説明

記録ヘッド、およびこれを備えたディスク装置

【課題】記録媒体上の記録品質が向上し、記録媒体の線記録密度を向上させることが可能な記録ヘッドおよびこれを備えたディスク装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、記録ヘッド56は、記録媒体12の記録層103に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極2と、主磁極にライトギャップを置いて対向し、前記主磁極からの磁束を還流させて前記主磁極とともに磁気回路を形成するリターン磁極3と、軟磁性体25が分散配置された非磁性体24で形成され、前記主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する連結部4と、前記主磁極およびリターン磁極が形成する磁気回路に磁束を励起するコイルと、前記主磁極の前記記録媒体側の端部とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生するスピントルク発振子74と、前記リターン磁極および主磁極を通して前記スピントルク発振子に電流を流す電流源80と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ディスク装置に用いる垂直磁気記録用の記録ヘッド、およびこの記録ヘッドを備えたディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置として、例えば、磁気ディスク装置は、ケース内に配設された磁気ディスクと、磁気ディスクを支持および回転するスピンドルモータと、磁気ディスクに対して情報のリード/ライトを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリと、を備えている。キャリッジアッセンブリは、回動自在に支持されたアームと、アームから延出したサスペンションとを備え、このサスペンションに延出端に磁気ヘッドが支持されている。磁気ヘッドは、サスペンションに取り付けられたスライダ、およびスライダに設けられたヘッド部を有し、このヘッド部は、ライト用の記録ヘッドとリード用の再生ヘッドとを有している。
【0003】
近年、磁気ディスク装置の高記録密度化、大容量化あるいは小型化を図るため、スピントルク発振子を有する垂直磁気記録用の記録ヘッドが提案されている。この記録ヘッドは、垂直方向磁界を発生させる主磁極と、その主磁極のトレーリング側にライトギャップを挟んで配置されて磁気ディスクとの間で磁路を閉じるリターン磁極、あるいはライトシールド磁極と、主磁極に磁束を流すためのコイルとを有している。主磁極の先端部とリターン磁極との間にスピントルク発振子が設けられている。
【0004】
このような記録ヘッドでは、スピントルク発振子を発振させるために、スピントルク発振子を挟むように配置された主磁極とリターン磁極との間に電流を直流通電させる必要がある。そのため、主磁極の後部とリターン磁極の後部とを連結しているとともにコイルが巻きつく後部接合部は、非導電性材料で形成されている。
【0005】
しかし、この非導電性材料は、軟磁性体ではないために、主磁極とリターン磁極から構成される磁気回路において、後部接合部で磁気ギャップが生じ、磁界損失が生じる。そのため、スピントルク発振子に加わるリターン磁極、主磁極間のギャップ磁界が減少し、記録時に記録媒体に加わる所望のもれ磁界も減少する。その結果、記録媒体に対して良好な記録状態を実現することが困難となり、記録品質SNが劣化し、磁気ディスクの線記録密度を上げることが困難となる。
【0006】
また、後部接合部をフェライト等の電気的絶縁性を有する強磁性酸化物で構成した記録ヘッドが提案されている。酸化物磁性体は、飽和磁束密度が主磁極・リターン磁極で用いられる金属軟磁性体に比べて、1/4〜1/2と低いため、十分な磁界強度を発生させるためには、後部接合部の体積を増やす必要がある。しかし、後部接合部の体積を増大する場合、後部接合部に巻きつくコイル長を増大させる必要がでてくる。そのため、高転送の磁気記録を行う場合には、応答速度が不十分となり、記録媒体上の記録品質が劣化し、磁気ディスクの線記録密度をあげられないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−253043号公報
【特許文献2】特開2010−040060号公報
