説明

解析装置および解析方法

【課題】高速で高精度な磁場解析を実現する。
【解決手段】解析装置1は、解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する。解析装置1は、解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割する領域分割部63と、領域分割部63による分割の結果得られるボロノイ多面体(多角形)形状の粒子(要素)内の仮想粒子が満たすべき関係を仮想粒子ごとに運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式を数値的に解くことにより粒子の磁場状態を演算する磁場演算部66と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの計算能力の向上に伴い、モータなどの電気機器の設計開発の現場では磁場解析を取り入れたシミュレーションがよく使用されるようになっている。磁場解析においては、解析対象物が単純な形状の場合は六面体要素(四角形要素)、複雑な形状の場合は四面体要素(三角形要素)が多く用いられている。
【0003】
また、繰り込み群分子動力学を使用したシミュレーションの手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−285866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は特願2010−128664において、例えば解析対象を任意形状の粒子(要素)の集合体とし、さらに磁性体を構成する粒子(要素)内に仮想粒子を粒子(要素)面数だけ配置し各粒子(要素)内で磁化ベクトルの発散はゼロという束縛を仮想粒子に課した上で、仮想粒子の運動方程式に基づいて磁場解析を行う手法を提案している。この手法により高精度な磁場解析が実現されている。(特願2010−128664では、仮想粒子の運動方程式を、磁場の運動方程式と名づけ記載している。特願2010−128664で示す手法は、本来、仮想的な粒子を用いて磁性体を有する系の磁場解析を行っており、仮想的な粒子を磁場と名づけている。本発明においては、呼び名を限定し物理的により明確とするよう、仮想粒子として記載する。)
【0006】
しかしながらこの手法では、高精度化を実現するために各粒子(要素)内に比較的多くの仮想粒子が要求される。解析に必要な計算量は各粒子(要素)に配置された仮想粒子の数に依存して増大することを考えると、解析対象が大規模、複雑形状になるにつれ、必要な計算量やメモリ量や解析時間も増大しうる。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高精度なシミュレーションを実現する、または、シミュレーションに必要な計算量を低減する解析技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は解析装置に関する。この解析装置は、解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する解析装置であって、解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割する領域分割部と、領域分割部による分割の結果得られる各粒子(ボロノイ多面体またはボロノイ多角形)内の仮想粒子が満たすべき関係を運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式、を数値的に解くことにより各粒子(ボロノイ多面体またはボロノイ多角形)の磁場状態を演算する演算部と、を備える。
【0009】
この態様によると、磁場解析において、粒子(要素)形状がボロノイ多面体(多角形)でない場合に比べて、少ない仮想粒子数で高精度な解析が可能となる。
【0010】
本発明の別の態様は、解析方法である。この方法は、解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する解析方法であって、解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割するステップと、分割の結果得られるボロノイ要素内の仮想粒子が満たすべき関係を運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式、を数値的に解くことによりボロノイ要素の磁場状態を演算するステップと、を含む。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を装置、方法、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高精度なシミュレーションを実現できる、または、シミュレーションに必要な計算量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る解析装置の機能および構成を示すブロック図である。
【図2】SPMモータの構成の概略を示す図である。
【図3】SPMモータのステータティースの1つの周囲の拡大斜視図である。
【図4】図1の解析装置における一連の処理を示すフローチャートである。
【図5】コイルの説明図である。
【図6】直方体導体とローカル座標との関係を示す図である。
【図7】円弧状柱状導体とローカル座標との関係を示す図である。
