説明

設置体の横滑り、転倒防止構造

【課題】ピアノ等の設置体に傷等をつけることなく地震等の震動に対して設置体の横滑りや転倒を防止できる構造を提供すること。
【解決手段】ピアノ11の後部側左右両下端と床面Fとの間にL型ブラケット13が配置されるとともに、天板14の前部コーナー領域にコーナー金具15が配置され、L型ブラケット13とコーナー金具15は帯状体17で連結されている。これら金具及び帯状体は、ピアノ11の左右両側に一対配置とされ、各帯状体17を一連に連結した状態で、ピアノ11に掛け回される。帯状体17に張力を付与することにより、ピアノ11が床面及び壁面に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は設置体の横滑り、転倒防止構造に係り、特に、ピアノ等の高重量となる設置体を、地震発生時でも安定して保持することのできる設置体の横滑り、転倒防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アップライトピアノ等の設置体は、200kg〜300kg程度の重量があるとともに、重心が高い構造体であることから、地震発生時には、横滑りや転倒を生じ易いものとなる。特に、例えば、阪神淡路大地震程度の震動に対しては、ピアノ自体が凶器となり得ることから、ピアノの横滑り、転倒を防止する対策が必要となる。
【0003】
一般的な転倒防止策としては、設置体と壁面との間に、金属片からなるブラケット等を掛け渡しておき、このブラケットを壁面と設置体にねじ等で固定する構造が知られているが、ピアノは、楽器であるため、ねじや釘等を使ってブラケット等を固定することは好ましくない。
【0004】
ところで、特許文献1には、両端に金具が取り付けられたベルトを用い、当該ベルトを設置体に掛け回した状態で張力を付与することで当該設置体の転倒等を防止しようとした転倒防止器具が開示されている。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3112455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された転倒防止器具は、一方の金具が設置体の天板にねじ等を用いて固定される方式であり、設置体に傷を付けることが前提となるため、ピアノ等の対震構造には適合できない、という不都合がある。また、ベルトは、設置体の上面と背面に沿って掛け回される構造となっていることから、設置体の左右方向における横滑りに対しては必ずしも効果的な対震防止構造とはなっていない。
【0007】
更に、壁面に固定される金具は、設置体の重量が加えられる状態でないため、強大な震動が発生したときには、高重量の設置体の場合には、金具自体が壁面からもぎ取られてしまうものとなり、この点からも、ピアノ等の設置体の横滑り、転倒防止には適合させることができない。
【0008】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、設置体に傷等をつけることなく当該設置体の姿勢を安定的に保つことのできる設置体の横滑り、転倒防止構造を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、設置体の重量を利用することで、床面や壁面に固定される部材が震動発生時にもぎ取られるおそれを防止することのできる設置体の横滑り、転倒防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係る設置体の横滑り、転倒防止構造は、床面及び又は壁面下部に固定される第1の部材と、設置体の上部に配置される第2の部材と、前記第1の部材及び第2の部材を相互に連結する紐状部材と、この紐状部材の張力を調整する調整部材とを備え、
前記第1の部材は、少なくとも一部が設置体と床面との間に挟み込まれる状態に配置される一方、前記第2の部材は設置体の上部に係合可能に設けられ、
前記第1の部材及び第2の部材を所定位置に配置した状態で、前記調整部材を介して前記紐状部材に張力を付与する、という構成を採っている。
【0011】
また、本発明は、平面視略方形の天板を備えた設置体の横滑り、転倒防止構造であって、
前記設置体の後部側左右両下端と床面との間に挟み込まれるとともに、床面及び又は壁面下部に固定される左右一対の第1の部材と、
前記天板の前部左右のコーナー領域にそれぞれ係合する左右一対の第2の部材と、
前記第1の部材及び第2の部材を相互に連結するとともに、第2の部材から更に延びる延長帯を備えた左右一対の帯状体と、
前記延長帯を相互に連結して左右の帯状体を一連にするとともに、当該一連となる帯状体の全体の張力を調整する調整部材とを備え、
