説明

触媒担体の製造方法

【課題】超臨界流体による触媒担持の実効性を高める製造方法の提供。
【解決手段】触媒未担持のCNT14にPt触媒を担持させるには、まず、触媒未担持のCNT14を付着済みの基板12を、Pt触媒を含むPt触媒錯体が分散した超臨界二酸化炭素の封止環境にリアクター第2容器112bにおいて置く。その上で、超臨界二酸化炭素の温度を、Pt触媒錯体の分解温度以下に維持し、基板12の加熱を経て、触媒未担持のCNT14の温度を、Pt触媒錯体の分解温度以上に維持する。これに加え、超臨界二酸化炭素の圧力については、二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)より僅かに高い7.5MPaに維持し、基板12に付着済みのCNT14に超臨界二酸化炭素を接触させ、Pt触媒をCNT14に担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を担持済みの導電性の触媒担体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池において、電解質膜の両面に電極触媒層が接合された膜電極接合体(MEA:Membrane−Electrode Assembly)が用いられているものがある。電極触媒層は、触媒を担持済みの導電性の触媒担体と、電解質樹脂とを備える。電極反応は、ガスの流路と、電解質樹脂と、触媒担持済みの触媒担体とが接する、いわゆる三相界面で、触媒を介して起こる。そのため、触媒が三相界面上にあることが好ましく、触媒担持が触媒担体において偏在しないようにする手法が要望されている。
【0003】
導電性の触媒担体としては、カーボンブラック等の粒子の他、近年になり、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも称する)がその垂直配向性や形成手法の確立等から注目され、MEAの電極触媒層に多用されつつある。そして、このCNTにおける触媒担持の偏在を抑制する手法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。こうした手法では、超臨界流体に分散した触媒をCNT担体に担持させることで、触媒を偏在しないように担持したCNT担体を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−273613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、流体を超臨界状態とするには、温度と圧力を、その流体の性質に合わせて調整することは当然ではあるものの、超臨界流体を触媒担持に利用するに当たっては、改善の余地が残されている。こうした状況に鑑み、本願の発明者は、超臨界流体による触媒担持の実効性を高めるべく鋭意検討を重ね、超臨界流体の封止環境に対する触媒担持の依存性を見出して、本発明に到った。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、超臨界流体による触媒担持の実効性を高めることをその目的とする。
【0007】
なお、このような課題は、触媒担体としてCNTを用いる場合に限らず、例えば、担体としてカーボンブラック等の粒子状の触媒担体に触媒を担持させる場合にも共通する課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0009】
[適用1:触媒担体の製造方法]
触媒を担持済みの導電性の触媒担体の製造方法であって、
前記触媒担体を表面に付着済みで前記触媒担体への触媒担持の際の基材となる基板を、前記触媒を含む触媒錯体が分散した超臨界流体の封止環境下に置いた上で、
前記超臨界流体の温度を、前記触媒錯体の分解温度以下に維持する超臨界流体温度維持と、
前記基板に付着済みの前記触媒担体の温度を、前記基板の加熱により前記触媒錯体の分解温度以上に維持する触媒担持温度維持と、
前記超臨界流体の圧力を、前記超臨界流体として用いた流体の超臨界圧力から該超臨界圧力の少なくとも1%以上増しの圧力の範囲に維持する超臨界流体圧力維持とを図って、
前記基板に付着済みの前記触媒担体に前記超臨界流体を接触させ、前記触媒を前記触媒担体に担持する
ことを要旨とする。
【0010】
上記構成を備える触媒担体の製造方法では、触媒担体を付着済み基板を超臨界流体の封止環境下に置き、この封止環境下での超臨界流体の温度を触媒錯体の分解温度以下に維持することで、超臨界流体に触媒錯体を分解させずに分散させる。また、基板に付着済みの触媒担体については、その温度が基板加熱により触媒錯体の分解温度以上に維持されていることから、基板に付着済みの触媒担体に接触した超臨界流体に分散していた触媒錯体は、触媒担体の表面で分解する。この場合、基板に付着済みの触媒担体の温度は、加熱を受ける基板の温度に依存することから、基板温度の維持を図って、当該基板に付着済みの触媒担体の温度維持を図ることができる。そして、上記した温度維持を経て、触媒は触媒担体に析出して触媒担体の表面に担持し、触媒担持済みの触媒担体が基板に付着した状態で得られる。こうして触媒担体への触媒担持は起きるものの、触媒担持の様子は、封止環境下での超臨界流体の圧力(以下、超臨界流体圧力)に依存し、この超臨界流体圧力が超臨界流体として用いた流体の超臨界圧力に満たない範囲では、触媒錯体の分散が進まないことから、触媒担体への触媒担持は低調となる。
【0011】
その一方、超臨界流体圧力が超臨界圧力の少なくとも1%以上増しの圧力の範囲内であれば、触媒担体への触媒担持が超臨界流体圧力に依存することが本願発明者により新たに知徳されるに到った。まず第1に、超臨界流体圧力がその流体の超臨界圧力の少なくとも1%以上増しで当該圧力(超臨界圧力)の近傍にあると、触媒錯体の分散が顕著に進んで触媒担持が好適となることが知徳された。また、超臨界流体圧力が超臨界圧力の少なくとも1%以上増しとはいえ、当該圧力(超臨界圧力)を例えば40%程度超える範囲までであれば、触媒担体への触媒担持は比較的緩慢となる傾向があるものの、実用上において有益であることが本願発明者により新たに知徳されるに到った。このため、超臨界流体圧力を流体の超臨界圧力から該超臨界圧力の少なくとも1%以上増しの圧力の範囲に維持することで、上記温度維持と相まって、触媒担体への触媒担持の実効性を高めることができる。具体的には、短時間での触媒担持が可能となり、触媒担体の製造効率の向上、コスト低減を図ることができる。この場合、超臨界流体圧力の維持範囲上限(例えば、上記した40%)は、触媒担体への触媒担持が比較的緩慢に起きる現象が発現する圧力として、超臨界流体や触媒錯体の種類や性質等を考慮しつつ、実験的に定めることができる。
【0012】
上記した触媒担体の製造方法は、次のような態様とすることができる。例えば、前記触媒担体を、前記基板上に略垂直に形成された垂直配向材料、例えば、垂直配向カーボンナノチューブとすることができる。このようにすると、垂直配向材料の周囲に触媒が析出して触媒を担持した触媒担体、即ち、垂直配向カーボンナノチューブといった垂直配向材料の触媒担体が基板に付着した状態で得られる。