【図8】図4に示される処理の一部の詳細を示すフローチャートである。
【図9】領域分割部によって生成される粒子(ボロノイ多面体要素)の説明図である。
【図10】解析対象の2次元的なモデルを示す模式的な上面図である。
【図11】モデルを正方形の粒子(要素)で分割し、各粒子(要素)内の仮想粒子を4個として磁場解析を行った結果を示す図である。
【図12】モデルを正方形の粒子(要素)で分割し、各粒子(要素)内の仮想粒子を1個(要素重心)として磁場解析を行った結果を示す図である。
【図13】モデルをボロノイ分割し、粒子(要素)形状をボロノイ多角形とし、各粒子(要素)内の仮想粒子を1個(ボロノイ多角形母点)として磁場解析を行った結果を示す図である。
【図14】図14(a)、(b)は、仮想粒子および粒子がそれぞれ運動する位相空間を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付する場合がある。また、適宜重複した説明は省略する。
【0015】
実施の形態に係る解析装置は、モータなどの現実の物体を解析対象の物体とし、その物体を仮想空間内の領域として記述して解析する。「仮想空間」は、解析装置の記憶装置に記憶される一連のデータによって表現される空間であり、例えば直交座標が定義された3次元空間である。解析装置は、磁気モーメント法による磁場解析において、ボロノイ多面体要素やボロノイ多角形要素などのボロノイ要素を用いる。これにより、より高速、高精度な磁場解析が可能となる。
【0016】
図1は、実施の形態に係る解析装置1の機能および構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(central processing unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0017】
解析装置1は、制御部3と、記憶装置5と、メディア入出力部6と、入力部7と、表示部9と、プリンタポート11と、を備え、これらの部材はバス13を介して互いに接続されている。
【0018】
制御部3は、CPU、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成され、記憶手段としての記憶装置5に格納されたプログラムに従って、バス13を介して接続された各装置を駆動制御する。
【0019】
記憶装置5は、初期条件を有する情報である入力情報を有している。メディア入出力部6は、フロッピー(登録商標)ディスク、CD、DVD等のメディアとの間で情報の入出力を行う装置である。入力部7は、キーボード、マウス等の入力装置であり、表示部9はディスプレイ等の表示機器である。プリンタポート11には出力装置としてのプリンタ12等が接続される。
【0020】
制御部3は、粒子モデル生成部60と、繰り込み部62と、領域分割部63と、相互作用演算部64と、磁場演算部66と、機構・弾性演算部68と、制御パラメータ更新部70と、終了判定部72と、を含む。各部の詳細は後述する。
【0021】
以下では、解析装置1による解析対象の物体としてモータ、特に永久磁石モータ(Permanent Magnet Motor)の一種であるSPMモータ31(Surface Permanent Magnet Motor)を採用する場合を説明する。
【0022】
SPMモータ31の構成の概略を図2および図3を参照して説明する。
図2に示すように、SPMモータ31は、回転子(移動子)であるロータ33と、固定子であるステータ35と、を有している。ロータ33は、鉄等の磁性体である円柱状のロータコア37を有し、ロータコア37の表面には永久磁石39が設けられている。ロータコア37の軸中心には棒状のロータシャフト41が設けられている。
【0023】
ステータ35は、磁性体である歯状のステータティース43と、ステータティース43の外側に設けられた円筒状の磁性体であるコアバック44と、コアバック44の外側に設けられた円筒状のフレーム46と、を含む。
【0024】
図2および図3に示すように、ステータティース43には、金属等の導電体であるコイル45が巻きつけられている。なお、実際のSPMモータ31ではコイル45は仕様に応じたターン数でステータティース43に巻きつけられて束となっているが、本実施の形態では、図2および図3に描かれているように、コイル一本一本をモデル化せず、コイルの束を1つの導体として扱う。
【0025】
このような構造のSPMモータ31は、永久磁石39の磁場、およびコイル45に電流を流すことにより発生する磁場によって、ロータ33、ステータ35が磁化する。磁性体の磁気エネルギの偏差によりSPMモータ31は駆動する。
【0026】
そのため、SPMモータ31の解析を行うためにはコイル45、永久磁石39がロータ33、ステータ35を構成する磁性体上に作る磁場ベクトルを計算し、これら磁性体の磁化現象を解析する必要がある。
【0027】
図4は、実施の形態に係る解析装置1における一連の処理を示すフローチャートである。以下の手順において、磁性体とは、ロータ33、ステータ35を構成する磁性体と永久磁石39を指し示し、磁化曲線を表す関数によってこれらは区別される。導体とは、例えばコイル45である。
【0028】
(ステップS202)
解析装置1は、SPMモータ31の形状に関する情報や材料の特徴(材料定数など)を含む初期条件を取得し、記憶装置5に入力情報として記憶する。この初期条件は例えばメディア入出力部6を介してCD−ROM等の記録媒体から読み込んだものであってもよい。さらに、あらかじめ上記初期条件が入力情報として記憶されている場合は、ステップS202は不要である。
