説明

触媒担体とその製造方法及び触媒

【課題】触媒金属の粒成長を抑制できるとともに十分なガス拡散性を確保できる触媒担体とする。
【解決手段】炭化ケイ素系セラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部と、立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、金属シリコン層の少なくとも一部に形成されたSiO層と、からなる。
炭化ケイ素は耐熱性にきわめて優れているので、担体基材自体のシンタリングが防止される。またSiO層は親水性であり触媒担体は吸水性が高いため、触媒金属を高分散担持できる。したがって担持される触媒金属粒子どうしの粒成長を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒、排ガス浄化用触媒などの触媒と、その担体として用いられる触媒担体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス浄化用触媒として、酸化触媒、三元触媒、NO 吸蔵還元触媒あるいはフィルタ触媒などが広く用いられている。これらの触媒は、PtによるHC、NO、COの酸化活性、あるいはRhによるNOの還元活性を利用するものである。PtやRhなどの触媒金属は、比表面積の大きなアルミナ、セリア、ジルコニアなどからなる触媒担体に担持されて用いられている。
【0003】
触媒金属を担持するには、硝酸塩などの触媒金属化合物を溶解した溶液を粉末状あるいはハニカム基材などにコートされた触媒担体に含浸させ、それを焼成する含浸担持法が一般に用いられている。触媒金属はきわめて微細な微粒子として担持され、活性点が多いため、少量の触媒金属で十分な浄化活性が発現される。
【0004】
ところが例えばPt粒子は、微細な粒子より大きな粒子の方が安定なため、熱負荷を受けると粒成長し、活性点の数の減少によって触媒の活性が低下するという問題があった。例えば AlO表面に担持されたPtは、高温で酸素が共存する雰囲気においてはPtOとなり、気相移動により拡散・凝集が促進される。またAlO自体も高温時にシンタリングが生じ、それに伴ってPtの粒成長が生じる。そのため酸素過剰のリーン雰囲気又はストイキ雰囲気では、高温に晒されるとPtに粒成長が生じ表面積の低下により触媒性能が大きく低下する。
【0005】
そこで例えば特開平04−122441号公報には、予めシンタリングさせて比表面積を小さくした AlOにPtを担持することが開示されている。このようにすれば、使用時に高温が作用しても AlOのシンタリングがほとんど生じないので、 AlOのシンタリングに伴うPtの粒成長を抑制することができる。
【0006】
また特開平08−038897号公報には、Ptを担持した触媒担体を非酸化性雰囲気中にて 800℃以上で熱処理する製造方法が記載されている。この製造方法によれば、触媒担体が焼結して細孔が収縮するため、担持されているPtは触媒担体で緊密に取り囲まれる。したがってリーン雰囲気下で高温が作用してもPtの移動が触媒担体によって規制されているため、Ptの粒成長を抑制することができる。
【0007】
しかし上記した従来の技術では、触媒担体の比表面積が小さいため、ガス拡散性が低下し浄化性能がその分低下するという不具合があった。
【0008】
さらに特開2001−226174号公報には、不活性雰囲気下での焼成後に炭素が残存し、その形状を保持する多孔質構造体の有形骨格に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだスラリーを含浸させた後、不活性雰囲気下において 900〜1350℃で炭素化し、得られた炭素化多孔質構造体を、真空或いは不活性雰囲気下において、1350℃以上の温度で反応焼結させることにより、溶融シリコンと濡れ性のよい炭化ケイ素を生成させると同時に、体積減少反応に起因する開気孔を生成させ、最終的には、真空或いは不活性化雰囲気下において、1300〜1800℃の温度で、この多孔質構造体にシリコンを溶融含浸する炭化ケイ素系耐熱性軽量多孔質構造材の製造方法が記載されている。そして多孔質構造体として段ボール紙が例示され、ハニカム構造の炭化ケイ素系セラミックスを作製できることが記載されている。
【0009】
しかし同公報に記載の製造方法で形成された炭化ケイ素系セラミックスは、親水性の程度が低く吸水性が低いという難点があった。吸水性が低いと、所望の量の触媒金属を担持するためには、用いる触媒金属化合物水溶液の濃度を高くする必要があり、そうすると担持される触媒金属の担持密度が局部的に高くなって、高温時に隣接して担持された触媒金属粒子どうしの粒成長が生じ易く耐久性が低下するという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04−122441号公報
【特許文献2】特開平08−038897号公報
【特許文献3】特開2001−226174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、十分なガス拡散性を確保でき、かつ触媒金属の粒成長を抑制することができる触媒担体とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の触媒担体の特徴は、炭化ケイ素系セラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、金属シリコン層の少なくとも一部が酸化されて形成されたSiO層と、からなることにある。
【0013】
