説明

記録装置

【課題】加熱装置による加熱の影響を遮断して流体の温度コントロールを可能とする記録装置を提供する。
【解決手段】メディアMを支持する支持部材51と、支持部材51上のメディアMを加熱する赤外線ヒーター53と、支持部材51と赤外線ヒーター53との間で支持部材51上のメディアMにインクを噴射するインクジェットヘッド31と、を有するプリンター1であって、支持部材51上のメディアMに向けて気体を送風する送風口55を備える送風装置54と、インクジェットヘッド31を搭載して移動すると共に、送風口55から送風される気体の少なくとも一部を内側に取り込ませる筐体35を備えて、該筐体35の内側においてインクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間に上記気体が流通する気体層Gを形成するキャリッジ32と、を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に流体を噴射して画像や文字等を記録する記録装置の一つとして、インクジェット式プリンターが知られている。このインクジェット式プリンターにおいて、例えば、蒸発乾燥を必要とする水系顔料インク(流体)を用いる場合、記録媒体に噴射したインクを乾燥させるために、加熱装置を設ける必要がある。
【0003】
特許文献1には、インクジェットヘッドにより記録が行われた記録媒体の領域をハロゲンヒーターで輻射加熱することにより、記録媒体に着弾したインクを即時に乾燥させ、インクの凝集、滲み等を抑制して、高品質な印画を実現可能とさせる手段が開示されている。ハロゲンヒーター等の赤外線ヒーターは、記録媒体を背面側から熱伝導で加熱する形態と比べて熱的応答性に優れ、記録面を直接輻射加熱するので記録媒体の厚みによらずに適用でき、また、インク乾燥による皮膜形成後のエネルギー浸透性に優れるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−224460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来技術では、記録媒体を支持するプラテンと、プラテン上に支持された記録媒体を加熱する加熱装置である赤外線ヒーターとの間にインクジェットヘッドを配置して、プラテン上の記録媒体にインクを噴射する構成となっている。当該配置とする理由の一つには、赤外線ヒーターは、エネルギー効率の観点から加熱対象との距離が小さい程好ましい、ということがある。
【0006】
インクジェットヘッドを含むインクシステムにおいては、インクが増粘、固化することなく循環流動できる様な温度コントロールが必要である。しかしながら、プラテンと加熱装置との間にインクジェットヘッドを配置すると、インクジェットヘッドが加熱され、温度コントロールが効かなくなる様な大きな温度勾配が発生する場合がある。この温度勾配が発生すると、インクの粘度勾配も大きくなるため、インクの吐出不良の原因となる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、加熱装置による加熱の影響を遮断して流体の温度コントロールを可能とする記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、記録媒体を支持する支持部材と、上記支持部材上の上記記録媒体を加熱する加熱装置と、上記支持部材と上記加熱装置との間で上記支持部材上の上記記録媒体に流体を噴射する記録ヘッドと、を有する記録装置であって、上記支持部材上の上記記録媒体に向けて気体を送風する送風口を備える送風装置と、上記記録ヘッドを搭載して移動すると共に、上記送風口から送風される上記気体の少なくとも一部を内側に取り込ませる筐体を備えて、該筐体の内側において上記記録ヘッドと上記加熱装置との間に上記気体が流通する気体層を形成するキャリッジと、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、記録媒体に向けて気体を送風する送風装置の送風口をキャリッジが通過するときに、キャリッジの筐体内側に気体が取り込まれ、記録ヘッドと加熱装置との間に気体が流通して気体層が形成される。気体層においては、その気体の流れによって熱が滞ることはないため熱伝導が抑制され、加熱装置による加熱の影響をインクジェットヘッドの手前側で遮断することができる。
【0009】
また、本発明においては、上記キャリッジは、上記送風口に対向して開口する吸気口を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、送風口と吸気口が対向配置されるため、気体が所定の送風圧を維持したまま直接的に取り込まれ、気体層おいて良好な気体の流れが形成される。
【0010】