【0013】
なお、本発明は種々の形態で実現することが可能である。例えば、触媒を担持済みの触媒担体を有する電極触媒層の製造方法に適用するには、上記のようにして得られた触媒担持済みの触媒担体が付着した基板を、触媒担体を電解質樹脂にて被覆する処理に処して、基板に付着済みの状態で触媒担持済みの触媒担体を電解質樹脂で被覆すればよい。これにより、基板において電極触媒層が形成される。また、電解質膜の両膜面に電極触媒層を接合した膜電極接合体の製造方法に適用するには、上記のようにして、基板表面に形成した電極触媒層を電解質膜の膜面に転写すればよい。また、燃料電池の製造方法に適用するには、基板表面に形成した電極触媒層が転写済みの電解質膜の両面に、電極触媒層における電気化学反応に供される反応ガスの流路を形成する反応ガス流路形成部材を配置すればよい。この他、燃料電池を備えた燃料電池システム、燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池100の断面構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1におけるX1部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】電極触媒層10の製造装置を模式的に示す模式図である。
【図4】電極触媒層の製造工程の全体の流れを示す工程図である。
【図5】触媒担持プロセスの詳細を示す工程図である。
【図6】触媒担持プロセスの様子を概念的に示す説明図である。
【図7】超臨界二酸化炭素に所定量のPt錯体を分散させた場合の圧力と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。
【図8】超臨界二酸化炭素に所定量のPt錯体を分散させて5分間だけ触媒担持を行った場合の圧力と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。
【図9】リアクター第2容器112bに導入したPt錯体溶液量と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。
【図10】リアクター第2容器112bにおける触媒担体温度を規定する基板温度と白金粒子(Pt粒子)の担持重量との関係を示すグラフである。
【図11】電極触媒層10の変形例の製造装置を模式的に示す模式図である。
【図12】変形例の触媒担持プロセスの詳細を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池100の断面構成を概略的に示す断面図、図2は図1におけるX1部を拡大して示す拡大断面図である。燃料電池100は、固体高分子型の燃料電池であり、水素と空気とを用いて発電を行う。
【0016】
燃料電池100は、図1に示すように、シール部材一体型MEA(Membrane‐Electrode Assembly:膜電極接合体)300のアノード側に、アノード側ガス拡散層410と、アノード側セパレータ500が、その順に積層され、カソード側に、カソード側ガス拡散層430とカソード側セパレータ600が、その順に積層された構成を成している。この両ガス拡散層は、電極触媒層10における電気化学反応に供される反応ガスの流路を形成する。図1では、複数のシール部材一体型MEA300、アノード側ガス拡散層410、アノード側セパレータ500、カソード側ガス拡散層430、およびカソード側セパレータ600が積層された部分の一部を抜き出して示しており、他は図示を省略している。以下、アノード側セパレータ500とカソード側セパレータ600とを、まとめて、セパレータ500、600ともいう。
【0017】
なお、冷却水を流すための冷却水流路が形成された冷却水セパレータが、所定の間隔で、アノード側セパレータ500とカソード側セパレータ600との間に配設されている(図示しない)。冷却水セパレータ内部を冷却水が流通することにより、燃料電池100の電極反応に伴って生成される熱を取り除き、燃料電池100の内部温度を所定の範囲内に保っている。
【0018】
燃料電池100は、以下の工程により製造される。まず、後述する電極触媒層の製造方法により製造された電極触媒層10を電解質膜20の両面に転写することによりMEA30を製造する。MEA30の外周にシール部材32を形成することにより、シール部材一体型MEA(Membrane‐Electrode Assembly:膜電極接合体)300を製造する。シール部材一体型MEA300のアノード側に、アノード側ガス拡散層410と、アノード側セパレータ500が、その順に積層され、カソード側に、カソード側ガス拡散層430とカソード側セパレータ600が、その順に積層された構成を成す燃料電池モジュールが、複数(例えば、400枚)積層され、その両端に集電板(図示しない)、絶縁板(図示しない)、エンドプレート(図示しない)の順に積層されるように、各構成部材を配置する。そして、燃料電池100を構成する各構成部材を、テンションプレート、テンションロッド等により、積層方向に所定の押圧力がかかった状態で締結して、燃料電池100の積層状態を保持することにより、燃料電池100が完成する。
【0019】
アノード側セパレータ500には、アノード側ガス拡散層410と対向する面に複数の凹凸状のリブ510が形成されている。同様に、カソード側セパレータ600には、カソード側ガス拡散層430と対向する面に複数の凹凸が設けられ、これによりリブ610が形成されている。セパレータ500、600が、MEA30を両側から挟み込むことによって、アノードガスとしての水素、カソードガスとしての空気が流れる流路が、それぞれ、形成される。
【0020】
燃料電池100に供給された空気は、カソード側セパレータ600のリブ610によって形成される流路を通って、カソード側ガス拡散層430に流入し、カソード側ガス拡散層430内を流通しつつ、MEA30に供給されて電極反応に利用される。同様に、燃料電池100に供給された水素は、アノード側セパレータ500のリブ510によって形成される流路を通って、アノード側ガス拡散層410に流入し、アノード側ガス拡散層410内を流通しつつ、燃料電池100内を流通して電極反応に利用される。
【0021】
なお、本実施例において、セパレータ500、600はステンレス鋼製の平板を用いるものとするが、チタンやアルミニウム等、他の金属製の平板を用いるものとしてもよいし、カーボン製の平板を用いるものとしてもよい。また、セパレータ500、600の形状は、上記したリブを備える形状に限定されない。
【0022】
また、本実施例において、アノード側ガス拡散層410およびカソード側ガス拡散層430としては、撥水加工が施されたカーボンフェルトを用いている。なお、本実施例において、MEA30とセパレータ500、600との間に、アノード側ガス拡散層410、カソード側ガス拡散層430が、それぞれ、配置される構成を例示しているが、アノード側ガス拡散層410、カソード側ガス拡散層430を備えない構成、すなわち、MEA30とセパレータ500、600とが当接する構成にしてもよい。
【0023】
