説明

触媒担体

【課題】アルミナ質の基体の表面にアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層が形成されてなる触媒担体において、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体に移動して基体内のアルミナと反応することが防止ないし抑制された触媒担体を提供する。
【解決手段】3次元網目構造を有するアルミナ質の基体1の表面に、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層3を形成してなる触媒担体において、基体1と触媒担持層3との間に、ジルコニア及び/又は安定化ジルコニアよりなるジルコニア質層2が形成されている。ジルコニア質層2の平均厚みが2〜30μm、又はジルコニア質層の担持量が触媒担体全体に対して2〜30wt%であり、更にジルコニア質層を形成する原料の粒子径が5μm以下である。このジルコニア質層により、触媒担持層中のアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体中に移動することが防止ないし抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒担体に係り、詳しくは、アルミナ質の基体の表面にアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層を形成してなる触媒担体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ質の触媒担体は、化学工業において各種の反応に広く用いられている。アルミナ質の触媒担体は成形し易いため、ハニカムやフォームなどの圧力損失の小さい触媒担体を製造することができる。しかしながら、アルミナは表面に弱い酸性基を有するので副反応を起こし易いという問題がある。
【0003】
また、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担体も広く用いられている。例えば、特開2005−199264号には、アルカリ土類金属の酸化物である第1成分と、スカンジウム、イットリウム及びランタノイドからなる群より選択された少なくとも1種の元素の酸化物である第2の成分と、ジルコニア又はジルコニアを主成分とする物質である第3の成分とを混合及び成形し、焼成してなる触媒担体が記載されている。
【0004】
なお、この触媒担体は、天然ガスを改質反応させて水素及び一酸化炭素を主成分とする合成ガスを製造するための触媒担体として用いられる。製造された合成ガスは、各種製品を製造するための原料となり、あるいは、メタノール、合成ガソリン、ジメチルエーテル(DME)などといったクリーンな燃料を製造するための原料になる。
【0005】
しかし、同号の触媒担体は成形し難く、ハニカムやフォームなどの多孔質にすることが困難である。
【0006】
上記特開2005−199264号には、基体としてアルミナ等のセラミックフォームを用い、この基体の表面にアルカリ土類金属の酸化物を含有する被覆層が形成された触媒担体が記載されている。セラミックフォームは圧力損失が小さいため、このセラミックフォームを基体として用いた触媒担体も圧力損失が小さいものになる。
【特許文献1】特開2005−199264号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特開2005−199264号のように、アルミナ質の基体にアルカリ土類金属の酸化物を含有する被覆層を形成する場合、被覆層内のアルカリ土類金属が基体内に移動して該基体内のアルミナと反応し、基体の強度の低下や反応性の低下を引き起こす等の問題がある。
【0008】
なお、特開昭50−90590号には、アルミナとアルカリ土類金属との反応は、特にアルミナがγ−アルミナである場合に顕著であると記載されている。しかし、上記の天然ガスの改質反応のように非常に高温の条件に曝される場合には、耐熱性に優れたα−アルミナであってもアルカリ土類金属と反応し、担体強度の低下や反応性の低下を引き起こすことが研究により確認された。
【0009】
本発明は、アルミナ質の基体の表面にアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層が形成されてなる触媒担体において、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体に移動して基体内のアルミナと反応することが防止ないし抑制された触媒担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の触媒担体は、3次元網目構造を有するアルミナ質の基体の表面に、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層を形成してなる触媒担体において、該基体と触媒担持層との間に、ジルコニア及び/又は安定化ジルコニアよりなるジルコニア質層が形成されており、該ジルコニア質層は平均厚みが2〜30μm、