説明

解体工事用構造物および解体工事方法

【課題】解体対象物を解体する際に発生する粉塵が周囲の環境に飛散することを確実に防止でき、構築・撤去が簡便で、除塵効果の高い解体工事用構造物を提供する。
【解決手段】解体工事用構造物が、解体対象物の全体を包囲して構築される粉塵遮蔽建屋と、前記粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される吸引口と、前記吸引口に除塵手段を介して接続されて前記粉塵遮蔽建屋内の空気を吸い出し、その粉塵遮蔽建屋内を負圧にする吸引手段と、前記吸引口が配設された前記側壁以外の側壁に配設されるスリット状開口部と、前記スリット状開口部全体を、前記粉塵遮蔽建屋の内側から覆うとともに、その粉塵遮蔽建屋内の負圧に応じて開く負圧調整用遮蔽シートと、前記粉塵遮蔽建屋内の圧力負圧する負圧監視手段とを具え、前記粉塵遮蔽建屋の内部を外部に対して負圧にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物や機械設備等の解体対象物に対して解体工事を施す際に、周囲に粉塵が飛散することを防止するために使用される解体工事用構造物と、その解体工事用構造物を用いた解体工事方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物や機械設備等を解体する際には、解体対象物全体を遮蔽物で覆うことが一般的に多く行われている。この遮蔽物は、解体対象物の外側に構築された骨組み枠に板材等をはめ込んだものや、骨組み枠に布状シートを張設したものなどがあるが、いずれも解体対象物全体を包囲して、解体工事の際に発生した粉塵が周囲の環境へ飛散することを抑制するものである。
【0003】
しかしながら、上記のように解体対象物全体を遮蔽物で包囲しただけでは、僅かな量の粉塵が遮蔽物の外へ漏洩することまでは防止することができず、粉塵飛散防止方法として十分とはいえなかった。
【0004】
そして、解体対象物が、焼却炉等のように、ダイオキシン等の有害物質を含む場合には、解体工事の際に遮蔽物の外部に漏洩する粉塵の量が僅かであっても、解体工事が行われる周囲の環境が有害物質で汚染されるという問題が発生する。
【0005】
特許文献1には、解体対象物を取り囲んだ状態で構築される内側防塵建屋と、この内側防塵建屋を所定の隙間空間を介してさらに取り囲むように構築される外側防塵建屋と、内側防塵建屋内における解体処理により生じた粉塵の内側防塵建屋からの漏洩が防止されるように当該内側防塵建屋内の圧力調節を行う圧力調整手段とを具え、前記圧力調整手段が、前記内側防塵建屋内を負圧に圧力調整する吸引ブロワと、この吸引ブロワの直上流側に設けられた集塵手段とを具えて構成される解体工事用の構造物を用いて、前記内側防塵建屋内の空気を、前記集塵手段を介して前記吸引ブロワにより吸引する解体工事における防塵方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003-147976号公報
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される解体工事用の構造物は、通気性のある内装膜で覆われた内側防塵建屋に吸引ブロワを接続し、内側防塵建屋内の空気を吸い出して内側防塵建屋内を負圧にし、通気性のない外壁膜で覆われた外側防塵建屋に配設したガラン(通気口)で外部と繋がっている隙間空間から、内装膜の通気性を利用して外気を内側防塵建屋内に導入することにより、内側防塵建屋内で発生した粉塵が外部へ飛散することを防止するものであるが、解体工事用の構造物の全体を二重構造としており、解体工事用の構造物を構築する際と、解体工事終了後に解体工事用の構築物を撤去する際の作業が煩雑であるという問題があった。