説明

記録ヘッドの洗浄方法及び洗浄機構

【課題】記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う記録ヘッドの洗浄に際し、洗浄液の消費量を低減させ、かつ、インクノズル面を傷つけることなく、より確実にノズルに付着した異物を除去できる。
【解決手段】記録媒体に対し、記録ヘッド110aからインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における記録ヘッドの洗浄方法であって、洗浄液を含浸させた不織布11を、記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触させた状態において、不織布11のインク吐出面に対する接触面と反対側から高周波振動を付加する。高周波振動により噴出された洗浄液によって、インク吐出面111に付着した凝集物13が溶解されつつ、剥離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における記録ヘッドの洗浄方法及び洗浄機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録装置では、無端状の搬送ベルトを用いて記録用紙を搬送し、その搬送方向に沿って配置された互いに異なる単色の画像を形成する複数のインクヘッドからインクを吐出させることで、記録媒体上に各単色画像を重ね合わせてカラー画像を形成する。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、印刷時のインク吐出動作を繰り返していくので、ヘッドノズルの吐出面に付着したインクが乾燥し、この付着物によってノズルが塞がれてしまったり、長期の不使用等によりノズル内でインクが増粘したり、またインク経路内の異物がノズルに詰まったりしてしまい、記録媒体に一定量のインク吐出がされず、記録媒体に、いわゆる白筋といわれる印字されない箇所が生じ、画像品質が低下する場合があった。
【0004】
これに対応すべく、ヘッドノズルを洗浄するために、従来より振動を加えつつ洗浄液を噴射する方法や、又はメニスカスを接触させながらヘッドノズルを洗浄する方法がある(例えば特許文献1,2及び3)。
【0005】
詳述すると、特許文献1に開示された技術では、インクヘッドを、洗浄液を満たした容器内に入れ、洗浄液に振動を加えて洗浄する。特許文献2に開示された技術では、洗浄液を超音波で励振させヘッドノズル面に噴射させて洗浄する。特許文献3に開示された技術では、ヘッドノズル面と洗浄部材とを一定距離、離間した状態で、各ヘッドノズル面に、洗浄液の表面張力によりメニスカスを形成させてヘッドノズルを洗浄する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−254397号公報
【特許文献2】特開2005−28758号公報
【特許文献3】特開平8−118668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、容器内に洗浄液を満たしてインクヘッドを洗浄するため、洗浄液の消費量が多くなり、コスト高となっていた。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術では、洗浄液を超音波で励振させヘッドノズル面に直接噴射させて洗浄するため、洗浄液の消費が多く、また、噴射力を維持するために、ヘッドノズル面との距離を近づける必要があり、噴射面とヘッドノズル面とが接触し、ヘッドノズル面を傷つけてしまう可能性があった。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された技術では、ヘッドノズル面と洗浄部材との間に洗浄液のメニスカスを形成させてヘッドノズルを洗浄するところ、湿度や温度によって表面張力が変化することから、安定した洗浄液のメニスカス形成を維持することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、以上の点に鑑みてなされたもので、インクヘッド洗浄時において、洗浄液の消費量を低減させ、かつ、インクノズル面を傷つけることなく、より確実にノズルに付着した異物を除去できる記録ヘッドの洗浄方法及び洗浄機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における、記録ヘッドの洗浄方法であって、洗浄液を含浸させた洗浄液保持材を、記録ヘッドのインク吐出面に接触させた状態において、洗浄液保持材のインク吐出面に対する接触面と反対側から高周波振動を付加する。
【0012】
