説明

記録装置及びその駆動制御方法

【課題】保持トレイの搬送中における送り寮の変動を抑えて一定にし、良好な画像形成を可能とする記録装置及びその駆動制御方法を提供する。
【解決手段】本発明のインクジェットプリンターの駆動制御方法は、記録ヘッドと対向する搬送経路上に挿入されるとともにその表面に被記録材を保持可能とされ、被記録材を水平に保持可能な平面領域と、搬送方向後端側に設けられ後端縁に向かうに従い裏面側へと傾斜する傾斜領域とを有する保持トレイを、保持トレイの裏面に接する駆動ローラーと、保持トレイの表面に接する従動ローラーとの間で挟持して搬送する際、保持トレイの平面領域を搬送する場合と傾斜領域を搬送する場合とに応じて搬送駆動ローラーの駆動を制御する(ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持トレイのセット部に光ディスク等の被記録材をセットし、搬送手段により前記保持トレイを移動させて記録実行領域において前記被記録材に記録を実行するプリンタ、ファクシミリあるいは複写機に代表される、複合機を含む概念の記録装置及びその駆動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録装置の一例であるインクジェットプリンターには、用紙やフィルム等の軟質被記録材と、光ディスク(CD−RやDVD−R等)で代表される硬質被記録材との両方に対して選択的に記録を実行することができるインクジェットプリンターが存在する。そして、CD−R等の被記録材に対して記録を実行する場合には、別途付属品として用意されている専用の保持トレイを使用するか、プリンタ本体内に保持トレイが内蔵されている構造のインクジェットプリンターを使用する。保持トレイにはCD−R等の被記録材をセットするセット凹部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−82540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような付属品である保持トレイを使用してCD−R等の被記録材に対して記録を実行する構造の場合、保持トレイの下面を搬送駆動ローラーと記録ヘッドより下流に位置する排出駆動ローラーとで支持した状態で記録処理が行えるように、搬送方向に長尺は寸法となっていた。これにより、部品サイズが大型化していた。
【0005】
また、保持トレイを内蔵するタイプのプリンターにおいては、装置が大型化するのを防ぐために保持トレイを小型化する必要がある。保持トレイのサイズを搬送方向に縮小させると、搬出駆動ローラーを構造的に使うことができないため、搬送駆動ローラーとこれに対向する従動ローラーとで保持トレイを挟持し搬送することになる。
【0006】
ところが、保持トレイの搬送方向後端側に設けられた従動ローラーを案内するための傾斜面によって、搬送時における保持トレイの送り量に変動が生じてしまうという問題があった。つまり、保持トレイの搬送方向における寸法を縮尺したことで、記録実行中に従動ローラーが上記傾斜面に接するようになり、この従動ローラーと搬送駆動ローラーとの挟持力によって保持トレイが搬送方向へ押し出されるなどして、記録が良好に行えないという不都合が生じていた。
【0007】
従来の保持トレイにも後端側に案内用の傾斜面が設けられた構成のものもあるが、搬送方向に長さを有していたため、被記録材に対して記録処理を実行している間に、搬送駆動ローラーおよび従動ローラーによる支持がこの傾斜面に差し掛かるようなことはなかったため、このような問題は生じなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、保持トレイの搬送中における送り量の変動を抑えて一定にし、良好な画像形成を可能とする記録装置及びその駆動制御方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の記録装置は、上記課題を解決するために、記録ヘッドと対向する搬送経路に挿入されるとともにその表面に被記録材を保持可能とされ、前記被記録材を水平に保持可能な平面領域と、搬送方向後端側に設けられ後端縁に向かうに従い裏面側へと傾斜する傾斜領域と、を有する保持トレイと、前記保持トレイの裏面に接する駆動ローラーと、前記保持トレイの前記表面に接するとともに前記駆動ローラーとの間で前記保持トレイを挟持して搬送する従動ローラーと、前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合と前記傾斜領域を搬送する場合とに応じて前記駆動ローラーを制御する制御装置と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、保持トレイの平面領域と傾斜領域とで送り量を変化させるように駆動ローラーを駆動制御する制御装置を備えていることとしたので、保持トレイの搬送中における送り量の変動を抑えて一定にし、良好な画像形成を可能にする。