また、内装膜の通気性を利用して内側防塵建屋内に外気を導入するため、内側防塵建屋内へ導入される外気の量が少ないことから、集塵手段に供給される粉塵を含む空気の量も少なく、内側防塵建屋内で発生する粉塵の除塵効果が小さいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、解体対象物を解体する際に発生する粉塵が周囲の環境に飛散することを確実に防止し、解体工事用構造物の構築と、解体工事終了後の解体工事用構造物の撤去とが簡便で、かつ解体工事用構造物の中で発生する粉塵の除塵効果が大きい解体工事用構造物および解体工事方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、解体対象物の全体を粉塵遮蔽建屋で包囲し、粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される少なくとも1つの吸引口から除塵手段を介して粉塵遮蔽建屋の空気を吸い出して、吸引口が配設された側壁以外の側壁に配設された少なくとも1つのスリット状開口部から外気を導入しながら粉塵遮蔽建屋内を負圧にし、解体工事で発生する粉塵が周囲に飛散することを防止できることを見出した。また、粉塵遮蔽建屋内の粉塵を含む空気を吸い出すとともに、スリット状開口部から外気を粉塵遮蔽建屋に導入するため、粉塵遮蔽建屋内に導入される外気が多いことから、吸引口に接続された除塵手段に供給される粉塵遮蔽建屋内の粉塵を含む空気が多く、粉塵遮蔽建屋内で発生する粉塵の除塵効果が高いことを併せて知見した。そして、作業用車両の出入り等、何らかの原因で粉塵遮蔽建屋内の圧力が負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)ときには、重力の作用により、負圧調整用遮蔽シートが垂直に垂れ下がり、粉塵遮蔽建屋の内側への開口が閉ざされ、前記スリット状開口部全体を前記粉塵遮蔽建屋の内側から覆うことにより、前記粉塵遮蔽建屋内の圧力が負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)ときでも確実に粉塵の外部への飛散を防止できることも併せて知見した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づき、さらに改良を重ねてなされたもので、その要旨構成は、次の通りである。
【0010】
1.解体対象物に対して解体工事を施す際に使用される解体工事用構造物であって、
前記解体対象物の全体を包囲して構築される粉塵遮蔽建屋と、
前記粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される少なくとも1つの吸引口と、
前記吸引口に除塵手段を介して接続されて前記粉塵遮蔽建屋内の空気を吸い出し、その粉塵遮蔽建屋内を負圧にする吸引手段と、
前記吸引口が配設された前記側壁以外の側壁に配設される少なくとも1つのスリット状開口部と、
前記粉塵遮蔽建屋の内側方向へ開放可能に前記スリット状開口部の上方で固定され、前記スリット状開口部全体を、前記粉塵遮蔽建屋の内側から覆うとともに、その粉塵遮蔽建屋内の負圧に応じて開く負圧調整用遮蔽シートと、
前記粉塵遮蔽建屋内の負圧を監視する負圧監視手段と、
を具えることを特徴とする、解体工事用構造物。
【0011】
2.前記粉塵遮蔽建屋の外側で前記スリット状開口部の上方に、回転可能な心棒に巻き取られた状態で配設され、巻き取りの解除により前記スリット状開口部全体を、前記粉塵遮蔽建屋の外側から覆う緊急時用遮蔽シートを具えることを特徴とする、上記1記載の解体工事用構造物。
【0012】
3.前記粉塵遮蔽建屋が、当該粉塵遮蔽建屋を構成する骨組み枠と、その骨組み枠の全体に張設された布状シートを有していることを特徴とする、上記1または2記載の解体工事用構造物。
【0013】
4.上記1〜3のいずれか1項記載の解体工事用構造物を用いて行う解体工事において、前記吸引手段と、前記スリット状開口部とによって前記粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して所定範囲で負圧を調整することを特徴とする、解体工事方法。
【0014】
5.前記粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して−1〜−45Paの負圧にすることを特徴とする上記4記載の解体工事方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の解体工事用構造物によれば、通常の住宅や機械設備等の解体対象物を解体する場合に、解体対象物の全体を粉塵遮蔽建屋で包囲し、粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される少なくとも1つの吸引口から粉塵遮蔽建屋の空気を吸い出し、吸引口が配設された側壁以外の側壁に配設された少なくとも1つのスリット状開口部から外気を導入しながら粉塵遮蔽建屋の内部の圧力を外部に対して負圧にすることで、粉塵遮蔽建屋全体を二重にするような複雑な構造とすることなく、解体工事で発生する粉塵が周囲の環境に飛散することを防止できる。