図2に示すように、MEA30は、電解質膜20の両面に電極触媒層10が積層されている。本実施例において、電解質膜20としては、プロトン伝導性の固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標:以下同じ)膜:NRE212)を、用いている。なお、高分子電解質膜としては、ナフィオン(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜を用いてもよい。また、例えば、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等を用いてもよい。また、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む、機械的特性を強化した複合高分子膜を用いてもよい。
【0024】
電極触媒層10は、本実施例の触媒担体の製造方法を得て得られた導電性の触媒担体としてのカーボンナノチューブ14(以下、「CNT14」ともいう)を有し、触媒としての白金粒子16(以下、「Pt粒子16」ともいう)をCNT14に担持させ、このPt粒子16が担持されたCNT14(以下、「Pt担持CNT14c」とも称する)を、電解質樹脂18で被覆して成る。本実施例において、電解質樹脂18としてナフィオンを用いている。カーボンナノチューブ14への白金粒子16の担持、および電解質樹脂18によるカーボンナノチューブ14の被覆については後述する。
【0025】
本実施例において、導電性の触媒担体として直線状のCNT14を用いているため、被担持面の面積を広く確保して触媒(Pt粒子16)を高密度に担持させることが可能である。また、Pt担持CNT14cが電解質樹脂18で被覆されており、図2に示すように、そのCNT14が電解質膜20に対して略垂直に配向されている。反応ガスは、複数のCNT14で形成される空隙を流通するため、三相界面付近に配置されている触媒(Pt粒子16)に反応ガスが良好に供給される。その結果、触媒の有効利用率を向上させることができる。
【0026】
また、本実施例における導電性の触媒担体としてのCNT14は、上述のとおり、電解質膜20に対して略垂直に配向している。そのため、反応ガスの供給性だけでなく、電気化学反応によって生成された生成水の排出性も良好となる。本実施例では、基板上に略垂直に配向された、垂直配向CNTを用いることにより、導電性の触媒担体としてのCNT14が電解質膜20に対して略垂直に配向するMEA30を製造している。
【0027】
MEA30を構成する電極触媒層10の形成には、電極触媒層形成用の基材となる後述の基板12を用いる。垂直配向CNTは、化学的気相成長(CVD)法によって、基板12上に形成される。本実施例において、基板12の材料としては、シリコンを用いているが、シリコンに限定されず、ステンレス鋼、アルミニウム等、基板12上に略垂直にCNTを成長させるのに適した他の材料を用いてもよい。なお、垂直配向CNTは、アーク放電法、レーザー蒸着法、気相流動法によって生成された単体のCNTを、基板上に垂直に配向させることにより生成してもよい。
【0028】
なお、本実施例において、触媒として白金(Pt粒子16)を用いているが、その他、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミニウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム等の種々の金属のうち、1種または2種以上を用いることができる。また、これらの2種類以上を組み合わせた合金も、用いることができる。また、電解質樹脂18として、電解質膜20と同じ高分子樹脂(ナフィオン)を用いているが、電解質膜20と異なる高分子樹脂を用いてもよい。
【0029】
次に、電極触媒層10の製造手法について説明する。図3は電極触媒層10の製造装置を模式的に示す模式図である。電極触媒層製造装置200は、リアクター112と、二酸化炭素(CO)供給系120と、二酸化炭素排出系130と、圧力計140と、制御部150と、を備える。リアクター112は、二つの密閉容器たるリアクター第1容器112aとリアクター第2容器112bを備え、それぞれの容器内を二酸化炭素の封止領域とする。制御部150は、論理演算を行うCPU等を有するコンピューターとして構成され、後述の各種センサーの検出値等に基づいて、後述のコンプレッサー、バルブ等の制御を行う。
【0030】
リアクター第1容器112aは、超臨界二酸化炭素に後述の白金錯体溶液(以下、「Pt錯体溶液」)を分散(溶解)させて、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素を製造するための容器である。電極触媒層製造装置200は、リアクター第1容器112aに、圧力計140と、内部温度センサー151と、ヒーター152と、撹拌用プロペラ160とを備える。制御部150は、内部温度センサー151の検出したリアクター内部温度に基づいてヒーター152を制御することで、後述の触媒担持プロセスにおいて、リアクター第1容器112aの内部温度、即ち超臨界状態の二酸化炭素の温度を制御する。撹拌用プロペラ160は、リアクター第1容器112a内の流体(超臨界二酸化炭素)を撹拌する。そして、電極触媒層製造装置200は、このリアクター第1容器112aに、二酸化炭素供給系120と、二酸化炭素排出系130と、Pt錯体溶液を導入するための溶液導入路170とを接続して備える。
【0031】
リアクター第2容器112bは、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素をCNT14に接触させて、触媒としてのPtをCNT14に担持させるための容器である。リアクター第2容器112bは、蓋部114により密閉される。電極触媒層製造装置200は、このリアクター第2容器112bに、加熱装置116と、温度センサー118と、内部温度センサー153と、ヒーター154とを備える。制御部150は、内部温度センサー153の検出したリアクター内部温度に基づいてヒーター154を制御することで、後述の触媒担持プロセスにおいて、リアクター第2容器112bの内部温度、即ちPt担持の際の超臨界状態の二酸化炭素の温度を制御する。
【0032】
加熱装置116は、Pt担持および電解質樹脂被膜の際の基板12のセット対象であり、セットされた基板12を加熱することで、当該基板に形成済みのCNT14を加熱する。制御部150は、温度センサー118が検出したCNT14の温度に基づいて、加熱装置116を制御し、CNT14をPt担持の際の所定温度とする。この場合、基板12に形成済みのCNT14の温度は、加熱を受ける基板12の温度に依存することから、基板12の温度を温度センサー118にて検出し、その温度に基づいて加熱装置116を制御しても、CNT14をPt担持の際の所定温度とすることができる。電極触媒層製造装置200は、このリアクター第2容器112bに二酸化炭素排出系130を接続して備え、リアクター第1容器112aとリアクター第2容器112bとを、遮断弁145を介して接続する。遮断弁145を開弁することにより、リアクター第1容器112aで製造されたPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素は、リアクター第2容器112b内に流入する。なお、リアクター第2容器112bを、二酸化炭素排出系130に接続された図示しない吸引機器により、真空状態とすることができる。