【0029】
初期条件は、SPMモータ31の三次元構造(形状、座標点)、質量密度、磁性体の磁化曲線を表す関数、導体の電流密度ベクトル、を含む。SPMモータ31の三次元構造の情報とは例えばCAD(Computer Aided Design)等のデータである。電流密度ベクトルは、コイル45の作る磁場ベクトルを計算する際に必要になる。磁性体の磁化曲線を表す関数は磁化ベクトルを計算する際に必要になる。
【0030】
(ステップS204)
粒子モデル生成部60は、記憶装置5が記憶する初期条件からSPMモータ31の粒子モデルを生成する。粒子モデル生成部60は、初期条件に含まれる三次元構造の情報から、SPMモータ31をN個の粒子に分割し(Nは2以上の整数)、各粒子の位置ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。次に、粒子モデル生成部60は、磁性体を構成する各粒子内の仮想粒子の位置ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。N個の粒子は粒子系Sを構成する。粒子は、原子、分子単位であってもよい。仮想粒子の詳細については後述する。
【0031】
図14(a)、(b)は、仮想粒子および粒子がそれぞれ運動する位相空間を説明するための説明図である。本実施の形態では、仮想粒子の運動方程式を数値積分することにより、図14(a)に示す位相空間での仮想粒子の挙動が計算され(磁場解析)、粒子の運動方程式を数値積分することにより、図14(b)に示す位相空間での粒子の挙動が計算される(機構・弾性解析)。仮想粒子の挙動、粒子の挙動を交互に計算することで、磁場・機構・弾性連成解析が行われる。
【0032】
導体であるコイル45に対応する粒子は、以下のように決定する。
図5は、コイル45の説明図である。図5(a)は、コイル45の拡大斜視図であり、図5(b)は、コイル45をローカル導体に分割した例を示す図である。図6は、直方体導体とローカル座標との関係を示す図である。図7は、円弧状柱状導体とローカル座標との関係を示す図である。
【0033】
粒子モデル生成部60は、初期条件に含まれる三次元構造の情報から、図5(a)に示されるコイル45を図5(b)に示すようにローカル導体(直方体導体45a、45bと円弧状柱状導体45c、45d)に分割し、それぞれの導体が作る磁場ベクトルを計算するための係数を計算し、記憶装置5に記憶する。
【0034】
まず、ローカル導体が直方体導体45aの場合について説明する。
なお、ローカル導体が直方体導体45bの場合は、ローカル導体が直方体導体45aの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
ローカル導体が直方体導体45aの場合は、粒子モデル生成部60は、図6に示すように、ローカル座標系(x,y,z)を適用する。このローカル座標系においてはローカル導体(直方体導体45a)の重心を原点Oとし、直方体導体45aの寸法はx方向に2a、y方向に2b、z方向に2cの長さを持つものとする。また原点Oに粒子は位置するものとする。
【0036】
粒子モデル生成部60は、初期条件に含まれるコイル45の三次元構造を読み込み、ローカル導体(直方体導体45a)の寸法であるa、b、cと粒子位置ベクトルとを計算し記憶装置5に記憶する。
【0037】
次に、ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合について説明する。
なお、ローカル導体が円弧状柱状導体45dの場合は、ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0038】
ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合は、粒子モデル生成部60は、図7に示すようにローカル座標系(x,y,z)を適用する。このローカル座標系においては原点Oは円弧の中心軸上に存在し、かつ円弧状柱状導体45cの高さ方向(図7のz方向)に対して円弧状柱状導体45cが対称となる点に存在するものとする。
【0039】
また、x,y,zは、x−y平面でみると、+x軸を基点とし、円弧状柱状導体45cの円弧が+z軸からみて反時計回りになるようして決定する。円弧状柱状導体45cの内径と外径の平均値をRとし、径方向の厚さを2r、z方向の高さを2zとする。
【0040】
電流は+x軸を基点として、+zから見て反時計回りの方向への角度をθとし、電流はこの方向に一様な電流密度jで流れているものとする。粒子は円筒座標系で(R、θ/2、0)に位置するものとする。
【0041】
粒子モデル生成部60は、初期条件に含まれるコイル45の三次元構造を読み込み、ローカル導体(円弧状柱状導体45c)の寸法であるr、z、θ、Rおよび粒子位置ベクトルを計算し記憶装置5に記憶する。
【0042】
(ステップS206)
繰り込み部62は、特許文献1で説明されている繰り込み群分子動力学の手法を使用して粒子系Sを繰り込み処理し、繰り込まれた粒子系S’を生成する。以下では、第1の繰り込み因子をα、第2の繰り込み因子をγ=0、第3の繰り込み因子δ=2、空間の次元数d=3とする。特許文献1によると、粒子系Sのパラメータと繰り込まれた粒子系S’のパラメータとの間には、
【数1】

