説明

触媒転写フィルム及びその製造方法、並びに該転写フィルムを用いて製造される触媒層−電解質膜積層体、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】本発明は、高性能の燃料電池の製造に好適に使用できる触媒転写フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の触媒転写フィルムは、基材フィルムの一方面に触媒層が形成されたもので、前記触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である。該触媒転写フィルムは、0.1〜25kgfの張力を付与しながら長尺の基材フィルムを搬送・支持する第1工程、触媒粒子含有塗工液を前記基材フィルム上に塗工する第2工程、及び前記基材フィルム上に塗工した触媒粒子含有塗工液を乾燥させる第3工程を経て製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒転写フィルム及びその製造方法、並びに該転写フィルムを用いて製造される触媒層−電解質膜積層体、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、イオン伝導性高分子電解質膜を用い、その両面に触媒層及び電極基材を順次積層し、さらにその両面にセパレータを配置して製造される。電解質膜の両面に触媒層及び電極基材を順次積層したもの(即ち、電極基材/触媒層/電解質膜/触媒層/電極基材の層構成のもの)は、膜−電極接合体(MEA)と称されている。
【0003】
MEAを作製する際、高分子電解質膜と触媒層の界面に凹凸を形成し接触面積を増大させると、電気化学反応の発電性能が向上することが知られている。そのため、電解質膜を研磨等により膜表面に凹凸を施す方法(特許文献1)、電解質膜に凹凸を有する金属箔を圧着し、次いで金属箔を溶解除去して膜表面に凹凸を施す方法(特許文献2)等が提案されている。
【0004】
また、ガスを拡散させるカーボン製基材に触媒層を塗工した触媒層付電極(GDE)に凹凸処理をする方法(特許文献3及び特許文献4)も提案されている。
【0005】
しかしながら、高分子電解質膜を物理的にもしくは化学的に処理する方法では、凹凸を制御しにくく、表面に均一に形成することが困難であり、また電解質膜にピンホールが発生したり、電解質膜が破損し易いという問題を有している。また、化学的な処理を行なうことによって電解質膜の性能低下を引き起こしやすく、さらにその都度、電解質膜に適応した化学的処理を選択しなればならず、多大の労力、時間及びコストを要する。
【0006】
また、GDEを用いたMEAは電極基材であるカーボンペーパーの電解質膜への食い込み具合がホットプレス時の圧力や温度分布によって大きく変化し、またカーボンペーパー自身の凹凸にもばらつきがあるため、電極基材間の距離が部分的に近接し過ぎて、電極基材相互が接触し、短絡電流が発生するという問題点を有している。
【0007】
さらには、触媒層と電解質膜間の凹凸が狭すぎると、電解質膜と電極層とが剥離しやすくなって電池性能が低下したり、また、触媒層と電解質膜間の凹凸が広すぎると、接触面積は増大するものの、電流分布(単位面積あたりの触媒層にかかる電流の大きさ)が偏在し、電解質膜に偏って電流が流れるため、電解質膜に局所的な負荷がかかり、膜破れ等が発生し、耐久性が低下する問題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−139974号公報
【特許文献2】特開2001−68328号公報
【特許文献3】特開平3−167752号
【特許文献4】特開2001−36860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、固体電解質膜への物理的及び化学的なダメージを軽減し、圧力分布や凹凸面の不均一化による電池性能低下の諸問題点を解消しながらも、高効率な燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を続けて来た。その結果、基材フィルムに触媒層を形成し、該触媒層の表面に適度な大きさの凹凸を均一に形成することによって、圧力分布の不均一化(ホットプレス時の圧力の不均一化)や凹凸面の不均一化による電池性能低下の問題点を解消しながらも、電池性能が高く、耐久性に優れた燃料電池を提供できることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0011】
本発明は、下記項1〜8に示す、触媒転写フィルム及びその製造方法、該転写フィルムを用いて製造される触媒層−電解質膜積層体、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池並びに触媒層の判別方法を提供する。
【0012】
項1.基材フィルムの一方面に触媒層が形成された触媒転写フィルムであって、前記触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルム。
【0013】
項2.触媒層の表面粗さが0.5〜1.2、かつ85度における光沢度が8〜26である項1に記載の触媒転写フィルム。
【0014】
項3.触媒層の表面粗さが1.3〜3.2、かつ85度における光沢度が0.1〜5.6である項1に記載の触媒転写フィルム。
【0015】
項4.項1〜3のいずれかに記載の触媒転写フィルムを用いて製造される触媒層−電解質膜積層体。
【0016】
項5.項4に記載の触媒層−電解質膜積層体を用いて製造される高分子電解質膜−電極接合体。
【0017】
項6.項5に記載の電解質膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。
【0018】
項7.基材フィルムの一方面に触媒層が形成され、該触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルムを製造する方法であって、 0.1〜25kgfの張力を付与しながら長尺の基材フィルムを搬送・支持する第1工程、触媒粒子を含有する塗工液を前記基材フィルム上に塗工する第2工程、及び前記基材フィルム上に塗工した触媒粒子を含有する塗工液を乾燥させる第3工程を備えた、触媒転写フィルムの製造方法。
【0019】
項8.項7に記載の方法で製造した触媒転写フィルムにおける触媒層の表面粗さ及び光沢度を表面粗さ測定装置及び光沢度測定装置を用いて測定し、転写フィルム上に所望の表面粗さ及び光沢度を備えた触媒層が形成されているかどうかを判別する方法。
