説明

角度変更機能を有する小型試料台

【課題】試料の傾斜角度を変更する機構を有しない荷電粒子線応用装置においても,試料の損傷や位置ずれを抑え,取扱容易に試料の傾斜角度を変更できる小型の試料台を提供する。
【解決手段】回動軸線上に試料を載置することができる試料載置部100と,荷電粒子線応用装置のステージに取付することが可能な案内部102が回動軸線と同軸の回転面形状を介して接触し,接触を維持する制限部としても機能する操作棒106と,回動軸線に平行な運動を拘束する抑止部104と,試料載置部100と案内部102との角度を複数の値で自在且つ容易に保持する機能を有する保持機構とをもって,試料の傾斜角度を変更し保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,荷電粒子線応用装置における試料の加工,分析及び観察に関する。
【背景技術】
【0002】
従来荷電粒子線応用装置における試料の傾斜角度変更手段としては,装置に搭載されたステージ傾斜機能か,予め傾斜がつけられた試料台をステージに取付することによって実現されている。ステージ傾斜機能は荷電粒子線応用装置の低コスト化や小型化などの理由により,搭載されていないか又は搭載されていても精度や再現性が十分ではない場合がある。
【0003】
試料台自体に傾斜がつけられたものは傾斜角度を予め精度よく加工しておくことができるため,特定の傾斜角度に対しては簡便かつ再現性の良好な載置が行える。しかし,精度よく異なる傾斜角度で加工,分析及び観察したい場合には,傾斜角度を変更するときに一度試料を試料台より取外した後,異なる傾斜角度を有する試料台に再載置する必要があった。取扱が煩雑であり,試料に対して損傷などの変化を与えてしまう危険性がある。また,試料の再載置は操作に時間が掛り,作業効率が悪い。この問題点は,試料を載置するためにカーボンテープやカーボンペーストなどの導電性粘着テープ及び導電性粘着剤若しくは導電性接着剤を使用することも背景にある。
【0004】
ステージへの取付部を試料載置面に対して異なる角度で複数有することにより,複数の傾斜角度による加工,分析及び観察を実現する試料台(特許文献1)では,試料を試料台から取外する必要を無くすことができる。しかし,試料台全体をステージから取外した後に試料台の異なる取付部によってステージに再取付する必要があるため,依然として作業効率が悪く試料への誤接触を起こしやすい。また,ステージとの取付部の各個体差により,ステージと平行な面の回転角度にずれが生じ得るため,必要に応じてステージ側に備わったステージと平行な面の回転機能で補正する必要がある。
【0005】
傾斜角度が可変自在である試料台として軸棒を有して角度を変更できる試料台(例えば特許文献2)があるが,試料の載置位置が回動軸線上にないため,傾斜角度変化の回動に伴って試料が回動軸線に対して公転してしまう非ユーセントリック性の問題点と,回動軸線から試料位置が高くなる分,試料台が大型になるという問題点がある。また,試料を回動軸線近くに載置できるよう設計した場合,軸支する部分が試料から高くに位置し,荷電粒子線照射の際に障害となりうる。
【0006】
更には,試料を載置する部品を保持する接面積が少ないことによる剛性の低さや導電性の確保の難しさがあり,振動や帯電という加工,分析及び観察への悪影響の危険性も高い。そして保持機構にねじ要素を用いるため作業効率が悪い。
【0007】
なお,荷電粒子線応用装置に組み込まれた試料台載置ステージにおいては,ユーセントリック性を有し,試料に対する荷電粒子線照射や荷電粒子線照射による試料の物理学的諸現象を十分に妨げない手段(例えば特許文献3)が知られている。該手段においては,その大きさによって回動軸部品が試料から高くに位置する影響を低く抑えることができている。
【0008】
試料台としてユーセントリック性を有し,試料台の部品が少なくともある傾斜角度に設定された場合に試料高さ以上にならない傾斜機能を有するもの(特許文献4)も考案されており,磁力又は真空吸引による力を利用して試料の位置ずれを抑止しているが,磁力の存在は外乱となり,照射,結像などが乱れる。また,通常は試料を真空中に置く荷電粒子線応用装置においては十分な吸引力を得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許公開平11−149896