前記第1の部材と第2の部材との間に位置する帯状体を前記設置体の後面から側面に回り込むように掛け回すとともに、前記延長帯を前記天板の左右方向に沿わせた状態で前記調整部材を介して帯状体に張力を付与することで設置体の転倒等を防止する、という構成を採ることができる。
【0012】
前記構造において、前記第2の部材は、前記設置体のコーナー近傍の上面部分とこれに連なる前端面及び側端面に接する屈曲形状を備え、前記設置体側の面に、当該設置体に転着しない粘着剤が設けられる、という構成を採るとよい。
【0013】
また、前記設置体はキャスター及び又は不陸調整体を含む下向きの突状部を備え、当該突状部と前記第1の部材との間に突状部を受け入れ可能な受容体が介装される構成も採用することができる。
【0014】
更に、前記第1の部材及び第2の部材の間には、前記設置体の後部側縁に係合可能な中間部材が配置され、この中間部材を介して前記帯状体が設置体の後面から側面を回って前記天板上に掛け回される、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の部材と第2の部材が設置体に対して締結具等を用いて固定されない構成を前提としているため、ピアノ等の設置体を傷つけることなく耐震精度を維持することができる。
また、床面側に固定される第1の部材が設置体と床面との間に挟み込まれた状態に保たれるため、つまり、第1の部材が設置体の重さを受ける構成となるため、震動発生に伴って第1の部材が床面からもぎ取られるような不都合を効果的に防止することができる。
更に、第1の部材と第2の部材との間の帯状体は、設置体の下部後面から設置体の側面を回り、第2の部材から延在する延長帯が天板の上面に左右方向に沿う状態となるため、設置体の上下方向における震動や、前後方向及び左右方向の滑りを有効に阻止することができる。
更に、設置体におけるキャスター等の突状体を受容体に受容させる構成とした場合には、設置体の下面が平面でない場合であっても本発明の適用を容易なものとすることができる他、キャスターの自由な移動も規制可能となる。
【0016】
更に、設置体の後部側縁に係合可能な中間部材を配置した構成により、帯状体を設置体の下部後面から側面上部に掛け回す中間位置を安定して保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1には、本発明に係る転倒等の防止構造を実現する耐震用具10が設置体としてのアップライト型のピアノ11に適用された概略斜視図が示され、図2には、図1の斜視図からピアノを省略した状態の概略斜視図が示されている。これらの図において、耐震用具10は、ピアノ11の後部左右両側下端と床面F(図3参照)との間にそれぞれ位置する第1の部材としての左右一対のL型金具13,13と、ピアノ11における天板14の前部左右コーナー領域にそれぞれ係合する第2の部材としての左右一対のコーナー金具15,15と、これらL型金具13及びコーナー金具15を相互に連結するとともに、各コーナー金具15から更に延在する延長帯17A,17Aを備えた左右一対の紐状部材としての帯状体17,17と、各延長帯17Aを相互に連結して一連にするとともに帯状体17,17全体の張力を調整可能とする調整部材としてのバックル18と、ピアノ11の後面左右両側の上下方向中間位置にそれぞれ配置されて前記帯状体17,17の駆け回し方向を変更する中間部材としての左右一対のL型ブラケット19,19とを備えて構成されている。
【0019】
前記L型金具13は、図3及び図4に示されるように、床面Fに接する平面視略方形の平面部20と、この平面部20の一端に連なるとともに、壁面Wの下部、例えば巾木等に接する起立面部21とを含む。平面部20及び起立面部21には、ねじ若しくは釘23を介してL型金具13を固定するための固定用孔24が複数箇所に形成されている。起立面部21の上部には、幅方向に延びる三つの長孔26が形成されており、これらの長孔26に前記帯状体17の一端側を挿通させた状態で、帯状体17の一端側が公知の長さ規制部材28を介して閉ループ状に束ねられている。ここで、前記平面部20の上面側には、受容体としてのインシュレーター30が載るように配置され、当該インシュレーター30の中央部に設けられた凹部30Aに、ピアノ11の後部下端面に取り付けられた突状部としてのキャスター31が受容され、これにより、L型金具13の一部すなわち平面部20が、ピアノ11と床面Fとの間に挟み込まれてL型金具13にピアノ11の重量が付加されるようになっている。
【0020】
