説明

記録素子基板及び記録ヘッド

【課題】消費電力の増大を抑制しつつ、記録素子に印加された電圧のフィードバック制御を高速化する。
【解決手段】記録素子基板は、記録素子と、入力される制御信号に基づいて前記記録素子を駆動させるスイッチ素子と、一定の電流を生成する第1電流源と、入力電圧に基づいて電流を生成する第2電流源と、前記第1電流源で生成された電流に前記第2電流源で生成された電流が加えられた電流を増幅して前記制御信号を生成し、その後、前記第1電流源で生成された電流を増幅して前記制御信号を生成する電流生成回路とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録素子基板及び記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式を採用した記録装置が知られている。このような記録装置では、当該記録ヘッドに配列された記録素子からインクを吐出することにより記録媒体上に画像を記録する。ここで、特許文献1には、帰還増幅器によって、記録素子に印加する電力を一定に制御する記録ヘッドが開示されている。
【0003】
記録動作の高速化を達成するためには、例えば、記録素子の駆動期間を1μs以下に短くする必要がある。帰還増幅器は、記録素子の駆動期間中、記録素子の電圧を検知しながら、駆動素子のインピーダンスを調整することで、記録素子に印加される電力を一定に制御する(フィードバック制御)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4245848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、1μs以下で高速にフィードバック制御を行なうためには、帰還増幅器に流すバイアス電流Ibiasを増加させる必要がある。この場合、帰還増幅器のバイアス電流Ibiasは定常的な電流であるため、これを単純に増加させると消費電力が増加してしまう。消費電力の増加は、記録ヘッドの昇温を起こし、画像品質にも影響を与えてしまう。
【0006】
本発明の目的は、消費電力の増大を抑制しつつ、記録素子に印加された電圧のフィードバック制御を高速化するのに有利な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面は記録素子基板にかかり、前記記録素子基板は、記録素子と、入力される制御信号に基づいて前記記録素子を駆動させるスイッチ素子と、一定の電流を生成する第1電流源と、入力電圧に基づいて電流を生成する第2電流源と、前記第1電流源で生成された電流に前記第2電流源で生成された電流が加えられた電流を増幅して前記制御信号を生成し、その後、前記第1電流源で生成された電流を増幅して前記制御信号を生成する電流生成回路とを具備する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、消費電力の増大を抑制しつつ、記録素子に印加された電圧のフィードバック制御を高速化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるインクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1の斜視図。
【図2】図1に示す記録装置1の機能的な構成の一例を示す図。
【図3】記録素子基板50の回路構成の一例を示す図。
【図4】記録素子基板50の駆動タイミングの一例を示す図。
【図5】帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の一例を示す図。
【図6】実施形態2に係わる記録素子基板50の回路構成の一例を示す図。
【図7】実施形態2に係わる帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の一例を示す図。
【図8】実施形態3に係わる記録素子基板50の回路構成の一例を示す図。
【図9】従来技術と比較した効果を説明するための図。
【図10】バイアス電流生成回路の一例を示す図。
【図11】帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の別の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明においては、インクジェット記録方式を用いた記録装置を例に挙げて説明する。記録装置としては、例えば、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、また、例えば、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0011】