【特許文献2】特許公開2002−231171
【特許文献3】特許公開2000−149847
【特許文献4】特許公開平07−204955
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術では,試料台によって試料の傾斜角度を変化させる際に,再取付の手間,試料位置の不正確性,損傷,振動,帯電の内,少なくとも何れかの危険性が避けられない。また,従来技術では磁力などで試料の位置ずれを抑止する場合に荷電粒子線応用装置として正しく動作しないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の内,試料位置の不正確性を解決するために傾斜角度変化に対してユーセントリック性を有するよう試料を傾斜の回動軸線に配し,試料の回動以外の運動を拘束し,更に変更したい傾斜角度にて精度よく保持できる機構を用いる。
【0012】
また,本発明では回転軸を用いない回動機構を用い,試料の回動以外の運動を拘束するとともに荷電粒子線の照射および観測,測定を阻害しないようにし,良好な導電性を確保する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では簡便な操作により,安全かつ手早く試料の傾斜角度を変更し,傾斜角度の変更にともなう試料位置の変化を最小限に抑え,損傷,振動,帯電のリスクを軽減することが可能で,かつ磁力を用いないので磁力による外乱をなくすことができる。さらに,角度保持機構の一部を載置台内部に組み込めるので小型な試料台を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 実施例を示す斜視図。
【図2】 (a)図1の実施例の断面図,(b)ばね114の動作を示す断面図。
【図3】 砲弾型部品を用いたクリックストップ機構を用いた実施例の断面図。
【図4】 図3の実施例の側面図。
【図5】 アリ溝を用いた実施例の断面図。
【図6】 図5の実施例の側面図。
【図7】 円周軌条を用いた実施例の断面図。
【図8】 図7の実施例の側面図。
【図9】 試料載置箇所を角部に採用した実施例の断面図。
【図10】 図9の実施例の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において摺接等するとは,摺接及び/又は転接することである。
【0016】
本発明において回転面とは,回動軸線を中心とする該軸線に垂直な円からなる連続面である。回転面は,その面上の任意の点における法線ベクトルから,さらに次の3つの部分に分類できる。1つ目は,面上の点から法線ベクトルの方向に回転軸線が存在する面であり,凹の回転面と呼ぶ。2つ目は,その1点における法線ベクトルが回動軸線と平行である面であり,円盤面と呼ぶ。3つ目は,その1点から法線ベクトル方向に回動軸線が存在せず且つ法線ベクトルが回動軸線と平行ではない面であり,凸の回転面と呼ぶ。
【0017】
まず,試料の傾斜という運動を考える。試料の損傷や汚染を防ぐため試料を変形させずに動かす範囲では,試料は剛体として振る舞うと見做せる。剛体の運動は3次元ユークリッド空間上の,並進運動及び独立した3軸の回動運動の,計6自由度の運動として表現できる。
【0018】
試料上の荷電粒子線を照射したい箇所を座標原点とし,試料の傾斜角度の回動をこの自由度の1とし,この自由度を表す角度座標変数をθと規定した場合,残る5自由度を拘束することで傾斜角度変化に対するユーセントリック性の表現となる。更にθを定められた値に保持する保持機構を具備できれば,傾斜角度変化に対するユーセントリック性を有する試料台として成り立つ。
【0019】
実際に傾斜角度変化に対するユーセントリック性を実現するための簡単な方法を説明する。
【0020】
まず,試料を載置する試料載置部を考える。試料上の荷電粒子線を照射したい箇所を座標原点とし,傾斜角度の回動軸線を該原点を通る直線として定める。前記回動軸線と同軸な軸棒を試料載置部に設け,この軸棒を軸支する。軸支されることにより,試料は軸方向に垂直な運動を拘束される。
【0021】
即ち傾斜回動に対する動径方向の運動を拘束し,回動軸線上に位置する試料を回動軸線上に留めることとなる。これは,ある平面上の動径はその平面上におけるノルムであるため,座標原点に位置する試料はこの平面内の運動を拘束されることによる。