また本発明の触媒担体を製造する本発明の第1の製造方法の特徴は、炭素源としての樹脂とシリコン粉末とを含むスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程と、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去し有機多孔質構造体の骨格及びその表面にスラリーが付着した前駆体を形成する除去工程と、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前駆体を加熱し樹脂を炭素化するとともに有機多孔質構造体を焼失させ、かつシリコン粉末と炭素とを反応させて炭化ケイ素と金属シリコンとからなるスポンジ状の立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体を形成する焼成工程と、金属シリコンの少なくとも一部を酸化して立体骨格部にSiOを形成する酸化工程と、をこの順に行うことにある。
【0014】
この製造方法においては、焼成工程と酸化工程との間に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融シリコンをさらに含浸させ立体骨格部の表面に金属シリコン層を形成する金属シリコン層形成工程を行い、酸化工程で金属シリコン層の少なくとも表面を酸化することが望ましい。
【0015】
さらに本発明の触媒担体を製造する本発明の第2の製造方法の特徴は、炭素源としての樹脂とシリコン粉末とを含むスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程と、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去し有機多孔質構造体の骨格及びその表面にスラリーが付着した前駆体を形成する除去工程と、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前駆体を加熱し樹脂を炭素化するとともに有機多孔質構造体を焼失させ、かつシリコン粉末と炭素とを反応させて炭化ケイ素又は炭化ケイ素と炭素とからなるスポンジ状の立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体を形成する焼成工程と、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融シリコンを含浸させ立体骨格部の表面に金属シリコン層を形成する金属シリコン層形成工程と、金属シリコン層の少なくとも一部を酸化して立体骨格部にSiOを形成する酸化工程と、をこの順に行うことにある。
【0016】
そして本発明の触媒の特徴は、本発明の触媒担体のSiO層に触媒金属が担持されていることにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒担体は、立体骨格部が炭化ケイ素系セラミックスからなるので、きわめて耐熱性に優れ、1200℃程度の高温においても焼結による収縮が無い。そして金属シリコン層の少なくとも一部に形成されたSiO層は炭化ケイ素と親和性が高く立体骨格部と強固に一体化している。すなわちSiO層自体も焼結が抑制されて立体骨格部に密着しているので、そのSiO層に担持されたPtなどの触媒金属は粒成長が抑制され高分散状態を維持する。またSiO層の剥離や表面からの潜り込みによる劣化も抑制される。
【0018】
またSiO層には、空気中の水分などによってシラノール基が形成されるため、触媒担体は親水性となり吸水量が高まる。したがって触媒金属の担持時に触媒金属化合物の水溶液を用いて含浸担持法によって担持すれば、吸水量が多いため水溶液中の触媒金属化合物の濃度を低くすることができる。すなわち低濃度の水溶液を用いて広い面積に担持することができるので、触媒金属の担持密度が小さくなり、隣接する触媒金属粒子どうしが凝集する確率が小さくなる。したがって触媒金属粒子が移動して凝集することによる粒成長も防止することができる。
【0019】
したがって本発明の触媒は、高温時における触媒金属の粒成長が抑制され、耐久性にきわめて優れている。
【0020】
また本発明の触媒担体は、スポンジ状の立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体であるので、ガス拡散性にも優れている。したがって本発明の触媒は、触媒金属の粒成長が抑制されかつ高いガス拡散性を有するため、耐久後も高い触媒性能が発現される。
【0021】
そして本発明の触媒担体の製造方法によれば、本発明の触媒担体をきわめて容易にかつ安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る触媒担体の構造を示す顕微鏡写真である。
【図2】本発明の一実施例に係る触媒担体の模式的な断面図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る触媒担体の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の触媒担体の製造方法では、先ず、炭素源としての樹脂とシリコン粉末とを含むスラリー又はこのスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程を行う。ここでスポンジ状の有機多孔質構造体としては、ウレタン発泡体、発泡ゴム、発泡ポリオレフィン、段ボール紙など連続気孔を有するものを用いることができる。その形状や気孔径、気孔分布などは特に制限されず、目的に応じて種々選択することができる。
【0024】
炭素源である樹脂としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマー、または蔗糖などが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックを添加してもよく、骨材や酸化防止剤として窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などを添加することもできる。
