説明

触媒反応器

【課題】小型化及び軽量化を達成しつつも、熱交換効率を高めて反応効率の低下を防止した触媒反応器1を実現する。
【解決手段】流体が流れる通路4を形成するように所定間隔を空けて並設される一対の区画平板2と、通路4内で区画平板2に接合されて各チャンネル31を区画するチャンネル部材3と、各チャンネル31に内挿されかつ、チャンネル31に沿って延びる触媒坦持体7と、を備える。一対の区画平板の内の少なくとも一つは、通路内とは温度帯の異なる温度媒体に対し熱交換可能に接することによって、一次伝熱面を構成する。各チャンネル31の横断面は、高さHに対する幅Wのアスペクト比(W/H)が1以下に構成され、各触媒坦持体7は、単層構造でかつ波板状の基体71と、基体71表面に形成された触媒層とを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、触媒反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、原料ガスから液体燃料を合成するGTL(Gas To Liquids)プロセスにおいて、特にフィッシャートロプシュ反応(以下、FT反応ともいう)を行う反応器として好適な触媒反応器が開示されている。FT反応は、触媒存在下で、200℃程度の高温で起こる発熱反応である。特許文献1に開示された触媒反応器は、熱交換効率を高めて反応効率を高めるべく、チューブプレートとコルゲートフィンとを交互に積層して構成された、いわゆるプレートフィン型熱交換器と同様の構造を有している。具体的にこの触媒反応器は、コルゲートフィンによって区画される微小な流路の一つ一つに、触媒構造体を内挿して配置している。ここで、触媒構造体は、横断面波形の3枚の板を、その間に平板を挟んで積層した3層構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−528271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記の触媒反応器は内圧が比較的高くなり、この高い内圧によって、チューブプレートは、相対するチューブプレート同士を互いに引き離す方向の力を受ける。この内圧に対抗するには、チューブプレートの肉厚を分厚くしたり、一対のチューブプレート間で強度部材として機能し得るコルゲートフィンの肉厚を分厚くしたりしなければならない。このことは、触媒反応器の大型化及び重量化を招く。
【0005】
そこで、本願発明者らは、触媒反応器の微小流路の横断面形状を、縦長にすることに着目した。縦長形状はコルゲートフィンの間隔を狭くし、そのことがチューブプレートにおいて内圧を受ける面積を縮小(距離を短く)することから、チューブプレートのたわみ変形等を抑制して高い内圧に対抗し易くなる。従って、触媒反応器の微小流路の横断面形状を縦長にすることは、チューブプレート及びコルゲートフィンの肉厚を薄くして、触媒反応器を小型化及び軽量化し得る。
【0006】
しかしながら、微小流路の横断面形状を縦長形状にした場合、前記特許文献1に開示されているような多層構造の触媒構造体を、その微小流路内に内挿したのでは、熱交換効率が低下してしまうという新たな問題が生じることに、本願発明者らは気づいた。その理由は、次のように考えられる。つまり、流路の横断面形状を縦長にしたときには、流路横断面における中心位置から、一次伝熱面(チューブプレート)までの距離が相対的に長くなってしまう。このことは、微小流路内での熱移動がし難くなることを意味し、熱交換効率の点で不利である。一方で、特許文献1に開示されている多層構造の触媒構造体は、流路内における、特に流れ方向に直交する方向の流体の移動を妨げ易い。つまり、前記の触媒構造体は、横断面波形の板と平板とを重ねていることで、その横断面においては、多数の閉空間が並設されることになる。この構成は、触媒面積の拡大の点では有利であるもの、各閉空間は、チューブプレートやコルゲートフィンに対し開放されないため、各閉空間内を流れる流体が流れ方向に直交する方向に移動することを規制する。