【0033】
二酸化炭素供給系120は、二酸化炭素タンク122と、二酸化炭素ガス供給路124と、当該ガス供給路に設けられた圧力調整弁128と、コンプレッサー129とを備える。二酸化炭素タンク122は、遮断弁126を備え、遮断弁126を開閉することによって、二酸化炭素ガスの供給・停止を行う。
【0034】
二酸化炭素タンク122に貯蔵される二酸化炭素ガスは、二酸化炭素タンク122に接続された二酸化炭素ガス供給路124に放出された後、コンプレッサー129にて加圧され、圧力調整弁128による圧力調整を経て、リアクター第1容器112aに供給される。コンプレッサー129による加圧状況や上記した弁駆動状況は、制御部150にて制御される。
【0035】
二酸化炭素排出系130は、二酸化炭素ガス排出路131と、当該ガス排出路に設けられた排気弁132とを備える。後述するように、基板12上に電極触媒層10が形成された後、排気弁132を開弁することにより、リアクター第1容器112a内の二酸化炭素が、二酸化炭素ガスとして、リアクター第1容器112aから排出される。リアクター第2容器112bにおいても同様である。
【0036】
本実施例において、リアクター第1容器112aに二酸化炭素ガスを充填する場合には、最初、二酸化炭素ガスをリアクター第1容器112aに導入するとともに、排気弁132を開弁して、リアクター第1容器112a内の空気を二酸化炭素ガスに置換する。
【0037】
次に、電極触媒層10の製造工程について説明する。図4は電極触媒層の製造工程の全体の流れを示す工程図、図5は触媒担持プロセスの詳細を示す工程図、図6は触媒担持プロセスの様子を概念的に示す説明図である。
【0038】
図4に示すように、電極触媒層10を得るには、CNT14が略垂直に配向して基板表面に付着済みの基板12を準備する工程(ステップS100)と、その準備した基板12のCNT14の表面に白金粒子16を担持してCNTをPt担持CNT14c(図2参照)とする工程(ステップS200)と、Pt担持CNT14cを電解質樹脂18で被覆する工程(ステップS300)とを行う。
【0039】
ステップS100では、既述したように化学的気相成長(CVD)法により基板12の表面にCNT14を略垂直に配向させて形成するほか、アーク放電法、レーザー蒸着法、気相流動法によって生成された単体のCNTを、基板12の表面に略垂直に配向させつつ形成すればよい。この他、CNT14が略垂直に配列済みの基板12を入手してもよい。
【0040】
ステップS200の触媒担持プロセスでは、図5に示すように、まず、Pt錯体溶液をリアクター第1容器112aに導入して封止する(ステップS202)。本実施例では、CNT14に白金粒子16を担持すべく、白金(Pt)の錯体であるメチルシクロペンタジエニル白金或いはトリメチルシクロペンタジエニル白金を、白金粒子の量が担持量に相当する量となるようヘキサンで希釈し、この希釈溶液をPt錯体溶液として溶液導入路170を経てリアクター第1容器112aに導入した。本実施例では、Ptの担持対象となるCNT14に対して、500wt%以上となるよう、Pt錯体溶液を導入した。なお、Pt錯体溶液の導入に先だち、リアクター第1容器112a内の空気は、既述したように二酸化炭素ガスに置換済みであり、導入したPt錯体溶液が空気に触れることはない。
【0041】
次に、二酸化炭素供給系120からリアクター第1容器112aに二酸化炭素ガスを導入し(ステップS204)、その導入の際のコンプレッサー129の制御を経て、リアクター第1容器112a内の二酸化炭素ガスを7.5MPaまで加圧すると共に、ヒーター152の制御を経たガス温度の60℃までの昇温と、撹拌用プロペラ160によるガス攪拌とを行う(ステップS206)。二酸化炭素は、臨界点が31.1℃、7.38MPaであるため、ステップS206での昇温と加圧により、リアクター第1容器112a内の二酸化炭素は、超臨界状態(超臨界二酸化炭素)になり、Pt錯体(Pt錯体溶液)を分散させる。撹拌用プロペラ160の攪拌により、この分散は、容器内でくまなく起き、リアクター第1容器112aは、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素で満たされることになる。そして、この際のPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素は、ステップS206で調整済みの圧力・温度に維持されることになる。
【0042】
こうしたステップS206に続いて、或いはこれと並行して、触媒未担持のCNT14が略垂直に配向された基板12をリアクター第2容器112b内の加熱装置116の上にセットした上で、リアクター第2容器112bを蓋部114により密閉し、リアクター第2容器112b内を真空にする(ステップS208)。これにより、基板12は、触媒未担持のCNT14を略垂直に配向した状態で、真空環境下のリアクター第2容器112bに封止される(図6(A)参照)。
【0043】
続くステップS210では、遮断弁145を開弁して、リアクター第2容器112b内に、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素を流入させる。これにより、基板12は、図6(B)に示すように、触媒未担持のCNT14を略垂直に配向した状態で、リアクター第2容器112bにおいて、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の封止環境下に置かれることになる。この場合、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の圧力は、真空のリアクター第2容器112bへの超臨界二酸化炭素の流入に伴い若干低下するが、ステップS206では、ステップS210によるリアクター第2容器112bへの流入後において上記した7.5MPaとなるよう、予め調整される。Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の温度にあっても、リアクター第2容器112bへの超臨界二酸化炭素の流入に伴い若干低下するが、リアクター第2容器112bにおけるヒーター154にて、その温度は60℃に維持される。
【0044】