の関係が成り立つ。また、本発明者による独自の考察(後述)によると、
【数2】

の関係が成り立つ。以下の解説で述べる物理量は、すべて繰り込まれた粒子系S’における量とする。
【0043】
(ステップS207)
領域分割部63は、仮想空間内にSPMモータ31の磁性体に対応する磁性体領域を定義する。領域分割部63はこの磁性体領域をボロノイ分割する。すなわち領域分割部63はまず、繰り込まれた粒子系S’の粒子を頂点として磁性体領域を3次元デローニ(ドロネー)分割する。次に領域分割部63は、デローニ分割の結果得られる四面体要素からボロノイ多面体要素を生成する。これにより、磁性体領域は繰り込まれた粒子系S’の粒子を母点としてボロノイ分割される。
【0044】
領域分割部63は、各粒子内の仮想粒子を1つとし、仮想粒子の位置は粒子の位置(ボロノイ多面体の母点)と同様とする。これにより、1つの粒子(ボロノイ多面体要素)に1つの仮想粒子が定義される。
【0045】
(ステップS208)
相互作用演算部64は、粒子間の相互作用による相互作用ポテンシャルエネルギφ’を演算する。相互作用ポテンシャルエネルギφ’の演算については特許文献1に詳しい。特に本実施の形態では、相互作用ポテンシャルエネルギφ’は弾性を考慮した形を有する。
【0046】
(ステップS210)
磁場演算部66は、領域分割部63による分割の結果得られる各粒子(ボロノイ多面体要素)内の仮想粒子が満たすべき関係を仮想粒子ごとに運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式を数値的に解くことにより各仮想粒子の振る舞いを計算し、各粒子(ボロノイ多面体要素)の磁場状態を演算する。詳細は後述する。
【0047】
(ステップS212)
機構・弾性演算部68は、相互作用演算部64によって演算された相互作用ポテンシャルエネルギφ’と磁場演算部66によって演算された磁場とに基づき各粒子の運動を演算し、各粒子の位置、速度を更新する。詳細は後述する。
【0048】
(ステップS214)
制御部3は、ユーザからの出力指示の有無を確認する。
(ステップS216)
制御部3は、ユーザからの出力指示がある場合(ステップS214のY)、繰り込まれた粒子系S’にステップS206に対応するリスケーリングを施す。
(ステップS218)
制御部3は、リスケーリングの結果得られる位置ベクトル、力ベクトル、磁場ベクトル、磁束密度ベクトル、磁化ベクトルなどをプリンタポート11を介してプリンタ12より出力する。
【0049】
(ステップS220)
終了判定部72は、ユーザからの出力指示がない場合(ステップS214のN)、所定の終了条件(時間、移動量等)を満たしているかを判断する。終了判定部72は、終了条件が満たされている場合は(ステップS220のY)、解析を終了する。
制御部3は、終了条件が満たされていない場合は(ステップS220のN)、処理をステップS208に戻す。すなわち、制御部3は、更新された各粒子の位置、速度を使用して、再度相互作用ポテンシャルエネルギφ’や磁場を演算する。
【0050】
制御パラメータ更新部70は、終了条件が満たされていない場合であって(ステップS220のN)ユーザからの求めがある場合は、繰り込まれた粒子系S’の外部から与えられる制御パラメータであって、各粒子に作用する磁場に影響を及ぼす制御パラメータ、例えば電流密度ベクトルを更新する。磁場演算部66は更新された電流密度ベクトルを使用して磁場を演算する。
【0051】
ステップS210およびステップS212について以下に詳述する。
図8は、図4のステップS210およびステップS212の詳細を示すフローチャートである。
【0052】
(ステップS102)
磁場演算部66は、コイルの寸法および電流密度ベクトルを用いて、ビオ・サバールの法則を積分することにより得られる解析解により、通電されたコイルが磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の位置に作る磁場ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。
【0053】
図9は、領域分割部63によって生成される粒子(ボロノイ多面体要素)と仮想粒子の説明図である。図9では、ボロノイ多面体要素を2次元表示した場合の形状の一例が示される。
ここで、粒子および仮想粒子の位置ベクトルを(太字の)r’、粒子および仮想粒子の位置を母点とするボロノイ多面体要素の要素境界面の中点をq’点とする。また、太字のn’q’は中点q’が属する要素境界面の法線ベクトル、ΔS’q’は中点q’が属する要素境界面の面積である。
【0054】
図8に戻る。
まず、ローカル導体が直方体導体45aの場合について説明する。
なお、ローカル導体が直方体導体45bの場合は、ローカル導体が直方体導体45aの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
ローカル導体が直方体導体45aの場合は、図6で定義されるローカル座標系(x’,y’,z’)を適用する。
次に、任意の点であるP点の位置ベクトルをローカル座標系(x’,y’,z)に変換する。
【0056】
通電された直方体導体がP点に作る磁場ベクトルは、以下に示す式(1)〜(3)で記載される。
【0057】
【数3】

【0058】
ここで、(太字の)rps’はローカル座標系(x’,y’,z’)でのP点の位置ベクトルであり、xps’,yps’,zps’はx’,y’,z’方向の値である。πは円周率である。Hx’s’、Hy’s’、Hz’s’はローカル座標系(x’,y’,z’)における磁場ベクトルの各成分である。j’は電流密度である。
【0059】
また、x’,y’,z’はx’,y’,z’方向の積分の上限、下限を表しており、式(4)に示す関係が成立する。
【0060】
【数4】

【0061】
ここで、a’,b’,c’は直方体導体の寸法である。
【0062】
次に、ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合について説明する。
なお、ローカル導体が円弧状柱状導体45dの場合は、ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
ローカル導体が円弧状柱状導体45cの場合は、図7で定義されるローカル座標系(x’,y’,z’)を適用する。
ローカル座標系(x’,y’,z’)に変換後のP点の位置ベクトルを以下の式(5)に示すように円筒座標系(太字の)rpc’=(Rpc’、φpc’、Zpc’)に変換する。
通電された円弧状柱状導体45cがP点に作る磁場ベクトルは、以下の式(6)〜(11)で表される。
【0064】
【数5】

【0065】
ここで、Hrc’、Htc’、Hzc’は円筒座標系での磁場ベクトルの各成分である。j’は電流密度である。r’、θ’、z’は円弧状柱状導体45cの寸法であり、R’は円弧の内径と外径の平均値である。sgnはZ’の符号であり、R’、Z’は積分の上限、下限を表しており、式(12)に示す関係が成立する。
【0066】
【数6】

