説明

計測装置及び安全監視システム

【課題】装置の小型化及び独立動作可能に構成することにより、設置箇所を任意に選択することが可能な計測装置を提供すること。
【解決手段】本発明の計測装置は、地上又は地中に設置した構造物の近傍に設置する、本体部と、前記本体部と接続し、前記計測対象に設置する傾斜計を少なくとも含む、センサ群と、から少なくとも構成する。前記本体部は、前記センサ群の測定値を記録する、記録手段と、前記記録手段及びセンサ群に電力を供給可能な、蓄電手段と、を少なくとも含んで、自己給電により独立動作可能に構成する。前記傾斜計には、直流電圧が0〜5V、又は直流電流が4〜20mAの入力信号を用いた流体式の傾斜計を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留壁、コンクリート壁などの地上又は地中に設置した構造物(以下、単に「構造物」という。)に作用する外力を算出するための測定値を計測する計測装置、及び、該計測装置を用いた安全監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
前記構造物の一例である土留壁の健全性を評価するための監視装置として、特許文献1に記載の土留壁監視装置が知られている。
特許文献1に記載の監視装置は、土留壁の状態を検知するための各種センサ(軸力計、変位計、傾斜計、沈下計)を設け、各種センサから得られる計測値を現場事務所に設置した解析装置でもって解析し、緊急状態時に警報するものである。
【0003】
また、前記監視装置に用いる傾斜計には、特許文献2に記載の差動トランス式の傾斜計を用いることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−160558号公報
【特許文献2】特開2008−216227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した従来技術では、下記した問題のうち、少なくとも何れか1つの問題が生じうる。
(1)装置小型化の限界
差動トランス式の傾斜計は、瞬間的な変位を検出できる高精度の測定用途に用いられることが一般的なため、微少電流を使用している。したがって、前記傾斜計に加えて増幅器等を要するため、部材点数の増加が避けられず、装置全体の小型化にも限界がある。
(2)外部電源の必要性
計測装置に必要な電力を供給する際、現場に電力線を配線する必要が生じる。
現場に電力線を配線する際には、事前に現場事務所との折衝が必要となってしまうため、当該配線をできる限り回避したいニーズがある。また、配線後には、重機の通行等による断線などの不具合が生じる可能性がある。
(3)緊急時の対策遅延
現場事務所に設置した解析装置により、現場事務所の担当者が土留壁への対応の必要性を把握したとしても、その後、担当者から改めて土留壁の管理会社に連絡して指示を出す必要が生じるため、迅速な対応が図れない場合がある。
【0006】
したがって、本発明は、装置の小型化及び独立動作可能に構成することにより、設置箇所を任意に選択することが可能な計測装置の提供、ならびに、構造物の挙動を監視するにあたり優位性の高い安全監視システムを提供することを目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の何れか一つを解決すべくなされた本願の第1発明は、地上又は地中に設置した構造物に作用する外力を算出するための測定値を計測する、計測装置であって、前記構造物の近傍に設置する、本体部と、前記本体部と接続し、前記計測対象に設置する傾斜計を少なくとも含む、センサ群と、から少なくとも構成し、前記本体部は、前記センサ群の測定値を記録する、記録手段と、前記記録手段及びセンサ群に電力を供給可能な、蓄電手段と、を少なくとも含んで、自己給電により独立動作可能に構成し、前記傾斜計は、直流電圧が0〜5V、又は直流電流が4〜20mAの入力信号を用いた流体式の傾斜計である、計測装置を提供するものである。
また、本願の第2発明は、前記発明において、前記本体部がさらに箱体を有し、前記記録手段及び蓄電手段を前記箱体の内部に収納して、前記本体部を運搬自在に構成したことを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記発明において、自然エネルギーを用いて前記蓄電手段に蓄電可能な、発電手段を更に含むものである。
また、本願の第4発明は、前記発明において、前記発電手段が太陽光によって発電することを特徴とするものである。
