説明

記録装置および記録方法

【課題】記録速度を低下することなく、記録媒体の後端部近傍をニップした状況での記録走査を回避し、安定した画像記録を維持することが可能な記録装置および記録方法を提供する。
【解決手段】記録動作開始前に、記録媒体Pの後端が搬送ローラ36とピンチローラ37のニップ部近傍に位置した状態で記録走査が行われないように、記録開始位置を設定する。これにより、各回の搬送動作に多少の搬送誤差が含まれた場合であっても、記録媒体Pの後端部がニップ部に位置するような不安定な挟持状態での記録動作が行われることが回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドによる記録走査と記録媒体の搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に画像を記録するシリアル型の記録装置に関する。特に、記録媒体の後端部が搬送ローラのニップ部から外れる際の画像への影響を抑えるための構成および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル型のインクジェット記録装置では、インクを吐出する記録ヘッドを搭載したキャリッジが記録媒体に対して走査する主走査と、主走査とは交差する方向に記録媒体を搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体に段階的に画像を記録する。このようなインクジェット記録装置では、記録媒体における記録中の領域を記録ヘッドの吐出口面に対し平行に維持することが求められ、通常、搬送方向に対し記録領域の上流側と下流側には、記録媒体を挟持するための2組のローラ対が用意されている。具体的には、搬送方向の上流側には搬送モータによって駆動回転する搬送ローラとこれに従動するピンチローラが、下流側には排紙ローラとこれに従動する複数の拍車が、それぞれ用意されている。
【0003】
但し、記録動作が進み記録媒体の後端が上流側のニップ近傍に配置する状態においては、ピンチローラの付勢力によって記録媒体の支持が不安定になる。そして、この状況で記録ヘッドによる記録走査を行うと、当該走査で記録した画像において記録位置ずれが発生し、画像が劣化する場合があった。このような問題に対し、例えば搬送ローラの回転にブレーキをかけるなどの仕組みを用意することも考えられる。しかし、この場合、搬送ローラを駆動するための負荷トルクが大きくなり、駆動モータのグレードを上げなければならなかったり、搬送速度を落とさなければならなかったりと、新たな問題が提起される。
【0004】
また、特許文献1には、記録媒体の後端が上流側のニップから外れるタイミングにおいて、規定の搬送量の倍の搬送を行い、且つ記録に使用する記録ヘッド上のノズル位置もシフトする記録方法が開示されている。特許文献1の構成であれば、記録媒体を不安定な位置でニップする状況を避けることが出来るので、上述したような記録位置ずれや画像劣化が招致されることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−254736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成においては、後端部がニップされる前後で記録に使用するノズル位置を記録ヘッド上でシフトするため、記録ヘッドの全ノズルを使用することが出来ず、記録速度が低下するという問題が生じていた。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。よって、その目的とするところは、記録速度を低下することなく、記録媒体の後端部近傍をニップした状況での記録走査を回避し、安定した画像記録を維持することが可能な記録装置および記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために本発明は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査させる記録走査と、該記録走査とは交差する搬送方向に記録媒体を所定の搬送量ずつ搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、前記記録媒体に画像を記録する記録装置であって、前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し、前記搬送方向の上流側の位置で前記記録媒体を挟持する第1のニップ手段と、前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し、前記搬送方向の下流側の位置で前記記録媒体を挟持する第2のニップ手段と、前記記録媒体における前記搬送方向の画像の記録開始位置を設定する設定手段と、該設定手段によって設定された前記記録開始位置から画像の記録が開始されるように前記記録媒体を搬送して前記記録ヘッドに対し位置合わせを行う手段とを備え、前記設定手段は、前記記録媒体の後端が前記第1のニップ手段の近傍領域に位置した状態で前記記録走査が行われないように、前記記録開始位置を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各回の搬送動作に多少の搬送誤差が含まれた場合であっても、記録媒体Pの後端部がニップ部に位置するような不安定な挟持状態での記録動作が行われることが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェット記録装置における搬送機構を説明するための断面図である。
