説明

触媒の製造装置

【課題】表面に金が修飾された白金粒子を少なくとも含む触媒を、外部電源を用いることなく、容易に量産できる触媒の製造装置を提供する。
【解決手段】銅イオンを含む酸水溶液を、白金粒子を担持した導電性担体で懸濁させた懸濁液を収容する懸濁液収容槽10と、懸濁液収容槽10からの懸濁液Aが流下するように懸濁液収容槽に連通すると共に、銅材を収容することにより、懸濁液Aに含まれる白金粒子の表面に銅層を析出させる銅析出槽20と、銅析出槽20からの懸濁液Bが流下するように銅析出槽20に連通すると共に、内部に金イオンを含む金水溶液を収容しており、懸濁液と金水溶液とを混合することにより、懸濁液Aに含まれる白金粒子の銅層の銅を、金水溶液Cの金に置換する金置換槽40とを、少なくとも備え、懸濁液収容槽10、銅析出槽20、および金置換槽40内を不活性ガスで置換可能なように、懸濁液収容槽10、銅析出槽20および金置換槽40に不活性ガス供給源3が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金粒子及び白金粒子を担持した導電性担体からなる触媒の製造装置に係り、白金粒子の表面に金を好適に修飾することができる触媒の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、めっき、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの表面処理は、一般的に、粒子などの基材表面を異種材料で被覆することにより、基材の性質を維持したまま、基材表面の性質のみを改質するために行われることがある。一方、この種の表面処理は、被覆材となる高価な金属材料の使用量の低減、利用率の向上、あるいは、特性劣化の抑制のために利用される。
【0003】
例えば、燃料電池用電極には、粒状カーボンなどの導電性担体に白金粒子を担持させたものを触媒として用い、酸素センサなどには、白金粒子そのものが触媒として用いられる。このような白金粒子は、白金または白金合金からなる、数ナノメートルの粒子である。このような触媒は、白金粒子の表面およびその近傍が触媒として機能するため、高価な白金または白金合金の利用率の向上(使用量の低減)が望まれている。
【0004】
さらに、燃料電池使用環境下において、このような触媒を用いた場合には、白金粒子が酸化、溶出し、再析出により粗大化することがあり、電池性能が低下することが知られている。そのため、白金粒子の表面の一部に薄い金層を形成し(白金粒子の表面に金を修飾し)、白金粒子の酸化、溶出を抑制する技術が提案されている。
【0005】
例えば、(1)白金粒子を電極(作用極)上に固定し、この電極を窒素雰囲気中で、硫酸銅水溶液に浸漬し、電極に適切な還元電位を印加することにより、銅の単原子層を白金粒子の表面に析出させて銅被覆白金粒子を製造し、(2)銅被覆白金粒子を含む電極を精製水で濯ぎ、溶液内に存在する銅イオンを除去し、(3)銅被覆白金粒子を含む電極を、HAuCl水溶液に浸漬することにより、単原子層の銅を金に置換する触媒の製造技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
このように、特許文献1に記載の製造装置によれば、アンダーポテンシャルディポジション(UPD)法を用いて、白金粒子表面を銅単原子層で被覆し、この銅単原子層を金でガルバニック置換することにより、白金粒子の表面に金が修飾された触媒を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−510705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、特許文献1に示すように、白金粒子の表面に金が修飾された触媒を得る前段階として、UPD法を用いた銅単原子層(銅層)の析出は、通常、被覆すべき銅イオンを含む溶液中に、粒子が固定された作用極(WE)、さらには、この作用極に対する対極(CE)及び参照極(RE)を浸漬し、外部電源を用いて作用極を所定の電位に保持することにより行われる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に示すような装置では外部電源を用いるため装置が大型化し、この外部電源で、参照極に対する作用極の電位を調整せねばならず、その作業は煩雑である。