このような発明によれば、洗浄液保持材に含浸させる洗浄液量のみでインク吐出面を洗浄することが可能となり、洗浄液の消費量を低減させることができる。また、洗浄液保持材を、記録ヘッドのインク吐出面に接触させた状態で作業を行うことから、凝集物や異物がインク吐出面の外側に浮遊しても、洗浄液保持材で捕捉されるため、多量の洗浄液を使用しなくとも、凝集物,異物が混入した洗浄液で他のインク吐出面を再洗浄することがない。さらに、洗浄液保持材を介して高周波振動により洗浄するため、洗浄液保持材がインク吐出面を保護し、インク吐出面を傷つけることなく洗浄することができる。
【0013】
上記発明において、高周波振動を付加する際に、又は高周波振動を付加した後に、記録ヘッド内においてインクを流動させることが好ましい。この場合には、高周波振動によってインク吐出面から剥離された凝集物やノズル内の増粘したインク、ノズル内に詰まった異物などを、インクとともに記録ヘッド内において流動させることにより、遊離した凝集物や増粘したインク、異物などが再度、インク吐出面に付着したり、またノズルを詰まらせたりすることを確実に回避することができる。
【0014】
また、他の発明は、記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における、該記録ヘッドの洗浄機構であって、洗浄液を含浸させた洗浄液保持材を、記録ヘッドのインク吐出面に接触させた状態で保持するガイド部材と、洗浄液保持材のインク吐出面に対する接触面と反対側から高周波振動を付加する高周波振動手段と、高周波振動手段をガイド部材に沿って移動させる駆動手段とを備える。
【0015】
このような発明によれば、ガイド部材により、洗浄液保持材をインク吐出面に接触した状態を保つことができるので、より確実に洗浄液がインク吐出面に接触した状態で高周波振動を付加することができ、インク吐出面に付着した凝集物を除去することができる。また、駆動手段は、高周波振動手段をガイド部材に沿って移動させるので、容易にインク吐出面全体に高周波振動を付加することができ、洗浄時の作業性を向上させることができる。さらに、このような発明では、洗浄液保持材に洗浄液を含浸させ、インク吐出面に対する接触面の反対側から高周波振動を付加する構成であるため、洗浄液保持材自体は、含浸された洗浄液が高周波振動するのに必要な厚みがあればよく、洗浄液保持材を薄く保つことができ、洗浄機構そのものを小型にできる。
【0016】
上記発明において、高周波振動を付加する際に、又は高周波振動を付加した後に、記録ヘッド内においてインクを流動させるインク流動手段をさらに有することが好ましい。この場合には、高周波振動によってインク吐出面から剥離された凝集物を、インク流動手段により、記録ヘッド内において流動させることができ、遊離した凝集物が再度、インク吐出面に付着することを防止でき、インク吐出面に付着した凝集物をより確実に除去することができる。
【0017】
上記発明において、記録ヘッドの近傍において、リボン状の洗浄液保持材を収納する保持材収納手段と、保持材収納部に収納された洗浄液保持材に洗浄液を含浸させる洗浄液含浸手段と、洗浄液が含浸された洗浄液保持材が記録ヘッドのインク吐出面に接触するように、洗浄液保持材を搬送する搬送手段とをさらに備えることが好ましい。この場合には、インク吐出面を洗浄する洗浄液及び洗浄液保持部材を備え、洗浄液保持材を搬送させて、インク吐出面を洗浄するので、ユーザーによる洗浄操作を簡略化し、メンテナンス時における作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、この発明によれば、記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における記録ヘッドの洗浄に際し、洗浄液の消費量を低減させ、かつ、インクノズル面を傷つけることなく、より確実にノズルに付着した異物を除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る印刷装置における記録媒体搬送経路の概要を示す構成図である。
【図2】実施形態における画像形成が行われる画像形成経路を側方から示す説明図である。
【図3】実施形態に係るヘッドホルダーを下方から示す斜視図である。
【図4】実施形態に係るメンテナンス方法を示すフローチャート図である。
【図5】実施形態に係る超音波によるインクヘッド洗浄方法を示すフローチャート図である。
【図6】実施形態における超音波洗浄作業に使用する機材等を示す外観図である
【図7】(a)は、実施形態におけるテンプレートを上面及び断面により示した説明図であり、(b)は、テンプレートの変更例を示す斜視図である。
【図8】実施形態における洗浄方法の作業手順を示す説明図である。
【図9】実施形態におけるインクヘッド内部のインク流動を側面より模式的に示す説明図である。
【図10】変更例に係るインクヘッド洗浄機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(印刷装置の全体構成)
