説明

解凍細胞の生存率を評価する方法

本発明は、解凍細胞の生存率を評価する方法に関し、ここで、この細胞は、配偶子、胚、核質、推定幹細胞集団、幹細胞前駆体集団または幹細胞集団である。この方法は、複数のアミノ酸を含む培養培地中で解凍細胞をインキュベートする工程、およびこの培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度変化を決定する工程を包含する。本発明の1つの実施形態では、上記方法は、上記変化が所定の基準に合致する場合に、さらなる発生のための上記解凍細胞を選択する工程を包含する。好ましくは、この所定の基準は、少なくとも1つのアミノ酸の増加または減少である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍細胞の生存率を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IVFの間の成功率を増加させるために、卵巣は、1つより多い卵母細胞を産生するように刺激される。結果として、大部分のIVFサイクルは、単一のサイクルで個々の患者への移送のための最適数を超える胚の総数をもたらす。この問題に対する倫理的および経済的解決策は、胚の低温保存である。胚の低温保存は、良好な品質の、規定数以上の胚の貯蔵を、それらが後のサイクルで移送され得るまで可能にし、従って、妊娠の達成のために必要な刺激された卵巣薬物処理サイクルの数(したがって、卵巣過剰刺激症候群(Trounson、1986)のリスク)を低減し、そして複数の妊娠に対する保護を提供する。低温保存はまた、自然排卵サイクルまたはエストロゲンおよびプロゲステロンホルモンレベルが天然に存在するレベルを超えないサイクルの間で解凍胚の補充を可能にし、それ故、患者あたりの妊娠率を増加させる。前核または初期卵割期胚の低温保存は、大部分の支援された受胎ユニットで慣用に提供されている。
【0003】
体温から下方に−196℃(この温度では、すべての細胞プロセスが停止する)まで、凍結保護流体中で胚をゆっくりと冷却する制御された速度の凍結の技法が利用され、この温度でそれらは、液体窒素の容器中で貯蔵される。この低温保護は、細胞を損傷から保護するために用いられる。これら細胞が解凍されるとき、それらは、液体窒素から取り出され、解凍され、低温保護剤が除去され、そしてこれら細胞は培養される。細胞損傷に至り、そして解凍後機能および発達を損なういくつかの因子が、冷却および低温保存に付随する。細胞損傷は、細胞内の氷形成、そして次にこの細胞内氷の迅速冷却によって引き起こされ得;また細胞外の氷形成は、非凍結セクションにおける増加した電解質濃度および細胞脱水に至る。脱水および再水和は、脂質膜に対する機械的ストレスを誘導し、そして、膜溶質相互作用のインビトロモデルを用いて検出される物理的変形および相挙動における変化を引き起こす。これらの物理的改変は多くのレベルで細胞に影響し得:細胞膜および細胞器官は改変され得;胚を取り囲む透明帯は、低温保存の間に(特定量の)硬化を受け得ることが示され、そして紡錘体、それ故染色体分離は損傷され得る。最近、特定の遺伝子が、凍結および解凍プロセスによって誘導されることが示され、その細胞は傷害に活性に応答していることを示唆している。低温保護剤と組み合わせたゆっくりとした凍結は、細胞が、細胞内氷および増加する溶質濃度の影響を低減することにより上記に記載の有害な機構から保護されることを可能にする。細胞外氷は、平衡プロセスを経由して細胞を脱水させる。より迅速な技法、ガラス化は、高レベルの低温保護剤および非常に迅速な冷却速度を用い、細胞内氷の形成を最小にする。それは非平衡技法である。
【0004】
凍結および氷形成は、2つのラメラ(すなわち2層の)脂質膜の脱水を誘導する。凍結をともなう液晶からゲル相への遷移は、リン脂質炭化水素尾部のより充填され、かつ平行なアレイへの秩序化をもたらし、これは、水およびカチオンに対する増加した透過性、内在性膜タンパク質の分離、膜結合酵素の低減された活性、およびタンパク質の低減された側方拡散に至り得る。精子および卵母細胞は、それらの脂質構成は極めて異なるが、類似の影響を経験するようである。成熟卵母細胞は、減数分裂紡錘体に位置する微小管を有する。温度を25℃に10分間低下させることは、これら微小管を破壊し、そして完全な分解が0℃で起こる。マウスにおける再加温は、これら微小管の再構築に至るが、これは、小管重合の核をなすために必要な中心小体周辺物質の欠損が原因で、ヒトでは起こらないかも知れない。得られる卵母細胞は、紡錘体非組織化の結果として異数性である(すなわち、異常数の染色体)傾向があり得る。凍結はまた、透明帯の皮質顆粒およびキモトリプシン感受性を低減することにより受精に影響し得る。外皮は、結局、「固」過ぎるかも知れない。単一セルゲル電気泳動を用い、LinfordおよびMeyersは、精子DNAが損傷され得ることを示した。ミトコンドリアもまた、低温保存損傷を受けやすい。低温保存および次の培養の間の卵母細胞DNAの変性は、検出される古典的マーカーおよびカスパーゼとともに、アポトーシスのプロセスを含むようである。それ故、細胞は、プログラム化された細胞死を受ける。ヒートショックプロテイン、酸化的ストレススカベンジャーを含むストレス応答に関与する遺伝子、およびグルコース代謝に関与する酵素もまた活性化されることが興味深い。