【図2】インクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。
【図3】(a)および(b)は、搬送ローラおよびピンチローラの配置を説明する図である。
【図4】停止不安定領域を説明する図である。
【図5】制御部が記録開始位置Wを決定する工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に使用可能なインクジェット記録装置における搬送機構を説明するための断面図である。キャリッジ5は、記録ヘッドユニット7を搭載した状態でX方向に往復移動可能であり、記録ヘッドユニット7は所定速度の移動中に画像データに従ってZ方向にインクを吐出する。給紙トレイ1に積載されている記録媒体Pは1枚ずつ装置内に給紙され、記録ヘッドユニット7による記録領域を通過する様に記録走査とは交差するY方向に搬送される。このような構成のもと、記録ヘッドユニット7からインクを吐出しながらキャリッジを走査させる記録走査と、記録媒体を所定量ずつ搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体に段階的に画像が形成される。
【0013】
搬送方向(Y方向)において、記録ヘッドユニット7による記録領域の上流側と下流側には、搬送ローラ36とピンチローラ37によるローラ対(第1のニップ手段)、及び排紙ローラ41と拍車42によるローラ対(第2のニップ手段)が配備されている。ピンチローラ37は、ピンチローラホルダ30に設けられた回転軸に回転可能に支持されており、ピンチローラホルダ30はピンチローラバネ31によって付勢される。また、排紙ローラ41と拍車42との間にも、不図示の押圧機構によって同様に押圧力が作用している。このような2組のローラ対により、記録媒体Pが一定の張力の下で挟持され、記録ヘッドユニット7の吐出口面に対し平行な姿勢が維持されている。
【0014】
搬送ローラ36は不図示の駆動モータによって回転し、排紙ローラ41は所定のギア列を介することにより搬送モータ36と同じ駆動モータによって回転する。ピンチローラ37は搬送ローラ36の回転に伴って、拍車42は排紙ローラ41の回転に伴って夫々従動する。
【0015】
図2は、本実施例のインクジェット記録装置における制御の構成を説明するためのブロック図である。制御部50は、中央演算処理装置であるCPU51、制御プログラムや変数初期値を記憶するROM52、ワークエリアとして使用されるRAM53を備え、装置内の各種機構を駆動して記録装置全体を制御する。例えば制御部50は、インターフェイスI/F54を介して外部に接続されたホスト装置から画像データを受信し、ROM52に記憶されている制御プログラムに従って画像データをRAM53に展開する。その後、RAM53に展開された画像データに従って、記録動作を実行する。具体的には、ヘッドドライバ55を介して記録ヘッドユニット7を駆動し、記録ヘッドユニット7のノズルからインクを吐出させる。また、モータドライバ58を介してキャリッジモータ59を駆動し、キャリッジ5の移動制御を行う。更にモータドライバ56を介して搬送モータ57を駆動し、搬送ローラ36や排紙ローラ41を指示に従った分だけ回転させる。これにより、記録開始前の記録媒体Pを所定の記録開始位置にセットしたり、記録走査が終了するたびに記録媒体Pを所定量ずつ搬送したりすることが出来る。
【0016】
図3(a)および(b)は、本実施例の搬送ローラ36およびピンチローラ37の配置を説明する図である。図3(a)は、搬送ローラ36とピンチローラ37の拡大断面図、図3(c)は上面図である。搬送ローラ36は、X方向において記録媒体Pの幅以上の長さを有し、より短い長さの複数のピンチローラ37が、1つの搬送ローラ36に対応して図のように一直線に配設されている。
【0017】
上記ローラ対が記録媒体Pを挟持しているとき、ピンチローラ37はピンチローラばね31の力に逆らって記録媒体Pの厚み分だけ上昇した位置に配置される。このようなニップ状態が維持されながら記録が行われる領域では、記録ヘッドユニット7による記録走査のたびに、搬送ローラおよび排紙ローラの所定量の回転により記録媒体Pが一定量ずつ搬送され、規則的に画像が形成されていく。