又は該ジルコニア質層の担持重量が触媒担体全体に対して2〜30wt%であり、該ジルコニア質層を形成するための原料の粒子径が5μm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の触媒担体は、請求項1において、該ジルコニア質層を形成するための原料の粒子径が1μm以下であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の触媒担体は、請求項1又は2において、前記基体はα−アルミナであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の触媒担体は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記基体は、5〜40 cells per inch の網目構造を有することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の触媒担体は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記触媒担持層は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を含有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の触媒担体は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記触媒担持層は、第1の成分と、第2の成分と、第3の成分とを含み、該第1の成分は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物であり、該第2の成分は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイドよりなる群から選択された少なくとも1種の元素の酸化物であり、該第3の成分は、ジルコニア、またはジルコニアを主成分とする固体電解質性を有する物質である、ことを特徴とするものである。
【0016】
請求項7の触媒担体は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ジルコニア質層は、ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、及びセリア安定化ジルコニアよりなる群から選択された少なくとも1種よりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の触媒担体は、基体と触媒担持層との間にジルコニア質層が形成されており、このジルコニア質層はアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属と反応し難い性質を有している。このため、このジルコニア質層によって、触媒担持層中のアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体中に移動することが防止ないし抑制される。
【0018】
このジルコニア質層の平均厚みが2〜30μm、又はこのジルコニア質層の担持重量が触媒担体全体に対して2〜30wt%であるため、基体の目詰まりを生じることなく、確実にアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体中に移動することを防止ないし抑制することができる。
【0019】
このジルコニア質層を形成するための原料の粒子径は5μm以下であるため、膜厚の均一なジルコニア質層を得ることができる。
【0020】
本発明において、前記基体はα−アルミナであることが好ましい。この場合、γ−アルミナと比べて、強度が高いと共にアルカリ土類金属及びアルカリ金属との反応性が低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の触媒担体の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
第1図は実施の形態に係る触媒担体10の模式的な断面図である。第1図の通り、この触媒担体10は、基体1と、この基体1の表面に形成されたジルコニア質層2と、このジルコニア質層2の表面に形成された触媒担持層3とからなっている。この触媒担持層3に触媒成分が担持されることになる。
【0023】
この基体1は、3次元の網目構造を有するセラミックフォームよりなる。この基体1の材質は、α−アルミナ、γ−アルミナ、コーディライト、アルミナ/コーディライト、ムライト、アルミナ/ジルコニア等のアルミナ質のものである。これらの中で、適温条件下で使用する場合は特にα−アルミナが好ましい。
【0024】
セラミックフォームは、出発基材として例えば網状化軟質ポリウレタンフォームを使うため、空孔構造に大きな特徴をもつ均一な連続機構の3次元網状構造の多孔質体となる。セラミックフォームの基本構造は、網状ウレタンフォームの骨格表面にセラミック原料をコーティングし、焼成あるいは焼結してウレタンフォーム部分を焼却し、セラミック部分のみを残して得られるものである。そのため、空孔率が80〜90%と高く、さらにセラミック材料を変えることにより、耐熱性、耐衝撃性、強度、圧力損失等の調整が可能となる。