また、粉塵遮蔽建屋全体を二重にするような複雑な構造としないため、解体工事用構造物の構築および撤去を簡便に行うことができる。そして、粉塵遮蔽建屋内へ導入される外気の量が多いことで、粉塵遮蔽建屋内で発生する粉塵の除塵効果が高い。加えて、粉塵遮蔽建屋の内部の圧力が、仮に負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)場合においても、スリット状開口部の内側に設けた負圧調整用遮蔽シートでスリット状開口部全体を粉塵遮蔽建屋の内側から覆うことで、粉塵が周囲の環境へ飛散することを確実に防止できる。さらに、本発明の解体工事用構造物によれば、粉塵の周囲の環境への飛散量が極めて少ないことから、ダイオキシン等を含む焼却炉等、アスベストを含む溶解炉等、硫化物を含む脱硫装置等、有害物質を含む建造物や設備を解体する場合に、粉塵の飛散により周囲の環境が汚染されるのを防止するのに特に有用である。
【0016】
また、本発明の解体工事用構造物によれば、仮に粉塵遮蔽建屋の内部の圧力が、長時間にわたって負圧下限値近くになった(負圧が低くなった)場合においても、スリット状開口部の外側に設けた緊急遮断用シートでスリット状開口部を外側からさらに覆うことで、粉塵遮蔽建屋内の粉塵が、周囲の環境へ飛散することを一層確実に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の解体工事用構造物によれば、解体対象物全体を包囲する粉塵遮蔽建屋について、当該粉塵遮蔽建屋を構成する骨組み枠と、その骨組み枠全体に張設される布状シートを有するものとすることで、解体工事用構造物を一層簡便な構造とすることができる。
【0018】
そして、本発明の解体工事方法によれば、解体対象物の全体を包囲する粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して所定範囲で負圧を調整することができ、粉塵遮蔽建屋内から粉塵が飛散することを防止することができる。
【0019】
また、本発明の解体工事方法によれば、粉塵遮蔽建屋内を外部に対して−1〜−45Paの範囲で負圧にすることで、粉体遮蔽建屋からの粉塵の飛散を必要かつ十分に防止でき、スリット状開口部から外気を導入することで、粉塵建屋内を必要以上に負圧としないことから、粉塵遮蔽建屋内を負圧にすることにより生じる粉体遮蔽建屋を構成する骨組み枠に加わる力が必要以上に大きくならず、骨組み枠をより簡便な構造とすることができ、また、必要以上に負圧としないことで、粉塵遮蔽建屋内の作業員が窒息することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、本発明の解体工事用構造体の一実施形態として、解体工事用構造体の全体を示す側面図である。図2は、上記実施形態の解体工事用構造物の図1中におけるA−A線に沿う端面図である。図3は、上記実施形態の解体工事用構造物の図1中におけるB−B線に沿う端面図である。図4は、上記実施形態の解体工事用構造物の側壁に設けられるスリット状開口部付近を拡大して示した斜視図である。なお、図中の符号100は、上記の実施形態の解体工事用構造物である。
【0021】
上記の本発明の実施形態に係る解体工事用構造物100は、図1および図2に示すように、粉塵遮蔽建屋10と、吸引口20と、除塵手段30と、吸引手段40と、スリット状開口部50とを具える。解体工事用構造物100は、解体対象物5の全体を包囲するように、地面1に埋設された土台2の上に組み立てられた骨組み枠15に布状シート16を張設し、屋根17および側壁18a、18b、18c、18dを形成して、粉塵遮蔽建屋10を構築する。布状シート16は、風や雨などの外部環境の影響に耐えうるものであるならば特に限定されないが、テント用防水シートが好ましい。本実施形態では、布状シート16を使用した場合を示したが、金属板、樹脂板および木材板等を骨組み枠15にはめ込むことによって、屋根17および側壁18a〜18dを形成してもよい。
【0022】