よって、リアクター第2容器112b内の触媒未担持のCNT14が略垂直に配向された基板12は、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の封止環境下に置かれた上で、この封止環境下において、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素は、その超臨界圧力(7.38MPa)より約1.6%増しの圧力(7.5MPa)に維持されることになる。また、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の温度についても、この封止環境下において上記した60℃に維持され、この温度(60℃)は、Pt錯体の分解温度(169℃)より低い。なお、本実施例では、リアクター第2容器112b内を真空にしているが(ステップS208)、リアクター第2容器112b内に二酸化炭素を充填してリアクター第1容器112aよりも圧力の低くしておき、ステップS210にて、遮断弁145を開弁した際に、両容器の差圧によりリアクター第2容器112b内にPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素が流入するようにしてもよい。この場合にも、圧力・温度は上記したように調整維持できる。
【0045】
ステップS212では、CNT14の温度が300℃になるまで、加熱装置116によって基板12を昇温させ、CNT14の温度を300℃に維持して30分間保持する。つまり、この保持の間において、触媒未担持のCNT14の温度は、加熱装置116による基板12の加熱を経て、Pt錯体の分解温度(169℃)より高い温度(300℃)に維持され、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の圧力は、上記した超臨界圧力(7.38MPa)より約1.6%増しの7.5MPaに維持され、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の温度についても、Pt錯体の分解温度(169℃)より低い温度(60℃)に維持されることになる。このステップS212における保持の間に、CNT14にPtが担持されるが、この触媒担持の様子を図でもって説明する。なお、CNT14の温度は、既述したように加熱を受ける基板12の温度に依存することから、ステップS212では、基板12をCNT14の温度(300℃)に対応した温度に維持すればよい。また、加熱装置116による基板12の昇温は、ステップS210における開弁までに完了させておくこと、つまり、ステップS210以前の処理と並行して基板12を昇温させておくようにできる。
【0046】
ステップS210にて遮断弁145を開弁した後は、図6(B)に示すように、リアクター第2容器112bの内部は、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素で満たされ、基板12は、CNT14と共にこの超臨界二酸化炭素の封止環境下に置かれる。この際、リアクター第2容器112bでは、超臨界二酸化炭素の温度はPt錯体の分解温度(169℃)より低いため、Pt錯体は、分解することなく超臨界二酸化炭素に分散し、基板12のCNT14に接触する。CNT14の昇温温度(300℃)は、Pt錯体の分解温度(約169℃)より高いため、CNT14に接触した超臨界二酸化炭素に分散していたPt錯体は、CNT14の熱を受けて分解し、Pt錯体に含まれる触媒としての白金粒子16がカーボンナノチューブ14の表面に担持されることになる。
【0047】
そして、ステップS210に続くステップS212にて、CNT14の温度が300℃に30分間に亘って保たれるので、白金粒子16が、徐々にCNT14の表面に担持される。これにより、図6(C)に示すように、基板12の表面では、CNT14の表面に白金粒子16が担持したPt担持CNT14cが略垂直に配向した状態で形成されることになる。
【0048】
ステップS214では、リアクター第2容器112bの排気弁132を開弁して、二酸化炭素をリアクター第2容器112bから排出する。続くステップS216では、二酸化炭素排出によりリアクター第2容器112bが大気圧となった状況下で養生し、リアクター第2容器112bの内部が室温まで降下するまで待機する。この場合、冷風の吹き付け等により、リアクター第2容器112bを冷却することもできる。そして、リアクター第2容器112bの冷却後、次のプロセス(電解質樹脂被覆:図4/ステップS300)に進む。
【0049】
この電解質樹脂被膜プロセスでは、上記した触媒担持プロセスで得られたPt担持CNT14cが略垂直に配向された基板12を用い、種々の手法にてPt担持CNT14cを電解質樹脂(ナフィオン)で被覆する。例えば、ナフィオンをアルコールに溶解したナフィオン溶液を、基板12のPt担持CNT14cに滴下した後乾燥させることによって、Pt担持CNT14cをナフィオン(図2における電解質樹脂18)で被覆する。或いは、図3に示した電極触媒層製造装置200と同じような構成の装置を用い、リアクター第1容器112aにて、ナフィオン溶液を分散させた超臨界流体、例えば超臨界トリフルオロメタンを作成する。そして、このナフィオン溶液分散済みの超臨界トリフルオロメタンをリアクター第2容器112bに流入させて、Pt担持CNT14cが略垂直に配向された基板12をナフィオン溶液分散済みの超臨界トリフルオロメタンの封止環境下に置き、当該封止環境下での、超臨界トリフルオロメタンの圧力・温度制御、基板冷却によるPt担持CNT14cの冷却を経て、超臨界トリフルオロメタンに分散したナフィオンをPt担持CNT14c上に析出させる。これにより、Pt担持CNT14cをナフィオン(図2における電解質樹脂18)で被覆する。これにより、電極触媒層10が基板12の表面に形成されることになる。
【0050】
こうして得られた電極触媒層10を電解質膜20の両面に転写することによりMEA30が得られ、既述したように、このMEA30の外周へのシール部材32の形成を経て、シール部材一体型MEA300を製造できる。そして、このシール部材一体型MEA300のアノード側およびカソード側への既述したガス拡散層の積層等を経て、燃料電池100を製造できる。
【0051】
以上説明したように、本実施例における電極触媒層10の製造方法では、触媒としての白金粒子16を未担持のCNT14を略垂直配向済み基板12を、リアクター第2容器112bにおいて、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の封止環境下に置き、この封止環境下での超臨界二酸化炭素の温度をPt錯体の分解温度以下に維持する(ステップS206〜212)。これにより、リアクター第2容器112bの内部において、超臨界二酸化炭素にPt錯体を分解させずに分散させる。これに加え、基板12に付着済みのCNT14(Pt未担持)については、その温度を基板12の加熱を経てPt錯体の分解温度以上に維持する(ステップS212)。これにより、基板12に略垂直配向済みのCNT14に接触した超臨界二酸化炭素に分散していたPt錯体を、Pt未担持のCNT14の表面で分解させて当該表面に析出させ、CNT14にPt触媒を担持させる。そして、Pt触媒担持済みのPt担持CNT14cを基板12に略垂直配向済みの状態で得ることができる。
【0052】