【0022】
また,軸支しているため軸棒は回動軸線周りの回動以外の運動及び回動軸線に平行な運動を拘束されており,試料載置部及びそれに載置された試料の運動自由度は上記θ及び回動軸線に平行な運動の回動の2自由度となる。
【0023】
次に,この回動軸線に対して平行な運動を拘束するために,試料載置部を回動軸線方向で挟む抑止部を設ける。抑止部により試料載置部及び試料の運動自由度はθの1自由度のみとなる。
【0024】
この軸棒と抑止部の束縛により,試料載置部は傾斜角度を変化させる回動運動以外の運動を拘束される。よって傾斜角度変化に対するユーセントリック性を有する。
【0025】
しかし,上記簡単な方法には荷電粒子応用装置の試料台として不利な点がある。軸棒とは必ず正の径を持つ。試料は回動軸線上に載置されているため,試料から軸線に垂直な任意の方向を見込んだ場合,その見込んだ方向を中心とした半球の立体角の中に必ず軸棒が見えることになる。
【0026】
荷電粒子線応用装置においては,荷電粒子線を試料へ照射した際に生じる諸現象利用する。例えば荷電粒子線応用装置のひとつである走査型電子顕微鏡における顕微像取得方法の代表的な方法においては,照射した電子線の反跳や二次電子生成による電子放出を観測して試料の電子放出特性の差による明暗の像を得る。この際に電子線被照射箇所から見込む立体角に障碍となる物体が多く存在すれば,放出された電子が検出されることを妨げられる。更に,障碍となる物体に放出電子が衝突することによる副次的な現象が不必要な情報として観測されてしまう。
【0027】
よって,障碍を減らすためには軸棒の径が小さい程によく,軸支する軸受が試料から遠くに位置した方がよい。しかし,回動の軸ぶれを減らし且つ強度を確保するためには,径は大きい方がよく,軸受は試料から近い方がよいという葛藤が存在する。また軸受を試料から遠ざければ試料台全体のサイズが大きくなってしまう。
【0028】
上記簡単な方法は,試料載置部の回動軸線上に設けられた軸穴によって枢支する機構においても同様に機能し且つ軸受部が障碍となることもないが,軸穴の径に対する葛藤は前記軸棒と同様に残る。
【0029】
そこで,発明者らは回動軸線に軸棒又は軸穴を設けるという発想を捨て,円筒要素又はより一般的に回転面要素を以って運動を拘束する方法を利用することで,傾斜角度変化に対するユーセントリック性を有することができるようにした。
【0030】
以下,軸棒を用いずにユーセントリック性を有する条件を述べる。
【0031】
試料載置部が回動軸線と同軸の回転面の成分を表面に有している場合,軸線に垂直な面内での運動を回動のみに拘束する為には,この回転面成分の少なくとも異なる2点以上で摺接等する必要がある。
【0032】
まず,回動軸線に垂直なある1平面上の運動について説明する。2点の摺接等によって拘束できる場合は,次の2条件の何れかを満たすときである。
【0033】
1つ目の条件は,2点が凹の回転面成分に摺接等し且つ回動軸線を間に挟んで1直線上に並ぶことである。2つ目の条件は,回転軸線から伸びるある半直線上に凹の回転面成分に摺接等する点,凸の回転面成分に摺接等する点の順に並ぶことである。
【0034】
摺接等する点が3点以上の点群の場合は,点群中の2点の組の少なくとも1組が前記の2点によって拘束できる条件を満たすか,又は同じく点群中の3点の組の少なくとも1組が1直線上に並ばず且つ次に述べる3点によって拘束できる2条件の何れかを満たすときである。
【0035】
1つ目の条件は,3点が凸の及び凹の回転面成分のどちらか一方に全て摺接等している場合,3点が回動軸線から見て180度以下の角度範囲に収まらないことである。2つ目の条件は,3点が凸の及び凹の回転面成分のどちらか一方に2点,他方に1点で偏在している場合,回動軸線が偏在しているその2点と成す劣角の範囲に他の1点が存在していることである。
【0036】
前記条件は,凸と凹の回転面成分が,各々1つの曲率半径だけを有することを求めていない。同軸であれば,例えば,異なる曲率半径の2つの凸の回転面と,1つの凹の回転面から得られた成分でもよい。また,円弧は稠密な点の集まりであるため,点群と見做せる。
【0037】