また、本願の第5発明は、前記発明において、前記センサ群が、地中に設置した土留材に設ける傾斜計と、前記土留材間に架設した切梁に設ける圧力計と、を少なくとも含み、前記センサ群でもって前記土留材に作用する外力を算出するための測定値を計測することを特徴とするものである。
また、本願の第6発明は、地上又は地中、若しくはそれらに設置した構造物の挙動を監視するための安全監視システムであって、前記発明に記載した計測装置と、前記計測対象の管理会社に設置し、前記計測装置と情報の送受信が可能な、管理者側端末と、を少なくとも含み、前記管理者側端末は、前記測定値から構造物に作用する外力を算出する演算手段と、前記算出した外力が設計値以上である場合に、警報を通知する警報手段と、を少なくとも含む、安全監視システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか一つを得ることができる。
(1)装置全体の小型化
国際電気標準会議に準拠した仕様(IEC 60381−2/直流電圧:0〜5V、又は直流電流:4〜20mA)の傾斜計を用い、微少電流を用いないため、測定値の取得に際し増幅器等を設ける必要が無い為、部材点数を低減することができる。その他、各構成部品も前記規格に準拠した仕様の部品を使用できるため、数多くの種類の中から適切な部品を選択でき、装置全体として、小型化に寄与することができる。また、装置全体のコストも抑えることができる。
(2)取扱性の向上
蓄電手段によって自己給電することにより独立動作が可能であるため、外部電源を必要とせず、現場に給電線を配線する必要が無い。したがって現場事務所との折衝も不要であり利便性が高い。また、前記(1)の小型化に伴い、軽量化にも寄与するため、運搬性にも優れる。
したがって、装置の移動が容易であるため、測定場所の変更にも柔軟に対応できる。
(3)緊急時における迅速対応の実現
構造物への対応が必要な場合が生じたときには、構造物の管理会社に対して直接通報がなされるため、現場事務所の担当者の作業を省略でき、迅速な対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の計測装置の第一実施例を示す概略ブロック図。
【図2】本発明の計測装置に用いる傾斜計の一例を示す概略図。
【図3】本発明の計測装置の配置例を示す参考正面図。
【図4】本発明の計測装置の配置例を示す参考平面図。
【図5】本発明の計測装置の第二実施例を示す概略ブロック図。
【図6】本発明の計測装置の第二実施例を示す斜視図。
【図7】本発明の安全監視システムの第一実施例を示す概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面を参照しながら、本発明の計測装置及び安全監視システムの実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
始めに、本発明の計測装置の実施例について説明する。
【0012】
<1>全体構成
図1は、本発明の計測装置の第一実施例を示す概略ブロック図である。
計測装置は、前記構造物の挙動を計測するための装置である。
計測装置Aは、本体部1と、本体部に電気的に接続されたセンサ群2とを少なくとも含んで構成する。
【0013】
<2>本体部
本体部1は、前記センサ群からの測定データを記録する機能を少なくとも備える装置である。
本体部1は、地上に据え置いたり、現場に設けた柱などに固定するなど、周知の方法によって設置される。
本体部1は、前記センサ群2の測定値を記録する、記録手段11と、前記記録手段11及びセンサ群2に電力を供給可能な、蓄電手段12と、を少なくとも含む。
前記蓄電手段12は前記記録手段11や前記センサ群2に給電することができる。すなわち、本体部1は自己給電によって独立動作が可能であり、外部電源を要しない構成である。
【0014】
(2.1)記録手段
記録手段11は、前記センサ群が測定したデータを記録する装置である。
記録手段11には、一般的なデータロガーを用いることができる。
記録手段11は、入力電圧を−10V〜10Vの範囲に限定することで省電力化を図ることができる。
記録手段11には、センサ群2が取得した測定値を外部メモリに記録する為の外部メモリ用のインターフェースや、前記測定値を無線或いは有線通信を用いてPCなどの情報処理装置へと送信するための通信インターフェースなどを備えておくこともできる。
【0015】
(2.2)蓄電手段
蓄電手段12は、計測装置Aを構成する各手段へと給電するための装置である。
蓄電手段12には、一般的なバッテリーを用いればよいため、詳細な説明は省略する。
【0016】
<3>センサ群
センサ群2は、前記構造物から、該構造物の挙動を把握するための各種測定値を取得するための装置である。
センサ群2は、少なくとも傾斜計21を有する。