なお、以下の説明において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。更に人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン、構造物等を形成する、又は媒体の加工を行なう場合も表す。
【0012】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表す。
【0013】
更に、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表す。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係わるインクジェット記録装置1の外観構成の一例を示す斜視図である。
【0015】
インクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行なう。記録装置1は、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送する。そして、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0016】
記録装置1のキャリッジ2には、記録ヘッド3の他、例えば、インクカートリッジ6が搭載される。インクカートリッジ6は、記録ヘッド3に供給するインクを貯留する。なお、インクカートリッジ6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0017】
図1に示す記録装置1は、カラー記録が可能である。そのため、キャリッジ2には、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容する4つのインクカートリッジが搭載されている。これら4つのインクカートリッジは、それぞれ独立して着脱できる。
【0018】
本実施形態に係わる記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。そのため、記録ヘッド3は、電気熱変換体を備えている。電気熱変換体は、各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加する。これにより、対応する吐出口からインクが吐出される。なお、本実施形態においては、インクの吐出方式として、ヒータを用いてインクを吐出する場合について説明するが、これに限定されない。例えば、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、様々なインクジェット方式を採用しても良い。
【0019】
図2は、図1に示す記録装置1の機能的な構成の一例を示す図である。
【0020】
ここで、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などを具備して構成される。
【0021】
ROM602は、後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御を行なう。また、ASIC603は、記録ヘッド3を制御するための制御信号の生成も行なう。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行なう。A/D変換器606は、後述するセンサ群から入力されるアナログ信号をA/D変換し、変換後のデジタル信号をMPU601に供給する。
【0022】
620は、スイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などを具備して構成される。630は、装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。ASIC603は、記録ヘッド3の走査に際して、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッド3に対して記録素子を駆動するためのデータを転送する。
【0023】
キャリッジモータM1は、キャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるための駆動源であり、キャリッジモータドライバ640は、キャリッジモータM1の駆動を制御する。搬送モータM2は、記録媒体Pを搬送するための駆動源であり、搬送モータドライバ642は、搬送モータM2の駆動を制御する。
【0024】
記録ヘッド3は、記録媒体Pの搬送方向と直交する方向(以下、走査方向と呼ぶ)に向けて走査される。具体的には、当該記録媒体に対して相対的に走査される。
【0025】
