説明

診断指標または予測指標としての細胞内局在プロフィールの使用

本発明の方法は、免疫組織化学技法による、組織切片中のシグナル伝達活性の測定に関する。受容体シグナル伝達経路の1つ以上のエフェクター分子の発現レベルだけでなく、対象の受容体の発現レベルが測定される。さらに、受容体の発現と細胞内区画中のエフェクター分子の発現レベルとの合算比は、予後における重要性を有することが明らかになった。一実施形態において、本方法は、1)対象の細胞受容体タンパク質を検出するための試薬、2)少なくとも1つのシグナル伝達エフェクター分子を検出するための試薬、を使用して組織切片を染色する手順、ならびに染色した切片を分析し、相対量の受容体タンパク質およびエフェクター分子を定量化する手順を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(背景)
受容体チロシンキナーゼのシグナル伝達、および他の受容体介在シグナル伝達経路は典型的に、リガンド結合、受容体活性化、シグナルを増幅またはネットワーク化する細胞質中のシグナル伝達中間タンパク質のリン酸化、シグナル伝達タンパク質のサブセットの核への転座を含む経路を介して進行した後、転座されたタンパク質または他の核の補因子のいずれかによって転写が活性化される。
【0002】
EGFR(HER1)は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)のHERファミリーの一員である。各RTKは、リガンド結合ドメイン、単一膜貫通領域、および細胞質チロシンキナーゼ含有ドメインを有する。活性化は典型的に、正常な生理学的条件下で、受容体のホモまたはヘテロ二量化、キナーゼドメインの活性化、リン酸化、およびRas/MAPK、PI3K/Akt、PLCγ、およびSTATといった、成長、増殖および/または生存に関与する下流シグナル伝達経路の活性化を可能にする、修飾ドメインのドッキング部位の生成などの機序を含めた、RTKリガンドの時間的および空間的な両発現によって制御される。EGFR/HER1シグナル伝達経路の調節異常は、膀胱、脳、胸、結腸、食道、頭部、腎臓、肺、卵巣、頚部、膵臓、前立腺および胃を含めた多くの腫瘍の発症および増殖に関与することが知られている(例えば、Marmor,M.D,K.B.Skaria,and Y.Yarden.2004.Signal transduction and oncogenesis by ErbB/HER receptors Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.58:903‐913;Olayioye,M.A.,R.M.Neve,H.A.Lane,and N.E.Hynes.2000.The ErbB signaling network:receptor heterodimerization in development and cancer.EMBOJ.19:3159‐3167;Riese,D.J.,and D.F.Stern.1998.Specificity within the EGF family/ErbB receptor family signaling network.Bioessays.20:41‐48;Schlessinger,J.2004.Common and distinct elements in cellular signaling via EGF and FGF receptors.Science.306:1506‐1507;およびYarden,Y.,and M.X.Sliwkowski.2001.Untangling the ErbB signalling network.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2:127‐137を参照)。
【0003】
EGFRを標的とするモノクローナル抗体Erbitux(セツキシマブ)は、結腸直腸癌治療において米国食品医薬品局(FDA)の認可を得ている。さらに、EGFRを標的とするIressaおよびTarcevaという2個の小分子は、非小細胞肺癌においてFDAの認可を得ている。DakoCytomation California,Inc.は、患者の生検においてEGFRを検出することができる、FDA承認済みのコンパニオン診断を提供する。例えば、この試験は、EGFRを標的とした治療法に好意的に反応すると考えられる患者の同定に有用である可能性がある。しかし、経験により、現在使用可能なEGFR診断検査は、EGFRを標的とした療法による治療に対する患者の反応に十分な相関関係がないことが明らかにされている。
【0004】
特許文献1およびではそれぞれ、個々の患者がEGFまたはEGFR阻害剤を用いた治療に反応するかどうかを予測したり、または治療に反応しているかどうかを特定したりするのに有用である場合がある、1つまたは別の分子マーカー(全核ERKと比較したpERKまたは全細胞質ERKを含んでもよい)のアッセイが教示されている。本方法では、EGFまたはEGFR阻害剤で治療する被験体の治療前後の生検が必要となる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0094068号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0059785号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
受容体および経路エフェクター分子の発現レベルが十分なレベルの精度を達成することを同アッセイで判定することが必要となる可能性がある対象の受容体に特に関連するシグナル伝達経路活性化状態を測定する方法が必要とされている。
【0006】
また、複数の可能性ある経路を評価する受容体に関連するシグナル伝達経路活性化状態を同アッセイで測定する方法も必要とされている。
【0007】
また、治療後生検を必要としないアッセイも必要されている。リン酸化タンパク質の不安定性は、組織切除と固定(または凍結)の間の短い虚血時間中であっても、リン酸化タンパク質の検出に厳密に基づくアッセイの臨床的有用性を制限する場合がある。そのため、リン酸化エフェクター分子の正確な検出に依存することなくシグナル伝達経路活性化状態を測定する代替法、特に日常の臨床診療時にまたは適切な特異的検出試薬が入手できない場合に不安定であると判明した分子のための代替法を考案することも必要されている。
【0008】
また、受容体発現およびシグナル伝達経路活性化状態に基づく予後情報を提供することができる方法も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、組織切片中のシグナル伝達経路活性を測定する免疫組織化学アッセイ法を特徴とする。一実施形態において、本方法は、1)対象の細胞受容体タンパク質を検出するための試薬、2)少なくとも1つのシグナル伝達エフェクター分子を検出するための試薬、を使用して組織切片を染色する手順、ならびに染色した切片を分析し、相対量の受容体タンパク質およびエフェクター分子を定量化する手順を含む。一実施形態においては、2つのエフェクター分子の発現レベルを検出し、別の実施形態においては、3つのエフェクター分子の発現レベルを検出する。さらに、細胞質と比較した、核中のエフェクター分子発現レベルの比を測定することにより、シグナル伝達活性を測定してもよい。本発明の特定の実施形態においては、受容体発現レベルと組み合わせた、3個の下流エフェクター分子の細胞質と核の発現比が、予後における重要性を有した。
【0010】
別の態様において、本発明は、記載の方法を実施するのに有用なキットを特徴とする。
【0011】
EGFR発現レベル、ならびに核中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子量の、細胞質中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子量に対する比に関する腫瘍の分析により、特定の腫瘍におけるEGFRシグナル伝達経路の活性レベルが得られる。この重要な情報は、例えば(a)患者の予後分類、(b)薬物反応の予測、(c)生体特異的療法(例えば、EGFRまたはHERファミリーシグナル伝達を標的とする薬剤などあるがこれらに限定されない)を受ける患者の選択、(d)薬剤への応答者の同定および/または薬物耐性の同定に有用である可能性がある。複数のEGFR下流エフェクター分子を定量化し、かつ核/細胞質比を平均化することで、差異(例えば、固定条件などによる)を標準化し、単一マーカーの定量的測定を介して達成できる分類力を上回る分類力を提供することができる。
