説明

触媒液、配合液、ノルボルネン系樹脂成形体およびその成形方法

【課題】増粘が抑制され、保存安定性に優れるとともに、品質安定性に優れた成形体を与えることのできる触媒液を提供する。
【解決手段】所定のルテニウム重合触媒(A)と、下記一般式(3)で表されるピリジン誘導体(B)と、を含有することを特徴とする触媒液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘が抑制され、保存安定性に優れるとともに、品質安定性に優れた成形体を与えることのできる触媒液に関する。
【背景技術】
【0002】
反応射出成形法により、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等のノルボルネン系モノマーを、メタセシス重合触媒を用いて、型内で開環重合することにより、ノルボルネン系重合体を得る技術が知られている。
【0003】
このように反応射出成形法により得られるノルボルネン系重合体は、機械的強度、耐熱性および寸法安定性(成形体の線膨張率が小さいため、所望した通りの寸法の成形体が得られること)に優れており、その成形品は、自動車、農業機器、建設機器等の部材や、電気機器、電子機器等のハウジング等に用いられている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、反応射出成形法によりノルボルネン系重合体を得る際に、反応射出成形時の気泡の発生を防止するために、重合触媒として、所定のシッフ塩基配位メタセシス重合触媒を用いる技術が開示されている。この特許文献1によれば、反応射出成形時における気泡の発生を防止することができ、これにより、気泡に起因する成形体の強度低下を有効に防止することが可能となった。しかしながら、この特許文献1の技術では、反応射出成形に用いる触媒液の保存安定性が十分でなく、そのため、得られる成形体の品質が安定しない場合がある(品質安定性が悪い)という問題があった。
【0005】
これに対して、たとえば、特許文献2では、ルテニウムを中心金属とするメタセシス重合触媒に、ピリジンや、4−ビニルピリジンを添加して、メタセシス重合触媒を不活性化させることにより、触媒液を安定化させる技術が開示されている。しかしながら、ピリジンや、4−ビニルピリジンを用いた場合でも、メタセシス重合触媒の不活性化が不十分であり、そのため、触媒液の保存安定性を十分なものとすることができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−263469号公報
【特許文献2】特開2000−256443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、増粘が抑制され、保存安定性に優れるとともに、品質安定性に優れた成形体を与えることのできる触媒液を提供することを目的とする。また、本発明は、該触媒液を用いて得られる配合液、および該触媒液を用いて得られるノルボルネン系樹脂成形体およびその成形方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定構造のルテニウム重合触媒を含有する触媒液に、特定構造のピリジン誘導体を配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、 下記一般式(1)または(2)で表されるルテニウム重合触媒(A)と、下記一般式(3)で表されるピリジン誘導体(B)と、を含有することを特徴とする触媒液が提供される。
【化1】

(上記一般式(1)、(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基を示し、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。X1およびX2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示し、LおよびLはヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物を示す。また、R、R、X1、X2、LおよびLは、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。)
【化2】

(上記一般式(3)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基であり、R、RおよびRのうち、少なくとも2つは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基である。)
【0010】
本発明の触媒液において、前記一般式(1)および(2)中のLが、シッフ塩基配位子であることが好ましい。
【0011】
なお、本発明の触媒液において、上記ルテニウム重合触媒(A)が、下記一般式(4)で表されることが好ましい。
【化3】

(上記一般式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基を示し、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、またはヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R14、R15およびR16は、それぞれ独立して、水素原子、もしくはハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していても良い。X1は、任意のアニオン性配位子を示し、Lはヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物を示す。また、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR19、PR19またはAsR19であり、R19は、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基である。)
【0012】
本発明によれば、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させるための配合液であって、上記いずれかの触媒液と、ノルボルネン系モノマーとを含有することを特徴とする配合液が提供される。
【0013】
本発明によれば、上記の配合液を型内に注入し、型内で塊状重合を行なうことを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体の成形方法が提供される。
また、本発明によれば、上記いずれかの触媒液を、基材上に塗布する工程と、前記触媒液を塗布した基材上に、ノルボルネン系モノマーを含むモノマー液を噴射して、前記基材上で、前記ノルボルネン系モノマーを塊状重合させる工程と、を備えることを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体の成形方法が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、ノルボルネン系モノマーを塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体であって、上記一般式(3)で表されるピリジン誘導体(B)を0.01〜10重量%含有することを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、増粘が抑制され、保存安定性に優れるとともに、品質安定性に優れた成形体を与えることのできる触媒液を提供することができる。また、本発明によれば、該触媒液を用いて得られ、品質安定性に優れた成形体を与えることのできる配合液、さらには、品質安定性に優れたノルボルネン系樹脂成形体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
触媒液
本発明の触媒液は、後述する所定のルテニウム重合触媒(A)と、2つのメタ位および1つのパラ位のうち、少なくとも2つが、所定のアルキル基またはアルケニル基で置換されてなるピリジン誘導体(B)と、を含有する。
【0017】
ルテニウム重合触媒(A)
本発明の触媒液は、重合触媒として、下記一般式(1)または(2)で表されるルテニウム重合触媒(A)(以下、適宜、「ルテニウム重合触媒(A)」と略記する。)を含有する。
【化4】