【0011】
また、前記制御装置は、前記保持トレイの平面領域を搬送する場合よりも前記傾斜領域を搬送する場合の方が、回転量が減少するように前記駆動ローラーを制御する機能を有することが好ましい。
本発明によれば、搬送ローラーと従動ローラーとの挟持力によって保持トレイの傾斜領域において搬送速度が上昇しないように抑制でき、保持トレイの平面領域と傾斜領域とで送り量が一定になるように補正することが可能である。
【0012】
また、前記保持トレイは、前記平面領域に前記被記録材を保持する保持部を有するとともに、前記保持部の搬送方向後端から前記傾斜領域までの距離が、前記駆動ローラーと前記従動ローラーとのニップ点から前記記録ヘッドによる記録位置までの距離に比べて短い構成となっていることが好ましい。
本発明によれば、被記録材に対する記録が終了する前に、駆動ローラーと従動ローラーとのニップ点に保持トレイの傾斜領域が至ることになるが、保持トレイの平面領域と傾斜領域とで送り量を変化させるように駆動ローラーを制御するようになっているため、保持トレイの傾斜領域において搬送速度が上昇することなく、一定の送り量で搬送することが可能である。
【0013】
本発明の駆動制御方法は、記録ヘッドと対向する搬送経路上に挿入されるとともにその表面に被記録材を保持可能とされ、前記被記録材を水平に保持可能な平面領域と、搬送方向後端側に設けられ後端縁に向かうに従い裏面側へと傾斜する傾斜領域とを有する保持トレイを、前記保持トレイの裏面に接する駆動ローラーと、前記保持トレイの前記表面に接する従動ローラーとの間で挟持して搬送する際、前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合と前記傾斜領域を搬送する場合とに応じて前記搬送駆動ローラーの駆動を制御することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、保持トレイの搬送中、保持トレイの平面領域と傾斜領域とで送り量を変化させるように駆動ローラーの駆動を制御することとしたので、保持トレイの搬送中における送り量の変動を抑えて一定にし、良好な画像形成を可能にする。
【0015】
また、前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合よりも前記傾斜領域を搬送する場合の方が、回転量が減少するように前記駆動ローラーを制御することが好ましい。
本発明によれば、駆動ローラーの回転量を減少させることとしたので、搬送ローラーと従動ローラーとの挟持力によって保持トレイの傾斜領域において搬送速度が上昇しないように抑制でき、保持トレイの平面領域と傾斜領域とで送り量が一定になるように補正することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンターの内部構造を示す斜視図。
【図2】保持トレイが格納ポジションに位置しているときの側断面図。
【図3】保持トレイが記録実行開始ポジション(記録実行終了ポジション)に位置しているときの側断面図。
【図4】保持トレイがセットポジションに位置しているときの側断面図。
【図5】(a)保持トレイの概略構成を示す斜視図、(b)(a)のE−E’断面図。
【図6】制御装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図7】インクジェットプリンターの動作を示すフローチャート。
【図8】インクジェットプリンターの動作を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0018】
図1はインクジェットプリンターの内部構造を全体的に示す斜視図、図2はインクジェットプリンターの構成を示す概略構成図であって保持トレイが格納ポジションに位置しているときの側断面図、図3は保持トレイが記録実行開始ポジション(終了ポジション)に位置しているときの側断面図、図4は保持トレイがセットポジションに位置しているときの側断面図である。
【0019】