【0067】
以上が任意の点Pにコイル45が作る磁場ベクトルの計算手順である。
磁場演算部66は、磁性体に対応するすべての粒子内の仮想粒子の位置ベクトルを読み込む。
【0068】
次に、磁場演算部66は、仮想粒子の位置ベクトルをローカル座標系(x’,y’,z’)に変換し、直方体導体45aの寸法と、電流密度ベクトルとを読み込み、式(1)〜(4)に基づいて磁場ベクトルを計算する。
【0069】
次に、磁場演算部66は、式(1)〜(4)で計算された磁場ベクトルをグローバル座標系(x’,y’,z’)に変換し、変換後の磁場ベクトルを記憶装置5に記憶する。
これにより、通電された直方体導体45aが、仮想粒子の位置に作る磁場ベクトルが求められる。
【0070】
さらに磁場演算部66は、仮想粒子の位置ベクトルをローカル座標系(x’,y’,z’)に変換し、さらに円筒座標系(太字の)rpc’=(Rpc’、φpc’、Zpc’)に変換する。
【0071】
次に磁場演算部66は、円弧状柱状導体45cの寸法r’、θ’、z’およびR’を読み込み、また、磁場演算部66は電流密度ベクトルを読み込む。
【0072】
磁場演算部66は式(6)〜(12)に基づいて磁場ベクトルを計算する。
次に、磁場演算部66は、計算された磁場ベクトルを直交座標系に変換し、さらにグローバル座標系(x’,y’,z’)に変換し記憶装置5に記憶する。
これにより、通電された円弧状柱状導体45cが磁性体を構成する粒子内の仮想粒子の位置に作る磁場ベクトルが求められる。
【0073】
(ステップS104)
磁場演算部66は、永久磁石39が磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の位置に作る磁場ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。
【0074】
(ステップS106)
磁場演算部66は、ステップS102で計算した磁場ベクトルとステップS104で計算した磁場ベクトルとの和を計算する。
【0075】
(ステップS108)
磁場演算部66は、磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の位置ベクトルと形状により、仮想粒子の運動方程式の係数を計算し記憶装置5に記憶する。
【0076】
磁場演算部66は、磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の位置ベクトルを読み込む。(本実施の形態では、粒子と仮想粒子は位置、形状ともに同一である。)
なお、ステップS212おいて仮想粒子の位置ベクトルが更新され記憶装置5に記憶されている場合は、磁場演算部66はその値を読み込む。
【0077】
磁場演算部66は、仮想粒子の位置ベクトルと形状から、各仮想粒子(ボロノイ多面体要素)内のq’点の位置ベクトルと要素境界面の法線ベクトル(太字の)n’を計算し、記憶装置5に記憶する。
【0078】
次に、磁場演算部66は、仮想粒子(ボロノイ多面体要素)の表面積ΔS’、体積ΔV’を計算し、記憶装置5に記憶する。
【0079】
次に、磁場演算部66は、仮想粒子の運動方程式から時間刻み幅δt’後の仮想粒子の振る舞いを計算し、記憶装置5に記憶する。
【0080】
磁性体に対応する(N’−w)個の粒子のラグランジアンを式(13)で表される形とする。wは自然数であり、繰り込まれた粒子系S’においてコイル45に対応する粒子の数である。
【0081】
【数7】

【0082】
ここで、式(13)において、α’は仮想質量、太字のr’は位置ベクトル、太字のH’、太字の傍点付きH’は正準変数、太字のM’は磁化ベクトル、太字のHext’は外部からの印加磁場ベクトル、χ’は磁気感受率、μ0’は真空の透磁率、πは円周率、s’はボロノイ多面体である粒子(仮想粒子)の境界面数である。
【0083】
また、添え字i、jはそれぞれ、i、j番目の粒子(仮想粒子)の物理量を示し、添え字jq’はボロノイ多面体であるj番目の粒子(仮想粒子)のq’点の物理量を示す。
【0084】
式(13)において、m’は粒子の質量、v’は速度、φ’(r’−r’)はi番目の粒子とj番目の粒子の相互作用ポテンシャルエネルギである。
【0085】
次に、正準変数を(太字の)H’、(太字の傍点付き)H’とし、式(13)で示されるラグランジアンをラグランジュの運動方程式に代入すると、仮想粒子の運動方程式は式(15)のように記載できる。
【0086】
【数8】

【0087】
式(15)の右辺第3項は外部からの印加磁場ベクトルが変化したときにすばやく追従させるための減衰項であり、γ’は減衰定数である。
【0088】
式(15)に示される運動方程式を解くにあたり、蛙跳び法により式(15)を離散化すると以下の式(16)、式(17)、式(18)になる。
【0089】
【数9】

【0090】
ここで、δt’は磁化現象の収束計算を行う上で用いる時間刻み幅である。
添え字のnは任意の整数であり、nδt’における物理量、n−1/2は(n−1/2)δt’における物理量、n+1/2は(n+1/2)δt’における物理量、n+1は(n+1)δt’における物理量に対応している。
【0091】
磁場演算部66は、磁性体を構成する粒子内のq’点の位置ベクトルを読み込む。
【0092】
次に、磁場演算部66は、ステップS106で既に計算され記憶装置5に記憶されているコイル45および永久磁石39が磁性体に対応する粒子の位置に作る磁場ベクトルを外部からの印加磁場ベクトルとして読み込む。
さらに、磁場演算部66は、既に計算され記憶装置5に記憶されている、仮想粒子(ボロノイ多面体要素)の表面積、法線ベクトルおよび体積を読み込む。
また、磁場演算部66はあらかじめ記憶装置5に記憶されている減衰定数、仮想質量、時間刻み幅を読み込む。
【0093】
次に、磁場演算部66はあらかじめ記憶装置5に記憶されている仮想粒子の正準変数((太字の)Hi’’、(太字の傍点付き)Hi’’)の初期値を読み込む。
なお仮想粒子の正準変数((太字の)Hi’’、(太字の傍点付き)Hi’’)が初期値から更新されている場合は、磁場演算部66はその値を読み込む。
また、磁化ベクトルは、初期条件に含まれる磁化曲線を表す関数と磁場ベクトルとを使用して計算される。
【0094】
磁場演算部66は、式(16)、式(17)、式(18)を、磁性体に対応する全ての粒子内の仮想粒子に対して計算し、計算された(太字の)Hi’’、(太字の傍点付き)Hi’’を記憶装置5に記憶する。
【0095】
(ステップS114)
磁場演算部66は、磁性体の磁化現象が定常状態に到達したかを判断し、条件を満たしていれば次のステップに進む。
磁性体に対応する粒子内の仮想粒子が定常状態に到達したかは、以下の式(19)により判断される。
【0096】
【数10】