側壁部18bおよび側壁部18dには、出入口90、91を具える。出入口90、91はそれぞれ、粉塵遮蔽建屋10の側に配設された扉95a、96aと、外側に配設された扉95b、96bを有し、二重扉構造である。後述するように粉塵遮蔽建屋10は外部に対して負圧とされるが、作業用車両等が粉塵遮蔽建屋10の内部に進入する際には、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力ができる限り変化しないように、次の手順に従う。ここでは、出入口90を使用する場合について説明する。まず、扉95bを開けて作業用車両等を出入口90に進入させ、扉95bを閉じる。その後、扉95aを開けて速やかに作業用車両等を粉塵遮蔽建屋10の内部に進入させ、扉95aを閉じる。扉95aを開けたときに粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力は変化するが、粉塵遮蔽建屋10の容積に比較して出入口90の容積は十分に小さいため、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力変化の大きさを最小限とすることができる。
【0023】
粉塵遮蔽建屋10の側壁18a〜18dのうち側壁18aは、6個の吸引口20a、20b、20c、20d、20e、20fを有する。これらの吸引口20a〜20fそれぞれには、除塵手段30a、30b、30c、30d、30e、30fを介して吸引手段40a、40b、40c、40d、40e、40fが接続される。粉塵遮蔽建屋10の中の空気は、解体対象物の解体の際に発生した粉塵とともに吸引手段40a〜40fを用いて吸引口20a〜20fから吸い出され、途中に配設された除塵手段30a〜30fで粉塵を除塵した後、外部へ放出される。
【0024】
図1に示した、10個のスリット状開口部50a、50b、50c、50d、50e、50f、50g、50h、50i、50jは、図3に示すように、6個の吸引口20a〜20fを有する側壁18aと反対側の側壁18cに配設される。これらのスリット状開口部50a〜50jを6個の吸引口20a〜20fと同じ側の側壁18aに配設すると、吸引時に、6個の吸引口20a〜20fと10個のスリット状開口部50a〜50jとが短絡して、粉体遮蔽建屋10の全体を負圧にすることができない。従って、10個のスリット状開口部50a〜50jは、6個の吸引口20a〜20fを有する側壁18a以外の側壁である側壁18cに配設される。
【0025】
図4は、10個のスリット状開口部50a〜50jのうち、スリット状開口部50a付近を拡大して示した斜視図であるが、他の9個のスリット状開口部付近についても同様である。なお、図4において、布状シート16を境に手前側が粉塵遮蔽建屋10の外側、布状シート16の奥側が粉塵遮蔽建屋10の内側である。
【0026】
ここで、スリット状開口部50aの大きさとしては、幅が50mm未満であると、負圧時に、スリット状開口部50aでの風速が大きくなることにより、負圧調整用遮蔽シート70aが波打ち、スリット状開口部50aの開口状態が不安定となり、一方、300mmを超えると負圧調整用遮蔽シート70aの折れ曲がりにより、負圧が解除された場合に、スリット状開口部50aの全体を覆うことができず粉塵が飛散する問題がある。また、高さが300mm未満であると、スリット状開口部50aの開口部面積が小さくなり、スリット状開口部50aから導入される外気の量が少なく、吸引口20aに接続された除塵手段30aに供給される粉塵遮蔽建屋10内の粉塵を含む空気が少なくなり、その結果、粉塵遮蔽建屋10内で発生する粉塵の除塵効果が低下し、この除塵効果を保つには、スリット状開口部50aの設置箇所の数を増加しなければならない問題があり、一方、1800mmを超えると、粉塵遮蔽建屋10の布状シート16が負圧の影響によりスリット状開口部50aの周囲から裂けるトラブルが発生し、裂けた布状シート16の修理に時間がかかり、さらには、修理を行った箇所における布状シート16の素材の強度低下につながる。従って、スリット状開口部50aの大きさは、幅が50〜300mmの範囲、高さが300〜1800mmの範囲であることが好ましい。
【0027】