【0025】
シリコン粉末は、平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。シリコン粉末は、純シリコン粉末であってもよいし、Mg、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Wなどの金属を含むシリコン合金粉末、あるいは純シリコン粉末とこれらの金属粉末との混合粉末を用いることもできる。
【0026】
スラリーにおける樹脂とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C=0.05〜5.00の範囲とするのが好ましい。この原子比が0.05未満では、反応焼結で生じる多孔質炭化ケイ素量が少なく、溶融シリコンの含浸が困難となる。またこの原子比が5.00を超えると、スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。
【0027】
また樹脂とシリコン粉末とを含むスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を混合したスラリーを用いることもできる。この場合、炭化ケイ素粉末はシリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0028】
スラリー中の樹脂濃度、シリコン粉末の濃度あるいは炭化ケイ素粉末の濃度は、スポンジ状の有機多孔質構造体にスラリーを含浸可能であれば特に制限されない。またスラリーに用いられる溶媒は特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられる。
【0029】
スラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0030】
除去工程では、有機多孔質構造体から余剰のスラリーが除去される。有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去するのは、連続気孔部に充填されたスラリーを除去するためであり、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを吸引する方法、あるいは有機多孔質構造体を絞って余剰のスラリーを除去する方法などを用いて行うことができる。余剰のスラリーが除去されることで、有機多孔質構造体の骨格内部や表面にスラリーが付着した前駆体が形成される。
【0031】
除去工程後には、スラリー中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行うことが望ましい。乾燥工程は大気中で行うことができ、70℃で12時間程度保持すれば十分である。
【0032】
焼成工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前駆体を加熱し樹脂を炭素化するとともに、有機多孔質構造体を分解焼失させ、かつシリコン粉末と炭素とを反応させる。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガスなど不活性ガス雰囲気が好ましい。樹脂の熱分解による炭素化過程では、タール状のものや気化物質が生成するので、真空中で行うのは好ましくない。また窒素ガス雰囲気では、窒化ケイ素が生成する場合があるので好ましくない。
【0033】
焼成工程における加熱温度は、先ず 900〜1350℃の範囲で加熱し、次いで1350℃以上の温度で加熱するのが好ましい。 900〜1350℃の範囲で加熱することで、有機多孔質構造体の骨格表面に付着している樹脂が炭素化するとともに、有機多孔質構造体が熱分解して焼失する。
【0034】
したがって炭素とシリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末で有機多孔質構造体の骨格と同様の骨格が形成される。そして1350℃以上に加熱されることで炭素とシリコン粉末とが反応し、炭化ケイ素を主成分とする立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有し、立体骨格部が緻密ではない炭化ケイ素系多孔質構造体が形成される。この反応は、シリコンと炭素が系内にあるので体積が減少する反応であり、炭素が拡散してシリコンと反応することで炭化ケイ素の生成と同時に立体骨格部の内部に微細な細孔が形成される。
【0035】
この反応では、シリコンと炭素の組成がSi/C<1であれば炭化ケイ素と未反応の炭素が残留し、Si/C>1であれば炭化ケイ素と未反応の金属シリコンが残留する。そこで本発明の製造方法は、焼成工程後の組成に応じて異なっている。
【0036】
すなわち焼成工程で形成された立体骨格部が炭化ケイ素のみ又は炭化ケイ素と炭素とからなる場合には、金属シリコンが残留していないので、焼成工程の後に金属シリコン層形成工程を行う。これが請求項4に記載の第2の製造方法に該当する。
【0037】
金属シリコン層形成工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融シリコンを含浸させ立体骨格部の表面に金属シリコン層を形成する。この工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭化ケイ素系多孔質構造体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0038】