次に,回動軸線方向の幅も考慮して説明する。試料載置部は回動軸線方向に必ず幅を持つ。摺接等する点を回動軸線に垂直な平面に投影した場合において,前記平面上内での運動を拘束する条件を満たしていたとしても,摺接等する点の回動軸線方向の配置によっては回動軸線周り以外の他の2軸線周りの2自由度が残存する問題がある。
【0038】
上記問題は,軸棒を用いた場合には回動軸線上の2点に対する拘束の条件によって解決されていたが,軸棒を用いない場合においても解決できる。摺接等する点群による拘束の必要十分条件は複雑であるが,試料載置部のある2つの回動軸線に垂直な面においてそれぞれ,前記の回動軸線周りの拘束条件を満たすことで十分である。
【0039】
また,凸の及び/又は凹の回転面部分形状への摺接等以外に,試料載置部が円盤面部分形状を試料載置部の両面に有する場合は,この両面に対して面接触によって摺接することにより前記他の2軸線周りの拘束の十分条件となる。
【0040】
以上,回転軸棒を用いることなく試料載置部を1つの軸周りに回動させる条件が明らかになり,ユーセントリック性を得ることができる。
【0041】
以上の議論は,回動軸線と同軸の回転面の成分を有する案内部及び該案内部に摺接等する部分を有する試料載置部の関係においても,同様に成立する。また,試料載置部が有する回転面成分に摺接等する点及び案内部が有する回転面成分に摺接等する点の複合条件においても,同様に成立する。試料載置部が有する凸の回転面成分に案内部の要素が摺接等することと,案内部が有する凹の回転面成分に試料載置部の要素が摺接等することとは,相互に等しく見做すことができる。
【0042】
試料載置部が前記条件によってユーセントリック性を有する場合,その傾斜角度の保持とは方位角方向の運動を拘束することである。ねじによる押止のような摩擦抵抗による方法では傾斜角度の精度や手間において不便である。方位角方向の運動に対向する固体部品をもって保持することにより保持の確実性が高まるが,例えばピンなどの挿入では細かな部品を用いることになり,紛失しやすい。発明者らは弾性体を用いた固体部品の挿脱及びクリックストップ機構によって解決できると発意するに至った。
【0043】
荷電粒子線応用装置において低真空モードなど特殊な手法を用いない場合は,試料に照射される荷電粒子線による電荷の偏りである帯電を緩和しなければならない。その為には試料台に高い導電性が求められる。試料載置部と案内部を導電性材料によって形成すれば,摺接等によって導通されて導電性を確保することができる。
【0044】
以下,図を用いて実施例を説明する。実施例に用いる図においては荷電粒子線は上方から照射されるとする。
【0045】
図1は本発明の実施例を示す斜視図である。図2は図1と同じ実施例を示す断面図である。半円柱形状の試料載置部100の下に,試料載置部100と同曲率の凹面を持つ案内部102がある。試料載置部100には孔が貫設されており,部分によって径の異なる円柱形状からなる操作棒106が2本嵌挿されている。この2本の操作棒106の間にはばね114が介挿されている。操作棒106は孔に嵌挿されている部分から外に向けて一旦径の細いくびれがあり,その後嵌挿部分の径以上に太い径の持ち手が作られている。前記試料載置部100に対して垂直に,抑止部104となる板材が対向して立設されており,案内部102に締結されて一体となっている。
【0046】
抑止部104には外面に前記操作棒106のくびれの径と同幅の溝軌条108が掘設されており,内面には前記試料載置部100に貫設された孔と同径の当接部たる挿嵌孔109が複数穿設されている。前記溝軌条108と挿嵌孔109は板材の対向する同位置に設けられており,その配置は操作棒106の芯と回動軸線との距離を半径とした同軸線上の回転面に沿っている。前記操作棒106はこの挿嵌孔109の1つの対をそれぞれ挿嵌している。
【0047】
前記操作棒106は制限部として試料載置部100が前記凹面から相互に分離することを阻止し,且つ,試料載置部100と案内部102との成す角度を保持する保持機構の要素となっている。
【0048】
本実施例の試料台を荷電粒子線応用装置のステージへ取付するには,ステージの形状に合わせて図2のように底部ねじ穴116を螺設して締結することや,導電性粘着剤による取着など幅広い方法を採ることができる。
【0049】
また取付部は図1の背面に設けることもできる。
【0050】