【0018】
上記一般式(1)および(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、RおよびRは互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していても良いインデニレンを形成していることがより好ましく、フェニルインデニレンを形成していることが特に好ましい。
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、アリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜20のアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜8のアルキルチオ基、炭素数1〜20のカルボニルオキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホン酸基、アリールスルホン酸基、炭素数1〜20のホスホン酸基、アリールホスホン酸基、炭素数1〜20のアンモニウム基、およびアリールアンモニウム基等を挙げることができる。これらの、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、およびアリール基等を挙げることができる。
【0019】
1およびX2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0020】
およびLは、ヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物を表すが、触媒活性向上の観点からヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。ヘテロ原子とは、周期律表第15族および第16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ヒ素原子、セレン原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0021】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(5)または(6)で示される化合物が好ましく、触媒活性向上の観点から、下記一般式(5)で示される化合物が特に好ましい。
【化5】

【0022】
上記一般式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20個の有機基を表す。ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例は、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
また、R、R、RおよびRは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、RおよびRが水素原子であることが好ましい。また、RおよびRは、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基として炭素数1〜10のアルキル基を有するフェニル基がより好ましく、メシチル基が特に好ましい。
さらに、上記一般式(1)および(2)において、R、R、X1、X2、LおよびLは、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0023】
ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ化合物であり、酸素、水、カルボニル類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、芳香族類、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類等が挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いるルテニウム重合触媒(A)としては、上記一般式(1)または(2)で表される化合物のなかでも、本発明の作用効果がより顕著になるという点より、Lがシッフ塩基(Schiff base;窒素原子に炭化水素基が結合してなるイミン)配位子であることが好ましく、下記一般式(7)または(8)で表される化合物であることがより好ましい。
【化6】

【0025】
上記一般式(7)および(8)中、R10およびR11は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、さらに、R、R、X1、X2、またはLと互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。また、R、R、X1、X2、およびLは、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
なお、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
【0026】
さらに、本発明で用いるルテニウム重合触媒(A)としては、上記一般式(7)または(8)で表される化合物のなかでも、本発明の効果がより一層顕著になるという点より、下記一般式(4)で表される化合物であることがより好ましい。
【化7】

【0027】
上記一般式(4)中、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR19、PR19またはAsR19であり、R19は、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、Zとしては酸素原子が好ましい。なお、R、R、X1およびLは、上記一般式(1)および(2)の場合と同様であり、任意の組み合わせで互いに結合して多座キレート化配位子を形成しても良いが、X1およびLが多座キレート化配位子を形成せず、かつ、RおよびRは互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していても良いインデニレンを形成していることがより好ましく、フェニルインデニレンを形成していることが特に好ましい。
また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
【0028】
上記一般式(4)中、R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、またはヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環およびヘテロ環のいずれであってもよいが、芳香環を形成することが好ましく、炭素数6〜20の芳香環を形成することがより好ましく、炭素数6〜10の芳香環を形成することが特に好ましい。
【0029】
上記一般式(4)中、R14、R15およびR16は、それぞれ独立して、水素原子、もしくはハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していても良い。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
なお、R14、R15およびR16は、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であることが特に好ましい。
【0030】
また、上記一般式(4)中、R、R、X、Lは、上記一般式(1)、(2)と同様であり、任意の組み合わせで互いに結合して多座キレート化配位子を形成しても良いが、X1およびLが多座キレート化配位子を形成せず、かつ、RおよびRは互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していても良いインデニレンを形成していることがより好ましく、フェニルインデニレンを形成していることが特に好ましい。
なお、上記一般式(4)で表わされる化合物の具体例およびその製造方法としては、たとえば、国際公開第03/062253号(特開2010−77128)に記載のもの等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、上記一般式(4)で表される化合物の具体例として、下記一般式(9)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【化8】