さらには、作用極の表面に白金粒子を塗布し、これを固定しなければならず、触媒の量産には適さない。このような結果、金が表面に修飾された白金粒子を少なくとも含む触媒を容易に量産することができない。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、表面に金が修飾された白金粒子を少なくとも含む触媒を、外部電源を用いることなく、容易に量産できる触媒の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。具体的には、銅イオンを含む平衡状態の酸水溶液中に銅材(電極)の少なくとも一部を浸漬すると、銅材の電位は、その場所によらず銅の標準電極電位(約0.35V)に等しくなる。この銅材と白金粒子(または白金粒子が担持された導電性担体)とを接触させると、この白金粒子の電位は、銅材と同電位となる。この状態で白金粒子と酸水溶液とを接触させると、ほぼ瞬間的にUPDが起こり、白金粒子の表面に1原子層分の銅層が被覆される。このように、酸水溶液と接触している銅材そのものが、外部電源無しに、0.35Vの電源として機能するとの新たな知見を得た。
【0012】
本発明は、発明者らの新たな知見に基づくものであり、本発明に係る触媒の製造装置は、銅イオンを含む酸水溶液を、白金粒子、または、白金粒子を担持した導電性担体で懸濁した懸濁液を収容する懸濁液収容槽と、該懸濁液収容槽からの前記懸濁液が流下するように前記懸濁液収容槽に連通すると共に、銅材が内部に配置されており、前記懸濁液に含まれる白金粒子の表面に銅層を析出させる銅析出槽と、該銅析出槽からの前記懸濁液が流下するように前記銅析出槽に連通すると共に、内部に金イオンを含む金水溶液を収容しており、前記懸濁液と前記金水溶液を混合することにより、前記懸濁液に含まれる白金粒子の銅層の銅を、前記金水溶液の金に置換する金置換槽とを、少なくとも備え、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽、および前記金置換槽内を不活性ガスで置換可能なように、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽および前記金置換槽の少なくとも1つの槽に不活性ガス供給源が接続されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、銅イオンを含む酸水溶液に、白金粒子または導電性担体が懸濁した(分散した)懸濁液を、懸濁液収容槽から銅材が収容された銅析出槽に流下させることにより、懸濁液に含まれる白金粒子または導電性担体が、銅イオンを含む酸水溶液中において銅材に接触する。これにより、外部電源なしで、表面に1原子層分の銅層(銅単原子層)が被覆された白金粒子またはこれを担持した導電性担体を得ることができる。
【0014】
すなわち、外部電源なしで、銅材(銅電極)の表面では、酸化反応としてCuの溶解反応(Cu→Cu2++2e)が起こり、白金粒子表面では、Cuの析出反応(Pt+Cu2++2e→Cu−Pt)が起こる。そして、銅材の表面では、酸素ガスの発生は生じないので、銅単原子層(銅層)は、白金粒子と剥離し難い。
【0015】
さらに、外部電源を用いた従来のUPDにおいて、作用電極の表面に白金粒子または導電性担体を固定していたところ、このような固定を行わずに、酸水溶液中の白金粒子が銅材に接触するだけで、白金粒子の表面に銅層を被覆することができるので、銅層が被覆された白金粒子または、これを担持した導電性担体を容易に量産することができる。
【0016】
次に、銅層が被覆された白金粒子またはこれを担持した導電性担体を含む懸濁液を、金置換槽に流下させて、金イオンを含む金水溶液に混合することにより、前記懸濁液に含まれる白金粒子の銅層の銅を、ガルバニック置換法により、前記金水溶液の金に置換することができる。
【0017】