【0005】
胚低温保存は一般に安全な手法と考えられているが(Wood)、この技法の長期間安全性に関する論議がなお残っている(WinstonおよびHardy、2002)。これは、主として、マウスで実施された研究の結果であり、そこでは、胚凍結が後期着床前発生における代謝に影響し得(Emilinaliら、2000)、そして発生の後期にのみ表れるより微細な長期間影響を有することが示唆されている(Dulioustら、1995)。ヒト胚の凍結もまた、遺伝子発現プロフィールを改変することが報告されている(Tachatakiら、2003)。これら調査者は、凍結2日目の胚が、新鮮な2日目の胚より、結節硬化症遺伝子TSC2のより少ないmRNAを含んだことを見出した。
【0006】
低温保存技法の使用に関する主な関心は、いくつかの健常な胚が凍結および解凍のストレスに生存しないかも知れないことを意味する低温損傷に対する胚の起り得る損失である。低温損傷に対し失われる胚の正確な数は変動するが、一部の胚、低温貯蔵されるものの恐らく25〜50%程度の損失を引き起こす可能性が高い。この1つの解釈は、低温保存が、より生存可能な胚の「選択ゲート」としてさえ作用し得るということである(これは、決して証明されていないが)。
【0007】
低温保存にともなう別の関心は、凍結/解凍胚から生成される子供における出生欠陥の潜在的なリスクである。家畜動物産業では、胚の大スケール凍結および移送は、出生欠陥の増加をもたらしていない。解凍胚から生じるヒト子孫に関する現在までの研究は、その集団の残りにおける妊娠結果と比較する場合、異常の有意な増加は全く示していない。
【0008】
全般的な低温保存は、着床能力の30〜40%の減少をもたらす(Edgarら、2000および2005;EI−Toukhyら、2003)。その他の研究は、10〜30%および5〜15%の範囲の凍結解凍胚の同様な臨床的妊娠率および着床率を示した(Van der Elstら、1997;Kowalikら、1998;Ubaldiら、2004)。凍結サイクルに移送された胚の減少した成功率は、低温保存された胚が、恒常性、代謝、細胞一体性および発生能力を改変すると当該技術分野で一般に認知されている凍結および解凍プロセスにさらに耐え抜かなければならないという事実に帰する。代謝は初期の胚の健康に対して内因性であり、しかも、代謝は胚がストレスを受けるとき直ちに撹乱されることが知られている(HoughtonおよびLeese、2004;LaneおよびGardner、2005によって総説される)。低温保存の成功を制限する最も重要な因子の1つは、細胞膜を損傷し、そして分割球溶解(Palら、2004)に至ると考えられている凍結プロセス(Liebermannら、2002)の間の氷結晶の形成に起因する解凍後の胚の生存である。
【0009】
上記を考慮する際に、低温保存後の最初の成功した妊娠は1983年に報告されたが、低温保存の手順は比較的新しいままで、そして胚および次の子孫に対する長期間の影響は未知であることは当然である。低温保存の主要な欠点は、凍結/解凍胚を用いて妊娠を確立する成功率は、「新鮮サイクル」における成功率より一般に低いことであり、着床可能性は全体で30〜40%減少する。これらの差異は、胚の凍結および乾燥が、胚の生存率に有害な影響を有し得ることを示す。低温保存された胚が、凍結状態にあるときその生存率を保持し得る時間の長さもまた未知である。
【0010】