【0020】
本発明の触媒転写フィルムは、基材フィルムの一方面に触媒層が形成されたものである。本発明の触媒転写フィルム上に形成されている触媒層は、表面粗さが0.3〜3.5、85度における光沢度が0.1〜26である。
【0021】
触媒層の凹凸、即ち、触媒層表面の粗さや平滑さは、表面粗さ(Ra)を測定することで数値化される。触媒層の表面粗さ(Ra)は、例えば、表面粗さ形状測定機(Handy surf E−35A、東精エンジニアリング製)を用いることにより測定される。本発明では、触媒層表面の粗さは0.3〜3.5μmの範囲であることが必須である。
【0022】
触媒層表面の粗さが0.3〜3.5μmの場合に、電解質膜への密着性が良好となり、電池性能の向上を図ることができる。触媒層表面の粗さが0.3μmより小さい場合は(平滑すぎる場合)、電解質膜への密着性が低下し、そのため、電解質膜及び触媒層間の抵抗が高くなり、電池性能が低下する。逆に、触媒層表面の粗さが3.5μmより大きくなる場合は(粗すぎる場合)、触媒層の電解質膜への食い込みが増大し、その結果、電流分布が偏在することになって優れた電池性能を安定して発現できなくなると共に、耐久性が低下するのが避けられない。
【0023】
また、触媒層表面の緻密性及び多孔質性は、触媒層表面の光沢度によって数値化される。光沢度は、例えば、光沢度計(PG−1M、日本電色工業製)を用いることにより測定される。本発明では、触媒層表面の光沢度は0.1〜26の範囲であることが必要である。
【0024】
触媒層が緻密に形成されている場合、触媒層表面で光が乱反射せず光沢度が高くなる。一方、触媒層が多孔質に形成されている場合、触媒層表面で光が乱反射するため、光沢度が低くなる。燃料電池では、燃料にガスや液体が使用されるため、触媒層としては多孔質に形成されている必要がある。つまり、光沢度が高すぎる場合、表面が緻密になりすぎ、必要な燃料を十分に拡散できず、電池としての性能が悪くなる。逆に、光沢度が低すぎる場合、多孔質になりすぎるため、触媒層のネットワークが不十分となり、電池としての性能が悪くなる。
【0025】
本発明において、触媒層は、表面粗さが0.5〜1.2、かつ85度における光沢度が8〜26であるのが好ましい。表面粗さ及び光沢度がこの範囲にある場合、特に初期電池性能に一段と優れた燃料電池とすることができる。
【0026】
また、本発明において、触媒層は、表面粗さが1.3〜3.2、かつ85度における光沢度が0.1〜5.6であるのが好ましい。表面粗さ及び光沢度がこの範囲にある場合、特に初期電池性能に一段と優れた燃料電池とすることができる。
【0027】
本発明において、触媒層は、基材フィルム上の一方面に積層されている。
【0028】
本発明の触媒層は、固体高分子形燃料電池の触媒層として使用できるものであればよく、一般的には、(1)触媒担持粒子(触媒を担持させた粒子)及び(2)イオン伝導性高分子電解質を成分とする。
【0029】
触媒担持粒子及びイオン伝導性高分子電解質は公知又は市販のものを使用することができる。
【0030】
触媒としては、触媒作用を有する材料粒子と導電性担体からなる微粒子であり、燃料の酸化能もしくは還元剤の還元能を有する材料あればよく、特に限定されるものではない。例えば、白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金の具体例としては、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群より選択される少なくとも1種の金属と白金との合金が挙げられる。
【0031】
上記導電性担体は、特に限定されず、例えば、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等の炭素材料を1種単独又は2種以上で用いることができる。
【0032】
イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、特に、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。このような電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。
【0033】
触媒層には、必要に応じて、炭素繊維、例えば気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンワイヤー等の公知の添加剤が含有されていてもよい。
【0034】
触媒層形成用ペースト組成物は、触媒担持粒子及びイオン伝導性高分子電解質が所定の割合となるように配合される。例えば、触媒担持粒子1重量部に対して、イオン伝導性高分子電解質(固形分)が0.1〜5重量部(特に0.2〜4重量部)、溶媒が5〜50重量部(特に5〜30重量部)含まれているのがよく、残りが水である。水の割合は、通常、触媒担持粒子に対して、等重量〜20倍重量である。
【0035】
溶媒は、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、各種アルコール、各種エーテル、各種ジアルキルスルホキシド、水又はこれらの混合物等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5の一価アルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。これらの分散媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
触媒層形成用ペースト組成物の成分割合は、上記に限定されるものではなく、ペースト組成物の塗工方法及び乾燥方法により適宜選択することができる。
【0037】
触媒層形成用ペースト組成物は、前記の各種成分を混合することにより製造される。成分の混合順序は特に限定されない。例えば、触媒担持粒子及びイオン伝導性高分子電解質及び溶媒及び水を順次、または同時に混合し、分散させることによりペースト組成物を調製できる。混合及び分散には、公知の混合手段を広く適用できる。
【0038】