【特許文献3】特開2009−301695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、記録媒体上の記録品質が向上し、記録媒体の線記録密度を向上させることが可能な記録ヘッドおよびこれを備えたディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、記録ヘッドは、記録媒体の記録層に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向し、前記主磁極からの磁束を還流させて前記主磁極とともに磁気回路を形成するリターン磁極と、軟磁性体が分散配置された非磁性体で形成され、前記主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する連結部と、前記主磁極およびリターン磁極が形成する磁気回路に磁束を励起するコイルと、前記主磁極の前記記録媒体側の端部とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、前記リターン磁極および主磁極を通して前記スピントルク発振子に電流を流す電流源と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)を示す斜視図。
【図2】図2は、前記HDDにおける磁気ヘッドおよびサスペンションを示す側面図。
【図3】図3は、前記磁気ヘッドのヘッド部および磁気ディスクを拡大して示す断面図。
【図4】図4は、記録ヘッドのABS側の端部を拡大して示す断面図。
【図5】図5は、前記記録ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図6】図6は、前記記録ヘッドをリーディング側からみた平面図。
【図7】図7は、前記記録ヘッド部分をスライダのABS面側から見た平面図。
【図8】図8は、前記記録ヘッドを破断して示す斜視図。
【図9】図9は、前記記録ヘッドの連結部を拡大して示す断面図。
【図10】図10は、比較例1に係る磁気ヘッドと、第1の実施形態に係る磁気ヘッドとについて、ビットエラーレートを比較して示す図。
【図11】図11は、比較例2に係る磁気ヘッドと、第1の実施形態に係る磁気ヘッドとについて、ビットエラーレートを比較して示す図。
【図12】図12は、第2の実施形態に係るHDDの記録ヘッドの連結部を拡大して示す断面図。
【図13】図13は、第3の実施形態に係るHDDの記録ヘッドを一部破断して示す斜視図。
【図14】図14は、第3の実施形態に係るHDDの記録ヘッドの連結部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、ディスク装置として、種々の実施形態に係るハードディスクドライブ(以下、HDDと称する)について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るHDDのトップカバーを取り外して内部構造を示し、図2は、浮上状態の磁気ヘッドを示している。図1に示すように、HDDは筐体10を備えている。この筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース10aと、図示しない矩形板状のトップカバーとを備えている。トップカバーは、複数のねじによりベースにねじ止めされ、ベースの上端開口を閉塞している。これにより、筐体10内部は気密に保持され、呼吸フィルター26を通してのみ、外部と通気可能となっている。
【0012】
ベース10a上には、記録媒体としての磁気ディスク12および機構部が設けられている。機構部は、磁気ディスク12を支持および回転させるスピンドルモータ13、磁気ディスクに対して情報の記録、再生を行なう複数、例えば、2つの磁気ヘッド33、これらの磁気ヘッド33を磁気ディスク12の表面に対して移動自在に支持したヘッドアクチュエータ14、ヘッドアクチュエータを回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)16を備えている。また、ベース10a上には、磁気ヘッド33が磁気ディスク12の最外周に移動した際、磁気ヘッド33を磁気ディスク12から離間した位置に保持するランプロード機構18、HDDに衝撃等が作用した際、ヘッドアクチュエータ14を退避位置に保持するラッチ機構20、およびプリアンプ、ヘッドIC等の電子部品が実装された基板ユニット17が設けられている。
【0013】
ベース10aの外面には、制御回路基板22がねじ止めされ、ベース10aの底壁と対向して位置している。制御回路基板22は、基板ユニット17を介してスピンドルモータ13、VCM16、および磁気ヘッド33の動作を制御する。
【0014】
図1に示すように、磁気ディスク12は、スピンドルモータ13のハブに互いに同軸的に嵌合されているとともにハブの上端にねじ止めされたクランプばね15によりクランプされ、ハブに固定されている。磁気ディスク12は、駆動モータとしてのスピンドルモータ13により所定の速度で矢印B方向に回転駆動される。
【0015】