また、本発明においては、上記記録媒体を搬送する搬送装置を有しており、上記キャリッジは、上記記録媒体の搬送方向下流側に向いて開口する排気口を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、キャリッジの筐体内側を流通した気体が搬送方向下流側に排出されるため、排気口から排出された気流によって印字領域に影響を与えないようにすることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記送風口は、上記キャリッジの移動経路に沿って設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、キャリッジが他の位置へ移動した場合であっても、送風口から直接的にキャリッジの筐体内側に気体を取り込ませ、記録ヘッドと加熱装置との間に気体層を形成することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記加熱装置は、上記キャリッジの移動経路に沿って設けられた発熱部を有しており、上記キャリッジの移動経路において、上記送風口が設けられる範囲は、上記発熱部が設けられる範囲より大きいという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、キャリッジの移動経路において、送風口の範囲内であって、発熱部の範囲外に、キャリッジが位置するとき、発熱部から熱を受けることなく、送風口からの気体の送風によって冷却が効率よく行われる。
【0013】
また、本発明においては、上記キャリッジの筐体は、一方の面側が上記加熱装置に面し、他方の面側が上記気体層に面する放熱板を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、一方の面側が加熱装置によって加熱されても、放熱特性が高い放熱板は、他方の面側の気体層における気体の流れ及びキャリッジの移動によって発生する風等によって、受けた熱を効率よく放散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるプリンターを示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるキャリッジ及びプラテンヒーター部を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態におけるキャリッジを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態におけるキャリッジを示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態におけるキャリッジを示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるキャリッジの移動経路に関して送風口及び赤外線ヒーターの発熱部が設けられる範囲について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る記録装置の各実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る記録装置として、インクジェット式プリンター(以下、単にプリンターと称する)を例示する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態におけるプリンター1を示す構成図である。
プリンター1は、比較的大型のメディア(記録媒体)Mを扱うラージフォーマットプリンター(LFP)である。本実施形態のメディアMは、例えば塩化ビニル系フィルムから形成されている。
【0017】
図1に示すように、プリンター1は、ロール・ツー・ロール方式でメディアMを搬送する搬送部(搬送装置)2と、メディアMに対してインク(流体)を噴射して画像や文字等を記録する記録部3と、メディアMを加熱する加熱部4とを有する。これら各構成部は、本体フレーム5に支持されている。
【0018】
搬送部2は、ロール状のメディアMを送り出すロール21と、送り出されたメディアMを巻き取るロール22とを有する。搬送部2は、ロール21,22間の搬送経路においてメディアMを搬送する搬送ローラー対23を有する。また、搬送部2は、メディアMに張力を付与するテンションローラー25を有する。テンションローラー25は、揺動フレーム26に支持されている。
【0019】
記録部3は、搬送されるメディアMに対してインクを噴射するインクジェットヘッド(記録ヘッド)31と、インクジェットヘッド31を搭載して幅方向(図1において紙面垂直方向)に往復移動自在なキャリッジ32とを有する。インクジェットヘッド31は、複数のノズルを備え、メディアMとの関係で選択されて浸透乾燥や蒸発乾燥を必要とするインクを噴射可能な構成となっている。本実施形態のインクジェットヘッド31は、蒸発乾燥を必要とする水系顔料インクを噴射可能な構成となっている。
【0020】
加熱部4は、メディアMを加熱することによりインクをメディアMに速やかに乾燥定着させ、滲みやぼやけを防止して、画質を高める構成となっている。
加熱部4は、記録部3が設けられた位置よりも搬送方向上流側でメディアMを予熱するプレヒーター部41と、記録部3と対向する位置でメディアMを加熱するプラテンヒーター部42と、記録部3が設けられた位置よりも搬送方向下流側でメディアMを加熱するアフターヒーター部43とを有する。
【0021】
本実施形態では、プレヒーター部41におけるヒーター41aの加熱温度が、40℃に設定されている。また、本実施形態では、プラテンヒーター部42におけるヒーター42aの加熱温度が、ヒーター41aと同じく40℃(目標温度)に設定されている。また、本実施形態では、アフターヒーター部43におけるヒーター43aの加熱温度が、ヒーター41a,42aよりも高い50℃に設定されている。
【0022】
