説明

触媒層、膜電極接合体、および、それらの製造方法

【課題】触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させること。
【解決手段】燃料電池に用いられる触媒層の製造方法であって、電解質が非会合状態となっている電解質溶液を作成する電解質溶液作成工程と、触媒担持担体を用意する工程と、電解質溶液と触媒担持担体とを混合し、触媒インクを作成する工程と、触媒インクを乾燥させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層、膜電極接合体、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電効率を向上させるため、触媒層において、電解質と触媒と反応ガスとの三層界面の面積を増加させたいという希望がある(下記特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−164264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記希望を達成するため、例えば、触媒層において、電解質の添加量を増大すると、触媒層中の空隙率が低下し、触媒層中でフラッディングが生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池に用いられる触媒層の製造方法であって、
電解質が非会合状態となっている電解質溶液を作成する電解質溶液作成工程と、
触媒担持担体を用意する工程と、
前記電解質溶液と前記触媒担持担体とを混合し、触媒インクを作成する工程と、
前記触媒インクを乾燥させる工程と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
上記構成の触媒層の製造方法によれば、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の触媒層の製造方法において、
前記電解質溶液作成工程は、
電解質を用意する工程と、
用意した前記電解質が溶け込んだ第1電解質溶液を作成する工程と、
前記第1電解質溶液の重なり極限臨界濃度を検出する工程と、
前記第1電解質溶液の濃度が、前記重なり極限臨界濃度より低い場合には、前記第1電解質溶液を前記電解質溶液とする工程と、
を備えることを特徴とする触媒層の製造方法。
【0010】
このようにすれば、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の触媒層の製造方法において、
前記電解質溶液作成工程は、
電解質を用意する工程と、
用意した前記電解質が溶け込んだ第2電解質溶液を作成する工程と、
前記第2電解質溶液の極限粘度を検出する工程と、
前記第2電解質溶液の粘度が、前記極限粘度より高い場合には、前記第2電解質溶液を前記電解質溶液とする工程と、
を備えることを特徴とする触媒層の製造方法。
【0012】
このようにすれば、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
【0013】
[適用例4]
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
非会合状態の電解質溶液を作成する工程と、
触媒担持担体および電解質膜を用意する工程と、
前記電解質溶液と前記触媒担持担体とを混合し、触媒インクを作成する工程と、
前記触媒インクを前記電解質膜上に塗工し、積層体を形成する工程と、
前記積層体を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【0014】
上記構成の膜電極接合体の製造方法によれば、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
【0015】
[適用例5]
燃料電池に用いられる触媒層であって、
非会合状態の電解質と、
触媒担持担体と、
を備えることを特徴とする触媒層。
【0016】
上記構成の触媒層によれば、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
[適用例6]
燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
電解質膜上に請求項5に記載の触媒層が形成されて成ることを特徴とする膜電極接合体。
【0017】
上記構成の膜電極接合体によれば、触媒層において、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。
【0018】
なお、本発明は、上記した触媒層の製造方法または膜電極接合体の製造方法の他、燃料電池の製造方法など、他の製造方法の態様で実現することも可能である。また、触媒層または膜電極接合体の他、燃料電池など、他の装置発明の態様として実現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の順序で説明する。
A.実施例:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池100の概略構成を表わす断面模式図である。この燃料電池100は、膜電極接合体50(以下では、MEA(Membrane Electrode Assembly)50と呼ぶ)と、ガス拡散層60,70と、セパレータ80,90と、を備える。MEA50は、電解質膜10と、電解質膜10の両面に形成される触媒層(カソード20およびアノード30)とから成る。燃料電池100は、MEA50をガス拡散層60,70で挟持し、さらに、そのサンドイッチ構造をセパレータ80,90で挟持して構成される。燃料電池100において、カソード20側には、酸化ガスとしての空気が供給され、アノード30側には、燃料ガスとしての水素が供給される。
【0020】
電解質膜10は、パーフルオロスルホン酸から成るプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す。
【0021】
