説明

記録装置及び風洞試験方法

【課題】移動中の被測定体の物理量を測定し、当該測定された物理量を適切且つ効率よく記録する。
【解決手段】車両模型30の内部には、圧力メモリ50と記録装置60が設けられている。記録装置60は、第1の記録容量を有し、圧力メモリ50で測定された圧力のデータを第1の記録速度で記録する本体内蔵メモリを備えたデータロガー61と、データロガー61に接続され、且つ第1の記録容量より大きい第2の記録容量を有し、本体内蔵メモリに記録されたデータを第1の記録速度より小さい第2の記録速度で記録するマイクロSDカードを備えたSDカード部62とを有している。キャリッジ23には、電源部80と無線リレーインターフェイス部90の受信ユニット91が設けられている。走行装置の外部には、無線リレーインターフェイス部90の送信ユニット92が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動中の被測定体の物理量を記録する記録装置及び当該記録装置を用いた風洞試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両の軽量化や走行時の高速化が進められていることに伴い、鉄道車両の走行安全性を確保する観点から、強風時、特に横風に対する鉄道車両の空気力学特性を把握することが重要視されている。かかる空気力学特性を把握する上で、鉄道車両に作用する空気力の評価は、例えば鉄道車両の縮尺模型を用いた風洞試験で行われている。
【0003】
鉄道車両の横風に対する風洞試験において、この横風を鉛直方向に一様な流れの一様流と仮定すると、車両模型を静止させた状態で試験を行っても、横風の風速と風向を調整することで、車両模型を走行させた状態と物理的に等価な試験を行うことができる。一方、実際には地面境界層の影響を考慮する必要があり、一様流とは状況が異なる。すなわち、自然風には地面からの高さに応じた速度分布が存在する。かかる場合に車両模型を静止させた状態で試験を行うと、鉛直方向に風速と風向が変化するねじれた横風を再現する必要がある。しかしながら、このような横風を再現するのは現実的には困難である。そこで、より厳密に近い状況で空気力を評価するため、車両模型を走行させた状態で風洞試験を行う必要がある。
【0004】
また、風洞試験では、上記空気力の評価として車両模型に作用する圧力などの物理量が測定されて記録される。この記録装置としては、例えばデータロガー等が用いられる。例えば特許文献1には、内部メモリを備えたデータロガーと、さらにデータロガーに接続されたリムーバブルメディアとを備えたものが提案されている。かかる場合、測定された物理量のデータは、データロガーの内部メモリを介して、リムーバブルメディアに記録される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−30775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された内部メモリとリムーバブルメディアには、それぞれフラッシュメモリ等の不揮発性メモリが使用されている。かかる不揮発性メモリの記録速度は遅いのに対し、上述した車両模型を走行させた状態での風洞試験では、大量のデータを短時間で記録しなければならない。このため、従来の記録装置では、移動中の被測定体の物理量を適切に記録することができない場合があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、移動中の被測定体の物理量を測定し、当該測定された物理量を適切且つ効率よく記録することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、移動中の被測定体の物理量が測定され、当該測定された物理量を記録する記録装置であって、第1の記録容量を有し、前記測定された物理量のデータを第1の記録速度で記録する揮発性メモリを備えた第1の記録部と、前記第1の記録部に接続され、且つ第1の記録容量より大きい第2の記録容量を有し、前記揮発性メモリに記録されたデータを前記第1の記録速度より小さい第2の記録速度で記録する不揮発性メモリを備えた第2の記録部と、を有し、前記第1の記録部と前記第2の記録部は、被測定体に設けられていることを特徴としている。なお、例えば第1の記録容量は2メガバイトであり、第2の記録容量は2ギガバイトである。また、例えば第1の記録速度は234キロバイト/秒であり、第2の記録速度は22キロバイト/秒である。