プレヒーター部41は、メディアMを常温から目標温度(プラテンヒーター部42における温度)に向けて徐々に昇温させることによって、インクの着弾時からの乾燥を速やかに促す構成となっている。
また、プラテンヒーター部42は、目標温度を維持した状態でインクの着弾をメディアMに受けさせて、インクの着弾時からの乾燥を速やかに促す構成となっている。
【0023】
また、アフターヒーター部43は、メディアMを目標温度よりも高い温度まで昇温させ、メディアMに着弾したインクのうち未だ乾燥していないものを速やかに乾燥させ、少なくともロール22で巻き取る前に、着弾したインクをメディアMに完全に乾燥定着させる構成となっている。
【0024】
続いて、本実施形態のキャリッジ32及びプラテンヒーター部42における特徴的な構成について説明する。
図2は、本発明の実施形態におけるキャリッジ32及びプラテンヒーター部42を示す構成図である。図3は、本発明の実施形態におけるキャリッジ32を示す斜視図である。図4は、本発明の実施形態におけるキャリッジ32を示す平面図である。図5は、本発明の実施形態におけるキャリッジ32を示す正面図である。
【0025】
図2に示すように、プラテンヒーター部42は、メディアMを支持する支持面50を備える支持部材51(プラテン)を有する。支持部材51は、金属製の平板形状を有し、メディアMの搬送方向(図2において紙面左右方向)と直交する幅方向(図2において紙面垂直方向)に延在して設けられている。支持部材51は、メディアMを幅方向に亘って支持するために、搬送部2によって搬送可能なメディアMの最大幅よりも大きな幅を有する。
【0026】
支持部材51の支持面50と対向する位置には、赤外線ヒーター(加熱装置)53が設けられている。赤外線ヒーター53は、支持面50に対し所定距離をあけ、且つ、支持部材51の幅方向に亘って延在して設けられている。したがって、赤外線ヒーター53は、支持面50に直接的に赤外線エネルギーを照射することにより、支持部材51を輻射加熱すると共に、支持面50上にメディアMが支持されている場合には、メディアMの記録面側を直接的に輻射加熱する構成となっている。
【0027】
赤外線ヒーター53は、輻射スペクトルのピークの主要部が2μm〜4μmの領域を含む波長を有する電磁波を照射する構成となっている。これにより、赤外線ヒーター53は、周囲の水分子を含まない構成部材などをあまり昇温させずに、インクに含まれる水分子を振動させて、その摩擦熱により乾燥を速やかに促すことができる。したがって、赤外線エネルギーの大部分をインクに吸収させ、記録面上に着弾したインクを集中的に加熱することができる。
【0028】
プラテンヒーター部42は、支持部材51上のメディアMに向けて気体(本実施形態では空気)を送風する送風口55を備える送風装置54を有する。送風装置54は、内部にファン54aを備えており、外から取り込んだ気体を送風口55から所定の送風圧で流出させる構成となっている。送風口55は、キャリッジ32の上方に位置し、支持面50に対向して開口する構成となっている。この送風口55は、赤外線ヒーター53よりも搬送方向上流側に設けられている。
【0029】
送風口55は、支持部材51の幅方向に亘って延在若しくは点在して設けられている。また、幅方向に亘って設けられる送風口55からの送風圧を確保するため、ファン54aも同様に、幅方向に亘って所定距離をあけて点在して複数設けられている。
上記構成の送風装置54は、赤外線ヒーター53による輻射加熱の熱伝達性を向上させる機能を有する。すなわち、送風装置54は、輻射加熱によりインクから蒸発した蒸発成分を、送風口55からの気体流に乗せて除去・拡散させることにより、記録面に対する赤外線エネルギーの伝達効率を向上させることができる。
【0030】
キャリッジ32は、インクジェットヘッド31を搭載し、ガイド33,34に沿って幅方向に移動する構成となっている。インクジェットヘッド31は、キャリッジ32によって支持部材51と赤外線ヒーター53との間に保持され、支持部材51上のメディアMに向けてインクを噴射する構成となっている。すなわち、赤外線ヒーター53は、エネルギー効率の面から乾燥対象となるメディアMの距離が小さいほど良好なため、インクを噴射するインクジェットヘッド31を搭載するキャリッジ32の近傍に配置しているためである。キャリッジ32は、送風口55から送風される気体の少なくとも一部を内側に取り込ませる筐体35を有する。
【0031】
キャリッジ32は、筐体35の内側において、インクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間に、取り込んだ気体が流通する気体層Gを形成する構成となっている。筐体35は、樹脂製のホルダー36と、金属製の放熱板37とを有し、それらを組み合わせることで構成されている。ホルダー36は、インクジェットヘッド31を含むインクシステムを保持する構成となっている。
【0032】
図2中の符号38は、インクシステムの一部を構成する温度制御装置を模式的に示している。温度制御装置38は、インクの温度をコントロールするものである。温度制御装置38は、インクの高温保持が必要な場合は例えばフィルムヒーターから構成され、インクの冷却が必要な場合は例えばペルチェ素子から構成され、インクの等温保持が必要な場合は例えば融解潜熱を用いた蓄熱シートから構成される。
【0033】