【0032】
上記一般式(9)中、Mesは、メシチル基である。また、R14およびR16は、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基であって、少なくとも一方はメチル基であり、R15は、水素原子である。R17およびR18は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であるが、R17およびR18が、水素原子であることが好ましい。
なお、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
なお、上記一般式(9)で表わされる化合物の具体例およびその製造方法も、たとえば、国際公開第03/062253号(特開2010−77128)に記載のもの等が挙げられる。
【0033】
ピリジン誘導体(B)
本発明の触媒液は、上記したルテニウム重合触媒(A)に加えて、下記一般式(3)で表されるピリジン誘導体(B)(以下、適宜、「ピリジン誘導体(B)」と略記する。)を含有する。なお、ピリジン誘導体(B)は、重合遅延剤として作用する。
【化9】

【0034】
上記一般式(3)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基である。また、R、RおよびRのうち、少なくとも2つは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基である。すなわち、本発明で用いるピリジン誘導体(B)は、2つのメタ位および1つのパラ位(3位、4位および5位)のうち、2箇所または3箇所が置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基で置換されており、かつ、2つのオルト位(2位および6位)が、いずれも置換基で置換されていない(2つのオルト位には、いずれも、水素原子が結合している)化合物である。
【0035】
本発明においては、上記したルテニウム重合触媒(A)に、このようなピリジン誘導体(B)を組み合わせることで、得られる触媒液の増粘を抑制することができ、これにより、触媒液を保存安定性に優れたものとすることができる。また、該触媒液を、ノルボルネン系樹脂成形体を製造する際に用いることにより、得られるノルボルネン系樹脂成形体を、品質安定性に優れたものとすることができる。
【0036】
、RおよびRを構成する置換基を有していてもよいアルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4である。また、置換基を有していてもよいアルケニル基の炭素数は、2〜10であり、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。なお、これらアルキル基またはアルケニル基に導入される置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基(アルコール性水酸基)、−C(=O)−R、−OR、−C(=O)−O−R、−OC(=O)−R(Rは、いずれも炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜11のアリール基である。)などが挙げられる。
【0037】
本発明で用いるピリジン誘導体(B)としては、2つのメタ位が置換されている(RおよびRが置換されている)2置換体、1つのメタ位およびパラ位が置換されている(RおよびRが置換されている)2置換体、2つのメタ位およびパラ位が置換されている(R、RおよびRが置換されている)3置換体のいずれでもよいが、本発明の作用効果がより顕著になるという点より、2つのメタ位が置換されている2置換体、または、1つのメタ位およびパラ位が置換されている2置換体が好ましい。
【0038】
本発明の触媒液中における、ピリジン誘導体(B)の含有割合は、ルテニウム重合触媒(A)100重量部に対して、好ましくは15〜1800重量部であり、より好ましくは50〜900重量部、さらに好ましくは150〜500重量部である。ピリジン誘導体(B)の含有割合が低すぎると、ピリジン誘導体(B)の添加効果、すなわち、触媒液の安定性向上効果が不十分となる場合がある。一方、高すぎると、品質の良い成形体を得られない場合がある。
【0039】
なお、本発明の触媒液は、上述したルテニウム重合触媒(A)およびピリジン誘導体(B)に加えて、溶媒が含有されていてもよい。このような溶媒としては、ルテニウム重合触媒(A)に対して不活性な溶媒であればよく、特に限定されないが、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチルなどが挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0040】
本発明の触媒液中における、溶媒の含有割合は、ルテニウム重合触媒(A)100重量部に対して、好ましくは3,000〜25,000重量部であり、より好ましくは3,000〜20,000重量部、さらに好ましくは3,000〜15,000重量部である。
【0041】
また、本発明の触媒液は、さらに共触媒を含有していてもよい。共触媒は、ルテニウム重合触媒(A)の重合活性を向上させる効果を奏する。このような共触媒としては、特に限定されず、その具体例としては、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、アルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジメチルモノクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、テトラクロロシラン、ビシクロヘプテニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、ジヘキシルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のクロロシラン化合物;等が挙げられる。
【0042】
共触媒の使用量は、特に限定されないが、ルテニウム重合触媒(A)1モルに対して、好ましくは0.1〜100モル、より好ましくは0.2〜10モルである。共触媒の使用量が少なすぎると、重合活性が低すぎて反応に時間が掛かり、生産効率が悪くなる場合がある。一方、使用量が多すぎると、反応が激しくなりすぎ、型内に十分に充填される前に硬化する場合がある。