【0009】
本発明によれば、移動中の被測定体の物理量のデータを第1の記録部の揮発性メモリに一時的に記録し、さらに当該揮発性メモリに記録されたデータを第2の記録部の不揮発性メモリに記録することができる。すなわち、例えば移動中の被測定体の物理量を測定する場合、当該被処理体の移動中に、物理量のデータを揮発性メモリに高速で記録できる。そして、物理量の測定終了後に、揮発性メモリに記録されたデータを不揮発性メモリに記録できる。したがって、本発明の記録装置は物理量のデータを適切に記録することができる。しかも、不揮発性メモリは大きい記録容量を有するので、被測定体の物理量を測定する毎に、例えばコンピュータ等にデータを移す必要が無く、複数回のデータを記録することができる。したがって、本発明の記録装置は物理量のデータを効率よく記録することができる。
【0010】
前記第1の記録部は2層構造を有し、第1層目の基板上には、前記揮発性メモリが配置され、第2層目の基板上には、外部から供給される電圧を安定化させる電圧調整部が配置されていてもよい。
【0011】
前記被測定体は、鉄道車両を所定の縮尺比率で小型化した模型であり、前記第1の記録部と前記第2の記録部は、前記被測定体の内部に設けられていてもよい。
【0012】
別な観点による本発明は、前記記録装置を用いた風洞試験方法であって、被測定体には、移動中の被測定体の物理量を測定する物理量センサが設けられ、送風されている気体中に被測定体を移動させ、当該気体を受けた被測定体の物理量を前記物理量センサによって測定する第1の工程と、前記測定された物理量のデータを前記揮発性メモリに一時的に記録する第2の工程と、前記揮発性メモリに記録されたデータを転送して前記不揮発性メモリに記録する第3の工程と、を有することを特徴としている。
【0013】
前記第1の工程と前記第2の工程は、被測定体の移動中に行われ、前記第3の工程は、被測定体の停止中に行われてもよい。
【0014】
移動中の被測定体の進行方向は、平面視において、前記気体に対して任意の方向をとることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動中の被測定体の物理量を測定し、当該測定された物理量を適切且つ効率よく記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】風洞試験装置の構成の概略を示す平面図である。
【図2】風洞試験装置の構成の概略を示す側面図である。
【図3】走行装置の構成の概略を示す平面図である。
【図4】走行装置の構成の概略を示す側面図である。
【図5】車両模型の構成を模式的に示した説明図である。
【図6】圧力センサ、記録装置、電源部及び無線リレーインターフェイス部の関係を模式的に示した説明図である。
【図7】データロガーの内部構成の概略を示す側面図である。
【図8】SDカード部の構成の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本実施の形態では、本発明にかかる記録装置を用いた風洞試験方法について説明する。
【0018】
本実施の形態の風洞試験は、図1及び図2に示す風洞試験装置1を用いて行われる。風洞試験装置1は、風洞2と開放型の風洞測定部3を有している。風洞2の風洞測定部3側の端部には、気体として例えば空気を吹き出す吹出口2aが形成されている。吹出口2aは、例えば側面視において略矩形状を有している。そして、吹出口2aから風洞測定部3に向けて気体が吹き出される。
【0019】
風洞測定部3において、風洞2の吹出口2aの下流側(図中のY方向負方向側)には、地面を模擬する地面板10が設けられている。また、地面板10は、吹出口2aの下端と同じ高さに配置されている。地面板10は、例えば平面視において略矩形状を有している。また、地面板10において吹出口2aに対向する一辺は、少なくとも吹出口2aの幅より大きい。したがって、吹出口2aから吹き出される気体は、すべて地面板10上を流れるようになっている。
【0020】
地面板10の中央付近には、後述する走行装置20を回動させるためのターンテーブル11が配置されている。ターンテーブル11は、例えば平面視において円形状を有している。ターンテーブル11は走行装置20と連結され、駆動装置(図示せず)によって、ターンテーブル11と走行装置20はそれぞれ回動可能に構成されている。なお、この回動角度は、試験条件に合わせて任意に設定することができる。