ホルダー36の上面には、断熱部材39が敷設されている。断熱部材39は、インクジェットヘッド31と気体層Gとの間に配置されている。断熱部材39としては、例えば、繊維系断熱部材や発泡系断熱部材等を採用することができる。
温度制御装置38と、断熱部材39との間には、不図示のインクバッファーが配設されている。不図示のインクバッファー内のインクが、温度制御装置38によって加熱・冷却・等温保持等されることで、インクシステム全体の温度コントロールがなされる。
【0034】
放熱板37は、一方の面60側が赤外線ヒーター53に面し、他方の面61側が気体層Gに面する構成となっている。放熱板37は、放熱特性が高いアルミ板金であり、略箱状に板金加工されて、ホルダー36に被さるようして取り付けられている(図3〜図5参照)。放熱板37は、図2に示すように、ホルダー36と協働して、インクジェットヘッド31の上部に気体層Gを形成するための空間を形成する。
【0035】
本実施形態の放熱板37は、複数枚のアルミ板金が組み合わされて構成されている(図3等参照)。これにより、図2に示すように、放熱板37の一方の面60と他方の面61との間を中空空間とすることができる。なお、放熱板37の赤外線ヒーター53に面する一方の面60は、その表面を鏡面仕上げすることが好ましい。これにより、放熱板37の一方の面60に向けて照射された赤外線の少なくとも一部が反射されるため、放熱板37に吸収される赤外線エネルギーを低減させることができる。
【0036】
キャリッジ32は、気体層Gに連通し、送風口55に対向して開口する吸気口62を有する。この吸気口62は、送風口55に対応する位置に配置され、送風口55からの送風を赤外線ヒーター53よりも上方から筐体35の内側に取り込む構成となっている。図3及び図4に示すように、吸気口62は、キャリッジ32頂部に開口して設けられている。なお、本実施形態の吸気口62は、ホルダー36と放熱板37との隙間によって構成されている。
【0037】
キャリッジ32は、気体層Gに連通し、メディアMの搬送方向下流側(図2において紙面左側)に向いて開口する排気口63を有する。排気口63は、略箱状の筐体35の搬送方向下流側に向いた側面において開口し、吸気口62から取り込まれて、インクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間を気体層Gとして流通した気体を、筐体35の外側に排気させる構成となっている。なお、本実施形態の排気口63は、放熱板37に形成された矩形の開口部によって構成されている(図3及び図5参照)。
【0038】
図6は、本発明の実施形態におけるキャリッジ32の移動経路に関して送風口55及び赤外線ヒーター53の発熱部53aが設けられる範囲について説明するための図である。なお、図6では、視認性の向上のため、キャリッジ32と、送風口55と、赤外線ヒーター53とを平面上でずらして配置している。
送風口55は、幅方向に延びるキャリッジ32の移動経路に沿って設けられている。また、赤外線ヒーター53の発熱部53aも、キャリッジ32の移動経路に沿って設けられている。
【0039】
発熱部53aとは、赤外線ヒーター53のうち赤外線を照射する熱源が設けられる部位である。より詳しくは、発熱部53aとは、例えば、石英ガラスのパイプ内にコイル状のニクロム線が設けられた熱源部位のことであり、その両端でニクロム線に接続される端子部は含まない。キャリッジ32の移動経路において、発熱部53aが設けられる範囲は、メディアMの幅より大きい構成となっている。これにより、赤外線ヒーター53は、メディアMの幅方向端部を含めた赤外線照射領域を設定でき、メディアMの記録面を均一に加熱することができる。
【0040】
また、キャリッジ32の移動経路において、送風口55が設けられる範囲は、発熱部53aが設けられる範囲より大きい構成となっている。具体的に、キャリッジ32の移動経路において、送風口55が設けられる範囲は、少なくともキャリッジ32の長さ分(本実施形態では当該長さの2倍分)、発熱部53aが設けられる範囲より大きい構成となっている。この構成によれば、キャリッジ32の移動経路において、送風口55の範囲内であって、発熱部53aの範囲外に、キャリッジ32が位置するとき、発熱部53aから熱を受けることなく、送風口55からの気体の送風によって冷却を効率よく行うことができる。
【0041】
続いて、上記構成のプリンター1による印字動作及び作用について説明する。
メディアMが、支持面50上の印字領域まで搬送されてくると、インクジェットヘッド31により印字が開始される。インクジェットヘッド31は、図2に示すように、キャリッジ32に搭載されて、幅方向に往復移動しながら印字を行う。赤外線ヒーター53は、支持面50上に設定された所定の赤外線照射範囲に向けて赤外線を照射する。
【0042】
赤外線照射範囲には、インクジェットヘッド31による印字領域が含まれているため、インクを着弾させた記録面の領域からキャリッジ32が退避すると、当該領域は、輻射スペクトルのピークの主要部が2μm〜4μmの領域を含む波長で直接に輻射加熱される。そうすると、着弾したインクに含まれる水分子が振動し、その摩擦熱により蒸発・乾燥が促され、メディアMに対して滲み等を生じさせることなくインクが定着することとなる。
【0043】