【0043】
配合液
本発明の配合液は、上記した本発明の触媒液と、ノルボルネン系モノマーとを含有する。
【0044】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環構造を有する化合物であればよく、特に限定されないが、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等を挙げることができる。
これらのノルボルネン系モノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;エチリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;等の置換基を有していてもよい。さらに、これらのノルボルネン系モノマーは、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、オキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0045】
このようなノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、エチレンビス(5−ノルボルネン)等が挙げられる。
ノルボルネン系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記ノルボルネン系モノマーのうち、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる成形体の耐熱性に優れる点から、三環体、四環体または五環体のノルボルネン系モノマーが好ましく、三環体のノルボルネン系モノマーがより好ましく、ジシクロペンタジエンが特に好ましい。
【0047】
また、生成する開環重合体が熱硬化型となることが好ましく、そのためには、上記ノルボルネン系モノマーの中でも、対称性のシクロペンタジエン三量体(例えば、トリシクロペンタジエン)等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを少なくとも含むものが好適に用いられる。全ノルボルネン系モノマー中の架橋性モノマーの割合は、2〜30重量%であることが好ましい。
【0048】
本発明の配合液中における、ノルボルネン系モノマー1モルに対する、ルテニウム重合触媒(A)の配合割合は、好ましくは、0.01〜50ミリモルであり、より好ましくは0.1〜20ミリモルである。ルテニウム重合触媒(A)の配合量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かり、生産効率が悪くなる場合がある。一方、配合量が多すぎると、反応が激しすぎるため、配合液が型内に十分に充填される前に硬化したり、触媒が析出したりし易くなる場合がある。
【0049】
なお、本発明の配合液には、任意成分として、充填材を配合してもよい。充填材としては、特に限定されないが、たとえば、アスペクト比が5〜100の繊維状充填材や、アスペクト比が1〜2の粒子状充填材が挙げられる。また、これら繊維状充填材と粒子状充填材を組み合わせて用いることもできる。
【0050】
繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポット型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、針状炭酸カルシウム、針状ベーマイトなどを挙げることができる。なかでも、少ない添加量で剛性を高めることができ、しかも塊状重合反応を阻害しないという点より、ウォラストナイトが好ましい。
【0051】
粒子状充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、グラファイト、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。これらの中でも、塊状重合反応を阻害しないので、炭酸カルシウムおよび水酸化アルミニウムが好ましい。
【0052】
また、上記充填材は、その表面を疎水化処理したものであることが好ましい。疎水化処理した充填材を用いることにより、配合液中における充填材の凝集・沈降を防止でき、また、ノルボルネン系モノマーの塊状開環重合体中における充填材の分散を均一にすることができる。疎水化処理に用いられる処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス等を挙げることができる。充填材の疎水化処理は、配合液を調製する際に、疎水化処理剤を同時に混合することによっても可能であるが、予め疎水化処理を行なった充填材を用いて配合液の調製を行なうことが好ましい。
【0053】
本発明の配合液中における、充填材の配合量は、ノルボルネン系モノマーおよびルテニウム重合触媒(A)の合計量100重量部に対して、10〜1000重量部であることが好ましく、100〜500重量部であることがより好ましい。充填材の配合量を上記範囲とすることにより、得られるノルボルネン系樹脂成形体の強度を十分なものとすることができる。
【0054】
また、本発明の配合液には、上記以外の各種添加剤を含有させてもよい。このような添加剤としては、改質剤、老化防止剤、着色剤、光安定剤、難燃剤などが例示される。
【0055】
本発明の配合液を調製する方法としては、たとえば、触媒液を含む反応原液(α)と、ノルボルネン系モノマーを含む反応原液(β)とを混合する方法が挙げられる。なお、充填材を使用する場合には、充填材は、いずれの反応原液に配合してもよいが、ノルボルネン系モノマーを含有する反応原液(β)に配合することが好ましい。
【0056】
ノルボルネン系樹脂成形体の成形方法
本発明のノルボルネン系樹脂成形体の成形方法は、上記配合液を、型内で塊状重合させて、ノルボルネン系樹脂成形体を得る成形方法である。
【0057】
上記配合液を型内で塊状重合させるために、たとえば、反応射出成形(RIM)装置として公知の衝突混合装置を用いることができる。
【0058】