なお、図示のインクジェットプリンター1は、上部に図示を省略した画像読取り装置(スキャナ)を搭載した複合型のインクジェットプリンターであり、用紙やフィルム等の軟質被記録材Pと、CD−RやDVD−R等を含む光ディスク等の硬質被記録材(被記録材)Qとの両方に対して記録を実行することができるタイプのインクジェットプリンターである。また、図示のインクジェットプリンター1は、2種類の被記録材P、Qの記録実行領域51での搬送方向Aと交差する幅方向Bに往復移動し得るキャリッジ40の下面に記録ヘッド42を搭載したシリアルプリンタである。
【0020】
インクジェットプリンター1は、図1及び図2に示すように、外観が比較的フラットな面によって構成されている矩形筐体状のプリンタ本体2を備えている。このプリンタ本体2は、全体の動作を制御する制御装置200(図6)、給送装置3、記録装置4、搬送装置5、排出装置6等を具備している。
【0021】
制御装置200(図6)は、各装置の動作を電気的に制御するものであり、詳しくは後述するが、上記給送装置3、記録装置4、搬送装置5および排出装置6等の間でデータの授受を行う各種入出力インターフェース回路や、該データに基づき所定の演算処理等を行うCPU等を有する。
【0022】
プリンタ本体2には、前面2aの中央下部に多数枚の普通紙等の軟質被記録材Pを積畳状態で収容し得る給送用カセット11が着脱可能に装着されている。
また、給送用カセット11の装着面の上方には記録実行後の軟質被記録材Pを積畳状態でスタックするための排出用スタッカ47が設けられている。この他、プリンタ本体2の前面2aには各種の操作指令を実行するための図示しない操作ボタンと、各種のインクカートリッジを収容するための図示しないカートリッジホルダ等が設けられている。
【0023】
給送用カセット11は、被記録材Pの搬送経路の始発位置に設けられる部材で、給送用カセット11内に収容された軟質被記録材Pは、給送装置3によって最上位のものから順番に1枚ずつ繰り出されて後述するU字反転経路50に向けて給送されるようになっている。
【0024】
給送装置3は、給送用カセット11内の上位の軟質被記録材Pを後方に引き出すピックアップローラー16と、後方に引き出された上位の軟質被記録材Pを予備分離しながらU字反転経路50に導く分離斜面12と、分離斜面12の後部斜め上方において自由回転可能な状態で設けられる第1ガイドローラー20と、第1ガイドローラー20の後部斜め上方に設けられる分離ローラー21とを備えることによって構成されている。
【0025】
ピックアップローラー16は、揺動軸18を中心に揺動する揺動アーム17の先端部に設けられており、給送時に軟質被記録材Pの上面に圧接されて搬送方向Aへの回転によって給送用カセット11内の最上位の被記録材Pを後方に引き出すことができるようになっている。
【0026】
分離ローラー21は、トルクリミッタが接続された分離従動ローラー22と、分離駆動ローラー23との一対のニップローラーによって構成されており、分離斜面12による予備分離では分離できなかった後続の被記録材Pを最上位の軟質被記録材Pから完全に分離させる分離作用を担っている。
【0027】
給送装置3によって給送された軟質被記録材Pは、搬送装置5内のU字反転経路50に沿って搬送されて記録実行領域51に導かれる。記録実行領域51の下方には、搬送されてきた被記録材P、硬質被記録材Qを保持する保持トレイ55等の下面を支持して記録ヘッド42下面(ノズル形成面)との間のギャップPGを規定するプラテン38が設けられている。
【0028】
一方、記録実行領域51の上方には、記録装置4の主要な構成部材である記録ヘッド42と、記録ヘッド42を下面に搭載した状態で幅方向Bにキャリッジガイド軸41に案内されて往復移動し得るキャリッジ40とが設けられている。さらに、記録装置4には、記録ヘッド42に各色のインクを供給する図示しない複数本のインクチューブ及びインク供給ポンプと、キャリッジ40のホームポジションに設けられる図示しないキャッピング装置と、軟質被記録材Pと硬質被記録材Qとの切替え時等に使用される図示しない自動ギャップ調整機構等とが備えられている。
【0029】
また、記録実行領域51の搬送方向Aにおける下流位置には、被記録材の排出装置6が設けられている。被記録材の排出装置6は、排出駆動ローラー44と排出従動ローラー45との一対のニップローラーによって構成される排出用ローラー43と、上述した排出用スタッカ47とを備えることによって構成されている。
また、排出用スタッカ47には入れ子状にその内部に収容される延長スタッカ48が引出し、格納自在に設けられている。
【0030】
次に、本実施形態の搬送装置5の構成について具体的に説明する。
図5(a)は保持トレイの概略構成を示す斜視図、図5(b)は、(a)のE−E’断面図である。