送風装置54は、支持部材51上のメディアMの記録面に向けて気体を送風する。赤外線ヒーター53の輻射加熱によりインクから蒸発した水蒸気等の蒸発成分は、当該送風によって記録面上から除去・拡散される。これにより、赤外線エネルギーが、蒸発成分によって阻害されることなく記録面に吸収され、赤外線ヒーター53による輻射加熱の熱伝達性が向上するため、インクの蒸発・乾燥を促進させることができる。
【0044】
ここで、インクジェットヘッド31は、支持部材51と赤外線ヒーター53との間で、支持部材51上のメディアMにインクを噴射することとなるため、その熱対策が必要となる。本実施形態では、メディアMに向けて気体を送風する送風装置54の送風口55の下をキャリッジ32が通過するときに、キャリッジ32の筐体35の内側に気体が取り込まれ、インクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間に気体が流通して気体層Gが形成される。
【0045】
気体層Gにおいては、その気体の流れによって熱が滞ることはないため熱伝導が抑制され、赤外線ヒーター53による加熱の影響をインクジェットヘッド31の手前側で遮断することができる。すなわち、送風口55に対向して開口する吸気口62から筐体35の内側に取り込まれた気体は、筐体35の内側において、インクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間を流通する。その間に、赤外線照射を受けている放熱板37の他方の面61側等から熱を受け取った気体は、排気口63から筐体35の外側に排気される。
【0046】
そうすると、気体層Gが、一種の断熱層として機能するため、赤外線ヒーター53による加熱の影響を遮断することができ、インクジェットヘッド31における温度勾配を、温度制御装置38によって温度コントロールが可能な温度勾配まで抑えることが可能となる。温度制御装置38によってインクの温度コントロールが可能となれば、インクジェットヘッド31においてインクが増粘、固化等することがなく、所定の噴射特性を維持しつつ適切な印字動作を行うことができる。
【0047】
また、本実施形態のキャリッジ32は、送風口55に対向して近接開口する吸気口62を有するため、気体が所定の送風圧を維持したまま直接的に筐体35の内側に取り込まれ、気体層Gおいて良好な気体の流れが形成されることとなる。そうすると、気体が滞ることなく流通が促進されるため、気体層Gの断熱性能を向上させることができる。
また、本実施形態のキャリッジ32は、メディアMの搬送方向下流側に向いて開口する排気口63を有するため、キャリッジ32の筐体35の内側を流通した気体が搬送方向下流側に排出され、排気口63から排出された気流によって印字領域に影響を与えないようにすることができる。
【0048】
また、図6に示すように、送風口55は、キャリッジ32の移動経路に沿って設けられていることから、キャリッジ32が移動した場合であっても、送風口55から直接的にキャリッジ32の筐体35内側に気体を取り込ませて気体層Gを形成することができる。また、キャリッジ32の移動経路において、送風口55が設けられる範囲は、発熱部53aが設けられる範囲より大きいため、発熱部53aから熱を受ける場合には、常に、キャリッジ32の筐体35内側に気体層Gを形成することができる。
【0049】
さらに、キャリッジ32の移動経路において、送風口55の範囲内であって、発熱部53aの範囲外の領域(例えばキャリッジリターン領域)に、キャリッジ32が位置するときには、発熱部53aから熱を受けることなく、送風口55からの気体の送風によって冷却が効率よく行われる。したがって、例えば、長時間連続した印字動作を行う場合には、所定時間毎に当該キャリッジリターン領域にキャリッジ32を待機させて、吸収した赤外線エネルギーを放散させる冷却時間を設けるような動作制御を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態のキャリッジ32の筐体35は、一方の面60側が赤外線ヒーター53に面し、他方の面61側が気体層Gに面する放熱板37を有する。これにより、一方の面60側が赤外線ヒーター53によって加熱されても、放熱板37は放熱特性が高いため、キャリッジ32の移動によって発生する風によって、受けた熱を効率よく放散させることができる。また、一方の面60を鏡面仕上げすることにより、赤外線エネルギーの吸収を抑制することができる。また、他方の面61側に、一方の面60側で受けた熱の一部が熱伝導しても、他方の面61は気体層Gに面するので、気体層Gにおける気体の流れに乗せて、受けた熱を効率よく筐体35外側に排出することができる。
さらに、本実施形態においては、インクジェットヘッド31と気体層Gとの間に断熱部材39を配置しているため、赤外線ヒーター53による加熱の影響を、インクジェットヘッド31の手前側でより確実に遮断することが可能である。
【0051】