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る印刷装置100における印刷用紙搬送経路の概要を示す図である。本実施形態では、印刷装置100は、多数のノズルが形成されたインクヘッドを複数備え、それぞれのインクヘッドから黒又はカラーインクを吐出してライン単位で印刷を行い、搬送ベルト上の記録用紙上に複数の画像を互いに重なり合うように形成するインクジェット方式のラインカラープリンタを例に説明する。
【0021】
図1に示すように印刷装置100は、環状の搬送経路上を搬送される用紙表面に画像を形成する装置であり、搬送経路は、用紙を供給する給紙系搬送路FRと、この給紙系搬送路FRからヘッドユニット110を経て排紙経路DRへ至る通常経路CRと、通常経路CRに分岐接続された反転経路SRとから概略構成されている。
【0022】
給紙系搬送路FRにおいて、サイド給紙トレイ120、給紙トレイ130(130a、130b、130c、130d)のいずれかの給紙機構から給紙された印刷用紙は、印刷用紙の先頭部分の基準位置であるレジスト部Rに導かれる。レジスト部Rの搬送方向側には、複数の印字ヘッドを備えたヘッドユニット110が設けられており、印刷用紙は、ヘッドユニット110の対向面に設けられたプラテンベルト160によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各印字ヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。
【0023】
プラテンベルト160は、通常経路CRにおいて、ヘッドユニット110に対向する面の前端及び後端に配設された駆動ローラー161及び従動ローラー162に掛け渡されて回転移動する。また、プラテンベルト160の上面には、そのベルト移動方向に沿って、4色のインクヘッドが並べて配置され、複数の画像を互いに重なり合うようにしてカラー画像を形成するヘッドユニット110が対向配置されている。
【0024】
そして、印刷済みの印刷用紙は、さらに、ローラー等の駆動機構によって通常経路CR上を搬送される。印刷用紙の片側の面のみに印刷を行う片面印刷の場合は、そのまま排紙経路DRを経て、排紙口140に導かれて排紙され、排紙口140の受台として設けられた排紙台150に印刷面を下にして積載されていく。
【0025】
一方、印刷用紙の両面に印刷を行う両面印刷の場合は、印刷終了時には排紙経路DR側に導かれずに、さらに筐体内を搬送され、反転経路SRに送出される。この排紙経路DRと反転経路SRとの分岐点には、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構170が設けられており、切替機構170によって排出経路へ送出されなかった印刷用紙は、反転経路SRに引き込まれる。
【0026】
この反転経路SRでは、通常経路CRから用紙が受け渡され、用紙を往復させることにより用紙の表裏を反転させる、いわゆるスイッチバックを行う。そして、ローラー等の駆動機構によって、切替機構172を経由して通常経路CRに戻され、レジスト部Rを経て再給紙され、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行われる。
【0027】
なお、印刷装置100には、演算処理部330が備えられている。この演算処理部330は、CPUやDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、メモリ、及びその他の電子回路等のハードウェア、或いはその機能を持ったプログラム等のソフトウェア、又はこれらの組み合わせなどによって構成された演算モジュールであり、プログラムを適宜読み込んで実行することにより種々の機能モジュールを仮想的に構築し、構築された各機能モジュールによって、画像データに関する処理や、各部の動作制御、ユーザー操作に対する種々の処理を行う。また、この演算処理部330には、操作パネル340が接続されており、この操作パネル340を通じて、ユーザーによる指示や設定操作を受け付けることができる。
【0028】
(画像形成経路における搬送機構)
次いで、画像形成が行われる画像形成経路CR1について説明する。図2は、本実施形態に係る画像形成が行われる画像形成経路CR1を側方から示す説明図であり、図3は、本実施形態に係るヘッドホルダーを下方から示す斜視図である。
【0029】
詳述すると、前記記録媒体の通常経路CRには、図2に示すように、プラテンベルト160、駆動ローラー161、従動ローラー162等から構成される画像形成経路CR1が含まれており、この画像形成経路CR1の上方には、ヘッドホルダー500が設けられている。このヘッドホルダー500は、ヘッドホルダー面500aを底面に有し、画像形成部を構成する函体であり、記録ヘッド110aを保持して固定するとともに、記録ヘッド110aからインクを吐出させるための他の機能部分をユニット化して収納している。
【0030】