搬送装置5は、CD−R等の硬質被記録材Qをセットするプリンタ本体2に内蔵された短寸の保持トレイ55と、保持トレイ55のセットポジション53(図4)と格納ポジション54(図2)との間の往復移動を案内する往復移動経路56と、往復移動経路56の途中に設けられ、保持トレイ55に搬送力を付与する搬送駆動ローラー35および搬送従動ローラー36によって構成される搬送用ローラー34と、を備えることによって基本的に構成されている。
【0031】
搬送装置5は、上記構成に加えて軟質被記録材Pを多数枚積畳状態で収容し得る上述した給送用カセット11と、軟質被記録材Pの給送用カセット11からの後方への給送と、U字反転そしてプリンタ本体2の前面2aに向けての搬送を案内する上述したU字反転経路50と、保持トレイ55を搬送用ローラー34に受け渡すまでの補助的な搬送を実行する補助搬送機構67と、を備えている。
【0032】
ここで、記録実行領域51とは、記録ヘッド42によって硬質被記録材Qに対して記録が行われる領域である。図3において、符号60は硬質被記録材Qに記録が開始されるときの保持トレイ55の先端位置を示しているが、以下のこの位置を保持トレイ55における記録実行開始ポジション60と称す。この記録実行開始ポジション60に対応して、硬質被記録材Qへの記録が終了するときの保持トレイ55の先端位置が保持トレイ55における記録実行終了ポジション61になる。図3において、符号61は記録実行終了ポジションにおける保持トレイ55の先端位置を示している。
【0033】
U字反転経路50は、プリンタ本体2内部の後部スペースを利用して設けられており、U字反転経路50の外側案内面50aを形成する一例として2分割された上方に位置する上部ハウジング63、64及び上搬送案内部37と、下方に位置する下部ハウジング65と、U字反転経路50の内側案内面50bを形成する上述した上部経路構成部材57と、を備えることによって軟質被記録材P用の搬送経路を構成している。
【0034】
U字反転経路50には、図3に示すように、送り駆動ローラー26と送り従動ローラー27との一対のニップローラーによって構成されている第1中間送りローラー25と、自由回転可能な第2ガイドローラー29と、送り駆動ローラー32と送り従動ローラー33との一対のニップローラーによって構成されている第2中間送りローラー31とが設けられている。そして、これらの各ローラー25、29、31の送り及び案内作用によってU字反転経路50に供給された軟質被記録材Pは、U字反転経路50を通って、U字反転経路50の下流近傍位置に設けられる上述した搬送用ローラー34のニップ点に供給されるようになっている。
【0035】
搬送用ローラー34は、ローラー駆動軸35aによって支持された搬送駆動ローラー35と、上搬送案内部37の先端において自由回転可能な状態で設けられている搬送従動ローラー36との一対のニップローラーによって構成されている。また、搬送従動ローラー36の搬送方向Aの位置は、搬送駆動ローラー35の搬送方向Aの位置よりも幾分下流にずれた位置、いわゆる「逆ぞり構造」に設定されている。そして、このような「逆ぞり構造」の搬送用ローラー34を採用することによって、供給された軟質被記録材Pの先端を下方のプラテンリブ38aに押し付けてヘッド擦れを防止し、記録品質の向上を図っている。
【0036】
また、ローラー駆動軸35aには、後述する駆動モーター7からの動力が伝達されて、被記録材P及び保持トレイ55(硬質被記録材Q)の各搬送を実行する他、ギヤ輪列66を介して補助搬送機構67に動力を伝達させて保持トレイ55の格納ポジション54からの移動開始動作と、格納ポジション54に戻す移動終了動作とを実行できるようになっている。
【0037】
また、制御装置200(図6)によって駆動モーター7の出力制御がなされることで、搬送駆動ローラー35の回転速度がコントロールできるようになっている。これにより、搬送中における保持トレイ55の送り量を可変させることが可能である。
なお、搬送用ローラー34における搬送駆動ローラー35と、上述した排出用ローラー43における排出駆動ローラー44とは同一の駆動モーター7に接続されており、互いに連動して動作する。
【0038】
さらに、ローラー駆動軸35aには図示しないクラッチ装置が設けられており、クラッチ装置の係合位置を適宜可変することによって、上述した図示しないインク供給ポンプ、キャッピング装置、自動ギャップ調整機構及び給送装置3に対して選択的にローラー駆動軸35aの動力を伝えることができる。
【0039】
図5は、保持トレイの概略構成を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は(a)のE−E’断面図である。