試料載置箇所110は試料載置部100の半円柱の曲率中心であるが,試料の加工,分析及び観察をする位置が曲率中心となるよう,図A及び図Bのように試料の大きさに合わせて窪み112を凹設しておくことが望ましい。しかし,利用者の要求するユーセントリック性の程度によっては,窪み112を省略して載置してもよい。また,試料形状に合わせて,回転面成分及び保持機構と干渉しない範囲であれば,試料把持機構などを搭載することも可能である。
【0051】
利用者が試料の傾斜角度を変更したい場合,案内部102が荷電粒子線応用装置のステージに取付されるなどして締結された状態で図2(b)のように,2本の操作棒106を押込して操作棒106のくびれ部分を利用して抑止部104に嵌通していた状態から遊嵌した状態に変化させる。操作棒106はくびれ部分が溝軌条108に摺接しており,溝軌条108に沿って摺動することができる。
【0052】
よって,利用者は操作棒106を押込したまま操作棒106を介して試料載置部100を回動させることができる。挿嵌孔109の対から任意の孔を選択し,選択した挿嵌孔109と操作棒106が1直線に並んだ箇所で押込した力を弛緩させれば,ばね114の復元力により操作棒106は直動し挿嵌孔109に挿嵌することによって角度を保持する。前記一連の操作により,試料の傾斜角度を変更することができる。
【0053】
利用者の行う操作は操作棒106の押込,回動,弛緩という3つだけでよい。また,利用者が触れる箇所は操作棒106の持ち手だけであり,試料に誤って触れてしまう危険がない。さらに,試料台はその案内部102がステージに取付されたままでよく,取外する必要がない。加えて,試料載置部100は角度保持時においては案内部102と抑止部とに密接しており,良好な導電性を確保でき,振動に対する安定も良好である。しかも,案内部102の凹の円筒面形状以外の機構部分を抑止部104及び試料載置部100内部に収めるため,試料台の占有空間に対する試料載置部100比率を大きくでき,小型に設計することが可能である。
【0054】
図3及び図4は本発明の図1及び図2にて示した実施例を変化させた実施例を示すものである。図3では回動軸線を通る平面による断面図を示し,図4ではその側面図を示している。試料載置部100に貫通された孔に半球の形状を持つ砲弾型部品118が2つ挿設されており,ばね114の復元力によって,抑止部104に半球形状の直径未満に穿設された当接部たる嵌合孔120に半球の形状が嵌合する。嵌合孔120は,板材に対向して複数の対が設けられており,その配置は砲弾型部品118の回動軸線からの距離を半径とした同軸線上の回転面に沿っている。隣接する嵌合孔120の間が孔径以上に開く場合には砲弾型部品118を誘導する案内軌条を該回転面上に嵌合孔120未満の幅で掘設することで安定した回動が実現できるが,本実施例のように孔同士が接する場合には省略できる。
【0055】
利用者は操作桿124を介して試料載置部100にトルクを加えることにより,半球形状を嵌合孔120から脱し試料載置部100を回動させることができる。回動により抑止部104上に隣接する連設された別の嵌合孔120と半球形状が近づくと,再びばね114の復元力によって半球形状が嵌合孔120に嵌合する。操作はレバーにトルクを加えるだけで良く,簡便性を追求する場面において適している。
【0056】
図5及び図6は本発明の図1及び図2にて示した実施例を変化させた実施例を示すものである。図5では回動軸線を通る平面による断面図を示し,図6ではその側面図を示している。試料載置部100と案内部102とをアリ溝125を介して摺接させている。アリ溝125による摺接では回動軸線に平行な運動をも同時に拘束することができるため,案内部102が抑止部を兼ねることができる。抑止部に替えて,半球の形状を先端に有する板ばね122が対向して案内部102に締結しており,試料載置部100に凹設された嵌合孔120と嵌合する。嵌合孔120は回動軸線半球の形状の芯との距離を半径とした回動軸線と同軸の回転面上に凹設されている。
【0057】
図3及び図4に示した例と同様に,利用者は操作桿124によって試料載置部100へトルクを加えることにより傾斜角度を変更させることができる。本実施例ではアリ溝125により精度の高い摺動を得られる。
【0058】