また、このヘッドホルダー500の底面であるヘッドホルダー面500aは、搬送経路に対して平行となるように対向配置されている。そして、このヘッドホルダー面500aには、ヘッドユニット110を構成する複数の記録ヘッド110aそれぞれの水平断面と同形状の取付開口部500bが複数配列され、複数の記録ヘッド110aは、取付開口部500bにそれぞれ挿通されて、そのインク吐出口をヘッドホルダー面500aから、画像形成経路CR1の下面に向けて突出させている。そして、ヘッドホルダー面500aから突出している各記録ヘッド110aは、図3に示すように、その下面にインク吐出面111を有し、各インク吐出面111において、記録媒体に対しインクを吐出して画像形成を行う。
【0031】
(メンテナンス作業の手順)
以上説明した構成の印刷装置100において、記録ヘッド110aのメンテナンス作業は、以下の手順により行われる。図4は、本実施形態に係るメンテナンス方法を示すフローチャート図であり、図5は、超音波によるインクヘッド洗浄方法を示すフローチャート図である。
【0032】
通常は、所定枚数の印字後、又は所定時間経過後にワイパーによるヘッドクリーニング等を行うが、それでも吐出不良の不具合が解消できない場合には以下のメンテナンス処理を行う。
【0033】
まず、ノズルチェックパターン印字を行い(S101)、ユーザーが吐出不良の判断を行う(S102)。記録媒体に印字された画像に吐出不良による白筋等がなければ吐出不良回復と判断し(S102における"Y")、次の画像形成に備える。ここで吐出不良が回復されていないと判断した場合には(S102における"N")、上述したワイパーによるヘッドクリーニング等の通常のメンテナンスを複数回実行する(S103)。この複数回の通常のメンテナンスにより、吐出不良が回復されたと判断した場合には(S104における"Y")、次の画像形成に備える。
【0034】
次に、ステップS104において、なおも吐出回復がされない場合は(S104における“N”)、超音波によるインクヘッド洗浄作業を行う(S105)。その後、超音波によるインクヘッド洗浄作業により吐出不良が回復されたか否かを判断し(S106)、吐出回復がされた場合は(S106における“Y”)、吐出不良洗浄作業を終了し、次の画像形成に備える。一方、吐出回復がされない場合は(S106における“N”)、インクヘッドを交換する(S107)。
【0035】
上述のステップS105では、本発明の記録ヘッドの洗浄方法を実施する。図6は、本実施形態で使用する機材等を示す説明図であり、図7は、本実施形態におけるテンプレート400を上面及び断面により示した説明図である。
【0036】
図6に示すように、本実施形態では、洗浄液12を含浸する洗浄液保持材である不織布11と、高周波振動手段としての超音波クリーナー420と、不織布11を保持するガイド部材としてのテンプレート400とを用いる。
【0037】
洗浄液12は、超音波振動を伝達させ、記録ヘッド110aのノズル部分111aに付着した凝集物13を除去するための溶媒である。洗浄液12の成分としては、インクヘッドから吐出されるインクから顔料を取り除いた成分であることが好ましく、水性、油性等の有機溶媒等を使用する。なお、この洗浄液12としては、これらに限定されることなく、インクの種類に応じた適切な溶媒を適宜選択することができる。
【0038】
不織布11は、図6(a)洗浄液12を含浸する洗浄液保持材であり、インク吐出面111を傷つけず、且つ自己発塵が少ない素材で形成され、このインク吐出面111を保護する保護部材である。不織布11は、インク吐出面111全面を覆うサイズとなっており、洗浄液12を含侵し、超音波振動をインクヘッドに伝達可能な厚さとなっている。この不織布11は、洗浄液12を含浸した状態で、記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触させられる。なお、不織布11は、本実施形態に限定されず、溶媒を含侵することができ、また、ヘッド表面を傷つけることがない織布やスポンジ、紙材等であってもよい。
【0039】
テンプレート400は記録ヘッド110aのインク吐出面111に対して係脱可能なプレート部材であり、図6(b)に示すように、インク吐出面111に嵌合される凹部400bを有し、この凹部400bの底面にガイド穴400aが開口されている。詳述すると、テンプレート400は、図7(a)にも示すように、インク吐出面111に嵌合された状態において、インク吐出面111のノズル部分全体が露出されるように、凹部400bの中央部分にガイド穴400aが表裏に貫通されて形成されている。そして、凹部400bは、記録ヘッド110aのインク吐出面111を覆うように嵌合する形状となっており、凹部400bの底面に不織布11を配置できるようになっている。なお、テンプレート400は、このような形状に限定されることなく、図7(b)に示すように、記録ヘッド110aに係合して固定できるように、テンプレート400の側面に係合部400cを備えるようにしてもよい。
【0040】