保持トレイ55は、図2〜図4に示した格納ポジションからセットポジションまでの往復移動における全移動長さより短く形成されており、奥行き寸法の短い短寸の矩形平板状の部材からなっている。このような保持トレイ55は、その表面55aに搬送方向に並ぶ複数の領域を有しており、具体的には、硬質被記録材Qを搬送方向に対して水平姿勢で保持可能とする平面領域A1と、搬送方向両端側にそれぞれの端縁に向かって裏面55b側へと傾斜する傾斜領域A2、A3とが設けられている。
【0040】
保持トレイ55の表面55aにおける平面領域A1には、搬送方向に直交する方向(幅方向)の中央よりも若干前方寄りの位置に、硬質被記録材Qをセットするためのセット凹部(保持部)71と、その中心にセットされた硬質被記録材Qを保持する保持凸部72とが設けられている。保持トレイ55にセットできる硬質被記録材Qとしては、直径12cmあるいは直径8cmのCD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RWあるいは次世代の光ディスクとして注目されているブルーレイディスクや今後開発されるものを含めた種々の光ディスク等が適用可能である。
【0041】
本実施形態の保持トレイ55は、図5(b)に示すように、セット凹部71の搬送方向後端から傾斜領域A3までの距離L1が、搬送用ローラー34のニップ点から記録ヘッド42の記録位置までの距離L2(図8(a))に比べて短い構成とされている。
【0042】
また、図5(a),(b)に示すように、傾斜領域A2における保持トレイ55の先端部80は、その先端縁80aが櫛歯状の凹凸形状に形成されており、このうちの複数の凸部が前下がり傾斜の案内爪84になっている。
一方、傾斜領域A3における保持トレイ55の後端部90には、幅方向両側のコーナー部を除いた部分に後下がりに傾斜する傾斜面91が形成されている。この傾斜面91は、多段傾斜面とされており、搬送方向における傾斜経路長が上記案内爪84の傾斜経路長よりも長く、傾斜角度も案内爪84に比べて緩やかである。
上述した搬送従動ローラー36は、このような保持トレイ55の案内爪84、表面55a及び傾斜面91に連続的に接触する。
【0043】
また、保持トレイ55の後端部90の左右のコーナー部付近には、後述する移動機構59の左右のガイドアーム74L、74Rのそれぞれの先端部74a、74aと回転自在に接続される舌片状をした接続片75L、75Rが設けられている。
【0044】
図1及び図2に戻り、往復移動経路56は、保持トレイ55が格納ポジション54に位置しているときに保持トレイ55の裏面55bを支持する下部経路構成部材62と、保持トレイ55の左右の側縁(エッジ)に摺接して保持トレイ55の移動を案内する左右のエッジガイド76L、76Rと、保持トレイ55が記録実行領域51に位置している時に保持トレイ55の裏面55bと対向する搬送案内部39と、保持トレイ55がセットポジション53に位置しているときに保持トレイ55の裏面55bを支持する排出用スタッカ47とを備えることによって構成されている。
【0045】
移動機構59は、保持トレイ55の後端部90に対して回動自在に接続されている左右一対のガイドアーム74L、74Rを備えており、これらガイドアーム74L、74Rが左右一対のガイドレール77L(図3において一方は不図示)によってその移動が案内されるようになっている。
【0046】
また、保持トレイ55の搬送方向Aとこの搬送方向Aと反対方向の戻し方向Dの移動は、搬送用ローラー34に加えて、補助搬送機構67によって実行されている。補助搬送機構67は、格納ポジション54に位置している保持トレイ55を記録実行開始ポジション60に受け渡すまでの移動と、記録実行開始ポジション60に位置している保持トレイ55を格納ポジション54に戻して格納するまでの移動を担っている。
【0047】
尚、補助搬送機構67としては、ラック・ピニオン機構が一例として適用でき、本実施例では、図に示したように、保持トレイ55の表面55aにおける向かって右側の後部コーナー部近くにラック68を、ローラー駆動軸35aの動力を伝達するギヤ輪列66の終端部にラック68と噛み合うピニオン69をそれぞれ配設した構成になっている。
【0048】
図8は、本実施形態のインクジェットプリンター1の電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態のインクジェットプリンター1は、全体の動作を制御する制御装置200を備えている。制御装置200には、インクジェットプリンター1の動作に関する各種情報を入力する入力装置201と、インクジェットプリンター1の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置202とが接続されている。また、制御装置200には、上述した給送装置3、記録装置4、搬送装置5、排出装置6、駆動モーター7およびキャリッジモーター203等が電気的に接続されており、これらを電気的に制御することによって、インクジェットプリンター1全体の動作を制御する。