また、610は、画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取用のリーダやデジタルカメラなど)であり、例えば、ホスト装置などと称される。ホスト装置610と記録装置1との間では、インタフェース(以下、I/Fと呼ぶ)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等の授受が行なわれる。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施の形態に係わるインクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1の斜視図である。
【0027】
記録装置1は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向(走査方向)に往復移動させて記録を行なう。記録装置1は、給紙機構5を介して記録媒体Pを給紙し、記録位置まで搬送する。そして、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0028】
記録装置1のキャリッジ2には、記録ヘッド3の他、例えば、インクカートリッジ6が搭載される。インクカートリッジ6は、記録ヘッド3に供給するインクを貯留する。なお、インクカートリッジ6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0029】
図1に示す記録装置1は、カラー記録が可能である。そのため、キャリッジ2には、例えば、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容する4つのインクカートリッジが搭載されている。これら4つのインクカートリッジは、それぞれ独立して着脱できる。
【0030】
記録ヘッド3には、記録素子基板(以下、基板と略す場合もある)が設けられており、当該基板上には、複数のノズル列が配列される。記録ヘッド3は、例えば、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式により構成される。そのため、記録ヘッド3には、発熱素子(以下、ヒータと呼ぶ)等から構成される記録素子や、ヒータの駆動制御を行なう制御回路が設けられる。ヒータは、各ノズル(吐出口)に対応して設けられ、記録信号に応じて対応するヒータにパルス電圧が印加される。
【0031】
キャリッジ2の往復運動の範囲外(記録領域外)には、記録ヘッド3の吐出不良を回復する回復装置4が配設されている。回復装置4が設けられる位置は、いわゆるホームポジションなどと呼ばれ、記録動作が行なわれていない間、記録ヘッド3はこの位置で静止する。
【0032】
以上が記録装置1の構成の一例についての説明である。なお、図1に示す記録装置1の構成は、あくまで一例であり、必ずしもこのような構成に限られない。例えば、図1の構成では、記録ヘッド3に対して記録媒体Pが搬送される構成であったが、記録ヘッド3と記録媒体Pとが相対的に移動する構成であれば良く、その構成は特に問わない。例えば、記録ヘッド3が記録媒体Pに対して移動する構成であっても良い。
【0033】
図2は、図1に示す記録装置1の機能的な構成の一例を示す図である。
【0034】
記録装置1は、ホスト装置40と接続されている。ホスト装置40は、画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取用のリーダやデジタルカメラなど)で実現される。ホスト装置40と記録装置1との間では、インタフェース(以下、I/Fと呼ぶ)11を介して画像データ、コマンド等の授受が行なわれる。
【0035】
コントローラ部20は、CPU21と、ROM22と、RAM23と、画像処理部24と、記録ヘッド制御部25とを具備して構成される。
【0036】
CPU(Central Processing Unit)21は、コントローラ部20における処理を統括制御する。ROM(Read Only Memory)22は、プログラムや各種データを記憶する。RAM(Randon Access Memory)23は、CPU21によるプログラムの実行時にワークエリアとして使用され、各種演算結果等を一時的に記憶する。
【0037】
画像処理部24は、ホスト装置40からI/F11を介して受信した画像データに対して各種画像処理を行なう。
【0038】
記録ヘッド制御部25は、記録ヘッド3を制御する。記録ヘッド制御部25には、信号生成部31と、電力供給部32とが設けられている。
【0039】
信号生成部31は、各種信号を生成し、当該生成した信号を記録ヘッド3へ向けて転送する。記録ヘッド3へ転送される信号としては、例えば、シリアルクロック(CLK)、シリアルデータ(DATA)、ラッチ信号(LT)、ヒートイネーブル信号(HE)等が挙げられる。
【0040】
電力供給部32は、記録ヘッド3の駆動に必要な電力を記録ヘッド3に供給する。例えば、駆動電圧VHや基準電圧Vref等を記録ヘッド3へ供給する。
【0041】