【0012】
他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲に基づいて明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
定義
便宜上、本発明を詳細な説明を行う前に、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語をここで定義する。単数形(「a」「an」、および「the」)は、文脈で特に明記されない限り、複数の言及を含む。
【0014】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、すべての抗体、例えば、いずれかのアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)を含むものとして意図され、さらに脊椎動物(特に哺乳類)のタンパク質と特異的に反応するそれらの断片も含むものとして意図される。抗体は、従来の技法を使用して断片化することができ、断片は、すべての抗体に関して上述したのと同じ方法で有用性をスクリーニングすることができる。したがって、本用語は、特定のタンパク質と選択的に反応することができる抗体分子のタンパク分解により切断された部分または組み換えにより調製された部分のセグメントを含む。タンパク分解断片および/または組換え断片の非限定的な例には、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、およびペプチドリンカーによって結合した、V[L]および/またはV[H]ドメインを含む一本鎖抗体(scFv)が含まれる。scFvは、共有結合または非共有結合で結合し、2個以上の結合部位を有する抗体を形成してもよい。本発明は、抗体および組換え抗体のポリクローナル、モノクローナル、または他の精製された製剤を含む。本発明のバイオマーカーの検出に使用される抗体は、標識抗体であってもよい。標識抗体は、検出用の蛍光ラベルを含んでもよい。
【0015】
「バイオマーカー」という用語は、例えば、存在、濃度、活性、リン酸化状態、細胞内局在性プロファイル、および/または転座状態が測定されるタンパク質を含めた、組織中の細胞のいずれかの成分を指してもよい。「バイオマーカー」とは、EGFRおよびEGFR下流エフェクター分子を含めたEGFRシグナル伝達経路の一員であるタンパク質を指してもよい。
【0016】
「切点」という用語は、データが分割される地点を指す。例えば、患者群を、切点xで、高バイオマーカー発現群(x以上)と低バイオマーカー発現群(x以下)とに分割してもよい(例えば、Camp,R.L.et al.,(2004)X‐tile:a new bioinformatics tool for biomarker assessment and outcome‐based cut‐point optimization9.Clin.Cancer Res.10:7252‐7259を参照)。
【0017】
本明細書で提供する方法に基づく「薬剤」には、標的シグナル伝達経路に対する薬剤の効果が調査中であるか、既知であり、薬剤への反応が予測される適切な患者群の特定に使用されている、特に、DNA、RNA、RNAi、PNA、リボザイム、抗体、小分子、リガンドを含めた、タンパク質、核酸などが含まれる。「薬剤」という用語には、治療候補を含む天然または合成化合物が含まれる。
【0018】
「エフェクター分子」という語句は、細胞シグナル伝達経路におけるいずれかの分子を指す。「エンドエフェクター分子」という語句は、細胞質と核の間で転座することができる細胞シグナル伝達経路におけるいずれかの分子を指す。好ましいエフェクター分子には、以下が含まれる:胸腺腫ウイルス性癌遺伝子1(Aktl、Akt、PKB/Akt、またはPKBα;NCBI受託番号AAL55732として提供されるヒトタンパク質配列)、シグナル伝達および転写3の活性剤または急性期応答因子(Stat3;NCBI受託番号AAK17196として提供されるヒトタンパク質配列)、ならびにマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ3(MAPK3またはErkl;NCBI受託番号AAH13754として提供されるヒトタンパク質配列)、Grb2、Ras、mTOR、GSK3、eIF2B、NFkB、CREB、JAK。EGFR下流エフェクター分子は、いずれかの所与の期間にリン酸化しても、しなくてもよい。
【0019】
「EGFRまたは上皮細胞成長因子受容体」とは、HER1またはErbB‐1が、上皮細胞成長因子ファミリーの細胞表面受容体の一員であることも指す。ヒトEGFRタンパク質は、配列が参考として本明細書で明示的に援用される、NCBI受託番号NP_958439およびNP_958441において示されている。
【0020】
「シグナル伝達プロファイル」とは、特定の腫瘍および少なくとも1つのエフェクター分子の発現レベルに対する受容体発現レベルの組み合わせを指す。好ましい実施形態において、シグナル伝達プロファイルは、特定の腫瘍のEGFR発現レベルと、少なくとも1つの下流エフェクター分子の平均核/細胞質比とを組み合わせたものである。
【0021】
「EGFRを標的とする治療」とは、被験体中のEGFRを標的とする薬剤を指し、例としては、Erbitux(セツキシマブ)、Iressa、およびTarcevaが含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
「患者」または「被験体」とは、ヒトまたはヒト以外の動物のいずれかを意味してもよい。
【0023】
「タンパク質」、「ポリペプチド」、および「ペプチド」とは、例えば、核酸のコード配列によりコードされる可能性のある遺伝子産物を指す場合は、本明細書で交換可能に使用される。
【0024】
「シグナル伝達指数」とは、少なくとも1つの受容体下流エフェクター分子の平均核/細胞質比を指す。
【0025】
「シグナル伝達電位」とは、腫瘍細胞シグナル伝達経路の相対活性を指す。活性化シグナル伝達経路を有する腫瘍は、より侵襲的であると考えられ、患者生存期間を減少させる。逆に、不活性シグナル伝達経路を有する腫瘍は、侵襲的ではないと考えられ、患者生存期間を増加させる。
【0026】
「小分子」とは、約2000kDa未満の分子量を有する組成物を指す。小分子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣薬、炭水化物、脂質、または他の有機(炭素含有)もしくは無機分子であってもよい。本説明を基にすれば当業者は理解すると思われるが、生物活性を調整する化合物を同定するために、化学および/または生物学的混合物のライブラリ、多くの場合、真菌、細菌、または藻類の抽出物を、本発明のアッセイのいずれかでスクリーニングしてもよい。
【0027】
「細胞内局在性プロファイル」とは、細胞内部位、例えば、細胞核または細胞質中の受容体下流エフェクター分子のレベルを指す。好ましい実施形態において、細胞内局在性プロファイルは、細胞質中のエンドエフェクター分子のレベルと比較した、核中のエンドエフェクター分子のレベルである。細胞内局在性プロファイルは、比(または対数比)で表現してもよい。
【0028】
本明細書で使用される「組織試料」とは、生体内組織から得られる生物学的試料、例えば、生検を指す。好ましい実施形態において、組織試料は腫瘍である。組織試料は、細針生検試料などの患者由来試料である「臨床試料」となることが多い。「組織試料」には、組織切片、例えば、冷凍または固定腫瘍から採取した切片が含まれてもよい。組織試料は、例えば、膀胱、脳、胸、子宮、頸部、結腸、直腸、食道、口、頭部、皮膚、腎臓、肺、卵巣、首、膵臓、前立腺、精巣、肝臓、および胃の腫瘍から得ることができるが、これらに限定されない。組織試料は、組織アレイ上に存在してもよければ、あるいはすべての組織切片を含んでもよい。「均一に一致した」組織試料とは、同種の組織試料(すなわち、同じ種類の被験体から得られた同種の腫瘍から得られた同種の細胞を含む)である。「均一に一致した」組織試料は、本明細書で提供する方法で基準プロファイルを提供するのに使用することができる。
【0029】
「腫瘍」とは、例えば、これらの細胞膜上で上皮成長因子受容体を発現する細胞を含む場合がある、組織の異常増殖を指す。腫瘍は、例えば、膀胱、脳、胸、子宮、頸部、結腸、直腸、食道、頭、皮膚、腎臓、肺(非小細胞肺癌を含む)、卵巣、首、膵臓、前立腺、精巣、肝臓、および胃に存在してもよい。
【0030】
概要