【0018】
一方、記録媒体の後端が図のY方向に移動してローラ対のニップ部を抜けるとき、ピンチローラ37はピンチローラばね31の力に応じて記録媒体Pの厚み分だけ下降する。この際、搬送ローラ36および排紙ローラ41がそれらを駆動するギア列のバックラッシュ分回転し、記録媒体Pが通常よりも余分に搬送される。このようなニップ状態で記録が行われると、その記録走査では記録位置が不安定になり、濃度むらなどの画像劣化が招致される。
【0019】
図4は、本実施例における停止不安定領域を説明する図である。本実施例において、停止不安定領域とは、記録走査中の記録状態が不安定になるような、記録媒体Pの後端部の位置を示す。本実施例において、停止不安定領域は、搬送ローラ36とピンチローラ37のニップ部を中心に、所定量の振れ幅を加えた幅Cを有する領域となっており、Y方向においては、停止不安定領域開始位置Aから始まり、停止不安定領域終了領域Bまで続いている。実際に記録位置が不安定になるのは、記録媒体の後端部がまさにニップ部に挟持されている場合であるが、本実施例では後端部の位置を予測しながら後述する制御を行うので、複数回の搬送誤差も含んだ近傍領域を停止不安定領域として定義している。
【0020】
本実施例では、この停止不安定領域内に記録媒体Pの後端部が位置した状態での記録走査を回避するために、記録前に個々の搬送動作ごとの後端部の位置を搬送スケジュールとして予測する。そして、搬送スケジュールにおいて、後端部が停止不安定領域に位置してしまうタイミングがあると判断した場合は、その際の後端部の位置を停止不安定領域開始位置Aまで移動させるように、記録媒体の最初の記録開始位置を変更する。
【0021】
図5は、本実施例において記録前に制御部50が記録開始位置Wを決定する工程を説明するためのフローチャートである。記録が開始されると、まずステップS401において、制御部50は、これから記録する画像データや記録媒体Pのサイズ、あるいは設定された記録モード等から、搬送スケジュールを作成する。搬送スケジュールでは、1回あたりの搬送量dや画像全体を記録するために必要な搬送回数および暫定の記録開始位置Wなどが把握されている。なお、暫定の記録開始位置Wの設定は様々である。例えば、記録媒体の先端が記録ヘッドユニット7による記録可能な最先端に一致するような位置でもよいし、記録媒体の先端が排紙ローラ41と拍車42のニップ部に挟持されるような位置でもよい。
【0022】
ステップS402では、1回あたりの搬送量dが停止不安定領域の幅Cよりも大きいか否かを判断する。d>Cの場合、記録位置開始位置Wの変更制御を実行するため、ステップS404へ進む。一方、d≦Cの場合は、ステップS403へ進み、記録位置開始位置Wの変更は行わない。1回あたりの搬送量dが停止不安定領域の幅Cよりも小さい場合、記録位置開始位置Wを変更しても、記録媒体の後端部は停止不安定領域内に1回は停止してしまうので、本実施例の効果は得られない。但し、このような場合には、搬送量d自体が十分に小さいことから、記録位置ずれによる影響が及ぶ範囲も少なく画像上さほど問題とならないことが期待される。よって、本実施例では、このような場合には、記録位置開始位置Wの変更は行わず、ステップS401で作成した搬送スケジュール通りの記録開始位置Wで記録開始位置を設定する。
【0023】
ステップS404〜ステップS410では、ステップS401で作成した搬送スケジュールに従って、個々の搬送動作のシミュレーションを行いながら、記録位置開始位置Wを変更するための移動量Δを算出する。
【0024】
そのため、まずステップS404では、総搬送量Sdを0にセットする。続くステップS405では、現時点での総搬送量Sdと記録媒体のサイズから、記録媒体Pの後端部と停止不安定開始位置Aの相対位置を把握し、記録媒体Pの後端部が停止不安定領域内に位置しているか否かを判断する。
【0025】
ステップS405において、記録媒体Pの後端部が停止不安定領域内に位置していないと判断した場合はステップS406に進み、搬送スケジュールにおける全搬送動作についての判断が完了したか否かを判断する。まだ判断すべき搬送動作が残っていると判断した場合は、ステップS407にて総搬送量Sdに1回分の搬送量dを加算し、次の搬送動作の判断を行うためにステップS405に戻る。一方、全ての搬送動作についてのシミュレーションが完了した場合は、今回の記録ジョブにおいて、記録媒体の後端部が停止不安定領域内で停止する状況は生じないと判断され、記録位置開始位置の変更は行わない。すなわち、ステップS408に進み、ステップS401で作成した搬送スケジュール通りの記録開始位置Wで記録開始位置を設定する。
【0026】
一方、ステップS405にて、記録媒体Pの後端部が停止不安定領域内に位置していると判断した場合はステップS409へ進む。ステップS409では、ステップS405で把握した記録媒体Pの後端部と停止不安定領域開始位置Aとの距離から、記録位置開始位置Wに対する移動量Δwを算出する。その後ステップS410へ進み、ステップS401で取得した搬送スケジュール通りの記録開始位置Wに対し、ステップS409で取得した移動量Δwを加算し、これを新たな記録位置開始位置Wとして設定する。