ヘッドアクチュエータ14は、ベース10aの底壁上に固定された軸受部21と、軸受部から延出した複数のアーム27と、を備えている。これらのアーム27は、磁気ディスク12の表面と平行に、かつ、互いに所定の間隔を置いて位置しているとともに、軸受部21から同一の方向へ延出している。ヘッドアクチュエータ14は、弾性変形可能な細長い板状のサスペンション30を備えている。サスペンション30は、板ばねにより構成され、その基端がスポット溶接あるいは接着によりアーム27の先端に固定され、アームから延出している。各サスペンション30は対応するアーム27と一体に形成されていてもよい。各サスペンション30の延出端に磁気ヘッド33が支持されている。アーム27およびサスペンション30によりヘッドサスペンションを構成し、このヘッドサスペンションと磁気ヘッド33とによりヘッドサスペンションアッセンブリを構成している。
【0016】
図2に示すように、各磁気ヘッド33は、ほぼ直方体形状のスライダ42とこのスライダの流出端(トレーリング端)に設けられた記録再生用のヘッド部44とを有している。磁気ヘッド33は、サスペンション30の先端部に設けられたジンバルばね41に固定されている。各磁気ヘッド33は、サスペンション30の弾性により、磁気ディスク12の表面に向かうヘッド荷重Lが印加されている。2本のアーム27は所定の間隔を置いて互いに平行に位置し、これらのアームに取り付けられたサスペンション30および磁気ヘッド33は、磁気ディスク12を間に挟んで互いに向かい合っている。
【0017】
各磁気ヘッド33は、サスペンション30およびアーム27上に固定された中継フレキシブルプリント回路基板(以下、中継FPCと称する)35を介して後述するメインFPC38に電気的に接続されている。
【0018】
図1に示すように、基板ユニット17は、フレキシブルプリント回路基板により形成されたFPC本体36と、このFPC本体から延出したメインFPC38とを有している。FPC本体36は、ベース10aの底面上に固定されている。FPC本体36上には、プリアンプ37、ヘッドICを含む電子部品が実装されている。メインFPC38の延出端は、ヘッドアクチュエータ14に接続され、各中継FPC35を介して磁気ヘッド33に接続されている。
【0019】
VCM16は、軸受部21からアーム27と反対方向に延出した図示しない支持フレーム、および支持フレームに支持されたボイスコイルを有している。ヘッドアクチュエータ14をベース10aに組み込んだ状態において、ボイスコイルは、ベース10a上に固定された一対のヨーク34間に位置し、これらのヨークおよびヨークに固定された磁石とともにVCM16を構成している。
【0020】
磁気ディスク12が回転した状態でVCM16のボイスコイルに通電することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は磁気ディスク12の所望のトラック上に移動および位置決めされる。この際、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の径方向に沿って、磁気ディスクの内周縁部と外周縁部との間を移動される。
【0021】
次に、磁気ディスク12および磁気ヘッド33の構成について詳細に説明する。図3は、磁気ヘッド33のヘッド部44および磁気ディスクを拡大して示す断面図である。
【0022】
図1ないし図3に示すように、磁気ディスク12は、例えば、直径約2.5インチの円板状に形成され非磁性体からなる基板101を有している。基板101の各表面には、下地層として軟磁気特性を示す材料からなる軟磁性層102と、その上層部に、ディスク面に対して垂直方向に磁気異方性を有する磁気記録層103と、その上層部に保護膜層104が順に積層されている。
【0023】
図2および図3に示すように、磁気ヘッド33は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ42と、スライダの流出端(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部44とを有している。スライダ42は、例えば、アルミナとチタンカーバイドの焼結体(アルチック)で形成され、ヘッド部44は薄膜により形成されている。
【0024】
スライダ42は、磁気ディスク12の表面に対向する矩形状のディスク対向面(空気支持面(ABS面))43を有している。スライダ42は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより浮上する。空気流Cの方向は、磁気ディスク12の回転方向Bと一致している。スライダ42は、磁気ディスク12表面に対し、ディスク対向面43の長手方向が空気流Cの方向とほぼ一致するように配置されている。
【0025】
スライダ42は、空気流Cの流入側に位置するリーディング端42aおよび空気流Cの流出側に位置するトレーリング端42bを有している。スライダ42のディスク対向面43には、図示しないリーディングステップ、トレーリングステップ、サイドステップ、負圧キャビティ等が形成されている。