超音波クリーナー420は、洗浄保持材のインク吐出面111に超音波振動を付加する高周波振動手段である。超音波クリーナー420は、図6(c)に示すように、先端部420aを備えており、この先端部420aから発生する超音波によって、洗浄液12にキャビテーション現象を発生させ、洗浄液を噴出させる。ここで、キャビテーション現象とは、洗浄液中に微小な気泡や空洞を急速に形成し崩壊させる現象であり、気泡等が急速に形成・崩壊されることにより、対象物表面に研磨効果をもたらすものである。このキャビテーション現象による衝撃でインク吐出面111及びノズル部分111aに付着した凝集物13を遊離させる。
【0041】
なお、この先端部420aの形状は、平面状であって、その幅wは、ガイド穴400aの横幅と同じ長さであることが好ましく、その振動周波数は700kHz以上の超音波であることが好ましい。なお、超音波クリーナー420の先端部の形状は、これに限定されることなく、先鋭状であってもよい。
【0042】
以上説明した機材によって、記録ヘッド110aの超音波洗浄作業を行う。図8は、本実施形態に係る洗浄作業を示す説明図であり、図9は、本実施形態に係る記録ヘッド110a内部のインク流動を側面より模式的に示す説明図である。
【0043】
図5に示すように、まず、不織布11に洗浄液12を含浸させ、不織布11を記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触させる(S201)。このとき、不織布11は、テンプレート400を使用してインク吐出面111に接触させることが好ましいが(S202における“Y”)、本発明はこれに限定されず、このテンプレート400を使用せず、インク吐出面111に、ユーザーの手作業により、洗浄液12を含浸させた不織布11をインク吐出面111に接触させてもよい(S202における“N”)。
【0044】
テンプレート400を使用してインク吐出面111に不織布11を接触させる場合は、図8(a)に示すように、凹部400bの底面に、洗浄液12を含浸させた不織布11を載置させる(S203)。そして、図8(b)に示すように、テンプレート400は、凹部400bの底面に不織布11を配置した状態で、記録ヘッド110aの下方からY方向に押し上げ、記録ヘッド110aと嵌合させる(S204)。これにより、記録ヘッド110aとテンプレート400との間に不織布11が介在され、記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触させた状態が保持される。
【0045】
次いで、図8(c)に示すように、洗浄液12を含浸させた不織布11を、記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触させた状態において、不織布11のインク吐出面111に対する接触面と反対側から超音波クリーナー420により超音波振動を付加する(S205)。この際、超音波クリーナー420を移動させ、インク吐出面のノズル全体に対して、洗浄作業を行う。
【0046】
詳述すると、記録ヘッド110aにテンプレート400を嵌合させた状態では、テンプレート400の底面には、中央部分が裏表に貫通するガイド穴400aが開口されているので、インク吐出面111のノズル部分全体が不織布11で覆われた状態で露出されるようになっている。このようにテンプレート400により不織布11を保持した状態において、ガイド穴400aから露出された不織布11に対し、超音波クリーナー420により超音波振動を付加しつつ、超音波クリーナー420をガイド穴400aに沿ってX方向に移動させる。これにより、図9(a)に示すように、不織布11に付加された超音波振動により、不織布11に含浸された洗浄液がインク吐出面111側に噴出される。
【0047】
一方、テンプレート400を使用しない場合(S202における“N”)は、ユーザーが不織布11を直接インク吐出面111に接触させ(S206)、ユーザーは、超音波クリーナー420によって、記録ヘッド110aのインク吐出面111に対する接触面と反対側から超音波振動を付加し、インク吐出面のノズル全体に対して、超音波クリーナー420を移動させ、洗浄作業を行う(S205)。
【0048】
このような超音波振動を付加することにより、図9(b)に示すように、超音波振動により噴出された洗浄液によって、インク吐出面111に付着した凝集物13が溶解されつつ、剥離される。なお、インク吐出面111から剥離された凝集物13は、記録ヘッド110a内を遊離するため、本実施形態では、超音波振動を付加する際に、又は超音波振動を付加した後に、インク流動部430によって、記録ヘッド110a内においてインクを流動させる。
【0049】