金属シリコン層形成工程では、溶融シリコンは炭化ケイ素に対する濡れ性が良好であるので、立体骨格部の内部に形成された微細な細孔に溶融シリコンが浸入し、残留している炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、立体骨格部の内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって立体骨格部の強度が向上するとともに、投錨効果によって金属シリコン層と立体骨格部との付着強度が著しく高まる。
【0039】
そして金属シリコン層形成工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて1410℃の高温に晒されるため、残留している炭素は全て炭化ケイ素となる。
【0040】
なお金属シリコン層形成工程は、焼成工程と同時に行うこともできる。すなわち焼成工程時に先ず 900〜1350℃の範囲で加熱して炭素化した後に、溶融含浸用シリコンを加えて真空あるいは非酸化性雰囲気にて1350℃以上に焼成し、シリコン粉末と炭素を反応させて炭化ケイ素系多孔質構造体を生成させるとともに、シリコンの融点以上の温度でシリコンを溶融含浸させる。
【0041】
一方、焼成工程で形成された立体骨格部が炭化ケイ素と金属シリコンとからなる場合には、立体骨格部に金属シリコンが含まれているので、そのまま酸化工程を行うことでSiOを形成することができる。これが請求項2に記載の第1の製造方法に該当する。しかし金属シリコンの量が少ないと、触媒としての使用条件によっては、強度が不十分となる場合がある。このような場合には、請求項3に記載したように、金属シリコン層形成工程を行うことが望ましい。
【0042】
酸化工程は、立体骨格部に含まれた金属シリコン又は形成された金属シリコン層の少なくとも一部を酸化してSiO層を形成する工程である。この工程は、金属シリコンの表面を酸化することで、付着性に優れた薄いSiO層を確実に形成することができる。
【0043】
酸化によってSiO層を形成するには、金属シリコンを含む炭化ケイ素系多孔質構造体を大気中などの酸化性雰囲気中で加熱すればよい。加熱温度が高いほど、金属シリコンの総量に対して生成するSiO量が多くなることが明らかとなっており、 400℃以上で加熱することが望ましい。なお加熱時間は10分間程度保持すれば十分である。またSiO層の厚さは、加熱温度によって調整することが可能であり、加熱温度が高いほどSiO層の厚さを厚くすることができる。したがってPtなどの触媒金属を高分散状態かつ十分な担持量で担持できる厚さとすることができる加熱温度を選択すればよい。
【0044】
すなわち本発明の製造方法によって得られた触媒担体では、SiO層が金属シリコン層を介して立体骨格部に強固に付着し、あるいは金属シリコンの全部がSiOとなることでSiO層が立体骨格部に強固に付着しているので、SiO層の剥離を確実に防止することができる。また立体骨格部は炭化ケイ素を主としているので耐熱性に優れ、高温時におけるSiO層の焼結も防止される。そしてSiO層は親水性が高いので、触媒金属化合物の水溶液を多量に吸水し、それを焼成することで触媒金属を高分散担持することができる。
【0045】
本発明の触媒は、このような触媒担体のSiO層に触媒金属を担持しているので、所望の量で触媒金属を担持してもその担持密度を低くすることができる。したがって高温時における触媒金属の粒成長を防止することができ、耐久性にきわめて優れている。
【0046】
触媒金属としてPt、Pd、Rh、Irなどの貴金属を用いれば、本発明の触媒は排ガス浄化用触媒として利用できる。この場合の担持量は、触媒担体に対して 0.1〜10重量%とすることができる。また触媒金属としてTiを用い酸化チタンとして担持すれば、本発明の触媒を光触媒として利用できる。この場合の担持量は、触媒担体に対して酸化チタンとして 0.1〜5重量%とすることができる。担持法は、従来用いられている含浸担持法を用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
図1に本実施例に係る触媒担体の顕微鏡写真を示す。この触媒担体は、スポンジ状の立体骨格部と、立体骨格部の間に形成された連続気孔部と、から構成されている。立体骨格部は、図2に模式的に示すように、炭化ケイ素系セラミックスからなる基部1と、基部1の表面に形成された金属シリコン層2と、金属シリコン層2の少なくとも表面に形成されたSiO層3と、からなる。以下、この触媒担体の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0048】
フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C= 0.8になる割合にフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約 1.5倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合して、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末の 1.5倍の重量添加してスラリーを調製した。
【0049】
<含浸工程>
#30(1インチ当たり30セル数)のポリウレタンスポンジを用意し、上記分散スラリー液を十分に含浸し、スラリー液が連続気孔を塞がない程度に絞った後、70℃で12時間、乾燥させた。
【0050】
<焼成工程と金属シリコン層形成工程>
スラリーが付着したスポンジを、アルゴンガス雰囲気下にて1000℃に加熱して炭素化した。この時、スポンジが分解焼失するとともにフェノール樹脂が炭素化し、用いたスポンジと同等の骨格を有する炭素質多孔体が形成された。