負圧調整用遮蔽シート70aは、スリット状開口部50aの上方で粉塵遮蔽建屋10の内側にある負圧調整用遮蔽シート固定部71aで固定される。吸引手段40a〜40fによる吸引により、粉塵遮蔽建屋10の内部が外部に対して負圧になっている場合には、図4に示したように、負圧調整用遮蔽シート70aが、粉塵遮蔽建屋10の内側方向に傾いてスリット状開口部50aを開口することができる。一方、作業用車両の出入りの際に出入口90の扉95aと95bを同時に長時間開けてしまったり、吸引手段40が停電等で停止してしまったりすることにより、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が負圧下限値の近くになった場合(負圧が低くなった場合)には、負圧調整用遮蔽シート70aは、自重により、負圧調整用遮蔽シート固定部71aから垂直に垂れ下がり、スリット状開口部50aの全体を覆い、粉塵遮蔽建屋10から粉塵が飛散することを防止する。なお、負圧調整用遮蔽シート70aの大きさが、スリット状開口部50aの大きさよりも大きいことはもちろんである。また、粉塵遮蔽建屋10の内部が外部に対して所定の負圧になっている場合に、負圧調整用遮蔽シート70aが、スリット状開口部50aから導入される外気によって波打たず、一方、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が負圧下限値近くまで上がった場合には、負圧調整用遮蔽シート70aが、自重により、負圧調整用遮蔽シート固定部71aから垂直に垂れ下がるためには、負圧調整用遮蔽シート70aは、膜厚0.26〜0.80mmの範囲のテント用防水シートと同一の生地で製作されることが好ましい。
【0028】
また、緊急時用遮蔽シート75aは、粉塵遮蔽建屋10の外側でスリット状開口部50aの上方に、回転可能な心棒76aに巻き取られた状態で配設されている。粉塵遮蔽建屋10の負圧は、図3に示す位置に配設された負圧監視手段80で常時監視されている。粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)ことを負圧監視手段80が検知してから所定時間が経過した場合には、人手で心棒76aを回転させて緊急時用遮蔽シートの巻き取りを解除し、既に負圧調整用遮蔽シート70aで粉塵遮蔽建屋10の内側から覆われているスリット状開口部50aを、粉塵遮蔽建屋10の外側からさらに覆い、スリット状開口部50aからの粉塵の飛散防止を確実なものとする。つまり、粉塵遮蔽建屋10の圧力が負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)とき、スリット状開口部50aの全体は、既に負圧調整用遮蔽シート70aによって覆われているため、すぐさま粉塵が周囲の環境に飛散することはないが、風などにより負圧調整用遮蔽シート70aによる覆いが外れる場合があるため、緊急時用遮蔽シート75aでさらに粉塵遮蔽建屋10からの粉塵の飛散防止を確実にする。従って、上記の粉塵遮蔽建屋10の圧力が負圧下限値の近くになって(負圧が低くなって)からの所定時間は、30秒未満とすることが好ましい。なお、緊急時用遮蔽シート75aの大きさも、スリット状開口部50aよりも大きくすることはもちろんである。また、緊急時用遮蔽シート75aは、心棒76aへの巻き取りおよび巻き取り解除を円滑に行うことができれば特に限定されることはないが、緊急時用遮蔽シート75aは、膜厚0.4〜0.8mmの範囲のテント用防水シートと同一生地で製作されることが好ましい。
【0029】
このように、スリット状開口部50を配設することで、粉塵遮蔽建屋10の内部を所定圧力範囲で負圧を調整することができ、そして、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が負圧下限値近くになった(負圧が低くなった)ときでも、負圧調整用遮蔽シート70でスリット状開口部50を粉塵遮蔽建屋の内側から覆うことにより、粉塵遮蔽建屋10の全体を二重構造等の複雑な構造とすることなく、解体工事用構造物の構築および撤去を簡便にして、解体工事で発生する粉塵を粉塵遮蔽建屋10から周囲へ粉塵が飛散することを確実に防止できる。また、粉塵遮蔽建屋10に多くの外気を導入しながら粉塵遮蔽建屋10を負圧にするので、粉塵遮蔽建屋10内で発生する粉塵の除塵効果も高い。
【0030】
また、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が負圧下限値の近くになってから(負圧が低くなってから)一定時間経過した後には、緊急時用遮蔽シート75でスリット状開口部50を粉塵遮蔽建屋10の外側からさらに覆うことにより、粉塵遮蔽建屋10の全体を二重構造等の複雑な構造とすることなく、解体工事用構造物の構築および撤去を簡便にして、解体工事で発生する粉塵を粉塵遮蔽建屋10から周囲へ粉塵が飛散することを一層確実に防止できる。
