説明

触媒評価装置

【課題】リッチスパイク投入口の構成、 並びに加熱混合部の構成を抜本的に変更して、リッチスパイクに対する触媒前の濃度変化の高速化に適合し、切れのよい濃度変化を得るようにした、模擬排ガスによる触媒の性能を評価するための触媒評価装置を提供すること。
【解決手段】軸方向の一端に、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスを導入する排ガス導入口2を供え、前記排ガスを、加熱混合(ミキシング)部5並びに該加熱混合部の下流側に連続する触媒収容部6により形成される流路内に流通させて触媒評価する触媒評価装置において、前記加熱混合部5における流路FPに対して、交差する方向からリッチスパイクを投入するリッチスパイク投入口11を設け、前記加熱混合部を細長い混合管12によって形成したことを特徴とする触媒評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などのエンジンに連なる排気管などに設けられる触媒を評価する装置であって、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスによって触媒の性能を評価するための触媒評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
触媒評価装置とは、試験ガス発生部でエンジンの模擬排ガスを発生させ、CO、CO2、NO、NO2、HCやN2をそれぞれのボンベから独立して流量制御することにより、任意の排ガス組成や流量を設定する構成を含んでいて、水分添加部で水分を添加した模擬排ガスを反応炉に導入し、反応炉内に固定してある触媒に対して排ガスと等価の熱量を与え、触媒前後のガス濃度を計測することにより触媒の浄化性能を評価するようにした装置である。
【0003】
一方、燃費性能に優れた希薄燃焼エンジンは、排出されるCO2の低減に役立つことから地球温暖化対策のひとつとして注目されている。しかしながら、希薄燃焼では、排気が酸素過多となり、従来の三元触媒によるNOX低減ができないため、希薄燃焼下でも低減を可能にするNOX吸蔵還元触媒の実用化が進められてきた。
【0004】
NOX吸蔵還元触媒は、燃料希薄燃焼下(以下、リーンという)では、NOXは貴金属上で酸化され、主に硝酸塩の形でNOX吸蔵材に吸蔵される。吸蔵されたNOXは、排気中への燃料添加により燃料過濃度(以下、リッチという)な雰囲気を形成させるとNOX吸蔵材からNOと多量の活性酸素が放出される。NOXは、排気ガス中のHC、COによって還元され窒素になる。このように、リッチ並びにリーンの切り替えを最適に制御することでNOXの低減が可能になる。
【0005】
従来の技術において、初期の触媒評価装置の例を、図4に示す。この例になる触媒評価装置21は、例えば、排気ガスに対する燃料添加などにより、瞬間的にリッチ雰囲気を与えるためのリッチスパイク手段を備えていない。この初期の触媒評価装置21は、模擬排ガス導入口22を備えた反応管23により構成されており、該反応管23は、ヒーター24によって加熱される加熱ミキシング部25と、その下流側に連続する触媒収容部26とを含むものからなっている。前記加熱ミキシング部25の内部には、石英のラシニング材27が挿入されていて、ガスの混合、触媒前の温度コントロールを行なっている。前記反応管22における触媒収容部26の内部には、触媒28がセットされていて、該触媒の上流側に、触媒前ガス採取部29が設けてあり、前記触媒の下流側に、触媒後ガス採取部30が設けてある。
【0006】
図4に示す触媒評価装置21による濃度変化は、図6において、曲線Aで示すとおり、極めて切れの悪いものであった。このような初期の触媒評価装置21に対して、NOX吸蔵還元触媒の試験が必要になってきた。この要求に対して、上記する従来の触媒評価装置21に対し、図5に示すように、その加熱ミキシング部25の上流側にリッチスパイク投入口31を設ける試みがなされた。このリッチスパイク投入口31の位置は、リッチスパイク投入時に、できるだけ早く触媒入口のガス濃度が安定するように考慮されている。その理由は、触媒の性格上、切れのいい濃度変化が必要だからである。
【0007】
しかしながら、図5に示すように、リッチスパイク投入口31を設けた構成のものでも、リッチスパイクに対する触媒前の濃度変化は、図6において、曲線Bで示すように切れの悪いものであった。
【0008】
さらに、その後、触媒の性能が向上するにつれ、一層精密な試験が必要になり、さらなる性能向上(リッチスパイクに対する触媒前濃度変化の高速化)の要望があった。
【0009】
【特許文献1】特開平10−121057号公報(要約、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明では、上記する従来技術の問題点を解消すべくなしたものであって、特に重要な要素は、リッチスパイク投入口の構成、 並びに加熱混合部の構成を抜本的に変更して、リッチスパイクに対する触媒前の濃度変化の高速化に適合し、切れのよい濃度変化を得るようにした、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスによる触媒の性能を評価するための触媒評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記する目的を達成するにあたって、請求項1に記載の発明は、軸方向の一端に、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスを導入する排ガス導入口を供え、前記排ガスを、加熱混合(ミキシング)部並びに該加熱混合部の下流側に連続する触媒収容部により形成される流路内に流通させて触媒評価する触媒評価装置において、
前記加熱混合部における流路に対して、交差する方向からリッチスパイクを投入するリッチスパイク投入口を設け、前記加熱混合部を細長い混合管によって形成したことを特徴とする触媒評価装置を構成するものである。
【0012】
さらに、この発明において、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の触媒評価装置であって、前記混合管が、石英、セラミック、その他の不活性材でなることを特徴とするものである。
【0013】
さらにまた、この発明において、請求項3に記載の発明は、請求項1あるいは請求項2に記載の触媒評価装置であって、前記混合管が、細長いスタティックミキサーであることを特徴とするものでもある。
【0014】
さらに、この発明において、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の触媒評価装置であって、前記スタティックミキサーが、細長い外管部材と、前記外管部材内に軸方向に連続して配置した少なくとも二種類の異なる流路規制をする複数個の流路規制エレメントとを含むものからなることを特徴とするものである。
【0015】
さらに、この発明において、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の触媒評価装置であって、前記流路規制エレメントが、長方形板体を右方向に180度捩じった右捩じりエレメントと、左方向に180度捩じった左捩じりエレメントとからなり、前記外管部材内に前記右捩じりエレメントと左捩じりエレメントとを交互に配置してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明になる触媒評価装置によれば、前記加熱混合部における流路に対して、交差する方向からリッチスパイクを投入するリッチスパイク投入口を設けたことにより、乱流をつくり混合を促進することができ、加えて、加熱混合部を細長い混合管によって形成したことにより、一層混合の促進化が図れ、結果的に、リッチパルスに対する圧倒的に早い濃度変化が得られ、精密な触媒評価を可能とした点において極めて有効に作用するものといえる。
【0017】
さらに、この発明になる触媒評価装置によれば、混合管を細長いスタティックミキサーにより構成したことにより、より一層混合の促進化が図れ、結果的に、リッチパルスに対する圧倒的に早い濃度変化が得られ、より精密な触媒評価を可能とした点において極めて有効に作用するものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明になる触媒評価装置について、図1〜図3および図6に示す具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明になる触媒評価装置の基本的な構成例を示す概略的な側断面図である。図2は、混合管として適用されるスタティックミキサーの例を示すものであって、図2Aは、軸方向の一部を破断して示す概略的な縦断面図であり、図2Bは、図2A中、矢印Yaの方向からみた概略的な側面図である。図3は、スタティックミキサーにおける流路規制エレメントの例を示すものであって、図3Aは、右捩じりエレメントと左捩じりエレメントの接続関係を示す概略的な側面図であり、図3Bは、図3A中、矢印Ybの方向からみた概略的な側面図である。
【0019】
この発明になる触媒評価装置1は、基本的には、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスを導入する排ガス導入口2を備えた反応管3により構成されており、該反応管3は、ヒーター4によって加熱される加熱混合部5と、その下流側に流路FPに沿って連続する触媒収容部6とを含むものからなっている。この発明になる触媒評価装置1において、前記加熱混合部5における流路FPに対して、交差する方向からリッチスパイクを投入するためのリッチスパイク投入口11が設けてある。さらに、この発明において、前記加熱混合部5は、細長い混合管12によって形成されているものであり、その具体的な実施例については後述する。
【0020】
この発明になる触媒評価装置1において、前記反応管2における触媒収容部6の内部には、触媒8がセットされていて、該触媒8の上流側8aに、触媒前ガス採取部9が設けてあり、前記触媒8の下流側8bに、触媒後ガス採取部10が設けてある。
【0021】
前記加熱混合部5を構成する細長い混合管12についての具体的な実施例について説明する。前記混合管12は、石英、セラミック、その他の不活性材によって細長い筒体に成形されているものであり、径方向の寸法Xに対して、軸方向の寸法Yが約10X乃至40X程度のものからなっている。例えば、極めて好ましい実施例によれば、径方向の寸法Xについては、外径が約10mm程度 (内径は約8mm程度)であり、軸方向の寸法Yは、約200mm〜260mm程度である。この寸法的な要素は、総サンプル流量10リッター/分から30リッター/分の流量で、軸方向の寸法が約200mm〜260mm程度の間で性能が確認されている。なお、前記混合管12についての径方向の寸法Xと軸方向の寸法Yとの比率は、上記する数値範囲に限定されるものではなく、例えば、この触媒評価にあって、その仕様によって総サンプル流量が変わるに応じて、その流量によって適正な軸方向の寸法を設計するというものであり、その設計の範囲内において、細長い管として定義されるものである。
【0022】