そして、衝突混合装置に、2以上の反応原液(触媒液を含む反応原液(α)、および、ノルボルネン系モノマーを含む反応原液(β))を、それぞれ別個に導入して、ミキシングヘッドで瞬間的に混合させて、配合液とし、この配合液を型内に注入して、この型内で塊状重合させることにより、ノルボルネン系樹脂成形体を得ることができる。なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
また、供給前の反応原液の温度は、好ましくは0〜60℃であり、反応原液の粘度は、たとえば30℃において、通常、5〜3,000mPa・s、好ましくは50〜1,000mPa・s程度である。
【0059】
反応射出成形に用いる型としては、特に限定されないが、通常、雄型と雌型とで形成される金型を用いる。また、用いる型は、必ずしも剛性の高い高価な金型である必要はなく、金属製の型に限らず、樹脂製の型、または単なる型枠を用いることができる。金属製の型を用いる場合の材質としては、特に限定されないが、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等が挙げられ、鋳造、鍛造、溶射、電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。型の構造は型に重合性組成物を注入する際の圧力を勘案して決めるとよい。また、金型の型締め圧力は、ゲージ圧で0.1〜9.8MPaである。
【0060】
型温度は、好ましくは10〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃である。型締め圧力は通常0.01〜10MPaの範囲である。塊状重合の時間は適宜選択すればよいが、反応原液の注入終了後、通常20秒〜20分、好ましくは20秒〜5分である。
【0061】
雄型および雌型を対とする金型で形成されるキャビティ内に配合液を供給して塊状重合させる場合において、一般に意匠面側金型の金型温度T1(℃)を意匠面と反対側の金型の金型温度T2(℃)より高く設定しておくことが好ましい。これにより、成形体の表面外観をヒケや気泡のない美麗なものとすることができる。T1−T2は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、上限が好ましくは60℃である。T1は、上限が好ましくは110℃、より好ましくは95℃であり、下限が好ましくは50℃である。T2は、上限が好ましくは70℃、より好ましくは60℃であり、下限が好ましくは30℃である。
【0062】
金型温度を調整する方法としては、たとえば、ヒータによる金型温度の調整;金型内部に埋設した配管中に循環させる温調水、油等の熱媒体の温度調整;等が挙げられる。
【0063】
塊状重合の終了後、金型を型開きして脱型することにより、本発明のノルボルネン系樹脂成形体を得ることができる。
【0064】
あるいは、ノルボルネン系樹脂成形体をフィルム状のものとする場合には、上記方法に代えて、たとえば、次の方法により、成形体を製造してもよい。
すなわち、まず、基材上に、上記した触媒液を含む反応原液(α)を塗布し、次いで、反応原液(α)を塗布した基材上に、上記したノルボルネン系モノマーを含む反応原液(β)を噴射して、基材上で、ノルボルネン系モノマーを塊状重合させることによりノルボルネン系樹脂成形体を製造することができる。
【0065】
この方法によれば、基材上に塗布された反応原液(α)に対して、反応原液(β)を噴射することで、強い拡散力を発生させることができ、発生させた拡散力によって、基材上で、反応原液(α)と反応原液(β)とを均一に混合させることができる。
なお、この方法においては、反応原液(β)の噴射による拡散力によって、反応原液(α)と反応原液(β)とを均一に混合させるために、反応原液(α)の使用量と反応原液(β)の使用量とを所定の範囲とすることが望ましく、具体的には、「反応原液(α):反応原液(β)」の重量比で、1:100〜20:100の範囲とすることが好ましく、2:100〜10:100の範囲とすることが好ましい。反応原液(α)の使用量と反応原液(β)の使用量との比率が上記範囲外となると、反応原液(β)の噴射による拡散力による拡散効果が不十分となり、反応原液(α)と反応原液(β)との混合が不十分となる場合がある。
【0066】
上記方法において、基材上に反応原液(α)を塗布する際の塗布量としては、特に限定されないが、反応原液(α)の塗布厚みが、好ましくは1〜20μm、より好ましくは2〜10μmの範囲となるように設定すればよい。また、反応原液(α)を塗布する方法としては、特に限定されず、塗布厚みを上記範囲とできる方法であればよいが、たとえば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法の他、基材上に、後述する反応原液(β)と同様に、反応原液(α)を噴射する方法が挙げられる。また、基材としては、特に限定されず、銅、アルミニウム、鉄、ステンレスなどの金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)などの樹脂フィルムなどの公知の基材を用いることができる。
【0067】
さらに、反応原液(β)を噴射する際における噴射量としては、特に限定されないが、得られるフィルム状のノルボルネン系樹脂成形体の厚みが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜100μmの範囲となるように設定すればよい。また、反応原液(β)を噴射する方法としては、特に限定されないが、たとえば、ジェット式の噴射装置を用いることができる。反応原液(β)を噴射する際における噴射圧力としては、特に限定されないが、好ましくは0.01〜1MPa、より好ましくは0.05〜0.5MPaである。
【0068】
また、上記方法においては、反応原液(α)を塗布した基材上に反応原液(β)を噴射して、基材上で、ノルボルネン系モノマーを塊状重合させる際においては、必要に応じて、加熱してもよい。この際における、加熱温度は、好ましくは50〜220℃、より好ましくは80〜180℃、加熱時間は、好ましくは10秒〜10分、より好ましくは30秒〜5分である。
【0069】