このインク流動部430は、ヘッドホルダー500の上方に設置され、超音波振動を付加する際に、又は超音波振動を付加した後に、記録ヘッド110a内においてインクを流動させる循環手段である。このインク流動部430は、インクを循環させる加圧ポンプ431を備えている。この加圧ポンプ431は、各記録ヘッド110aとインク吸引経路432及びインク流入経路433とで接続され、加圧ポンプ431が駆動することで、記録ヘッド110a内のインクは流動される。この加圧ポンプ431と記録ヘッド110aとの間のインク吸引経路432においては、フィルタ434が備えている。このフィルタ434は、記録ヘッド110a内から流動した凝集物13の異物を除去する。なお、本実施形態においては、インク流動部430を循環手段としたが、これに限定されるものでなく、記録ヘッド110aの洗浄液を吸引する手段や、濾過する手段としてもよい。
【0050】
そして、洗浄液12内に含まれる遊離した凝集物13は、インク流動部430のインク吸引経路432に吸引され、フィルタ434によって除去される。なお、洗浄液12は、加圧ポンプと経由し、インク流入経路433から記録ヘッド110a内に循環される。一方、インク吐出面111から剥離された凝集物13が、インク吐出面111の外側に遊離した場合は、不織布11に付着して捕捉されることにより除去することができる。
【0051】
(作用効果)
このような本実施形態によれば、洗浄液12を含浸した不織布11がインク吐出面111に接触され、この不織布11を介してインク吐出面111に超音波振動を付加させるので、不織布11に含浸させる洗浄液量のみでインク吐出面111を洗浄することが可能となり、洗浄液12の消費量を低減させることができる。また、不織布11を、インク吐出面111に接触させた状態で作業を行うことから、凝集物や異物がインク吐出面111の外側に浮遊しても、不織布11で捕捉されるため、多量の洗浄液を使用しなくとも、凝集物,異物が混入した洗浄液で他のインク吐出面111を再洗浄することがない。さらに洗浄液12を含浸した不織布11をインク吐出面111に接触させているので、インク吐出面111に洗浄液12を浸透させることができ、より確実に超音波振動を伝導させることができる。さらに、不織布11を介して高周波振動により洗浄するため、不織布11がインク吐出面111を保護し、インク吐出面111を傷つけることなく、洗浄することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、超音波振動を付加する際に、又は超音波振動を付加した後に、記録ヘッド110a内においてインクを流動させるので、超音波振動によってインク吐出面111から遊離した凝集物13や、ノズル内の増粘したインク、ノズル内に詰まった異物などをインクとともに記録ヘッド110a内において流動させることができ、遊離した凝集物13や、増粘したインク、異物などが再度、インク吐出面111に付着したり、またノズルを詰まらせたりすることなどを確実に回避することができる。
【0053】
(変更例)
上述した実施形態では、インクヘッド洗浄を、ユーザーの手作業によって行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、予め印刷装置内に自動的にインクヘッド洗浄を行う機構であるインクヘッド洗浄部405として組み込むこともできる。以下に、印刷装置100内にインクヘッド洗浄部405を備える構成とした変更例について説明する。図10は、本変更例に係るインクヘッド洗浄機構を示す斜視図である。なお、本変更例において、上述した実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その機能等は特に言及しない限り同一であり、その説明は省略する。
【0054】
インクヘッド洗浄部405は、画像形成を行う画像形成経路CR1の記録ヘッド110aの近傍に備えられ、ヘッドホルダー面500aの下方において、主走査方向及び副走査方向に移動可能に設置されている。このインクヘッド洗浄部405は、テンプレート400と、高周波振動手段である超音波クリーナー420と、クリーナー駆動部421と、インク流動部430と、ケーシング部440(440a及び440b)と、リボン搬送部450とを備えている。
【0055】
テンプレート400は、図6(b)及び図7(a)に示したように、中央部分において、裏表に貫通するガイド穴400aと、ガイド穴400aのテンプレート400の上面側において拡開する凹部400bを有しており、不織布11が凹部400b上に配置されるようになっている。そして、本変更例において、テンプレート400は、そのテンプレート400の両端側面には、一対のケーシング部440が備えられている。
【0056】