【0097】
ここでA’は磁性体に対応する粒子内の仮想粒子が定常状態に到達したかを判断するための誤差判定値である。
【0098】
磁場演算部66は、あらかじめ記憶装置5に記憶されているA’、μ’を読み込む。
また、磁場演算部66は、ステップS108で計算され記憶装置5に記憶されている、磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の位置での磁場ベクトルを読み込む。
【0099】
次に、磁場演算部66は式(19)を計算し、式(19)が満たされていれば次のステップに進み、満たされていなければステップS108に戻る。
ステップS210は、ステップS102,ステップS104、ステップS106、ステップS108、ステップS114、を含む。
【0100】
(ステップS116)
機構・弾性演算部68は、SPMモータ31に対応するすべての粒子の位置における磁場ベクトル、磁化ベクトル、磁束密度ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。すなわち、機構・弾性演算部68は、磁性体に対応するすべての粒子の位置における磁場ベクトル、磁化ベクトル、磁束密度ベクトルと、コイル45に対応するすべての粒子の位置における磁場ベクトル、磁束密度ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。
【0101】
(磁性体に対応する粒子)
本実施の形態では、磁性体に対応する粒子の位置と仮想粒子の位置は等しい。したがって、ステップS210で計算され記憶装置5に記憶されている(太字の)H’が、粒子位置ベクトル上の磁場ベクトルとなる。磁性体に対応する粒子の位置での磁束密度ベクトルは、式(20)で表される。
【0102】
【数11】

【0103】
ここで、太字のB’は磁束密度ベクトルであり、添え字のiは磁性体に対応する粒子の内、i番目の粒子の位置での物理量であることを示す。
【0104】
機構・弾性演算部68は、ステップS210で計算された磁場ベクトルと初期条件に含まれる磁化曲線を表す関数とを使用して、磁性体に対応する粒子の磁化ベクトルを計算し記憶装置5に記憶する。
【0105】
次に機構・弾性演算部68は、ステップS210で計算された磁場ベクトルと磁化ベクトルとを式(20)に代入し、磁性体に対応する粒子の位置における磁束密度ベクトルを計算し記憶装置5に記憶する。
【0106】
(コイルに対応する粒子)
コイル45に対応する粒子の位置での磁場ベクトルは式(21)、式(22)で記載される。
【0107】
【数12】

【0108】
式(21)の右辺第一項は、磁性体に対応する粒子内の仮想粒子がコイル45に対応する粒子の位置に作る磁場ベクトルを記述する項であり、式(22)で表される。
式(21)の右辺第二項は、コイル45に対応する粒子がコイル45に対応する粒子の位置に作る磁場ベクトルであり式(1)〜(12)で表される。
【0109】
機構・弾性演算部68は、コイル45に対応する粒子の位置ベクトルを記憶装置5より読み込む。
なお、後述のステップS120においてコイル45に対応する粒子の位置ベクトルが更新されている場合は、機構・弾性演算部68はその値を読み込む。
【0110】
機構・弾性演算部68は計算され記憶装置5に記憶されている磁性体に対応する粒子内の仮想粒子(ボロノイ多面体要素)の境界面数、およびq’点の位置ベクトルと表面積を読み込む。
また、機構・弾性演算部68はこのステップで計算され記憶装置5に記憶されている、磁性体に対応する粒子内の仮想粒子の磁化ベクトルを読み込む。
さらに、機構・弾性演算部68は、コイル45の寸法および電流密度ベクトルを読み込む。
【0111】
その後、機構・弾性演算部68は式(21)、式(22)および式(1)〜(12)に従い、コイル45に対応する粒子の位置での磁場ベクトルを計算し、記憶装置5に記憶する。
【0112】
機構・弾性演算部68は、コイル45に対応する粒子の位置での磁束密度ベクトル(太字の)B’を、すでに計算されているコイル45に対応する粒子の位置での磁場ベクトルに真空の透磁率を掛けて計算し記憶装置5に記憶する。
【0113】
このように、制御部3は、仮想粒子の運動方程式を解くことにより磁性体の磁化現象を解析する。そのため、有限要素法のように空間全域をメッシュ分割する必要がなく、磁性体を有する系に対して十分な精度で効率よく磁場解析を行うことができる。
また、運動方程式を解くため、行列を扱わず、計算に必要なメモリ量は粒子数に比例する。
【0114】
(ステップS118)
機構・弾性演算部68はSPMモータ31に対応する粒子それぞれに働く力を計算し記憶装置5に記憶する。
【0115】
(磁性体に対応する粒子)
正準変数を太字のr’、太字の傍点付きr’とし、式(13)のラグランジアンをラグランジュの運動方程式に代入すると、粒子の運動方程式は式(23)のように記載できる。
【0116】
【数13】