【0026】
図3に示すように、ヘッド部44は、スライダ42のトレーリング端42bに薄膜プロセスで形成された再生ヘッド54および記録ヘッド56を有し、分離型の磁気ヘッドとして形成されている。
【0027】
再生ヘッド54は、磁気抵抗効果を示す磁性膜75と、この磁性膜のトレーリング側およびリーディング側に磁性膜75を挟むように配置されたシールド膜76、77と、で構成されている。これら磁性膜75、シールド膜76、77の下端は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。
【0028】
記録ヘッド56は、再生ヘッド54に対して、スライダ42のトレーリング端42b側に設けられている。記録ヘッド56は、トレーリング端側にリターン磁極をもつ単磁極ヘッドとして構成されている。
【0029】
図4は、記録ヘッドのABS側の端部を拡大して示す断面図、図5は、記録ヘッドを模式的に示す斜視図、図6は、記録ヘッドをリーディング側からみた平面図、図7は、記録ヘッド部分をスライダのABS面側から見た平面図、図8は、記録ヘッドを破断して示す斜視図である。
【0030】
図3、図5、図8に示すように、記録ヘッド56は、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向の記録磁界を発生させる軟磁気特性を有する主磁極2と、主磁極2のトレーリング側に配置され、主磁極直下の軟磁性層102を介して磁路を閉じるために設けられたリターン磁極3と、ディスク対向面43から離れた主磁極2の上部(後部)とリターン磁極の上部(後部)とを互いに接合した連結部4と、を含む磁気コアと、磁気ディスク12に信号を書き込む際、主磁極2に磁束を流すために主磁極2およびリターン磁極3を含む磁気磁路に巻きつくように、ここでは、連結部4に巻き付くように、配置された記録コイル5と、を有している。
【0031】
主磁極2は、磁気ディスク12の表面に対してほぼ垂直に延びている。主磁極2の磁気ディスク12側の先端部2aは、ディスク面に向かって先細に絞り込まれている。主磁極2の先端部2aは、例えば、断面が台形状に形成され、主磁極2の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。
【0032】
リターン磁極3は、ほぼL字形状に形成され、その先端部3aは、細長い矩形状に形成されている。リターン磁極3の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。先端部3aのリーディング側端面3bは、磁気ディスク12のトラックの幅方向に沿って延びている。このリーディング側端面3bは、主磁極2のトレーリング側端面とライトギャップを置いて平行に対向している。
【0033】
主磁極2とリターン磁極3とに電流源80が接続され、この電流源から主磁極2、リターン磁極3を通して電流Iopを直列に通電できるように電流回路が構成されている。
【0034】
図4、図6、図7に示すように、記録ヘッド56は、リターン磁極3と主磁極2の先端部2aとの間に設けられた高周波発振子、例えば、スピントルク発振子74と、スピントルク発振子74が発振しやすいように配置されたスピン注入層78と、が設けられている。スピントルク発振子74は、主磁極2の先端部2aのトレーリング側端面とリターン磁極3のリーディング側端面3bとの間に、これらの端面と平行に配置されている。スピントルク発振子74およびスピン注入層78は、その先端がABS面43に露出し、磁気ディスク12の表面に対して、主磁極66の先端面と同一の高さ位置に設けられている。主磁極2の先端部2aのトレーリング側端面のトラック幅方向(TW)長さは、スピントルク発振子74のトラック幅方向(TW)の長さよりも長いことが好ましい。
【0035】
スピントルク発振子74は、前述した制御回路基板22の制御の下、電流源80から主磁極2、リターン磁極3を通して電流を印加することにより発振し、磁気ディスク12に高周波磁界を印加する。このように、リターン磁極3と主磁極2はスピントルク発振子74に垂直通電する電極として働くことになる。
【0036】
図3、図8および図9に示すように、主磁極2の上部(後部)とリターン磁極3の上部(後部)とを互いに接合する連結部4は、主磁極2とリターン磁極3との間に挟まれてこれらに面接触し、主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する非磁性絶縁層24と、この非磁性絶縁層24内に混入された多数の軟磁性体25と、を有している。本実施形態において、軟磁性体25は、非磁性絶縁層24の中に柱状に分散配置され、それぞれ非磁性絶縁層24と直交する方向に延びている。すなわち、各軟磁性体25は、主磁極2とリターン磁極3と間を非磁性絶縁層24と直交して延び、主磁極2およびリターン磁極3に接触している。