しかも、本実施例では、Pt触媒の担持が起きている超臨界二酸化炭素での封止環境下での超臨界二酸化炭素の圧力を、二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)より約1.6%増しの7.5MPaに維持した。ここで、圧力とPt担持について説明する。図7は超臨界二酸化炭素に所定量のPt錯体を分散させた場合の圧力と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。図示する各圧力は、ステップS206にて調整されるステップS212における超臨界二酸化炭素の圧力を示している。縦軸のPt担持密度(Pt粒子数密度)は、電子顕微鏡を用いて測定した。また、図7の結果は、ステップS212において、基板12に形成済みのCNT14の温度がPt錯体の分解温度(169℃)を超える300℃とする上で、基板12を加熱装置116により約300℃とした場合のものである。
【0053】
図示するように、二酸化炭素の臨界圧力(7.38MPa)より低い圧力(7.1MPa)では、Pt担持密度が低いことが判明した。これは、二酸化炭素が超臨界状態に推移していないため、Pt錯体の分散が進んでいないためと考えられる。
【0054】
その一方、この臨界圧力を超える10MPaの圧力(二酸化炭素の超臨界圧力7.38MPaの約35%増し)では、Pt担持密度は比較的緩慢となり、比較的長い担持時間(ステップS212の保持時間)とすることで、高いPt担持密度を得られた。この場合、比較的短い担持時間(30分)では、超臨界推移前の低圧力(7.1MPa)の2倍程度のPt担持密度を得ることができた。
【0055】
また、臨界圧力(7.38MPa)より僅かに高い圧力(7.4MPa、7.7MPa)では、数分程度のごく短い担持時間であっても、超臨界推移前の低圧力(7.1MPa)より4〜5倍程度の高いPt担持密度となり、30分の担持時間では、Pt担持密度はより高まった。こうした点から、超臨界二酸化炭素での封止環境下におけるPt担持の様子は、その担持速度および担持密度において、封止環境圧力(超臨界二酸化炭素圧力)に強い依存性があり、超臨界二酸化炭素圧力を高くし過ぎるとPt担持の効率が上がらず、臨界圧力を超えた近傍の圧力とすると、Pt担持の実効性が高まる。この場合、担持時間は短時間であるほどコスト的に有利であるが、触媒担持の実効性を確保する意味から、20〜30分ほどの担持時間であれば、実用上、特段の支障とはならないと予想される。
【0056】
図8は超臨界二酸化炭素に所定量のPt錯体を分散させて5分間だけ触媒担持を行った場合の圧力と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。この図8によっても、超臨界二酸化炭素での封止環境下におけるPt担持の様子は、その担持密度において、封止環境圧力(超臨界二酸化炭素圧力)に依存性のあることが判明し、臨界圧力(7.38MPa)より僅かに高い圧力範囲の方がPt担持密度が高く、圧力が上がるほど、密度が下がることが判明した。これらより、本実施例では、Pt触媒の担持が起きている超臨界二酸化炭素での封止環境下での超臨界二酸化炭素の圧力を、二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)より約1.6%増しの7.5MPaに維持した。そして、こうした圧力維持と上記した温度維持とにより、本実施例では、高い実効性でCNT14の表面に白金粒子16を担持させたPt担持CNT14c(図2参照)を得ることができた。この結果、短時間でのPt担持が可能となり、Pt担持CNT14c、延いては電極触媒層10の製造効率の向上、コスト低減を図ることができる。
【0057】
この場合、Pt触媒の担持が起きている超臨界二酸化炭素での封止環境下での超臨界二酸化炭素の圧力は、上記したように二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)より約1.6%増しの7.5MPaに維持することができるほか、超臨界流体を二酸化炭素とした上で上記のPt錯体の分散を図る際には、超臨界二酸化炭素の圧力を二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)の1%増し以上の圧力に維持したり、超臨界二酸化炭素の圧力を二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)の1〜2%増しの範囲の圧力に維持するようにすることもできる。つまり、超臨界二酸化炭素の圧力を二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)以上とした上で、超臨界二酸化炭素の圧力の維持範囲については、超臨界流体である二酸化炭素や触媒錯体(Pt錯体)の種類や性質等を考慮しつつ、実験的に定めることができる。例えば、既述したように20〜30分ほどの担持時間を確保するのであれば、超臨界二酸化炭素の圧力を二酸化炭素の超臨界圧力(7.38MPa)の約35%増しの10MPaとすること可能である。なお、図8の縦軸のPt担持密度(Pt粒子数密度)は、図7と同様に電子顕微鏡を用いて測定した。また、図8の結果は、図7と同様、基板12を加熱装置116により約300℃とした場合のものである。
【0058】
次に、Pt錯体の分散の関係について説明する。図9はリアクター第2容器112bに導入したPt錯体溶液量と白金粒子(Pt粒子)の担持粒子密度との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、リアクター第2容器112bの容積1リットル(1L)当たりのPt錯体溶液の重量(Pt仕込み濃度)であり、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaにして30分間に亘り触媒担持を行った場合の結果を示している。縦軸のPt担持密度(Pt粒子数密度)は、図7と同様に電子顕微鏡を用いて測定し、図9の結果は、図7と同様、基板12を加熱装置116により約300℃とした場合のものである。この図9から、Pt錯体溶液の重量を増やしても、Pt担持密度は重量増加に応じて増加することはなく、Pt錯体溶液を5〜20mg/Lの重量でリアクター第2容器112bに導入すれば、必要なPt担持密度が得られることが判明した。図9のグラフは、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaとしたものであるが、超臨界二酸化炭素の圧力を7.5MPaとした場合にも、同じ傾向であり、この場合でも、Pt錯体溶液を5〜20mg/Lの重量でリアクター第2容器112bに導入すればよい。なお、リアクター第2容器112bに封止するPt錯体溶液の重量は、CNT14に担持させるPt触媒の担持量や、CNT14を付着済みの基板12の基板サイズ、詳しくは基板12におけるCNT14の付着量、リアクター第2容器112bの内容積等に応じて実験的に適宜定めればよい。
【0059】