ここで、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽および前記金置換槽が連通しており、さらには、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽および前記金置換槽の少なくとも1つの槽に不活性ガス供給源が接続されているので、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽、および前記金置換槽内を不活性ガスに置換することができる。上述する一連の工程を行う前に、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽、および前記金置換槽内に不活性ガス供給源からの不活性ガスを供給し、これにより、各槽を不活性ガスに置換することで、白金粒子の表面の銅層の銅が酸化されるのを防止または抑制することができる。これにより、白金粒子の表面の銅層は、酸化銅を含まない1原子分の銅層が形成され、この銅層が置換された金は、粒子として凝集され難い。
【0018】
ここで、本発明でいう、白金粒子とは、白金原子を主材として含有した粒子であり、白金またはその合金からなる粒子である。また、銅材とは、銅電極として作用する(銅がイオン化する)材料からなる部材であり、銅またはその合金からなる部材である。また、本発明でいう触媒とは、白金粒子のみからなる触媒、または白金粒子が担持された導電性担体からなる触媒をいい、白金粒子を少なくとも含むものをいう。
【0019】
上述した金置換槽内に金イオンを含む水溶液を収容してもよいが、より好ましい態様としては、前記金水溶液が収容された金水溶液収容槽をさらに備え、前記金置換槽は、前記金水溶液収容槽からの金水溶液が流下するように前記金水溶液収容槽に連通している。
【0020】
この態様によれば、金水溶液収容槽から金置換槽への金水溶液の量を調整することにより、金置換槽内の金イオンの濃度を調整することができる。これにより、より好適に銅単原子層の銅を金に置換することができる。
【0021】
また、銅析出槽に配置されている銅材は、例えば板、棒、細線、メッシュ等であってもよいが、より好ましい態様としては、前記銅材は、複数の粒状片またはメッシュ材である。この態様によれば、懸濁液中の白金粒子の銅材への接触頻度を高めることができ、より短時間に銅層を白金粒子の表面に被覆することができる。
【0022】
さらに、上述した銅材を銅析出槽内に直接収容してもよく、この場合には銅材に電動機等を接続することにより、銅材で懸濁液を攪拌してもよく、銅析出槽内に、さらに銅イオンを含む酸水溶液を導入してもよい。
【0023】
しかしながら、より好ましい態様としては、前記銅析出槽には、前記懸濁液が流下する導管を備えており、該導管の内部には、前記複数の粒状片が充填されている。この態様によれば、導管内に銅材として粒状片が充填されているので、この導管内において、より効率的に白金粒子を銅の粒状片に接触させ、銅層を白金粒子の表面に被覆することができる。
【0024】
また上述した導管のより好ましい態様としては、前記導管は、下方に向ってピッチを有するように螺旋状に成形された導管である。この態様によれば、粒状片が充填された螺旋状の経路を懸濁液が通過するので、より僅かなスペースで、懸濁液中の白金粒子(または導電性担体)の銅材への接触頻度を高めることができる。
【0025】
さらに、上述した導管のより好ましい態様としては、前記導管は、銅または銅合金からなる。この態様によれば、銅材ばかりでなく、導管に懸濁液中の白金粒子(または導電性担体)を接触させることができ、より効率的に銅層を白金粒子の表面に被覆することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、表面に金が修飾された白金粒子を少なくとも含む触媒を、外部電源を用いることなく、容易に量産できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る触媒の製造装置の模式的概略図。
【図2】図1に示す製造装置により製造される触媒の状態を説明するための模式的断面図であり、(a)は、白金粒子を担持した導電性担体の断面図であり、(b)は、(a)の白金粒子に銅層(銅単原子層)が被覆された状態を示した拡大断面図であり、(c)は、(a)の白金粒子に金が修飾された状態を示した拡大断面図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る触媒の製造装置の銅析出槽の模試的概略図。
【図4】実施例1、および比較例1の銅析出反応時間を示した図。