IVFにおける成功は、子宮中への移送のために選択されている最良の胚の選択に依存する。移送の前に、胚は解凍され、そして各胚は、それが移送するために医療的に適切である(生存し得、正常に発生する胚である)か否かを決定するために調査される。胚品質に対する正確な試験はなく、そして「良好な品質の胚」の区別は主観的な評価である。胚は、目下、形態学的基準を用いて選択されている。形態学的評価は、胚にある細胞の数をカウントすること、およびその「グレード」;通常1〜4または1〜5のスケールを確立することを含む。グレードおよび細胞数の測定は、次いで、組合せられ得、特定の胚のための「スコア」を与える。胚をスコア付けすることは高度に熟練を要する分野であり、そして平均的な臨床発生学者で学習するのに約3ヶ月を要する。形態学的評価をともなう主な問題は、伴われる高い程度の主観性である。それは、発生能の健全な試験を提供しない。なぜなら、開始された処理サイクルあたりわずか23%平均の成功率であるからである(REF、HFEA)。形態学的に良好な胚の移送にかかわらずこの低い率を説明する可能な理由の一つは、子宮内膜受容性であり(BourgainおよびDevroey、2003;Devroeyら、2004;Lukassenら、2004)、外傷性胚の移送は、増加した接合ゾーンの収縮をもたらす(LesnyおよびKillick、2004によって総説される)。形態学的には正常に見えるが、異なる培地で培養された胚の改変された遺伝子発現パターンを示すデータはあり過ぎるほどある(Hoら、1995;Rizosら、2003;RinaudoおよびSchultz、2004;Leeら、2004)。これ故、胚は正常の形態を有し得るが、発生学者が移送するために絶対的に最良の胚を選択することを目下不可能にするそれらの生化学における改変を所有する。
【0011】
顕微鏡分析後、凍結胚のほんの約50%が、移送のために満足が行くものである。低温保存および解凍プロセスを生存しないものは、より生存可能でない卵母細胞または精子から生成され得ると考えられる。凍結胚の移送プロセスの実際のサイクルは、IVFサイクル中で得られた「新鮮」胚のそれと同一である。同時係属中の特許出願(特許文献1)は、卵割の間のアミノ酸枯渇/出現(「回転(turnover)」)が、スペアの「新鮮」ヒト胚がインビトロで胚盤胞期へと発生する能力(Houghtonら、2002)および移送後の妊娠および生存子孫を生じる能力(Brisonら、2004)を予見することを示している。これらの知見は、発生能力が、発生初期で決定され、しかも、着床前発生の初期段階の間の撹乱が長期間の影響を有し得るという一般的理論と一致する。
【特許文献1】国際公開第01/53518号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
低温保存の技法が支援された受胎調節を提供し得る実際の利点のために、卵または胚解凍後の発生能力を確実に評価することが必要である。
【0013】
低温保存は良性プロセスではなく、そして細胞の多くの機能が影響され得る。低温保存プロセスを受けた胚の選択基準は、それ故、「新鮮」胚の選択で採用された基準とは異なる。凍結された胚は一般により遅く成長し、そしてそれ故、新鮮胚とは形態学的に非常に異なる。最良の胚を選択するための有効なパラメーターの必要性は、それらの大多数が移送のために利用可能であるとき至上である。複数の胚が着床することは、受容不能に高率である複数出生に至っている。支援された受胎調節の狙いは、健常な赤ん坊を産むことであり、複数妊娠率を低減することは主要な目的であり、そして単一の胚を移送することが理想的である。高い着床能力をもつ胚を同定する能力は、胚移送のための胚のより有効な選択を可能にし、そして全体の妊娠率を低減することなく複数妊娠の可能性を低減する。出産へと発生する最良の能力をもつ解凍された胚を選択するための有効なパラメーターの必要性は至上である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の陳述)
本発明によれば、解凍細胞の生存率を評価する方法が提供され、ここで、上記細胞は、配偶子、胚、核質、推定幹細胞集団、幹細胞前駆体集団または幹細胞集団である。上記方法は、複数のアミノ酸を含む培養培地中でこの解凍細胞をインキュベートする工程、およびこの培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度の変化を決定する工程を包含する。
【0015】
驚くべきことに、アミノ酸回転の点から、単一のヒト胚の解凍後代謝が、胚盤胞期への発生能力を予見するために用いられ得ることが見出された。
【0016】
本発明の方法は、ウシおよびブタのようなその他の哺乳動物種に等しく適用可能である。ウシ胚はヒトのための良好なモデルであり:ウシは通常ヒトがそうであるように一卵性である。ウシ胚はまたヒト胚とほぼ同じ直径であり(約140μ)、そして酸素、ピルビン酸およびグルコース消費および/または乳酸産生として測定される、広範囲に類似のパターンのエネルギー代謝を有する。ほぼ同じ比率のインビトロで産生された(IVP)ウシ接合体が、ヒトにおけるように(20〜50%)インビトロでの胚盤胞期に到達し(20〜40%)、そして接合体ゲノム活性化は、緊密に関連する時期で開始される(ヒトでは4〜8細胞期;ウシでは8〜16細胞期)。ブタ胚盤胞によるアミノ酸代謝のプロフィールは、桑実胚;胚盤胞遷移の間のヒト胚によって与えられるプロフィールと定性的および定量的に類似であり、ブタ胚盤胞がまた、ヒトのための良好なモデルであることを示唆している。
