説明

診断システム用安全アプローチ

本発明は、複数の試料を汚染物質の存在に関して分析するための診断用安全方法、診断デバイス、コンピュータプログラムおよび診断システムを提供する。より詳しくは、本発明は、重複する診断結果に基づいて複数の試料を分析するための診断用安全方法、診断デバイス、コンピュータプログラムおよび診断システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、汚染の存在に関して多数の試料を分析するための、診断安全方法、診断デバイス、コンピュータープログラムおよび診断システムを提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
分析手順中の汚染および産物の汚染は、科学、健康ケアおよび産業の多くの分野における共通の問題である。特に食品産業および医療サービスについて、品質管理規制によって、病原菌が完全にない環境は達成可能でないが、細菌、ウイルスおよび真菌のような病原菌の存在が厳しく管理されなければならないことが要求される。IVDデバイスについて、患者の感染を回避し、適切な診断を保証するために汚染が回避される必要がある。科学に関して、このような生物学的汚染には偽結果をもたらす測定に対して劇的な効果を有し得る。
【0003】
製品およびプロセスの量を高めるための要求が増大するために、高程度の自動化および並行化が、特に試料容積および結果までの時間を最適化し、同時に高い感度および低い不首尾(failure)率を提供する操作要求に基づいて、装置化および自動化の精度および信頼性に高い要求を要する産業および健康ケアにおいて必要とされる。
【0004】
IVDのための現在の診断システムおよび医学適用は、「単一不首尾」を検出する特定の安全測定を利用し、これは潜在的に機能不全および誤診をもたらし得る。この特定の安全アプローチは、機能不全または不首尾の場合において偽結果を作り出し、不首尾検出のための特定の試験装置を付加することによりこの処理工程の信頼性を高める、最大のポテンシャルを生じる最も重要な処理工程を同定することに基づいている。例は、例えば、個々のセンサー(光障壁、温度センサー、モーター、コントローラー)のための自己試験、ピペッティング工程(アスピレーションおよび容積の分配)の検査または処理温度である。結果的にこれらのアプローチはシステムの特定の部分だけが付属装置を付加することで確実にされるという欠点を有する。
【0005】
透析装置のための制御システムがUS 6,868,309に記載されている。WO 01/14593は品質を確実にした生物学的試料を生み出す方法を記載し、US 5,591,573は血液試料を試験する方法を記載する。Mortimer, J.,は献血された血液をウイルスゲノムについて試験するプール戦略を記載する(Vox Sang 73(1997)93-96)。
【0006】
例えば、鉄道または空輸送の領域における他の安全性が重大な適用について、重複多チャネル構造が適用されるが(Graband, M., et al, Signal+Draht 80(1988)199-204)、重複チャネル結果の比較が、1つ以上の不首尾を検出するために使用され得る。なお、システム全体は安全アプローチによって確実にされる。
【0007】
本発明は、診断結果の安全およびスループットのための要求を満たす診断システムのための新規安全アプローチを提供する。
【0008】
(発明の要約)
本発明は、試料を分析することができる、診断システムのための安全方法、診断デバイス、診断システムおよびコンピュータープログラムに関する。
【0009】
本発明の一局面は、
a)第一試料のアリコートを得る工程、
b)該アリコートを少なくとも2つのアリコート部分に分ける工程、
c)汚染の存在に関して該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれを同時に分析する工程、ならびに
d)該試料中の汚染の存在または非存在を確認し、および/または診断システムの不首尾を検出するために、工程c)における該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれについて得られた試料結果を比較する工程
を含み、該多数の試料の全ての試料が分析されるまで工程a)〜d)が該多数の試料に由来する別の試料について繰り返される、汚染の存在に関して多数の試料を分析する診断システムのための安全方法である。
【0010】
本発明を通して、診断システムは、診断結果を提供し、この診断結果が信頼できるということは勿論最も重要である。従って、特別な注意が該診断システムの結果安全を最大化にするように必要とされなければならないが、同時に適切なスループット、費用および試料容積を維持する。本発明の安全方法は、例えば、スループットにも必要とされる試料容積にも影響を与えずに高い安全を有する試料結果を提供し得る。本発明において、句「試料結果」は、当業者に公知の診断技術で得られ得るあらゆる種類の測定結果をまとめる。試料結果の例は、質量分光測定法で得られた検体の質量のような数値結果またはリアルタイムPCRで得られた増殖曲線のような測定値セットである。