この一次伝熱面までの距離が長くなることと、流れ方向に直交する方向の流体の移動を妨げることとの、2つの要因が組み合わされる結果、各流路内の中心付近に熱がこもって、触媒反応器の熱交換効率が低下し、それによって反応効率が低下してしまうのである。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型化及び軽量化を達成しつつも、熱交換効率を高めて反応効率の低下を防止した触媒反応器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、チャンネルの横断面形状を正方形状乃至縦長形状にすることと、触媒坦持体を単層構造かつ波板状にすることとを組み合わせることで、触媒反応器の小型化及び軽量化と、触媒反応器の反応効率の低下防止とを両立させるようにした。
【0009】
具体的に、ここに開示する触媒反応器は、流体が流れる通路を形成するように所定間隔を空けて並設される一対の区画平板と、前記通路内で複数のチャンネルが並設されるように、前記通路内で前記区画平板に接合されて前記各チャンネルを区画するチャンネル部材と、前記各チャンネルに内挿されかつ、当該チャンネルに沿って延びる触媒坦持体と、を備え、前記一対の区画平板の内の少なくとも一つは、前記通路を区画する側の面とは逆側の面が、前記通路内とは温度帯の異なる温度媒体に対し熱交換可能に接することによって、一次伝熱面を構成し、前記区画平板に接合される前記チャンネル部材は、二次伝熱面を構成する。
【0010】
そして、前記各チャンネルの横断面は、前記区画平板の並設方向に対応する高さHに対する幅Wのアスペクト比(W/H)が1以下に構成され、前記各触媒坦持体は、単層構造でかつ波板状の基体と、当該基体表面に形成された触媒層とを含んで構成されている。
【0011】
ここで、一次伝熱面は、流体が流れる通路と温度媒体との間に介在して、両者間での熱交換を直接的に行う伝熱面、つまり区画平板を意味し、二次伝熱面は、区画平板に接合されることでこの区画平板に対し伝熱(熱伝導)することで、流体が流れる通路と温度媒体との間の熱交換に対して間接的に関与する伝熱面、つまりチャンネル部材を意味する。また、チャンネルとは、通路内においてチャンネル部材によって区画され、それぞれが、流体が流れる流路を意味する。
【0012】
通路内に形成されるチャンネルが、そのアスペクト比(幅W/高さH)が1、又は、それよりも小さく構成されることで、チャンネルは正方形状乃至縦長形状となり、横長形状にはならない。ここで、「縦」は区画平板の並設方向に対応し、「横」は、「縦」に直交するチャンネルの並設方向に対応する。チャンネルが正方形状乃至縦長形状になることは、チャンネル部材のピッチを比較的小さくして、内圧を受ける区画平板の距離(チャンネル部材のピッチに相当)を短くする。従って、区画平板の肉厚を薄くしても通路内の高い内圧に対抗し得ると共に、チャンネル部材の肉厚も薄くし得る。このことは、触媒反応器を小型化及び軽量化する上で有利である。
【0013】
一方で、各チャンネルに内挿される触媒坦持体は、その基体が単層構造でかつ波板状を有している。ここでいう単層構造とは、例えば形状が互いに相違する複数の部材を積層して構成しているのではなく、単一の部材から構成されていることを意味する。例えば、互いに材質の異なる複数の層を含んで構成される一枚の板状部材は、ここでいう単層構造に含まれ得る。単層構造でかつ波板状の基体は、チャンネルに内挿したときに、そのチャンネルの横断面の全域に亘って配置されると共に、区画平板(一次伝熱面)やチャンネル部材(二次伝熱面)に対して開放した、複数の開空間を形成する(閉空間を形成しない)。従って、単層構造でかつ波板状の触媒坦持体は、チャンネル内における流体の移動、特に流れ方向に直交する方向の流体の移動を阻害しない。その結果、チャンネルが正方形状乃至縦長形状になることで、そのチャンネルの断面中心から一次伝熱面(区画平板)までの距離は相対的に長くなるものの、チャンネル内における流れ方向に直交する方向の流体の移動が良好になることで、熱移動が阻害されず、熱交換効率の低下が防止され、若しくは、熱交換効率は向上する。また、波板状の触媒坦持体は、触媒面積を大きくして、各チャンネルにおける触媒反応効率を高める上で有効である。