【0031】
なお、本実施形態では、吸引口20を6個、スリット状開口部50を10個としたが、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力を所望の範囲に負圧にすることができ、除塵効果を保つことができれば、これらの数に限定されるものではない。また、同様に、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力を所望の範囲に負圧にすることができれば、吸引口20に除塵手段30を介して接続された全ての吸引手段40を動作させる必要はない。
【0032】
上記の本発明の実施形態に係る解体工事用建造物100を用いて行う解体工事方法では、吸引手段40とスリット状開口部50によって粉塵遮蔽建屋10の内部を、外部に対して所定範囲で負圧を調整し、解体対象物5を解体する際に発生する粉塵の外部への飛散を防止する。粉塵遮蔽建屋10の圧力が、外部に対して僅かでも負圧になっていれば、粉塵が外部に飛散することはないが、外部に対して−1〜−45Paの範囲で負圧になっていることが好ましい。これは、外部に対する負圧が下限値である−1Paより小さいと、出入口90、91における作業車両等の出入りにより、粉塵遮蔽建屋10の内部の負圧が容易に外部と同じになる問題があり、一方、上限値である−45Paを超えると、粉塵遮蔽建屋を負圧にすることによって生じる粉体遮蔽建屋を構成する骨組みにかかる力が大きくなるため、骨組みの構造が複雑になり、粉塵遮蔽建屋の構築および撤去に要する工数が増大し、また、粉塵遮蔽建屋内の作業員が窒息する可能性が高くなり好ましくない。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例でさらに説明する。
【0034】
図1〜4に示した上記実施形態と同様の構成を有する解体工事用構造体であって、6個の吸引手段40a、40b、40c、40d、40e、40fの吸引能力(換気量)をそれぞれ、2000m2/分、1200m2/分、800m2/分、400m2/分、400m2/分、400m2/分、スリット状開口部を50b、50c、50d、50e、50f、50g、50h、50iの8箇所とした解体工事用構造体を用いた。なお、6個の吸引手段40a〜40fを次のような条件で動作させた。
【0035】
(実施例1)
時刻が0時から5時28分までは、吸引手段40c(換気量800m2/分)のみを、5時28分から18時31分までは、吸引手段40b(換気量1200m2/分)のみを、18時31分から24時までは、吸引手段40c(換気量800m2/分)のみを動作させた。なお、条件の変更時、例えば、時刻が5時28分の時点で、吸引手段40c(換気量800m2/分)の動作を停止させ、吸引手段40b(換気量1200m2/分)の動作を開始することは速やかに行われ、実質上、吸引手段40c(換気量800m2/分)および吸引手段40b(換気量1200m2/分)の両方が動作することはないものとする。実施例1の18時31分および以下に述べる例についても同様とする。
【0036】
(実施例2)
時刻が0時から24時まで、吸引手段40a(換気量2000m2/分)のみを動作させた。
【0037】
(実施例3)
時刻が0時から9時35分までは、吸引手段40a(換気量2000m2/分)のみを動作させ、9時35分から24時までは全ての吸引手段の動作を停止した。
【0038】
上記の実施例1、実施例2および実施例3において、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力を負圧監視手段80で測定した結果をそれぞれ、図5、図6および図7に示す。なお、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力は、外部の圧力に対する差圧で表すものとし、外部の圧力に対する差圧の値が負の値であるとき、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力は負圧である。
【0039】