【0017】
等しく、これら方法は、異なる細胞型、例えば、(発生の任意の時期にある)配偶子、核質、推定幹細胞集団、幹細胞前駆体集団または幹細胞集団に容易に適用可能である。これら細胞型はまた、すべて凍結され得、そして本発明の一般原理が適用され得る。用語生存率は、その最も広い意味で用いられ、とりわけ、胚盤胞期への胚の発生、胚の成功した着床、および着床前スクリーング方法を包含する。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、上記方法は、上記変化が所定の基準に合致する場合に、さらなる発生のための上記解凍細胞を選択する工程を包含する。好ましくは、この所定の基準は、少なくとも1つのアミノ酸の増加または減少である。
【0019】
好ましくは、上記培養培地は、グルコース、L−乳酸、ピルビン酸およびアミノ酸の生理学的混合物で補充されたアールのバランス塩溶液(Earle’s Balanced Salt Solution)を含む。好ましくは、使用済み培地中のアミノ酸の濃度は、o−フタルジアルデヒドでの誘導体化の後でHPLCを用いて測定される。
【0020】
上記方法の1つの実施形態では、アミノ酸の消費または産生のプロフィールが生成される。好ましくは、このアミノ酸の消費または産生のプロフィールは、全体として、解凍細胞の生存率を評価する際の選択マーカーとして用いられる。本発明の1つの実施形態では、最も生存能力のある解凍細胞の選択は、代表的には2〜7個のアミノ酸を含むアミノ酸の群に基づき、その消費または産生プロフィールは、その種の健常な発生する解凍細胞の指標である。あるいは、最も生存能力のある解凍細胞の選択は、その消費または産生プロフィールがその種の健常な発生する解凍細胞の指標である単一のアミノ酸に基づく。
【0021】
好ましくは、この解凍細胞は、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、任意の家畜動物または稀少種および絶滅危機種を含む任意の生物由来である。好ましい実施形態では、上記方法は、ヒトのために用いられる。
【0022】
好ましくは、選択マーカーのために用いられるアミノ酸は、グルタメート、グルタミン、グリシン、アルギニン、アラニン、リジンの1つまたは組合せを含む。
【0023】
好ましくは、上記方法は、解凍哺乳動物着床前胚の胚盤胞期へと発生する工程、および/または首尾良く着床される能力を評価する工程を包含し、この方法は:
(i)上記解凍哺乳動物着床前胚を複数のアミノ酸を含む培養培地でインキュベートする工程;
(ii)アミノ酸回転を決定するために、上記培養培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度の増加および/または減少を決定する工程であって、ここで、より低い範囲のアミノ酸回転をもつ解凍哺乳動物着床前胚が、胚盤胞期および/または首尾よい着床への発生と関連する工程、を包含する。
【0024】
好ましくは、上記方法は、胚盤胞期および/または着床へのさらなる発生のために上記解凍哺乳動物着床前胚を選択する工程をさらに包含する。
【0025】
好ましくは、上記解凍哺乳動物着床前胚が胚盤胞期まで発生し、そして/または首尾良く着床される能力は、上記培養培地中への上記解凍哺乳動物着床前胚の移送後、24時間、10時間、6時間または6時間未満で達成される。
【0026】
好ましくは、上記方法は、上記解凍哺乳動物着床前胚が着床し、臨床的妊娠を引き起こす能力を評価するために用いられる。胚移送後の臨床的妊娠は、着床後15日目の血清hCGによって検出され、そして5週目に胎児心臓の存在によって確認される(Brisonら、2004)。
【0027】
好ましくは、上記解凍哺乳動物着床前胚は、発生の1日目〜4日目まで評価される。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、上記方法は、上記アミノ酸プロフィールに基づき解凍着床胚を選択する工程、およびこの選択された解凍哺乳動物着床前胚を生物の子宮管に導入する工程をさらに包含する。
【0029】
本発明の1つの実施形態では、上記解凍哺乳動物着床前胚は、インビトロ成熟卵由来の哺乳動物着床前胚である。あるいは、上記解凍哺乳動物着床前胚は、インビボ成熟卵由来の哺乳動物着床前胚である。
【0030】
本発明の1つの実施形態では、上記解凍哺乳動物着床前胚は、細胞質内精子注入(ICSI)によって産生されている。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、上記方法は、少なくとも1つのアミノ酸の濃度の増加および/または減少を決定する工程を含み、この方法は、2〜7個のアミノ酸を含むアミノ酸の群を利用することを包含し、そのアミノ酸の回転は上記解凍哺乳動物着床前胚が、胚盤胞期まで発生し、そして/またはその種に対して首尾良く着床される能力の指標である。
【0032】
従って、本発明は、解凍哺乳動物着床前胚の、胚盤胞期まで発生し、そして/または首尾良く着床される能力を評価する方法を提供し、この方法は、単一の解凍哺乳動物着床前胚を複数のアミノ酸を含む培養培地中でインキュベートする工程、およびこの培養培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度を決定する工程を包含し、ここで、この濃度変化が、上記解凍哺乳動物着床前胚が、胚盤胞期まで発生し、そして/または首尾良く着床される能力の指標である。
【0033】
本発明はまた、発生能力があるグレードIの胚と、停止(arresting)グレードIの胚とを識別するための方法を提供し、グレードIの胚を複数のアミノ酸を含む培養培地中でインキュベートする工程、およびこの培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度変化を決定する工程を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(発明の詳細な説明)
本発明は、一例として記載され、そして添付の図面を参照して説明される。
【実施例】
【0035】
(方法)
インフォームドコンセント患者を用いる研究に提供されたスペアの凍結ヒト胚は、St Jame’s Hospital、LeedsにあるAssisted Conception Unitで体外受精(IVF)を受けている患者から得た。この作業の完全な倫理的認可は、Human Fertilisation and Embryology Authority(HFEA)および共同研究機関のEthics Commiteesから認可された。
【0036】
卵巣刺激および卵母細胞収集は、先に記載の通りに実施した(Balen、2001)。一般に、鼻内ナファレリン、続いてヒト閉経期ゴナドトロフィン(hMG、Menogon、Ferring Pharmaceuticals Ltd)または組み替えFSH(Puregon、Organon Laboratories Ltd)のいずれかでのゴナドトロフィン刺激を用いて、長期間の下垂体脱感作プロトコールを用いた。簡単に述べれば、卵母細胞を、hCG投与の36時間後、卵胞吸引により収集し、そしてオイル下のMedi−Cult IVF Medium(Medi−Cult)において、5%CO中37℃で培養した。卵母−卵丘細胞複合体を、hCG後約40時間で70,000運動性精子/mlの最終濃度で授精させ、そして授精が2つの前核の存在により確認されるまで(授精後1日目)一晩インキュベートした。研究のために用いられる前に、接合体を上記のうにオイル下のMedi−Cult IVF培地の70μlの滴中で培養した。最大で3つの胚を受精後2日目に移送し、そして任意の残りの胚を将来の使用のために液体窒素中で凍結および貯蔵した。HFEAガイドラインによれば、胚は5年間の間貯蔵されるのみであり得、そしてこれ故、患者は、毎年、彼らが彼らの胚を貯蔵したままにするか、または廃棄するか、または研究に提供するかどうか望むかを判定するために接触された。研究に提供された彼らの胚は、この研究における使用のために乾燥輸送でYorkに輸送された。
【0037】
胚は、Sydney IVF解凍キット(Cook、Queensland、Australia)を用いて解凍し、そして約3時間の間鉱物油下で、0.5%HSA、1mMグルコース、0.47mMピルビン酸、5mM乳酸およびアミノ酸の生理学的混合物への近似物(Tayら、1997)を補充したEBSS培養培地の10μl滴中に置いた。各患者の胚を、処置群の間でランダム化し、そして発生グレードおよび胚の時期を評価した(Houghtonら、2002)。次いで、これら胚を、37℃で空気中に5%COおよび20%または5%のいずれかのOを含む湿潤化雰囲気中で、同じ培地の4μl滴中で2日目〜3日目まで、24時間にわたって個々に培養した。インキュベーション後、胚の形態を評価し、そして胚を個々に前もって平衡化した培地中に置き、そして5%または20%Oいずれかの下、発生の5日目までインキュベートした。使用済み培地を−80℃で貯蔵した。発生の時期およびグレードを、発生の6日目までに、胚を個々に5%または20%Oいずれかの下の4μl滴の前もって平衡化した培地に置く前に再び評価した。胚発生期およびグレードは、この滴の除去前に評価した。使用済み培地は−80℃で貯蔵した。
【0038】
(アミノ酸分析)
胚を含まないコントロール滴を、胚を含むディッシュと同じディッシュ中でインキュベートし、培養期間を通じてアミノ酸濃度における任意の非特異的変化を可能にした。使用済み培地を解凍し、そして2μlのアリコートを、23μlのHPLCグレードの水で希釈した。アミノ酸分析を、先に記載のように(Houghtonら、2002)、Jasco F920蛍光検出器および4.5×250mm Hypersil ODS−16カラム(Jones Chromatograpy)を取り付けたKontron 500を用い、逆相HPLCによって実施した。簡単に述べれば、誘導体化は、25μlサンプルの等容量の試薬(10μlの2−メルカプトエタノールおよび5mlのo−フタルジアルデヒド(OPA)試薬)との自動化反応により達成した。溶出グラジエントは、1.3ml/分の流速で作動させた。溶媒Aは、18mlのテトラヒドロフラン(Fisher Chemicals)、200mlのメタノールおよび800mlの酢酸ナトリウム(83mmol/l、pH5.9)から構成された。溶媒Bは、800mlのメタノールおよび200mlの酢酸ナトリウム(83mmol/l、pH5.9)から構成された。この方法を用いてプロリンおよびシステインを検出することは可能でなかった。
【0039】
(統計学的分析)
すべてのデータを、Anderson−Darling正規度試験を用い、正規分布しているか否かを決定するために分析した。アミノ酸枯渇/出現のためのデータは、このデータが正規分布しているか否かに依存して、1−サンプルt−検定または1−サンプルWilcoxon試験のいずれかを用い、ゼロからの有意さについて試験した。停止胚と発生する胚との間でのアミノ酸プロフィールの差異を、Studentのt−検定またはMann−Whitney U検定のいずれかを用いて分析した。アミノ酸枯渇、出現、回転および収支間の差異は、Studentのt−検定によって分析した。
【0040】
(結果)
(2日目〜3日目の解凍胚によるアミノ酸回転)
セリン、グルタミン、アルギニン、バリン、イソロイシンおよびロイシンは、培地から顕著に枯渇され(図1)、その一方、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、アラニン、トリプトファンおよびフェニルアラニンは出現した。次いで胚盤胞期まで発生しなかった解凍胚は、グルタミン、アルギニン、バリン、イソロイシンおよびロイシンを消費し、そしてアスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンおよびリジンを産生した。胚盤胞期まで発生したような解凍胚と、胚盤胞形成の前に停止したようなものとの間には、グルタミン(P=0.001)、アラニン(P=0.001)、グリシン(P=0.0025)、グルタミン酸(P=0.016)、アルギニン(P=0.032)およびリジン(P=0.0448)の利用において有意な差異が存在した(図1)。
【0041】
驚くべきことに、胚盤胞期まで次いで発生しなかった凍結/解凍された2日目〜3日目の胚のコホートは、発生したものより多くのグレードI胚を含んでいた(表1)が、胚盤胞まで次いで発生したグレードI胚または胚盤胞形成前に停止したものとの間の胚あたりの分割球の平均数に差異はなかった。同様に、2つの群間で合計平均分割球数の間に差異はなかった(表1)。
【0042】
全体で、胚盤胞期前で停止した胚は、それらの発生する相当物より有意により多いアミノ酸を、枯渇(P=0.011)および産生(P=0.009)して、アミノ酸回転の点で代謝的により活性であった(図2)。興味深いことに、発生する胚は、それらのアミノ酸回転の点で収支がとれていたことが見出された。すなわち、枯渇された量は、産生された量に等しく、その一方、停止する胚は、負の収支、すなわち、それらが産生したより培地からより多くのアミノ酸を枯渇した(図2)。胚盤胞期まで発生した胚と、胚盤胞形成前に停止したものとの間では、2日目から3日目までグルタミン、グリシンおよびアラニンの合計で有意な差異(P<0.001)が存在した(図3)。個々の胚についてグルタミン、グリシンおよびアラニンの合計を用い、胚が胚盤胞期まで発生し得ることを91%の正確度で予測することが可能であった(図4)。
【0043】
グレードI胚のアミノ酸プロフィールが決定されたとき、胚盤胞期まで次いで発生したような胚と、胚盤胞形成の前に停止したようなグレードI胚と比較した間には、アミノ酸枯渇/出現における有意な差異が存在した(図5)。2つの群間の特異的な差異は、リジン(P=0.014)、グリシン(P=0.024)、トリプトファン(P=0.029)、アルギニン(P=0.035)、グルタミン酸(P=0.0493)およびグルタミン(P=0.050)の利用であった。グレードIの停止胚と発生胚との間には分割球の平均数に有意な差異はなかったことが注記されるべきである(表I)。グレードI胚は、総アミノ酸枯渇、出現において、またはアミノ酸の収支において有意な差異を示さなかった(図6)。しかし、停止するグレードI胚は、胚盤胞期まで発生したものよりアミノ酸回転の点で代謝的により活性であった。
【0044】
【表1】

(考察)
2日目〜3日目の凍結解凍ヒト胚の代謝が、培養培地からのアミノ酸枯渇、および培養培地中のアミノ酸出現に関して決定され、そして胚盤胞期まで発生するそれらの能力を予測するために用いられた。これは、低温保存されたヒト胚のエネルギー代謝を調査する最初の研究である。得られたアミノ酸プロフィールは、どの解凍胚が胚盤胞期まで発生するか;胚グレードおよび2日目における分割球数とは独立である現象を予測するために用いられ得る。胚盤胞期まで発生する能力をもつような胚は、代謝的により不活性であり、停止する胚より、アミノ酸産生、枯渇および回転のより小さい速度を有する。
【0045】
低温保存された胚のアミノ酸プロファイリングはまた、Brisonら(2004)による研究と同様に着床および生存子孫を予測し得る。これらの調査者は、発生の1日目から2日目まで測定されたICSI胚のアミノ酸プロフィールの遡及的分析を用いた。胚は形態のみに基づいて、2日目に移送のために選択され、そしてアスパラギン、グリシンおよびロイシンの回転が臨床妊娠と相関があることが見出された。詳細には、それらはまた、女性の年齢、基礎FSHレベル、胚細胞数およびグレードのような既知の予報値とは独立であった。
【0046】
上記技法は、IVF診療に容易に実現され得る感度の良い方法を提供し、そして発生学者によって移送のために発生する能力のある解凍胚を選択するために用いられる。アミノ酸プロファイリングの使用は、どの凍結解凍胚が胚盤胞期まで発生する遡及的選択においてのみならず、発生能力の点で最良のグレードI胚の集団間を区別するツールを発生学者に提供することによって有効であることが証明された。
【0047】
【表2−1】

【0048】
【表2−2】

【0049】
【表2−3】

【0050】
【表2−4】

【0051】
【表2−5】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】発生の2日目〜3日目からの凍結解凍ヒト胚によるアミノ酸枯渇および出現。胚盤胞期まで発生した胚についてn=21、そして胚盤胞期の前で停止した胚についてn=25。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001、ゼロからの有意性。同じ上付きをもつ棒は有意に異なる;aおよびb、P=0.001;c、P=0.0025;d、P=0.016;e、P=0.032;f、P=0.0448。
【図2】発生の2日目〜3日目からの凍結解凍ヒト胚による総アミノ酸産生、枯渇、回転および収支。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001、停止する胚とは有意に異なる。
【図3】発生の2日目〜3日目からの凍結解凍ヒト胚によるグルタミン、グリシンおよびアラニン利用の合計。***P<0.001、発生する胚に対して有意に異なる。
【図4】その後に停止したかまたは胚盤胞期まで発生した個々の凍結解凍胚についてのグルタミン、グリシンおよびアラニンの合計。
【図5】発生の2日目〜3日目からのグレードIの解凍ヒト胚によるアミノ酸枯渇および出現。胚盤胞期まで発生した胚についてn=6、そして胚盤胞期の前で停止した胚についてn=13。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001、ゼロからの有意性。同じ上付きをもつ棒は有意に異なる;a、P=0.014;b、P=0.024;c、P=0.029;P=0.035;e、P=0.0493;f、P=0.050。
【図6】発生の2日目〜3日目からのグレードIの解凍ヒト胚による総アミノ酸産生、枯渇、回転および収支。P<0.05、停止する胚とは有意に異なる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解凍細胞の生存率を評価する方法であって、ここで該細胞が、配偶子、胚、核質、推定幹細胞集団、幹細胞前駆体集団または幹細胞集団であり、該方法は、複数のアミノ酸を含む培養培地中で該解凍細胞をインキュベートする工程、および該培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度変化を決定する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記変化が所定の基準に合致する場合、さらなる発生のために前記解凍細胞を選択する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養培地が、グルコース、L−乳酸、ピルビン酸およびアミノ酸の生理学的混合物で補充されたアールのバランス塩溶液を含む、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
使用済み培地中のアミノ酸の濃度が、o−フタルアルデヒドでの誘導体化後のHPLCを用いて測定される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸の消費または産生のプロフィールが生成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノ酸の消費または産生のプロフィールが、全体として解凍細胞の生存率を評価する際の選択マーカーとして用いられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
最も生存可能な解凍細胞の選択が、代表的には2〜7個のアミノ酸を含むアミノ酸の群に基づき、その消費または産生プロフィールがその種の健常な発生解凍細胞の指標である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
最も生存可能な解凍細胞の選択が、単一のアミノ酸に基づき、その消費または産生プロフィールがその種の健常な発生解凍細胞の指標である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記解凍細胞が、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、任意の家畜動物または稀少および/または絶滅危機種を含む任意の生物に由来する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、ヒトのために用いられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
選択マーカーのために用いられる前記アミノ酸が、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アルギニン、アラニン、リジンの1つまたは組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
選択マーカーのために用いられる前記アミノ酸が、グルタミン、グリシンおよびアラニンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
発生能力のあるグレードI胚と停止するグレードI胚とを識別する方法であって、グレードI胚を複数のアミノ酸を含む培養培地中でインキュベートする工程、および培地中の少なくとも1つのアミノ酸の濃度変化を決定する工程を包含する、方法。
【請求項14】
前記変化が所定の基準に合致する場合、さらなる発生のために前記グレードI胚を選択する工程をさらに包含する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アミノ酸の消費または産生のプロフィールが生成される、請求項13または14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記アミノ酸の消費または産生のプロフィールが、全体として細胞の生存率を評価する際の選択マーカーとして用いられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
最も生存能力のある細胞の選択が、好ましくはリジン、グリシン、トリプトファン、アルギニン、グルタミン酸およびグルタミンであるアミノ酸の群に基づく、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−524424(P2009−524424A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551877(P2008−551877)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000277
【国際公開番号】WO2007/085851
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508206841)ノボセラス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】