記録ヘッド3は、記録ヘッド制御部25から転送されてきた信号に基づいて記録ヘッド3内の各吐出口からインクを吐出させる。記録ヘッド3には、詳細については後述するが、複数の記録素子が配される記録素子基板50が設けられている。
【0042】
次に、図3を用いて、図2に示す記録素子基板50の回路構成の一例について説明する。
【0043】
記録素子基板50は、各記録素子100に対応してグループが設けられる。各グループには、記録素子100、駆動素子(スイッチ素子)101、第1のスイッチ106、第2のスイッチ110、第3のスイッチ105、記録素子選択回路113が設けられる。その他、記録素子基板50上には、駆動用アース103、帰還増幅器107、電圧−電流変換部109、記録素子選択回路113、ラッチ回路115、シフトレジスタ116等も設けられる。記録素子100と駆動素子101は駆動線124で接続されている。例えば、記録素子100−1と駆動素子101−1は駆動線124−1で接続されている。グランド配線103は、電力供給部32の接地端子に接続されている。
【0044】
記録素子100は、複数個(100−1、100−2・・・100−n)設けられており、当該複数の記録素子の中から、記録動作を行なう記録素子のみに一定期間電流が流され電圧が印加される。各記録素子100には、駆動電圧(VH)102に接続された第1の端子と、第1のスイッチ106及び駆動素子(スイッチ素子)101に接続された第2の端子とが設けられる。
【0045】
ここで、第1のスイッチ106、第2のスイッチ110、第3のスイッチ105及び記録素子選択回路113は、複数の記録素子の中から記録動作を行なう記録素子を選択する役割を果たす。
【0046】
記録素子選択回路113は、ラッチ回路115に保持された記録データ信号117と、デコーダ118から出力されるブロック選択信号114と、ヒートイネーブル信号119との論理積により駆動信号112を出力する。駆動信号は、対応する記録素子の駆動を指示する信号である。
【0047】
記録データ信号117及びブロック選択信号114は、記録動作を行なう記録素子を規定する役割を果たす。また、ヒートイネーブル信号119は、記録素子の駆動期間を規定する。具体的には、ヒートイネーブル信号119がハイレベルであれば、記録素子の駆動可能な期間であり、また、ロウレベルであれば、記録素子の駆動が禁止される期間である。
【0048】
駆動信号112がハイレベルの場合、第1及び第3のスイッチ(105、106)がオンし、第2のスイッチ110がオフする。つまり、フィードバック線108には、選択された記録素子の第2の端子が結合され、制御線120には、選択された記録素子に対応する駆動素子101のゲートが結合される。例えば、駆動素子101−1のゲートと第3のスイッチ105−1との間には、グランドと接続するための放電線126−1が設けられている。第2のスイッチ110−1はこの放電線126−1に設けられている。
【0049】
また、駆動信号112がロウレベルの場合、第1及び第3のスイッチ(105、106)がオフし、第2のスイッチ110がオンする。そのため、フィードバック線108、制御線120はオープン状態になる。また、第2のスイッチ110のオンにより駆動素子101への印加電圧が接地される。従って、駆動素子101−1のゲートの電位(VG1)は接地電位(グランド配線103の電位)に等しくなる。
【0050】
駆動素子101には、制御ゲート(制御端子)を有する半導体素子、例えば、n型MOSトランジスタ(FETトランジスタ)が用いられる。駆動素子101は、記録素子100に電流を流す(すなわち、通電する)役割を果たす。駆動素子101は、制御ゲートに入力される信号に基づきオン/オフを行ない、記録素子の第2の端子に接続されるドレインと、グランド配線103に接続されるソースとを有する。
【0051】
帰還増幅器107には、定常的なバイアス電流Ibiasを消費する差動アンプ等が用いられる。帰還増幅器107には、基準電圧(Vref)104が入力される第1の入力端子と、フィードバック線108を介した電圧(フィードバック電圧)が入力される第2の入力端子と、当該入力に基づいた出力を行なう出力端子とが設けられる。
【0052】
帰還増幅器(増幅部)107は、駆動素子101の制御ゲートの電圧を調整し、駆動素子101のインピーダンスを制御する。より具体的には、基準電圧(Vref)104と、フィードバック線108に結合された記録素子の第2の端子の電圧とを等しくさせる役割を果たす。
【0053】