【0014】
従って、この触媒反応器は、小型化及び軽量化を図りつつも、反応効率の低下を防止し得る。
【0015】
前記各チャンネルの幅Wは、3〜7mmとしてもよい。各チャンネルの幅Wが大きすぎると、チャンネル部材のピッチが大きくなり、前述した区画平板及びチャンネル部材の肉厚を薄くすることが困難になる。この観点から、幅Wの上限値は7mmが好ましい。上限値は5mmにしてもよい。一方、各チャンネルの幅Wが小さすぎると、各チャンネル内に触媒坦持体を挿入することが困難になり、触媒反応器の製造上の不都合が生じ得る。この観点から、幅Wの下限値は3mmが好ましい。
【0016】
前記各チャンネルの高さHは、7〜20mmとしてもよい。各チャンネルの高さHが高すぎると、一対の区画平板間に配置されて強度メンバとしても機能し得るチャンネル部材の長さが長くなって、その剛性を確保する上で肉厚を分厚くする必要が生じる。この観点から、高さHの上限値は20mmが好ましい。上限値は10mmにしてもよい。一方、各チャンネルの高さHが小さすぎると、チャンネル内に触媒坦持体を挿入することが困難になり、触媒反応器の製造上の不都合が生じ得る。この観点から、高さHの下限値は7mmが好ましい。
【0017】
前記区画平板は、所定間隔を空けて複数枚、並設されることによって、複数の前記通路が積層配置されるように、隣り合う通路間を区画しており、前記複数の通路は、交互に積層配置された、第1流体が流れる第1通路と第2流体が流れる第2通路とを含んでおり、前記チャンネル部材は、前記第1及び第2通路内それぞれで、前記各チャンネルを区画しており、前記触媒坦持体は、前記第1及び第2通路の少なくとも一方の通路における各チャンネルに内挿されることによって、当該通路を触媒反応通路として構成しており、前記触媒反応通路の各チャンネルの横断面が、アスペクト比(W/H)が1以下に構成されている、としてもよい。
【0018】
前記触媒坦持体の基体は、前記チャンネルの幅方向に相対する一対のチャンネル部材の間を往復するような波板状である、としてもよい。ここで、波形としては、例えば三角波のようであってもよいし、例えば正弦波のようであってもよいし、例えば矩形波のようであってもよい。
【0019】
一対のチャンネル部材の間を往復するような波板状の基体によって、そのチャンネル内には、チャンネル部材に対して開放される開空間が、区画平板の並設方向に重なるように形成される。換言すれば、横向きに開放される開空間が、その開放する向きを左右に変えながら縦方向に重なるように形成される。一方で、各チャンネルは、前述したように、正方形状乃至縦長形状となり、横方向には比較的短くなるため、前記チャンネル部材によって形成される各閉空間の、横方向の長さは比較的短くなる。このことは、流体がチャンネル部材に向かって流れ易くするため、熱移動を促進させる。
【0020】
前記触媒坦持体の基体は、前記区画平板及びチャンネル部材の少なくとも一方に当接している、としてもよい。こうすることで、触媒坦持体と区画平板との間、又は、触媒坦持体とチャンネル部材との間での伝熱により、触媒反応器の熱交換効率が向上し得る。
【0021】
また、触媒坦持体の基体を、区画平板及びチャンネル部材に当接させることによって、この基体をチャンネル内で動かないように固定し得る。この点で、触媒坦持体の基体は、チャンネルを区画する4つの壁面の内、相対する一対の壁面の双方に当接していることが好ましい。
【0022】
前記チャンネル部材は、コルゲート板である、としてもよい。こうすることで特に、第1及び第2通路を積層した構成においては、コルゲートフィンを有するプレートフィン型熱交換器と同様の構成となるため、触媒反応器の製造コストが下がる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、前記の触媒反応器は、各チャンネルの横断面形状を正方形状乃至縦長形状にすることで、区画平板やチャンネル部材を薄肉化し得るから、触媒反応器の小型化及び軽量化し得る一方で、各チャンネルに内挿する触媒坦持体の基体を単層構造でかつ波板状にすることで、チャンネル内の流体の移動が妨げられず、触媒反応器の熱交換効率、ひいては反応効率を向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】触媒反応器の横断面を示す断面図である。
