていたが、支柱4を設けずにL形鋼3に親綱取付金具4aを設けてもよい。
また、本体2は四角柱形状を有していたが、これに限定されるものではなく、例えば八角柱であってもよい。よって、押し付け部12,15を3つ以上設けることができ、柱の断面形状に係わらず、本体2を柱に安定して固定することが可能になる。
また、第1の固定板12a及び第2の固定板15aの形状を彎曲させることによって、本体2は、鉄筋等の円形断面を有する取付対象物に対しても安定して固定されることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態に係る親綱設置用具の構造を示す図である。
【図2】図1のII−II線より見た側面図である。
【図3】この発明の実施の形態に係る親綱設置用具の設置状況を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 親綱設置用具、2 本体(箱状体)、3 L形鋼(腕部)、4 支柱、5 側板(箱状体)、6 蝶番(ヒンジ)、7a,7b 連結固定ピン、7a1,7b1 挿入孔、9 親綱、12 第1の押し付け部、12a 第1の固定板(押しつけ部)、12b,15b ゴム板(押し付け部)、12c,15c ニードルベアリング(押し付け部)、12d,15d ボルト(押しつけ部)、15 第2の押し付け部、15a 第2の固定板(押しつけ部)、21 コ形側板(箱状体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親綱設置用具であって、この親綱設置用具を介して、親綱を取付対象物に取り付ける親綱設置用具において、
両端が開口するとともに、開閉自在な扉を有し、前記扉を閉じることにより、前記取付対象物を囲繞する箱状体と、
前記箱状体に設けられ、前記箱状体に前記取付対象物を押しつけて固定する押し付け部と、
前記箱状体から延出し、前記箱状体から離れた位置に前記親綱を連結する腕部と
を備えることを特徴とする親綱設置用具。
【請求項2】
前記押し付け部は、少なくとも2以上設けられ、
前記押し付け部のそれぞれの押し付け方向が異なることを特徴とする請求項1に記載の親綱設置用具。
【請求項3】
前記腕部は、前記腕部と異なる方向に前記腕部から延出する支柱を備え、
前記親綱は、前記支柱に連結されることを特徴とする請求項1または2に記載の親綱設置用具。
【請求項4】
前記箱状体はヒンジ及び挿入孔を備え、
前記扉は、前記ヒンジにより開閉自在に回動し、前記挿入孔にピンを挿入することにより閉じた状態に保持されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の親綱設置用具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate