説明

解剖室の換気装置

【課題】ホルムアルデヒドの拡散を防止して法定管理濃度をクリアでき、しかも換気量を単純に増大させることなく効率的に換気できる解剖室の換気装置を提供すること。
【解決手段】解剖台10が配置された解剖室の換気装置であって、解剖台10の全周囲を取り巻く中空の枠状に設けられ、上部内側壁に複数の吸い込み口21が形成されると共に、下部内側壁に複数の排気口22が形成された枠状通気ボックス20と、解剖台10の下部に設けられ、複数の排気口22に対応する複数の通気管35を介して枠状通気ボックス20に接続されて汚染空気を合流させる合流チャンバー30と、排気ダクト40と、排気用送風機50と、解剖室15の天井部16等の上部に設けられた整流ボックス60と、解剖室15の内部へ供給される空気量が排気用送風機間による排気量と同等又は上回るように新鮮な空気を供給する給気用送風機65とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解剖台が配置された解剖室の換気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学生のための解剖実習室等の解剖室では、給気用送風機と排気用送風機とを利用して部屋全体の換気量を一定以上に高めることによって換気を行っている。しかしながら、そのような換気方法では、ホルムアルデヒドの拡散を適切に防止できず、ホルムアルデヒドの最近の法定管理濃度をクリアすることが難しい状況になっている。
【0003】
これに対しては、換気量をさらに増やして、汚染空気を排出させる対策が考えられる。しかしながら、換気量を増やすことは、温度調整された室内空気を室外へ大量に排出することになり、熱エネルギーが無駄に消費されることになる。また、大型の送風機等の新たな設備を必要として、それらの設置コストが膨大となる。
【0004】
解剖室の換気装置に関連する先行技術としては、被処置物が載置される台部を有し、該台部上の汚染空気を吸引して脱臭する脱臭装置を備え、前記台部の上方に下降空気流を発生させる送風機が設置され、前記台部の両側部に、前記下降空気流によって供給された空気を取り込んで前記脱臭装置へ送るべく、吸入口が設けられた脱臭装置付処置台が本出願人によって提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この提案は、脱臭装置付処置台の個々に対するもので、多数の解剖台が設置された解剖実習室等のシステムとして適用されるものではない。
【特許文献1】特開2006−239408号公報(図8、9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解剖室の換気装置に関して解決しようとする問題点は、従来のシステムではホルムアルデヒドの拡散を適切に防止できず、ホルムアルデヒドの最近の法定管理濃度をクリアすることが難しく、換気量を単純に増大させた場合は設備及び運転のためのコストが嵩むという点にある。
そこで本発明の目的は、ホルムアルデヒドの拡散を防止して法定管理濃度をクリアでき、しかも換気量を単純に増大させることなく効率的に換気できる解剖室の換気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、解剖台が配置された解剖室内の換気を行う解剖室の換気装置であって、前記解剖台の全周囲を取り巻く中空の枠状に設けられ、前記解剖台上の汚染空気を全周囲において吸い込むように上部内側壁に複数の吸い込み口が形成されると共に、吸い込まれた前記汚染空気が前記解剖台の下部で排出されるように下部内側壁に複数の排気口が形成された枠状通気ボックスと、前記解剖台の下部に設けられ、前記複数の排気口に対応する複数の通気管を介して前記枠状通気ボックスに接続されて前記汚染空気を合流させる合流チャンバーと、該合流チャンバーに接続される排気ダクトと、該排気ダクトに接続され、前記汚染空気を吸引排気する排気用送風機と、前記解剖室の天井部等の上部に設けられ、新鮮な空気を前記解剖台の上方で整流させて吐出する整流ボックスと、該整流ボックスを介して前記解剖室の内部へ供給される空気量が前記排気用送風機による排気量と同等又は上回るように前記新鮮な空気を供給する給気用送風機とを具備することを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、前記整流ボックスは、底面が塞がれ、水平方向に整流された空気を吐出する通気側面を有し、該通気側面が有孔板を二層に重ねた形態に設けられていることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、前記枠状通気ボックスが、全体としては実質的に矩形枠状に形成され、その矩形の長軸を中心にして左右に分割された二つのコの字状通気ボックスから構成されていることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、前記枠状通気ボックスは、上部の内側が内方へ張り出して形成された内側張り出し部を備え、該内側張り出し部が前記解剖台の周縁部上面に接地されて載置されることで、前記解剖台の全周囲を取り巻くように設置されていることを特徴とすることができる。
【0008】
また、本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、前記汚染空気をスポット的に吸引するための吸引空気用チューブが接続可能に設けられ、排気が前記排気ダクトを介して排出されるように前記合流チャンバー内に内蔵された状態で設けられたスポット吸引空気用の送風機を備えることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態によれば、前記給気用送風機と前記整流ボックスとの間の通気路及び/又は前記排気ダクトの中途部である通気路に脱臭装置が接続されていることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の解剖室の換気装置によれば、ホルムアルデヒドの拡散を防止して法定管理濃度をクリアでき、しかも換気量を単純に増大させることなく効率的に換気できるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の解剖室の換気装置にかかる最良の形態の一例を添付図面と共に詳細に説明する。
図1は本発明にかかる解剖室の換気装置を示す説明図である。図2〜7は図1の解剖室の換気装置に用いられる汚染空気の吸い込み口が設けられた解剖台を示す平面図(図2)と各断面図である。また、図8は解剖台に固定される枠状通気ボックス20と合流チャンバー30の分解図である。
【0011】
本発明は、複数の解剖台が設置された医学生の解剖実習室等、解剖台10が配置された解剖室15内の換気を行う解剖室の換気装置に関する。
【0012】
20は枠状通気ボックスであり、解剖台10の全周囲を取り巻く中空の枠状に設けられ、解剖台10上の汚染空気を全周囲において吸い込むように上部内側壁に複数の吸い込み口21が形成されると共に、吸い込まれた汚染空気が解剖台10の下部で排出されるように下部内側壁に複数の排気口22が形成されている。
図2に示すように、吸い込み口21が規則的に多数形成されていることで、解剖台10の全ての位置において適度な通気抵抗を生じさせて吸い込み風量の均一化を図ることができる。また、複数の排気口22が所要の間隔をおいて複数設けられていることで、適度な通気抵抗を生じさせて排気風量の均一化を図ることができる。
【0013】
30は合流チャンバーであり、解剖台10の下部に設けられ、複数の排気口22に対応する複数の通気管35を介して枠状通気ボックス20に接続されて汚染空気を合流させるように設けられている。解剖台10の長手方向の軸に沿うように延設されている。
【0014】
40は排気ダクトであり、合流チャンバー30に接続され、汚染空気からなる排気を外部へ排出するように案内する。本形態例の排気ダクト40では、既存の解剖室15の構造を変更することなく設置するため、図1に示すように排気を一旦天井の方へ案内し、複数の排気ダクト40に接続された排気ダクトの合流管41を介して排気用送風機に接続されている。
【0015】
50は排気用送風機であり、排気ダクト40に接続され、汚染空気を吸引排気する。この排気用送風機50としては、従来の解剖室に設置されている送風能力の送風機を利用できる。従って、新たな送風機を設置する必要がなく、運転費用が嵩むこともない。
【0016】
60は整流ボックスであり、解剖室15の天井部16等の上部に設けられ、外気などの新鮮な空気を解剖台10の上方で整流させて吐出する。これによれば、排気用送風機50によって下方で空気が排出されるから、下降気流を生じさせることができる。
この整流ボックス60では、例えば、有孔板を二重に間隔をおいて配置した構造として整流効果を高めることができる。それによれば、整流効果によって乱れの少ない適切な下降気流を生じさせることができ、汚染空気の拡散を封じ込めることができる。
【0017】
さらに、この整流ボックス60の具体例としては、図9に示すように、底面が塞がれ、水平方向に整流された空気を吐出する通気側面を有し、その通気側面が有孔板を二層に重ねた形態(図9の破断図示部参照)に設けられている。この整流ボックス60は、方形で4方向から空気を吐出することができる。なお、整流ボックス60形態はこれに限定されず、例えば、円形で側周面の全周から空気を吐出してもよい。
これによれば、新鮮な空気を整流状態で水平方向に吐出するため、その空気の流れを解剖室の上方で整流された下降気流に好適に変換できる。そして、そのような下降気流によれば、上述のように汚染空気の拡散を封じ込めることができる。
【0018】
65は給気用送風機であり、整流ボックス60を介して解剖室15の内部へ供給される空気量が排気用送風機50による排気量と同等又は上回るように新鮮な空気を供給するように設けられている。
このように、各送風機の風量が調整されているため、解剖室15内は外気と同圧又は陽圧に保たれる。これにより、解剖の対象となる検体(人体等の被解剖物)から発生するホルムアルデヒドは、上方から押え付けられた状態となり、拡散されない。つまり、汚染空気が押し込まれて排気される状態となり、対流現象が生じないため、その汚染空気が拡散しない。これによれば、室内のホルムアルデヒドを低いレベルに抑えることでき、解剖室の環境を改善できる。
【0019】
なお、この給気用送風機65としては、従来の解剖室に設置されている送風能力の送風機を利用できる。従って、新たな送風機を設置する必要がなく、運転費用が嵩むこともない。
【0020】
本形態例の枠状通気ボックス20では、図8に示すように、全体としては実質的に矩形枠状に形成され、その矩形の長軸を中心にして左右に分割された二つのコの字状通気ボックス20a、20bから構成されている。各コの字状通気ボックス20a、20bは独立した箱体であり、直接的に連通されていないが、対称形状であり、風量のバランスを適切に取ることができる。
【0021】
このように枠状通気ボックス20が分割可能の構造であることで、既存の解剖台10に後付けで装着し易い形態になっている。また、この形態によれば、解剖台10からの脱着も比較的容易にでき、保守管理がし易い利点もある。
【0022】
また、この枠状通気ボックス20では、上部の内側が内方へ張り出して形成された内側張り出し部25(図8参照)を備え、その内側張り出し部28が解剖台10の周縁上面に接触されて載置されることで、解剖台10の全周囲を取り巻くように設置されている。これによれば、枠状通気ボックス20は、十分な強度を備え、精度よく容易且つ確実に解剖台10に設置することができる。
【0023】