【0011】
本発明の安全方法は、汚染の存在について試料を分析する。安全方法の適用に依存して、このような汚染は、細菌、ウイルス、真菌、タンパク質もしくは核酸のような生物学的汚染、または毒素薬剤のような化学汚染である。最後に、分析試料が特定の汚染を含む場合であれ含まない場合であれ安全方法は確認されなければならない。
【0012】
特定の試料中の汚染の存在または非存在の確認に加えて、本発明の安全方法はまた、診断システムの不首尾を検出する。一般に、特定の結果の比較が規定された基準を満たさない場合、診断システムの不首尾が検出される。このような場合に、試料は、「汚染」(反応)または「非汚染」(非反応)と名づけられるだけでなく、適用に依存して分析が例えば、他の方法で繰り返され、無視されるか、または試験され得る。本発明の特定の態様において、診断システムの不首尾は、再発エラーを検出するために記録される。
【0013】
本発明の安全方法はまた、単一試料で実施され得るが、スループットが維持され得、多様な分析が方法の安全を改善するために多数の試料が試験される場合にその能力が利用される。
【0014】
本発明の安全方法は、特定試料のアリコートが少なくとも2つのアリコート部分に分けられるという原理(principal)に基づく。これらの少なくとも2つの同一アリコート部分は重複診断結果を提供するために同時に分析される。本発明の性能について、少なくとも2つの同時分析が同時に実施されるということが必要であるだけでなく、同一診断デバイスハードウェアを有することも必要である。
【0015】
従って、該アリコート部分のそれぞれについて、別々の診断デバイスまたは単一診断デバイス内で別々の処理レーンが提供されなければならない。少なくとも2つの試料結果の比較が確実にされる場合のみに、分析の安全を改善することが可能である。どのアリコート部分もそれぞれの潜在的な汚染の部分だけをわずかに含むために、最初のアリコートの少なくとも2つのアリコート部分への分割は方法の感度に影響を与えることに注意されたい。感度におけるこの損失は、特定の適用について重要である場合、効果は後に説明される特別な組み合わせ手順によって少なくとも部分的に補正され得る。
【0016】
安全方法は、該複数の試料の全試料が分析されるまで別の試料について繰り返される。
【0017】
本発明の別の局面は、
a)多数の試料から選択された試料の群の各一員から得られた混合試料のアリコートを提供する工程、
b)該混合試料を少なくとも2つのアリコート部分に分ける工程、
c)汚染の存在に関して該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれを同時に分析する工程、ならびに
d)該試料の群の汚染の存在または非存在を確認し、および/または診断システムの不首尾を検出するために、工程c)における該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれについて得られた試料結果を比較する工程
を含み、該多数の試料の全試料が分析されるまで工程a)〜d)が該多数の試料に由来する別の群の試料について繰り返される、汚染の存在に関して多数の試料を分析する診断システムのための安全方法である。
【0018】
本発明による安全方法のこの態様において、混合試料が分析される。このような混合試料は特定数の試料からのアリコートを含むが、各試料から、好ましくは同じ容積を有するアリコートが使用される。特定の混合試料に対するアリコートに寄与する各試料は試料のそれぞれの群の一員であり、該多数の試料の各試料は、試料の唯一の群の一員である。混合試料の使用は、試料スループットを増大するが、単一の試料から群の試料までの汚染についての情報を減少させることに注意されたい。したがって、提示情報のこの態様は、多数の試料が分析される必要がある適用に有用である。汚染が試料の群中に検出される場合、群全体は汚染されているものとしてみなされる。任意に、群一員のそれぞれは結果的に、該群の1つ以上の汚染試料を見つけるために別々に分析され得る。
【0019】
本発明のなお別の局面は、
A)試料の重複診断結果を得るためにそれぞれが試料投入手段を備える少なくとも2つの同一処理レーンおよび該試料の分析のための手段、ならびに
B)該試料中の汚染の存在または非存在を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するために、少なくとも2つの同一処理レーンの該重複診断結果の比較のための手段
を含む、汚染の存在に関して試料を分析することができる診断デバイスである。
【0020】
本発明による汚染の存在に関して試料を分析することができる診断デバイスは、試料の重複診断結果を生じる少なくとも2つの同一処理レーンを有する。該診断デバイスの処理レーンが同一である場合のみに、少なくとも2つの重複試料結果が分析の安全を改善するために使用され得る。