【0021】
地面板10の下方には、車両模型を走行させる走行装置20が設けられている。走行装置20は、水平方向に所定の長さ延伸している。また、走行装置20は、上述したようにターンテーブル11によって回動自在に構成されている。なお、走行装置20の所定の長さは、風洞試験装置1を製造する際に任意に設定することができる。
【0022】
走行装置20は、図3に示すように平行に延伸する一対のレール21、21を有している。一対のレール21、21間には、当該レール21に平行してタイミングベルト22が設けられている。さらにタイミングベルト22上には、車両模型を支持するためのキャリッジ23が設けられている。走行装置20(レール21)の両端部には、図1及び図2に示すように例えばモータを内蔵した駆動部24、24が設けられている。この駆動部24、24によって、タイミングベルト22が駆動し、当該タイミングベルト22上のキャリッジ23がレール21に沿って移動可能になっている。
【0023】
なお、走行装置20における駆動部24の駆動と停止のタイミング、さらにキャリッジ23の速度や加速度などの走行パターンの設定は、例えば走行装置20の外部に設けられたコンピュータ(図示せず)によって行われる。このとき、駆動部24のエンコーダ出力で、キャリッジ23の位置と走行速度をコンピュータに記録することができ、走行パターンを認識することができる。
【0024】
キャリッジ23の上方には、図4に示すように支柱25を介して、被測定体としての車両模型30が固定されている。すなわち、キャリッジ23と車両模型30は、レール21に沿って一体に移動可能になっている。また、走行するキャリッジ23への気体の流れへの影響を回避し、地面を模擬する地面板10上を車両模型30が走行できるようにするため、車両模型30は地面板10の上方に配置され、キャリッジ23は地面板10の下方に配置されている。そして、地面板10(ターンテーブル11)には、支柱25が通過できるようにスリット10aが形成されている。
【0025】
そして、上述したように走行装置20がターンテーブル11によって回動可能に構成されていることで、図1に示すように平面視において、レール21に沿って移動する車両模型30の進行方向と、風洞2の吹出口2aの吹出方向(気体の進行方向)とは異なる方向になる。すなわち、車両模型30は横風を受ける。そして、例えば進行中の車両模型30が真横から横風を受けると、当該横風によって車両模型30に作用する圧力は最大となる。
【0026】
次に、被測定体としての車両模型30の構成について説明する。車両模型30は、図5に示すように一両相当の鉄道車両を所定の縮尺比率、例えば1/60〜1/40で小型化した模型である。また、車両模型30は、鉄道車両を単純化した模型であり、直方体形状を有している。本実施の形態では、縮尺比率が1/60の場合において、車両模型30の長さLが325mm、高さHが44mm、幅Wが46.7mmである。なお、本実施の形態の車両模型30は鉄道車両を単純化した模型であるが、実際の鉄道車両に近い形状を有する模型を用いてもよい。かかる場合、風洞試験において、鉄道車両の先頭部形状や屋根形状、さらに床下機器の影響を考慮することができる。また、本実施の形態の車両模型30は単車であるが、複数の車両を有する編成車両を用いてもよい。
【0027】
風洞試験時、車両模型30は、車両模型30の進行方向(図5中の実線矢印)と異なる方向から吹き出される気体(図5の点線矢印)を受ける。そして、車両模型30の側面には、この気体により車両模型30に作用する物理量、例えば圧力を測定するための圧力孔40が形成されている。圧力孔40は、複数、例えば12か所に形成されている。また、これら複数の圧力孔40は、車両模型30の高さ方向の中心位置に形成されている。なお、本実施の形態の圧力孔40は12か所に形成されているが、圧力孔40の数はこれに限定されない。例えば車両模型30の高さ方向や、車両模型30の上面あるいは下面にも複数の圧力孔40が形成されていてもよい。
【0028】