図5および図6から明らかなように、吸引手段40a、40b、40c、40d、40e、40fのうちの少なくとも1個を動作させた場合には、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力が、負圧になっていることが確認できた。また、図7から明らかなように、すべての吸引手段の動作を停止した場合であっても、粉塵遮蔽建屋10の内部の圧力を負圧に維持できることが確認できた。
【0040】
なお、上述したところは、本発明の実施形態の一例を示したにすぎず、本発明は、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、緊急時用遮蔽シート75aの垂れ下げおよび巻き取りは電動で行っても良く、その場合に負圧監視手段80と接続して自動的に行っても良い。
【0041】
また、吸引口を配設した側壁以外の側壁であれば、いずれの側壁にもスリット状開口部を配設することができる。つまり、図1で示した実施形態の場合、スリット状開口部50を配設する側壁18は、(1)側壁18cのみ、(2)側壁18bのみ、(3)側壁18dのみ、(4)側壁18cおよび側壁18b、(5)側壁18cおよび側壁18d、(6)側壁18bおよび側壁18d、(7)側壁18b、側壁18cおよび側壁18d、のいずれの組合せであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の解体工事用構造物によれば、通常の住宅や機械設備等の解体対象物を解体する場合に、解体対象物の全体を粉塵遮蔽建屋で包囲し、粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される少なくとも1つの吸引口から粉塵遮蔽建屋の空気を吸い出し、吸引口が配設された側壁以外の側壁に配設された少なくとも1つのスリット状開口部から外気を導入しながら粉塵遮蔽建屋の内部の圧力を外部に対して負圧にすることで、粉塵遮蔽建屋全体を二重にするような複雑な構造とすることなく、解体工事で発生する粉塵が周囲の環境に飛散することを防止できる。また、粉塵遮蔽建屋全体を二重にするような複雑な構造としないため、解体工事用構造物の構築および撤去を簡便に行うことができる。そして、粉塵遮蔽建屋内へ導入される外気の量が多いことで、粉塵遮蔽建屋内で発生する粉塵の除塵効果が高い。加えて、粉塵遮蔽建屋の内部の圧力が、仮に負圧下限値の近くになった(負圧が低くなった)場合においても、スリット状開口部の内側に設けた負圧調整用遮蔽シートでスリット状開口部全体を粉塵遮蔽建屋の内側から覆うことで、粉塵が周囲の環境へ飛散することを確実に防止できる。さらに、本発明の解体工事用構造物によれば、粉塵の周囲の環境への飛散量が極めて少ないことから、ダイオキシン等を含む焼却炉等、アスベストを含む溶解炉等、硫化物を含む脱硫装置等、有害物質を含む建造物や設備を解体する場合に、粉塵の飛散により周囲の環境が汚染されるのを防止するのに特に有用である。
【0043】
また、本発明の解体工事用構造物によれば、仮に粉塵遮蔽建屋の内部の圧力が、長時間にわたって負圧下限値近くになった(負圧が低くなった)場合においても、スリット状開口部の外側に設けた緊急遮断用シートでスリット状開口部を外側からさらに覆うことで、粉塵遮蔽建屋内の粉塵が、周囲の環境へ飛散することを一層確実に防止することができる。
【0044】
さらに、本発明の解体工事用構造物によれば、解体対象物全体を包囲する粉塵遮蔽建屋について、当該粉塵遮蔽建屋を構成する骨組み枠と、その骨組み枠全体に張設される布状シートを有するものとすることで、解体工事用構造物を一層簡便な構造とすることができる。
【0045】
そして、本発明の解体工事方法によれば、解体対象物の全体を包囲する粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して所定範囲で負圧を調整することができ、粉塵遮蔽建屋内から粉塵が飛散することを防止することができる。
【0046】
また、本発明の解体工事方法によれば、粉塵遮蔽建屋内を外部に対して−1〜−45Paの範囲で負圧にすることで、粉体遮蔽建屋からの粉塵の飛散を必要かつ十分に防止でき、スリット状開口部から外気を導入することで、粉塵建屋内を必要以上に負圧としないことから、粉塵遮蔽建屋内を負圧にすることにより生じる粉体遮蔽建屋を構成する骨組み枠に加わる力が必要以上に大きくならず、骨組み枠をより簡便な構造とすることができ、また、必要以上に負圧としないことで、粉塵遮蔽建屋内の作業員が窒息することもない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の解体工事用構造体の一実施形態として、解体工事用構造体の全体を示す側面図である。