本発明は、免疫組織化学法により、組織切片中の受容体シグナル伝達経路中の受容体分子および1つ以上の下流エフェクター分子をアッセイすることで、経路の活性化状態を測定し、予後情報を得ることができるという発見に基づくものである。より具体的には、本発明は、組織切片中のシグナル伝達経路の活性化を測定する免疫組織化学法であって、
1)細胞受容体タンパク質を検出するための試薬で組織切片を染色する手順と;
2)細胞受容体タンパク質のシグナル伝達経路の一員であるエフェクター分子を検出するための第2の試薬で組織切片を染色する手順と;
3)顕微鏡を使用して、組織切片中の染色細胞受容体タンパク質ならびに組織切片中の染色エフェクター分子の高解像度デジタル画像を得る手順と;
4)デジタル画像を分析して、組織切片中に存在する細胞受容体タンパク質の量および組織切片中に存在するエフェクター分子量を定量化する手順と、
を含み、
それによって組織切片中のシグナル伝達活性を測定する方法に関する。
【0031】
本発明の特定の実施形態は、比較的高レベルのEGFRを発現するが、比較的低シグナル伝達指数(すなわち、少なくとも1つの下流エフェクター分子に関して、核シグナルに対して細胞質シグナルがより高い)を有する腫瘍を有する患者は、生存率が最も低いという驚くべき発見に基づいている。理論により拘束されるわけではないが、エフェクター分子の核レベルに比べてエフェクター分子の全細胞質レベルがより高い腫瘍細胞は、より多くの分子を活性化に使用できることから、より高いシグナル伝達電位を有すると考えられる。この仮説の裏づけとして、Erkl/2の核内蓄積が一時的であり、核Erk1/2が細胞質に素早く再局在化され、次回の刺激を待つことが明らかにされている(Adachi,M et al.,(2000)Nuclear export of MAP kinase(ERK)involves a MAP kinase kinase(MEK)‐dependent active transport mechanism.J.Cell.Biol.148:849‐856)。
【0032】
これらの発見に基づいて、本発明は、腫瘍のシグナル伝達プロファイル(すなわち、発現した受容体の相対量およびシグナル伝達指数(細胞質中で発現したエフェクター量に対する、核中で発現した各下流エフェクター量の相対比)を測定するための方法およびキットを特徴とする。腫瘍のシグナル伝達プロファイルを測定する方法は、腫瘍から得られた組織試料、および少なくとも1つの受容体エフェクター分子中の受容体レベルを測定する手順を含む。例えば、EGFRの定量化に加えて、腫瘍のEGFRシグナル伝達プロファイルを測定する方法は、組織切片中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子の核および細胞質レベルを測定する手順も含む。リン酸化または非リン酸化タンパク質のいずれかを測定してもよい。例として、細胞質中の全下流エフェクター分子のレベルを測定すると同時に、核区画中の全下流エフェクター分子のレベルを測定してもよい。あるいは、細胞質中の全p‐エフェクター分子、および核中の全p‐エフェクター分子を測定してもよい。
【0033】
次いで、腫瘍組織中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子の核および細胞質レベルを互いに比較して、被験体の腫瘍中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子の相対位置(細胞質または核)を特定する。一態様において、本方法は、Erk、AKT、Stat3、および/または他のEGFR下流エフェクター分子が、試料中の腫瘍細胞の細胞質中により局在するか、または試料中の腫瘍細胞の核中により局在するかを特定する手順を含む。特定の生物学的マーカーの相対位置を特定するいずれの適切な方法を、本方法で使用してもよい。一態様において、試料中の少なくとも1つの下流エフェクター分子の受容体レベル、ならびに核および細胞質のレベルを特異的に測定し、測定した核レベルと細胞質レベルの比(核/細胞質比)を算出して、相対位置を特定し、受容体レベルとの関連において使用する。別の実施形態においては、試料中の少なくとも1つの下流エフェクター分子の相対位置を特定するために「シグナル伝達指数」を算出し、受容体レベルとの関連において使用してもよい。例として、シグナル伝達指数を、1つ以上のEGFR下流エフェクター分子の算出した核/細胞質レベル比の平均(3または別の数値)の対数変換として表してもよい。
【0034】
次いで、少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子の相体位置を、単比、シグナル伝達指数、または他の形態で表現されたかにかかわらず、既知の患者の層別化から特定されたパラメータの基準と比較する。基準は実験により特定してもよければ、あるいは既存のデータセットから事前に定義された値であってもよい。組織試料中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子が、基準に比べると、核区画よりも細胞質区画により局在すると特定され、基準に比べると、局在性の差異が有意である場合、腫瘍が比較的高いEGFR発現レベル(上述の通り)を有すると特定されるならば、腫瘍は侵襲的であると考えられる。しかし、組織試料中の少なくとも1つのEGFRの下流エフェクター分子が、基準に比べると、核区画よりも細胞質区画により局在すると特定され、腫瘍が比較的低いEGFR発現レベル(上述の通り)を有すると特定され、基準に比べると、局在性の差異が有意である場合、腫瘍は比較的非侵襲的であると考えられる。さらに、組織試料中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子が、基準に比べると、細胞質区画よりも核区画により局在すると特定され、腫瘍が比較的低EGFR発現レベル(上述の通り)を有すると特定され、基準に比べると、局在性の差異が有意である場合、腫瘍は同様に比較的非侵襲的であると考えられる。そして組織試料中の少なくとも1つのEGFR下流エフェクター分子が、基準に比べると、細胞質区画より核区画に局在すると特定され、腫瘍も比較的高いEGFR発現レベル(上述の通り)を有すると特定され、基準に比べると、局在性の差異が有意である場合、腫瘍は比較的中等度に非侵襲的であると考えられる。
【0035】
EGFRおよび下流エフェクター分子は、当該技術分野で既知のいずれかの適切な手段で測定してもよい。シグナル活性化の評価では、比の構成に起因する非正規分布に合わせて調節するのに、シグナル伝達指数の対数を使用することができる。
【0036】
組織標本: 組織試料は生体から入手し、これには細胞および細胞外物質が含まれる。組織試料は、ヒト、またはヒト以外の動物から採取してもよい。組織試料は、いずれの臓器からも得ることができ、このような臓器の病状を含んでいてもよい。針生検などの既知の手順を使用して、腫瘍生検などの組織試料を得ることができる(Kim,C.H.et al.J.Virol.66:3879‐3882(1992));Biswas,B.et al.Annals NY Acad.Sci.590:582‐583(1990));Biswas,B. et al.J.Clin Microbiol.29:2228‐2233(1991)を参照)。組織は、EGFRおよび下流エフェクタータンパク質(例えば、ErkおよびAKT)の正確な検出および定量化を可能にする方法で処理するものとする。組織試料を、組織マイクロアレイフォーマットで調製および切断してもよければ、あるいは全組織切片を含んでもよい。切片は典型的には顕微鏡スライド上で調製される。例えば、パラフィン包埋ホルマリン固定検体を調製し、コアを検体の分離領域から採取し、各コアをレシピエントブロックへ配列し、既述の通りに(例えば、Konenen,J.et al.,Tissue microarrays for high‐throughput molecular profiling of tumor specimens,(1987)Nat.Med.4:844‐7)切片を切断および処理してもよい。個体の組織試料を分析する場合には、組織または細胞を被験体から除去した後で、特にタンパク質発現におけるいずれかの変化、生理学的処理、または分解を予防することが重要である場合がある。発現レベルの変化は、以下の摂動、例えば、リポ多糖体(IPS)または他の試薬での熱ショックまたは活性化を急激に変化させることが知られている。さらに、組織および細胞内のRNAおよびタンパク質を、素早く分解させてもよい。したがって、被験体から得た組織は、理想的には直ちに固定または凍結される。組織標本はまた、薬剤投与量範囲または毒性試験において、異種移植腫瘍試料、特に動物から得られた異種移植腫瘍試料を含んでもよい。