カソード20およびアノード30は、触媒担持担体としての白金担持カーボンと、パーフルオロスルホン酸から成る電解質とから構成される。この電解質は、高分子鎖が非会合状態(非ミセル状態)となっている。
【0022】
ガス拡散層60,70は、導電性を有する多孔質部材であり、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパなどのカーボン多孔質体や、金属メッシュや発砲金属など金属多孔質体によって形成される。ガス拡散層60は、酸化ガスとしての空気を、カソード20面に沿った方向に分散させつつ、カソード20に供給する。ガス拡散層70は、燃料ガスとしての水素を、アノード30面に沿った方向に分散させつつ、アノード30に供給する。
【0023】
セパレータ80,90は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成形した金属板によって形成することができる。セパレータ80は、片面に凹部が形成されており、その凹部が形成された面とガス拡散層60との間に、ガス拡散層60に酸化ガス(空気)を供給するための酸化ガス供給流路40が形成されている。また、セパレータ90は、片面に凹部が形成されており、その凹部が形成された面とガス拡散層70との間に、ガス拡散層60に燃料ガスを供給するための燃料ガス供給流路45が形成されている。
【0024】
また、燃料電池100の外周部には、酸化ガス供給流路40および燃料ガス供給流路45におけるガスシール性を確保するための図示しないシール部材が配設されている。
【0025】
A2.燃料電池の製造方法:
以下に燃料電池の製造方法を説明する。図2は、燃料電池100を構成するMEA50の製造方法である。まず、燃料電池の製造方法において、MEA50の製造方法を説明する。MEA50の製造方法では、図2に示すように、まず、パーフルオロスルホン酸から成る電解質を用意する(ステップS10)。
【0026】
続いて、用意した電解質を溶媒に入れ、濃度Caの電解質溶液Zを作成する(ステップS20)。具体的には、上記電解質を濃度Caとなるように、所定量ほど溶媒に入れ、加熱処理する。例えば、内側にガラスナイトが施されたSUS製オートクレーフに、質量比で、水:エーテル=3:1の水/エーテル混合液を溶媒として入れ、その溶媒中に、フッ素系樹脂から成る電解質を適量入れ、約210℃で加熱処理し、電解質溶液Zを作成する。
【0027】
次に、電解質溶液Zの重なり臨界極限濃度Ccを検出する(ステップS30)。具体的には、以下の(A)〜(E)のごとくして重なり臨界極限濃度Ccを検出する。
【0028】
(A)電解質溶液Zと、同じ溶媒および同じ電解質を用い、同じ加熱処理を施した3つの電解質溶液であって、濃度が、それぞれ0.33[wt%]、0.5[wt%]、および、1.0[wt%]である電解質溶液を作成する。
【0029】
(B)ウベローデ粘度計を用いて、3つの電解質溶液の粘度[dl/g]をそれぞれ測定する。
【0030】
(C)3つの電解質溶液における濃度と粘度との関係から、粘度η[dl/g]と濃度ρ[wt%]は、以下の式(1)に示す一次関数で表される。Aは、傾き係数であり、ηbは、切片であり極限粘度を表す。
η=Aρ+ηb…(1)
【0031】
(D)式(1)から、極限粘度ηbを検出する。
(E)以下の式(2)から重なり臨界極限濃度Ccを検出する。
Cc=1/ηb…(2)
【0032】
続いて、電解質溶液Zの濃度Caが重なり臨界極限濃度Ccより小さいか否かを判断する(ステップS50)。
【0033】
電解質溶液Zの濃度Caが重なり臨界極限濃度Cc以上の場合(ステップS50:No)には、電解質溶液Zにおいて、電解質が会合状態(ミセル状態)であると判断し、ステップS10の処理からやり直す。
【0034】
電解質溶液Zの濃度Caが重なり臨界極限濃度Ccより小さい場合(ステップS50:Yes)には、電解質溶液Zにおいて、電解質が非会合状態(非ミセル状態)であると判断し、電解質溶液Zをこの製造方法で用いることに決定する(ステップS60)。
【0035】
白金担持カーボン、および、パーフルオロスルホン酸から成る電解質膜10を用意する(ステップS70)。電解質溶液Zと、白金担持カーボンとを、質量比が1:1となるように混合し、分散媒としてエタノールを添加し、超音波振動装置を用いて、電解質溶液Z中の電解質および白金担持カーボンを分散させ、触媒インクを作成する(ステップS80)。
【0036】
電解質膜10の両面に触媒インクを塗工し(ステップS90)、その積層体を乾燥させる(ステップS100)。以上のようにして、電解質膜10の両面に触媒層(カソード20、アノード30)が形成されたMEA50を製造する。
【0037】
続いて、以上のように製造したMEA50の両面に、それぞれ、ガス拡散層60およびガス拡散層70を配置し、さらに、そのサンドイッチ構造をセパレータ80,90で挟持することにより燃料電池100を製造する。
【0038】
以上のように、本実施例の燃料電池の製造方法では、電解質が非会合状態となっている電解質溶液Zを用いて、触媒層を形成するようにしている。このようにすれば、触媒層中において、電解質が分散的に配置され、三層界面の面積を増大させることができる。その結果、電解質の添加量を抑制しつつ、発電効率を向上させることができる。そして、電解質の添加量を抑制することができるので、触媒層中でフラッディングが生じることを抑制することができる。
【0039】
A3.実験結果:
図3は、本実施例の製造方法で製造した燃料電池100の実験結果を表す図である。この図3は、詳しくは、上述の燃料電池の製造方法で製造した燃料電池であって、濃度が重なり臨界極限濃度より小さい電解質溶液Zを用いて製造した燃料電池100(以下では、単に実施例とも呼ぶ)と、比較例の燃料電池(以下では、単に比較例とも呼ぶ)と、用いて発電を行い、実施例と比較例とを比較した実験結果を示す。比較例は、濃度が重なり臨界極限濃度以上の電解質溶液を用いて製造した燃料電池であり、この相違点以外では、実施例と同様の構成となっている。実施例および比較例において、有効発電領域は13cm2に構成されている。
【0040】