このようにして得られる本発明のノルボルネン系樹脂成形体は、ルテニウム重合触媒(A)とピリジン誘導体(B)とを含有し、増粘が抑制され、安定性に優れる本発明の触媒液を用いて得られるものであるため、品質安定性に優れるものである。なお、本発明のノルボルネン系樹脂成形体は、本発明の触媒液を用いて得られるものであるため、本発明の触媒液中に含有されているピリジン誘導体(B)を、好ましくは、0.01〜10重量%の範囲、より好ましくは0.01〜5重量%の範囲、さらに好ましくは0.01〜3重量%の範囲で含有するものである。そして、このような本発明のノルボルネン系樹脂成形体は、上記特性を生かし、バンパーやエアデフレクター等の自動車用途、ホイルローダーやパワーショベル等の建設・産業機械用途、ゴルフカートやゲーム機等のレジャー用途、医療機器等の医療用途、大型パネルや椅子等の産業用途、シャワーパンや洗面ボウル等の住宅設備用途等に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0071】
配合液のゲル化時間(η1000)
モノマー液70g、触媒液0.9gを、それぞれ25℃で1時間保温した後、モノマー液と触媒液とを攪拌混合して、配合液とし、ストップウォッチでの計測をスタートした。また、これと同時に、得られた配合液の温度を25℃に保った状態で、B型粘度計にて、M−4ローターを用い、回転数60rpmの条件で粘度測定を開始した。そして、B型粘度計にて、配合液混合開始から粘度が1,000mPa・sになるまでの時間(単位:秒)をストップウォッチにて計測し、これを配合液のゲル化時間とした。
【0072】
なお、配合液のゲル化時間の評価に際しては、それぞれ、配合液を構成するモノマー液および触媒液として、「調製直後」のモノマー液および触媒液(すなわち、モノマー液を構成する各成分を配合した直後のモノマー液、および、触媒液を構成する各成分を混合した直後の触媒液)を用いた試験、および、「40℃、10日間保持後」のモノマー液および触媒液を用いた試験の2種類の試験を行った。「調製直後」のモノマー液および触媒液を用いた試験と、「40℃、10日間保持後」のモノマー液および触媒液を用いた試験とで、ゲル化時間の変化が小さいほど、保存安定性に優れる触媒液であると評価することができる。
【0073】
成形体のガラス転移温度(Tg)
内部に縦250mm×横200mm×厚さ3mmの空間を有するアルミニウム製雌型と、これと対をなすアルミニウム製雄型からなる反応射出成形用金型を準備し、これらをGクランプで固定して、雄型を90℃に加温した。この反応射出成形用金型は、側面中央部に反応液注入孔を有する構造となっている。
【0074】
そして、モノマー液450g、および触媒液5.9gを、それぞれ10℃で1時間冷却した後、2液を攪拌混合して配合液とし、反応液注入孔より注入圧力0.2MPaで反応射出成形用金型に注入した。そして、10分後に、反応射出成形用金型から成形体を取り出し、取り出した成形体を140℃のオーブンで1時間加温することにより、ノルボルネン系樹脂成形体を得た。
【0075】
次いで、得られたノルボルネン系樹脂成形体を、5mm×3mm×10mmの大きさに加工した。その後、熱機械分析装置(セイコーインスツルメンツ社製 TMA-SS6100)を使用し、昇温速度10℃/min.で30℃から220℃まで昇温させて、TMA曲線の測定を行った。そして、得られたTMA曲線より、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、高温側のベースラインを低温側に延長した直線との交点の値を読み取り、これをガラス転移温度(Tg)とした。
【0076】
なお、成形体のガラス転移温度(Tg)の評価に際しては、それぞれ、配合液を構成するモノマー液および触媒液として、「調製直後」のモノマー液および触媒液(すなわち、モノマー液を構成する各成分を配合した直後のモノマー液、および、触媒液を構成する各成分を混合した直後の触媒液)を用いた試験、および、「40℃、10日間保持後」のモノマー液および触媒液を用いた試験の2種類の試験を行った。「調製直後」のモノマー液および触媒液を用いた試験と、「40℃、10日間保持後」のモノマー液および触媒液を用いた試験とで、成形体のガラス転移温度(Tg)の変化が小さいほど、保存安定性に優れた触媒液であり、また、得られる成形体についても、品質安定性に優れるものと評価することができる。
【0077】
実施例1
モノマー液の調製
1Lのヘンシェルミキサーに、粒子状充填材(水酸化アルミニウム、商品名:ハイジライト、昭和電工社製)100部を投入し、槽内温度20℃、翼先端速度20m/sで撹拌した。次いで、ヘンシェルミキサー内に、ビニルトリメトキシシラン0.5部を噴霧することにより添加し、噴霧終了後、翼先端速度20m/sで1分間撹拌した。その後、イナートオーブンにて、温度110℃、1時間乾燥し、乾燥終了後、20℃まで冷却した。
【0078】
次いで、ヘンシェルミキサー内に、チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ社製、商品名「プレンアクトKR−TTS」)0.5部を噴霧することにより添加した。噴霧終了後、翼先端速度20m/sで1分間撹拌した。その後、イナートオーブンにて、温度110℃、1時間乾燥し、乾燥終了後、20℃まで冷却することにより、粒子状充填材の表面にカップリング剤層を2層積層被覆してなる表面被覆型無機充填材を得た。
【0079】
そして、ジシクロペンタジエン90部、トリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーを調製し、調製した混合モノマー100部に、上記にて作製した表面被覆型無機充填剤を257部添加し、ホモジナイザーを用いて、回転数13500rpm、1分間の条件でせん断分散することにより、ノルボルネン系モノマーと、表面被覆型無機充填材と、を含有するモノマー液を得た。
【0080】
触媒液の調製
上記とは別に、下記式(10)で示すルテニウム触媒(Stream Chemicals社製)0.7部、および2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT、老化防止剤)15部を、トルエン81.3部に溶解させ、次いで、これに3,4−ジメチルピリジン2.9部、およびフェニルトリクロロシラン0.1部を混合することにより、触媒液を得た。
【化10】