【0049】
そして、本実施形態においては、記憶装置202に搬送駆動ローラー35の回転量を変数として、搬送駆動ローラー35の回転速度や保持トレイ55の搬送位置等を算出するための演算式が記憶されている。また、保持トレイ55の傾斜面91が搬送用ローラー34のニップ点に至るまでの回転量などを予め把握しておき、これらのデータに基づいて、保持トレイ55の搬送位置を算出し、保持トレイ55の傾斜面91が搬送用ローラー34(排出用ローラー43)のニップ点に至った際に、搬送駆動ローラー35(排出駆動ローラー44)の回転駆動を制御する。本実施形態では、搬送駆動ローラー35の回転量を減少させるように駆動制御を行うことで、保持トレイ55の搬送方向後端側においてその送り量を補正する。
【0050】
[インクジェットプリンターの動作]
次に、本実施形態のインクジェットプリンター1は軟質被記録材Pおよび硬質被記録材Qに対して記録動作を実行可能であるが、ここでは、硬質被記録材Qに対する記録動作について詳しく説明する。図7は、インクジェットプリンター1の動作を示すフローチャート、図8は、インクジェットプリンター1の動作を説明するための説明図である。また、適宜図2〜図4を参照する。
【0051】
インクジェットプリンター1は、図7に示すように、保持トレイ55を格納ポジション54(図2)からセットポジション53(図4)へ搬送し(ステップS1)、保持トレイ55をセットポジション53(図4)から記録実行開始ポジション60(図3)へ搬送し(ステップS2)、保持トレイ55に対する記録処理を実行し(ステップS3)、保持トレイ55の搬送位置を検出し(ステップS4)、保持トレイ55の送り量の補正を実行し(ステップS5)、保持トレイ55を記録実行終了ポジション61(図3)からセットポジション53(図4)に搬送する(ステップS6)。
【0052】
以下に、インクジェットプリンターの動作を(1)保持トレイの格納時、(2)被記録材セット時、(3)記録開始時、(4)記録終了時に分けて説明する。
(1)格納時(図2)
保持トレイ55が格納ポジション54に位置している場合には、図示のように下部経路構成部材62の後部スペースにおいて左右のガイドアーム74L、74Rが上下に重ね合わされたコンパクトな姿勢で収納されている。
【0053】
(2)被記録材セット時(図3)
そして、制御装置200が硬質被記録材Qに対する記録動作を実行すると、補助搬送機構67及び搬送用ローラー34によって、保持トレイ55が格納ポジション54からセットポジション53に移動される(ステップS1)。すなわち、保持トレイ55の表面55aのラック68にローラー駆動軸35aの動力がギヤ輪列66及びピニオン69を介して伝達されると、保持トレイ55は前方(搬送方向下流側)への移動を開始する。そして、保持トレイ55の先端縁80aが搬送用ローラー34のニップ点に至ると、補助搬送機構67からの動力伝達が終了し、保持トレイ55は搬送用ローラー34からの動力伝達が開始されてセットポジション53に至る。
なお、記録の実行が終了した硬質被記録材Qを保持トレイ55から取り出す場合も同様に、移動ストローク分一杯に前方へと引き出される。
【0054】
(3)記録開始時(図3)
そして、ユーザーによって保持トレイ55のセット凹部71に硬質被記録材Qがセットされると、そのセットされた保持トレイ55は搬送用ローラー34によって戻され、図4、図8(a)の記録実行開始ポジション60に配置される(ステップS2)。次いで、搬送用ローラー34による搬送力によって保持トレイ55は、記録ヘッド42と対向する搬送経路に挿入されてさらに搬送方向Aに向けて搬送される。このとき、保持トレイはその裏面側に接する搬送駆動ローラー35と、表面側に接する搬送従動ローラー46とによって挟持されながら搬送される。搬送されるのと同時に幅方向(搬送方向に直交する方向)に往復移動するキャリッジ40の往復動作によって上方から硬質被記録材Qの被記録面の全幅に亘って記録ヘッド42から各色のインクが吐出されて、所望の記録が開始される(ステップS3)。
【0055】