次に、風洞試験で用いられる圧力センサ及び記録装置について説明する。図6に示すように車両模型30の内部には、物理量センサとしての圧力センサ50が設けられている。圧力センサ50は、車両模型30の側面に形成された圧力孔40に対応して設けられ、本実施の形態では12個設けられている。各圧力センサ50は、圧力孔40から流入する気体によって車両模型30の側面が受ける圧力を測定することができる。なお、本実施の形態では、車両模型30の内部において12個の圧力センサ50が占めるスペースを縮小するため、4個の圧力センサ50を1枚の基板(図示せず)上に配置し、当該基板3枚を車両模型30の内部に設けている。また、圧力センサ50を作動させるための電圧は、後述するデータロガー61から供給される。
【0029】
記録装置60は、第1の記録部としてのデータロガー61と、第2の記録部としてのSDカード部62とを有している。データロガー61は、12個の圧力センサ50と接続され、当該圧力センサ50で測定された圧力のデータを記録する。SDカード部62は、データロガー61と接続され、当該データロガー61に記録されたデータを記録する。これらデータロガー61とSDカード部62は、車両模型30の内部に配置されている。すなわち、データロガー61とSDカード部62は、車両模型30の内部に配置できるように小型化されている。
【0030】
データロガー61は、直方体形状のカバー(図示せず)を有している。車両模型30の内部にデータロガー61が配置されるようにするため、カバーは例えば長さが98mm、高さが25mm、幅が29mmの大きさを有している。このカバーの内部のデータロガー61は、図7に示すように2層構造を有している。データロガー61には、鉛直方向上から順に基板63、基板64、基板65が積層されて配置されている。これら基板63〜65は、基板63、64の間及び基板64、65の間にそれぞれ設けられた支持部材66によって支持されている。そして、基板63と基板64との間及び基板64と基板65との間に、それぞれ所定の空間が形成されている。
【0031】
基板64は、所定の回路が形成された回路基板である。基板64上には、揮発性メモリとしての本体内蔵メモリ67が配置されている。本体内蔵メモリ67は、第1の記録容量としての2メガバイトの記録容量を有しており、圧力センサ50で測定された圧力のデータを記録する。また、本体内蔵メモリ67は、第1の記録速度としての234キロバイト/秒の記録速度で圧力のデータを記録する。さらに、基板64上には、CPU(Central Processing Unit)68と、データロガー61とSDカード部62と接続するための通信回路69等が形成されている。
【0032】
基板65は、電源ボードである。基板65上には、外部から供給される電圧を安定化させる電圧供給部70が配置されている。そして、電圧供給部70から基板64上の本体内蔵メモリ67、CPU68、通信回路69等の回路に、安定した電圧が供給される。
【0033】
SDカード部62は、図8に示すように基板71を有している。基板71上には、不揮発性メモリとしてのマイクロSDカード72が配置されている。マイクロSDカード72は、第1の記録容量より大きい第2の記録容量としての2ギガバイトの記録容量を有しており、本体内蔵メモリ67に記録されたデータを記録する。また、マイクロSDカード72は、第1の記録速度より小さい第2の記録速度としての22キロバイト/秒の記録速度でデータを記録する。さらに、基板71上には、SDカード部62とデータロガー61を接続するためのコネクタ73が形成されている。
【0034】
なお、マイクロSDカード72に記録されたデータは、走行装置20の外部に設けられたコンピュータ(図示せず)に記録される。このコンピュータは、例えば予め用意された、バイナリファイルをテキストファイルに変換するファイルコンバータを有し、マイクロSDカード72に記録されたDATファイルを読み込み、CSVファイルに変換する。
【0035】
上述したデータロガー61には、図6に示すように当該データロガー61に所定の電圧を供給するための電源部80がさらに接続されている。
【0036】
また、データロガー61には、当該データロガー61における圧力のデータの記録の開始及び停止を指示するための無線リレーインターフェイス部90が接続されている。無線リレーインターフェイス部90は、受信ユニット91と送信ユニット92を有している。受信ユニット91はデータロガー61に接続され、送信ユニット92は走行装置20の外部に設けられている。受信ユニット91と送信ユニット92間の通信は電波方式で行われる。そして、送信ユニット92のボタン操作により、受信ユニット91を介して、データロガー61におけるデータの記録の開始及び停止のトリガがかけられる。