【0025】
本発明におけるセラミックフォームの網目構造は、5〜40 cells per inch(直線上25.4mm当たりに並ぶ気泡の数を平均したもの)程度、好ましくは10〜30 cells per inch程度とされる。
【0026】
この基体1の表面にジルコニア質層2が形成される。
【0027】
このジルコニア質層2の材質は、ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、およびセリア安定化ジルコニアよりなる群から選択された少なくとも1種である。
【0028】
このジルコニア質層2を形成するための原料としては、ジルコニア、安定化ジルコニア、水酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等が使用可能であるが、ジルコニア及び/又は安定化ジルコニアを用いることが好ましい。
【0029】
このジルコニア質層2を形成するための原料の平均粒子径は5μm以下、好ましくは1μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。粒子径が5μm以下であると、3次元網目構造を有する基体1の上に、均一でムラのないジルコニア質層2を形成することができる。なお、本発明において、原料の平均粒子径は動的光散乱法によって測定した値である。
【0030】
このジルコニア質層2は、以下に示す平均厚み又は触媒担体全体に対しての担持重量割合の少なくともどちらか一方を満足することが必要である。
【0031】
このジルコニア質層2の平均厚みは2〜30μmであり、好ましくは5〜30μmである。厚みが2μmよりも小さいと、触媒担持層3中のアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体1中に移動し易くなる。また、厚みが30μmよりも大きいと、触媒担体10に目詰まりが生じ、圧力損失が大きくなるため好ましくない。
【0032】
このジルコニア質層2は触媒担体10全体の2〜30wt%であり、好ましくは5〜30wt%である。2wt%よりも少ないと、触媒担持層3中のアルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属が基体1中に移動し易くなる。また、30wt%よりも多いと、触媒担体10の圧力損失が大きくなると共に、触媒担持層3が少なくなり、触媒担持機能が低下する。
【0033】
このようなジルコニア質層2を基体1の上に形成させる方法としては、例えば以下の手法によることが望ましい。すなわち、ジルコニア質層2の基本となる成分を水酸化物や酸化物の形態で所定比率含有させたスラリーを作成し、このスラリー中に基体1を浸漬させては引き上げて乾燥させる操作を一度あるいは何度か繰り返し行ない塗膜を形成させる。その後、1000℃前後の高温で焼成して所望のジルコニア質層2を形成させるようにすればよい。サイズの大きな多孔質体にジルコニア質層2を形成させる場合には、スラリーを基体1に散布してもよい。
【0034】
このジルコニア質層2の表面に、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層3が形成される。
【0035】
アルカリ土類金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種が好適に用いられる。
【0036】
アルカリ金属としては、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)、リチウム(Li)よりなる群から選択された少なくとも1種が好適に用いられる。
【0037】
この触媒担持層3の材質としては、以下の第1の成分と、第2の成分と、第3の成分とを含んでもよい。
【0038】
第1の成分としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物が用いられる。これらの酸化物の中では、特に、マグネシア(MgO)、またはカルシア(CaO)を含有するマグネシアを用いるのが好適である。
【0039】
第2の成分としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイドよりなる群から選択された少なくとも1種の元素の酸化物が用いられる。より具体的には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、およびサマリウム(Sm)よりなる群から選択された少なくとも1種の元素の酸化物が用いられる。これらの酸化物の中では、特に、セリウム(Ce)の酸化物を用いるのが好適である。
【0040】
第3の成分としては、ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、およびセリア安定化ジルコニアよりなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。これらの中では、特に、ジルコニア、またはカルシア安定化ジルコニアを用いるのが好適である。