電圧−電流変換部109は、電流生成手段(電流生成部)として機能する。具体的には、基準電圧104と、フィードバック線108から入力された電圧との電位差ΔVに応じた電流Iboostを生成し、当該電流Iboostを帰還増幅器107に供給する。記録素子の第2の端子の電圧は、B点でフィードバック線108から分岐したフィードバック線125を介して電圧−電流変換部109の入力部(IN1)に入力される。すなわち、電圧−電流変換部109は、基準電圧104と、記録素子の第2の端子(接続部)の分岐に出力される電流とを入力し、それらに従って増幅した電流Iboostを帰還増幅器107に向けて出力する。ここでは、フィードバック線125(第1信号線)の電位と、基準電圧104の電源配線(第2信号線)の電位との差分(ΔV)が電流生成回路の入力電圧となる構成を例示したが、本実施形態はこの構成に限られない。
【0054】
次に、図4を用いて、図3に示す記録素子基板50の駆動タイミングの一例について説明する。
【0055】
図4では、記録素子100−1に流れる電流(IH1)、記録素子100−1の第2の端子の電圧(VD1)、フィードバック線108の電圧(Vfb)、電圧−電流変換部109で生成された電流(Iboost)の波形が示される。また更に、駆動信号112−1及びヒートイネーブル信号119の波形も示されている。ここでは、図3に示す記録素子100−1のみを選択して記録動作を行なう場合を例に挙げて説明する。
【0056】
時刻t1において駆動信号112−1がハイレベルになると、第3のスイッチ105−1及び第1のスイッチ106−1がオンし、第2のスイッチ110−1がオフする。そのため、記録素子100−1の第2の端子がフィードバック線108に結合され、駆動素子101−1のゲートが制御線120に結合される。
【0057】
帰還増幅器107は、電流Ioutを出力し、駆動素子101−1のゲートの電圧を徐々に上昇させる。これにより、記録素子100−1及び駆動素子101−1に電流が流れ始め(すなわち、導通する)、第2の端子(VD1)は、駆動電圧(VH)から基準電圧(Vref)104へと徐々に下降していく。そして、時刻t2において基準電圧104(Vref)と等しくなる。
【0058】
電圧−電流変換部109は、時刻t1から時刻t2の過度状態において、記録素子100−1の第2の端子の電圧(VD1)と基準電圧104との電位差ΔVに応じた電流Iboostを生成し、Iboostを帰還増幅器107に供給する。
【0059】
そのため、帰還増幅器107が出力する電流Ioutの最大値は、帰還増幅器107のバイアス電流Ibiasと電圧−電流変換部109によって生成された電流Iboostとの合計となり、駆動素子101−1のゲートを高速に充電することが可能となる。これにより、記録素子100−1の第2の端子の電圧(VD1)を目的の基準電圧(Vref)に高速に到達させることができ、時刻t1から時刻t2の過度状態の時間を最小にすることができる。
【0060】
時刻t2から時刻t3の定常状態では、帰還増幅器107によって、記録素子100−1の第2の端子の電圧(VD1)、つまり、フィードバック線108の電圧が基準電圧(Vref)と等しくなる。従って、電圧−電流変換部109によって生成される電流Iboostはゼロとなり、電圧−電流変換部109から帰還増幅器107への電流の供給は停止される。
【0061】
時刻t3において駆動信号112−1がロウレベルになると、第3のスイッチ105−1及び第1のスイッチ106−1がオフし、第2のスイッチ110−1がオンする。従って、駆動素子101−1のゲートがグランド配線103に結合される。これにより、駆動素子101−1は、遮断状態になり、記録素子100−1及び駆動素子101−1に流れていた電流が停止する。従って、記録素子100−1の第2の端子(VD1)は、基準電圧(Vref)から駆動電圧VHへと上昇する。
【0062】
以上のような動作で、駆動信号がハイレベルである期間(時刻t1から時刻t3)、記録素子の第2の端子(VD1)の電圧を駆動電圧(VH)から基準電圧(Vref)に高速に制御する。これにより、記録素子に印加される電力を一定化させる。
【0063】
上述した通り、記録動作の高速化を達成するためには、例えば、記録素子の駆動期間を1μs以下と短くする必要がある。記録素子の駆動期間が短い場合、時刻t1から時刻t2の過度状態が長いと、記録素子に流れる電流の立ち上がりが鈍ってしまい、記録素子に印加される電圧が大幅に低下してしまう。
【0064】
そこで、本実施形態においては、電圧−電流変換部109を設け、帰還増幅器107が出力する電流Ioutを時刻t1から時刻t2までの過度状態時にのみ増加させる。フィードバック線108の電圧が基準電圧(Vref)と等しい、定常状態(時刻t2から時刻t3)では、電流Iboostはゼロとなり、消費電流は、Ibiasのみとなる。以上のような動作により、高速且つ低消費電力で記録素子に印加する電圧をフィードバック制御できる。
【0065】
次に、図5を用いて、上述した帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の一例について説明する。
【0066】