【0037】
定量化: EGFRを定量化し、下流エフェクター分子を定量化および局在化するいずれの適切な方法も、本方法で使用してもよい。1つの好ましい方法では、免疫組織化学法、細胞または組織抗原などの特異的タンパク質を検出するためのモノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用した免疫酵素反応に基づく染色法が使用される。典型的には、免疫組織化学プロトコルは、少なくとも以下の手順のいくつかを含む:1)抗原回収(例えば、圧力調理、プロテアーゼ治療、マイクロ波、適切な緩衝液中での加熱などによる);2)1次抗体の適用および洗浄;3)1次抗体に結合する標識2次抗体(しばしば手順5での検出を可能にする2次抗体複合体)の適用、および洗浄;4)増幅手順を含んでもよく;5)検出試薬の適用(例えば、クロマジェン、蛍光標識分子、またはアッセイに必要なレベルもしくは感度を達成するための適切なダイナミックレンジを有するいずれかの分子);6)対比染色を使用してもよく;ならびに7)タンパク質の存在を、定性または定量分析用に可視化する(ヒトの眼または自動解析システムのいずれかに対して)、検出システムを使用した検出。対象のタンパク質を検出するための種々の免疫酵素染色法が、当該技術分野で既知である。例えば、免疫酵素的相互作用は、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはDAB、AEC、もしくはFast Redなどの異なる色原体などの種々の酵素;またはFITC、Cy3、Cy5、Cy7、Alexafluorなどの蛍光標識などを使用して可視化することができる。対比染色は、このような染料が他の検出試薬と同等であり、可視化法を使用する限りは、H&E、DAPI、Hoechstを含んでもよい。当該技術分野で既知の通り、染色シグナルを強化するために、増幅試薬を使用してもよい。例えば、チラミド試薬を使用してもよい。本発明の染色法は、当業者に明らかであるであろう、自動化、半自動化、または手動システムを含めたいずれかの適切な方法またはシステムを使用して達成してもよい。
【0038】
受容体タンパク質および下流エフェクター分子のレベルは、当業者に理解されるであろう適切な特異抗体を使用して分析することができる。全タンパク質レベル、または具体的にはリン酸化タンパク質レベルを測定してもよい。
【0039】
本発明の方法は、当業者にとって明らかになるであろう、自動システム、定量的IHC、および条件によっては好ましくない半定量的IHC、ならびに手動方法を含めた、免疫組織化学分析のための適切な方法またはシステムを使用して達成してもよい。本明細書で使用される「定量的」免疫組織化学法は、抗原または他のタンパク質などの特定のバイオマーカーの存在を同定および定量化するためにIHC染色組織を走査およびスコアリングする方法(自動化されてもよい)を指す。試料に付けるスコアは、試料の免疫組織化学染色の強度または吸光度(OD)の数値であってもよく、試料中に存在する標的バイオマーカーの量を表す。定量的測定は、相対的であってもよければ、あるいは絶対的であってもよい。例えば、IHCアッセイにおける対照検体は、同じ対照検体から得られたELISA結果と相関関係があり、したがって組織検体中のバイオマーカーの絶対濃度を測定するための検量線を生じる場合がある。スコアは、単位面積で分割された染色強度もしくはOD、または染色細胞の割合を表してもよい。本明細書で使用される半定量的免疫組織化学法とは、例えば、訓練を受けたオペレーターが結果を数値(例えば、0、1+、2+または3+)で評価する、それぞれのヒトの眼の免疫組織化学結果のスコアリングを指す。最も好ましいのは、連続したスケールの結果をもたらす定量的免疫組織化学法である。
【0040】
免疫組織化学法との使用に適した、種々の自動化された試料処理、走査および分析システムが、当該技術分野で既知である。このようなシステムには、自動染色および顕微鏡走査、コンピュータ化された画像解析、連続切片比較(試料の方向およびサイズにおける差異の制御)、デジタル報告書作成、ならびに試料の保管および追跡(組織切片が配置されるスライドなど)が含まれてもよい。免疫染色試料を含めた細胞および組織の定量分析を行うために従来の光、蛍光、または共焦点顕微鏡とデジタル画像処理システムとを組み合わせた、細胞画像システムが市販されている。例えば、CAS‐200 system(Becton,Dickinson&Co.);BLISS and IHCscore of Bacus Laboratories,Inc.(米国イリノイ州ロンバード);ACIS of Clarient,Inc.(米国カリフォルニア州サンフアンキャピストラノ);iVision and GenoMx of BioGenex(米国カリフォルニア州サンラモン);ScanScope of Aperio Technologies(米国カリフォルニア州ビスタ);Ariol SL‐50 of Applied Imaging Corporation(米国カリフォルニア州サンノゼ);LSC Laser Scanning Cytometer of CompuCyte Corporation(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ);およびAQUA(登録商標)of HistoRx Inc.(米国コネティカット州ニューヘーブン)を参照されたい。
【0041】
特定の実施形態において、染色組織切片中の受容体タンパク質および下流エフェクター分子バイオマーカーの発現レベル(および/またはリン酸化などの修飾)は、例えば、単位面積当たりに発現する分子数に正比例する数値を導き出す細胞内区画内のタンパク質発現の定量的測定を可能にする、AQUA(登録商標)技術を使用して測定される(参照により全体が本明細書に組み込まれる、Camp,R.L.,Chung,G.G.&Rimm,D.L.Automated subcellular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays.Nat Med 8,1323‐7(2002)、ならびに国際特許出願第PCT/US02/12084号を参照)。細胞内区画は、形態学的に定義された区画、または分子的に定義された区画を含むことができる。細胞内区画は、細胞膜、細胞質、核、リソソーム、ER、およびゴルジ体などであってもよい。
【0042】
バイオマーカーの発現を定量的に測定する方法は、細胞内のバイオマーカーの細胞内部位、および細胞の選択細胞内区画内の全タンパク質量またはリン酸化タンパク質量を特定する手順を含んでもよい。AQUA(登録商標)技術は、これらの目的の両方を達成する方法の例である。組織中のバイオマーカーの定量化にAQUA(登録商標)技術を使用する本発明の方法の実施形態を、以下の実施例で説明する。
【0043】
受容体タンパク質と下流エフェクター分子との関係を表すのに、種々の方法を使用してもよい。
【0044】
シグナル伝達経路活性は、受容体タンパク質発現レベルと下流エフェクター分子または分子の発現レベルとの関係によって表現してもよい。この関係を、受容体/エフェクター比、受容体と複数のエフェクターの比で、個別にまたは組み合わせて(例えば、最適な切点に基づく、平均、中間値、中央値、もしくは測定の組み合わせ、またはクラスター測定)表してもよい。さらに、受容体タンパク質の発現レベルは、特定の細胞内区画内の下流エフェクター分子発現レベル(例えば、受容体とエフェクター細胞質の発現、または受容体とエフェクター核の発現)に関連してもよい。一実施形態において、受容体タンパク質発現レベルは、各区画内のエフェクター発現比(すなわち、細胞質/核比)に関連する。多くの受容体分子は、これらの活性化シグナルを複数の経路を介して伝達することから、受容体発現レベルを、1つ以上の可能経路を表す複数のエフェクター分子と組み合わせることが望ましい場合がある。例えば、受容体サブユニットのチロシンリン酸化を引き起こす、リガンド結合ホモ二量体またはヘテロ二量体上のEGFRがある。SrcファミリーおよびAblファミリーの細胞内チロシンキナーゼは、EGFR受容体をチロシンリン酸化し、1)RAS/ERK経路、2)ホスファチジルイノシトール 3‐キナーゼ(PI3k)経路、3)Janusキナーゼ/シグナル伝達物質および転写の活性化因子(JAK/STAT)経路を含めた、下流シグナル伝達系の活性化をもたらすSrc相同性2(SH2)ドメインを介して、タンパク質が結合できるようにすることができる。