また、白金粒子(Pt粒子)の担持程度とCNT14の温度との関係を、基板12の温度推移を持って説明する。図10はリアクター第2容器112bにおける触媒担体(CNT14)の温度を規定する基板温度と白金粒子(Pt粒子)の担持重量との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は、基板12に形成済みのCNT14の温度を規定する基板12の温度であり、縦軸は、基板12に形成済みのCNT14の単位表面積当たりの白金粒子(Pt粒子)の担持重量であり、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaにして30分間に亘り触媒担持を行った場合の結果を示している。この担持重量は、触媒担持前の基板12とこれに形成済みのCNT14と、触媒担持後(ステップS212の実行後)の基板12とこれに形成済みのCNT14の重さの差から求めた。
【0060】
本実施例では、ステップS212の実行に際して、基板12に形成済みのCNT14を上記したPt錯体の分解温度(169℃)とする場合、リアクター第2容器112bにおいて基板12を加熱装置116により約250℃とする必要がある。つまり、基板12に形成済みのCNT14の温度がPt錯体の分解温度(169℃)を超える300℃とするには、リアクター第2容器112bにおいて基板12を加熱装置116により300℃以上とする必要がある。この場合、基板温度は、リアクター第2容器112bの内容積や基板12のサイズ等により設定される。そして、図10のPt粒子の担持粒子密度の推移から、基板12に形成済みのCNT14の温度を規定する基板12の温度については、基板12に形成済みのCNT14の温度をPt錯体の分解温度(169℃)を超える300℃もしくはこれを超える温度とするに当たり、300〜350℃の範囲の温度に維持することが望ましいと判明した。つまり、用いたリアクター第2容器112bでの触媒担持の実効性を確保する上では、基板12に形成済みのCNT14の温度を規定する基板12を、300〜350℃の範囲の温度に加熱装置116により維持することが望ましい。
【0061】
このように基板12の温度を300℃以上とすることが望ましいものの、基板12の温度の上昇に伴って、CNT14以外のもの、例えば加熱装置116周辺のリアクター容器内壁等にもPt粒子が担持されてしまうことが判明したので、上記温度範囲に基板12を維持することが好ましい。なお、図10のグラフは、超臨界二酸化炭素の圧力を10MPaとしたものであるが、超臨界二酸化炭素の圧力を7.5MPaとした場合も、同じ傾向であり、この場合でも、基板12を、300〜350℃の範囲の温度に加熱装置116により維持すればよい。
【0062】
また、本実施例における電極触媒層10の製造方法では、白金粒子16の触媒担体を基板12に略垂直に配向したCNT14としたので、白金粒子16を担持済みCNT14(Pt担持CNT14c)を基板12に略垂直に配向した状態で得ることができる。よって、その後の電解質樹脂18による被覆を経て、Pt担持CNT14cを電解質樹脂18で被覆した電極触媒層10を、基板12に容易に形成できる。
【0063】
次に、変形例について説明する。この変形例では、CNT14を形成済みの基板12を封止するリアクター第2容器112bにおいても、触媒担持前に当該容器内を二酸化炭素の超臨界状態としておく点に特徴がある。図11は電極触媒層10の変形例の製造装置を模式的に示す模式図である。図示するように、この変形例の電極触媒層製造装置200Aは、リアクター第2容器112bについても、二酸化炭素供給系120Aを備え、リアクター第1容器112aとは別に、リアクター第2容器112bを二酸化炭素の超臨界状態とできる。その他の機器構成は、既述した実施例と同様である。
【0064】
次に、図11の電極触媒層製造装置200Aを用いた電極触媒層10の製造工程について説明する。図12は変形例の触媒担持プロセスの詳細を示す工程図である。
【0065】
この変形例の触媒担持プロセスでは、既述した実施例プロセスと同様、CNT14を略垂直に配向して形成済みの基板12を準備した上で、リアクター第1容器112aへのPt錯体溶液の導入・封止(ステップS202)、二酸化炭素供給系120からリアクター第1容器112aへの二酸化炭素ガスの導入(ステップS204)を行い、ステップS206で、リアクター第1容器112a内の二酸化炭素を超臨界状態(超臨界二酸化炭素)とする。この際、この変形例では、コンプレッサー129の制御を経て、リアクター第1容器112a内の二酸化炭素を、その超臨界圧力(7.38MPa)を超える第1圧力Rp1(MPa)、例えば、11MPaとし、温度については、既述したように、ヒーター152の制御を経て、Pt錯体(Pt錯体溶液)の分解温度以下の60℃とする。ステップS206に続くステップS208では、既述した実施例と同様、触媒未担持のCNT14が略垂直に配向された基板12のリアクター第2容器112bへのセット、容器密閉、容器内の真空化を行う。
【0066】
この変形例では、ステップS208に続き、リアクター第2容器112bについての二酸化炭素導入とその超臨界化を行う。つまり、ステップS208に続くステップS209aでは、リアクター第2容器112bの二酸化炭素供給系120Aからリアクター第2容器112bに二酸化炭素ガスを導入した上で、続くステップS209bにて、コンプレッサー129の制御を経て、リアクター第2容器112b内の二酸化炭素を、その超臨界圧力(7.38MPa)を超えると共にステップS206の第1圧力Rp1より低圧の第2圧力Rp2(MPa)、例えば、9MPaとし、温度については、ヒーター154の制御を経て、Pt錯体(Pt錯体溶液)の分解温度以下の60℃とする。このように、ステップS209bでのガス圧力(第2圧力Rp2)をステップS206の第1圧力Rp1より低圧とするのは、後述のステップS210でのガス導入の差圧を確保するためである。この場合、この差圧は、1〜2MPa程度確保できればガス導入に支障はないことから、この差圧範囲となるよう、ステップS206の第1圧力Rp1とステップS209bでの第2圧力Rp2を定めればよい。ガス導入後の圧力については、後述する。
【0067】
続くステップS210で、既述した実施例と同様、遮断弁145を開弁した後、ステップS212での基板昇温・保持、ステップS214での二酸化炭素排出、ステップS216の養生・待機を順次行った後に、電解質樹脂被膜プロセス(図4/ステップS300)に進む。この変形例では、ステップS210での遮断弁145の開弁により、ステップS209bでのガス圧力(第2圧力Rp2)とステップS206の第1圧力Rp1との差圧に基づいて、リアクター第1容器112aのPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素は、リアクター第1容器112aからリアクター第2容器112bに流入する。この場合、リアクター第2容器112bの内部は、ステップS209bにより既に超臨界二酸化炭素で満たされているので、リアクター第1容器112aからリアクター第2容器112bにから流入したPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素は、超臨界状態を維持したままとなる。この場合、リアクター第2容器112bには、ガス導入前の第2圧力Rp2(例えば、上記した9MPa)より高い第1圧力Rp1(例えば、上記した11MPa)でPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素が流入することから、若干の圧力低下が起きるものの、その低下後の圧力はガス導入前の第2圧力Rp2より高い圧力、例えば10MPa程度となり、この圧力であれば二酸化炭素の超臨界状態に変化を来さない。上記したようにしてリアクター第2容器112bにPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素が流入してからの触媒担持の様子は、図6(B)〜(C)で説明した通りとなる。なお、この変形例におけるステップS212にあっても、既述したように、加熱装置116による基板12の昇温を、ステップS210における開弁までに完了させておくこと、つまり、ステップS210以前の処理と並行して行うようにできる。また、上記した第1圧力Rp1と第2圧力Rp2については、既述した差圧が確保でき、ガス導入後の圧力が二酸化炭素の超臨界状態に変化を来さないようにした上で、種々設定できる。