帰還増幅器107は、トランジスタM1−M4で構成され、電圧−電流変換部109は、トランジスタM5−M9で構成される。
【0067】
電圧−電流変換部109においては、トランジスタM5のソースにフィードバック線108が接続されており、ゲートに基準電圧104が接続されている。フィードバック線108の電圧が、基準電圧104の電圧よりも高くなった場合(電位差ΔVが発生した場合)、M5に電流が流れ、M6−M9によって構成されるカレントミラー回路によってその電流がコピーされ、帰還増幅器にIboostが供給される。
【0068】
従って、帰還増幅器107の出力電流Ioutの最大値は、帰還増幅器のバイアス電流IbiasとIboostとの合計となり、駆動線120に結合する駆動素子101のゲートを高速に充電することが可能となる。
【0069】
また、フィードバック線108の電圧が、基準電圧104と等しい場合、M5は遮断状態になり、M5に流れる電流及び帰還増幅器107に供給する電流Iboostはゼロとなる。そのため、消費する電流はIbiasのみとなる。即ち、帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成を用いることにより、次のような動作が為される。帰還増幅器107は、一定の電流を生成する第1電流源(Ibias)の電流に、第2電流源(109)が前記差分である入力電圧(ΔV)に基づく電流(Iboost)を加えることにより、印加する電圧が目標値に近づくように制御信号を調整する。そして、帰還増幅器107は、該制御信号をIoutとして駆動素子101に出力する。なお、図10は、バイアス電流Ibiasを生成するバイアス電流生成回路130の一例を示す図である。バイアス電流生成回路130はトランジスタM11−M13で構成されている。
【0070】
次に、帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の別の構成を示す図11に示す。図11に示す電圧−電流変換部109は、一定のバイアス電流を生成するためのトランジスタM10と電位差ΔVに基づいて電流を生成するためのトランジスタM5を備えている。
【0071】
以上のように本実施形態においては、電圧−電流変換部109を設け、過度状態時にのみ帰還増幅器107に電流Iboostを供給する。これにより、高速且つ低消費電力で記録素子に印加する電圧をフィードバック制御できる。
【0072】
(実施形態2)
次に、実施形態2について説明する。図6は、実施形態2に係わる記録素子基板50の回路構成の一例を示す。実施形態1を説明した図3との相違点としては、電圧−電流変換部109にイネーブル端子(EN)が設けられている点が挙げられる。
【0073】
すなわち、実施形態2においては、イネーブル端子(EN)によって、電圧−電流変換部109をアクティブにするか、非アクティブにするかを切り替える。また、イネーブル端子(EN)に入力される信号は、指示信号として、例えば、ヒートイネーブル信号(HE)である。ヒートイネーブル信号(HE)がハイレベルの場合、電圧−電流変換部109がアクティブにされる。すなわち、電圧−電流変換部109は、基準電圧104とフィードバック線108との電位差ΔVに応じた電流Iboostを生成し、帰還増幅器107に電流Iboostを供給する。また、ヒートイネーブル信号(HE)がロウレベルの場合、電圧−電流変換部109が非アクティブとなり、完全に動作が停止される。
【0074】
このように実施形態2においては、実施形態1の構成に加えて、ヒートイネーブル信号がロウレベルの期間(図4で時刻t1以前又は時刻t3以降)、電圧−電流変換部109の動作を完全に停止させる機能が設けられる。
【0075】
ヒートイネーブル信号がロウレベルの期間、全ての第2のスイッチ106−1〜106−nがオフになり、フィードバック線108がオープン状態になる。そのため、フィードバック線108の電圧(Vfb)が不定になるため、電圧−電流変換部109をアクティブにさせたままにしていると、予期せぬ電流Iboostが生成されてしまう可能性がある。
【0076】
実施形態2では、これを防止するために、電圧−電流変換部109にイネーブル端子を設けている。フィードバック線108の電圧(Vfb)が不定になる期間は、電圧−電流変換部109の動作を完全に停止させることで、予期せぬ電流Iboostの生成を防止している。
【0077】
ここで、図7を用いて、実施形態2に係わる帰還増幅器107及び電圧−電流変換部109の回路構成の一例について説明する。
【0078】
実施形態2においては、実施形態1の構成に加えて、トランジスタM10が設けられる。トランジスタM10のゲートには、ヒートイネーブル信号(HE)の反転信号が入力される。
【0079】
ヒートイネーブル信号(HE)がハイレベルの場合は、M10がオンし、電位差ΔVに応じた電流がM5に流れる。その電流がM6−M9によって構成されるカレントミラー回路によってコピーされ、帰還増幅器にIboostが供給される。