【0021】
本発明のさらに別の局面は、
aa)汚染の存在に関して試料の少なくとも2つの重複診断結果を得る工程、
bb)該試料中の汚染の存在または非存在を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するために該重複診断結果を比較する工程
を含む、汚染の存在に関して試料を分析するための診断デバイスによって実施可能なコンピュータープログラムである。
【0022】
本発明のさらなる局面は、
AA)診断デバイス、および
BB)本発明によるコンピュータープログラム
を含む、汚染の存在に関して試料を分析するための診断システムである。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明の一局面は、
a)第一試料のアリコートを得る工程、
b)該アリコートを少なくとも2つのアリコート部分に分ける工程、
c)汚染の存在について該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれを同時に分析する工程、
d)該試料中の汚染の存在または非存在を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために工程c)における該少なくとも2つのアリコート部分について得られた試料結果を比較する工程、
を含み、多数の試料の全試料が分析されるまで工程a)〜d)が該多数の試料に由来する別の試料について繰り返される、汚染の存在に関して多数の試料を分析する診断システムのための安全方法である。
【0024】
本発明による好ましい安全方法は、該試料中の汚染の存在または非存在を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために、各試料が内部対照を含み、工程c)における該分析が該試料結果の比較に加えて、工程d)で任意に比較される各アリコート部分のためのさらなる対照結果を提供する方法である。
【0025】
本発明を通して、内部対照は、始めから試料中に存在する化合物または分析前に試料に対してスパイク(spike)される化合物である。このような内部対照は、工程c)における試料分析中のさらなる対照結果を提供する。両方の場合において、試料中の該化合物の正確な量を知ること、または予測される対照結果を少なくとも知ることが重要である。得られた対照結果が予測対照結果の特定の範囲内である場合、対照結果は、本発明を通して「妥当(valid)」と呼ばれる。
【0026】
本発明による別の好ましい安全方法において、工程c)における該少なくとも2つのアリコート部分のそれぞれの該分析は、同一分析器で同時にまたは少なくとも2つの同一処理レーンを有する1つの分析器で同時に実施される。
【0027】
以前に言及したように、少なくとも2つの同時分析は、同じ時間点でだけでなく、同一の診断デバイスハードウェアでも実施される。これは、同一の分析器または少なくとも2つの同一処理レーンを有する1つの分析器を提供することによって確実にされ得る。同一処理レーンは、同一試料投入手段および試料結果を得るための該試料の分析のための同一手段を有する必要がある。このような方法で得られた結果は、本発明を通して「重複(redundant)結果」と呼ばれる。
【0028】
また、本発明による好ましい安全方法において、該さらなる対照結果が各同一分析器または少なくとも2つの処理レーンのそれぞれで同時に得られる。
【0029】
内部対照の使用によって、更なる対照結果が同一分析器または1つの分析器の同一処理レーンでの各アリコート部分の分析中に同時に得られる。すなわち、各試料結果について、さらなる対照結果が得られる。
【0030】
本発明によるなお別の好ましい安全方法において、工程a)の該アリコートは、2〜4アリコート部分に分けられ、工程c)における該分析は、2〜4の同一分析器または2〜4の同一処理レーンを有する1つの分析器で同時に実施される。
【0031】
以前に言及された感度問題のために、汚染はすぐに検出できない量に達するために、試料の最初のアリコートを多数のアリコート部分に分けることは意味がない。さらに、各アリコート部分について、同一分析器または1つの分析器の同一処理レーンが提供されなければならない。従って、最初のアリコートを2〜4のアリコート部分に分けることが好ましい。
【0032】
本発明による別の好ましい安全方法は、工程a)において、該アリコートが該多数の試料から選ばれた試料の群の各一員から得られた混合試料のアリコートであり、該混合試料は工程b)で少なくとも2つのアリコート部分に分けられ、該試料の群中の汚染の存在または非存在を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために工程d)における試料結果の比較が実施される、方法である。
【0033】