【図5】実施例1、実施例2、および比較例1の金結晶子径を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る2つの本実施形態に係る触媒の製造装置を説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る触媒の製造装置の模式的概略図であり、図2は、図1に示す製造装置により製造される触媒の状態を説明するための模式的断面図であり、(a)は、白金粒子を担持した導電性担体の断面図であり、(b)は、(a)の白金粒子に銅層(銅単原子層)が被覆された状態を示した拡大断面図であり、(c)は、(a)の白金粒子に金が修飾された状態を示した拡大断面図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る触媒製造装置1は、懸濁液収容槽10、銅析出槽20、金水溶液収容槽30、および金置換槽40を備えている。
【0030】
懸濁液収容槽10は、銅イオンを含む酸水溶液を、白金粒子、または白金粒子を担持した導電性担体で懸濁させた懸濁液Aを収容するための槽である。懸濁液収容槽10は、懸濁液Aを収容する蓋付きの容体12と、容体12の上方に、懸濁液Aの供給、および例えば窒素などの不活性ガスの供給を選択的に行うための供給管13と、不活性ガスを排出するための排出管14と、懸濁液Aを攪拌するための攪拌器15と、を少なくとも備えている。
【0031】
供給管13は、アルゴンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガス供給源3と、懸濁液Aの懸濁液供給源4に接続されており、これらのいずれかを選択的に懸濁液収容槽10に供給するための切換え弁5が接続されている。さらに、切換え弁5の上流または下流には、懸濁液Aまたは不活性ガスの供給量を調整するための流量調整弁(図示せず)が配置されている。さらに、排出管14には開閉弁(図示せず)が接続されている。
【0032】
このように構成することにより、まず供給管13及び排出管14の経路を開き、懸濁液収容槽10内のガス(大気)を不活性ガスに置換することができる。なお、ここでは、懸濁液収容槽10のみを置換しているが、排出管14の開閉弁を閉じ、開閉弁(図示せず)または流量調整弁(図示せず)が接続された後述の連通管23、43、44の経路を開き、全ての槽内のガスを不活性ガスに置換する。
【0033】
そして、排出管14の開閉弁を閉じ、供給管13に接続された切換え弁5を切替えることにより、不活性ガスが充填された懸濁液収容槽10内に、懸濁液Aを供給することができる。そして、懸濁液Aは、攪拌器15により攪拌することにより、酸溶液中に、白金または白金粒子を担持した導電性担体を均一に分散することができる。さらに、図1では、供給管13の端部は、容体12の上部に配置されていたが、この端部を容体12の底部に配置してもよい。これにより、収容された懸濁液Aを不活性ガスでバブリングし、懸濁液A内に含有する酸素を除去することができる。
【0034】
ここで、懸濁液Aを構成する銅イオンを含む酸水溶液としては、後述する銅析出槽20において、白金粒子にUPDが可能な酸水溶液であり、酸水溶液には、白金粒子の白金または白金合金を被毒しない限りにおいては、銅イオン、酸および水以外の成分がさらに含まれていてもよい。他の成分として、例えば可溶性の銅塩に由来する陰イオン、還元性の弱い有機溶媒(例えば、高級アルコール類)などがさらに含まれていてもよい。また、酸水溶液は、溶存酸素を取り除くため、反応中または反応前に充分に不活性ガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガス)でバブリングすることが好ましい。
【0035】
銅イオンを含む酸水溶液は、可溶性の銅塩を酸水溶液に溶解させることにより得られる。可溶性の銅塩として、例えば、硫酸銅(CuSO)、塩化銅(CuCl)、酢酸銅(Cu(CHCOO))、硝酸銅(Cu(NO)などを挙げることができる。
【0036】
ここで、酸水溶液中の銅イオンの濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。本実施形態では、UPDにより白金粒子の表面に銅が析出した分だけ、後述する銅材から銅が溶出する。そのため、銅イオン濃度がμMレベルでも反応は進む。しかしながら、工業的には反応を速やかに進めることが好ましく、その場合には、銅イオン濃度は、1mM以上であることが好ましい。一方、銅イオン濃度が過剰になると、溶質が析出し易くなる。従って、銅イオン濃度は、飽和濃度以下であることが好ましく、さらに好ましくは、飽和濃度の90%以下である。
【0037】