【0037】
なお、電源部80と受信ユニット91は、キャリッジ23に設けられる。そして、電源部80と受信ユニット91をデータロガー61と接続するための配線は、それぞれ模型車両30の底面から引き出され、支柱25を介して、キャリッジ23まで配設される。
【0038】
次に、以上のように構成された風洞試験装置1を用いて行われる車両模型30に対する風洞試験方法について説明する。
【0039】
先ず、ターンテーブル11を回動させることにより、風洞2の吹出口2aから吹き出される気体が流れる方向に対して、所定の角度まで走行装置20を回動させる。次に、風洞2の吹出口2aから風洞測定部3に対して気体を流す。また、走行装置20において、レール21の一端部から他端部に向けて、キャリッジ23及び車両模型30を移動させる。このとき、車両模型30は、レール21の一端部から地面板10(ターンテーブル11)まで走行する間に所定の速度、例えば0.1m/秒〜10m/秒まで加速する。そして、車両模型30が少なくとも地面板10(ターンテーブル11)上を走行する際、すなわち吹出口2aから吹き出される気体の下流側を走行する際に、車両模型30が所定の速度で走行する。その後、地面板10(ターンテーブル11)を過ぎてからレール21の他端部まで走行する間に減速して停止する。したがって、車両模型30が定常とみなせる範囲で気体を受けている際には、当該車両模型30は所定の一定速度で走行している。
【0040】
そして、車両模型30が地面板10上を所定の速度で走行中に、吹出口2aから吹き出された気体によって、車両模型30の側面が受ける圧力を圧力センサ50で測定する。なお、吹出口2aから吹き出された気体は、地面板10上を流れる。そうすると、本風洞試験では、地面境界層の影響を考慮することができ、すなわち地面からの高さに応じた速度分布を考慮することができる。
【0041】
圧力センサ50で測定された圧力のデータは、記録装置60に記録される。具体的には、車両模型30が所定の速度で走行中に、圧力センサ50で測定された圧力のデータをデータロガー61の本体内蔵メモリ67に一時的に記録する。データロガー61で圧力のデータの記録を開始するタイミングは、無線リレーインターフェイス部90の送信ユニット92のボタン操作により、受信ユニット91を介して、データロガー61におけるデータの記録の開始のトリガがかけられる。そして、車両模型30が地面板10上を過ぎて減速すると、データロガー61における圧力のデータの記録を停止する。この記録の停止するタイミングも、送信ニット92のボタン操作によってトリガがかけられる。このように、データロガー61では、地面板10上を所定の速度で走行する車両模型30にかかる圧力のデータを記録する。なお、風洞試験の条件によっては、圧力のデータの記録可能な時間が限られている場合がある。例えば車両模型30が低速で走行する場合、この所定の時間において圧力のデータが記録され、必ずしも車両模型30が地面板10上を過ぎて減速した際に圧力のデータの記録を停止するとは限らない。
【0042】
ここで、上述したように本体内蔵メモリ67は、第1の記録容量である2メガバイトを有するので、圧力センサ50が12個あって12チャンネルの圧力のデータが測定されても、これら圧力のデータ全てを記録することができる。また、本体内蔵メモリ67は、圧力センサ50からの圧力のデータを第1の記録速度である234キロバイト/秒で記録することができるので、これら圧力のデータ全てを適切に記録することができる。
【0043】
こうしてレール21の一端部から他端部まで車両模型30を走行させて、当該車両模型30に対する計測を終了した後、本体内蔵メモリ67に記録されたデータは、SDカード部62に転送され、当該SDカード部62のマイクロSDカード72に記録される。すなわち、このマイクロSDカード72へのデータの記録は、計測が終了した後に行われる。なお、マイクロSDカード72へのデータの記録は、車両模型30の停止中に加えて、データロガー61における圧力のデータの記録を停止後、車両模型30が地面板10上を過ぎて減速走行中に行ってもよい。
【0044】