以前に言及したように、このような混合試料は、特定数の試料からのアリコートを含むが、各試料からのアリコートは好ましくは同じ容積を有し、特定の混合試料に対するアリコートに寄与する各試料は、それぞれの試料の群の一員であるが、該多数の試料の各試料は試料の唯一の群の一員である。
【0034】
本発明によるより好ましい安全方法において、該試料の群は、該多数の試料からの2〜4の試料を含み、および/または該混合試料は、2〜4アリコート部分に分けられる。
【0035】
該混合試料は、異なる方法で使用され得る。特定の試料の群が、3員を有する場合、例えば、各一員からの等しいアリコートを含む混合試料が3アリコート部分に分けられ、それぞれは各最初のアリコートの1/3を含む。他方、群の3員からの混合試料はまた、2アリコート部分に分けられ得、それぞれは各最初のアリコートの1/2を有する。要約すると、試料の群あたりの一員数およびアリコート部分の数は所望のスループット、試料分解能および感度を得るために自由に選ばれ得る。
【0036】
本発明による別のより好ましい安全方法において、該多数の試料の全試料が分析されるまで、工程a)〜d)が該多数の試料に由来する別の試料の群について繰り返される。
【0037】
本発明において、該別の試料の群は試料の最初の群と同じ数の一員を有すること、またはアリコート部分の数は各試料の群について同じであることは必ずしも必要ではない。
【0038】
試料結果および任意に対照結果に基づいて、本発明による安全方法は、試料または試料の群の分析後に3つの異なる状況、すなわち、汚染の存在、汚染の非存在、または分析の不首尾の間で決定され得る。
【0039】
本発明による好ましい安全方法において、
(i)工程c)における各分析は試料結果を提供し、工程d)で比較された該試料結果が等しい、または、
(ii)工程c)における各分析は試料結果を提供し、工程d)で比較された該試料結果が異なり、対照結果が妥当である、または
(iii)工程c)における全ての分析が試料結果を提供せず、対照結果が妥当である場合に、汚染の存在が確認される。
【0040】
本発明による別の好ましい安全方法において、
(i)工程d)で比較される工程c)からの試料結果が異なる、または
(ii)全ての対照結果が妥当でない場合に、診断システムの不首尾が検出される。
【0041】
本発明によるなお別の好ましい安全方法において、工程c)における分析が試料結果を提供せず、対照結果が妥当である場合に、汚染の非存在が確認される。
【0042】
試料結果(Si)および対照結果(Ci)の異なる組み合わせの結果は、図1に要約される。試料結果のそれぞれの間での差が特定の所定の閾値以下である場合に、本発明を通して試料結果は等しい(Si等しい)ことに注意されたい。結果的に、少なくとも1対の試料結果間での差が非常に大きい場合に、試料結果が、本発明を通して「試料不首尾」と名づけられる不首尾に対応して異なる(Si等しくない)。さらに、工程c)における全ての分析が試料結果を提供せず、特定数の分析が試料結果を提供しない場合に、試料結果は等しくないである。
【0043】
対照結果に関して、2つの異なる状況がある。予測される対照結果が既知であるために、対照結果は「妥当」(Ci妥当)と名づけられ、予測される対照結果に対する差は、特定の所定の閾値以下である。結果的に、予測される対照結果からの差が非常に大きい場合に、対照結果は、本発明を通して対照不首尾と名づけられる不首尾に対応して「妥当でない」。
【0044】
工程c)における分析が、試料結果を提供せず(Si=0)、対照結果が妥当である場合に、汚染は検出されず、試料または試料の群は「非反応性」である。
【0045】
本発明による別の好ましい安全方法は、診断システムの検出された不首尾が記録され、診断システムの不首尾履歴を作製しおよび/または不首尾率を算出し、診断システム全体が、不首尾率が定義された閾値を越える場合に、除外される方法である。
【0046】
本発明によるより好ましい安全方法は、対照不首尾が、各同一診断デバイスまたは1つの診断デバイスの各同一の処理レーンについて別々に記録される方法である。
【0047】
不首尾履歴における対照不首尾および試料不首尾の記録が診断デバイスの性能に関して異なる重要な説明に使用され得る。検出された対照不首尾が少なくとも2つの診断デバイスまたは1つの診断デバイスの少なくとも2つの処理レーンで別々に記録される場合、これによって、分析手順の高い不首尾率が主に1つの診断デバイスまたは処理レーンと関係するかどうかが確認され得る。
【0048】
多数の不首尾履歴を用いて、高い不首尾率がさらなる分析から除外され得る特定の試薬ロットと相関する場合、検出される不首尾は例えば、説明するための試薬ロットと相関され得る。さらに、不首尾相関の他の態様は、検出方法またはデバイス説定に依存して、本発明の範囲内で可能である。診断デバイスは例えば、マルチウェルプレート処理に基づく場合、検出された不首尾をプレート内のウェル位置と相関することが可能である。
【0049】