【0051】
この炭素質多孔体にこの炭素質多孔体とほぼ同重量のシリコン顆粒を加えて、真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、まずシリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコン粉末と反応して、スポンジ状の炭化ケイ素と未反応の炭素からなる多孔質構造体が形成される。温度がシリコンの融点以上になるとシリコン顆粒がこの多孔質構造体に溶融含浸して残存炭素とも反応し、最終的に金属シリコン層をもつ炭化ケイ素系多孔質構造体を得る。
【0052】
<酸化工程>
次いで金属シリコン層をもつ炭化ケイ素系多孔質構造体を大気中にて 400℃、 600℃、 800℃の温度でそれぞれ加熱し、金属シリコン層表面にSiO層を形成した。加熱条件は、室温から目的とする酸化温度まで10℃/分の速度で昇温後にその酸化温度で1時間保持する条件と、酸化温度まで昇温した直後に冷却する条件との2水準で行った。
【0053】
<吸水性試験>
得られたそれぞれの触媒担体を外径約25mm、高さ約31mmの円柱形状に加工して、内径 100mmのシャーレに蒸留水を10mL垂らした上に置き、それぞれ水の吸い込み高さを観察した。結果を表1に示す。
【0054】
なお酸化工程を行わなかった金属シリコン層をもつ炭化ケイ素系多孔質構造体では、全く水には濡れずに、界面では水面が外形に沿って下がっていた。また、水中に置いても浮いていた。
【0055】
【表1】

【0056】
すなわち酸化温度が高くなるほど、吸水性が増大している。これは、大気中での加熱温度が高くなるほどSiOの形成量が多くなることを意味している。また酸化温度 400℃と 600℃以上とを比較すると、 600℃以上の方が吸水性が高いことから、酸化温度は 600℃以上が好ましいことが明らかである。また目的とする酸化温度まで昇温したら、その温度で保持してもしなくても吸水性は同一であることから、加熱保持時間は無くてよい。
【0057】
以上のことから、SiO層を形成することで吸水性が向上し、触媒金属の水性薬液を吸収させることが可能となるので、触媒担体としてはSiO層が必須であることが明らかである。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様のポリウレタンスポンジを用い、実施例1と同様にして金属シリコン層をもつ炭化ケイ素系多孔質構造体を作製した。この炭化ケイ素系多孔質構造体を実施例1と同様に保持時間無しで 600℃まで昇温して酸化し、本実施例の触媒担体を調製した。形成されたSiO層をSEM観察したところ、厚さは約30μmであった。
【0059】
ジニトロジアミン白金硝酸溶液(白金濃度:100.6g/L)を4倍の体積の蒸留水で薄めた液にこの触媒担体を浸した。水溶液の含浸量は、触媒担体の見掛けの体積14.7cc当たり3.0gであった。これを乾燥後、水素雰囲気下で 300℃にて1時間焼成した。
【0060】
得られた触媒では、触媒担体の見掛けの体積1Lあたり3gの白金が担持されている。自動車の三元触媒における白金の担持量は、ハニカム基材の見掛けの体積1Lあたり1〜2gであるから、本実施例の触媒は一般の三元触媒に対して1.5〜3倍の白金が担持されたことになる。この触媒の表面をSEM観察すると、平均粒径が約30nmの白金が観察された。
【0061】
(実施例3)
本実施例に係る触媒担体を図3に模式的に示す。この触媒担体は、多数のセル通路40をもち炭化ケイ素からなるハニカム形状の基材4からなる。基材4は、セル通路40を区画するセル隔壁41を有している。セル隔壁41の表面には、孔径が 0.2〜 0.5μm程度の無数の微細な小孔と、孔径が5〜20μmの小数の大孔が観察される。これらの小孔及び大孔が連続気孔部を構成し、小孔及び大孔を区画する立体骨格部はSiOを含む炭化ケイ素からなる。以下、この触媒担体の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0062】
炭素製片段ボール紙(チヨダコンテナー株式会社製「活性炭混抄シート」)をロール状に巻回して、断面に螺旋状に並ぶ多数のセル通路をもつハニカム体(直径27mm、長さ32mm)を形成した。次いで原子比がSi/C= 2.5の組成に調製されたこと以外は実施例1と同様のスラリーを用い、このハニカム体にスラリーを含浸させ90℃で乾燥した。
【0063】
次いでアルゴンガス雰囲気中にて1000℃で焼成して炭素化し、さらに真空中にて1450℃で焼成した。得られた焼成体は、ハニカム体に対して形状変化はほとんど無く。ハンドリング可能な強度を有していた。また炭素は含まれておらず、炭化ケイ素と金属シリコンとからなる組成であった。
【0064】
この焼成体を大気中にて 600℃で1時間加熱し、残留する金属シリコンの少なくとも表面を酸化してSiOを形成した。
【0065】
内径100mmのシャーレに蒸留水を10mL入れ、上記で得られた本実施例の触媒担体を両端面が上下方向となるように立てて置くと、シャーレ内の蒸留水は瞬時に触媒担体に吸い上げられ、この触媒担体は高い吸水性を有していた。また吸水前の重量が5.6923gであったのに対し、吸水後の重量は9.9755gであり、4.2832gの水が吸収された。
【0066】
従来の含浸担持法では、高濃度の水溶液を少量含浸させて触媒金属を担持していたのであるから、触媒金属は触媒担体の表層に高濃度に担持されていた。したがって触媒金属粒子どうしが近接し、高温時に移動することで粒成長し易かった。
【0067】
それに対し、本実施例の触媒担体を用いれば低濃度の水溶液を多量に含浸させることができるため、セル隔壁41の表層から内部まで均一に担持することができ、触媒金属粒子どうしが高分散担持される。したがって触媒金属の粒成長を抑制することができ、耐久性が向上する。