図8(b)に示すように、硬質被記録材Qに対して記録を実行している間、制御部200は搬送用ローラー34による保持トレイ55の搬送位置を検出する(ステップS4)。そして、図8(c)に示すように、保持トレイ55の傾斜領域A3が搬送用ローラー34のニップ点に到達したことが判明すると、制御装置200は、搬送駆動ローラー35の搬送力(回転量)を制御し、搬送用ローラー34による保持トレイ55の送り量を補正する(ステップS5)。ここでは、図8(b)から図8(c)に示すように少なくとも上記ニップ点を傾斜領域A3が通過するまで回転制御を行う。
【0056】
この場合、所定のトルクを駆動モーター7に与えることにより、搬送駆動ローラー35の回転量(搬送力)を調整する。具体的には、搬送駆動ローラー35の回転数を少なくして、後端部90の傾斜面91によって保持トレイ55が搬送方向へ押し出される現象に抗するトルクを与えるようにする。このように、保持トレイ55の表面55a上に設定された平面領域A1と傾斜領域A3とで保持トレイ55の送り量を変化させる。
【0057】
本実施形態では、平面領域A1と傾斜領域A3との境界を境にして、平面領域A1を搬送する場合と傾斜領域A3を搬送する場合とで搬送駆動ローラー35の回転制御を行う。つまり、保持トレイ55の平面領域A1と傾斜領域A3との境界gが搬送用ローラー34のニップ点に到達した際に、搬送駆動ローラー35の回転量を減少させて送り量の補正を行う。また、傾斜領域A3(境界g)に差し掛かる直前から搬送駆動ローラー35の回転制御を行うようにしてもよい。
【0058】
また、搬送用ローラー34と排出用ローラー43とが同一の駆動モーター7によって連動する構成になっている。このため、制御装置200は、排出用ローラー43の排出駆動ローラー44に対しても上記搬送駆動ローラー35に付与するトルクと同様のトルクを付与することによって排出駆動ローラー44の回転量(搬送力)を調整する。
【0059】
なお、保持トレイ55を使用するのは硬質の被記録材Qの被記録面に記録を実行する場合であるから、図3に示したように、記録開始前に、記録ヘッド42とプラテン38との間のプラテンギャップPGを図示しない自動ギャップ調整装置を作動させて上方に拡大し、硬質被記録材Q用のプラテンギャップPGに設定される。
【0060】
(4)記録終了時(図3)
そして、図3に示したように、保持トレイ55が記録実行終了ポジション61まで搬送されると、硬質の被記録材Qの被記録面に対する記録実行が終了する。図3の破線で示す保持トレイ55の先端部80の位置は記録実行終了ポジション61に位置している状態である。
【0061】
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンター1では、保持トレイ55の後端部において、搬送用ローラー34で保持トレイ55を搬送する際の送り量を補正している。
通常、搬送駆動ローラー35および搬送従動ローラー36の少なくとも一方には、他方のローラー側へ付勢力が付与されており、これら一対のローラー35,36によって保持トレイ55を挟持しながら搬送するようになっている。このため、両ローラー35,36のニップ点に保持トレイ55の後端部90、すなわち後下がりに傾斜した傾斜面91が差し掛かると、両ローラー35,36の挟持力によって保持トレイ55が搬送方向へ向かう付勢力を受けることになる。このため、保持トレイ55の後端においては、その搬送速度が上昇する、所謂「蹴飛ばし」という現象が発生して送り量が変化してしまう。
【0062】
また、本実施形態の保持トレイ55は搬送方向に短寸とされていることから、この搬送方向において、記録ヘッド42による記録位置と搬送用ローラーのニップ点との間隔よりも、保持トレイ55の表面55a上に設定された平面領域A1と傾斜領域A3との間隔の方が短くなっている。このため、硬質被記録材Qに対する記録実行動作が終了する前に、保持トレイ55の傾斜領域A3(後端部90の傾斜面91)が搬送用ローラー34のニップ点に至ることで、上記蹴飛ばし現象が発生することになり、記録処理が良好に行えないと言う問題が生じていた。
【0063】
そこで本実施形態では、記録実行中、保持トレイ55の傾斜領域A3(後端部90の傾斜面91)が搬送用ローラー34のニップ点に差し掛かる際、搬送駆動ローラー35の搬送力(回転量)を制御して、搬送中の保持トレイ55の送り量を補正することとした。ここでは、搬送用ローラー34のニップ点に保持トレイ55の傾斜領域A3(後端部90)が到達した場合に、上述したような蹴飛ばし現象に抗するトルクを駆動モーター7に与えることにより、搬送駆動ローラー35の回転量(搬送力)を小さくするように調整している。このようにして、保持トレイ55の表面55a上に設定された平面領域A1と傾斜領域A3との間で保持トレイ55の送り量が一定になるように送り量を補正する。