前記コーナー金具15は、図5及び図6に示されるように、天板14のコーナー上面に接する平面視略方形の板状部32と、この板状部32における連続する二つの端縁から垂下する前部垂下片33及び側部垂下片34とを備えた屈曲形状とされ、この前部垂下片33が天板14の前端面側に接する一方、側部垂下片34が天板14の側端面側に接するようになっている。板状部32の下面側には、粘着剤としてのゲル状の粘着シートSが接着されており、当該粘着シートSを介してコーナー金具15を天板14の上面に粘着することで、天板14にねじ穴等の傷を形成することなくコーナー金具15を係合させることが可能となっている。この際、粘着シートSは、天板14側に転着することがないものが採用されており、これにより、コーナー金具15を取り外すことがあっても、天板14の上面がべとつくことがないように保たれる。
【0021】
コーナー金具15において、前記板状部32及び側部垂下片34にはそれぞれスロット穴32A、34Aが形成されており、L型金具13から延びる帯状体17は、スロット穴34Aを通ってコーナー金具15の外面側に引き出されるとともに、板状体33の上面側からスロット穴32Aを経て延長帯17Aを導出させるようになっている。
【0022】
前記バックル18は、図7に示されるように、平面視略方形のフレーム40と、このフレーム40の図7中紙面直交方向に沿う前後二片のフレーム部分間に配置された左側連結体42及び右側連結体43とを備えて構成されている。図7中右側に位置する延長帯17Aは、右側連結体43に掛け回されて当該右側連結体43とフレーム40との間の隙間を経て右側に引き出されている。この一方、図7中左側に位置する延長帯17Aは、前記左側連結体42に掛け回されて当該左側連結体42とフレーム40との間の隙間を経て左側に引き出され、更にその先端側には、公知の長さ規制部材45を介して閉ループ状に束ねられている。
【0023】
前記中間部材としてのL型ブラケット19は、図2及び図8に示されるように、ピアノ11の後面に沿う後面部47と、この後面部47に連なってピアノ11の側面に沿う側面部48とを備えた形状に設けられている。後面部47の下部には、略水平方向に延びる長孔47Aが形成されている一方、側面部48には、略鉛直方向に延びる長孔48Aが形成され、これら各長孔47A、48Aを通って帯状体17を掛け回すことで、当該帯状体17がピアノ11の後面と側面に掛け回すことができるようになっている。なお、L型ブラケット19の内面側には、前述したコーナー金具15と同様の粘着シートSが配置され、これにより、L型ブラケット19の装着位置が一定に保たれるようになっている。
【0024】
次に、本実施形態における耐震用具10の装着方法について説明する。
【0025】
ここでは、図2に示されるように、左右の帯状体17,17が一連に接続されている状態を初期状態とし、また、帯状体17は、L型金具13,L型ブラケット19及びコーナー金具15に挿通されているものとする。
【0026】
帯状体17の掛け回し作業が行える程度にバックル18を緩めておき、L型金具13を床面F及び壁面Wの下部に固定する。そして、L型金具13の平面部20にインシュレーター30を配置するとともに、当該インシュレーター30の凹部30Aにピアノ11の後部キャスター31を受容させる。これにより、L型金具13がピアノ11と床面Fとの間に挟まれてピアノ11の荷重を受けた状態となる。
【0027】
次いで、L型ブラケット19をピアノ11の左右後部両側に配置するとともに、コーナー金具15を天板14の各コーナー領域に配置する。この状態で、バックル18から導出している延長帯17Aを引き出して一連に連なる左右の帯状体17の全長を短くして張力を付与することで、ピアノ11の固定を完了することができる。
【0028】
なお、ピアノ11の調律等の必要性が生じたときは、前記バックル18を緩めてコーナ金具15を取り外すことで、天板14を開いて所要の作業を行うことができる。
【0029】
従って、このような実施形態によれば、ピアノ11を傷つけることなく床面F及び壁面Wに固定することができる、という効果を得る。
【0030】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施例に対し、形状、位置若しくは方向、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、配置などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。
【0031】
例えば、前記実施形態では、ピアノ11を設置体とした場合を図示説明したが、仏壇や、その他の家具類を対象として本発明を適用することも可能である。
【0032】