【図2】触媒坦持体の変形例を示す断面図である。
【図3】触媒坦持体の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、触媒反応器の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は、例示的触媒反応器1の横断面図を示している。この触媒反応器1は、原料ガス(例えば随伴ガス)から液体燃料を合成するGTLプロセスに用いられる反応器である。ここで、GTLプロセスについて簡単に説明すると、GTLプロセスは、原料ガスから水蒸気改質反応器により合成ガスを製造する工程と、製造した合成ガスをフィッシャートロプシュ反応器(FT反応器)により、通常の条件下で液体の高級炭化水素及び水に転換する工程と、を含む。前記の触媒反応器1は、前記水蒸気改質反応器及びFT反応器のいずれにも用いられ得る。
【0026】
触媒反応器1は、複数のチューブプレート2と複数のコルゲートフィン3とを含んで構成され、いわゆるプレートフィン型の熱交換器と同様の構成を有している。具体的には、各チューブプレート2は平板形状を有しており、複数のチューブプレート2は、所定の間隔を空けて互いに平行となるように配設されている。尚、図1においては、3枚のチューブプレート2のみを図示しているが、これ以上の枚数のチューブプレート2が並設されてもよい。チューブプレート2の枚数は適宜設定すればよい。こうして複数のチューブプレート2を並設することによって、第1流体が流れる第1通路4と、第2流体が流れる第2通路5とが、チューブプレート2を挟んで交互に積層配置されることになり、各チューブプレート2は、第1通路4と第2通路5との間で熱を伝える一次伝熱面として機能する。
【0027】
各コルゲートフィン3は、ここでは、複数の畝が互いに等間隔を空けて並設するように、その横断面が波形を有すると共に、当該畝が直線状に延びる、いわゆるプレーン型に構成されている。尚、当該プレーン型のコルゲートフィン3に対して、所定パターンで貫通孔を形成したパーホレート型のコルゲートフィンを採用してもよい。各コルゲートフィン3は、隣り合うチューブプレート2の間に、そのチューブプレート2に当接するように配設されている。各コルゲートフィン3は、それに隣接するチューブプレート2に対して、例えばろう付けにより接合されている。こうして第1通路4及び第2通路5内はそれぞれ、コルゲートフィン3によって、複数のチャンネル31が並設するように区画され、コルゲートフィン3は二次伝熱面として機能する。ここで、図例においては、第1通路4では、流体が紙面に直交する方向に流れるように、コルゲートフィン3が配設されているのに対し、第2通路5では、流体が紙面左右方向に流れるように、コルゲートフィン3が配設されている。このように、図示する触媒反応器1は、いわゆる直交流型に構成されている。触媒反応器1の構成はこれに限らず、例えば第1及び第2通路4,5の双方において、流体が紙面左右方向に流れるようにコルゲートフィン3を配設した、向流型に構成してもよい。
【0028】
尚、この触媒反応器1において、隣り合うチューブプレート2同士の間の周縁部には、図示を省略するサイドバーが配設されている。また、この触媒反応器1には、第1流体及び第2流体を、それぞれ第1通路4及び第2通路5に導入するための導入部が設けられていると共に、第1通路4及び第2通路5から流体を導出するための導出部が設けられている。
【0029】