【0041】
このような3つの成分を含有して構成される触媒担持層3をジルコニア質層2の上に形成させる方法としては、例えば以下の手法によることが望ましい。すなわち、上記第1の成分、第2の成分、および第3の成分の基本となる元素を水酸化物や酸化物の形態で所定比率含有させたスラリーを作成し、このスラリー中に、上記のジルコニア質層2が形成された基体1のうち該ジルコニア質層2が形成されている面を浸漬させては引き上げて乾燥させる操作を一度あるいは何度か繰り返し行ない塗膜を形成させる。その後、1000℃前後の高温で焼成して所望の被膜体を形成させるようにすればよい。サイズの大きなジルコニア質層2付き基体1に触媒担持層3を形成させる場合には、スラリーをジルコニア質層2に散布してもよい。3つの成分の皮膜形成は別々に行ってもよい。すなわち、例えばMgO皮膜を形成させた後にCeO2、ZrO2の皮膜を形成させたり、その逆を行ってもよい。また、3つの成分のスラリーを順に用いて皮膜形成をさせてもよいし、これを複数回繰り返してもよい。
【0042】
このようにして形成された触媒担体10には、目的の反応に応じた活性金属を担持して触媒化することもできる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0044】
実施例1
以下のようにして、第1図の構造を有する触媒担体を製造した。
【0045】
まず、基体となる多孔質体として、外径16mm、内径7mm、厚さ5mmのドーナツ状に成形したα−アルミナ製フォーム(30 cells per inch)を用意した。
【0046】
また、ジルコニア質層の原料として、Y安定化ZrO(東ソー(株)製「TZ−3Y−E」、平均粒子径10μm)を用意した。このY安定化ZrOを、粒子径が0.4μm以下になるように粒径制御した。この粒径制御は以下のようにして行った。即ち、原料粉体と水を混合し、ボールミルで24時間湿式粉砕し、粒径を制御した。
【0047】
この原料のスラリーを上記基体の表面にコーティングし、空気中で1400℃、2時間焼成して、基体上にジルコニア質層を形成した。
【0048】
次いで、水酸化マグネシウム、酸化セリウム及び水酸化ジルコニウムを、それぞれの酸化物として、MgO:CeO2:ZrO2=1:1:1(重量部)の割合で含有される触媒担持層用スラリーを用意した。このスラリーを、触媒担体上記ジルコニア質層の上にコーティングし、空気中で1320℃、2時間焼成して、MgO/CeO2/ZrO2の3成分の酸化物を有する触媒担持層を形成した。
【0049】
このようにして、触媒担体全体に対してジルコニア質層が10wt%、触媒担持層が20wt%である触媒担体を製造した。
【0050】
比較例1
ジルコニア質層を省略したことの他は実施例1と同様にして、触媒担体全体に対して触媒担持層が30wt%である触媒担体を製造した。
【0051】
即ち、実施例1と同様のα−アルミナ製フォームの上に、実施例1と同様にして触媒担持層用スラリーをコーティングし、焼成した。
【0052】
比較例2
ジルコニア質層の原料の粒径制御を行わなかったことの他は実施例1と同様にして、触媒担体全体に対してジルコニア質層が20wt%、触媒担持層が20wt%である触媒担体を製造した。
【0053】
比較例3
ジルコニア質層の原料として、Y安定化ZrOに代えて、CaO安定化ZrO(巴工業(株)製、「ZCO−GW−1」、平均粒子径45μm)を粒径制御することなく用いたことの他は実施例1と同様にして、触媒担体全体に対してジルコニア質層が10wt%、触媒担持層が20wt%である触媒担体を製造した。
【0054】
比較例4
ジルコニア質層に代えて以下のようにしてMgO層を形成したことの他は実施例1と同様にして、触媒担体全体に対してMgO層が10wt%、触媒担持層が20wt%である触媒担体を製造した。
【0055】
MgO層の原料として、MgO(協和化学工業(株)製、「パイロキスマ 5Q」、平均粒子径2μm)を粒径制御することなく用いた。この原料のスラリーを上記基体の表面にコーティングし、空気中で1400℃、2時間焼成して、基体上にMgO層を形成した。
【0056】
[EPMA分析]
<MgOの基体中への浸透距離の測定>
上記の実施例1及び比較例1〜4の試料について、空気中にて1200℃、50時間の熱処理を施す耐熱性確認試験を行った。
【0057】
EPMA(電子プローブX線マイクロアナライザー)を用い、この耐熱性確認試験の前後における、MgOの基体への浸透距離の測定を行った。その結果を表1に示す。また、第2図は比較例1の試料の断面を示すSEM写真であり、第3図は第2図の四角枠内のEPMAによる元素分析結果を示すグラフであり、アルカリ土類金属が基体内に拡散を起こした際の例を示している。
【0058】
