説明

計測器の校正方法

【課題】 装置構造やシーケンス動作を簡易なものとすることができ、かつ標準液の消費量が小さい計測器の校正方法を提供する。
【解決手段】 空中に保持した電極に標準液を吹きつけながら、該電極からの出力電位を校正信号として取得する計測器の校正方法であって、標準液の吹きつけ開始から校正信号の取得までの間に、標準液の吹きつけを中断する中断期間を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に保持した電極に標準液を吹きつけて校正する計測器の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、標準液による校正を完全に自動化した工業用pH計が用いられている。このような自動校正機能付きpH計では、電極を、試料液が混入しない状態で標準液に接触させる必要があり、種々の手法が採用されている。
例えば、試料液から引き上げて空中に保持した電極に標準液を吹きつけ、電極の先端に標準液の滴端を形成する方法(特許文献1参照)、電極を校正用空間に引き込み、試料液空間との間に蓋をする方法(特許文献2参照)、試料液から引き上げた電極の電極ホルダ下端を底蓋で塞ぎ、電極ホルダ内に標準液を供給する方法(特許文献3参照)、試料液から引き上げた電極を標準液を入れるバスケット内に収容できるよう、可動式のバスケットを用いる方法(特許文献4参照)等が知られている。
【特許文献1】特公昭56−38903号公報
【特許文献2】特許第2964342号公報
【特許文献3】特許第3064723号公報
【特許文献4】特許第3502503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の方法は、電極を試料液から引き上げるだけで標準液校正が可能であり、装置構造やシーケンス動作を非常に簡易なものとすることができる。しかしながら、この方法の場合、各標準液のpH値にガラス膜等が応答して安定するまでの間、標準液を毎分100mL程度流し続けるため、標準液の消費量が多い。特に、周囲温度が低い等の悪条件下では安定するまでに3分以上かかり、1回の校正に300mL以上の標準液を消費してしまう。そのため、標準液を頻繁に補充しなければならず、ランニングコストが高くなると共にメンテナンスも煩雑である。
【0004】
これに対して、特許文献2〜4の方法では、バスケット等に標準液をためた状態で使用するため、標準液の消費量を少なくすることができる。しかしながら、標準液をためるために、蓋やバスケット等の可動部材が必要であり、装置構造とシーケンスが複雑化してコストも高い。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、装置構造やシーケンス動作を簡易なものとすることができ、かつ標準液の消費量が小さい計測器の校正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]空中に保持した電極に標準液を吹きつけながら、該電極からの出力電位を校正信号として取得する計測器の校正方法であって、標準液の吹きつけ開始から校正信号の取得までの間に、標準液の吹きつけを中断する中断期間を設けたことを特徴とする計測器の校正方法。
[2]前記電極が複合電極式pH電極であり、ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されている[1]に記載の計測器の校正方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の校正方法によれば、装置構造やシーケンス動作を簡易なものとすることができ、かつ標準液の消費量を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の校正方法を、pH計の測定方法を例にとって説明する。図1は、本発明の測定方法を実施するためのpH計の検出部1である。検出部1は、電極ホルダ10と、下端部を露出させて電極ホルダ10に内挿されたpH電極20と、電極ホルダ10の下端側に固定され、pH電極20の露出部分を保護する保護筒30と、電極ホルダ10を昇降させるエアシリンダ40と、エアシリンダ40による上昇時(図1において、破線で示した状態の時)に、保護筒30を包囲するように配置された洗浄校正槽50とを備えている。また、電極ホルダ10の頂部から導出されたリード線60を備えている。
本発明の測定方法を実施するためのpH計は、検出部1のリード線60を経由してpH電極20の信号を取り込み所定のデータ処理を行うと共に、全体のシーケンスを制御する指示変換器(図示せず)を備えている。
【0008】
図2に示すように、pH電極20は、電極本体21の下端面21aに、ガラス電極のガラス膜22、比較電極の液絡部23、23、温度補償素子24が、各々露出して配置された構成となっている。
保護筒30は、略円筒の部材に切り欠き31が設けられており、この切り欠き31を通過させて、標準液等をpH電極20に吹き付けられるようになっている。
洗浄校正槽50は円筒状で底蓋等はなく、pH電極20が保護筒30と共に、上下動のみで出入可能となっている。
【0009】
図1に示すように、洗浄校正槽50には、標準液Aを送液する送液管71のジョイント81、標準液Bを送液する送液管72のジョイント82、洗浄水を送液する送液管73のジョイント83、薬液を送液する送液管74のジョイント84が取り付けられている。