混合及び分散後の触媒層形成用ペースト組成物のメジアン径は特に限定されないが、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.1〜50μmである。なお、上記メジアン径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定できる。分散方法は特に限定しないが、遊星ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー、超音波分散等が挙げられる。これらの分散方法は、1種のみを行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよいが、好ましくはビーズミルがよい。例えば、0.2μmのジルコニアビーズを用い、前記ペースト成分を配合、分散させることで均一な触媒層形成用ペースト組成物を作製できる。
【0039】
基材フィルム
基材フィルムは特に制限されず、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリありレート、ポリエチレンナフタレート、ポリサルホン等の高分子フィルムを用いることができる。これらの中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレート樹脂からなる高分子フィルム等が好ましい。
【0040】
また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0041】
基材フィルムの厚みは限定的でないが、例えば、取り扱い性及び経済性の観点からは、2.5μm〜100μm程度、好ましくは5μm〜50μm程度、さらには10μm〜30μm程度とすればよい。
【0042】
また、剥離性を向上させるために、基材フィルムと触媒層との間に、5〜100nmのシリカ層やアルミナ、酸化チタン等の無機酸化物による離型層を形成させてもよいし、触媒層と接する固体電解質面上をプラズマ処理等により離型処理してもよい。
【0043】
塗工・乾燥方法
本発明の触媒転写フィルムは、上記基材フィルムの一方面上に、触媒層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥させることにより、触媒層を形成して製造される。
【0044】
基材フィルムの一方面に触媒層が形成され、該触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルムは、
長尺の基材フィルムを搬送・支持する第1工程、
触媒粒子を含有する塗工液を前記基材フィルム上に塗工する第2工程、及び
前記基材フィルム上に塗工した触媒粒子含有塗工液を乾燥させる第3工程
を経て製造される。
【0045】
ここで、長尺フィルムとは、一般的には1m以上の連続的なフィルムを意味するが、該フィルムは製造機械の最低パス長よりも長いことが必要なことは勿論である。
【0046】
基材フィルムの幅は、50〜1000mmが適当であり、好ましくは100〜500mm、より好ましくは150〜300mmである。
【0047】
長尺の基材フィルムに連続的に触媒層を形成する場合、基材に張力を付与することができる。
【0048】
基材フィルムに付与する張力の大きさは、基材フィルムの材質、幅、巻き径等によって適宜選択することができる。
【0049】
巻き径等により張力の大きさが異なるが、基材フィルムに付与する張力の大きさは0.1〜25kgfが適当であり、好ましくは0.1〜20kgf、より好ましくは0.5〜10kgfである。
【0050】
基材を搬送する際の速度は0.1m/分〜100m/分が適当であり、好ましくは0.5m/分〜50m/分、より好ましくは1m/分〜10m/分である。
【0051】
触媒層形成用ペースト組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、アプリケーター、スプレーコート、ディップコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。塗工方法は前記記載した方法で、特に限定しないが、好ましくはアプリケーターによる塗工がよい。アプリケーターを使用することで簡便、安価、かつ均一にペースト組成物を塗工することが可能である。
【0052】
触媒層形成用ペースト組成物を塗布した後、乾燥することにより基材フィルム上に触媒層が形成される。乾燥温度は、例えば、大気雰囲気中、通常40〜150℃、好ましくは60〜100℃である。乾燥時間は乾燥温度にもよるが、通常1分から1時間程度、好ましくは3〜30分である。
【0053】
乾燥後の触媒層の厚みは限定的でなく、固体高分子形燃料電池の触媒層として一般的に採用されている範囲とすればよい。乾燥後の触媒層の厚みは、一般的には、1〜100μm程度、好ましくは5〜80μm程度、更に好ましくは10〜50μm程度である。
【0054】
上記に記載の方法により、基材フィルムの一方面に触媒層が形成された触媒転写フィルムであって、前記触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルムが製造される。
【0055】
また、上記の方法のうち、張力を0.1〜8kgfにすることによって、触媒層の表面粗さが0.5〜1.2、かつ85度における光沢度が8〜26である触媒転写フィルムを製造することができる。
【0056】
また、上記の方法のうち、張力を8.5〜25kgfにすることによって、触媒層の表面粗さが1.3〜3.2、かつ85度における光沢度が0.1〜5.6である触媒転写フィルムを製造することができる。
【0057】
上記の方法で製造した触媒転写フィルムにおける触媒層の表面粗さ及び光沢度を、表面粗さ測定装置及び光沢度測定装置を用いて測定し、転写フィルム上に所望の表面粗さ及び光沢度を備えた触媒層が形成されているかどうかをチェックすることができる。これにより、上記方法で製造した所望の表面粗さ及び光沢度を備えた触媒層が基材フィルム上に形成されていることを確認できるので、触媒転写フィルムを用いてMEA、ひいては燃料電池を製造する労力や製造材料を無駄にしない観点から極めて有益である。
【0058】
MEAの作製方法
本発明の触媒転写フィルムを使用することにより、触媒層と高分子電解質膜との密着性及び耐久性に優れたMEAを製造することができる。
【0059】
転写方法は、常法に従って行えばよく、例えば、高分子電解質膜、電極基材等の転写対象物質に、触媒転写フィルムの触媒層を接触し、加圧することにより行えばよい。高分子電解質膜に触媒層を転写させると、触媒層−電解質膜積層体を製造できる。
【0060】