また、図8に示すように、45はスポット吸引空気用の送風機であり、汚染空気をスポット的に吸引するための吸引空気用チューブが接続可能に設けられ、排気が排気ダクト40を介して排出されるように合流チャンバー30内に内蔵された状態で設けられている。46は吸引空気用チューブの接続口である(図8参照)。また、47は下部吸引口であり、合流チャンバー30の下部に通気管が延設されて設けられている。この下部吸引口47や接続口46によれば、常時の開口した状態で、解剖台10の下に溜まった汚染空気を吸引できる。その開口の大きさは、吸い込み口21と同等に設けられており、同等の空気量でバランスよく吸引できる。
【0024】
これによれば、汚染ガスの発生源近くから局所的・集中的に汚染空気を吸引できる。また、合流チャンバー30内に内蔵されているので、汚染空気の漏れによる二次汚染の心配がない。さらに、スポット吸引の装置が適切に収納され、装置をコンパクトにまとめることができる。
【0025】
また、図1に示すように、給気用送風機65と整流ボックス60との間の通気路及び/又は排気ダクト40、41の中途部である通気路に脱臭装置70が接続されていることで、解剖室内の空気を清浄化でき、解剖室や周囲環境の汚染を防止できる。例えば、給気用送風機65と整流ボックス60との間の通気路に酸素クラスターイオン方式の脱臭装置70を配設し、排気ダクト40、41の中途部である通気路に酸化触媒方式の脱臭装置70を配設できる。
【0026】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる解剖室の換気装置の一形態を示す説明図である。
【図2】図1の解剖室の換気装置に用いられる汚染空気の吸い込み口が設けられた解剖台を示す平面図である。
【図3】図2のA1−A1線断面図である。
【図4】図2のA2−A2線断面図である。
【図5】図2のB1−B1線断面図である。
【図6】図2のB2−B2線断面図である。
【図7】図2のB3−B3線矢視図である。
【図8】解剖台に固定される枠状通気ボックスと合流チャンバーの分解図である。
【図9】整流ボックスの一形態を示す仰ぎ見た状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
10 解剖台
15 解剖室
20 枠状通気ボックス
21 吸い込み口
22 排気口
25 内側張り出し部
30 合流チャンバー
35 通気管
40 排気ダクト
45 スポット吸引空気用の送風機
46 吸引空気用チューブの接続口
50 排気用送風機
60 整流ボックス
65 給気用送風機
70 脱臭装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解剖台が配置された解剖室内の換気を行う解剖室の換気装置であって、
前記解剖台の全周囲を取り巻く中空の枠状に設けられ、前記解剖台上の汚染空気を全周囲において吸い込むように上部内側壁に複数の吸い込み口が形成されると共に、吸い込まれた前記汚染空気が前記解剖台の下部で排出されるように下部内側壁に複数の排気口が形成された枠状通気ボックスと、
前記解剖台の下部に設けられ、前記複数の排気口に対応する複数の通気管を介して前記枠状通気ボックスに接続されて前記汚染空気を合流させる合流チャンバーと、
該合流チャンバーに接続される排気ダクトと、
該排気ダクトに接続され、前記汚染空気を吸引排気する排気用送風機と、
前記解剖室の天井部等の上部に設けられ、新鮮な空気を前記解剖台の上方で整流させて吐出する整流ボックスと、
該整流ボックスを介して前記解剖室の内部へ供給される空気量が前記排気用送風機による排気量と同等又は上回るように前記新鮮な空気を供給する給気用送風機とを具備することを特徴とする解剖室の換気装置。
【請求項2】
前記整流ボックスは、底面が塞がれ、水平方向に整流された空気を吐出する通気側面を有し、該通気側面が有孔板を二層に重ねた形態に設けられていることを特徴とする請求項1記載の解剖室の換気装置。
【請求項3】
前記枠状通気ボックスが、全体としては実質的に矩形枠状に形成され、その矩形の長軸を中心にして左右に分割された二つのコの字状通気ボックスから構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の解剖室の換気装置。
【請求項4】
前記枠状通気ボックスは、上部の内側が内方に張り出して形成された内側張り出し部を備え、該内側張り出し部が前記解剖台の周縁部上面に接触されて載置されることで、前記解剖台の全周囲を取り巻くように設置されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の解剖室の換気装置。
【請求項5】
前記汚染空気をスポット的に吸引するための吸引空気用チューブが接続可能に設けられ、排気が前記排気ダクトを介して排出されるように前記合流チャンバー内に内蔵された状態で設けられたスポット吸引空気用の送風機を備えることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の解剖室の換気装置。
【請求項6】
前記給気用送風機と前記整流ボックスとの間の通気路及び/又は前記排気ダクトの中途部である通気路に脱臭装置が接続されていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の解剖室の換気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−51495(P2010−51495A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218809(P2008−218809)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(501484138)株式会社山岸工業 (7)