実施例及び比較例について、上記の方法にてアルカリ土類金属であるMgOの浸透距離を求め、SEM写真からアルミナ基体に対して垂直方向となるように浸透距離を補正し、8点以上の測定点のデータから、平均ジルコニア質量厚み、MgO平均浸透距離を算出した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかな通り、実施例1の試料は、耐熱性確認試験前におけるMgOの平均浸透距離が2.3μmであり、MgOの基体への移動が極めて良好に抑制されている。また、耐熱性確認試験後におけるMgOの平均浸透距離は6.9μmであり、MgOの基体への浸透距離が比較例1〜4と比べて最も小さい。
【0061】
ジルコニア質層を有しない比較例1では、耐熱性確認試験前においてMgOの平均浸透距離が約10μm基体側に移動しており、耐熱性確認試験後では、さらに約10μm程度移動している。
【0062】
また、ジルコニア質層に代えてMgO層とした比較例4では、耐熱性確認試験前においてMgOの平均浸透距離が20.1μmと極めて大きく移動しており、耐熱性確認試験後では、さらに約10μm移動している。このことから、MgO層には、MgOが基体中に移動することを抑制する効果がないことが確認された。
【0063】
<ジルコニア質層の厚み分布の測定>
上記のEPMA分析の結果から、実施例1、比較例2及び比較例3におけるジルコニア質層の厚み分布を求めた。その結果を、第4図(実施例1)、第5図(比較例2)及び第6図(比較例3)に示す。
【0064】
第4図から明らかな通り、ジルコニア質層の原料の粒径を0.4μm以下に粒径制御した実施例1では、ジルコニア質層の厚みが極めて均一である。
【0065】
これに対し、第5,6図から明らかな通り、ジルコニア質層の原料の粒径制御を行っていない比較例2,3では、ジルコニア質層の厚みが不均一であり、厚みが極端に薄い部分と極端に厚い部分が存在している。このようなジルコニア質層の厚みが不均一であると、触媒担持層中のMgOが厚みの薄いところから基体中に容易に移動する。また、ジルコニア質層の厚みが厚い部分は目詰まりが生じ易く、その結果、偏流の発生が生じる。
【0066】
第7図は、実施例1及び比較例2において、耐熱性確認試験の前後におけるジルコニア質層の厚みとMgOの浸透距離との関係を示すグラフである。また、第8図は、比較例3において、耐熱性確認試験の前後におけるジルコニア質層の厚みとMgOの浸透距離との関係を示すグラフである。
【0067】
第7,8図から明らかな通り、比較例2,3において、ジルコニア質層の厚みが小さい部分では、MgOが基体側に浸透し易いことがわかる。
【0068】
これに対し、ジルコニア質層の原料の粒子径制御を行った実施例1では、ジルコニア質層の厚みが3〜10μmの範囲にわたり浸透距離はほとんど変わりがない。また、実施例1では、比較例2,3と比べてMgOの浸透を抑制する効果が高い。この理由は、粒子径をより小さい側で制御しているため、ジルコニア質層内において粒子間の隙間が少なくできているためであると考えられる。
【0069】
[反応性確認試験]
実施例1、比較例2及び比較例3の各触媒担体に、該担体中の貴金属種が2000wtppmとなるように、活性金属種としてロジウムを遠心分離法によって担持させた。
【0070】
詳しくは、以下に示す手法にて活性金属種を担持させた。
【0071】
フォーム担体を水に浸漬した後、遠心分離を行って過剰な溶液を除去し、フォーム担体の吸水量を測定し、この吸水量中に金属Rhとして2000wtppm相当のRh(CHCOO)を溶解しているRh溶液を5g程度調整した。
【0072】
上記のように調整されたRh溶液にフォーム担体を浸漬し、遠心分離を行って、フォーム担体にRh溶液を保持させた後、1時間風乾した後、60℃、16hrの空気乾燥、950℃、3時間の空気焼成を行って、触媒化した。
【0073】
[反応試験]
上記のように調整されたフォーム触媒を、温度分布測定用の熱電対を挿入するため、内部に外径7mmの保護管が中央に設けられた内径16mm、外径27mm、長さ70cmのステンレスチューブ反応管に充填した。
【0074】
独立に温度コントロールが可能な3つのヒーターブロックを有する環状電気炉内に上記反応管を設置し、予め900℃、1時間の水素還元処理を行った後、CH4:O2:Ar=30:15:55(モル%)からなる原料ガスを、反応温度600〜850℃、常圧、GHSV=4.0×10(1/hr)の条件(接触時間=9ms)で7時間供給し、合成ガスを製造する実験を行なった。生成ガスの流出量及びCH、CO、CO、H組成のガスクロマトグラフィーによる分析値から、以下に定義されるCH転化率、O転化率、H選択率及びCO選択率を求めた。その結果を表2に示す。
CH転化率=(メタン流入量[mol/hr]−メタン流出量[mol/hr])/(メタン流入量[mol/hr])
転化率=(O流入量[mol/hr]−O流出量[mol/hr])/(O流入量[mol/hr])
選択率=(水素流出量[mol/hr]×0.5)/(メタン流入量[mol/hr]−メタン流出量[mol/hr])
CO選択率=(CO)流出量[mol/hr])/(CH流入量[mol/hr]−CH流出量[mol/hr])
【0075】
【表2】

【0076】