【0068】
また本実施例の触媒担体は、耐熱性に優れた炭化ケイ素に金属シリコン及びSiOが一体に接合された状態である。したがって触媒担体自体が高温時におけるシンタリングが生じにくいので、触媒担体自体のシンタリングに伴う触媒金属の粒成長も防止することができる。
【0069】
さらに本実施例の触媒担体は、セル隔壁41の表面に小孔と大孔が表出する多孔質構造体である。したがって従来の触媒担体に比べてガス拡散性に優れ、触媒金属と排ガスとの接触確率も高まることから、排ガス浄化性能も向上する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
実施例ではPtを担持する場合を説明しているが、硝酸ロジウム水溶液、硝酸パラジウム水溶液など水溶性の貴金属化合物を用いて担持する場合にも同様の作用効果が奏されることは自明である。また水溶性の酸化チタンコーティング剤を用いれば、光触媒用の触媒担体として用いることができることも自明である。
【符号の説明】
【0071】
1:基部
2:金属シリコン層
3:SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素系セラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部と該立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、
該立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、
該金属シリコン層の少なくとも一部が酸化されて形成されたSiO層と、からなることを特徴とする触媒担体。
【請求項2】
炭素源としての樹脂とシリコン粉末とを含むスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程と、
該有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去し該有機多孔質構造体の骨格及びその表面に該スラリーが付着した前駆体を形成する除去工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該前駆体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該有機多孔質構造体を焼失させ、かつ該シリコン粉末と炭素とを反応させて炭化ケイ素と金属シリコンとからなるスポンジ状の立体骨格部と該立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体を形成する焼成工程と、
該金属シリコンの少なくとも一部を酸化して該立体骨格部にSiOを形成する酸化工程と、をこの順に行うことを特徴とする触媒担体の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程と前記酸化工程との間に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前記炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融シリコンを含浸させ前記立体骨格部の表面に金属シリコン層を形成する金属シリコン層形成工程を行い、前記酸化工程で該金属シリコン層の少なくとも表面を酸化する請求項2に記載の触媒担体の製造方法。
【請求項4】
炭素源としての樹脂とシリコン粉末とを含むスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーをスポンジ状の有機多孔質構造体に含浸させる含浸工程と、
該有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去し該有機多孔質構造体の骨格及びその表面に該スラリーが付着した前駆体を形成する除去工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該前駆体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該有機多孔質構造体を焼失させ、かつ該シリコン粉末と炭素とを反応させて炭化ケイ素又は炭化ケイ素と炭素とからなるスポンジ状の立体骨格部と該立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体を形成する焼成工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて前記炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融シリコンを含浸させ前記立体骨格部の表面に金属シリコン層を形成する金属シリコン層形成工程と、
該金属シリコン層の少なくとも一部を酸化して該立体骨格部にSiOを形成する酸化工程と、をこの順に行うことを特徴とする触媒担体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の触媒担体と、該触媒担体の前記SiO層に担持された触媒金属と、からなることを特徴とする触媒。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−201362(P2010−201362A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50644(P2009−50644)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】