ここで、上述したようにマイクロSDカード72は、第1の記録容量より大きい第2の記録容量である2ギガバイトを有するので、例えば車両模型30に対して複数回の風洞試験を行っても、これら試験で測定される圧力のデータ全てを記録することができる。また、マイクロSDカード72は、本体内蔵メモリ67のデータを第1の記録速度より小さい第2の記録速度である22キロバイト/秒で記録するため、所定の速度で走行中の車両模型30で計測される圧力のデータをリアルタイムで記録することはできない。しかしながら、本実施の形態では、本体内蔵メモリ67の圧力のデータを、車両模型30の風洞試験の終了後に記録するので、これら圧力のデータをすべて適切に記録することができる。
【0045】
そして、マイクロSDカード72に所定量のデータが記録されると、当該マイクロSDカード72内のデータは、走行装置20の外部に設けられたコンピュータに記録される。コンピュータ内では、マイクロSDカード72に記録されたDATファイルが読み込まれ、ファイルコンバータを用いてCSVファイルに変換される。
【0046】
以上の実施の形態によれば、移動中の車両模型30の圧力のデータをデータロガー61の本体内蔵メモリ67に一時的に記録し、さらに当該本体内蔵メモリ67に記録されたデータをSDカード部62のマイクロSDカード72に記録することができる。すなわち、例えば移動中の車両模型30の圧力を測定する場合、当該車両模型30の移動中に、圧力のデータを本体内蔵メモリ67に高速で記録できる。そして、圧力の測定終了後に車両模型30の停止中に、本体内蔵メモリ67に記録されたデータをマイクロSDカード72に記録できる。したがって、本実施の形態の記録装置60は圧力のデータを適切に記録することができる。しかも、マイクロSDカード72は大きい記録容量を有するので、移動中の車両模型30の圧力を測定する毎に、例えばコンピュータ等にデータを移す必要が無く、複数回のデータを記録することができる。したがって、本実施の形態の記録装置60は圧力のデータを効率よく記録することができる。
【0047】
また、データロガー61は2層構造を有するので、内部に本体内蔵メモリ67、CPU68、通信回路69等の回路や電圧供給部70が配置されていても、データロガー61を小型化することができる。同様に、SDカード部62において、不揮発性メモリとして小型のマイクロSDメモリ72が用いられるので、SDカード部62も小型化することができる。したがって、これらデータロガー61とSDカード部62を車両模型30の内部に配置することができ、データロガー61とSDカード部62において圧力センサ50で測定されるデータを適切に記録することができる。
【0048】
以上のように本実施の形態では、記録容量は小さいが記録速度は大きい本体内蔵メモリ67と、記録容量は大きいが記録速度は小さいマイクロSDカード72とを併用することによって、移動中の車両模型30の圧力のデータを適切に記録することができる。しかも、データロガー61とSDカード部62を小型化することができる。したがって、本実施の形態の記録装置61は、風洞試験のように小型化した車両模型30を用いる場合に特に有用である。
【0049】
また、吹出口2aから吹き出された気体は、平面視において、移動中の車両模型30の進行方向から異なる方向に流される。すなわち、本実施の形態では、自然風の横風を再現することができる。しかも、吹出口2aから吹き出された気体は、地面板10上を流れる。そうすると、本風洞試験では、地面境界層の影響を考慮することができ、すなわち地面からの高さに応じた速度分布を考慮することができる。したがって、本実施の形態によれば、風洞試験を適切に行うことができ、車両模型30に作用する空気力を適切に評価することができる。
【0050】
以上の実施の形態において、走行装置20のレール21に複数の反射板(図示せず)を設け、車両模型30にレーザセンサ(図示せず)を設けてもよい。かかる場合、レーザセンサで車両模型30の位置と走行速度を読み取ることができる。そして、これら車両模型30の位置及び走行速度を、車両模型30の圧力と同時に記録することにより、当該圧力と位置及び走行速度とを対応付けることができる。
【0051】
以上の実施の形態では、電源部80と受信ユニット91はキャリッジ23に設けられていていたが、車両模型30の内部に設けられていてもよい。また、記録装置60は車両模型30の内部に設けられていたが、キャリッジ23に設けられていてもよい。なお、圧力センサ50、記録装置60、電源ユニット80及び受信ユニット91がすべて車両模型30内に配置されるのが最も好ましい。
【0052】