したがって、上述した本実施形態によれば、メディアMを支持する支持部材51と、支持部材51上のメディアMを加熱する赤外線ヒーター53と、支持部材51と赤外線ヒーター53との間で支持部材51上のメディアMにインクを噴射するインクジェットヘッド31と、を有するプリンター1であって、支持部材51上のメディアMに向けて気体を送風する送風口55を備える送風装置54と、インクジェットヘッド31を搭載して移動すると共に、送風口55から送風される気体の少なくとも一部を内側に取り込ませる筐体35を備えて、該筐体35の内側においてインクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間に上記気体が流通する気体層Gを形成するキャリッジ32と、を有するという構成を採用することによって、メディアMに向けて気体を送風する送風装置54の送風口55をキャリッジ32が通過するときに、キャリッジ32の筐体35内側に気体が取り込まれ、インクジェットヘッド31と赤外線ヒーター53との間に気体が流通して気体層Gが形成される。気体層Gにおいては、その気体の流れによって熱が滞ることはないため熱伝導が抑制され、赤外線ヒーター53による加熱の影響をインクジェットヘッドの手前側で遮断することができる。
したがって、本実施形態では、赤外線ヒーター53による加熱の影響を遮断してインクの温度コントロールを可能とするプリンター1が得られる。また、加熱プロセスに対し大きな機構変更することなく、往復動作機構であるキャリッジ32内のインクシステムの温度コントロールを可能とさせることができる。
【0052】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、加熱装置が赤外線ヒーター53である場合を例にして説明したが、赤外線ヒーターに限られず、熱風により加熱を行う装置等であってもよい。
【0054】
例えば、上記実施形態においては、送風口55から送風される気体が空気である場合を例にして説明したが、空気に限られず、成分調整されたガス、冷却された冷却ガス等であってもよい。
【0055】
また、例えば、上記実施形態においては、記録装置がプリンター1である場合を例にして説明したが、プリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【0056】
また、記録装置としては、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする記録装置を採用してもよい。本発明は、例えば微小量の液滴を吐出させる記録ヘッド等を備える各種の記録装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記記録装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、記録装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。また、記録媒体としては、ポリ塩化ビニルやペットフィルム等のプラスチックフィルム以外に、用紙、機能紙、合成紙、基板や金属板などを包含するものとする。
【符号の説明】
【0057】
1…プリンター(記録装置)、2…搬送部(搬送装置)、31…インクジェットヘッド(記録ヘッド)、32…キャリッジ、35…筐体、37…放熱板、39…断熱部材、51…支持部材、53…赤外線ヒーター(加熱装置)、53a…発熱部、54…送風装置、55…送風口、60…一方の面、61…他方の面、62…吸気口、63…排気口、G…気体層、M…メディア(記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を支持する支持部材と、前記支持部材上の前記記録媒体を加熱する加熱装置と、前記支持部材と前記加熱装置との間で前記支持部材上の前記記録媒体に流体を噴射する記録ヘッドと、を有する記録装置であって、
前記支持部材上の前記記録媒体に向けて気体を送風する送風口を備える送風装置と、
前記記録ヘッドを搭載して移動すると共に、前記送風口から送風される前記気体の少なくとも一部を内側に取り込ませる筐体を備えて、該筐体の内側において前記記録ヘッドと前記加熱装置との間に前記気体が流通する気体層を形成するキャリッジと、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記キャリッジは、前記送風口に対向して開口する吸気口を有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録媒体を搬送する搬送装置を有しており、
前記キャリッジは、前記記録媒体の搬送方向下流側に向いて開口する排気口を有することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記送風口は、前記キャリッジの移動経路に沿って設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記加熱装置は、前記キャリッジの移動経路に沿って設けられた発熱部を有しており、
前記キャリッジの移動経路において、前記送風口が設けられる範囲は、前記発熱部が設けられる範囲より大きいことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記キャリッジの筐体は、一方の面側が前記加熱装置に面し、他方の面側が前記気体層に面する放熱板を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−43290(P2013−43290A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180191(P2011−180191)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】