【0068】
この変形例にあっても、ステップS210での開弁に伴って、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の圧力は低下するが、その圧力低下は、上記した差圧の範囲に収まるので、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の圧力が超臨界点の圧力を下回ることはない。そして、この変形例にあっても、リアクター第2容器112bにおいて、触媒未担持のCNT14が略垂直に配向された基板12を、先の実施例と同様にPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素の封止環境下に置くので、既述した効果を奏することができる。しかも、ステップS209a〜209bにより、予めリアクター第2容器112bを超臨界二酸化炭素で満たした上で、既述した差圧によりPt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素をリアクター第2容器112bに流入させるので、例えば、リアクター第2容器112bの内容積がリアクター第1容器112aに比して大きい場合でも、Pt錯体分散済みの超臨界二酸化炭素を大きな圧力低下を招くことなくリアクター第2容器112bに流入できる。つまり、この変形例によれば、リアクター第2容器112bの大型化による電極触媒層10の大量生産化に寄与することができる。
【0069】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、次のような変形も可能である。
【0070】
上記の実施例において、導電性の触媒担体として垂直配向CNTを例示したが、導電性を有する種々の担体を用いることができる。例えば、垂直配向カーボンナノウォールを用いてもよい。また、カーボン以外の垂直ナノ材料、例えば、金属酸化物(TiN:窒化チタン,TiB:ホウ化チタン,Nb:三酸化ニオブ,ZnO:酸化亜鉛)を用いてもよい。さらに、垂直配向の担体でなく、カーボンブラック、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の炭素材料を用いてもよい。このような導電性の触媒担体を用いる場合にも、上記のように、触媒担持をリアクター112にて実行することができる。
【0071】
上記の実施例において、基板12の温度を変化させることによって、CNT14を加熱して触媒担持を図ったが、その際に採用した温度は上記実施例の温度に限定されない。
【0072】
また、上記の実施例では、白金粒子16を担持したCNT14(Pt担持CNT14c)を、燃料電池100のMEA30における電極触媒層10に用いた場合について説明したが、上記実施例の触媒担持プロセスで得たPt担持CNT14cを他の用途に用いることもできる。
【0073】
また、上記の実施例では、超臨界二酸化炭素を白金粒子16の担持に用いたが、二酸化炭素以外の超臨界流体を用いることもできる。そして、二酸化炭素以外の超臨界流体を用いる場合には、その超臨界流体と当該流体に分散させる触媒錯体の種類や性質等を考慮して、触媒の担持が起きている超臨界流体の封止環境下での超臨界流体の圧力を、当該流体の超臨界圧力以上でその近傍圧力とするよう実験的に定めることができる。
【符号の説明】
【0074】
10…電極触媒層
12…基板
14…カーボンナノチューブ(CNT)
14c…Pt担持CNT
16…白金粒子
18…電解質樹脂
20…電解質膜
30…MEA
32…シール部材
100…燃料電池
112…リアクター
112a…リアクター第1容器
112b…リアクター第2容器
114…蓋部
116…加熱装置
118…温度センサー
120、120A…二酸化炭素供給系
122…二酸化炭素タンク
124…二酸化炭素ガス供給路
126…遮断弁
128…圧力調整弁
129…コンプレッサー
130…二酸化炭素排出系
131…二酸化炭素ガス排出路
132…排気弁
140…圧力計
145…遮断弁
150…制御部
151…内部温度センサー
152…ヒーター
153…内部温度センサー
154…ヒーター
160…撹拌用プロペラ
170…溶液導入路
200、200A…電極触媒層製造装置
300…シール部材一体型MEA
410…アノード側ガス拡散層
430…カソード側ガス拡散層
500…アノード側セパレータ
510…リブ
600…カソード側セパレータ
610…リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持済みの導電性の触媒担体の製造方法であって、
前記触媒担体を表面に付着済みで前記触媒担体への触媒担持の際の基材となる基板を、前記触媒を含む触媒錯体が分散した超臨界流体の封止環境下に置いた上で、
前記超臨界流体の温度を、前記触媒錯体の分解温度以下に維持する超臨界流体温度維持と、
前記基板に付着済みの前記触媒担体の温度を、前記基板の加熱により前記触媒錯体の分解温度以上に維持する触媒担持温度維持と、
前記超臨界流体の圧力を、前記超臨界流体として用いた流体の超臨界圧力から該超臨界圧力の少なくとも1%以上増しの圧力の範囲に維持する超臨界流体圧力維持とを図って、
前記基板に付着済みの前記触媒担体に前記超臨界流体を接触させ、前記触媒を前記触媒担体に担持する触媒担体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒担体は、前記基板上に略垂直に形成された垂直配向材料である請求項1に記載の触媒担体の製造方法。
【請求項3】
前記垂直配向材料は、垂直配向カーボンナノチューブである請求項2に記載の触媒担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−76048(P2012−76048A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225359(P2010−225359)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】