加圧の程度は、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは5〜15MPa程度がよい。また、加圧操作の際は、転写不良をより一段と避けるために、加圧面を加圧することが好ましい。加圧温度は、電解質膜の破損、変形等を避ける観点から、200℃以下程度、特に100〜200℃程度が好ましい。
【0061】
高分子電解質膜及び電極基材は、固体高分子形燃料電池用として使用されているものを使用すればよく、公知又は市販のものを使用できる。高分子電解質膜の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」膜、旭硝子(株)製の「Flemion」膜、旭化成(株)製の「Aciplex」膜、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」膜等が挙げられる。
【0062】
本発明の電解質膜−電極接合体は、例えば、本発明の触媒層−電解質膜積層体の片面又は両面に、前記電極基材を、触媒層と電極基材とが対面するように配置し、熱プレスすることにより、作製することができる。
【0063】
また、本発明の電解質膜−電極接合体は、前記電解質膜の片面又は両面に、前記電極基材を、電解質膜と触媒層とが対面するように配置し、熱プレスすることによっても、作製することができる。
【0064】
本発明の電解質膜−電極接合体に公知又は市販のガスケット及びセパレータを設けることにより、本発明の固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明の方法に従い触媒層形成用ペースト組成物を、連続的に基材フィルムに塗工することにより、安価でかつ簡便に凹凸のある触媒層を形成させることができる。このようにして得られた触媒転写フィルムを使用すれば、高分子電解質膜や導電性多孔質基材にピンホール等の物理的な損傷をつけることなく、触媒層を積層することができる。
【0066】
本発明の方法によれば、電解質膜との食いつきがよく、密着性の良好な触媒転写フィルムを容易に製造することができる。
【0067】
本発明の触媒転写フィルムを用いて製造されたMEAは、固体電解質膜と触媒層との密着性及びガス拡散性に優れている。
【0068】
本発明によれば、触媒層表面の表面粗さ及び光沢度を特定の範囲とすることで、電流分布に偏りがなく、耐久性に優れた燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下に実施例を掲げて、本発明を一層明らかにする。
【0070】
実施例1
(1) 触媒層形成用ペースト組成物の作製
Pt触媒担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属工業製)1.0gに、イソプロピルアルコール(IPA)10.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS、Dupont製)10.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触媒層形成用ペースト組成物1を調製した。
【0071】
(2) 触媒転写フィルムの製造
幅20cm、長さ1000m、コア径3インチのPETフィルム(東洋紡製E5100、厚さ12μm)を、基材を搬送する送り出しロールの張力0.1kg、巻き取りロールの張力0.3kgで張力を付与しながら、ライン速度3m/分で搬送しながらアプリケーター(タクミ技研製)にて、上記(1)で調製した触媒層形成用ペースト組成物1を24g/m2、乾燥後の触媒層の厚みが28μmとなるように塗工した。塗工後に70℃で乾燥炉を通過させ(乾燥炉の通過時間:10分)、インクを乾燥させた後、巻き取りロールで巻き取ることでロール状の触媒転写フィルムを製造した。
【0072】
(3) 算術平均粗さ(Ra)の測定
算術平均粗さ(Ra)の測定は、表面粗さ形状測定機(Handy surf E−35A、東精エンジニアリング製)を用いて測定した(JIS−B−0601)。測定条件は、いずれもカットオフ値0.8mm、評価長さ4.0mmで測定した。
【0073】
平行な台に厚み5mmのガラス基板を起き、基板の表面を測定した。結果、表面粗さ(以下Ra)の測定平均値は0.034μmであった。以下、本ガラス基板を測定前に超音波洗浄器で洗浄後、蒸留水ですすぎ乾燥させ、実施例及び比較例の触媒転写フィルムを測定するための冶具とした。表面粗さの測定は、冶具に触媒転写フィルムを取り付けてから行った。
【0074】
実施例1で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.54μmであった。
【0075】
(4) 光沢度の測定
光沢度の測定は光沢度計(PG−1M、日本電色工業製)を用い、測定角度85度で測定した。実施例1で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の光沢度は24.4であった。
【0076】
(5) 電池性能評価
実施例1で作製した2枚の触媒転写フィルムを用い、2つの触媒層面が固体高分子電解質膜(Nafion212、Dupont製)を挟むようにして貼り合わせ、150℃、3分、6.5MPaで熱圧着し、触媒転写フィルムのフィルム基材を剥離することでCCMを作製した。このCCMに、電極と同じサイズにカットした導電性多孔質基材を積層し、電池性能評価を行った。結果、最大出力密度531mW/cm2と、極めて高い性能を示した。
【0077】
実施例2
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチの酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を使用し、基材を搬送する送り出しロールの張力2kg、巻き取りロールの張力3kgで張力を付与する以外は全て実施例1と同様にして、触媒層の膜厚が21μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0078】
実施例2で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.63μm、光沢度は14.9であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は546mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0079】
実施例3