ケーシング部440は、テンプレート400を挟むように配置された一対のケーシング部440a及び440bから構成され、テンプレート400の前後において、リボン状の不織布11の両端を巻き回してリール状に収納する収納容器である。これら一対のケーシング部440a及び440bの中間には、テンプレート400が連結されているとともに、一対のケーシング部440a及び440bの内部には、リボン状の不織布11を巻き回す収納軸441がそれぞれ備えられている。一方のケーシング部440aに未使用のリボン状の不織布11を収納し、他方のケーシング部440bに不織布11が送り出されることで、テンプレート400の凹部400b上に不織布11が配置され、洗浄作業を行う毎に、リボン搬送部450によって収納軸441bを回転させ、使用済みの不織布11を巻き取って他方のケーシング部440bに収納する。
【0057】
また、一方のケーシング部440aに、洗浄液含浸部442を備えている。この洗浄液含浸部442は、ケーシング部440a内に収納された不織布11に洗浄液を含浸させる手段であり、本変更例においては、一方のケーシング部440aに洗浄液が充填されており、リボン状の不織布11がリールごと洗浄液12に含侵されている。なお、洗浄液含浸部442は、本変更例においては、ケーシング部440内に形成され、ケーシング部440と一体となるような構成としたが、このような構成に限らず、一対のケーシング部440a及びテンプレート400の間において、不織布11に洗浄液を含浸させる構成であれば、スプレー等で噴霧する方式や、ローラー等により塗布する方式など種々の方式を適用することができる。
【0058】
リボン搬送部450は、ケーシング部440a内に収納されたリボン状の不織布11を、記録ヘッド110aのインク吐出面111を経て、他方のケーシング部440bに搬送する搬送手段であり、他方のケーシング部440bの収納軸441bを回転駆動させることで、一方のケーシング部440aに収納した洗浄液12が含浸されたリール状の不織布11を巻き取り、テンプレート400上に未使用の不織布11を搬送する。
【0059】
超音波クリーナー420は、不織布11のインク吐出面111に超音波振動を付加する高周波振動手段である。本変更例において、超音波クリーナー420は、テンプレート400の下方に設置されており、クリーナー駆動部421によって移動させられ、不織布11のインク吐出面111に対する接触面と反対側から高周波振動を付加する。クリーナー駆動部421は、超音波クリーナー420を裏表に貫通するガイド穴400aに沿って移動させる駆動手段であり、図示しない駆動モータ等によって駆動されている。
【0060】
インク流動部430は、ヘッドホルダー500の上方に設置され、超音波振動を付加する際に、又は超音波振動を付加した後に、記録ヘッド110a内においてインクを流動させる循環手段である。このインク流動部430は、図9に示すように、インクを循環させる加圧ポンプ431を備えており、この加圧ポンプ431は、各記録ヘッド110aとインク吸引経路432及びインク流入経路433とで接続され、加圧ポンプ431が駆動することで、記録ヘッド110a内のインクを流動させる。この加圧ポンプ431と記録ヘッド110aとの間のインク吸引経路432においては、フィルタ434が備えており、このフィルタ434は、記録ヘッド110a内から流動した凝集物13の異物を除去する。
【0061】
(洗浄部の動作)
このような構成のインクヘッド洗浄部405の制御は、上述した演算処理部330において行われる。具体的には、インク吐出不良が生じた記録ヘッド110aを検知し、印刷動作停止後に、インクヘッド洗浄部405がヘッドホルダー面500aの下方を主走査方向及び副走査方向に移動させ、目的の記録ヘッド110aとインクヘッド洗浄部405のテンプレート400とを嵌合させる。この状態において、リボン搬送部450によって、洗浄液12を含浸させた不織布11は、テンプレート400上を搬送され、記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触する。
【0062】
そして、超音波クリーナー420は、クリーナー駆動部421によって、不織布11のインク吐出面111に対する接触面と反対側から押しつけられつつ、高周波振動を付加する。洗浄作業が終了した後は、使用済みの不織布11は、リボン搬送部450によって、他方のケーシング部440bの収納軸441bに巻き回され、他方のケーシング部440bへ収納される。そして、テンプレート400と記録ヘッド110aの嵌合は解除される。
【0063】
このような洗浄作業の動作は、本変更例では、インク吐出不良が検出された場合としたが、これに限定されることなく、一定枚数印刷後に、自動的に各記録ヘッド110aの洗浄作業を行う制御をすることも可能である。
【0064】
(作用効果)
このような本変更例によれば、テンプレート400により、不織布11をインク吐出面111に接触した状態を保つことができるので、より確実に洗浄液がインク吐出面111に接触した状態で超音波振動を付加することができ、インク吐出面111に付着した凝集物13を除去することができる。また、クリーナー駆動部421は、超音波クリーナー420をテンプレートに沿って移動させるので、簡易にインク吐出面111全体に高周波振動を付加することができ、洗浄時の作業性を向上させることができる。