また、以上の実施の形態では、車両模型30の物理量として圧力を測定する場合について説明したが、他の物理量を測定して記録してもよい。例えば加速度、空気力等も測定して記録してもよい。
【0053】
また、以上の実施の形態では、本実施の形態にかかる記録装置60を用いた風洞試験について説明したが、当該記録装置60は、移動中の被測定体の物理量を測定する他の試験に広く用いることができる。例えば車両の衝突実験等にも用いることができる。
【0054】
また、以上の実施の形態の風洞試験では、車両模型30が平地を走行する場合について説明したが、例えば車両模型30が橋梁や築堤上を走行する場合など、走行条件を変更した風洞試験にも本発明を適用することができる。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、移動中の被測定体の物理量を記録する際、特に風洞試験において、移動中の被測定体の物理量を記録する際に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 風洞試験装置
2 風洞
2a 吹出口
3 風洞測定部
10 地面板
10a スリット
11 ターンテーブル
20 走行装置
21 レール
22 タイミングベルト
23 キャリッジ
24 駆動部
25 支柱
30 車両模型
40 圧力孔
50 圧力センサ
60 記録装置
61 データロガー
62 SDカード部
63〜65 基板
66 支持部材
67 本体内蔵メモリ
68 CPU
69 通信回路
70 電圧供給部
71 基板
72 マイクロSDカード
73 コネクタ
80 電源部
90 無線リレーインターフェイス部
91 受信ユニット
92 送信ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動中の被測定体の物理量が測定され、当該測定された物理量を記録する記録装置であって、
第1の記録容量を有し、前記測定された物理量のデータを第1の記録速度で記録する揮発性メモリを備えた第1の記録部と、
前記第1の記録部に接続され、且つ第1の記録容量より大きい第2の記録容量を有し、前記揮発性メモリに記録されたデータを前記第1の記録速度より小さい第2の記録速度で記録する不揮発性メモリを備えた第2の記録部と、を有し、
前記第1の記録部と前記第2の記録部は、被測定体に設けられていることを特徴とする、記録装置。
【請求項2】
前記第1の記録部は2層構造を有し、
第1層目の基板上には、前記揮発性メモリが配置され、
第2層目の基板上には、外部から供給される電圧を安定化させる電圧調整部が配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記被測定体は、鉄道車両を所定の縮尺比率で小型化した模型であり、
前記第1の記録部と前記第2の記録部は、前記被測定体の内部に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の記録装置を用いた風洞試験方法であって、
被測定体には、移動中の被測定体の物理量を測定する物理量センサが設けられ、送風されている気体中に被測定体を移動させ、当該気体を受けた被測定体の物理量を前記物理量センサによって測定する第1の工程と、
前記測定された物理量のデータを前記揮発性メモリに一時的に記録する第2の工程と、
前記揮発性メモリに記録されたデータを転送して前記不揮発性メモリに記録する第3の工程と、を有することを特徴とする、風洞試験方法。
【請求項5】
前記第1の工程と前記第2の工程は、被測定体の移動中に行われ、
前記第3の工程は、被測定体の停止中に行われることを特徴とする、請求項4に記載の風洞試験方法。
【請求項6】
移動中の被測定体の進行方向は、平面視において、前記気体に対して任意の方向であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の風洞試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88297(P2013−88297A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229349(P2011−229349)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(599032349)株式会社テス (15)
【Fターム(参考)】