ジルコニア質層を持たない比較例1は、ジルコニア質層を有する実施例1及び比較例2と比べてCH転化率及びH選択率が低い。このことから、MgOが基体中に浸透することにより、反応性能が低下することがわかる。
【0077】
また、ジルコニア質層の粒径制御を行った実施例1は、ジルコニア質層の粒径制御を行っていない比較例2よりも、MgOの局部的な浸透が抑制されている。このように、実施例1は、MgOの浸透抑制効果が比較例2に比べて高いため、触媒寿命も比較例2に比べて長いことが予測される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施の形態に係る触媒担体10の模式的な断面図である。
【図2】実施例1の試料の断面を示すSEM写真である。
【図3】第2図の四角枠内のEPMAによる元素分析結果を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるジルコニア質層の厚み分布を求めた結果を示すグラフである。
【図5】比較例2におけるジルコニア質層の厚み分布を求めた結果を示すグラフである。
【図6】比較例3におけるジルコニア質層の厚み分布を求めた結果を示すグラフである。
【図7】実施例1及び比較例2において、耐熱性確認試験の前後におけるジルコニア質層の厚みとMgOの浸透距離との関係を示すグラフである。
【図8】比較例3において、耐熱性確認試験の前後におけるジルコニア質層の厚みとMgOの浸透距離との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0079】
1 基体
2 ジルコニア質層
3 触媒担持層
10 触媒担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元網目構造を有するアルミナ質の基体の表面に、アルカリ土類金属及び/又はアルカリ金属を含有する触媒担持層を形成してなる触媒担体において、
該基体と触媒担持層との間に、ジルコニア及び/又は安定化ジルコニアよりなるジルコニア質層が形成されており、
該ジルコニア質層は平均厚みが2〜30μm、又は該ジルコニア質層の担持重量が触媒担体全体に対して2〜30wt%であり、
該ジルコニア質層を形成するための原料の粒子径が5μm以下であることを特徴とする触媒担体。
【請求項2】
請求項1において、該ジルコニア質層を形成するための原料の粒子径が1μm以下であることを特徴とする触媒担体。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記基体はα−アルミナであることを特徴とする触媒担体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記基体は、5〜40 cells per inch の網目構造を有することを特徴とする触媒担体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記触媒担持層は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物を含有することを特徴とする触媒担体。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記触媒担持層は、第1の成分と、第2の成分と、第3の成分とを含み、
該第1の成分は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、およびバリウム(Ba)よりなる群から選択された少なくとも1種のアルカリ土類金属の酸化物であり、
該第2の成分は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイドよりなる群から選択された少なくとも1種の元素の酸化物であり、
該第3の成分は、ジルコニア、またはジルコニアを主成分とする固体電解質性を有する物質である、ことを特徴とする触媒担体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記ジルコニア質層は、ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、及びセリア安定化ジルコニアよりなる群から選択された少なくとも1種よりなることを特徴とする触媒担体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−212835(P2008−212835A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54038(P2007−54038)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等との共同研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構提案公募事業「天然ガス有効利用技術」に関する研究の研究課題「新規接触酸化法による天然ガスの高効率な改質技術の実用化研究」、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】