経路は、特に特定の癌の細胞生存を促進するように協調的に機能すると考えられる。そのため、EGFRシグナル伝達の活性化状態を測定するためには、アッセイは、ERK経路、PI3k経路、および/またはJAK/STAT経路から得られた、EGFRおよびエフェクター分子(全エフェクター分子および/またはリン酸化エフェクター分子)を含んでもよい。ERK経路エフェクター分子には、Grb2、RAS、RAF1、MEK1、MEK2、ERK1およびERK2が含まれる。PI3k経路エフェクター分子には、AKT、mTOR、70s6k、eIF4B、4E‐BPI、GSK3、eIF2B、NFkB、およびCREBが含まれる。JAK/STAT経路エフェクター分子には、JAKとSTATが含まれる(Asnaghi L et al 2004,Pharmacol Res 50:545‐549;Henson E.S.,et al 2006 Cell Sig.;Jorrissen R.N.et al 2003 Exp.Cell Res.284:31‐53;Kisseleva T.et al 2002 Gene 285:1‐24;Lizcano J.M et al. 2002 Curr Bio.12:236‐238;Nair P.2005 Curr Sci.88:890‐898;Yarden Y 2001 Eur.J.Cancer 37:S3‐S8を参照)。特定の実施形態において、EGFRシグナル伝達活性アッセイは、特に1つ以上の経路(すなわち、ERK、AKTおよび/またはSTAT)のエンドエフェクター分子の発現を測定する。本発明の特定の実施形態において、経路が活性化されている場合、これらの分子は細胞質から核へ転座することから、これらのエンドエフェクター分子の細胞質および核レベルが測定される。さらに、特定の実施形態において、EGFRシグナル伝達活性アッセイは、細胞質と核AKT、ERKおよび/またはSTAT発現レベルの比の測定を含む。さらに別の実施形態においては、細胞質と核エフェクター発現の比を平均化して、シグナル伝達指数を得る。
【0045】
本発明は、前述の方法を実施するためのキットを提供する。特定の実施形態において、キットは、バイオマーカーに対する抗体、および適切な試薬を含んでもよい。試薬には、遮断試薬、1次抗体、2次抗体、増幅系、検出試薬(色原体、フルオロフォアなど)、稀釈緩衝液、洗浄溶液、封入溶液、対比染色、またはそのいずれかの組み合わせが含まれてもよい。前述の方法の手動操作または部分的もしくは全体的に自動化された操作のいずれかのために、キットの構成要素を包装してもよい。キットを含む他の実施形態において、本発明は、本発明の組成物、および場合により使用説明書を含むキットを企図する。このようなキットは、例えば、画像処理、患者群の階層化、診断、予後、治療法決定の指導、および他の用途を含めた種々の用途を有してもよい。
【0046】
核および細胞質中のEGFRおよび少なくとも1つのエフェクター分子の定量化は、適切な抗体を使用して分析することができる。EGFRに対する抗体(PharmDx Kit;DAKO、米国カリフォルニア州カーペンテリアなど)は市販されている。Aktlに対する抗体(マウスモノクローナル、クローン2H10;Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州デンバーなど)、およびErkl/2(マウスポリクローナルl;Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州デンバーなど)も市販される。Ser(473)phospho‐AKTに特異的な抗体も市販される(例えば、Srinivasan et al.,Am J Physiol Endocrinol Metab 2002 October;283(4):E784‐93を参照)。p‐erklおよびp‐erk2と反応する抗体も市販される(例えば、Santa Cruz Biotechnology、米国カリフォルニア州サンタクルーズ;米国特許第6,001,580号も参照)。その他の抗体はCalbiochem(登録商標)(Calbiochem General Catalog,2006‐2007)から市販される。適切な抗体に対するその他の販売元も、当該技術分野で既知である。特定の実施形態において、バイオマーカーの発現レベル(および/またはリン酸化などの修飾)は、パネル中の各バイオマーカーのAQUA(登録商標)技術スコアを測定することにより、例えば、AQUA(登録商標)技術により自動化された病理学システムを使用することにより、測定する。AQUA(登録商標)技術(自動定量分析用)は、in situタンパク質発現の絶対測定の分析法である。本方法は、単位面積当たりに発現する分子数に正比例する数値を導き出す細胞内区画内タンパク質発現の測定を可能にする。
【0047】
本方法については、焦点外光サブトラクションイメージング法の詳細を含めて、いずれも全体が参考として本明細書で援用される、Camp,R.L.,Chung,G.G.&Rimm,D.L.Automated subccllular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays.Nat Med8,1323‐7(2002));および国際特許出願第PCT/US02/12084号に記載されている。AQUA(登録商標)は、in situタンパク質発現の絶対測定の分析法である。本方法は、例えば単位面積当たりに発現する分子数に正比例する数値を導き出す細胞内区画内タンパク質発現の測定を可能にする。すなわち、例えば、Aktの測定では、腫瘍の領域を特定し、かつ基質および他の非腫瘍物質を分析から除去するための1つのチャンネル内で得られたケラチン染色画像を使用して、組織が「マスク」される。あるいは、EGFR染色画像を腫瘍マスクの作成に使用してもよい。2次チャネル内で得られたDAPI染色画像を、腫瘍染色の比較に使用し、核および細胞質区画を定義する。Aktの発現強度は、3次チャンネルを使用してAkt染色を検出することにより測定する。2次エフェクター分子(例えば、ErkまたはSTAT2)の発現強度は、4次チャンネル中の2次エフェクター分子を検出することにより測定する。特異的な細胞内区画に対するAQUAスコアは、ピクセル数で分割された区画に割り当てられたそのピクセルのサブセットの強度を使用して作成してもよい。このスコアは、細胞内区画の単位面積当たりのAkt分子数に正比例しており、このスコアを標準化し、既知レベルのAktタンパク質発現を伴う細胞株で得られたスコアの検量線を使用して絶対値を特定してもよい。本方法は、全体が参考として本明細書で援用される、Nature Medicine paper(Camp,R.L.,Chung,G.G.&Rimm,D.L.Automated subcellular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays.Nat Med 8,1323‐7(2002));および2002年2月1日に出願され、国際特許第02/086498号として公開された、米国特許出願第10/062,308号に記載されている。
【0048】
組織中のバイオマーカーの定量化にAQUA(登録商標)技術を使用する、本発明の方法の例示的な実施形態を、以下の実施例で説明する。バイオマーカー発現を定量的に測定する方法は、細胞内のバイオマーカーの細胞内部位、ならびに細胞のバイオマーカー量またはリン酸化状態を測定する手順を含んでもよい。AQUA(登録商標)技術は、これらの両方の目的を達成する方法の一例である。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、これらの実施例はいかなる方法によっても限定的なものとして解釈してはならない。本発明の実施では、特に記載がない限り、当該技術分野の範囲内に含まれる、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技法が活用される。このような技法については、文献で詳細に説明されている(例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual.2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);およびImmunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987)を参照)。
【0050】
EGFRシグナル伝達プロファイルを得る方法
材料および方法
組織マイクロアレイ設計および処理