【0080】
また、ヒートイネーブル信号(HE)がロウレベルの場合は、M10がオフし、電位差ΔVがあったとしてもM5には電流が流れなくなり、トランジスタM6−M9が遮断状態となり、Iboostは完全にゼロになる。
【0081】
以上説明したように実施形態2によれば、ヒートイネーブル信号(HE)に同期して、電圧−電流変換部109のアクティブ・非アクティブ(オン/オフ)を切り替える。これにより、予期せぬ電流Iboostの生成を防止することができる。
【0082】
(実施形態3)
次に、実施形態3について説明する。図8は、実施形態3に係わる記録素子基板50の回路構成の一例を示す。実施形態2を説明した図6との相違点としては、電圧−電流変換部109のイネーブル端子(EN)に入力されている信号が、電圧−電流変換イネーブル信号122である点である。
【0083】
電圧−電流変換イネーブル信号122は、ヒートイネーブル信号(HE)と記録データ信号117との論理積であり、電圧−電流変換イネーブル信号生成回路121によって生成される。
【0084】
電圧−電流変換イネーブル信号122がハイレベルの場合、電圧−電流変換部109がアクティブにされ、基準電圧104とフィードバック線108との電位差ΔVに応じた電流Iboostを生成し、帰還増幅器107に電流Iboostを供給する。また、電圧−電流変換イネーブル信号122がロウレベルの場合、電圧−電流変換部109が非アクティブになり、完全に動作が停止される。
【0085】
実施形態3では、実施形態2に加えて、記録データ信号117がロウレベルの場合、電圧−電流変換部109の動作を完全に停止させる機能が追加されている。上述した通り、ヒートイネーブル信号(HE)がロウレベルの期間は、フィードバック線108がオープン状態になる。これに加え、記録データ信号がロウレベルである場合も、全ての第2のスイッチ106−1〜106−nがオフになり、フィードバック線108がオープン状態になる。そのため、フィードバック線108の電圧(Vfb)が不定になるため、電圧−電流変換部109をアクティブにさせたままにしていると、予期せぬ電流Iboostが生成されてしまう可能性がある。
【0086】
実施形態3では、これを防止するために、記録データ信号117とヒートイネーブル信号(HE)との論理積である電圧−電流変換イネーブル信号122を生成し、その信号により電圧−電流変換部109のアクティブ・非アクティブを切り替えている。
【0087】
記録データ信号117とヒートイネーブル信号(HE)との論理積をとることにより、フィードバック線108がオープンとなる状態を完全に検出することができ、予期せぬ電流Iboostの生成を完全に防止することを可能としている。
【0088】
ここで、図9A及び図9Bを用いて、上述した実施形態1〜3の効果を従来技術と比較して説明する。ここでは、実施形態1〜3と従来技術とにおける記録素子基板に流れる電流(IH1)の波形、記録素子基板の第2の端子の電圧(VD1)の波形、及び記録素子基板の消費電力のシミュレーション結果を示す。
【0089】
図9Aは、実施形態1〜3と従来技術とにおける記録素子の駆動速度を等しくさせるべく設計した記録素子基板のシミュレーション結果を示している。図9Aに示すように、実施形態1〜3を適用した場合、従来技術に比べ消費電力を1/2.6に削減できることが分かる。
【0090】
また、図9Bは、実施形態1〜3と従来技術とにおける消費電力を等しくさせるべく設定した記録組織版のシミュレーション結果を示している。図9Bに示すように、実施形態1〜3を適用した場合、従来技術に比べ同じ消費電力であっても、過度状態の時間を1/2.5に削減することができ、記録素子の駆動速度を大幅に向上できることが分かる。
【0091】
すなわち、上述した実施形態1〜3で説明した処理を実施することで、高速且つ低消費電力で記録素子に印加する電圧をフィードバック制御できる。
【0092】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。例えば、実施形態3の記録素子基板50は、電圧−電流変換イネーブル信号122を伝搬する信号線(第3信号線)に電圧−電流変換イネーブル信号生成回路121(第1スイッチ)を設け、接続/非接続を切り替える回路構成を採りうる。そして、例えば、ヒートイネーブル信号(HE)の有効ないし無効によって該第1スイッチの接続状態ないし非接続状態を切り替えうる。ここでは、以上のような構成を例示したが、該実施形態はこの構成に限られず、別途、他の制御信号を用意してもよい。また、例えば、駆動素子101−1のゲートとグランド配線103とを第2スイッチを介して接続する経路(第4信号線)を設け、例えば、ヒートイネーブル信号(HE)に応じて該第2スイッチの接続状態ないし非接続状態を切り替える構成を例示した。この構成では、AND回路及びインバータを示したが、本実施形態は当該構成に限られず、例えば、NAND回路及びインバータで構成してもよいし、公知の論理変更を行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録素子と、