以前に言及されるように、どのアリコート部分も潜在的な汚染のそれぞれの部分をわずかに含むために、最初のアリコートの少なくとも2つのアリコート部分への分割は、方法の感度に影響を与える。感度におけるこの損失は特定の適用のために重要である場合、効果が得られた試料結果の組み合わせによって少なくとも部分的に補正され得る。
【0050】
本発明によるなお別の好ましい安全方法は、工程c)における各分析について得られた試料結果が合わされ、該試料中の汚染の存在または非存在を確認する組み合わせ工程e)をさらに含む。
【0051】
句「試料結果の組み合わせ」は、工程c)における各分析から得られた試料結果が汚染の存在に関して単一の説明を作成するために合わされることを表すために、本発明を通して使用される。この組み合わせアプローチのために、潜在的な汚染を検出するデータ点の量が、工程c)で得られた試料結果の組み合わせによって増大されるが、各試料結果は独立の分析結果として処理される。結果として、分析の統計のウェイトが増大し、測定の標準偏差が減少する(例えば、Lorenz, 「Grundbegriffe der Biometrie」,Gustav Fischer Verlag, 1996を参照)。
【0052】
本発明によるより好ましい安全方法において、該試料結果の組み合わせが、安全方法の感度を増大する。
【0053】
試料結果の組み合わせおよび対応する試料結果の分布の減少による感度の増大(感度増大ΔS)は、図2に概略として例示される。一般に、任意の分析手順の感度は、使用される分析技術のバックグラウンドのために制限される(「ブランクの限界」(LOB))。それぞれのバックグラウンドシグナルは、標準偏差(2SB)で特徴付けられる分布(図2における点線)を有する。
【0054】
試料の結果も標準偏差を特徴とする分布を有するため、検出限界(LOD)は、それより下で、バックグラウンド分布および試料の結果分布それぞれの2秒間隔が重なり始めるシグナル閾値と規定される。その結果、データ点の増加により試料の結果の2秒間隔が減少され得る場合、LODは、より低い値にシフトされ得る。この効果は、図2の実線および点線によって示される。ここで、LOD(破線)は、感度増大ΔSに相当する2s(破線)から2s’(実線)までの分布幅の減少により、LOD’(実線)に減少され得る。
【0055】
本発明による別のより好ましい安全方法において、試料の結果の前記組合せは、さらなるハードウェア補正工程を含む。
【0056】
本発明を通して、任意の感度回復について組み合わせられる試料の結果は、種々の診断デバイスまたは1つの診断デバイスの異なる処理レーンにおいて得られる。これらの診断デバイスまたは処理レーンは同一であることが想定されるが、そのバックグラウンドシグナルにわずかな違いがある。したがって、試料の結果は、感度回復の結果の組合せの妥当性を確保するため、これらのハードウェアの違いに対して補正され得る。種々の診断デバイス間または異なる処理レーン間のハードウェアの違いに対するこの補正は、本発明を通して、ハードウェア補正工程と呼ばれる。
【0057】
本発明による安全方法は、汚染物質を有し得るすべての種類の試料に使用され得る。複数の試料中の汚染物質の検出の目的は、例えば、品質管理の問題、供給源の汚染分析または汎発流行病のスクリーニングである。
【0058】
本発明による好ましい安全方法において、前記試料は食品試料または環境試料である。
【0059】
本発明による別の好ましい安全方法において、前記試料は血液試料である。
【0060】
血液スクリーニング適用の場合、汚染物質の検出は2倍である。一方において、献血は、さらなる処理のため、汚染物質を含まないものでなければならず、他方において、供血者は、情報が知らされている、および/またはさらなる献血から排除されなければならない。
【0061】
本発明によるまた別の好ましい安全方法において、前記汚染物質は、微生物の汚染物質、好ましくは、ウイルス、真菌または細菌である。
【0062】
試料の診断分析は、好ましくは生物学的組織(issue)に関して行なわれ、汚染物質はウイルス、真菌または細菌である。かかる微生物の汚染物質が検出されなければならない場合、本発明の安全方法は、一般に(I general)、試料調製のためのさらなる工程、すなわち、例えば、細胞の溶解または細胞残屑からタンパク質もしくは核酸を分離するための単離工程を含む。
【0063】
本発明によるさらに別の好ましい安全方法において、工程c)での前記分析はPCR増幅である。
【0064】
ウイルス、真菌または細菌などの微生物の汚染物質が検出されなければならない場合、これらをその特徴的な核酸によって検出することが好ましい。これらの核酸は、通常、非常に小さい濃度で存在するため、PCR増幅などの増幅反応を行なうことが必要である。
【0065】
本発明によるより好ましい安全方法において、前記PCR増幅は、SYBR Green、Taqmanプローブまたはハイブリダイゼーションプローブを用いてリアルタイムで行なわれる。
【0066】