さらに、この発明において、前記加熱混合部5を構成する混合管12として、細長いスタティックミキサーSMが極めて効果的に適用される。このスタティックミキサーSMは、細長い外管部材13と、前記外管部材13内に軸方向に連続して配置した少なくとも二種類の異なる流路規制をする複数個の流路規制エレメント14とを含むものからなっている。この流路規制エレメント14は、図3に示すように、長方形板体を右方向に180度捩じった右捩じりエレメント14Aと、左方向に180度捩じった左捩じりエレメント14Bとの組み合わせによって構成されており、前記外管部材13内に前記右捩じりエレメント14Aと左捩じりエレメント14Bとを交互に配置したものからなっている。
【0023】
このスタティックミキサーSMにおける流路規制エレメント14によれば、流体は、一つの流路規制エレメントを通過するごとに二分割され(分割作用)、エレメント内の捩じれ面に沿って管中央部から外管部材13の管壁部へ、管壁部から管中央部へと並び替えられ(転換作用)、1エレメントごとに回転方向が変わり、急激な慣性力の反転を受け乱流攪拌され(反転作用)、それらにより、流体を極めて効果的に混合する。
【0024】
以上の構成になる触媒評価装置1によれば、図6に示すように、従来の技術と比較してリッチスパイクに対する圧倒的に早い濃度変化が得られ、精密な触媒評価が可能なものになった。この図6において、曲線Aは、図4に示す従来初期の触媒評価装置によるデータであり、曲線Bは、図5に示す従来の改良された触媒評価装置によるデータであり、曲線Cは、この発明になる触媒評価装置1によるデータであって、一見して曲線Cが最も切れのよい濃度変化をもたらすものであることが実証された。
【0025】
なお、この発明になる触媒評価装置では、希薄燃焼下においてもNOX低減を可能とするNOX吸蔵還元触媒の触媒評価に対して極めて効果的に適合することが実証されている。加えて、この発明になる触媒評価装置による触媒評価よれば、上記するNOX吸蔵還元触媒の触媒評価にのみ限定されるものではなく、NOX吸蔵還元触媒以外の触媒評価にも効果的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、この発明になる触媒評価装置の基本的な構成例を示す概略的な側断面図である。
【図2】図2は、混合管として適用されるスタティックミキサーの実施例を示すものであって、図2Aは、軸方向の一部を破断して示す概略的な縦断面図であり、図2Bは、図2A中、矢印Yaの方向からみた概略的な側面図である。
【図3】図3は、スタティックミキサーにおける流路規制エレメントの例を示すものであって、図3Aは、右捩じりエレメントと左捩じりエレメントの接続関係を示す概略的な側面図であり、図3Bは、図3Aにおいて、矢印Ybの方向からみた概略的な側面図である。
【図4】図4は、従来初期の触媒評価装置の構成例を示す概略的な側断面図である。
【図5】図5は、従来の改良された触媒評価装置の例を示す概略的な側断面図である。
【図6】図6は、この発明になる触媒評価装置と、従来の触媒評価装置とによる濃度変化を比較して示す濃度−時間曲線グラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 触媒評価装置
2 排ガス導入口
3 反応管
4 ヒーター
5 加熱混合部
6 触媒収容部
FP 流路
8 触媒
8a 触媒の上流側
8b 触媒の下流側
9 触媒前ガス採取部
10 触媒後ガス採取部
11 リッチスパイク投入口
12 細長い混合管
SM スタティックミキサー
13 外管部材
14 流路規制エレメント
14A 右捩じりエレメント
14B 左捩じりエレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端に、エンジンからの排気ガスあるいは模擬排ガスなどの排ガスを導入する排ガス導入口を供え、前記排ガスを、加熱混合(ミキシング)部並びに該加熱混合部の下流側に連続する触媒収容部により形成される流路内に流通させて触媒評価する触媒評価装置において、
前記加熱混合部における流路に対して、交差する方向からリッチスパイクを投入するリッチスパイク投入口を設け、前記加熱混合部を細長い混合管によって形成したことを特徴とする触媒評価装置。
【請求項2】
前記混合管が、石英、セラミック、その他の不活性材でなることを特徴とする請求項1に記載の触媒評価装置。
【請求項3】
前記混合管が、細長いスタティックミキサーであることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の触媒評価装置。
【請求項4】
前記スタティックミキサーが、細長い外管部材と、前記外管部材内に軸方向に連続して配置した少なくとも二種類の異なる流路規制をする複数個の流路規制エレメントとを含むものからなることを特徴とする請求項3に記載の触媒評価装置。
【請求項5】
前記流路規制エレメントが、長方形板体を右方向に180度捩じった右捩じりエレメントと、左方向に180度捩じった左捩じりエレメントとからなり、前記外管部材内に前記右捩じりエレメントと左捩じりエレメントとを交互に配置してなることを特徴とする請求項4に記載の触媒評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−3382(P2007−3382A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184659(P2005−184659)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(594207610)株式会社ベスト測器 (13)
【Fターム(参考)】