そうして、この触媒反応器1には、第1通路4における各チャンネル31内に、チャンネル31に沿って延びる触媒坦持体7が内挿されており、これによって第1通路4は、この触媒反応器1の触媒反応通路を構成する。触媒坦持体7は、基体71と、この基体71の表面に形成された触媒層と、を含んで構成されている。尚、図1等においては、触媒層の図示を省略している。基体71は、この例では、三角形状の山部及び谷部が交互に並ぶことによって、その横断面形状が三角波のような波形に形成されている。また、基体71は、詳細な図示は省略するが、各山部及び谷部がそれぞれチャンネル31に沿って真っ直ぐに延びる、いわゆるプレーン型とされている。このように、基体71は、一つの部材によって構成された単層構造を有しているが、横断面を波形にすることで、各チャンネル31の横断面において、その全域に亘って、概略均等に拡がると共に、触媒面積を十分に確保し得る。ここで、触媒坦持体7の基体71としては、例えば図2(a)に示すように、円弧状の山部及び谷部が交互に並ぶことによって、その横断面形状が正弦波に類似した波形に形成してもよいし、例えば図2(b)に示すように、矩形状の山部及び谷部が交互に並ぶことによって、その横断面形状が矩形波のような波形に形成してもよい。さらに、図示は省略するが、基体は、前記プレーン型の基体71に対して、所定パターンで貫通孔を形成したパーホレート型にしてもよい。また、基体は、前記山部及び谷部がそれぞれチャンネル31に沿って蛇行しながら延びるヘリンボーン型にしてもよく、山部及び谷部を分断するよう切れ目が所定間隔で配置されると共に、その山部及び谷部の位置が交互にずれたセレート型に、基体を構成してもよい。
【0030】
コルゲートフィン3の壁面同士の間を往復するような波板状の基体71をチャンネル31に内挿することによって、このチャンネル31は、複数の空間に区画されるようになるが、各空間は、コルゲートフィン3の壁面(二次伝熱面)に向かって横方向に開放した開空間とされている。また、前記の触媒坦持体7の基体71は、図1に示すように、コルゲートフィン3に対して当接している。尚、この図では、基体71はチューブプレート2には当接していないが、基体71はチューブプレート2に当接してもよい。基体71は、後述するように、伝熱の観点から、コルゲートフィン3及びチューブプレート2の少なくとも一方に当接していることが好ましい。尚、基体71をコルゲートフィン3及び/又はチューブプレート2に当接させることは、チャンネル31内で基体71を安定して配置し得るという効果を有する。この安定配置の観点からは、基体71は、コルゲートフィン3の相対する一対の横向きの壁面それぞれに対して当接していることが好ましい。
【0031】
この触媒反応器1が水蒸気改質反応器として用いられる場合には、図示は省略するが、第2通路5における各チャンネル31内にも触媒坦持体が内挿される。この触媒坦持体の構成は、前記第1通路4における触媒坦持体7と同じ構成とすればよい。
【0032】
ここで、この触媒反応器1が水蒸気改質反応器として用いられる場合には、触媒反応通路である第1通路4には、第1流体として、主にメタンからなる原料ガス及び水蒸気が導入され、同じく触媒反応通路である第2通路には、第2流体として、例えばメタンや水素等の燃料が導入される。触媒坦持体の基体は、アルミニウム含有フェライト鋼や、クロム、アルミニウム及びイットリウムを含む鉄等の、加熱時に酸化アルミニウムの接着性表面コーティングを形成する材料で構成すればよい。また、第1通路における好ましい触媒は、ロジウム、又は、白金/ロジウム触媒であり、第2通路における好ましい触媒は、パラジウム触媒である。水蒸気改質反応は、750℃を超える温度で実施されるため、触媒反応器1は、例えば高温用の鉄/ニッケル/クロム合金、又は、これに類似した材料によって形成すればよい。
【0033】