リアルタイムPCR増幅の使用は、試料中に存在する核酸の増幅がリアルタイムでモニターされ、増殖曲線が得られ得るという周知の利点を有する。一般に、リアルタイムPCRは蛍光標識プローブを用いて行なわれるが、対応する増殖曲線は各増幅サイクルの蛍光値を含み、蛍光が増幅プロセス中に有意に増大した場合、核酸が検出される。工程c)の分析のためにリアルタイムPCR増幅を使用する本発明の態様において、得られる試料の結果は、蛍光強度が蛍光バックグラウンド(CT値)またはある領域内の増殖曲線の傾きを超えて有意に上昇するサイクル数である。
【0067】
各増幅反応のCT値または増殖曲線の傾きが境界(boarder)内で等しい場合、本発明のこの態様の試料の結果は等しい。試料中の汚染物質の有無を確認するために増殖曲線の傾きを使用し、汚染物質の存在を示す特定の最小の傾きが規定されなければならない。傾きそれ自体は、増殖曲線データ点の線形回帰によって得られ、したがって、特定の不確実性に影響(afflict)される。この不確実性は、いくつかの増殖曲線のデータ点を組み合わせると減少され得、その結果、汚染物質の存在を示す最小の傾きは小さくなり得る。
【0068】
さらに、本発明による別の好ましい安全方法において、工程c)の前記分析は、アレイアッセイまたはELISAアッセイを用いて行なわれる。
【0069】
上記の分析技術は本発明の範囲を限定せず、当業者に公知の試料中の汚染物質の確認に適したすべての分析技術が、本発明による安全方法に使用され得ることに注意されたい。
【0070】
本発明の別の局面は、
A) 各々が試料投入手段および重複する診断結果を得るための前記試料の分析手段を備えた少なくとも2つの同一の処理レーン、ならびに
B) 前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するための少なくとも2つの同一の処理レーンの前記重複する診断結果の比較手段
を含む、試料を汚染物質の存在に関して分析し得る診断デバイスである。
【0071】
本発明による診断デバイスは、少なくとも2つの同一の処理レーンを備える。上記のように、これらの処理レーンは同一であることが想定されるが、そのバックグラウンドシグナルを変化させるわずかな違いがあるが、これは、ハードウェア補正工程によって補正され得る。
【0072】
それにもかかわらず、汚染物質の有無の前記確認の重複する診断結果をもたらすためには、前記少なくとも2つの同一の処理レーンができるだけ独立しており、したがって、各処理レーンは、少なくともそれ自身の試料投入手段および試料分析手段を備えていることが必要である。また、各処理レーンにそれ自身の電源を備えることが可能である。
【0073】
本発明による好ましい診断デバイスにおいて、前記少なくとも2つの同一の処理レーンは、重複する診断結果をもたらすために独立している。
【0074】
本発明による診断デバイスは、各同一の処理レーンからの重複する診断結果を比較するための1つの手段を有する。この比較手段はコンピュータプロセッサであること、および診断デバイスは、データ表示のためのさらなる手段、好ましくはモニターを有することが好ましい。
【0075】
本発明による好ましい診断デバイスにおいて、重複する診断結果の前記比較手段はコンピュータプロセッサである。
【0076】
本発明による好ましい診断デバイスは、データ表示手段をさらに備える。
【0077】
本発明による診断デバイスにより分析され得る試料および検出され得る汚染物質は、既に前述した。
【0078】
本発明による別の好ましい診断デバイスにおいて、前記試料は食品試料または環境試料である。
【0079】
本発明によるまた別の好ましい診断デバイスにおいて、前記試料は血液試料である。
【0080】
本発明によるさらに別の好ましい診断デバイスにおいて、前記汚染物質は、微生物の汚染物質、好ましくは、ウイルス、真菌または細菌である。
【0081】
本発明の範囲内で、当業者に公知の試料中の汚染物質の確認に適したすべての分析技術が、本発明による診断デバイスのための試料分析手段として使用され得る。
【0082】
本発明によるさらに好ましい診断デバイスにおいて、前記少なくとも2つの同一の処理レーンにより、リアルタイムPCR増幅が行なわれ得る。
【0083】
本発明による好ましい診断デバイスにおいて、前記少なくとも2つの同一の処理レーンにより、アレイアッセイまたはELISAアッセイが行なわれ得る。
【0084】
本発明のまた別の局面は、
aa) 汚染物質の存在に関する試料の少なくとも2つの重複する診断結果を得る工程、
bb) 前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するために、前記重複する診断結果を比較する工程
を含む、試料を汚染物質の存在に関して分析するための診断デバイスによって実行可能なコンピュータプログラムである。
【0085】
本発明のコンピュータプログラムは、試料を汚染物質の存在に関して分析するために、診断デバイスが前記工程aa)およびbb)を行なうように構成されている。
【0086】
コンピュータプログラムの好ましい態様において、前記診断デバイスは本発明による診断デバイスである。