エール大学病理部のアーカイブから入手できる、非小細胞肺癌の213症例からパラフィン包埋ホルマリン固定検体(1996〜2003年)を得た。in situ病変および正常上皮から離れた各腫瘍試料の浸潤癌領域をマーキングし、0.6mmのコアを2個採取した。各コアを、1mm間隔のグリッドのレシピエントブロックに配列し、厚さ5ミクロンの切片を既述の通り切断および処理した(Kononen,J.et al.1998 Tissue microarrays for high‐throughput molecular profiling of tumor specimens.Nature Medicine.4,844‐847)。
【0051】
免疫組織化学
簡潔に言うと、事前に切断し、パラフィンでコーティングした組織マイクロアレイスライドを、プロテイナーゼK(EGFR、PharmDxキット、DAKO、米国カリフォルニア州カーピンテリア)、またはpH6.0のクエン酸塩中での10分間の圧力調理(その他すべての1次抗体については、以下を参照)によって、脱パラフィン化および抗原回収した。スライドを、0.1Mトリス緩衝食塩水(pH8.0)(BSA/TBS)中で室温にて60分間、0.3%のウシ血清アルブミンで事前にインキュベートした。次いで、スライドを、EGFR(PharmDxキット、原液を使用;DAKO、米国カリフォルニア州カーピンテリア)、Aktl(マウスモノクローナル、クローン2H10、1:200で希釈;Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州デンバー)、Erk1/2(マウスポリクローナル、1:100で希釈;Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州デンバー)、またはStat3(ウサギのモノクローナル、クローン124H6、1:500で希釈;Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州デンバー)、および4℃にて一晩BSA/TBS中で希釈したパンサイトケラチン(マウスまたはウサギのポリクローナル、1:100で希釈、DAKO、米国カリフォルニア州カーピンテリア)に対する1次抗体でインキュベートした。スライドを、3×10分間、0.05%のTween‐20を含む1X TBSで洗浄した。対応する2次抗体を、室温にて1時間BSA/TBSに加えた。これらは、抗サイトケラチン(Alexa 488に結合したヤギ抗ウサギ;1:100、Molecular Probes、米国オレゴン州ユージーン)に対するフルオロフォアに直接結合するおよび/または抗チミジル酸シンターゼ(DAKO、米国カリフォルニア州カーピンテリア)に対するホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に結合する抗体のいずれかまたは両方を含んだ。スライドを、3×10分間、0.05%のTween‐20を含むTBSで再度洗浄した。スライドを、DABと同様に、HRPにより活性化され、HRPにより結合した2次抗体に直ちに隣接する多くの共有結合したCy‐5染料が沈着する蛍光性クロマジェン(Cy‐5‐チラミド、NEN Life Science Products、米国マサチューセッツ州ボストン)でインキュベートした。放出ピークが、組織自己蛍光の緑色からオレンジ色のスペクトルのかなり外側にあることから、Cy‐5(赤)を使用した。自動分析用のスライドに、Antifade DAPI含有封入剤(ProLong Gold、Molecular Probes、米国オレゴン州ユージーン)を使用してカバースリップを被せた。
【0052】
画像収集
画像収集は既述の通りに行った(Camp RL et al.2002 Automated subcellular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays.Nature Medicine.8(11):1323‐1327)。すなわち、自動xyzステージ動作を備えたTE200倒立蛍光顕微鏡にNikon Super‐Fluor10倍レンズを介して付属の水冷式Photometries series 300カメラを取り付けた、Deltavisionプラットフォームおよびソフトウェア(SoftWorx2.5;Applied Precision、米国ワシントン州イサクアー)を使用して、マイクロアレイ画像を得た。マイクロアレイの低出力画像を、約7ミクロンの解像度で、マイクロアレイの複数(約1500)の低解像度画像(64×64ピクセル)を使用し、一緒にステッチした。DAPLのシグナルを使用して、検体コア(ヒストスポット)を同定した。次いで、各ヒストスポットの座標を記録した。その後、各ヒストスポットの単色の高解像度(1024×1024ピクセル、0.5ミクロンの解像度)画像を、焦点面、およびヒストスポットから8ミクロン下方の両方で取得し、画像スタックにビットマップとして記録した。0〜1024のダイナミックレンジを使用して画像を得たが、0〜255のダイナミックレンジを有する8ビットのtiff画像として、保存および分析した。
AQUA(登録商標)分析(RESA/PLACEアルゴリズム)
AQUA(登録商標)分析は既述の通りに行った(Camp RL et al. 2002 Automated subcellular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays. Nature Medicine.8(11):1323‐1327)。すなわち、腫瘍を周囲の基質および/または白血球と区別するマーカー(サイトケラチン)の画像を閾値化することにより、腫瘍に特異的なマスクを作成した。これにより二元性マスクが作成される(各ピクセルは「オン」または「オフ」のいずれかである)。閾値レベルを数枚の画像の抜取検査により検証した後、残りの画像については自動化した。その後のすべての画像操作には、マスク領域から得た画像情報のみが含まれる。次いで、区画に特異的な標識と標的マーカーから、2つの画像(1つは焦点画像、もう1つは遠距離画像)を撮影する。焦点外画像の割合を、2つの画像のピクセル毎の分析に基づいて、焦点画像から減算する。全体の減算度は、各細胞内区画に対するユーザ定義の割合に基づく。ほとんどの用途の場合、これは実験的に全シグナルの40%に設定され、全マイクロアレイから得た画像では一定のままとなる。したがって、RESAはすべての焦点外情報を削除する。このアルゴリズムは、高染色度領域と低染色度の隣接域との間でインターフェースが増強するという追加の利点を有し、隣接区画のピクセルのより正確な配置を可能にする。区画に特異的な標識とは対照的に、標的シグナルのRESA減算は一定で、全体の画像強度には基づいていない。これにより、同量の減算が全検体の標的シグナルにより生じるようになる。最後に、PLACEアルゴリズムは、画像中の各ピクセルを特異的な細胞内区画に割り当てる。ユーザ定義の信頼度(通常95%)の範囲内までの区画に正確に割り当てることができないピクセルは破棄する。これは、1つの区画から別の区画へのマーカーのスピルオーバーを最小限にする、2個の区画に特異的なマーカーから得たシグナル比を測定することにより、反復的に達成される。核および細胞膜ピクセル強度が類似しすぎるために正確に割り当てることができないピクセルは無効にする(通常、全ピクセルの8%未満を含む)。第3区画(細胞質)は、排除(非細胞膜、非核)により定義することができる。各ピクセルを細胞内区画に割り当てる(または上述の通りに排除する)と、各位置中のシグナルが合算される。このデータを保管し、その後、全シグナルの割合として、あるいは区画領域当たりの平均シグナル強度として表すことができる。スコアは1〜1000のスケールで表す。
【0053】
データ解析