【0065】
さらに、このような変更例によれば、不織布11に洗浄液を含浸させ、インク吐出面111に対する接触面の反対側から高周波振動を付加する構成であるため、不織布11自体は、含浸された洗浄液が高周波振動するのに必要な厚みがあればよく、不織布11を薄く保つことができ、洗浄機構そのものを小型にできる。
【0066】
また、本変更例において、超音波振動を付加する際に、又は超音波振動を付加した後に、記録ヘッド110a内においてインクを流動させるインク流動部430をさらに有するので、インク流動部430により、超音波振動によってインク吐出面111から解離した凝集物13や、ノズル内の増粘したインク、ノズル内に詰まった異物などをインクとともに記録ヘッド110a内において流動することができるので、遊離した凝集物13や、増粘したインク、異物などが再度、インク吐出面111に付着することを防止でき、インク吐出面111に付着した凝集物13をより確実に除去することができる。
【0067】
さらに、本変更例において、記録ヘッド110aの近傍において、リボン状の不織布11を収納するケーシング部440と、ケーシング部440に収納された不織布11に洗浄液12を含浸させる洗浄液含浸部442と、洗浄液12が含浸された不織布11が記録ヘッド110aのインク吐出面111に接触するように、不織布11を搬送するリボン搬送部450とを備えるので、予め印刷装置内において、インク吐出面を洗浄する洗浄液12及び不織布11を備え、不織布11を搬送させて、インク吐出面111を洗浄するので、ユーザーによる洗浄操作をなくし、メンテナンス時における作業性を簡略化することができる。
【符号の説明】
【0068】
CR…通常経路
DR…排紙経路
FR…給紙系搬送路
R…レジスト部
SR…反転経路
11…不織布
12…洗浄液
13…凝集物
100…印刷装置
110…ヘッドユニット
110a…記録ヘッド
111…インク吐出面
120…サイド給紙トレイ
130…給紙トレイ
140…排紙口
150…排紙台
160…プラテンベルト
161…駆動ローラー
162…従動ローラー
170…切替機構
172…切替機構
330…演算処理部
340…操作パネル
400…テンプレート
400a…ガイド穴
400b…凹部
400c…係合部
405…インクヘッド洗浄部
420…超音波クリーナー
420a…先端部
421…クリーナー駆動部
430…インク流動部
431…加圧ポンプ
432…インク吸引経路
433…インク流入経路
434…フィルタ
440(440a,440b)…ケーシング部
441(441a,441b)…収納軸
442…洗浄液含浸部
450…リボン搬送部
500…ヘッドホルダー
500a…ヘッドホルダー面
500b…取付開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における、該記録ヘッドの洗浄方法であって、
洗浄液を含浸させた洗浄液保持材を、前記記録ヘッドのインク吐出面に接触させた状態において、該洗浄液保持材の前記インク吐出面に対する接触面と反対側から高周波振動を付加することを特徴とする記録ヘッドの洗浄方法。
【請求項2】
前記高周波振動を付加する際に、又は該高周波振動を付加した後に、前記記録ヘッド内においてインクを流動させることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッドの洗浄方法。
【請求項3】
記録媒体に対し、記録ヘッドよりインクを吐出して画像形成を行う印刷装置における、該記録ヘッドの洗浄機構であって、
洗浄液を含浸させた洗浄液保持材を、前記記録ヘッドのインク吐出面に接触させた状態で保持するガイド部材と、
前記洗浄液保持材の前記インク吐出面に対する接触面と反対側から高周波振動を付加する高周波振動手段と、
前記高周波振動手段を前記ガイド部材に沿って移動させる駆動手段と
を備えることを特徴とする記録ヘッドの洗浄機構。
【請求項4】
前記高周波振動を付加する際に、又は該高周波振動を付加した後に、前記記録ヘッド内においてインクを流動させるインク流動手段をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の記録ヘッドの洗浄機構。
【請求項5】
前記記録ヘッドの近傍において、前記リボン状の洗浄液保持材を収納する保持材収納手段と、
前記保持材収納部に収納された前記洗浄液保持材に前記洗浄液を含浸させる洗浄液含浸手段と、
前記洗浄液が含浸された前記洗浄液保持材が前記記録ヘッドの前記インク吐出面に接触するように、該洗浄液保持材を搬送する搬送手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の記録ヘッドの洗浄機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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