【0087】
上記のように、本発明による診断デバイスは、各々が、試料投入手段および重複する診断結果を得るための前記試料の分析手段を備えた少なくとも2つの同一の処理レーンを有する。
【0088】
本発明によるコンピュータプログラムのさらに別の好ましい態様において、さらに少なくとも2つの重複する対照結果が提供される。
【0089】
重複する診断結果の他に、本発明によるコンピュータプログラムは、前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および診断デバイスの不首尾を検出するための少なくとも2つ、好ましくは、2〜4つの重複する対照結果をさらに必要とする。
【0090】
本発明によるコンピュータプログラムの別の態様において、好ましくは、2〜4つの重複する診断結果が工程bb)において比較される。
【0091】
前記コンピュータプログラムの各重複する診断結果は、さらなる重複する診断結果を提供するためには、診断デバイスがより複雑にならなければならないことを示唆する。したがって、2〜4つの重複する診断結果が得られるコンピュータプログラムを使用することが好ましい。
【0092】
本発明によるコンピュータプログラムの別の好ましい態様において、試料の前記重複する診断結果は、リアルタイムPCR増幅の結果である。
【0093】
本発明によるコンピュータプログラムのまた別の好ましい態様において、試料の前記重複する診断結果は、アレイアッセイまたはELISAアッセイの結果である。
【0094】
本発明の範囲内で、当業者に公知の試料中の汚染物質の確認に適したすべての分析技術が本発明によるコンピュータプログラムを用いて重複する診断結果を得るために使用され得る。
【0095】
本発明による好ましいコンピュータプログラムにおいて、
(i) 工程bb)で比較された前記重複する診断結果が等しい、または
(ii) 前記重複する診断結果が異なり、前記重複する対照結果が妥当である、または
(iii) すべて重複する診断結果が得られるわけではなく、前記重複する対照結果が妥当である
場合に、汚染物質の存在が確認される。
【0096】
本発明による別の好ましいコンピュータプログラムにおいて、
(i) 工程bb)で比較された前記重複する診断結果が異なる、または
(ii) すべての重複する対照結果が妥当であるわけではない
場合に、診断デバイスの不首尾が検出される。
【0097】
本発明によるまた別の好ましいコンピュータプログラムにおいて、重複する診断結果が得られず、前記重複する対照結果が妥当である場合に、汚染物質の非存在が確認される。
【0098】
重複する診断結果および重複する対照結果の種々の組合せの結果は、本発明による安全方法に関して既に記載され、この場合に相応に適用される。簡単には、各重複する診断結果間の差が特定の規定された閾値未満である場合、重複する診断結果は等しいことに注意されたい。少なくとも1対の診断結果間の差が大きすぎる場合、重複する診断結果は異なり、本発明を通して、「試料不首尾」と称される不首尾に相当する。重複する対照結果に関して、2つの異なる状況がある。予測される対照結果は知られているため、重複する対照結果は、予測される対照結果との差が、特定の規定された閾値未満である場合、「妥当である」と称される。予測される対照結果からの差が大きすぎる場合、重複する対照結果は「妥当でない」ものであり、本発明を通して、対照不首尾と称される不首尾に相当する。
【0099】
本発明による好ましいコンピュータプログラムは、診断デバイスの不首尾履歴を得るため、および/または不首尾率を計算するために、検出された診断デバイスの不首尾は記録され、ここで、前記不首尾率が規定された閾値を超える場合は、診断デバイス全体が除外されるコンピュータプログラムである。
【0100】
診断デバイスの不首尾履歴を得るために検出された不首尾を記録する利点は、先に概要を示した。簡単には、多数の不首尾履歴を記録することにより、不首尾を診断デバイスのある種の局面または検出手順工程と相関させ、前記局面または工程をさらなる分析から除外するための機会が得られる。
【0101】
本発明による別の好ましいコンピュータプログラムは、工程aa)で得られた重複する診断結果を組み合わせて前記試料中の汚染物質の有無を確認する組合せ工程cc)をさらに備える。
【0102】
上記のように、かかる組合せ工程は、検出プロセスの感度を増大させるために使用され得る。
【0103】
本発明のさらなる局面は、
AA) 診断デバイス、および
BB) 本発明によるコンピュータプログラム
を備える、試料を汚染物質の存在に関して分析するための診断システムである。
【0104】
本発明による好ましいシステムにおいて、前記診断デバイスは、本発明による診断デバイスである。
【0105】
上記のように、本発明による診断デバイスは、各々が試料投入手段および重複する診断結果を得るための前記試料の分析手段を備えた少なくとも2つの同一の処理レーンを有する。
【0106】