Pt触媒担持カーボン(TEC10E70TPM、田中貴金属工業製)1.0gに、IPA 10.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS、Dupont製)10.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層形成用ペースト組成物2を調製した。
【0080】
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチののOPPフィルム(東洋紡製、パイレンフィルムOT、P2102、厚さ20μm)を用いし、基材を搬送する送り出しロールの張力2kg、巻き取りロールの張力3kgで張力を付与した以外は全て実施例1の(2)と同様にして触媒層の膜厚が24μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0081】
実施例3で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.79μm、光沢度は9.33であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は531mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0082】
実施例4
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチの酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を使用する以外は全て実施例3と同様にして触媒層の膜厚が23μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0083】
実施例4で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.73μm、光沢度は10.9であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は542mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0084】
実施例5
Pt−Ru触媒担持カーボン(TEC66E50、田中貴金属工業製)1.0gに、IPA 5.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS、Dupont製)3.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層形成用ペースト組成物3を作製した。
【0085】
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチのPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を用い、基材を搬送する送り出しロールの張力2kg、巻き取りロールの張力3kgで張力を付与した以外は全て実施例1の(2)と同様にして触媒層の膜厚が22μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0086】
実施例5で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.79μm、光沢度は10.9であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は528mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0087】
実施例6
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチの酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を使用し、基材を搬送する送り出しロールの張力3kg、巻き取りロールの張力5kgで張力を付与する以外は全て実施例5と触媒層の膜厚が20μmの同様にして触媒転写フィルムを作製した。
【0088】
実施例6で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは1.11μm、光沢度は8.43であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は540mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0089】
実施例7
Pt触媒担持カーボン(Pt/Xc72R JM Hispec2000、ジョンソンマッセイ製)1.0gに、IPA 5.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS Dupont製)10.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層層形成用ペースト組成物4を作製した。
【0090】
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチの酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を用い、基材を搬送する送り出しロールの張力8kg、巻き取りロールの張力12kgで張力を付与した以外は全て実施例1の(2)と同様にして触媒層の膜厚が24μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0091】
実施例7で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは2.50μm、光沢度は5.35であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は515mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0092】
実施例8
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチのPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を使用し、基材を搬送する送り出しロールの張力11kg、巻き取りロールの張力14kgで張力を付与し触媒層層形成用ペースト組成物4を高粘度スプレーガン(アネスト岩田製)を使用し、乾燥後の触媒層厚みが18μmになるように塗工して、触媒転写フィルムを作製した。
【0093】
実施例8で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは3.15μm、光沢度は0.46であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は500mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0094】
実施例9
触媒層形成用ペースト組成物2を使用し、基材を搬送する送り出しロールの張力3kg、巻き取りロールの張力5kgで張力を付与する以外は実施例8と同様にして、触媒層の膜厚が17μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0095】
実施例9で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.94μm、光沢度は19.1であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は511mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0096】
実施例10
基材フィルムとして幅20cm、長さ1000m、コア径3インチの酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)とした以外は全て実施例9と同様にして触媒層の膜厚が19μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0097】
実施例10で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは1.11μm、光沢度は15.7であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は522mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0098】
実施例11
Pt−Co触媒担持カーボン(TEC36E52、田中貴金属工業製)1.0gに、IPA 5.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS、Dupont製)2.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層形成用ペースト組成物5を調製した。以下、基材を搬送する送り出しロールの張力8kg、巻き取りロールの張力12kgで張力を付与した以外は実施例2と同様にして触媒層の膜厚が21μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0099】
実施例11で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは1.97μm、光沢度は2.88であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は501mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0100】
実施例12
Pt−Co触媒担持カーボン(TEC31E51、田中貴金属工業製)1.0gに、IPA 5.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS、Dupont製)2.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層形成用ペースト組成物6を調製した。以下、基材を搬送する送り出しロールの張力8kg、巻き取りロールの張力12kgで張力を付与した以外は実施例2と同様にして触媒層の膜厚が24μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0101】
実施例12で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは1.44μm、光沢度は2.47であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は508mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0102】
実施例13
Pt−Co触媒担持カーボン(TEC31E51、田中貴金属工業(株)製)1.0gに、IPA 10.0g、水5.0g及びフッ素バインダー(Nafion520CS Dupont製)6.0gを加え、直径1mmのジルコニアビーズを加え、卓上ボールミル(BM−10、セイワ技研製)で270rpmで24時間攪拌、混合し、触触媒層形成用ペースト組成物7を調製した。以下、基材を搬送する送り出しロールの張力8kg、巻き取りロールの張力12kgで張力を付与した以外は実施例2と同様にして触媒層の膜厚が27μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0103】
実施例13で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは1.69μm、光沢度は1.72であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は503mW/cm2であり、極めて高い電池性能を示した。
【0104】
比較例1
PETフィルム(東洋紡製E5100、厚さ12μm)を20cm×20cmに切り出し、このPETフィルムの全面上に触媒層形成用ペースト組成物1を塗工し、オーブンにて70℃で20分乾燥させて触媒層の膜厚が21μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0105】
比較例1で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.39μm、光沢度は33.0であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は31.0W/cm2であり、電池性能が著しく劣っていた。
【0106】
比較例2
基材フィルムとして酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を使用する以外は全て比較例1と同様にして触媒層の膜厚が22μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0107】
比較例2で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.31μm、光沢度は41.6であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は30.8W/cm2であり、電池性能が著しく劣っていた。
【0108】
比較例3
比較例1で作製した触媒転写フィルムの触媒層表面を研削材として粒子径が50μmのガラスビーズを用い、サンドブラスト装置(MY−30B、新東工業株式会社製)で3秒間の吹き付け処理を行い、触媒層の膜厚が20μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0109】
比較例3で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは3.69μm、光沢度は1.44であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は58.6W/cm2であり、電池性能が著しく劣っていた。
【0110】
比較例4
比較例2で作製した触媒転写フィルムの触媒層表面を比較例3と同様にサンドブラスト装置にて粗し、触媒層の膜厚が22μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0111】
比較例4で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは3.66μm、光沢度は1.45であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は66.0W/cm2であり、電池性能が著しく劣っていた。
【0112】
比較例5
酸化ケイ素で蒸着したPETフィルム(東洋紡製、E5100、厚さ12μm)を20cm×20cmに切り出し、このPETフィルムの全面上に触媒層形成用ペースト組成物6を塗工し、オーブンにて70℃で20分乾燥させて触媒層の膜厚が21μmの触媒転写フィルムを作製した。
【0113】
比較例5で得られる触媒転写フィルムの触媒層表面の算術平均粗さは0.46μm、光沢度は32.2であった。また、実施例1の(5)と同様にして作製したCCMと導電性多孔質基材を積層したものの電池性能を評価したところ、最大出力密度は32.6W/cm2であり、電池性能が著しく劣っていた。
【0114】
実施例1〜13及び比較例1〜5で得られる触媒転写フィルムについての、触媒層表面の算術平均粗さ及び光沢度並びに最大出力密度まとめて下記表に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
上記実施例1〜13に見られるように、触媒転写フィルムを連続で作製することによって、塗工乾燥時に基材フィルムが収縮、膨張し、基材フィルム上の触媒層がそれに追従することによって、触媒層に適度な凹凸、緻密性及び多孔質性を付与できた。
【0117】
以上より、実施例1〜13では、触媒層表面の粗さが0.3〜3.5μmと適度な凹凸を有するによって電解質膜への、食い込み、つまり密着性が良好となり、更に、触媒層表面の緻密性及び、多孔質性の指標となる触媒層表面の光沢度が0.1〜26の範囲であることで、燃料の拡散性が良く、かつ触媒層とのネットワークが優れいていたため、電池性能の向上を図ることができた。
【0118】
一方、比較例1〜4では触媒層表面の粗さが0.3μmより小さい場合は、電解質膜への密着性が低下し、そのため、電解質膜及び触媒層間の抵抗が高くなり、電池性能が低下した。触媒層表面の粗さが3.5μmより大きくなる場合は、触媒層の電解質膜への食い込みが増大し、その結果、電流分布が偏在することになって優れた電池性能を発現できなくなった。
【0119】
更に、光沢度が26度より高くなる場合は、触媒層表面で光が乱反射せず触媒層が緻密に形成されているため、表面が緻密になりすぎ、必要な燃料を十分に拡散できず、電池性能が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方面に触媒層が形成された触媒転写フィルムであって、
前記触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルム。
【請求項2】
触媒層の表面粗さが0.5〜1.2、かつ85度における光沢度が8〜26である請求項1に記載の触媒転写フィルム。
【請求項3】
触媒層の表面粗さが1.3〜3.2、かつ85度における光沢度が0.1〜5.6である請求項1に記載の触媒転写フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒転写フィルムを用いて製造される触媒層−電解質膜積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の触媒層−電解質膜積層体を用いて製造される膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の電解質膜−電極接合体を具備する、固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
基材フィルムの一方面に触媒層が形成され、該触媒層の表面粗さが0.3〜3.5、かつ85度における光沢度が0.1〜26である触媒転写フィルムを製造する方法であって、
0.1〜25kgfの張力を付与しながら長尺の基材フィルムを搬送・支持する第1工程、
触媒粒子を含有する塗工液を前記基材フィルム上に塗工する第2工程、及び
前記基材フィルム上に塗工した触媒粒子を含有する塗工液を乾燥させる第3工程
を備えた、触媒転写フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で製造した触媒転写フィルムにおける触媒層の表面粗さ及び光沢度を表面粗さ測定装置及び光沢度測定装置を用いて測定し、転写フィルム上に所望の表面粗さ及び光沢度を備えた触媒層が形成されているかどうかを判別する方法。

【公開番号】特開2011−76907(P2011−76907A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228028(P2009−228028)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】