酸水溶液中に含まれる酸は、Cuを溶解可能なものであれば、特に限定されるものではなく、このような酸として、例えば、硝酸、硫酸、過塩素酸、塩酸、またはホウ酸などを挙げることができ、Cu塩と酸との組合せは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0038】
さらに、酸水溶液のpHが大きくなり過ぎると、一般的に、後述する銅材を所定の電位にするのが困難となる。また、水溶液中のpHが大きくなるほど、反応速度が低下する。従って、このような観点から、水溶液のpHは、4以下であることが好ましい。一方、pHが小さくなり過ぎると、導電性担体(例えばカーボン)の表面を酸化させる場合がある。従って、水溶液のpHは、1以上が好ましい。
【0039】
触媒を構成する白金粒子、または触媒を構成する導電性担体に担持された白金粒子は、白金原子を主材として含有した白金または白金合金からなる粒子であり、白金合金として、例えば、PtFe合金、PtMo合金、PtCu合金、PtRu合金、PtSn合金、PtW合金、PtCo合金、PtNi合金、PtIr合金、PtAu合金などを挙げることができ、触媒として作用することができる白金合金であれば特に限定されるものではない。また、白金粒子の大きさは特に限定されるものではなく、例えば燃料電池用の電極触媒に用いる場合には、2〜10nmが好ましい。
【0040】
また、白金粒子を担持する導電性担体として、カーボン、チタン酸化物(TiO,Tiなど)、モリブデン酸化物、またはタンタル酸化物等を挙げることができ、その形態は、粉末状、板状、棒状、または網状のいずれの形態であってもよい。ここで、図2(a)は、白金粒子52を担持した導電性担体51を、触媒として示した図を例示しているが、触媒が白金粒子からなる場合には、白金粒子のみが酸水溶液に分散していてもよい。
【0041】
銅析出槽20は、懸濁液収容槽10からの懸濁液Aが流下するように、連通管23を介して懸濁液収容槽10に連通している。さらに、銅析出槽20の内部には、銅材26が内部に配置されている。これにより、懸濁液Aに含まれる白金粒子の表面に銅層(銅単原子層)を析出される。
【0042】
具体的には、銅析出槽20は、下方が連通管44に接続された蓋付きの容体22を備えている。容体22の上方には、懸濁液収容槽10に連通する連通管23と、上述した銅イオンを含む酸水溶液と同等の水溶液を補充的に供給する供給管24と、懸濁液Aを攪拌するための攪拌器25を備えている。さらに、容体の内部には銅材26が配置されている。ここでは、供給管24は、酸水溶液の供給源に接続されているが、例えば、さらに、不活性ガス供給源(図示せず)に切換え可能に接続されていてもよい。
【0043】
ここで、銅材(銅電極)26は、少なくともその表面が銅または銅合金からなる部材であり(必ずしも、全体が銅または銅合金からならずともよい)、銅材−白金粒子−酸水溶液間を、直接的または間接的に、イオン的に導通することが可能なものである。
【0044】
銅材26は、高純度の銅が好ましく、白金粒子の電位を銅の標準電極電位(約0.35V)にすることが可能な限りにおいて、不可避的不純物を含む低純度銅や合金元素を含む銅合金であってもよい。
【0045】
例えば、酸化還元電位が銅よりも低い金属(例えば、Zn、Snなど)を含む銅合金は、本実施形態では、望ましいものではない。これは、銅よりも卑なる金属が優先的に溶出してしまう(または、溶出時に電極が銅の標準電極電位よりも低い電位となる)ためである。従って、銅よりも貴なる金属(例えば、Pt,Ag,Au、Pd,Irなど)を含む銅合金は、銅材26に好適に用いることができる。
【0046】
銅材26に銅合金を用いる場合において、銅含有量が少なくなるほど、銅の溶出速度が遅くなる。また、銅の溶出が進むに従って、銅材表面の銅の比率が下がり、銅と白金粒子の直接的または間接的な接触が起き難くなる。従って、銅合金を用いる場合、銅材の銅含有量が多ければ多いほど好ましい。
【0047】
ここで、銅材26としては、銅または銅合金からなる粒状片、板、棒、細線、網(メッシュ)、塊などを挙げることができ、容体22そのものが銅または銅合金からなってもよい。特に、銅材が、複数の粒状片またはメッシュ材であり、これらが容体22内に充填されていれば、白金粒が銅材に接触する確率が上昇し、より効率的に銅層を析出することができる。
【0048】