これに対し、この触媒反応器1がFT反応器として用いられる場合には、触媒反応通路である第1通路4には、第1流体として、フィッシャートロプシュ合成を受ける混合ガスが導入され、第2通路5には、第2流体として冷却流体が導入される。触媒坦持体7の基体71は、アルミニウム含有フェライト鋼等の、加熱されると酸化アルミニウムの接着性表面コーティングを形成する合金鋼で構成すればよい。また、好ましい触媒は、γ−アルミナコーティングを含む。このコーティングは、コバルト、例えばルテニウム、白金、又はガドリニウムといった促進剤、及び、例えば酸化ランタンといった塩基性促進剤を有する。FT反応は、200℃程度の温度で実行されるため、触媒反応器1は、例えばアルミニウム合金、ステンレス鋼、高ニッケル合金、又は、他のスチール合金によって形成すればよい。
【0034】
そうしてこの触媒反応器1における特徴の一つとして、各チャンネル31の高さH及び幅Wの比であるアスペクト比(W/H)は、1以上に設定されている。ここで、高さHは、チューブプレート2の積層方向に対応する高さであって、図1に示すようにチューブプレート2の間隔に相当する。また、幅Wは、図1に示すように、コルゲートフィン3における相対する一対の壁面間の距離に相当する。すなわち、第1及び第2通路4,5の各チャンネル31は、その高さHと幅Wとが互いに等しい、正方形状の横断面、又は、高さHが幅Wよりも大きい、縦長形状の横断面を有している。
【0035】
ここで、幅Wは、例えば3〜7mm、より好ましくは、3〜5mmとすればよい。後述するように、幅Wを比較的狭くすることが、チューブプレート2及びコルゲートフィン3の薄肉化を可能にすることから、その観点から幅Wの上限値は設定すればよい。また、チャンネル31の内部に触媒坦持体7を挿入することから、幅Wが狭すぎると触媒坦持体7を挿入することが困難であるから、その生産性の観点から幅Wの下限値は設定すればよい。
【0036】
また、高さHは、例えば7〜20mm、より好ましくは、7〜10mmとすればよい。高さHは、チューブプレート2,2の間隔に対応すると共に、これはコルゲートフィン3の畝の高さに対応する。コルゲートフィン3はチューブプレート2,2間の強度部材として機能することから、高さHの上限値は、コルゲートフィン3の強度の観点から設定すればよい。また、高さHの下限値は、前記と同様に、生産性の観点から設定すればよい。
【0037】
また、アスペクト比は、例えばチャンネル31の高さH=7mm、幅W=7mmとして、W/H=1に設定してもよい。また、例えば高さH=10mm、幅W=5mmとして、W/H=1/2に設定してもよい。アスペクト比は、これら以外の値に設定することも勿論可能である。前述した、高さHの範囲及び幅Wの範囲を考慮すれば、アスペクト比のとり得る範囲は、1〜3/20となる。
【0038】
以上説明したように、この構成の触媒反応器1は、そのチャンネル31の横断面形状を正方形乃至縦長形状にし、横長形状とはしていない。このことは、コルゲートフィン3のピッチを比較的狭くして、第1又は第2通路4,5内の内圧を受けるチューブプレート2の面積を縮小(距離を短く)する。このため、チューブプレート2は、薄肉化しても、たわみ変形を抑制して、内圧に対抗し得るようになり、それに伴いコルゲートフィン3も薄肉化し得る。このことは、触媒反応器1の小形化及び軽量化を図る上で有利になる。
【0039】
一方で、チャンネル31の横断面が縦長形状を有していることは、その横断面の中心位置から一次伝熱面であるチューブプレート2までの距離が、横長形状の場合と比較して長くなることを意味する。このことは、熱交換効率の低下を招き、ひいては触媒反応器1の反応効率を低下させる。特に各チャンネル31内に配設されている触媒坦持体が、例えば特許文献1に開示されているような、多数の閉空間を含む多層構造を有している場合は、チャンネル31内を流れる流体の、特に流れ方向に直交する方向の流動が阻害されて、熱交換効率がさらに低下することになる。
【0040】
これに対し、前記の触媒反応器1では、触媒坦持体7(基体71)が、横断面波形の、単層構造を有しているため、触媒面積は確保しつつも、閉空間は形成せず、それによって、チャンネル31内の流体の流動は阻害しない。その結果、チャンネル31の横断面が熱交換効率の点で不利な縦長形状であったとしても、熱交換効率の低下が防止、又は、熱交換効率が向上し、反応効率の低下が防止される。特に触媒坦持体7の基体71が、横向きに往復するような波板状であることで、チャンネル31内に、横向きに開放する開空間が多数形成される一方で、前述したように、チャンネル31の横断面が縦長形状を有していることで、各開空間の横方向の長さは比較的短くなる。このことは、流体が横方向に移動して、二次伝熱面に到達することを促進して、熱交換効率を高める上で有利になる。
