説明

診断支援方法、診断支援システム及び診断支援装置

【課題】低血糖状態の存否を関する診断を支援する情報を生成するに際し、被験者の負担を減らすことができる診断支援方法を提供する。
【解決手段】第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は前記第1の時点から所定時間経過した後の第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報を取得する工程と、前記被験者の皮膚に、組織液を収集可能な収集部材を前記第1の時点から第2の時点まで配置する工程と、被験者の皮膚に所定時間配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する工程と、第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は診断支援方法、診断支援システム及び診断支援装置に関する。さらに詳しくは、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する診断支援方法、診断支援システム及び診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は、睡眠時に低血糖状態(一般に、血糖値が70mg/dl以下に低下した状態のこと)に陥る、いわゆる夜間低血糖を発症することがある。このような夜間低血糖を診断するために、例えば特許文献1に開示されている穿刺装置を用いて夜間に被験者の皮膚を穿刺して採血し、血糖値を測定することが行われている。
【0003】
しかしながら、このような夜間低血糖の診断は、夜間の一時点における血糖値のみに基づくものであるので、その診断結果の信頼性は充分ではなかった。また、夜間に起きて採血をしなければならないので、睡眠を妨げられることを含め被験者にとって負担が大きい。
【0004】
そこで、このような問題を改善するために、連続的にグルコース濃度を測定する装置を用いて夜間低血糖を診断することが提案されている。例えば、特許文献2には、被験者の皮膚に電流を流して体内のグルコースを電気浸透させる電極と、皮膚から浸透したグルコースと反応して信号を出力するバイオセンサと、出力された信号から20分毎にグルコース濃度を読み取って記憶するマイクロプロセッサとを備えた装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、被験者の皮下組織に差し込まれるグルコースセンサと、このグルコースセンサから所定時間毎に信号を取得して皮下組織に存在するグルコース濃度を測定するグルコースモニタとを備えたグルコースモニタシステムが開示されている。
【0006】
特許文献2又は3に記載された装置を用いれば、特許文献1記載の方法とは異なり被験者の血糖値を連続的に取得することができるため、低血糖状態の存否に関する診断精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/037185号パンフレット
【特許文献2】特表2004−506468号公報
【特許文献3】特表2002−541883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2記載の装置では、電極及びバイオセンサを含む装置を被験者の腕に装着しておく必要があり、また特許文献3記載の装置では、被験者の皮膚にグルコースセンサを差し込んでおく必要がある。そのため、特許文献2及び3の装置を用いた方法は、装置を装着しておくことが被験者にとって負担であった。特に、睡眠時に装置を装着しておくことは被験者にとって大きな負担となっていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来に比べて被験者の負担を減らすことができる診断支援方法、診断支援システム及び診断支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る診断支援方法は、第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は前記第1の時点から所定時間経過した後の第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報を取得する工程と、
前記被験者の皮膚に、組織液を収集可能な収集部材を前記第1の時点から第2の時点まで配置する工程と、
被験者の皮膚に所定時間配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する工程と、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する工程と
を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明の第1の観点に係る診断支援方法では、第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は当該第1の時点から所定時間経過した後の第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報と、被験者の皮膚に第1の時点から第2の時点まで配設された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報と、に基づいて被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報が生成される。この方法では、収集部材を皮膚に配置しておくだけで組織液が収集部材に収集され、この収集部材からグルコース情報を取得することができるので、大型の装置を腕に装着したり、センサを皮膚に差し込んだりする従来技術に比べて、装着時の被験者の負担が大幅に軽減される。また、寝返りなどによって収集部材が被験者の皮膚から外れることもなく、確実に組織液の収集を行うことができる。
【0012】
診断支援情報を生成する工程は、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第1積算値を取得する工程、