【図2】上記実施形態の解体工事用構造物の図1中におけるA−A線に沿う端面図である。
【図3】上記実施形態の解体工事用構造物の図1中におけるB−B線に沿う端面図である。
【図4】図4は、上記実施形態の解体工事用構造物の側壁に設けられるスリット状開口部付近を拡大して示した斜視図である。
【図5】実施例1における粉塵遮蔽建屋の内部の圧力の変化を時刻とともに示したグラフである。
【図6】実施例2における粉塵遮蔽建屋の内部の圧力の変化を時刻とともに示したグラフである。
【図7】実施例3における粉塵遮蔽建屋の内部の圧力の変化を時刻とともに示したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1 地面
2 土台
5 解体対象物
10 粉塵遮蔽建屋
15 骨組み枠
16 布状シート
17 屋根
18、18a、18b、18c、18d 側壁
20、20a、20b、20c、20d、20e、20f 吸引口
30、30a、30b、30c、30d、30e、30f 除塵手段
40、40a、40b、40c、40d、40e、40f 吸引手段
50、50a、50b、50c、50d、50e、50f、50g、50h、50i、50j スリット状開口部
70、70a 負圧調整用遮蔽シート
71、71a 負圧調整用遮蔽シート固定部
75、75a 緊急時用遮蔽シート
76、76a 心棒
80 負圧監視手段
90、91 出入口
95a、95b、96a、96b 扉
100 解体工事用構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体対象物に対して解体工事を施す際に使用される解体工事用構造物であって、
前記解体対象物の全体を包囲して構築される粉塵遮蔽建屋と、
前記粉塵遮蔽建屋の側壁に配設される少なくとも1つの吸引口と、
前記吸引口に除塵手段を介して接続されて前記粉塵遮蔽建屋内の空気を吸い出し、その粉塵遮蔽建屋内を負圧にする吸引手段と、
前記吸引口が配設された前記側壁以外の側壁に配設される少なくとも1つのスリット状開口部と、
前記粉塵遮蔽建屋の内側方向へ開放可能に前記スリット状開口部の上方で固定され、前記スリット状開口部全体を、前記粉塵遮蔽建屋の内側から覆うとともに、その粉塵遮蔽建屋内の負圧に応じて開く負圧調整用遮蔽シートと、
前記粉塵遮蔽建屋内の負圧を監視する負圧監視手段と、
を具えることを特徴とする、解体工事用構造物。
【請求項2】
前記粉塵遮蔽建屋の外側で前記スリット状開口部の上方に、回転可能な心棒に巻き取られた状態で配設され、巻き取りの解除により前記スリット状開口部全体を、前記粉塵遮蔽建屋の外側から覆う緊急時用遮蔽シートを具えることを特徴とする、請求項1記載の解体工事用構造物。
【請求項3】
前記粉塵遮蔽建屋が、当該粉塵遮蔽建屋を構成する骨組み枠と、その骨組み枠の全体に張設された布状シートを有していることを特徴とする、請求項1または2記載の解体工事用構造物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の解体工事用構造物を用いて行う解体工事において、前記吸引手段と、前記スリット状開口部とによって前記粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して所定範囲で負圧を調整することを特徴とする、解体工事方法。
【請求項5】
前記粉塵遮蔽建屋内を、外部に対して−1〜−45Paの負圧にすることを特徴とする請求項4記載の解体工事方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144477(P2010−144477A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325699(P2008−325699)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(507157676)株式会社クボタ工建 (8)
【Fターム(参考)】