【0027】
以上、ステップS403、S408あるいはS410によって、最終的な記録開始位置Wが設定されると、ステップS411に進み、制御部50は、設定された記録開始位置Wから実際の記録動作が開始されるように、記録媒体Pの給紙および搬送動作を実行する。
【0028】
その後ステップS412において、位置合わせされた記録媒体に対し画像データに従った記録ヘッドによる記録走査と搬送量dずつの搬送動作を交互に繰り返すことにより、記録媒体に所定の画像を形成する。以上で本処理が終了する。
【0029】
以上説明した本実施例によれば、記録媒体の後端部が停止不安定領域内に位置した状態で、記録走査が行われることが回避される。つまり、各回の搬送動作に多少の搬送誤差が含まれた場合であっても、記録媒体の後端部が搬送ローラとピンチローラのニップ部に位置するような不安定な挟持状態での記録動作が行われることが確実に回避される。その結果、画像の最初から最後まで安定した記録走査を行うことが出来、高品位な画像を出力することが可能となる。
【0030】
また、画像領域全体に亘って、記録ヘッドが有する全てのノズルで記録走査を行うことが出来るので、特許文献1のように記録速度を低下させることもない。
【符号の説明】
【0031】
P 記録媒体
5 キャリッジ
7 記録ヘッドユニット
36 搬送ローラ
37 ピンチローラ
41 排紙ローラ
42 拍車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査させる記録走査と、該記録走査とは交差する搬送方向に記録媒体を所定の搬送量ずつ搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、前記記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し、前記搬送方向の上流側の位置で前記記録媒体を挟持する第1のニップ手段と、
前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し、前記搬送方向の下流側の位置で前記記録媒体を挟持する第2のニップ手段と、
前記記録媒体における前記搬送方向の画像の記録開始位置を設定する設定手段と、
該設定手段によって設定された前記記録開始位置から画像の記録が開始されるように前記記録媒体を搬送して前記記録ヘッドに対し位置合わせを行う手段と
を備え、
前記設定手段は、前記記録媒体の後端が前記第1のニップ手段の近傍領域に位置した状態で前記記録走査が行われないように、前記記録開始位置を設定することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記記録媒体の前記搬送方向における長さと前記搬送量に基づいて、前記記録開始位置を設定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記近傍領域は、前記第1のニップ手段を中心とした複数回の搬送誤差を含んだ領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査させる記録走査と、該記録走査とは交差する搬送方向に記録媒体を所定の搬送量ずつ搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことにより、前記記録媒体に画像を記録する記録方法であって、
前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し前記搬送方向の上流側に配置された第1のニップにより、前記記録媒体を挟持する工程と、
前記記録ヘッドが前記記録媒体に記録を行う領域に対し前記搬送方向の下流側に配置された第2のニップにより、前記記録媒体を挟持する工程と、
前記記録媒体における前記搬送方向の画像の記録開始位置を設定する設定工程と、
該設定工程によって設定された前記記録開始位置から画像の記録が開始されるように前記記録媒体を搬送して前記記録ヘッドに対し位置合わせを行う工程と
を有し、
前記設定工程は、前記記録媒体の後端が前記第1のニップの近傍領域に位置した状態で前記記録走査が行われないように、前記記録開始位置を設定することを特徴とする記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49152(P2013−49152A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187349(P2011−187349)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】