グルコース情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第2積算値を取得する工程、及び
第1積算値及び第2積算値に基づいて診断支援情報を生成する工程を含むものとすることができる。
【0013】
第1積算値が、第1血糖値情報及び第2血糖値情報に基づいて取得され、且つ
第1積算値が、血糖―時間グラフにおける、第1の時点を示す時間軸に垂直な直線と、第2の時点を示す時間軸に垂直な直線と、第1の時点の血糖値と第2の時点の血糖値とを結ぶ直線と、時間軸とによって囲まれる領域の面積であることが好ましい。
【0014】
第2積算値を、収集部材に蓄積されたグルコースの量に基づき算出される値とすることができる。
【0015】
診断支援情報を生成する工程は、第1積算値と、第2積算値と、所定の条件とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成することが好ましい。
【0016】
収集部材を配置する被験者の皮膚に微細孔を形成する工程をさらに含むことが好ましい。
【0017】
前記第1の時点を、被験者が就寝する前の時点とし、前記第2の時点を、被験者が起床した後の時点とすることができる。
【0018】
本発明の第2の観点に係る診断支援方法は、就寝前の被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は起床後の被験者の血糖値に関する第2血糖値情報を取得する工程と、
被験者の就寝前から起床後まで、被験者の皮膚に組織液を収集可能な収集部材を配置する工程と、
収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する工程と、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する工程と
を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明の診断支援システムは、被験者の組織液を収集可能な収集部材と、
被験者の皮膚に、第1の時点から、第1の時点から所定時間経過した第2の時点まで配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する取得部と、
第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する解析部と
を備えたことを特徴としている。
【0020】
解析部は、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第1積算値を取得し、
グルコース情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間における被験者体内のグルコース量の第2積算値を取得し、
第1積算値及び第2積算値に基づいて診断支援情報を生成するものとすることができる。
【0021】
被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置をさらに含むことが好ましい。
【0022】
本発明の診断支援装置は、被験者の皮膚に、第1の時点から、第1の時点から所定時間経過した第2の時点まで配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する取得部と、
第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する解析部と
を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の診断支援方法、診断支援システム及び診断支援装置によれば、低血糖状態の存否を関する診断を支援する情報を生成するに際し、被験者の負担を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の診断支援システムの一実施の形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の診断支援装置の一実施の形態の外観を示す斜視説明図である。
【図3】カートリッジ配置部に分析用カートリッジが配置された状態を示す概略断面図である。
【図4】本発明の診断支援システムにおける微細孔形成装置の一例の斜視説明図である。
【図5】図4に示される微細孔形成装置に装着される微細針チップの斜視図である。
【図6】微細孔形成装置によって微細孔が形成された皮膚の断面説明図である。
【図7】本発明の診断支援方法において用いられる収集部材の一例の斜視説明図である。
【図8】図7のA−A線断面図である。
【図9】本発明の診断支援方法の流れを示すフローチャートである。
【図10】本発明の診断支援方法における解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】横軸を時間とし、縦軸を血糖値とする血糖―時間グラフである。
【図12】カットオフラインの一例を示す図である。
【図13】複数の被験者についての血糖AUCの解析データを示す図である。
【図14】カットオフラインの求め方を説明する図である。
【図15】(a)は、就寝前の時刻t1における血糖値BG1のみに基づいてAUC1を算出する場合の模式図であり、(b)は、起床後の時刻t2における血糖値BG2のみに基づいてAUC1を算出する場合の模式図である
【図16】就寝前の血糖値だけを用いたスクリーニングの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔診断支援システム〕
図1は、本発明の一実施の形態に係る診断支援システムの全体構成を示すブロック図である。
夜間低血糖は、主にインシュリンなどの薬剤治療を受けている糖尿病患者においてみられる症状である。薬剤の投与量が過剰に多かったり、投与されている薬剤が過剰な効用を示すと、睡眠時に血糖値が過剰に低下し、低血糖状態に陥ることがある。夜間低血糖状態に陥ると、患者によっては夜間に目が覚めたり、手足の痺れが生じる。そのため、夜間低血糖状態の疑いのある患者においては、医師による診断の下で、薬剤の投与量を抑える、あるいは投与する薬剤を効用の小さい薬剤に切り替えるといった治療が必要になる。この診断支援システムは、被験者に夜間低血糖状態が存在した可能性が高いか否かに関する情報を提供することにより、このような医師による診断を支援するものである。