【0117】
式(23)の右辺第1項は、相互作用演算部64によって演算された相互作用ポテンシャルエネルギφ’から導かれる粒子に働く力である。特に相互作用ポテンシャルエネルギφ’が弾性を考慮して決定されている場合、この力は弾性力に相当する。式(23)の右辺の残りの項は、磁場演算部66によって演算された磁場から導かれる粒子に働く磁気力である。式(23)は、磁性体に対応する粒子には弾性力と磁気力とを足し合わせた力が働くことを示す。機構・弾性演算部68は式(23)右辺を計算し、磁性体に対応する粒子に働く力として記憶装置5に記憶する。
【0118】
(コイルに対応する粒子)
コイル45に対応する粒子のうち、i番目の粒子の位置ベクトルを太字のr’、その位置での電流の単位ベクトルを太字のt’、磁束密度ベクトルを太字のB’、電流の流れる方向のコイルの長さをL’とすると、コイル45に対応する粒子の内、i番目の粒子に働く力ベクトルは以下の式(24)で記載される。機構・弾性演算部68は式(24)を計算し、記憶装置5にコイルに対応する粒子に働く力として記憶する。
【0119】
【数14】

【0120】
(ステップS120)
機構・弾性演算部68は、粒子の運動方程式を数値的に解くことにより、各粒子の位置ベクトル、速度ベクトルを更新する。
ステップS212は、ステップS116、ステップS118、ステップS120、を含む。
【0121】
本実施の形態に係る解析装置1によると、ボロノイ多面体形状の仮想粒子を用いて仮想粒子の運動方程式を計算するので、例えば立方体形状の仮想粒子を使用する場合と比べて磁場の直線性を緩和してより精度の高い磁場の解析結果を提供できる。すなわち、立方体形状の粒子で領域を分割してその重心に1つの仮想粒子を設定する場合、仮想粒子の位置は直線的に等間隔で並ぶので、解析結果にその直線性が強く表れ得る。それに対して本実施の形態に係る解析装置1ではボロノイ多面体形状の仮想粒子を使用するので、そのような直線性の影響が緩和されるのである。
【0122】
また、例えば立方体要素を使用する場合、上記直線性を緩和して必要な解析精度を得るために、粒子内に仮想粒子を粒子(要素)境界面数だけ設定することも考えられる。しかしながらそうすると計算量が増大する。本実施の形態では、そのような計算量の増大を伴わずに必要な解析精度を達成することができる。
【0123】
例えば四面体(三角形)形状の粒子(要素)を使用する場合、領域の端では潰れた形の扁平な要素が発生しうる。そのような扁平な粒子(要素)形状については計算の精度が低下しうる。それに対して本実施の形態に係る解析装置1では、ボロノイ分割が使用される。各粒子(ボロノイ多面体要素)は領域の端でも比較的丸みを帯びた形状を有する。したがって、領域の端に起因する計算精度の低下を抑止できる。
【0124】
また、本実施の形態に係る解析装置1によると、特に1つの粒子(ボロノイ多面体要素)内の仮想粒子が1つだけだとしても十分に精度の高い磁場解析が可能である。仮想粒子を1つとすることで、各粒子において磁化ベクトルの発散はゼロという束縛条件は自動的に満たされ、SHAKE法等による束縛を課す必要がないのでそれに伴う計算を省略して計算量を低減できる。また、粒子(要素)内の仮想粒子を粒子(要素)境界面の面数だけ設定する場合は、仮想粒子の挙動を計算する際、1ステップあたりの計算コストが(面数×粒子数)であるところ、粒子形状をボロノイ多面体とし粒子(要素)内の仮想粒子を1つとして計算する本実施の形態の場合はその計算コストは(面数×粒子数)となり、大きく低減される。
【0125】
以下に本実施の形態に係る解析装置1で使用されている領域分割および磁場解析の方法を使用した解析の例を説明する。
図10は、解析対象の2次元的なモデル80を示す模式的な上面図である。モデル80では、矩形シート状の強磁性体82に矩形シート状の永久磁石84を隣接させている。永久磁石84から生じる磁場によりどのように強磁性体82が磁化されるかを解析する。
【0126】
図11は、モデル80を正方形形状の粒子(要素)で分割し、各粒子(要素)内の仮想粒子を4個として磁場解析を行った結果を示す図である。ここでは特願2010−128664で提案されている手法と同様の手法が使用された。図11(a)は、領域分割の様子を示す説明図である。モデル80の強磁性体82および永久磁石84は共に正方形形状の粒子(要素)で分割されている。図11(b)は、磁場解析の結果得られる磁場ベクトルの分布を示す説明図である。この例では、永久磁石84から放射状に磁束が流れる様子が精度良く表されてはいるものの、ひとつの要素に4つの仮想粒子を配置しているので、計算量は多くなる。
【0127】
図12は、モデル80を正方形形状の粒子(要素)で分割し、各粒子(要素)内の仮想粒子を1個とし、粒子位置と仮想粒子位置を同一として磁場解析を行った結果を示す図である。図12(a)は、領域分割の様子を示す説明図である。モデル80の強磁性体82および永久磁石84は共に正方形形状の粒子(要素)で分割されている。図12(b)は、磁場解析の結果得られる磁場ベクトルの分布を示す説明図である。この例では、磁束の直線性が強く現れており、精度が低くなっている。
【0128】
図13は、モデル80をボロノイ多角形形状の粒子(要素)で不規則に分割し、各粒子(要素)内の仮想粒子を1つとし、仮想粒子位置をボロノイ多角形の母点に配置して磁場解析を行った結果を示す図である。図13(a)は、領域分割の様子を示す説明図である。モデル80の強磁性体82および永久磁石84は共にボロノイ多角形形状の粒子(要素)で不規則に分割されている。図13(b)は、磁場解析の結果得られる磁場ベクトルの分布を示す説明図である。この例では、磁束の直線性が図12の場合と比較して緩和されており、図11の場合と同等の磁場分布が得られている。
【0129】
また、本実施の形態に係る解析装置1において、粒子モデル生成部60または繰り込み部62もしくはその両方は、繰り込まれた粒子系S’の粒子が仮想空間内に不規則に分布するように粒子系S’を生成してもよい。この場合、領域分割部63は磁性体領域を不規則に分割する。特に領域分割部63はデローニ分割の段階でディジェネレシーが比較的発生しないように分割する。領域が不規則に分割されると規則的に分割される場合と比較して磁束の直線性がより現れにくくなる。
【0130】
以上、実施の形態に係る解析装置1の構成と動作について説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0131】
上記では、磁性体に対応する粒子のラグランジアンから導出される仮想粒子の運動方程式を解くことで磁性体の磁化現象を計算した場合について説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、方程式であればラグランジアンから導出されたもの以外のものであってもよい。
【0132】
また、上記では本実施の形態をSPMモータ31等の解析に使用したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、例えばリニアモータ等のSPMモータ31以外のモータ、あるいは磁性体で空間を囲む磁気シールドにおいて、磁性体でシールドされた空間内の解析に用いても良い。
【0133】
以下、粒子系Sのパラメータと繰り込まれた粒子系S’のパラメータとの間の関係について、本発明者が独自に行った考察を説明する。
第1の繰り込み因子をα、第2の繰り込み因子をγ、第3の繰り込み因子をδ、空間の次元数をdとした場合、特許文献1によると、
【数15】