センサ群2によって計測された各種測定値は、前記本体部1へと送られ、本体部1内の記録手段11で記録される。
【0017】
(3.1)傾斜計
本発明の傾斜計21は、流体式傾斜計を用いる。
図2は、本発明の計測装置に用いる傾斜計の一例を示す概略図である。
傾斜計21の内部には、半円形の電極211a、211bが2枚左右に対向するように配置してあり、該電極211a、211bの周囲を囲むように配した基準電極212と、当該電極211a、211bの一部が浸かるようにシリコンオイル213が封入してある。
傾斜計21が傾斜する際、前記各電極211a、211bに対するシリコンオイル213の浸漬面積の差異を電気的に測定することで、傾斜量を検知することができる。
当該傾斜計21は、従来の差動トランス型の傾斜計のように微少電流を使用せずとも、高精度に傾斜角度を検知できるため、国際標準規格に準拠した仕様(直流電圧:0〜5V、直流電流:4〜20mA)を採用することができ、増幅器等の部品を用いる必要が無い。
【0018】
(3.2)その他のセンサ
センサ群2を構成するその他のセンサとしては、圧力センサや、水位センサなどが挙げられるが、これらのセンサに限らない。
圧力センサは、例えば土留壁間に配置する切梁に設けることで、前記土留壁に作用する外力を算出すべく、前記切梁の軸力を計測することができる。
水位センサは、例えば開削地盤内などに配置することで、地下水の流出等を検知することができる。
【0019】
<4>全体サイズ
前記した各手段の外形寸法、並びに仕様は以下の通りである。
・記録手段11:幅240mm×長さ170mm×深さ30mm
・蓄電手段12:幅65mm×長さ150mm×深さ95mm、容量7.2Ah、出力12V、重量2.6kg、
上記各手段を箱体に収納した本体部1の外形寸法並びに重量は以下の通りである。
・本体部1:幅420mm×長さ500mm×深さ260mm、重量10kg、
以上の通り、本発明の計測装置Aは、小型且つ軽量で運搬性に優れるため、移動が容易で測定場所の変更にも柔軟に対応できる。
【0020】
<5>使用方法
次に、本発明の計測装置の使用例について説明する。
【0021】
図3は、本発明の計測装置の配置例を示す参考正面図である。
本図では、前記構造物として、土留壁Bを想定するものである。
本発明の計測装置Aは、なるべく土留壁Bの近傍に配置する。当該配置とすることにより、本体部1とセンサ群2とを接続する信号ケーブルの配線長を短縮したり、配線の手間を軽減したり、重機の往来による前記信号ケーブルの損傷機会を低減したりすることができる。
本実施例でのセンサ群2は、前記傾斜計21と、圧力センサ22と、から構成する。
傾斜計21は、土留壁Bを構成する芯材B1(H鋼やC鋼、鋼矢板等の形鋼)の長手方向へ別途設けた保護管B2の内部に、所定間隔を設けながら複数配置して、土留壁Bの傾斜を測定する。
圧力センサ22は、土留壁B間に設けた縦横方向の切梁Cにそれぞれ設けて、切梁Cの軸力を測定する。
【0022】
図4は、本発明の計測装置の配置例を示す参考平面図である。
本発明の計測装置Aは前記の通り蓄電手段21を内蔵しており、独立動作可能であるため、設置場所を任意に設定できる。従って、100Vの外部電源等を現場の地表面に引き回す必要はなく、当該配線に起因する現場事務所との折衝も不要である。
【0023】
本発明の計測装置Aを起動した後、各センサ群2の測定値は、記録手段11に差し込まれた外部メモリに記録されたり、前記通信インターフェースを介して、その他の情報処理装置へと送信される。当該測定値を前記情報処理装置上で加工し、土留壁Bに作用する外力を一覧表示したり、リアルタイム表示するなどの情報処理が可能である。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明の計測装置の第二実施例について説明する。
【0025】
図5は、本発明の計測装置の第二実施例を示す概略ブロック図である。
本発明は、前記蓄電手段12に蓄電可能な発電手段3を設けることもできる。
発電手段3は、太陽光、風力、水力、波力その他の自然エネルギーによって発電可能な装置である。特に、本発明の技術分野においては、設置場所が比較的採光性の高い場所であるため、太陽光発電による発電手段であることが望ましい。
【0026】
図6は、本発明の計測装置の第二実施例を示す斜視図である。
本体部1は、更に箱体を有し、前記記録手段11及び蓄電手段12を、前記箱体などに収納することで、本体部1を運搬自在に構成している。
本体部1は、現場に立設してある柱に取付け、太陽光パネルである発電手段3を、本体部1に別途取り付け、本体部1内部の蓄電手段12に接続してある。