【0064】
また、本実施形態においては、搬送用ローラー34と排出用ローラー43とが同一の駆動モーター7によって連動する構成になっている。このため、制御装置200は、排出用ローラー43の排出駆動ローラー44に対しても、上記搬送駆動ローラー35に付与するトルクと同様のトルクを付与することによって排出駆動ローラー44の回転量(搬送力)を小さくするように調整し、送り量を補正する。
【0065】
このように、保持トレイ55の平面領域A1と傾斜領域A3とで搬送駆動ローラー35の回転量を変化させて送り量の補正を行うことにより、搬送中の保持トレイ55の送り量の変動を抑さえて一定化することができる。これにより、被記録面に、スジ、ムラ、白色あるいは黒色のバンディングが生じるのを防止することが可能となり、画質が明瞭になる。また、保持トレイ55の送り量が正確になることで、保持トレイ55の中心位置検出精度の向上が図れるため、さらに良好な記録処理が行える。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、上記実施形態においては、搬送駆動ローラー35の回転量などから保持トレイ55の搬送位置を検出することとしたが、別途検出手段を設けても良い。例えば、撮像手段などを設けて、保持トレイ55の平面領域A1と傾斜領域A3との境界位置を撮像することによって、搬送位置を検出するものとしても良い。
【符号の説明】
【0068】
1…インクジェットプリンター(記録装置)、34…搬送用ローラー、35…搬送駆動ローラー(駆動ローラー)、36…搬送従動ローラー(従動ローラー)、42…記録ヘッド55…保持トレイ、55b…裏面、55a…表面、200…制御装置、71…セット凹部(保持部)、Q…被記録材、A1…平面領域、A3…傾斜領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドと対向する搬送経路に挿入されるとともにその表面に被記録材を保持可能とされ、前記被記録材を水平に保持可能な平面領域と、搬送方向後端側に設けられ後端縁に向かうに従い裏面側へと傾斜する傾斜領域と、を有する保持トレイと、
前記保持トレイの裏面に接する駆動ローラーと、
前記保持トレイの前記表面に接するとともに前記駆動ローラーとの間で前記保持トレイを挟持して搬送する従動ローラーと、
前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合と前記傾斜領域を搬送する場合とに応じて前記駆動ローラーを制御する制御装置と、を備えている
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記保持トレイの平面領域を搬送する場合よりも前記傾斜領域を搬送する場合の方が、回転量が減少するように前記駆動ローラーを制御する機能を有する
ことを特徴とする請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
前記保持トレイは、前記平面領域に前記被記録材を保持する保持部を有するとともに、
前記保持部の搬送方向後端から前記傾斜領域までの距離が、前記駆動ローラーと前記従動ローラーとのニップ点から前記記録ヘッドによる記録位置までの距離に比べて短い構成となっていることを特徴とする請求項1又は2記載の記録装置。
【請求項4】
記録ヘッドと対向する搬送経路上に挿入されるとともにその表面に被記録材を保持可能とされ、前記被記録材を水平に保持可能な平面領域と、搬送方向後端側に設けられ後端縁に向かうに従い裏面側へと傾斜する傾斜領域とを有する保持トレイを、前記保持トレイの裏面に接する駆動ローラーと、前記保持トレイの前記表面に接する従動ローラーとの間で挟持して搬送する際、
前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合と前記傾斜領域を搬送する場合とに応じて前記搬送駆動ローラーの駆動を制御することを特徴とする駆動制御方法。
【請求項5】
前記保持トレイの前記平面領域を搬送する場合よりも前記傾斜領域を搬送する場合の方が、回転量が減少するように前記駆動ローラーを制御する
ことを特徴とする請求項4記載の駆動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−51305(P2011−51305A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204595(P2009−204595)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】