マスク領域(自動化)別といった、10%未満の腫瘍を含むヒストスポットを、次の解析から排除した。本発明者等の以前の研究では、2つのヒストスポットの平均から得たスコアが、全組織切片から得たスコアと95%を超える確率で一致することが実証されている(Camp,RL et al.2002 Validation of tissue microarray technology in breast carcinoma.Lab.Invest 80:1943‐1949)。各患者の腫瘍を、これらの分析の2つの独立した組織コアで表し、その後、各患者のAQUA(登録商標)スコアを平均化した。さらに、発現の不均一性(ピアソンのR値0.4未満は実験誤差と考えられ、0.4〜0.7は不均一な発現と考えられ、0.7超は均一な発現と考えられる)だけでなく、実験の再現性の基準として調査した各マーカーの回帰分析を行った。各バイオマーカーのピアソンのR値は、以下の通りである:EGFR、0.78;Aktl、0.44;Erkl/2、0.55、およびStat3、0.69。独立した生存率解析を行うために、既述の通りにX‐tile(登録商標)を使用して最適な切点を選択した(Camp,RL et al.2004,X‐tile:a new bio‐informatics tool for biomarker assessment and outcome‐based cut‐point optimization.Clinical Cancer Research 10(21):7252‐7259)。Mantel‐Coxのlog‐rankスコアは最適な切点の選択に統計的に十分厳密ではないことから、Monte‐carloシミュレーションを使用した。さらに統計的に厳密にするために、最適な切点をコホートの3分の1(訓練群)に特定し、コホートの残りの3分の2(検証群)に適用した。非監視および監視下での階層的クラスター分析は、Cluster Softwareを使用して行い、クラスターの可視化にTreeView Softwareを使用して表示した(スタンフォード大学Eisen研究室)。その後、生存率解析を、SPSS vl4.01(SPSS,Inc.、米国イリノイ州シカゴ)およびR(GNU、米国マサチューセッツ州ボストン)を使用して行った。
【0054】
結果
生存率解析
AQUA(登録商標)分析によるEGFR発現試験では、EGFRを発現するNSCLC腫瘍の上位25%(相対的なAQUA(登録商標)スコア12に相当;ヒストグラム(挿入紙、図1)を参照)に、疾患特異的3年生存率の統計的に有意な25%の減少が見られることが明らかになった(図1)。
【0055】
EGFR経路の主要な下流シグナル伝達エフェクター(Aktl、Erkl/2、およびStat3)のAQUA(登録商標)分析では、Aktlではなく、Erkl/2およびStat3の全発現が全体生存率の減少に有意な効果があったことが明らかになった(データ図示なし)。
【0056】
細胞内区画間での発現、特に、各マーカーの核/細胞質発現比の定量評価には、AQUA(登録商標)分析を使用した。各マーカーの比はそれぞれ生存率と相関しなかった。エフェクター分子Aktl、Erkl/2、およびStat3の核/細胞質発現比は、特定の経路が活性化されていることを示すことが予測された。
【0057】
階層的クラスター分析
上流受容体EGFR機能として個々の下流エフェクターの予側力を評価するため、EGFR発現により検体をグループ化し、主要な下流エフェクター(Aktl、Erk1/2、およびStat3)の核/細胞質比における傾向を調査することにより、監視下による階層的クラスター分析を行った。図2Aから明らかなように、4つの主要な腫瘍群が認められた(図2A)。第1群の腫瘍は、下流エフェクターの高核/細胞質比を伴う低EGFR発現を有した。第2群は、高核/細胞質比を伴う高EGFR発現を有した。第3群の腫瘍は、低核/細胞質比を伴う低EGFR発現を有し、第4群は、低核/細胞質比を伴う高EGFR発現を有した。Kaplan‐Meier生存率解析では、これらの群間で生存率に有意差が見られなかったことが実証された(図2B)。
【0058】
シグナル伝達指数
階層的クラスター分析で認められた4群は、1)最適な切点(図3A)、ならびに2)EGFR発現の平均(Z‐スコア=0;図4A)切点、および下流エフェクター分子の平均核/細胞質比(「シグナル伝達指数」と呼ぶ)に基づくより厳密なグループ化に基づいて、分析を促進した。図3Bおよび図4Bは、シグナル伝達指数だけでは、全体生存率との間に有意な相関関係が見られないことを示している。しかし、EGFR発現をシグナル伝達指数と組み合わせることにより、最適な切点分析に基づいた全4群間での疾患特異的3年生存率に有意差が認められ(図3C;p=0.008)、「シグナル伝達指数」が低く、高いEGFRを表す群(C群)が全体生存率が最も低かった。中間値が切点として使用された別の分析(図4C)では、群間で全体生存率に有意差が見られ(p=0.028)、C群(高EGFR、低シグナル伝達指数)が他の群に比べて、全体生存率の減少とより有意な相関関係があることが示された(p=0.004)。
【0059】
参考文献
国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の公開データベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)から得た、本明細書で言及するいずれかのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対応する受託番号は、全体が参考として援用される。本出願全体を通じて引用される全引用文献の内容は、参考として本明細書で明示的に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】生存期間(数ヶ月単位)に対する累積生存率を描画するグラフである。
【図2】(図2A)EGFRの平均AQUA(登録商標)技術スコア、ならびにAktl、Erkl/2およびStat3の平均シグナル伝達指数(SQ)によってグループ化した検体によって行われた、監視下での階層的クラスター分析結果を描画する図である。4つの主要な腫瘍群が認められた。(図2B)Kaplan‐Meier生存プロットが、これらの4群間での生存率に有意差が見られなかったことを実証する図である。
【図3】(図3A)EGFR発現、および平均核/細胞質比のX‐tileによって最適な切点で分割された生存率解析(上記の図2で表されるよりも厳密なグループ化)を示す図である。(図3B)SQ単独では全体生存率とそれほど有意な相関関係がないことを示す図である。(図3C)EGFR発現をSQと組み合わせることにより、全4群の疾患特異的3年生存率に有意差(p=0.008)が認められたことを実証する図である。
【図4】(図4A)EGFR発現の平均スコア(Z‐スコア=0)、および平均核/細胞質比によって分割された生存率解析を示す図である。高EGFRおよび低シグナル伝達指数を有する患者は、最悪の予後を有する。(図4B)SQ単独では、全体生存率と有意な相関関係がないことを示す図である。(図4C)EGFR発現をSQと組み合わせることによって、全4群の疾患特異的3年生存率に有意差(p=0.028)が認められたことを実証する図である。A〜D群は図3に示す群とは異なる。
【図5】細胞の細胞膜上のEGFR、ならびに細胞質および核中の下流エフェクターAkt、Erk、およびStat3を図示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織切片中のシグナル伝達経路活性を測定する免疫組織化学法であって、
a)細胞受容体タンパク質を検出するための試薬で前記組織切片を染色する手順と;
b)前記細胞受容体タンパク質に関連する前記シグナル伝達経路の一員であるエフェクター分子を検出するための第2の試薬で前記組織切片を染色する手順と;
c)光学顕微鏡を使用して、前記組織切片中の前記染色細胞受容体タンパク質、および前記組織切片中の前記染色エフェクター分子の高解像度デジタル画像を得る手順と;
d)前記デジタル画像を分析して、前記組織切片中に存在する前記細胞受容体タンパク質量、および前記組織切片中に存在するエフェクター分子量を定量化する手順と、
を含み、
それによって前記組織切片中の前記シグナル伝達活性を測定する、方法。
【請求項2】
前記組織切片が癌の疑いのある1または複数の細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織切片が固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織切片を顕微鏡スライドに付着させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞受容体タンパク質が上皮成長因子受容体である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞受容体タンパク質がEGFRである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エフェクター分子が、Grb2、Ras、ERK、AKT、pAKT、GSK3、pGSK3、eIF2B、NFkB、CREB、JAK、およびSTATからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エフェクター分子が、AKT、ERK、およびSTATからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の試薬が全エフェクター分子発現量を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の試薬がリン酸化エフェクター分子発現量を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記エフェクター分子がエンドエフェクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