入力される制御信号に基づいて前記記録素子を駆動させるスイッチ素子と、
一定の電流を生成する第1電流源と、
入力電圧に基づいて電流を生成する第2電流源と、
前記第1電流源で生成された電流に前記第2電流源で生成された電流が加えられた電流を増幅して前記制御信号を生成し、その後、前記第1電流源で生成された電流を増幅して前記制御信号を生成する電流生成回路と、を具備する
ことを特徴とする記録素子基板。
【請求項2】
前記スイッチ素子は、前記制御信号が入力される入力部を有するトランジスタを含む
ことを特徴とする請求項1記載の記録素子基板。
【請求項3】
前記電流生成回路は、前記入力電圧に基づいて電流を増幅する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の記録素子基板。
【請求項4】
前記記録素子から前記スイッチ素子へ電流を供給するための第1信号線と、
基準電圧を供給する第2信号線と、を更に具備し、
前記入力電圧は、前記第1信号線の電圧と前記第2信号線の電圧との差分である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録素子基板。
【請求項5】
前記第1信号線の電圧を、前記第2電流源へ供給するための第3信号線と、
前記第3信号線に設けられ、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号に基づいて、前記第3信号線の接続/非接続を切り替える第1スイッチと、を更に具備し、
前記第1スイッチは、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号が有効の場合に接続状態に制御され、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号が無効の場合に非接続状態に制御される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録素子基板。
【請求項6】
前記入力部とグランドとを結ぶ第4信号線と、
前記第4信号線に設けられ、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号に基づいて、前記第4信号線の接続/非接続を切り替える第2スイッチと、を更に具備し、
前記第2スイッチは、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号が無効の場合に接続状態に制御され、前記記録素子の駆動を指示する駆動信号が有効の場合に非接続状態に制御される
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の記録素子基板。
【請求項7】
複数の記録素子と、
前記複数の記録素子それぞれに対応して設けられた複数のスイッチ素子と、を更に具備し、
前記電流生成回路は、前記複数のスイッチ素子に前記制御信号を供給する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録素子基板。
【請求項8】
前記電流生成回路は、
動作をアクティブにするか非アクティブにするかの切り替えを指示する指示信号が入力される
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の記録素子基板。
【請求項9】
前記指示信号は、前記記録素子の駆動期間を規定するヒートイネーブル信号を含む
ことを特徴とする請求項8に記載の記録素子基板。
【請求項10】
前記指示信号は、記録動作を行なう記録素子を規定するデータ信号と前記記録素子の駆動期間を規定するヒートイネーブル信号との論理積によって生成された信号を含む
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の記録素子基板。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の記録素子基板を含むことを特徴とする記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−32000(P2013−32000A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140036(P2012−140036)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】