本発明による別の好ましいシステムは、複数の試料を汚染物質の存在に関して分析するために必要な試薬をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、本発明による安全方法のフローチャート図である。
【図2】図2は、感度回復を示す概略プロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 第1の試料のアリコートを得る工程、
b) 前記アリコートを少なくとも2つのアリコート部分に分割する工程、
c) 前記少なくとも2つのアリコート部分の各々を汚染物質の存在に関して同時に分析する工程、ならびに
d) 前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために、工程c)の前記少なくとも2つのアリコート部分の各々で得られた試料の結果を比較する工程
を含み、
ここで、
工程a)〜d)が、複数の試料からの別の試料で、前記複数の試料のすべての試料が分析されるまで繰り返される、
汚染物質の存在に関して複数の試料を分析する診断システムのための安全方法。
【請求項2】
各試料が内部対照を含み、工程c)の前記分析により、前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために、前記試料の結果の比較に加えて工程d)で任意に比較される各アリコート部分のさらなる対照結果が提供される、請求項1記載の安全方法。
【請求項3】
工程c)の前記少なくとも2つのアリコート部分の各々の前記分析が、同一の複数の分析装置で同時に行なわれるか、または少なくとも2つの同一の処理レーンを有する1つの分析装置で同時に行なわれる、請求項1または2記載の安全方法。
【請求項4】
工程a)において、前記アリコートが、複数の試料から選択された試料の群の各一員から得たアリコートの混合試料であり、前記混合試料が工程b)において少なくとも2つのアリコート部分に分割され、前記試料の群中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断システムの不首尾を検出するために、工程d)において試料の結果の比較が行なわれる、請求項1〜3いずれか記載の安全方法。
【請求項5】
(i) 工程c)の各分析により試料の結果が提供され、工程d)で比較された前記試料の結果が等しい、または
(ii) 工程c)の各分析により試料の結果が提供され、工程d)で比較された前記試料の結果が異なり、対照結果が妥当である、または
(iii) 工程c)のすべての分析物が試料の結果を提供するわけではなく、対照結果が妥当である
場合に、汚染物質の存在が確認される、請求項2〜4いずれか記載の安全方法。
【請求項6】
(i) 工程d)で比較される工程c)の試料の結果が異なる、または
(ii) すべての対照結果が妥当であるわけではない
場合に、診断システムの不首尾が検出される、請求項2〜4いずれか記載の安全方法。
【請求項7】
工程c)での分析により試料の結果が提供されず、対照結果が妥当である場合に、汚染物質の非存在が確認される、請求項2〜4いずれか記載の安全方法。
【請求項8】
工程c)の各分析で得られた試料の結果を組み合わせて前記試料中の汚染物質の有無を確認する組合せ工程e)をさらに含む、請求項1〜7いずれか記載の安全方法。
【請求項9】
A) 各々が試料投入手段および試料の重複する診断結果を得るための前記試料の分析手段を備えた少なくとも2つの同一の処理レーン、ならびに
B) 前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するための少なくとも2つの同一の処理レーンの前記重複する診断結果の比較手段
を備える、試料が汚染物質の存在に関して分析され得る診断デバイス。
【請求項10】
aa) 汚染物質の存在に関する試料の少なくとも2つの重複する診断結果を得る工程、
bb) 前記試料中の汚染物質の有無を確認するため、および/または診断デバイスの不首尾を検出するために、前記重複する診断結果を比較する工程
を含む、試料を汚染物質の存在に関して分析するための診断デバイスによって実行可能なコンピュータプログラム。
【請求項11】
AA) 診断デバイス、および
BB) 請求項10記載のコンピュータプログラム
を備える、試料を汚染物質の存在に関して分析するための診断システム。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−529663(P2009−529663A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557657(P2008−557657)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001936
【国際公開番号】WO2007/101662
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】