【0041】
また、触媒坦持体7の基体71がコルゲートフィン3に当接していることによって、触媒坦持体7とコルゲートフィン3との間で、伝熱が生じ得るようになり、このことが、触媒反応器1の熱交換効率を向上させる。尚、触媒坦持体7とチューブプレート2を当接させた場合には、この触媒坦持体7とチューブプレート2との間で伝熱が生じ得るから、触媒坦持体7は、コルゲートフィン3及びチューブプレート2の少なくとも一方に当接していることが好ましい。触媒坦持体7とコルゲートフィン3、又は、触媒坦持体7とチューブプレート2との間の伝熱効率を高める上で、触媒坦持体7とコルゲートフィン3、又は、触媒坦持体7とチューブプレート2とを、互いに接合(例えばろう付け)してもよい。一方、触媒坦持体7とコルゲートフィン3、及び、触媒坦持体7とチューブプレート2とを接合しない場合は、触媒坦持体7の交換を容易に行い得るという利点がある。
【0042】
触媒坦持体7の基体71を、コルゲートフィン3に当接、特に図1に示すように、チャンネル31を区画する、コルゲートフィン3の一対の横向きの壁面それぞれに当接することによって、この基体71は、チャンネル31内で安定して配設され得る。また、図示は省略するが、波板状の基体71を、その波形状が潰れる方向に弾性変形可能に構成する(図1の例では、上下方向に弾性変形可能に構成することに相当する)と共に、その基体71を弾性圧縮させながら、チャンネル31に内挿してもよい。こうすることによって基体71は、弾性復元力によってチューブプレート2及びコルゲートフィン3の上向き又は下向きの壁面に当接して、これらを下向き及び上向きに押圧するようになり、基体71の配置安定性がさらに高まり得る。
【0043】
尚、前記の触媒反応器1では、その触媒坦持体7(基体71)を横向きの往復するような波板状にしているが、例えば図3に示すように、基体72を、縦向きに往復するような波板状にしてもよい。この場合は、チューブプレート2又はコルゲートフィン3に対し、上向き又は下向きに開放した開空間が形成されため、流体の流れを妨げることがない。この基体72もまた、図3に示すような三角波のような波形にする以外にも、図示は省略するが、正弦波に類似した波形に形成してもよいし、矩形波のような波形に形成してもよい。また、この基体72は、チューブプレート2及びコルゲートフィン3(コルゲートフィン3の上又は下向きの壁面)に対して当接している。基体72はさらに、コルゲートフィン3における横向きの壁面に対して、当接するようにしてもよい。さらに、その波形状が潰れる方向に弾性変形可能に構成する(図3の例では、左右方向に弾性変形可能に構成することに相当する)ようにして、チャンネル31内に配設したときに、コルゲートフィン3の横向きの壁面それぞれに当接して、それを左右方向に押圧するようにしてもよい。
【0044】
また、前記の触媒反応器1は、コルゲートフィン3を用いて、第1及び第2通路4,5内を複数のチャンネル31に区画しているが、これに限らず、例えば、図示は省略するが、第1及び第2通路4,5内で、複数の角パイプを並べて配置することにより、複数のチャンネルを区画形成するようにしてもよい。
【0045】
さらに、前記の触媒反応器1では、第1通路4及び第2通路5におけるチャンネル31の断面形状は、互いに同じにしているが、第1通路4と第2通路5とで、チャンネル31の断面形状が互いに相違するようにしてもよい。つまり、第1通路4の要求性能と第2通路5の要求性能のそれぞれに応じて、チャンネル31の断面形状等を、個別に最適化してもよい。
【0046】
さらに、前記の触媒反応器1は、第1通路4及び第2通路5を積層して構成しているが、図示は省略するが、第2通路5を省略すると共に、触媒反応通路(第1通路4)を区画するチューブプレート2の、通路区画側の面とは逆側の面に、冷却装置や加熱装置等を取り付けるようにしてもよい。この場合、触媒反応通路を区画する一対のチューブプレート2の内の一方に、冷却装置や加熱装置等を取り付けてもよいし、その双方に、冷却装置や加熱装置等を取り付けてもよい。この構成の触媒反応器は、冷却装置又は加熱装置によって、触媒反応通路内の流体を冷却又は加熱して、触媒反応通路内の触媒反応を促進させることになる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、ここに開示した触媒反応器は、小形化及び軽量化を図りつつも、その反応効率の低下が防止されるから、特にGTLプロセスにおける、水蒸気改質反応器及びFT反応器として有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 触媒反応器
2 チューブプレート(区画平板)
3 コルゲートフィン(チャンネル部材、波板)
31 チャンネル
4 第1通路
5 第2通路
7 触媒坦持体
71 基体
72 基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる通路を形成するように所定間隔を空けて並設される一対の区画平板と、
前記通路内で複数のチャンネルが並設されるように、前記通路内で前記区画平板に接合されて前記各チャンネルを区画するチャンネル部材と、
前記各チャンネルに内挿されかつ、当該チャンネルに沿って延びる触媒坦持体と、を備え、
前記一対の区画平板の内の少なくとも一つは、前記通路を区画する側の面とは逆側の面が、前記通路内とは温度帯の異なる温度媒体に対し熱交換可能に接することによって、一次伝熱面を構成し、
前記区画平板に接合される前記チャンネル部材は、二次伝熱面を構成し、
前記各チャンネルの横断面は、前記区画平板の並設方向に対応する高さHに対する幅Wのアスペクト比(W/H)が1以下に構成され、
前記各触媒坦持体は、単層構造でかつ波板状の基体と、当該基体表面に形成された触媒層とを含んで構成されている触媒反応器。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒反応器において、
前記区画平板は、所定間隔を空けて複数枚、並設されることによって、複数の前記通路が積層配置されるように、隣り合う通路間を区画しており、
前記複数の通路は、交互に積層配置された、第1流体が流れる第1通路と第2流体が流れる第2通路とを含んでおり、
前記チャンネル部材は、前記第1及び第2通路内それぞれで、前記各チャンネルを区画しており、
前記触媒坦持体は、前記第1及び第2通路の少なくとも一方の通路における各チャンネルに内挿されることによって、当該通路を触媒反応通路として構成しており、
前記触媒反応通路の各チャンネルの横断面が、アスペクト比(W/H)が1以下に構成されている触媒反応器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒反応器において、
前記触媒坦持体の基体は、前記チャンネルの幅方向に相対する一対のチャンネル部材の間を往復するような波板状である触媒反応器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒反応器において、
前記触媒坦持体の基体は、前記区画平板及びチャンネル部材の少なくとも一方に当接している触媒反応器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒反応器において、
前記チャンネル部材は、コルゲート板である触媒反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−62618(P2011−62618A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214309(P2009−214309)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】