各種センサ群2が接続された信号ケーブルは、前記柱に沿わせるなどして、重機の往来の邪魔にならないように取り回す。
【0027】
本実施例によれば、発電手段3によって、適宜蓄電手段12へと蓄電が行われるため、外部電源によらずとも、計測装置Aの永続的な動作が期待できる。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明の安全監視システムの実施例について説明する。
図7は、本発明の安全監視システムの第一実施例を示す概略ブロック図である。
本発明の安全監視システムDは、前記した計測装置Aと、前記計測装置Aと情報の送受信が可能な、管理者側端末4と、を少なくとも含んで構成する。
【0029】
なお、本実施例での計測装置は、無線通信での通信インターフェースを必須とする。
【0030】
また、前記管理者側端末4は、前記計測対象の管理会社に設置する。
前記管理者側端末4は、前記センサ群2から受信した測定値から構造物に作用する外力を算出する演算手段41と、前記算出した外力が設計値以上である場合に、警報を通知する警報手段42と、を少なくとも含んで構成する。
各手段は、CPU、メモリ、記憶装置、ブザーなどのハードウェアに、ソフトウェアを組み合わせた公知の手段によって実現可能であり、詳細な説明は省略する。
【0031】
本実施例の安全監視システムによれば、構造物への対応が必要な場合が生じたときには、構造物の管理会社に対して直接通報がなされるため、従来のように、現場事務所の担当者が使用する情報処理装置に通報する場合と比べて、迅速な対応が可能となる。
【符号の説明】
【0032】
A 計測装置
1 本体部
11 記録手段
12 蓄電手段
2 センサ群
21 傾斜計
22 圧力センサ
3 発電手段
D 安全監視システム
4 管理者側端末
41 演算手段
42 警報手段
B 土留壁
C 切梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上又は地中に設置した構造物に作用する外力を算出するための測定値を計測する、計測装置であって、
前記構造物の近傍に設置する、本体部と、
前記本体部と接続し、前記計測対象に設置する傾斜計を少なくとも含む、センサ群と、から少なくとも構成し、
前記本体部は、
前記センサ群の測定値を記録する、記録手段と、
前記記録手段及びセンサ群に電力を供給可能な、蓄電手段と、を少なくとも含んで、自己給電により独立動作可能に構成し、
前記傾斜計は、直流電圧が0〜5V、又は直流電流が4〜20mAの入力信号を用いた流体式の傾斜計である、
計測装置。
【請求項2】
前記本体部がさらに箱体を有し、前記記録手段及び蓄電手段を前記箱体の内部に収納して、前記本体部を運搬自在に構成したことを特徴とする、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
自然エネルギーを用いて前記蓄電手段に蓄電可能な、発電手段を更に含む、請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記発電手段が太陽光によって発電することを特徴とする、請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記センサ群が、地中に設置した土留材に設ける傾斜計と、前記土留材間に架設した切梁に設ける圧力計と、を少なくとも含み、前記センサ群でもって前記土留材に作用する外力を算出するための測定値を計測することを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
地上又は地中、若しくはそれらに設置した構造物の挙動を監視するための安全監視システムであって、
請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の計測装置と、
前記計測対象の管理会社に設置し、前記計測装置と情報の送受信が可能な、管理者側端末と、を少なくとも含み、
前記管理者側端末は、
前記測定値から構造物に作用する外力を算出する演算手段と、
前記算出した外力が設計値以上である場合に、警報を通知する警報手段と、
を少なくとも含む、安全監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23857(P2013−23857A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158001(P2011−158001)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000112093)ヒロセ株式会社 (49)
【Fターム(参考)】