【0037】
軟磁性体25は、たとえば、Fe、Ni、Coを含む合金を用いることができる。軟磁性体25、および非磁性層24は、グラニュラー媒体と同様に非磁性絶縁体と軟磁性体の焼結体をそれぞれターゲット蒸着し自然分離させるスパッタ法、あるいは、非磁性体と軟磁性体の2ターゲットを同時スパッタするコスパッタ法によって製造される。
【0038】
図3に示すように、上記のように構成された再生ヘッド54および記録ヘッド56は、スライダ42のABS面43に露出する部分を除いて、保護絶縁膜79により覆われている。保護絶縁膜79は、ヘッド部44の外形を構成している。
【0039】
以上のように構成されたHDDによれば、VCM16を駆動することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の所望のトラック上に移動され、位置決めされる。また、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより浮上する。HDDの動作時、スライダ42のディスク対向面43はディスク表面に対し隙間を保って対向している。図2に示すように、磁気ヘッド33は、ヘッド部44の記録ヘッド56部分が最も磁気ディスク12表面に接近した傾斜姿勢をとって浮上する。この状態で、磁気ディスク12に対して、再生ヘッド54により記録情報の読み出しを行うとともに、記録ヘッド56により情報(信号)の書き込みを行う。
【0040】
情報の書き込みにおいては、記録ヘッド56の記録コイル5に交流電流を流すことにより、主磁極2のABS面側の先端面から発生する磁界で磁気ディスク12の磁気記録層103に情報を書き込み、また、記録コイル5への通電時、あるいは、通電前に電流源80より、主磁極2とリターン磁極3を直列に接続した電気回路に電流Iopを流す。これにより、スピントルク発振子74に直流電流を通電して高周波磁界を発生させ、この高周波磁界を磁気ディスク12の垂直磁気記録層103に印加する。記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、高保持力かつ高磁気異方性エネルギーの磁気記録を行うことができる。
【0041】
上記のように構成された記録ヘッドによれば、記録コイル5への通電により発生する磁束は、連結部4の軟磁性体25を介して主磁極2とリターン磁極3との間で流れる。そのため、ディスク対向面43の磁気ギャップ部分の磁界強度Aが増大する。また、連結部4における高い電気抵抗により、連結部4を流れる電流を抑制し、主磁極2の先端部2aとリターン磁極3との間に、スピントルク発振子74の発振に十分な電流を流すことができる。このように、スピントルク発振子74中の良好なギャップ磁界と電流により、磁気ディスク12に記録するための良好な磁界分布が発生し、記録品質の良好な記録状態が実現できる。これにより、磁気ディスクにおいて高線記録密度を達成することが可能となる。
図10は、第1の実施形態に係る磁気ヘッド、及び比較例1に係るヘッドを用いて記録再生を行った場合の、信号誤り率(ビットエラーレート)の書き込み電流依存の効果を比較して示している。比較例1では、記録ヘッドの連結部4が非磁性絶縁体により形成されている。
【0042】
比較例1の磁気ヘッドでは、連結部4が非磁性絶縁体で構成されていることから、この連結部で磁気回路が分断され磁束が効率的に流れなくなってしまう。そのため、図10に示すように、比較例1の磁気ヘッドでは、高電流を印加した場合においても十分な磁界強度を発生させることが出来ず、エラーレートを向上させることが出来ない。これに対して、本実施形態に係る磁気ヘッドによれば、記録ヘッドの連結部4は、絶縁性物質中に分散配置された飽和磁束密度の高い柱状の軟磁性体25により十分な磁界強度を得ることが出来る。そのため、低電流においても十分な書き込み能力を得ることができ、エラーレートを改善することができる。
【0043】
図11は、第1の実施形態に係る磁気ヘッド、及び比較例2に係るヘッドを用いて記録再生を行った場合の、信号誤り率(ビットエラーレート)の書き込み電流依存の効果を比較して示している。比較例2では、記録ヘッドの連結部4がフェライトなどの強磁性酸化物で構成されている。
【0044】
比較例2の磁気ヘッドでは、連結部4は強磁性酸化物で構成されていることから、飽和磁束密度が低く、磁束が効率的に流れない。そのため、図11に示すように、比較例2の磁気ヘッドでは、ビットエラーレートのデータ転送速度依存性を向上させることができない。これに対して、本実施形態に係る磁気ヘッドによれば、記録ヘッドの連結部4は、絶縁性物質中に分散配置された飽和磁束密度の高い柱状の軟磁性体25により十分な磁界回路を確保することができる。そのため、磁束の流れが比較例2と比べて良好であり、データ転送速度依存性を向上させることができる。