ジョイント81とジョイント82とは水平方向に隣り合って取り付けられており、それらの取付位置は、電極ホルダ10の上昇時における電極本体21の露出部分とほぼ同等の高さとされている。
また、ジョイント83とジョイント84とは水平方向に隣り合って取り付けられており、それらの取付位置は、電極ホルダ10の上昇時における保護筒30の下端側とほぼ同等の高さとされている。
【0010】
図3に示すように、ジョイント81及び洗浄校正槽50の周面に、略水平に貫通するノズルN1が形成されており、このノズルN1から標準液Aが電極本体21の周面に向けて噴出されるようになっている。
同様に、ジョイント82及び洗浄校正槽50の周面を略水平に貫通するノズルN2が形成されており、このノズルN2から標準液Bが電極本体21の周面に向けて噴出されるようになっている。
【0011】
また、ジョイント83及び洗浄校正槽50の周面を斜めに貫通するノズルN3が形成されており、このノズルN3から洗浄水が電極本体21の下端面21aに向けて噴出されるようになっている。
同様に、ジョイント84及び洗浄校正槽50の周面を斜めに貫通するノズルN4が形成されており、このノズルN4から薬液が電極本体21の下端面21aに向けて噴出されるようになっている。
【0012】
検出部1を備えるpH計で試料液WのpHを測定する際は、エアシリンダ40により電極ホルダ10を下降させる。図1に実線で示すように、下降時にはpH電極20が試料液Wの中に浸漬され、試料液WのpHに応じた出力電位を発生する。
一方、校正または洗浄を行う際は、エアシリンダ40により電極ホルダ10を上昇させる。そして、図1に破線で示すように、pH電極20が洗浄校正槽50内において、空中に保持された状態とする。
【0013】
校正は、pH電極20を空中に保持した状態で、電極本体21の周面に向けて各標準液を吹きつけ、その際にpH電極20から得られる校正信号を指示変換器が取得することによって行う。
本発明の校正方法では、標準液の吹きつけ開始から校正信号の取得までの間に、標準液の吹きつけを中断する中断期間を設ける。
【0014】
標準液を電極本体21の周面に向けて吹きつけると、図3に示すように、電極本体21を伝わって落下した標準液が、電極本体21の下端面21aで滴端Dを形成する。この滴端Dは、図4に示すように、pH電極20のガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を総て覆った状態となる。換言すれば、pH電極20のガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を滴端Dの中に浸漬した状態となる。そのため、pH電極20は、空中に保持されているにもかかわらず、標準液のpHに応じた出力電位を発生することができる。
【0015】
この滴端Dは、いずれは落下して消滅するものである。しかし、本発明者は、連続的な吹きつけを中断しても、一旦形成された滴端Dがしばらくの間維持されることを見いだした。すなわち、滴端D形成後標準液の吹きつけを中断しても、ガラス膜22、液絡部23、23、温度補償素子24を滴端Dの中に浸漬した状態を継続することができ、その間標準液を消費することなく、電極の応答を進めることが可能である。
滴端D形成までの時間は、吹きつける標準液の流量や電極本体21の径等にもよるが、直径15mm程度の標準的な電極に毎分100mL程度の標準液を吹きつける場合、30〜60秒吹きつければ充分である。また、吹きつけを中断する期間としては、30〜60秒とすることが好ましい。なお、中断期間は、1回でも複数回でもよい。
【0016】
中断期間の後(複数回の中断の場合、最後の中断の後)、再度標準液を吹きつけて校正信号を取得し、校正を行う。具体的には、pH電極20から得られる出力電位を指示変換器が取得して、当該出力電位と標準液のpHとの関係をとることによって行う。また、温度補償素子24の信号も同時に取得し、温度の影響を補正した校正を行う。
校正信号取得は、再吹きつけ開始後、出力電位が充分に安定すると予想される所定時間経過後に行っても良いが、出力電位を継続的にモニターし、安定したか否かを自動的に判別する安定判別を行うことが好ましい。これにより、適切なタイミングで校正信号を取得して直ちに標準液の吹きつけを中止できるので、標準液の無駄な使用を避けつつ、正確な校正をすることができる。
なお、安定判別の結果、長時間経過しても安定状態を検知できない場合は、標準液の吹きつけを中止し、警報出力等を行うことが好ましい。
【0017】
標準液A、標準液Bの種類に限定はないが、JISZ8802に規定されるpH7の標準液と、pH4またはpH9の標準液とを組み合わせて、標準液A及び標準液Bとすることが好ましい。
標準液校正は、洗浄後に行うことが好ましい。また、標準液Aによる校正と標準液Bによる校正の間にも簡単な洗浄を行うことが好ましい。
【0018】
検出部1の洗浄は、電極本体21の下端面21aに向けて洗浄水と薬液とを吹き付けることによって行う。洗浄水としては、水道水、工業用水等を使用できる。薬液としては、酸溶液、特に塩酸溶液が好ましい。
洗浄水と薬液を吹きつける順番や時間は、電極の汚れ具合等を考慮して適宜設定すればよいが、薬液を使用する場合、洗浄水で予洗浄をした後、薬液を吹きつけ、その後再度洗浄水を吹きつけて、薬液による不安定状態を修復することが好ましい。この場合、予洗浄の時間を20〜60秒の範囲で、薬液洗浄の時間30〜90秒の範囲で、薬液洗浄後の洗浄水による洗浄時間を30〜600秒の範囲で、適宜設定することができる。