実験に伴う発電の際には、燃料ガスとして純度の高い水素ガスを0.5[l/分]、酸化ガスとして空気を2.0[l/分]流した。電流密度を1.6A/cm2とし、燃料電池の温度を75〜90[℃]の範囲で、順次温度を固定し、10分間ホールドした際の最後の1分における電圧および抵抗の平均値をプロットした。図3において、黒抜き四角形のプロットを結んだ線は、比較例の出力電圧を示し、黒抜き三角形のプロットを結んだ線は、実施例の出力電圧を示し、白抜き四角形のプロットを結んだ線は、比較例の抵抗を示し、白抜き四角形のプロットを結んだ線は、実施例の抵抗を示す。
【0041】
図3に示すように、比較例と実施例は、抵抗が同程度であるにも関わらず、比較例に比べて実施例の方が、全体的に出力電圧が高く、発電効率が高いことがわかる。このことから、実施例では、触媒層(アノードおよびカソード)において、電解質が非会合状態となっており、すなわち、三層界面の面積が大きく形成されていると言える。その結果、その結果、比較例に比べて実施例の方が、燃料電池の電池性能がよいということが言える。
【0042】
B.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば以下のような変形も可能である。
【0043】
B1.変形例1:
上記実施例のMEA50の製造方法では、触媒層を形成する電解質が、非会合状態であるか否かの判断を、濃度Caと重なり臨界極限濃度Ccとを比較することで行うようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、非会合状態であるか否かの判断を、電解質溶液Zにおける粘度ηAと、極限粘度ηbとを比較することで行うようにしてもよい。具体的には、粘度ηAが極限粘度ηbより大きい場合には、触媒層を形成する電解質が、非会合状態であると判断する。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0044】
B2.変形例2:
上記実施例では、パーフルオロスルホン酸から成る電解質を用いて、触媒層を形成するようにしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、パーフルオロスルホン酸以外のフッ素系樹脂や、炭化水素系樹脂から成る電解質を用いて、触媒層を形成するようにしてもよい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0045】
B3.変形例3:
上記実施例のMEA50の製造方法では、電解質溶液Zの溶媒は、水/エーテル混合液を用いる用にしているが、本発明は、これに限られるものではない。例えば、電解質溶液Zの溶媒として、水を用いるようにしてもよい。なお、電解質溶液Zの溶媒としては、高温で加熱処理できる溶媒が好ましい。このようにしても上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池100の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】燃料電池100を構成するMEA50の製造方法である。
【図3】上記実施例の製造方法で製造した燃料電池100の実験結果を表す図である。
【符号の説明】
【0047】
10…電解質膜
20…カソード
30…アノード
40…酸化ガス供給流路
45…燃料ガス供給流路
50…MEA
60…ガス拡散層
70…ガス拡散層
80…セパレータ
90…セパレータ
100…燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる触媒層の製造方法であって、
電解質が非会合状態となっている電解質溶液を作成する電解質溶液作成工程と、
触媒担持担体を用意する工程と、
前記電解質溶液と前記触媒担持担体とを混合し、触媒インクを作成する工程と、
前記触媒インクを乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とする触媒層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒層の製造方法において、
前記電解質溶液作成工程は、
電解質を用意する工程と、
用意した前記電解質が溶け込んだ第1電解質溶液を作成する工程と、
前記第1電解質溶液の重なり極限臨界濃度を検出する工程と、
前記第1電解質溶液の濃度が、前記重なり極限臨界濃度より低い場合には、前記第1電解質溶液を前記電解質溶液とする工程と、
を備えることを特徴とする触媒層の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の触媒層の製造方法において、
前記電解質溶液作成工程は、
電解質を用意する工程と、
用意した前記電解質が溶け込んだ第2電解質溶液を作成する工程と、
前記第2電解質溶液の極限粘度を検出する工程と、
前記第2電解質溶液の粘度が、前記極限粘度より高い場合には、前記第2電解質溶液を前記電解質溶液とする工程と、
を備えることを特徴とする触媒層の製造方法。
【請求項4】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
非会合状態の電解質溶液を作成する工程と、
触媒担持担体および電解質膜を用意する工程と、
前記電解質溶液と前記触媒担持担体とを混合し、触媒インクを作成する工程と、
前記触媒インクを前記電解質膜上に塗工し、積層体を形成する工程と、
前記積層体を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
燃料電池に用いられる触媒層であって、
非会合状態の電解質と、
触媒担持担体と、
を備えることを特徴とする触媒層。
【請求項6】
燃料電池に用いられる膜電極接合体であって、
電解質膜上に請求項5に記載の触媒層が形成されて成ることを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−50016(P2010−50016A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215050(P2008−215050)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】