図7及び図8は円周側溝と嵌合する円周軌条によって運動を拘束する摺接方法の例を示している。図7は断面図を示し,図8はその側面図を示している。回転面は試料載置部100に凸の円周側溝126として設けられている。また,抑止部を兼ねた案内部102に,前記凸の円周側溝126と嵌合する凹の円周側溝128が設けられている。角度の保持機構として案内部102には図Dの実施例と同様の半球形状を先端に有する板ばね122が締結されており,試料載置部100に図Dの実施例と同様に凹設された嵌合孔120と嵌合する。本実施例では底部に空隙130を設けることができる。
【0059】
図9及び図10は試料載置部100が半円柱未満の鋭角な扇形柱を基にした形状による実施例を示している。図9は断面図を示し,図10はその側面図を示している。図1乃至8で示した実施例では試料は平面に載置されているが,本実施例においては角部に載置する。本実施例では試料の傾斜角度を変更した場合においても回動軸線から図の上部へ試料台の要素が上がることを回避することが可能である。扇形柱が半円柱未満に角度が小である分,前記回避が可能な角度範囲となる。
【0060】
以上の実施例のように本発明によって試料の傾斜角度を変更することが簡便に可能となり,且つ加工,分析,及び観察への悪影響を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
100 試料載置部
102 案内部
104 抑止部
106 操作棒
108 溝軌条
109 挿嵌孔
110 試料載置箇所
112 窪み
114 ばね
116 ねじ穴
118 砲弾型部品
120 嵌合孔
122 板ばね
124 操作桿
125 アリ溝
126 凸の円周側溝
128 凹の円周側溝
130 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線応用装置に用いられる試料台において,回動自在であって該回動のための回動軸線上に試料を定置する試料載置部と,該試料載置部の回動を案内する案内部と,該試料載置部と該案内部とが相互に分離しないよう拘束する制限部と,該試料載置部が回動軸線に平行な方向に移動することを抑止する抑止部と,該試料載置部の該回転軸線周りの傾斜角度を変更するとともに該傾斜角度を少なくとも2つの角度で変更して保持することが可能な保持機構とを具備することを特徴とする試料台。
【請求項2】
前記保持機構が,弾性変形により移動する移動部と,この移動部に当接して移動を阻止する当接部とを有し,該当接部は前記の少なくとも2つの角度に対応した数だけ設けられ,移動部と当接部との挿脱又は嵌脱によって少なくとも2つの角度で保持されることを特徴とする請求項1に記載の試料台。
【請求項3】
前記試料載置部及び前記案内部が導電性材料によって作られていることを特徴とする請求項1乃至2に記載の試料台。
【請求項4】
前記試料載置部が前記回動軸線を通る傾斜角度の異なる2面を有し,該2面のなす角度が180度未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の試料台。
【請求項5】
前記案内部の一部に前記抑止部及び/又は前記制限部を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の試料台。
【請求項6】
前記保持機構の当接部が前記抑止部として用いられることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の試料台。
【請求項7】
前記移動部が前記試料載置部の内部に組み込まれていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の試料台。
【請求項8】
前記試料載置部と前記案内部の接触が面接触であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の試料台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−165635(P2011−165635A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45850(P2010−45850)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(599017634)株式会社 大和テクノシステムズ (3)
【Fターム(参考)】