【0045】
更に、本実施形態によれば、記録ヘッドの連結部4は、十分な飽和磁束密度を持つ材料を選ぶことができる点と、スパッタ法による製造が容易であるという点から薄層化が可能になる。
【0046】
次に、他の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドについて説明する。以下に述べる、複数の他の実施形態において、第1の実施形態と同一の部分には、第1の実施形態と同一の参照符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0047】
(第2の実施形態)
図12は、第2の実施形態に係るHDDにおける記録ヘッドの連結部を示す断面図である。
図12に示すように、第2の実施形態によれば、記録ヘッド56の連結部4は、主磁極2とリターン磁極3との間に挟まれて、主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する非磁性絶縁層24と、この非磁性絶縁層24内に混入された多数の軟磁性体25と、を有している。本実施形態において、軟磁性体25は、非磁性絶縁層24の中に柱状に分散配置され、それぞれ非磁性絶縁層24と直交する方向に延びている。すなわち、各軟磁性体25は、主磁極2とリターン磁極3と間を非磁性絶縁層24と直交して延び、非磁性絶縁層の両面に露出している。また、連結部4は、非磁性絶縁層24と主磁極2との間に挟まれた高抵抗材料からなる高抵抗層23を有している。これにより、スピントルク発振子を挟む主磁極とリターン磁極との間の電気抵抗よりも、連結部4の電気抵抗が大きくなっている。高抵抗層23は、非磁性絶縁層24に比較して、十分に薄く形成されている。
【0048】
軟磁性体25は、たとえば、パーマロイやFe、Ni、Coを含む合金を用いることがでいる。高抵抗層23を形成する高抵抗材料は、Siなどからなる半導体や、Ru、Ta、Al2O3などの非磁性体を用いることができる。
【0049】
上記のように構成された連結部4を有する記録ヘッド56では、記録コイル5通電により発生する磁束は、連結部4中の軟磁性体25を介して主磁極2とリターン磁極3の間で流れるため、ABS面の磁気ギャップ部分の磁界強度が増大する。また、連結部4の高抵抗層23、および磁気ディスクの下地層における高い電気抵抗により、連結部を流れる電流を抑制し、スピントルク発振子に十分な電流を流すことができる。スピントルク発振子中の良好なギャップ磁界と電流により、記録媒体に記録するための良好な磁界分布が発生し、記録品質の良好な記録状態が実現でき、磁気ディスクにおいて高線記録密度を達成することが可能となる。
【0050】
十分な書き込み磁界強度を得ることができる磁気回路を形成する上で、連結部4における飽和磁化は主磁極2、及びリターン磁極3の飽和磁化に近い1.5(T)程度以上が好ましい。上記実施形態では、連結部の非磁性絶縁層24中に分散配置された軟磁性体により、連結部において1.5(T)以上の飽和磁化を確保し、かつ、高抵抗材料からなる高抵抗層23により電気的な絶縁も行い、スピントルク発振子に十分な電流を流すことができる。
【0051】
(第3の実施形態)
図13は、第3の実施形態に係るHDDにおける記録ヘッドを一部破断して示す斜視図、図14は、記録ヘッドの連結部を拡大して示す断面図である。
【0052】
図13および図14に示すように、第3の実施形態によれば、主磁極2の上部(後部)とリターン磁極3の上部(後部)とを互いに接合する連結部4は、主磁極2とリターン磁極3との間に挟まれてこれらに面接触し、主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する非磁性絶縁層24と、この非磁性絶縁層24内に混入された多数の粒状の軟磁性体25と、を有している。軟磁性体25は、非磁性絶縁層24全体に亘って分散されている。軟磁性体25は、たとえば、Fe、Ni、Coを含む合金を用いることができる。
【0053】
このように構成された記録ヘッド56によれば、記録コイルへの通電により発生する磁束は、連結部4の軟磁性体25を介して主磁極2とリターン磁極3の間で流れるため、ABS面の磁気ギャップ部分の磁界強度が増大する。また、連結部4における非磁性絶縁層24の高い電気抵抗により、連結部を流れる電流を抑制し、スピントルク発振子の発振に十分な電流を流すことができる。このように、スピントルク発振子中の良好なギャップ磁界と電流により、記録媒体に記録するための良好な磁界分布が発生し、記録品質の良好な記録状態が実現でき、磁気ディスクにおいて高線記録密度を達成することが可能となる。
【0054】