なお、標準液Aによる校正と標準液Bによる校正の間に行う洗浄は、洗浄水による洗浄を短時間行うだけで通常充分である。
【0019】
なお、本発明の校正方法は、標準液A、Bの2種類を使用する2点校正に限定されず、例えば試料液のpH値に近い標準液(例えばpH4の標準液)のみで行なう1点校正でもよい。
また、本発明の校正方法で校正する計測器はpH計に限定されず、たとえば、イオン濃度計であってもよい。
【実施例】
【0020】
図5のタイムチャートに従って図1の検出部1を有するpH計の校正を実施した。各標準液吹きつけの流量は100mL/分とした。また、薬液吹きつけの流量は100mL/分とし、洗浄水吹きつけの流量は約10L/分とした。図5における符号の意味は以下のとおりである。
w1:洗浄水吹きつけによる洗浄工程(20秒に設定)
w2:薬液(5%塩酸)吹きつけによる洗浄工程(50秒に設定)
w3:洗浄水吹きつけによる再洗浄工程(120秒に設定)
s1:pH7標準液の吹きつけ工程(60秒に設定)
s2:pH7標準液の吹きつけ中断工程(60秒に設定)
s3:pH7標準液の再吹きつけ工程(安定判別後校正信号を取得して終了)
w4:s3とs4との間に行う洗浄水による洗浄工程(10秒に設定)
s4:pH4標準液の吹きつけ工程(60秒に設定)
s5:pH4標準液の吹きつけ中断工程(60秒に設定)
s6:pH4標準液の再吹きつけ工程(安定判別後校正信号を取得して終了)
w5:s6の後に行う洗浄水による洗浄工程(10秒に設定)
【0021】
なお、各再吹きつけ工程における安定判別は、継続的にpH出力値を検知し、1秒あたりのpH出力値変化が0.003pH以下となったときに安定したとみなし、校正信号を取得した。s3、s6のいずれの工程においても安定判別に要した時間は30秒未満であった。すなわち、s3、s6のいずれの工程も30秒未満で終了した。
【0022】
図5に示した工程(1回目の洗浄・校正工程)と、これに続く2回目の洗浄・校正工程を行い、その後ビーカーの中にためた標準液の測定を行った。これら全工程におけるpH出力チャートを図6に示す。なお、全工程における洗浄水、薬液、各標準液の温度は約15〜17℃であったが、pH出力値は、温度補償により25℃の値に換算されたものである。
【0023】
図6において、図5に示した工程と同じ工程については、図5と同一の符号を付した。その他の符号の意味は以下のとおりである。
W−1:1回目の洗浄(w1〜w3)
pH7−1:pH7標準液による1回目の校正(s1〜s3)
pH4−1:pH4標準液による1回目の校正(s4〜s6)
W−2:2回目の洗浄(w5及びw2〜w3と同じ工程)
pH7−2:pH7標準液による2回目の校正(pH7−1と同じ工程)
pH4−2:pH4標準液による2回目の校正(pH4−1と同じ工程)
pH7−3:ビーカーに入れたpH7標準液の測定
pH4−3:ビーカーに入れたpH4標準液の測定
なお、pH7−2とpH4−2との間には、w4と同じ工程を行った。
【0024】
図6に示すように、1回目と2回目の校正における校正信号取得時の出力pHは一致しており、本発明の校正方法によって高い再現性が得られることが確認できた。
また、2回目の校正後ビーカーの標準液を測定したところ、pH7標準液については、6.86pHの測定値が得られた。また、pH4の標準液については、3.96pHの測定値が得られた。したがって、本発明の方法によって正確な校正が可能であることが確認できた。
また、各標準液の吹きつけ時間は、いずれも合計して約1分半であった(s1+s3、s4+s6)。すなわち、各標準液による1回の校正あたりの標準液使用量は約150mLであり、従来(流量100mL/分で3分間連続して吹きつけ)の約半量に削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の測定方法を実施するためのpH計の検出部である。
【図2】図1の検出部の要部を拡大した斜視図である。
【図3】標準液吹きつけの状態を示す一部切り欠き断面図である。
【図4】標準液吹きつけにより形成される滴端の説明図である。
【図5】本発明の実施例に係るタイムチャートである。
【図6】本発明の実施例に係るpH出力チャートである。
【符号の説明】
【0026】
1…検出部、10…電極ホルダ、20…pH電極、21…電極本体、
22…ガラス膜、23…液絡部、24…温度補償素子、30…保護筒、
40…エアシリンダ、50…洗浄校正槽、60…リード線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中に保持した電極に標準液を吹きつけながら、該電極からの出力電位を校正信号として取得する計測器の校正方法であって、
標準液の吹きつけ開始から校正信号の取得までの間に、標準液の吹きつけを中断する中断期間を設けたことを特徴とする計測器の校正方法。
【請求項2】
前記電極が複合電極式pH電極であり、ガラス膜と液絡部とが下端面に配置されている請求項1に記載の計測器の校正方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−322736(P2006−322736A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144027(P2005−144027)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)