【0081】
そして、上記にて得られたモノマー液および触媒液を用いて、配合液のゲル化時間の測定および成形体のガラス転移温度(Tg)の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0082】
実施例2,3
触媒液を調製する際に、3,4−ジメチルピリジン2.9部の代わりに、3,5−ジメチルピリジン2.9部(実施例2)、および、3,5−ジエチルピリジン3.7部(実施例3)を、それぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、モノマー液および触媒液を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
比較例1〜8
触媒液を調製する際に、3,4−ジメチルピリジン2.9部の代わりに、ピリジン2.1部(比較例1)、4−メチルピリジン2.5部(比較例2)、2,6−ジメチルピリジン2.9部(比較例3)、2,4−ジメチルピリジン2.9部(比較例4)、2,4,6−トリメチルピリジン3.3部(比較例5)、2,3,5−トリメチルピリジン3.3部(比較例6)、2−ピリジンエタノール3.3部(比較例7)、および、4−(3−フェニルプロピル)ピリジン5.3部(比較例8)を、それぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして、モノマー液および触媒液を調製し、同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1〜3、比較例1〜8の評価
表1より、2つのメタ位および1つのパラ位のうち、少なくとも2つが、所定のアルキル基で置換されてなるピリジン誘導体(B)を配合した触媒液は、ゲル化時間がいずれも70秒以上と長く、増粘が抑制され(すなわち、反応制御性に優れる)、「調製直後」と「40℃、10日間保持後」とで、ゲル化時間もほとんど変化せず、保存安定性に優れるものであり、さらには、該触媒液を用いて得られる成形体は、「調製直後」と「40℃、10日間保持後」とで、ガラス転移温度(Tg)がほとんど変化せず、品質安定性に優れるものであった(実施例1〜3)。
【0086】
一方、置換基を有しないピリジン誘導体、オルト位に置換基を有するピリジン誘導体を配合した触媒液は、モノマー液と配合した際に即座に硬化してしまい、反応制御性に劣る結果であった(比較例1,3〜7)。特に、比較例4〜6の結果より、メタ位またはパラ位に加えて、オルト位に、所定のアルキル基からなる置換基を有する場合においても、反応制御性に劣るものとなることが確認できた。
また、パラ位のみに所定のアルキル基を有するピリジン誘導体を配合した触媒液は、反応制御性を奏するものの、「調製直後」と「40℃、10日間保持後」とで、ゲル化時間の変化が大きく、保存安定性に劣り、さらには、該触媒液を用いて得られる成形体も、「調製直後」と「40℃、10日間保持後」とで、ガラス転移温度(Tg)の変化が大きく、品質安定性に優るものであった(比較例2,8)。
【0087】
実施例4
まず、ジシクロペンタジエン90部、トリシクロペンタジエン10部を混合することにより、モノマー液を調製した。また、上述した実施例1と同様にして、触媒液を調製した。
【0088】
そして、触媒液0.03部を、基材としての平滑な銅板上の10cm×10cmの範囲に、ジェット式噴射装置(武蔵エンジニアリング社製 非接触ジェットディスペンサーCyberJet)を用いて、噴射することにより均一に塗布した。次いで、モノマー液0.5部を、触媒液を塗布した基材上の10cm×10cmの範囲に、上記と同じジェット式噴射装置を用いて、噴射し、次いで、オーブンにて140℃下、5分間加熱することにより、厚み30μmのフィルム状のノルボルネン系樹脂成形体を得た。
【0089】
得られたノルボルネン系樹脂成形体について、外観を検査したところ、全体として透明であり、触媒液とモノマー液とが均一に拡散していることが確認できた。
【0090】
参考例1
まず、基材上に、モノマー液0.5部を、実施例4と同じジェット式噴射装置を用いて、噴射により塗布し、次いで、モノマー液を塗布した基材上に、触媒液0.03部を、実施例4と同じジェット式噴射装置を用いて、噴射により塗布した以外は、実施例4と同様にして、フィルム状のノルボルネン系樹脂成形体を得た。
【0091】
そして、得られたノルボルネン系樹脂成形体について、実施例4と同様に外観を検査したところ、ノルボルネン系樹脂成形体には、触媒液の色の濃淡が多数観察され、触媒液とモノマー液との混合が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(2)で表されるルテニウム重合触媒(A)と、下記一般式(3)で表されるピリジン誘導体(B)と、を含有することを特徴とする触媒液。
【化11】

(上記一般式(1)、(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基を示し、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。X1およびX2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示し、LおよびLはヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物を示す。また、R、R、X1、X2、LおよびLは、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。)
【化12】

(上記一般式(3)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基であり、R、RおよびRのうち、少なくとも2つは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)および(2)中のLが、シッフ塩基配位子であることを特徴とする請求項1に記載の触媒液。
【請求項3】
ルテニウム重合触媒(A)が、下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項1に記載の触媒液。
【化13】

(上記一般式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基を示し、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、またはヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R14、R15およびR16は、それぞれ独立して、水素原子、もしくはハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していても良い。X1は、任意のアニオン性配位子を示し、Lはヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性の電子供与性化合物を示す。また、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR19、PR19またはAsR19であり、R19は、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の有機基である。)
【請求項4】
ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させるための配合液であって、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の触媒液と、ノルボルネン系モノマーとを含有することを特徴とする配合液。
【請求項5】
請求項4に記載の配合液を型内に注入し、型内で塊状重合を行なうことを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体の成形方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の触媒液を、基材上に塗布する工程と、
前記触媒液を塗布した基材上に、ノルボルネン系モノマーを含むモノマー液を噴射して、前記基材上で、前記ノルボルネン系モノマーを塊状重合させる工程と、を備えることを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体の成形方法。
【請求項7】
ノルボルネン系モノマーを塊状重合させて得られるノルボルネン系樹脂成形体であって、下記一般式(3)で表されるピリジン誘導体を0.01〜10重量%含有することを特徴とするノルボルネン系樹脂成形体。
【化14】

(上記一般式(3)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基であり、R、RおよびRのうち、少なくとも2つは、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基である。)

【公開番号】特開2011−246549(P2011−246549A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119289(P2010−119289)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(503423096)RIMTEC株式会社 (23)
【Fターム(参考)】