このように構成することにより、銅析出槽20において、懸濁液収容槽10から流下した懸濁液Aと、銅析出槽20内に収容された銅材26とを接触させ、攪拌器25で懸濁液Aを攪拌する。これにより、銅材26が酸水溶液に接触し、銅材26の電位を銅の標準電極電位(約0.35V)にすることができる。ここでは、懸濁液Aの酸水溶液を銅材26に接触したが、たとえば、供給管24を介して、銅析出槽20に予め懸濁液を構成する酸水溶液と同じ溶液を供給し、銅材26を酸水溶液と接触させ、これにより銅材26の電位を銅の標準電極電位にしてもよい。
【0049】
そして、懸濁液Aの白金粒子(または導電性担体)と、銅材26との接触により、白金粒子を銅材と同電位(銅の標準電極電位)にすることができる。このような状態では、酸水溶液と銅材間、および、白金粒子(または導電性担体)と銅材間が接触している状態において、白金粒子は酸水溶液に含まれている(接触している)ので、図2(b)に示すように、ほぼ瞬間的に、白金粒子52の表面に銅単原子層(銅層)53が析出する。このようにして、銅層が被覆された白金粒子、またはこれを担持した導電性担体が酸水溶液に分散した懸濁液Bを得ることができる。
【0050】
ここで、銅層を析出させる際に、雰囲気中に酸素ガスが含まれていると、銅の酸化ばかりでなく、白金粒子と酸素とが接触し、白金粒子の電位が高くなるおそれがある。この結果、白金粒子の電位が銅の標準電極電位よりも高くなることにより、コア粒子の表面に析出した銅層が剥離するおそれがある。しかしながら、本実施形態では、上述したように、銅析出槽20内の雰囲気は、不活性ガス雰囲気となっているので、白金粒子の表面に、密着性の高い銅単原子層が酸化されることなく析出することになる。その後、銅材から白金粒子が離れても、銅単原子層が被覆された白金粒子の状態は崩れることはない。この結果、後述する銅から置換された金の結晶子の大きさを、これまでよりも小さくすることができる。
【0051】
以上のことから、銅析出槽20内において、銅材26を酸水溶液に接触させると、銅イオンが溶出する。この銅イオンが存在する酸水溶液中では、銅材26の表面で、銅の溶解と銅イオンの析出が起こる。これが平衡状態に達すると、このときの銅材26の表面電位は、約0.35V(SHE基準)となる。このような状態の銅材26に白金粒子(導電性担体を介してもよい)を接触させると、白金粒子の電位は、0.35Vとなる(導電性担体を介して接触した場合には、導電性担体全体がその電位となる)。このような電位(平衡電位)では、白金粒子の表面に銅層からなる被膜が析出する。
【0052】
このように、銅析出槽20内においては、酸水溶液と接触している銅材が0.35Vの電源として機能するため、単原子層の銅を析出させるために外部電源や参照電極を準備する必要がない。また、白金粒子を作用極に塗布しこれを固定する必要がないので、量産性にも適している。さらに、銅材は対極としても作用するが、銅材の表面では、酸化反応として銅の溶解反応が起こるだけであるので、酸素ガスの発生を伴わず、銅層の剥離も抑制できる。
【0053】
金水溶液収容槽30は、金イオンを含む金水溶液を収容するための槽である。金水溶液収容槽30は、金水溶液Cを収容する蓋付の容体32と、容体32の上方に、金水溶液Cの供給または例えば窒素などの不活性ガスおよび金水溶液Cを選択的に供給するための供給管33と、不活性ガスを排出するための排出管34と、懸濁液Aを攪拌するための攪拌器35と、を少なくとも備えている。供給管33は、不活性ガス供給源7と、金水溶液供給源8に接続されており、詳細な装置構成は、懸濁液収容槽10と同様である。
【0054】
このように構成することにより、金水溶液収容槽30内のガス(大気)を不活性ガスに置換し、その後、不活性ガスが充填された金水溶液収容槽30内に、金水溶液を供給することができる。そして、金水溶液は、攪拌器35により攪拌することにより、液中に、金イオンを均一に分散することができる。金水溶液は、HAuClまたは、塩化金のアルカリ塩を溶解した水溶液であり、液中では、AuClの状態で金イオンが存在する。
【0055】
金置換槽40は、懸濁液Bに含まれる白金粒子の銅層の銅を、金水溶液の金に置換するための槽であり、容体42を備えており、容体42の上部には、連通管43,44が接続されており、その中央には攪拌器45が配置されている。このようにして、金置換槽40は、銅析出槽20からの懸濁液Bが流下するように、連通管44を介して前記銅析出槽20に連通すると共に、金水溶液収容槽30からの金水溶液が流下するように金水溶液収容槽30に連通する。