細胞内区画中の前記エフェクター分子を定量化する手順もさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞内区画が、細胞核および細胞質からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記シグナル伝達活性が、特異的な予後転帰について測定したシグナル伝達活性ともさらに相関関係にある、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記シグナル伝達活性が、特異的な治療転帰について測定したシグナル伝達活性ともさらに相関関係にある、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
組織切片中のシグナル伝達経路活性を測定する免疫組織化学法であって、
a)細胞受容体タンパク質を検出するための試薬で前記組織切片を染色する手順と;
b)前記細胞受容体タンパク質に関連する前記シグナル伝達経路の一員であるエフェクター分子を検出するための第2の試薬で前記組織切片を染色する手順と;
c)細胞内区画を標識化するための第3の試薬で前記組織切片を染色する手順と;
d)顕微鏡を使用して、
i)前記組織切片中の染色細胞受容体タンパク質;
ii)前記組織切片中の前記染色エフェクター分子;および
iii)前記標識化細胞内区画
の高解像度デジタル画像を得る手順;
e)前記デジタル画像を分析して、
i)前記組織切片中に存在する前記細胞受容体タンパク質;
ii)前記組織切片中の前記エフェクター分子;および
iii)前記細胞内区画中に存在する前記エフェクター分子
の定量的量を測定する手順と;
f)互いに関連性のある前記細胞受容体、前記エフェクター分子および前記細胞内区画中の前記エフェクター分子の前記定量的量を分析する手順と、
を含み、
それによって前記組織切片中の前記シグナル伝達活性を測定する、方法。
【請求項17】
前記細胞内区画が、核および細胞質からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
手順6が、核中のエフェクター分子量に対する細胞質中のエフェクター分子量の比を測定する手順を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
組織切片中のシグナル伝達経路活性を測定する免疫組織化学法であって、
a)細胞受容体タンパク質を検出するための試薬で前記組織切片を染色する手順と;
b)それぞれが前記細胞受容体タンパク質に関連する前記シグナル伝達経路の一員である複数のエフェクター分子の1つ以上を検出するための1つ以上の追加の試薬で前記組織切片を染色する手順と;
c)細胞内区画を定義するための標識で前記組織切片を染色する手順と;
d)光学顕微鏡を使用して、
i)前記組織切片中の前記染色細胞受容体タンパク質;
ii)前記組織切片中の1つ以上の前記染色エフェクター分子;および
iii)前記標識化細胞内区画
の高解像度デジタル画像または複数の高解像度デジタル画像を得る手順と;
e)前記デジタル画像を分析して、
i)前記組織切片中に存在する前記細胞受容体タンパク質;
ii)前記組織切片中に存在する1つ以上の前記エフェクター分子;および
iii)前記細胞内区画中に存在する1つ以上の前記エフェクター分子
の定量的量を測定する手順と;
f)互いに関連性のある前記細胞受容体、1つ以上の前記エフェクター分子、および前記細胞内区画中の1つ以上の前記エフェクター分子の前記定量的量を分析する手順と、
を含み、
それによって前記組織切片中の前記シグナル伝達活性を測定する、方法。
【請求項20】
2つ以上のエフェクター分子が染色および分析される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
3つ以上のエフェクター分子が染色および分析される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
手順6が、核中のエフェクター分子量に対する、細胞質中の各エフェクター分子量の比を測定する手順を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
複数のエフェクター分子の比が、受容体タンパク質との関連において組み合わされる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
組織切片のEGFRシグナル伝達プロファイルを測定する方法であって、
(a)(i)EGFRを検出するための試薬;
(ii)EGFRエフェクター分子を検出するための第2の試薬;および
(iii)細胞内区画を検出するための第3の試薬
で前記組織切片を染色する手順と;
(b)顕微鏡を使用して、
(i)EGFR;
(ii)EGFRエフェクター分子;および
(iii)細胞内区画
の高解像度デジタル画像を得る手順と;
(c)前記デジタル画像を分析して、
(i)EGFR;
(ii)前記細胞内区画中に存在するEGFRエフェクター分子;および
(iii)前記細胞内区画外に存在するEGFRエフェクター分子
の量を定量化する手順と;
(d)手順c(ii)で測定した量に対する、手順c(iii)で測定した量のエフェクター比を測定する手順と;
(e)前記EGFR量と対照検体の発現レベルとを比較する手順と;
(f)手順(d)の比と対照検体中の同手順の比とを比較する手順と、
を含む、方法。
【請求項25】
EGFR発現腫瘍の予後状態を測定する方法であって、請求項1に記載の方法を含み、(i)高いEGFRレベルと、対照エフェクター比よりも低い比とを有する腫瘍が、予後不良を示し;(ii)高いEGFRレベルと、対照エフェクター比よりも高い比を有する腫瘍が、より予後良好であることを示し;(iii)低いEGFRレベルと、対照エフェクター比よりも低い比を有する腫瘍が、予後良好を示す、方法。
【請求項26】
前記細胞内区画が核であり、前記細胞内区画外の領域が細胞質である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも2つのEGFR下流エフェクター分子のエフェクター比を定量化し、前記比を平均化して前記シグナル伝達指数を得る、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記EGFR下流エフェクター分子が、Aktl、Erk、およびStat3からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
Aktl、ERK、およびSTAT3を含む3つのEGFRエフェクター分子のエフェクター比を定量化し、前記比を平均化して前記シグナル伝達指数を得る、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
EGFRを発現する腫瘍の予後状態を測定する方法であって、請求項28に記載の方法を含み、(i)高いEGFRレベルと、対照シグナル伝達指数よりも低い指数を有する腫瘍が、より予後不良であることを示し;(ii)高いEGFRレベルと、対照シグナル伝達指数より高い指数を有する腫瘍が、より予後良好であることを示す、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−536355(P2009−536355A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509783(P2009−509783)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/011052
【国際公開番号】WO2007/130677
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(392019352)イェール ユニバーシティー (38)
【氏名又は名称原語表記】YALE UNIVERSITY
【出願人】(309012074)ヒストラックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】