また、紐状部材として帯状体17を用いた場合を示したが、帯状に限らず、横断面形状が略円形となる線状体等を用いることを妨げない。更に、帯状体17を左右一対として一連に連結する場合に限らず、設置体の左右幅が相対的に小さいものであれば、単一の帯状体17を用いることでもよい。この場合、コーナー金具15に替えて天板の前部中央に係合し得る金具を設ける一方、L型金具13を設置体の後部中央下部に配置し、これら各金具間を連結する帯状体に張力を付与して転倒等を防止する構造が例示できる。
【0033】
更に、前記L型金具13,コーナー金具15及びL型ブラケット19の形状は図示構成例に限定されるものではなく、前記帯状体17を掛け回すことができる限りにおいて形状変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る横滑り、転倒防止構造がピアノに適用された実施形態を示す概略斜視図。
【図2】ピアノを省略した図1と同様の概略斜視図。
【図3】図1のA−A線に沿う矢視拡大断面図。
【図4】図3に示す領域の概略斜視図。
【図5】図1のB−B線に沿う矢視拡大断面図。
【図6】(A)コーナー金具の拡大斜視図、(B)は(A)コーナー金具を反対側から見た斜視図。
【図7】図1のC−C線矢視拡大断面図。
【図8】図1のD矢視拡大図。
【符号の説明】
【0035】
10…耐震用具、11…ピアノ(設置体)、13…L型金具(第1の部材)、14…天板、15…コーナー金具(第2の部材)、17…帯状体(紐状部材)、17A…延長帯、18…バックル(調整部材)、19…L型ブラケット(中間部材)、30…インシュレーター(受容体)、31…キャスター(突状部)、S…粘着シート(粘着剤)、F…床面、W…壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面及び又は壁面下部に固定される第1の部材と、設置体の上部に配置される第2の部材と、前記第1の部材及び第2の部材を相互に連結する紐状部材と、この紐状部材の張力を調整する調整部材とを備え、
前記第1の部材は、少なくとも一部が設置体と床面との間に挟み込まれる状態に配置される一方、前記第2の部材は設置体の上部に係合可能に設けられ、
前記第1の部材及び第2の部材を所定位置に配置した状態で、前記調整部材を介して前記紐状部材に張力を付与することで前記設置体の転倒等を防止することを特徴とする設置体の横滑り、転倒防止構造。
【請求項2】
平面視略方形の天板を備えた設置体の横滑り、転倒防止構造であって、
前記設置体の後部側左右両下端と床面との間に挟み込まれるとともに、床面及び又は壁面下部に固定される左右一対の第1の部材と、
前記天板の前部左右のコーナー領域にそれぞれ係合する左右一対の第2の部材と、
前記第1の部材及び第2の部材を相互に連結するとともに、第2の部材から更に延びる延長帯を備えた左右一対の帯状体と、
前記延長帯を相互に連結して左右の帯状体を一連にするとともに、当該一連となる帯状体の全体の張力を調整する調整部材とを備え、
前記第1の部材と第2の部材との間に位置する帯状体を前記設置体の後面から側面に回り込むように掛け回すとともに、前記延長帯を前記天板の左右方向に沿わせた状態で前記調整部材を介して帯状体に張力を付与することで設置体の転倒等を防止可能としたことを特徴とする設置体の横滑り、転倒防止構造。
【請求項3】
前記第2の部材は、前記設置体のコーナー近傍の上面部分とこれに連なる前端面及び側端面に接する屈曲形状を備え、前記設置体側の面に、当該設置体に転着しない粘着剤が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の設置体の横滑り、転倒防止構造。
【請求項4】
前記設置体はキャスター及び又は不陸調整体を含む下向きの突状部を備え、当該突状部と前記第1の部材との間に突状部を受け入れ可能な受容体が介装されることを特徴とする請求項1,2又は3記載の設置体の横滑り、転倒防止構造。
【請求項5】
前記第1の部材及び第2の部材の間には、前記設置体の後部側縁に係合可能な中間部材が配置され、この中間部材を介して前記帯状体が設置体の後面から側面を回って前記天板上に掛け回されることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の設置体の横滑り、転倒防止構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−202808(P2007−202808A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25406(P2006−25406)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(502368819)ヤマハライフサービス株式会社 (1)
【出願人】(594086886)
【Fターム(参考)】