【0056】
この結果、懸濁液Bと、金イオンを含む金水溶液Cとを金置換槽40に流下させ、懸濁液Bと金イオンを含む金水溶液Cとを攪拌器45で混合することにより、懸濁液Bに含まれる白金粒子の銅層の銅を、金水溶液の金に置換することができる。これにより、図2(c)に示すように、白金粒子52の表面に、金粒子54が修飾される。
【0057】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係る触媒の製造装置の銅析出槽の模試的概略図である。触媒の製造装置の銅析出槽を除く、その他の装置構成は、第1実施形態と同じであるので、その詳細は省略する。
【0058】
図3に示すように銅析出槽20’には、第一実施形態と同様に連通管23が接続されており、連通管23は、懸濁液Aが流下する導管27に接続されている。導管27は、下方に向ってピッチを有するように螺旋状に成形された導管であり、導管27の内部には、複数の粒状銅片28,28…が充填されている。導管27は、銅または銅合金からなる。
【0059】
本実施形態によれば、導管27内に銅材として粒状銅片28,28…が充填されているので、この導管内において、より効率的に白金粒子を粒状片に接触させ、銅層を白金粒子の表面に析出することができる。さらに、粒状片が充填された螺旋状の経路を懸濁液が通過するので、より僅かなスペースで、懸濁液中の白金粒子(または導電性担体)の銅材への接触頻度を高めることができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
図1に示す装置を用いて、銅析出槽に銅からなるロッド(銅材)を投入し、窒素供給源からの窒素ガスを供給することにより、懸濁液収容槽、銅析出槽、金水溶液収容槽、および金置換槽の槽内を、連通管を介して、不活性ガス(窒素ガス)で置換した。
【0061】
ついで、白金粒子を30質量%担持した白金担持カーボン(30mass%Pt/C)10gで、酸水溶液として硫酸酸銅水溶液(50mM CuSO/0.1M HSO)を懸濁した懸濁液を作製し、懸濁液収容槽に投入し、2mMの塩化金酸溶液2.5Lを金水溶液収容槽に投入し、懸濁液収容槽と金水溶液収容槽にさらに不活性ガスを供給し、槽内を不活性ガスに置換した。
【0062】
次に、不活性ガスで置換した懸濁液収容槽内の懸濁液を銅析出槽に流下し、攪拌器で攪拌することにより、白金表面に銅単原子層を析出させた。銅析出槽からの銅単原子層が析出した白金担持カーボンを含む懸濁液と、金水溶液収容槽の金水溶液を、金置換槽に流下させ、攪拌器で攪拌しながら、白金粒子の銅層の銅を、前記金水溶液の金に置換した。
【0063】
その後、金を修飾した白金粒子を担持したカーボンを含む懸濁液をろ過して、これを乾燥し、金を修飾された白金粒子を担持したカーボンを得た。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同じようにして、金を修飾された白金粒子を担持したカーボンを製作した。実施例1と相違する点は、図3に示す銅析出槽を用いた点である。具体的には、内径12.7mm、長さ900mm、ピッチ40mmの螺旋状の銅からなるパイプ(導管)に、直径3mmの銅からなるビーズ(銅材)を充填し、このパイプの中に、懸濁液収容槽からの懸濁液を流した点が相違する。
【0065】
(参考例1)
実施例1と同じようにして、金を修飾された白金粒子を担持したカーボンを製作した。実施例1と相違する点は、不活性ガスで各槽内を置換しなかった点である。
【0066】
<銅析出反応時間>
実施例1及び実施例2おいて、銅析出槽に大気混入がしないようにORP計を投入した。ORP(オキシデーション リダクション ポテンシャル)計は、サーモフィッシャーサイエンティフック(株)製のORION 121200 3−STAR PH/ORPメータを用いた。そして、銅析出槽への白金担持カーボン懸濁液を投入した時を開始時間とし、ORP計が示す溶液の電位が80mVvs.Ag/AgCl以下のときを銅析出反応完了とした。ここで開始から終了までの経過時間を銅析出反応時間とした。この結果を、図4に示す。なお、図4の目標値は、より好ましい析出時間である。
【0067】
<金結晶子径>