本実施形態によれば、絶縁性物質中に分散配置された飽和磁束密度の高い粒状の軟磁性体により磁気回路を確保し、また、十分な磁界強度得ることができることから、エラーレート、及びデータ転送速度依存性を改善することが出来る。また、非磁性絶縁層により主磁極とリターン磁極が電気的に絶縁されることから、スピントルク発振子に十分な電流を流すことができる。なお、第3の実施形態において、連結部4は、第2の実施形態で示した高抵抗層を備えていてもよい。
【0055】
以上詳述した種々の実施形態によれば、記録媒体上の記録品質が向上し、記録媒体の線記録密度を向上させることが可能な記録ヘッドおよびこれを備えたディスク装置を提供することができる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0057】
例えば、ヘッド部を構成する要素の材料、形状、大きさ等は、必要に応じて変更可能である。また、磁気ディスク装置において、磁気ディスクおよび磁気ヘッドの数は、必要に応じて増加可能であり、磁気ディスクのサイズも種々選択可能である。
【符号の説明】
【0058】
2…主磁極、3…リターン磁極、4…連結部、5…記録コイル、10…筺体、
12…磁気ディスク、13…スピンドルモータ、14…ヘッドアクチュエータ、
23…高抵抗層、24…非磁性導電層、25…軟磁性体、42…スライダ、
43…ディスク対向面(ABS面)、44…ヘッド部、54…再生ヘッド、
56…記録ヘッド、80…電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の記録層に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極と、
前記主磁極にライトギャップを置いて対向し、前記主磁極からの磁束を還流させて前記主磁極とともに磁気回路を形成するリターン磁極と、
軟磁性体が分散配置された非磁性体で形成され、前記主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する連結部と、
前記主磁極およびリターン磁極が形成する磁気回路に磁束を励起するコイルと、
前記主磁極の前記記録媒体側の端部とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、
前記リターン磁極および主磁極を通して前記スピントルク発振子に電流を流す電流源と、
を備える垂直記録用の記録ヘッド。
【請求項2】
前記連結部は、前記主磁極とリターン磁極との間に挟持された非磁性絶縁層と、この非磁性絶縁層内に分散された柱状の軟磁性体と、を有している請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記柱状の軟磁性体は、それぞれ前記非磁性絶縁層と直交して延び、前記主磁極およびリターン磁極に接触している請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記連結部は、前記主磁極とリターン磁極との間に挟持された非磁性絶縁層と、この非磁性絶縁層内に分散された粒状の軟磁性体と、を有している請求項1に記載の記録ヘッド
【請求項5】
前記連結部は、前記非磁性絶縁層と前記主磁極との間に挟持された高抵抗層を有している請求項2ないし4のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
媒体面に垂直な磁気異方性を有する磁気記録層を備えたディスク状の記録媒体と、
前記記録媒体を回転する機構部と、
前記記録媒体の表面と対向する対向面を有するスライダ、および前記スライダの一端部に設けられ前記記録媒体に対し情報処理を行う記録ヘッドと、を有する磁気ヘッドと、
を備え、
前記記録ヘッドは、
記録媒体の記録層に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極と、
前記主磁極にライトギャップを置いて対向し、前記主磁極からの磁束を還流させて前記主磁極とともに磁気回路を形成するリターン磁極と、
軟磁性体が分散配置された非磁性体で形成され、前記主磁極とリターン磁極とを物理的に接合する連結部と、
前記主磁極およびリターン磁極が形成する磁気回路に磁束を励起するコイルと、
前記主磁極の前記記録媒体側の端部とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、
前記リターン磁極および主磁極を通して前記スピントルク発振子に電流を流す電流源と、を備えるディスク装置。
【請求項7】
前記連結部は、前記主磁極とリターン磁極との間に挟持された非磁性絶縁層と、この非磁性絶縁層内に分散された柱状の軟磁性体と、を有している請求項6に記載のディスク装置。
【請求項8】
前記連結部は、前記主磁極とリターン磁極との間に挟持された非磁性絶縁層と、この非磁性絶縁層内に分散された粒状の軟磁性体と、を有している請求項6に記載のディスク装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate