説明

診断イメージング用のナノ粒子造影剤

1以上の正味正に帯電した基及び1以上の正味負に帯電した基で官能化されたナノ粒子の組成物、複数のナノ粒子の製造方法及び診断剤としてのそれの使用方法が提供される。ナノ粒子は、他のナノ粒子に比べて体内への粒子の保持を最小にする特性を有している。ナノ粒子はコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいて、複数のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、一般的にはX線/コンピューター断層撮影(CT)又は磁気共鳴イメージング(MRI)で使用するもののような診断イメージング用の造影剤に関する。さらに詳しくは、本願はナノ粒子系造影剤並びにかかる薬剤の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床的に承認されている診断用造影剤は、ほとんどすべてが小分子系のものである。ヨウ素化芳香族化合物は標準的なX線又はCT用造影剤として役立ってきた一方、磁気共鳴イメージング用としてはGdキレートが使用されている。診断イメージングのために常用されているものの、小分子系造影剤は、血管壁からの漏れに原因する短い血中循環時間、低い感度、高い粘度及び高い重量オスモル濃度のような一定の欠点を有することがある。これらの化合物は、一般に、ある種の患者集団では腎合併症に関係していた。この部類の小分子系薬剤は急速に体外に排出されることが知られている結果、血管系の効果的なイメージングのために使用できる時間が限定されると共に、他の適用例に関してはこれらの薬剤を疾患部位に標的化することが困難になる。したがって、新規な部類の造影剤に対するニーズが存在している。
【0003】
ナノ粒子は、診断用及び治療用を含め、医学用途で使用するために広く研究されている。磁気共鳴イメージング用途及び薬物送達用途に関して臨床的に承認されているナノ粒子系薬剤はほんの僅かであるが、数百のかかる薬剤がなおも開発中である。現在使用されている小分子系薬剤に比べ、ナノ粒子は診断薬及び治療薬としての効力の点で有利であり得ることを示す実質的な証拠が存在している。しかし、ナノ粒子薬剤のインビボでの生体分布及びクリアランスに対する粒度、構造及び表面特性の効果は十分には理解されていない。ナノ粒子は、その粒度に応じ、小分子に比べて長い時間にわたり体内に留まる傾向がある。造影剤の場合、いかなる器官に対しても短期又は長期毒性を引き起こすことなく、体外への薬剤の最大腎クリアランスを有することが好ましい。
【0004】
上記の事実に鑑みて、特に腎クリアランス及び毒性効果に関して改善された性質を有するナノ粒子系造影剤又はイメージング剤に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
国際公開第2005/1078189号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
本発明は、新規な部類のX線、CT及びMRI用ナノ粒子系造影剤を提供する。本発明者らは、正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基の両方で官能化されたナノ粒子が意外にも小分子系造影剤に比べて改善されたイメージング特性を有することを見出した。本発明のナノ粒子は、他のナノ粒子に比べ、体内への粒子の保持を最小にする特性を有している。これらのナノ粒子は、確実な合成、コストの削減、画像コントラストの増強、血中半減期の増大及び毒性の低下の1以上の点で改善された性能及び利益をもたらすことができる。
【0007】
本発明は、ナノ粒子、前記ナノ粒子を含む組成物、並びにそれの製造方法及び使用方法に関する。
【0008】
本発明の一態様はナノ粒子に関する。かかるナノ粒子はコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。一実施形態では、コアは遷移金属を含んでいる。別の実施形態では、コアは、酸化物、炭化物、硫化物、窒化物、リン化物、ホウ化物、ハロゲン化物、セレン化物、テルル化物及びこれらの組合せからなる群から選択される遷移金属の誘導体を含んでいる。一実施形態では、コアは34以上の原子番号を有する金属を含んでいる。異なる原子の分子化合物又は混合物に関しては、化合物又は混合物の原子番号は「有効原子番号」Zeffで表すことができる。Zeffは、構成元素の有効原子番号の関数として計算することができる。かかる実施形態では、コアは34以上の有効原子番号を有する材料を含んでいる。
【0009】
若干の実施形態では、ナノ粒子は酸化タンタルコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分は、正味正に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分、及び正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜約1.75の範囲内にある。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、1つの正に帯電した基で官能化されたシラン部分と1つの負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約1である。一実施形態では、ナノ粒子は約6nm以下の粒度を有している。
【0010】
若干の他の実施形態では、ナノ粒子は超常磁性酸化鉄コア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分は、正味正に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分、及び正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜約1.75の範囲内にある。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、1つの正に帯電した基で官能化されたシラン部分と1つの負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約1である。別の実施形態では、ナノ粒子は約50nm以下の粒度を有している。
【0011】
1以上の実施形態では、本発明は診断剤組成物に関する。かかる組成物は複数のナノ粒子を含み、複数のナノ粒子のうちの1以上のナノ粒子がコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、かかる組成物はさらに薬学的に許容されるキャリヤー及び任意には1種以上の賦形剤を含んでいる。
【0012】
本発明の一態様は、複数のナノ粒子の製造方法に関する。かかる方法は、(a)コア(20)を用意する段階、並びに(b)複数のシラン部分を含むシェルをコア上に配設する段階を含んでいる。複数のシラン部分は、正味正に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分、及び正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜約1.75の範囲内にある。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、1つの正に帯電した基で官能化されたシラン部分と1つの負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約1である。
【0013】
若干の実施形態では、かかる方法は、診断剤組成物を被験体に投与する段階及び診断装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでいる。診断剤組成物は複数のナノ粒子を含んでいる。複数のナノ粒子のうちの1以上のナノ粒子はコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。1以上の実施形態では、かかる方法はさらに、診断装置を用いて被験体への診断剤組成物の送達をモニターする段階、及び被験体を診断する段階を含んでいる。若干の実施形態では、診断装置は、磁気共鳴イメージング、光学イメージング、光学コヒーレンス断層撮影、X線コンピューター断層撮影、陽電子放出断層撮影及びこれらの組合せから選択されるイメージング方法を使用する。
【0014】
本発明の別の態様は、診断剤組成物を被験体に投与する段階及びX線装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる方法に関する。診断剤組成物は複数のナノ粒子を含み、複数のナノ粒子のうちの1以上のナノ粒子はコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分は、正味正に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分、及び正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。1以上の実施形態では、コアは酸化タンタルを含んでいる。
【0015】
本発明の別の態様は、診断剤組成物を被験体に投与する段階及び磁気共鳴イメージング装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる方法に関する。診断剤組成物は複数のナノ粒子を含み、複数のナノ粒子のうちの1以上のナノ粒子はコア及びシェルを含んでいる。シェルは複数のシラン部分を含んでいる。複数のシラン部分は、正味正に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分、及び正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。1以上の実施形態では、コアは超常磁性酸化鉄を含んでいる。
【0016】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の若干の実施形態に従ってコア及びシェルを含んでなるナノ粒子の断面図を示している。
【図2】図2は、本発明の若干の実施形態に従ってシラン部分を官能化するために使用できる負に帯電した基の前駆体を記載している。
【図3】図3は、本発明の若干の実施形態に従ってシラン部分を官能化するために使用できる正に帯電した基の前駆体を記載している。
【図4】図4は、本発明の若干の実施形態に従ってコア上に配設されてシェルを形成する、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分及び正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分の例を記載している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明は例示的なものであり、本発明又は本発明の用途を限定する意図はない。さらに、先行する発明の背景又は以下の詳細な説明中に示されるいかなる理論によっても限定する意図は存在しない。
【0019】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲中で言及される多数の用語の数は、以下の意味を有する。「a」、「an」及び「the」を伴う単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。本明細書及び特許請求の範囲の全体を通じて使用される概略表現用語は、それが関係する基本機能の変化を生じることなしに変動することが許容される任意の数量表現を修飾するために適用できる。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、明記された厳密な値に限定すべきでない。場合によっては、概略表現用語は値を測定するための計器の精度に対応することがある。同様に、「含まない(free)」という語句はある用語と組み合わせて使用することができるが、これは修飾された用語を含まないと見なされる限りは実質的でない数又は微小な量を含み得る。例えば、「溶媒を含まない」又は「無溶媒」及び類似の用語や語句は、溶媒化物質から実質的な部分、一部又は全部の溶媒を除去した場合を表すことができる。
【0020】
予備的事項として、以下の説明及び添付特許請求の範囲のための「又は」という用語の定義は、包括的な「又は」であることを意図している。即ち、「又は」という用語は、2つの互いに排他的な選択肢を差別することを意図するものではない。むしろ、2つの要素間の接続詞として使用する場合における「又は」という用語は、一方の要素単独、他方の要素単独並びにこれら要素の組合せ及び順列を含むものとして定義される。例えば、専門用語「A」又は「B」を使用する議論又は叙述は、「A」単独、「B」単独並びに「AB」及び/又は「BA」のようなこれらの任意の組合せを含む。
【0021】
以下の説明全体を通じて、「正に帯電した」及び「負に帯電した」とは、名目上の生理学的条件下で予想される性質を意味する。例えば、正に帯電した基及び負に帯電した基は、異なるpH条件下で異なる挙動を示し得る。例えば、正に帯電した基は高いpHで実質的に中性となり得る一方、負に帯電した基は低いpHで実質的に中性となり得る。
【0022】
本発明の1以上の実施形態は、図1に示されるようなナノ粒子を含む組成物に関する。ナノ粒子10組成物はコア20及びシェル30を含んでいる。1以上の実施形態では、コア20は遷移金属、例えば遷移金属元素の誘導体を含んでいる。シェル30は複数のシラン部分を含んでいる。複数のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、同じ複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。
【0023】
本明細書中で使用する「ナノ粒子」とは、ナノメートルスケールの粒度、一般に1マイクロメートル未満の粒度を有する粒子をいう。一実施形態では、ナノ粒子は約50nm以下の粒度を有する。別の実施形態では、ナノ粒子は約10nm以下の粒度を有する。別の実施形態では、ナノ粒子は約6nm以下の粒度を有する。
【0024】
複数のナノ粒子は、メジアン粒度、平均粒径又は粒度、粒度分布、平均粒子表面積、粒子形状及び粒子断面形の1以上によって特徴づけることができる。さらに複数のナノ粒子は、数平均粒度及び重量平均粒度の両方によって特徴づけることができる粒度分布を有し得る。数平均粒度は、SN=Σ(sii)/Σni(式中、niは粒度siを有する粒子の数である。)によって表すことができる。重量平均粒度は、SW=Σ(sii2)/Σ(sii)によって表すことができる。すべての粒子が同一の粒度を有する場合、SN及びSWは等しくなり得る。一実施形態では、ある粒度分布が存在し、SNはSWと異なることがあり得る。重量平均粒度と数平均粒度との比は、多分散性指数(SPDI)として定義できる。一実施形態では、SPDIは約1に等しくなり得る。他の実施形態では、SPDIはそれぞれ約1〜約1.2、約1.2〜約1.4、約1.4〜約1.6又は約1.6〜約2.0の範囲内にあり得る。一実施形態では、SPDIは約2.0を超える範囲内にあり得る。
【0025】
一実施形態では、複数のナノ粒子は正規分布、モノモーダル分布及びマルチモーダル分布(例えば、バイモーダル分布)のような各種の粒度分布の1つを有し得る。一定の粒度分布は一定の利益を得るために有用であり得る。モノモーダル分布は、単一モードの回りに分布した粒度分布ということができる。別の実施形態では、2つの相異なる亜集団粒度範囲(バイモーダル分布)を有する粒子集団が組成物中に含まれていてもよい。
【0026】
ナノ粒子は各種の形状及び断面形を有し得るが、これは一部では粒子を製造するために使用する方法に依存し得る。一実施形態では、ナノ粒子は、球、棒、管、フレーク、繊維、板、ワイヤ、立方体又はホイスカーである形状を有し得る。ナノ粒子は、上述の形状の2以上を有する粒子を含んでいてもよい。一実施形態では、粒子の断面形は円形、楕円形、三角形、長方形又は多角形の1以上であってよい。一実施形態では、ナノ粒子は本質的に非球形粒子からなっていてもよい。例えば、かかる粒子は、3つの主軸のすべてが相異なる長さを有するか、或いは扁平(oblate)又は扁長(prolate)回転楕円体であってよい楕円体の形態を有し得る。別法として、非球形ナノ粒子は薄層状の形態のものであってもよい。ここで薄層状とは、1つの軸に沿った最大寸法が他の2つの軸の各々に沿った最大寸法より実質的に小さい粒子をいう。非球状ナノ粒子はまた、角錐又は円錐の切頭体の形状或いは細長い棒の形状を有していてもよい。一実施形態では、ナノ粒子は不規則な形状を有していてもよい。一実施形態では、複数のナノ粒子は本質的に球状のナノ粒子からなっていてよい。
【0027】
ナノ粒子の集団は、高い表面/体積比を有し得る。ナノ粒子は結晶質であっても非晶質であってもよい。一実施形態では、単一タイプ(粒度、形状など)のナノ粒子を使用してもよいし、或いは相異なるタイプのナノ粒子の混合物を使用してもよい。ナノ粒子の混合物を使用する場合、これらは組成物中に均質又は不均質に分布していてよい。
【0028】
若干の実施形態では、ナノ粒子は強く集合及び/又は凝集しておらず、その結果として粒子は組成物中に比較的容易に分散することができる。凝集体は互いに物理的に接触した2以上のナノ粒子を含み得る一方、集塊体は互いに物理的に接触した2以上の凝集体を含み得る。若干の他の実施形態では、複数のナノ粒子のうちの一部のナノ粒子は凝集体/集塊体を形成し得る。
【0029】
一実施形態では、コアは遷移金属を含んでいる。本明細書中で使用する「遷移金属」とは、周期表3〜12族の元素をいう。特定の実施形態では、コアは、これらの遷移金属元素の1種以上を含む酸化物、炭化物、硫化物、窒化物、リン化物、ホウ化物、ハロゲン化物、セレン化物及びテルル化物のような1種以上の遷移金属化合物を含んでいる。したがって、本明細書中で「金属」という用語は、必ずしもゼロ原子価金属が存在することを意味せず、それどころか、この用語の使用は遷移金属元素を成分として含有する金属又は非金属材料の存在を意味している。
【0030】
若干の実施形態では、ナノ粒子は単一のコアを含み得る。若干の他の実施形態では、ナノ粒子は複数のコアを含み得る。ナノ粒子が複数のコアを含む実施形態では、コアは同一のものでも相異なるものでもよい。若干の実施形態では、ナノ粒子組成物は2以上のコアを含んでいる。他の実施形態では、ナノ粒子組成物の各々はただ1つのコアを含んでいる。
【0031】
若干の実施形態では、コアはただ1種の遷移金属の誘導体を含んでいる。別の実施形態では、コアは2種以上の遷移金属の誘導体を含んでいる。コアが2種以上の遷移金属誘導体を含む実施形態では、遷移金属元素又は遷移金属陽イオンは同一の元素からなるものでも2種以上の元素からなるものでもよい。例えば、一実施形態では、コアは酸化タンタル又は酸化鉄のようなただ1種の金属誘導体を含み得る。別の実施形態では、コアは2種以上の金属元素の誘導体(例えば、酸化タンタル及び酸化ハフニウム、又は酸化タンタル及び窒化ハフニウム、又は鉄及びマンガンの酸化物)を含み得る。別の実施形態では、コアは同一金属元素の2種以上の誘導体(例えば、酸化タンタル及び硫化タンタル)を含み得る。
【0032】
一実施形態では、コアはX線又はコンピューター断層撮影(CT)イメージングにおいてコントラスト増強を生み出す。通常のCTスキャナーは、約10keV〜約150keVという広い範囲のX線エネルギーを使用している。当業者であればわかるように、特定の物質を通過するX線の単位長さあたりの減衰量は、線形減衰係数として表される。CTイメージングにおいて典型的なX線エネルギースペクトルでは、物質の減衰量は光電吸収効果及びコンプトン散乱効果によって支配される。さらに、線形減衰係数は、入射X線のエネルギー、(モル濃度に関係する)物質の密度及び物質の原子番号(Z)の関数であることがよく知られている。分子化合物又は異なる原子の混合物に関しては、「有効原子番号」Zeffを構成元素の有効原子番号の関数として計算することができる。化学式が知られている化合物の有効原子番号は、次の関係式から求められる。
【0033】
【数1】

式中、Zkは金属元素の原子番号、Pは金属元素の総量、Wfkは(モル濃度に関係する)分子の総分子量に対する金属元素の重量分率である。CTイメージングのための入射X線エネルギーの最適量は、撮影すべき対象物のサイズの関数であって、公称値から大きく変動することはないと予想される。また、造影剤材料の線形減衰係数が材料の密度に直線的に依存することもよく知られている。即ち、材料の密度を増大させたり、或いは造影剤のモル濃度を増大させたりすれば、線形減衰係数を増大させることができる。しかし、患者への造影剤材料の注射やそれに伴う毒性効果という実際上の側面から、達成し得るモル濃度には限界がある。したがって、使用可能な造影剤材料を有効原子番号によって分けるのは妥当である。約50mMのモル濃度を有する典型的な材料の典型的なCTエネルギースペクトルに対するCTコントラスト増強のシミュレーションに基づけば、34以上の有効原子番号を有する材料は、約30ハウンスフィールド単位(HU)という概略コントラスト増強、即ち水より3%高いコントラストを与え得るものと推定される。したがって、特定の実施形態では、コアは34以上の有効原子番号を有する材料を含んでいる。例えば、Handbook of Medical Imaging,Volume 1.Physics and Psychophysics,Eds.J.Beutel,H.L.Kundel,R.L.Van Metter,SPIE Press,2000の第1章を参照されたい。
【0034】
上述のように比較的高い原子番号を有する遷移金属を含むコアは、一定の望ましい特性を有する実施形態を提供し得る。かかる実施形態では、コアは実質的に放射線不透過性である。これは、コア材料が生体中に通例見出される物質より実質的に少ないX線しか通過させず、したがってかかる粒子をコンピューター断層撮影(CT)のようなX線イメージング技法での造影剤として有用なものにすることができる。このような特性を与え得る遷移金属元素の例には、タングステン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、銀及び亜鉛がある。酸化タンタルは、X線イメージング用途で使用するのに適したコア組成物の1つの具体例である。1以上の実施形態では、ナノ粒子のコアは酸化タンタルを含み、ナノ粒子は約6nm以下の粒度を有している。この実施形態は、タンタル含有コアの高度の放射線不透過性及び例えば急速な腎クリアランスを助ける小さい粒度のため、X線を照射してイメージングデータを生成するイメージング技法での用途にとって特に魅力的であり得る。
【0035】
若干の実施形態では、ナノ粒子のコアは約30重量%以上の遷移金属を含む材料を含んでいる。特定の実施形態では、ナノ粒子のコアは約50重量%以上の遷移金属を含む材料を含んでいる。さらに別の実施形態では、ナノ粒子のコアは約75重量%以上の遷移金属を含む材料を含んでいる。コア中に高い遷移金属材料含有量を有することは、高度の単位体積当たり放射線不透過性を有するナノ粒子を生み出し、それにより造影剤としての一層効率的な性能を付与する。
【0036】
別の実施形態では、コアは、例えば超常磁性挙動をはじめとする磁性挙動を示す材料を含んでいる。本明細書中で使用する「超常磁性材料」とは、キュリー温度又はネール温度未満の温度であっても常磁性と同様な挙動を示し得る材料をいう。使用可能な磁性又は超常磁性材料の例には、鉄、マンガン、銅、コバルト、ニッケル及び亜鉛の1種以上を含む材料がある。一実施形態では、超常磁性材料は超常磁性酸化鉄を含んでいる。若干の実施形態では、本発明のナノ粒子は磁気共鳴(MR)造影剤として使用できる。これらのナノ粒子は、磁場に暴露されるとT2*、T2又はT1磁気共鳴信号を生じ得る。1以上の実施形態では、ナノ粒子のコアは超常磁性酸化鉄を含み、ナノ粒子は約50nm以下の粒度を有している。
【0037】
一実施形態では、ナノ粒子10はコア20を実質的に被覆するシェル30を含んでいる。このシェル30はコア20を安定化するために役立ち得る。即ち、シェル30は、あるコア20が隣接するコア20に接触するのを防止することで複数のかかるナノ粒子が本明細書中に記載したように凝集又は集合するのを防止し、或いは例えばインビボイメージング実験の時間スケール上での金属又は金属酸化物の浸出を防止することができる。一実施形態では、シェル30はコア20を安定化しかつかかる接触を防止するのに十分な厚さを有すればよい。一実施形態では、シェル30は約50nm以下の平均厚さを有する。別の実施形態では、シェル30は約3nm以下の平均厚さを有する。
【0038】
本明細書中で使用する「実質的に被覆する」という用語は、ナノ粒子の表面被覆パーセントが約20%を超えていることを意味する。表面被覆パーセントとは、シェルで被覆されたナノ粒子表面とシェルで被覆されていない表面積との比をいう。若干の実施形態では、ナノ粒子の表面被覆パーセントは約40%を超えることがある。
【0039】
若干の実施形態では、シェルは水溶性の向上を容易にし、凝集体形成を低減させ、集塊体形成を低減させ、ナノ粒子の酸化を防止し、コア−シェル物体の均一性を維持し、或いはナノ粒子に生体適合性を付与することができる。別の実施形態では、シェルを構成する材料はさらに特定の用途(例えば、特に限定されないが診断用途)に合わせて調整される他の材料を含むことができる。例えば、一実施形態では、ナノ粒子はさらに標的化リガンドで官能化することができる。標的化リガンドは、所望の器官、組織又は細胞に対するナノ粒子の標的化をもたらす分子又は構造であり得る。標的化リガンドには、特に限定されないが、タンパク質、ペプチド、抗体、核酸、糖誘導体及びこれらの組合せがある。若干の実施形態では、ナノ粒子はさらに標的化剤を含むことができる。その結果、造影剤として使用する場合、粒子は被験体の特定の罹患領域に対して標的化することができる。若干の実施形態では、ナノ粒子は血液プール剤として使用できる。
【0040】
コアを1以上のシェルで被覆することができる。若干の実施形態では、複数のコアを同一のシェルで被覆することができる。一実施形態では、単一のシェルがナノ粒子組成物中に存在するすべてのコアを被覆することができる。若干の実施形態では、個々のコアを1以上のシェルで被覆することができる。別の実施形態では、ナノ粒子中に存在するすべてのコアを2以上のシェルで被覆することができる。一実施形態では、個々のシェルはコンパニオンシェルとして同一の材料を含み得る。別の実施形態では、シェルは異なる材料を含み得る。コアが2以上のシェルで被覆される実施形態では、シェルは同一の材料又は異種の材料からなり得る。
【0041】
若干の実施形態では、シェルは複数のシラン部分を含んでいる。「複数のシラン部分」という用語は、1種の特定のシラン部分の複数の例、或いは2種以上のシラン部分の複数の例を意味する。1以上の実施形態では、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。シラン部分は、正に帯電した基又は負に帯電した基或いはいずれかの基の前駆体によるシラン部分の官能化中に化学的修飾を受けることがある。
【0042】
一実施形態では、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、同じ複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。かかる実施形態では、正味正に帯電した基はただ1つの正に帯電した基からなり、正味負に帯電した基はただ1つの負に帯電した基からなる。若干の実施形態では、1つの正に帯電した基で官能化されたシラン部分と1つの負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約1である。かかる実施形態では、シェルはほぼ等しい数のシラン官能化された正に帯電した基及びシラン官能化された負に帯電した基を含み得る。かかる実施形態では、ナノ粒子は中性の粒子として挙動し得る。
【0043】
若干の他の実施形態では、1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。別の実施形態では、複数のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、複数のうちの各シラン部分は正味正に帯電した基又は正味負に帯電した基で官能化されている。若干の実施形態では、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜約1.75の範囲内にある。若干の実施形態では、正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約1である。かかる実施形態では、シェルはほぼ等しい数のシラン官能化された正味正に帯電した基及びシラン官能化された正味負に帯電した基を含み得る。かかる実施形態では、ナノ粒子は中性の粒子として挙動し得る。
【0044】
1以上の実施形態では、複数のシラン部分は、シラン官能化された正味正に及び正味負に帯電した基に加えて別のタイプのシラン官能化基を含み得る。一実施形態では、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は中性基で官能化されている。かかる中性基の一例はアルキル基であるが、当業者は多くの可能な中性基が存在することを認識している。かかる実施形態では、シェルは、1以上のシラン官能化された正味正に帯電した基、1以上のシラン官能化された正味負に帯電した基、及び1以上のシラン官能化された中性基の混合物を含んでいる。若干の実施形態では、シラン官能化された帯電基とシラン官能化された中性基との比は約0.01〜約100の範囲内にある。かかる実施形態では、シェルは、複数のシラン官能化された正に帯電した基、複数のシラン官能化された負に帯電した基、及び2以上のシラン官能化された中性基を含み得る。シラン官能化された正味正に帯電した基及びシラン官能化された正味負に帯電した基は、共同してシラン官能化された帯電基を生成する。若干の他の実施形態では、シラン官能化された帯電基とシラン官能化された中性基との比は約0.1〜約20の範囲内にある。
【0045】
一実施形態では、すべてのシラン部分は同じタイプのもの(即ち、ただ1つのタイプのシラン部分)であり、すべての正味正に帯電した基は同じタイプのもの(即ち、ただ1つのタイプの正味正に帯電した基)であり、またすべての正味負に帯電した基は同じタイプのもの(即ち、ただ1つのタイプの正味負に帯電した基)であり得る。別の実施形態では、シラン部分は同じものであり得るが、すべての正味正に帯電した基又はすべての正味負に帯電した基は同じものでなくてもよい。例えば、シェルは2以上のタイプのシラン官能化された正味正に帯電した基及び2以上のタイプのシラン官能化された正味負に帯電した基を含み得る。一実施形態では、シェルは、第1のタイプの正味正に帯電した基で官能化されたあるタイプのシラン部分及び第2のタイプの正味負に帯電した基で官能化された同じタイプのシラン部分を含み得る。別の実施形態では、シェルは、第1のタイプの正に帯電した基で官能化されたあるタイプのシラン部分を複数含むと共に、2以上の異なるタイプの負に帯電した基で官能化された同じタイプのシラン部分を複数含み得る。即ち、一部のシラン部分は第2のタイプの負に帯電した基で官能化されると共に、一部のシラン部分は第3のタイプの負に帯電した基で官能化され得る。
【0046】
本明細書中で使用する「正味正に帯電した基」という用語は、単一の正に帯電した基、複数の正に帯電した基、或いは複数の正及び負に帯電した基の組合せであって、その正味電荷が正である組合せをいう。若干の実施形態では、正味正に帯電した基は、プロトン化第一アミン又は第四級アルキルアミンのような単一の正に帯電した基又は1つの正に帯電した基をいう。若干の実施形態では、単一又は複数の正に帯電した基はさらに、アルキル基又はアリール基のような1以上の中性基を含み得る。若干の実施形態では、正味正に帯電した基は複数の正に帯電した基を含み得る。かかる実施形態では、正に帯電した基は同一のものであってもなくてもよい。例えば、若干の実施形態では、正味正に帯電した基は複数のプロトン化ピリミジン及び複数のプロトン化第二アミンを含んでいる。若干の他の実施形態では、正味正に帯電した基はプロトン化ピリミジン、プロトン化第二アミン及び第四級アミンを含んでいる。若干の実施形態では、正味正に帯電した基は、複数の正に帯電した基、複数の負に帯電した基及び任意には1以上の中性基の組合せをいうことがある。かかる実施形態では、複数の正及び負に帯電した基は、組合せの正味電荷が正になるような比で存在している。正味正に帯電した基が複数の正に帯電した基、複数の負に帯電した基及び複数の中性基を含む実施形態では、正又は負に帯電した基或いは中性基は同一のものでも相異なるものでもよい。例えば、正味正に帯電した基は、組合せの正味電荷が正でありさえすれば、複数のプロトン化イミダゾール、複数のプロトン化第一アミン、複数の脱プロトン化カルボン酸、複数の脱プロトン化スルホン酸及び複数のアルキル誘導体を含み得る。
【0047】
同様に、「正味負に帯電した基」という用語は、単一の負に帯電した基、複数の負に帯電した基、或いは複数の正及び負に帯電した基の組合せであって、その正味電荷が負であるような比での組合せをいう。若干の実施形態では、正味負に帯電した基は、脱プロトン化カルボン酸又は脱プロトン化スルフィン酸のような単一の負に帯電した基又は1つの負に帯電した基をいう。若干の実施形態では、単一又は複数の負に帯電した基はさらに、アルキル基又はアリール基のような1以上の中性基を含み得る。若干の他の実施形態では、正味負に帯電した基は複数の負に帯電した基を含み得る。かかる実施形態では、負に帯電した基は同一のものであってもなくてもよい。例えば、一実施形態では、正味負に帯電した基は脱プロトン化スルホン酸、脱プロトン化ホスホン酸及び脱プロトン化カルボン酸を含み得る。若干の他の実施形態では、正味負に帯電した基は複数の脱プロトン化スルホン酸又は複数の脱プロトン化ホスホン酸を含んでいる。若干の実施形態では、正味負に帯電した基は、複数の正に帯電した基、複数の負に帯電した基及び任意には1以上の中性基の組合せをいうことがある。正味負に帯電した基が複数の正に帯電した基、複数の負に帯電した基及び複数の中性基を含む実施形態では、正又は負に帯電した基或いは中性基は同一のものでも相異なるものでもよい。例えば、正味負に帯電した基は、組合せの正味電荷が負でありさえすれば、複数のプロトン化イミダゾール、複数のプロトン化第一アミン、複数の脱プロトン化カルボン酸、複数の脱プロトン化スルホン酸及び複数のアルキル誘導体を含み得る。
【0048】
好適な正味正に帯電した基の例には、特に限定されないが、プロトン化第一アミン、プロトン化第二アミン、プロトン化第三アルキルアミン、プロトン化アミジン類、プロトン化グアニジン類、プロトン化ピリジン類、プロトン化ピリミジン類、プロトン化ピラジン類、プロトン化プリン体、プロトン化イミダゾール類、プロトン化ピロール類、第四級アルキルアミン、第四級イミダゾール類及びこれらの組合せがある。好適な正味負に帯電した基の例には、特に限定されないが、脱プロトン化カルボン酸、脱プロトン化スルホン酸、脱プロトン化スルフィン酸、脱プロトン化ホスホン酸、脱プロトン化リン酸、脱プロトン化ホスフィン酸及びこれらの組合せがある。
【0049】
若干の実施形態では、「正味正に帯電した基」又は「正味負に帯電した基」は、正に帯電した基又は負に帯電した基の前駆体をいう。かかる実施形態では、前駆体は二次的な又は後続の化学反応を受けて正に帯電した基又は負に帯電した基を生成する。かかる前駆体の例は図2及び図3に例示されている。
【0050】
若干の実施形態では、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は、スペーサー基を介して正味正に帯電した基又は正味負に帯電した基に連結されている。かかる実施形態では、シラン部分のケイ素原子がスペーサー基を介して正又は負に帯電した基に連結されている。別の実施形態では、各々のシラン部分がスペーサー基を介して正味正に帯電した基又は正味負に帯電した基に連結されている。スペーサー基は同一のものでも相異なるものでもよい。1以上の実施形態では、スペーサー基は、アルキル基、アリール基、置換アルキル基、置換アリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、エーテル、アミド、エステル、カルバメート、尿素、炭素原子数1〜10の直鎖アルキル基及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0051】
若干の実施形態では、シラン部分或いはシラン官能化された正味正に又は正味負に帯電した基は、前駆体トリアルコキシシランの加水分解生成物から導くことができる。若干の実施形態では、前駆体トリアルコキシシランは、(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド、3−(4,5−ジヒドロイミダゾール−1−イル)プロピルトリエトキシシラン及びこれらの組合せからなる群から選択される。別の実施形態では、前駆体トリアルコキシシランは、2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン、アセトキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0052】
本発明の別の態様は診断剤組成物に関する。かかる診断剤組成物は、前述した複数のナノ粒子10を含んでいる。一実施形態では、診断剤組成物はさらに、薬学的に許容されるキャリヤー及び任意には1種以上の賦形剤を含んでいる。一実施形態では、薬学的に許容されるキャリヤーは実質的に水であり得る。任意の賦形剤は、塩類、崩壊剤、結合剤、フィラー及び滑沢剤の1種以上を含み得る。
【0053】
一実施形態では、複数のナノ粒子は約50nm以下のメジアン粒度を有し得る。別の実施形態では、複数のナノ粒子は約10nm以下のメジアン粒度を有し得る。別の実施形態では、複数のナノ粒子は約6nm以下のメジアン粒度を有し得る。小さい粒度は、例えば腎臓及び他の器官からのクリアランスを容易にする点で有利であり得る。
【0054】
本発明の一態様は、複数のナノ粒子の製造方法に関する。一般に、1つの方法は、(a)コアを用意する段階、及び(b)複数のシラン部分を含むシェルをコア上に配設する段階を含んでいる。複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、複数のシラン部分のうちの1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化されている。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。
【0055】
1以上の実施形態では、コアを用意する段階は、1種以上の遷移金属を含む第1の前駆体材料を用意することを含んでいる。一実施形態では、第1の前駆体材料は有機酸と反応することで、1種以上の遷移金属を含むコアを生成する。「反応する」という用語は、反応体を混合してこれらを相互作用させることを含む。一実施形態では、第1の前駆体材料は分解することでコアを生成する。別の実施形態では、第1の前駆体材料は加水分解することでコアを生成する。一実施形態では、コアは金属酸化物を含み得る。金属酸化物コアは、有機酸の存在下で金属アルコキシドを加水分解することで合成できる。金属アルコキシドは、タンタルペンタエトキシドのようなタンタルアルコキシドであり得る。有機酸は、例えば、イソ酪酸のようなカルボン酸であり得る。加水分解反応は、1−プロパノール又はメタノールのようなアルコール溶媒の存在下で実施できる。ナノ粒子合成方法は当技術分野で公知であり、適当な材料からナノ粒子コアを製造するための任意適宜の方法が本方法での使用に適し得る。
【0056】
1以上の実施形態では、シェルを配設する段階は第2の前駆体材料を用意することを含んでいる。1以上の実施形態では、第2の前駆体材料はシラン部分又はシラン部分の前駆体を含んでいる。1以上の実施形態では、第2の前駆体材料はトリアルコキシシラン又はトリアルコキシシランの加水分解生成物を含んでいる。一実施形態では、シラン部分は1以上のアルコキシ基を含んでいる。シラン部分はコアと反応することで、シラン部分を含むシェルを形成し得る。1以上の実施形態では、シラン部分をコアと混合して反応させる。若干の実施形態では、シラン部分の前駆体はコアの存在下で加水分解反応を受けることができる。若干の実施形態では、正味正に帯電した基をシラン部分と反応させることで、シラン官能化された正味正に帯電した基が形成される。正味正に帯電した基とシラン部分との反応中には、シラン部分及び正味正に帯電した基の両方が化学的修飾を受けることがある。1以上の実施形態では、正味負に帯電した基をシラン部分と反応させることで、シラン官能化された正味負に帯電した基が形成できる。正味負に帯電した基とシラン部分との反応中には、シラン部分及び正味負に帯電した基の両方が化学的修飾を受けることがある。
【0057】
1以上の実施形態では、第2の前駆体材料は、シラン官能化された正味正に帯電した基、シラン官能化された正味負に帯電した基、或いは正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体で官能化されたシランを含んでいる。若干の実施形態では、シラン官能化された正味正に帯電した基又はシラン官能化された正味負に帯電した基は、コアの存在下で加水分解反応を受けることがある。
【0058】
若干の実施形態では、シラン部分は、1以上の正味正に又は正味負に帯電した基或いは正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体の1以上で官能化することができる。シラン部分が正味正に又は負に帯電した基の前駆体で官能化される実施形態では、コア上に配設されるシラン部分は現実には帯電していなくてもよく、続いて適当な試薬と反応させることで前駆体を正味正に又は正味負に帯電した基に転化することができる。1以上の実施形態では、第2の前駆体材料は、シラン官能化された正味正に又は正味負に帯電した基、或いはシラン官能化された正味正に又は負に帯電した基の前駆体(例えば、上述した前駆体トリアルコキシシランの1以上)を含んでいる。
【0059】
第2の前駆体材料のシラン部分が正味正に帯電した基の前駆体の1以上で官能化されている実施形態では、前駆体は化学反応/転化を受けて正味正に帯電した基を形成できる。かかる実施形態では、転化段階は第2の前駆体材料のシラン部分をコア上に配設した後に行うことができる。若干の実施形態では、転化段階をインサイチュで行うこともできる。転化段階は、コアの存在下における第2の前駆体材料の官能化シラン部分の脱プロトン化又はアルキル化を含み得る。同様に、第2の前駆体材料のシラン部分が正味負に帯電した基の前駆体の1以上で官能化されている実施形態では、前駆体は化学反応/転化を受けて正味負に帯電した基を形成できる。かかる実施形態では、転化段階は第2の前駆体材料のシラン部分をコア上に配設した後に行うことができる。若干の実施形態では、転化段階をインサイチュで行うこともできる。転化段階は、コアの存在下における第2の前駆体材料の官能化シラン部分の加水分解又は酸化を含み得る。
【0060】
段階の順序及び/又は組合せは様々に変化させ得ることが理解されよう。したがって、若干の実施形態に従えば、段階(a)及び(b)を逐次段階として実施することで、コア及び第2の前駆体材料からナノ粒子が形成される。限定ではなく例示を目的として示せば、若干の実施形態では、第1の前駆体材料は1種以上の遷移金属を含んでいる。この場合、コアは1種以上の遷移金属の酸化物を含み、段階(a)はさらに第1の前駆体材料の加水分解を含む。若干の実施形態に従えば、第1の前駆体材料は遷移金属のアルコキシド又はハライドを含み、加水分解プロセスは第1の前駆体材料をアルコール溶媒中で酸及び水と化合させることを含む。若干の実施形態では、シランは重合性の基を含むことができる。重合は、酸触媒縮合重合によって進行し得る。若干の他の実施形態では、シラン部分をコア上に物理的に吸着させてもよい。若干の実施形態では、シラン部分をさらに他のポリマーで官能化することができる。かかるポリマーは、水溶性かつ生体適合性のものであり得る。一実施形態では、かかるポリマーには、特に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリメタクリレート、ポリビニルスルフェート、ポリビニルピロリジノン及びこれらの組合せがある。
【0061】
別の実施形態では、コア及び第2の前駆体材料を互いに接触させることができる。一実施形態では、第2の前駆体材料は、有機官能性トリアルコキシシラン又は有機官能性トリアルコキシシランの混合物のようなケイ素含有化学種を含み得る。有機官能性トリアルコキシシランの1種以上が1以上の正味正に帯電した基又は1以上の正味負に帯電した基或いは正味正に又は負に帯電した基の前駆体を含み得る結果、各ナノ粒子は平均して1以上の正味正に帯電した基及び1以上の正味負に帯電した基或いは正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体を含み得る。一実施形態では、各ナノ粒子は平均して複数のシラン官能化された正味正に帯電した基及び複数のシラン官能化された正味負に帯電した基或いはシラン官能化された正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体を含み得る。他の実施形態では、コアは2以上のシラン部分を含む混合物で処理できる。一実施形態では、1つのシラン部分は正味正に帯電した基又は正味正に帯電した基の前駆体で官能化され、第2のシラン部分は正味負に帯電した基又は正味負に帯電した基の前駆体で官能化される。別の実施形態では、1つのシラン部分は正味正に又は正味負に帯電した基或いは正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体で官能化され、第2のシラン部分はいかなる正味正に又は正味負に帯電した基でも官能化されず、代わりに正味中性の基で官能化することができる。帯電したシラン部分は同時に又は逐次に添加できる。若干の実施形態では、1以上のシラン官能化された正味正に又は正味負に帯電した基或いは正味正に又は正味負に帯電した基の前駆体を、コア、非官能化シラン部分又は中性基で官能化されたシラン部分を含む反応混合物に同時に又は逐次に添加することができる。
【0062】
一実施形態では、酸化タンタルコアをカルボメトキシエチルトリメトキシシラン(CMETS)及びジメチルアミノプロピル−トリメトキシシランのようなシランの混合物と反応させることで、酸化タンタルコア及びシェルを含むナノ粒子であって、シェルが1以上のシラン官能化された正味正に帯電した基及び1以上のシラン官能化された正味負に帯電した基の前駆体を含むナノ粒子を製造することができる。この前駆体は後に適当な環境への暴露で負に帯電した基に転化できるが、かかる環境の特性は当業者には前駆体の正体及びそれに関係する化学的性質に基づいて理解されるであろう。このような転化は、インサイチュで或いは反応媒質から粒子を単離した後に実施できる。
【0063】
一実施形態では、本方法はさらに複数のナノ粒子を分別する段階を含む。分別段階は、複数のナノ粒子を濾過することを含み得る。別の実施形態では、本方法はさらに複数のナノ粒子を精製する段階を含み得る。精製段階は、透析、接線流濾過、ダイアフィルトレーション又はこれらの組合せの使用を含み得る。別の実施形態では、本方法はさらに精製ナノ粒子の単離を含む。
【0064】
上述した実施形態のいずれかと組み合わせて、若干の実施形態は、X線/コンピューター断層撮影又はMRI用の診断剤組成物を製造する方法に関する。かかる診断剤組成物は複数のナノ粒子を含んでいる。若干の実施形態では、複数のナノ粒子のメジアン粒度は約10nmを超えないのがよく、例えば約7nm以下であり、特定の実施形態では約6nm以下である。若干の実施形態に従えば、複数のナノ粒子の粒度はナノ粒子を哺乳動物の腎臓(例えば、ヒトの腎臓)から実質的に排出可能にするように選択できることが理解されよう。
【0065】
若干の実施形態では、本発明は、本明細書中に記載した複数のナノ粒子を含む診断剤組成物の使用方法に関する。若干の実施形態では、本方法は、若干の例では生きている被験体(例えば、哺乳動物)であり得る被験体に診断剤組成物をインビボ又はインビトロで投与する段階、続いてX線/CT又はMRI装置を用いて被験体の画像形成を行う段階を含んでなる。ナノ粒子は、上述したようにコア及びシェルを含み、シェルは1以上のシラン官能化された正味正に帯電した基及び1以上のシラン官能化された正味負に帯電した基を含んでいる。正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在している。一実施形態では、1以上のシラン部分は1つの正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は1つの負に帯電した基で官能化されている。一実施形態では、コアは酸化タンタルを含んでいる。別の実施形態では、コアは超常磁性酸化鉄を含んでいる。ナノ粒子は、各種の公知方法によって被験体中に導入できる。被験体中にナノ粒子を導入するための方法の非限定的な例には、静脈内、動脈内又は経口投与、皮膚適用、及び筋肉、皮膚、腹腔或いは他の組織又は体腔中への直接注入がある。
【0066】
別の実施形態では、本方法は、診断剤組成物を被験体に投与する段階及び診断装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる。診断装置はイメージング方法を使用する。その例には、特に限定されないが、MRI、光学イメージング、光学コヒーレンス断層撮影、X線コンピューター断層撮影、陽電子放出断層撮影及びこれらの組合せがある。診断剤組成物は、上述したように複数のナノ粒子10を含んでいる。
【0067】
一実施形態では、上述した診断造影剤の使用方法はさらに、診断装置を用いて被験体への診断剤組成物の送達をモニターする段階、及び被験体を診断する段階を含んでいる。この方法では、一般に医学診断イメージング装置の通常の動作に合わせて、データをコンパイルして分析することができる。診断剤組成物はX線又はCT造影剤(例えば、酸化タンタルコアを含む組成物)であり得る。診断剤組成物は、約100〜約5000ハウンスフィールド単位の範囲内のCT信号を与えることができる。別の例では、診断剤組成物はMRI造影剤(例えば、超常磁性酸化鉄コアを含む薬剤)であり得る。
【0068】
本発明の一実施形態は、本明細書中に記載したナノ粒子10(例えば、酸化タンタル又は酸化鉄コアを有するナノ粒子)が被験体内に分布した範囲を測定するための方法を提供する。被験体は、哺乳動物或いは組織試料又は細胞を含む生物学的材料であり得る。本方法はインビボ又はインビトロ方法であり得る。ナノ粒子は、各種の公知方法によって被験体中に導入できる。被験体中にナノ粒子を導入するための方法の非限定的な例には、上述した公知方法のいずれかがある。一実施形態では、本方法は、(a)被験体中にナノ粒子を導入する段階、及び(b)被験体内におけるナノ粒子の分布を測定する段階を含んでいる。被験体内におけるナノ粒子の分布は、前述したもののような診断イメージング技法を用いて測定できる。別法として、生物学的材料中におけるナノ粒子の分布は元素分析によって測定できる。一実施形態では、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)を使用することで、生物学的材料中におけるナノ粒子成分の濃度/量を測定できる。
【0069】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を実証するために示される。当業者であれば、以下の実施例中に開示される方法は、単に本発明の例示的な実施形態を表すにすぎないことが理解されるはずである。しかし当業者であれば、本開示内容に照らして、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱することなく記載された特定の実施形態に数多くの変更を加えることができ、それでも同様又は類似の結果が得られることが理解されるはずである。
【実施例】
【0070】
本発明の実施は、以下の実施例からなお一層完全に理解されよう。これらの実施例は例示のみを目的として本明細書中に示されるものであって、決して本発明を限定するものと解すべきでない。
【0071】
実施例セクションで使用される略語は、以下に示す通りである。「mg」:ミリグラム、「mL」:ミリリットル、「mg/mL」:ミリグラム/ミリリットル、「mmol」:ミリモル、「μL」及び「μLs」:マイクロリットル、「LC」:液体クロマトグラフィー、「DLS」:動的光散乱、「DI」:脱イオン水、「ICP」:誘導結合プラズマ。
【0072】
特記しない限り、すべての試薬用化学薬品は受け入れたままで使用し、すべての水溶液の調製にはMilli−Q水を使用した。
【0073】
実施例1
酸化タンタルナノ粒子の合成並びに2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン及び3−(トリメトキシシリル)プロピル)プロパン−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリドとの反応による酸化タンタルナノ粒子コア上へのシェル形成
2Lフラスコ中の680mLの無水メタノール(Aldrich SureSeal)に、グローブボックス内において窒素下で10mLのイソ酪酸及び2.78mLの重水を室温で添加した。この混合物を40分間撹拌した後、タンタルエトキシド(37.36g)を滴下した。この添加にはおよそ15〜20分を要した。加水分解反応物を5時間撹拌した後、フラスコをグローブボックスからと取り出し、シュレンクライン/真空ラインマニホルドを用いて不活性化した。次いで、3−(トリメトキシシリル)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(47.44g、約50%メタノール溶液として販売されている)と化合した2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン(19.16g)を含むトリメトキシシランの混合物をできるだけ手早く2L反応器に直接添加した。混合物を窒素下で一晩還流した。翌日、反応混合物を撹拌しながら室温に冷却し、6mLの0.15M水酸化アンモニウムを滴下した。3時間後、60mLのMilli−Q水を滴下し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。次に、360mLの0.67M HClを撹拌下で滴下し、反応物を50℃で5.5〜6時間加熱した(pH1〜2)。冷却後、反応物を5.92M水酸化アンモニウムで中和して7.5〜8のpHを得た。メチルエステルを加水分解してカルボン酸基にするため、すべての揮発分を50℃での回転蒸発によって除去し、同じ2L反応器(キャップ付き)内において内容物を室温で撹拌しながら残留固体を250mLの5M水酸化アンモニウム溶液で3日間処理した。次いで、加水分解反応物を3M HClでpH8にすることですべての水酸化物を中和した。バッチの精製のため、0.45ミクロンのフィルターで濾過し、次いで接線流濾過(TFF)法を用いて分別した。分別のためには、50kDa膜を通してバッチを送り、得られた透過液を5kDaダイアフィルトレーションに付した。50kDa濾過は、ポリエーテルスルホン(PES)製の0.1m2 50kDa分子量カットオフ膜を用いて実施した。フラスコからのバッチをTFFリザーバーに添加し、フラスコを200mLの0.5M NaClで2回洗浄し、各洗液をリザーバーに添加した。16Lの0.5M NaClをリザーバーに連続的に添加/供給し、すべての透過液を捕集した後、バッチを約1.5Lに濃縮し、次いでさらに2Lの水で洗浄した。次に、捕集した50kDa透過液の全量を、5kDa再生セルロース(RC)膜(0.3m2)に対するダイアフィルトレーションに付した。生成物をリザーバー内で濃縮し、18Lの水を用いて保持液(retenate)を洗浄した。図4に模式的に示される最終生成物は、酸化タンタルコア及びシランシェルを有する公称粒度5ナノメートルのナノ粒子であって、シェルは第四級アミンで官能化されたシラン部分及びカルボン酸で官能化されたシラン部分を公称的に等しい量で含んでいた。
【0074】
特性表示:DLS:Z(eff) 4.8nm、Si/Taモル比:1.52(ICP:32.5mg Ta/g及び7.75mg Si/g)、(Ta重量に基づく)収率:78%、1H NMR(ppm):0.62(トリメチルアンモニウムシラン由来のメチレン)、0.83(カルボキシエチルシラン由来のメチレン)、1.89(トリメチルアンモニウムシラン由来のメチレン)、2.23〜2.35(カルボキシエチルシラン由来のブロードピーク)、3.09(トリメチルアンモニウムシラン由来のN−メチル基)、3.3(トリメチルアンモニウムシラン由来のメチレン)。
【0075】
実施例2
酸化鉄ナノ粒子の合成並びに2−(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン及びジメチルアミノプロピル−トリメトキシシランとの反応による酸化鉄ナノ粒子コア上へのシェル形成
100mL三つ口フラスコに10mLの無水ベンジルアルコール及び353mg(1mmol)のFe(acac)3を仕込み、N2を5分間吹き込むことで混合物を脱気した。反応混合物を密封し、170℃で4時間加熱した。混合物を室温に冷却し、75mLのテトラヒドロフランを添加し、次いで521mg(2.5eq.)のカルボメトキシエチルトリメトキシシラン(CMETS)及び518mg(2.5eq.)のジメチルアミノプロピル−トリメトキシシラン(DMAPS)を添加した。混合物を圧力容器に移し、50℃で2時間加熱し、冷却し、18mLのイソプロピルアルコール及び30mLの濃水酸化アンモニウムを添加した。混合物を密封し、50℃で16時間加熱した。混合物を冷却し、下方の水性層を分離し、20mLのヘキサンで2回洗浄した。残留するヘキサン及びテトラヒドロフランを回転蒸発によって除去し、10000MW再生セルロース透析チューブを用いて残った物質を水に対して透析し、動的光散乱により測定して12nmの粒度を有する粒子の水溶液を得た。最終生成物は酸化鉄コア及びシランシェルを有する公称粒度12ナノメートルのナノ粒子であって、シェルは第四級アミンで官能化されたシラン部分及びカルボン酸で官能化されたシラン部分を公称的に等しい量で含んでいた。
【0076】
実施例3
ナノ粒子の生体分布試験
体重150〜500グラムの範囲内のサイズを有する雄Lewisラットを用いてインビボ試験を実施した。ラットは標準的なハウジング内に収容し、食物及び水を随意に与えると共に、12時間昼夜照明サイクル下に置いた。生体分布試験のために使用したすべての動物は、他の点では未処置の健常被験体であった。
【0077】
酸化タンタルコアを有するナノ粒子をフィルター滅菌した水又は食塩水溶液として投与した。投与は、側尾静脈中に挿入した26Gカテーテルを通して、イソフルラン麻酔(導入4%、維持2%)下で実施した。注射量は注射液中のナノ粒子濃度及びラットのサイズに基づいて決定したが、一般に齧歯類血液量の10%未満であった。標的用量は、体重1kg当たり100mgのコア金属(例えば、タンタル)であった。注射後、動物を麻酔から解放し、悪影響に関する観察期間後に通常のハウジングに戻した。それから最短数分乃至最長6ヶ月の期間後に、ラットを安楽死させ、検査対象器官を回収し、秤量し、ICP分析によって総金属(例えば、タンタル)含有量を分析した。注射液の正確な濃度を求めるため、器官と共に注射物質の試料も分析に供した。これらのデータを総合することで、検査対象組織中に残留している注射用量のパーセント(「%ID」)を求めた。これらのデータは、%ID/器官又は%ID/組織1グラムとして報告された。実験は一般に各時点において四重反復試験ラットを用いて実施され、実験誤差(±標準偏差)を求めることができた。
【0078】
【表1】

器官当たりのタンタル保持量が、注射用量に対する分率として表1中に示されている。同等なサイズのPHS被覆ナノ粒子は、試験したPMZ被覆ナノ粒子のいずれよりもはるかに高いレベル(ほぼ1桁高いレベル)で保持されている。
【0079】
同様に、超常磁性酸化鉄(SPIO)粒子を製造してPHS又はPMZコーティングで被覆した場合、PMZ被覆粒子は減少した組織保持量を示す。かかる粒子を合成し、ラットに投与し、次いで注射後経時的にラットの磁気共鳴イメージングを行った。PMZ−SPIOに関して肝臓中に認められたMR信号の量は、PHS−SPIOに関して認められた量より実質的に少なかった。この結果は、本明細書中に記載された粒子コーティングを相異なる粒子コア上に使用することで同じ所望の結果が得られることを実証している。
【0080】
以上、本明細書中には本発明の若干の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の真の技術思想に含まれるこのような修正及び変更のすべてを包含することを理解すべきである。
【符号の説明】
【0081】
10 ナノ粒子
20 コア
30 シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア(20)及びシェル(30)を含んでなるナノ粒子(10)であって、
シェル(30)は複数のシラン部分を含み、
1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化され、正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在する、ナノ粒子。
【請求項2】
正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比が約0.25〜約1.75の範囲内にある、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
コア(20)が遷移金属を含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項4】
正味正に帯電した基又は正味負に帯電した基で官能化された1以上のシラン部分が前駆体トリアルコキシシランの加水分解生成物を含む、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項5】
ナノ粒子(10)が約50nm以下の粒度を有する、請求項1記載のナノ粒子。
【請求項6】
複数のナノ粒子(10)を含んでなる組成物であって、1以上のナノ粒子(10)は請求項1記載のナノ粒子である、組成物。
【請求項7】
コア(20)及びシェル(30)を含むナノ粒子(10)を含んでなる組成物であって、
コア(20)は酸化タンタルを含み、シェル(30)は複数のシラン部分を含み、
1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化され、正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在し、
ナノ粒子(10)は約6nm以下の粒度を有し、
正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜1.75の範囲内にある、組成物。
【請求項8】
コア(20)及びシェル(30)を含むナノ粒子(10)を含んでなる組成物であって、
コア(20)は超常磁性酸化鉄を含み、シェル(30)は複数のシラン部分を含み、
1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化され、正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在し、
ナノ粒子(10)は約50nm以下の粒度を有し、
正味正に帯電した基で官能化されたシラン部分と正味負に帯電した基で官能化されたシラン部分との比は約0.25〜1.75の範囲内にある、組成物。
【請求項9】
診断剤組成物として使用するための、請求項6乃至請求項8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
複数のナノ粒子(10)の製造方法であって、
(a)コア(20)を用意する段階、並びに
(b)複数のシラン部分を含むシェル(30)をコア(20)上に配設する段階であって、1以上のシラン部分は正味正に帯電した基で官能化され、1以上のシラン部分は正味負に帯電した基で官能化され、正味正に帯電した基及び正味負に帯電した基は異なるシラン部分上に存在する段階
を含んでなる方法。
【請求項11】
コア(20)を用意する段階が、1種以上の遷移金属を含む第1の前駆体材料を用意することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
シェル(30)を配設する段階が、第2の前駆体材料を用意し、第2の前駆体材料をコア(20)と反応させることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項6記載の組成物を被験体に投与する段階、及び診断装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる使用方法。
【請求項14】
請求項7記載の組成物を被験体に投与する段階、及びX線装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる使用方法。
【請求項15】
請求項8記載の組成物を被験体に投与する段階、及び磁気共鳴イメージング装置を用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる使用方法。
【請求項16】
診断剤として使用するための診断剤組成物の製造における、請求項1記載のナノ粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−525350(P2012−525350A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507726(P2012−507726)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055685
【国際公開番号】WO2010/125088
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】