実施例1、実施例2、および参考例1の白金に修飾された金に対して、X線回折法により、Au(111)の半価幅からシェラーの式により、金結晶子径を算出した。この結果を、図5に示す。
【0068】
(結果)
上述した触媒装置を用いた場合には、外部電源を用いること無しに、白金粒子表面に銅層を被覆することができた。さらに、図4に示すように、実施例1に比べて、実施例2のほうが、短時間で銅層が析出した。図5に示すように、実施例1および2の場合には、Au結晶子径は、燃料電池の触媒に用いるに好適とされる目標値の範囲内となったが、参考例1の場合には、Au結晶子径は、目標値の範囲を超えた。実施例1及び2の場合は、不活性ガス雰囲気下で触媒を製造したので、析出した銅の酸化が抑制され、これにより目標値の範囲に収まる金結晶子径を確保することができたと考えられる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0070】
本実施形態では、懸濁液収容槽、金水溶液収容槽に不活性ガス供給源を直接的に接続する(間接的に銅析出槽、金置換槽にも不活性ガス供給源を接続する)ことにより、各槽内のガスを不活性ガスに置換したが、これらの各槽ごとに不活性ガス供給源を直接的に接続してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…触媒製造装置,3:不活性ガス供給源,4:懸濁液供給源,5:切換え弁,7:不活性ガス供給源,8:金水溶液供給源,10…懸濁液収容槽,12…容体、13…供給管、14…排出管、15:攪拌器,20…銅析出槽,22:容体,23:連通管,24:供給管,25:攪拌器,26:銅材,27:導管,28:粒状銅片,30…金水溶液収容槽,32…容体,33…供給管,34…排出管,35:攪拌器,40…金置換槽,42:容体,43:連通管,44:連通管,45:攪拌器,A:懸濁液,B:懸濁液,C:金水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンを含む酸水溶液を、白金粒子、または白金粒子を担持した導電性担体で懸濁した懸濁液を収容する懸濁液収容槽と、
該懸濁液収容槽からの前記懸濁液が流下するように前記懸濁液収容槽に連通すると共に、銅材が内部に配置されており、前記懸濁液に含まれる白金粒子の表面に銅層を析出させる銅析出槽と、
該銅析出槽からの前記懸濁液が流下するように前記銅析出槽に連通すると共に、内部に金イオンを含む金水溶液を収容しており、前記懸濁液と前記金水溶液を混合することにより、前記懸濁液に含まれる白金粒子の銅層の銅を、前記金水溶液の金に置換する金置換槽とを、少なくとも備え、
前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽、および前記金置換槽内を不活性ガスで置換可能なように、前記懸濁液収容槽、前記銅析出槽および前記金置換槽の少なくとも1つの槽に不活性ガス供給源が接続されていることを特徴とする触媒の製造装置。
【請求項2】
前記金水溶液が収容された金水溶液収容槽をさらに備え、
前記金置換槽は、前記金水溶液収容槽からの金水溶液が流下するように前記金水溶液収容槽に連通していることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造装置。
【請求項3】
前記銅材は、複数の粒状片またはメッシュ材であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の製造装置。
【請求項4】
前記銅析出槽には、前記懸濁液が流下する導管を備えており、該導管の内部には、前記複数の粒状片が充填されていることを特徴とする請求項3に記載の触媒の製造装置。
【請求項5】
前記導管は、下方に向ってピッチを有するように螺旋状に成形された導管であることを特徴とする請求項4に記載の触媒の製造装置。
【請求項6】
前記導管は、銅または銅合金からなることを特徴とする請求項4または5に記載の触媒の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240005(P2012−240005A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113976(P2011−113976)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】