となる。
【0134】
(磁場の繰り込み)
N個の原子上にスピン(核磁気モーメント)μ(i=1、2、…、N)があるバルクを考える。バルク内部の核スピンμが遠方に作る磁気誘導は、
【数16】

と表される。これを粗視化すると、
【数17】

となる。
【0135】
以下に示されるように磁気モーメントを繰り込む。
【数18】

繰り込まれた磁束密度は、
【数19】

と表される。
【0136】
磁束密度と同様に磁場を繰り込むと、
【数20】

であり、繰り込まれた磁化は、
【数21】

である。粗視化された磁気モーメントm=Σμに働く力は、
【数22】

であり、以下に示されるようにスケールされる。
【数23】

【0137】
粗視化された電荷の流れjが作る磁束密度は、
【数24】

である。粗視化された磁気モーメントmと電流密度jの作る磁束密度との相互作用は、
【数25】

であるから、電流密度は以下に示されるようにスケールされる。
【数26】

【0138】
以上を纏めると、
【数27】

となる。
【符号の説明】
【0139】
1 解析装置、 3 制御部、 5 記憶装置、 6 メディア入出力部、 7 入力部、 9 表示部、 11 プリンタポート、 12 プリンタ、 13 バス、 60 粒子モデル生成部、 62 繰り込み部、 63 領域分割部、 64 相互作用演算部、 66 磁場演算部、 68 機構・弾性演算部、 70 制御パラメータ更新部、 72 終了判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する解析装置であって、
解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割する領域分割部と、
前記領域分割部による分割の結果得られるボロノイ要素内の仮想粒子が満たすべき関係を運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式、を数値的に解くことによりボロノイ要素の磁場状態を演算する演算部と、を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
1つのボロノイ要素は1つの仮想粒子を持つことを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記領域分割部は、解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域を不規則に分割することを特徴とする請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する解析方法であって、
解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割するステップと、
分割の結果得られるボロノイ要素内の仮想粒子が満たすべき関係を運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式、を数値的に解くことによりボロノイ要素の磁場状態を演算するステップと、を含むことを特徴とする解析方法。
【請求項5】
解析対象の物体を仮想空間内の領域として記述して解析する機能をコンピュータに実現させるコンピュータプログラムであって、
解析対象の物体に対応する仮想空間内の領域をボロノイ分割する機能と、
分割の結果得られるボロノイ要素内の仮想粒子が満たすべき関係を運動方程式の形式で記述した仮想粒子の運動方程式、を数値的に解くことによりボロノイ要素の磁場状態を演算する機能と、を前記コンピュータに実現させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−128490(P2012−128490A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276960(P2010−276960)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】