本明細書において、低血糖状態とは、被験者の血糖値が所定値を下回る状態を意味するものとする。以下に示す実施形態では、血糖値70mg/dlを下回る状態を低血糖状態であるとして説明するが、所定値は適宜決定される。
【0026】
診断支援システムは、主な構成として、被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置200と、微細孔が形成された皮膚から抽出される組織液を収集可能な収集部材10と、診断支援装置20とを備えている。診断支援装置20は、検出部30と、操作部34と、制御部35と、表示部33とを備える。検出部30は、収集部材10に収集された組織液に含まれるグルコース及びナトリウムイオンを検出して検出信号を出力する。操作部34は、自己血糖測定(SMBG)により得られた血糖値情報BG1及びBG2並びにそれらの測定時刻t1及びt2を入力するために設けられている。制御部35は、検出部30から出力された検出信号に基づいて、収集部材10に収集された組織液に含まれるグルコースおよびナトリウムイオンの濃度を取得する。制御部35は、操作部34によって入力された血糖値情報BG1及びBG2並びに測定時刻t1及びt2に基づいて、第1の血糖―時間曲線下面積(AUC1)を算出する。さらに、制御部35は、得られたグルコース濃度およびナトリウムイオン濃度に基づいて、第2の血糖―時間曲線下面積(AUC2)を算出する。制御部35は、算出されたAUC1及びAUC2に基づいて、被験者に夜間低血糖状態が存在したか否かに関する診断支援情報を生成し、表示部33に表示させる。
【0027】
〔診断支援装置〕
図2は、本発明の一実施の形態に係る診断支援装置20の外観を示す斜視説明図である。この診断支援装置20は、収集部材10の収集体12に収集された組織液に含まれるグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度を取得し、取得したグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度並びに別途測定された血糖値に基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を作成するためのものである。診断支援装置20は、検出部30と、取得部及び解析部を含む制御部35と、診断支援情報を表示する表示部33と、測定開始の指示などを行うための操作部としての操作ボタン34とを備える。
【0028】
診断支援装置20は、厚みのある直方体形状の筐体を備えており、筐体上面の天板には凹部21が形成されている。凹部21には、当該凹部21よりもさらに深く形成された凹部からなるカートリッジ配置部22が設けられている。さらに凹部21には、当該凹部21の側壁の高さとほぼ同じ厚みを有する可動天板23が連結されている。可動天板23は、支軸23aを中心に折り畳むことによって、図2に示される状態から凹部21内に収納し、又は凹部21に収納された状態から図2に示されるように起立させることができる。カートリッジ配置部22は、後述する分析用カートリッジ40を収納することができる大きさを有している。
【0029】
可動天板23は、凹部21に収納される方向に付勢されるように、支軸に支持されている。したがって、カートリッジ配置部22に配置された分析用カートリッジ40は、可動天板23によって上方から押さえつけられる。
【0030】
検出部30は、収集体12に収集された組織液(試料)に含まれる成分を検出するものであり、グルコース検出部31と、ナトリウムイオン検出部32とを備えている。
【0031】
グルコース検出部31は、可動天板23の裏面、すなわち可動天板23が凹部21に収納されたときにカートリッジ配置部22と対向する側の面に設けられている。グルコース検出部31は、光を照射するための光源31aと、この光源31aによって照射された光の反射光を受光するための受光部31bとを備えている。これにより、グルコース検出部31は、カートリッジ配置部22に配置された分析用カートリッジ40に対して光を照射するとともに、照射された分析用カートリッジ40からの反射光を受光できるように構成されている。
【0032】
ナトリウムイオン検出部32は、カートリッジ位置部22の底面に設けられている。ナトリウムイオン検出部32は、カートリッジ配置部22の底面に設けられた長方形状を有する板状の部材を備え、この板状部材の略中央には一対のナトリウムイオン濃度測定用電極が設けられている。ナトリウムイオン濃度測定用電極は、ナトリウムイオン選択膜を備えた銀/塩化銀からなるナトリウムイオン選択性電極と、対電極である銀/塩化銀電極を含んでいる。
【0033】
制御部35は、診断支援装置20の内部に設けられており、解析部であるCPUや、記憶部であるROM、RAMなどを含んでいる。CPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の動作を制御する。RAMは、ROMに記憶されたプログラムが実行される際のプログラムの展開領域として利用される。
【0034】
診断支援装置20は、その内部にポンプからなる供給部24、収集体12に収集された組織液を回収するための純水からなる回収液を収容するタンク26、及び廃液を収容する廃液タンク25を備えている。供給部24は、タンク26に空気を送り込むことにより、ニップル24aを介して、カートリッジ配置部22に配置された分析用カートリッジ40にタンク26内に収容されている回収液を注入する。
【0035】
廃液タンク25は、供給部24によって分析用カートリッジ40に送液された純水が排出される機構であり、ニップル25aを介して排出された液体を収容する。
【0036】
図3は、カートリッジ配置部22に分析用カートリッジ40が配置された状態を示す概略断面図である。まず図3を参照して分析用カートリッジ40の構成について説明する。
【0037】
分析用カートリッジ40は、主な構成として、ゲル収容部42と、グルコース反応体41と、光導波部材44とを備えている。ゲル収容部42は、分析用カートリッジ40の表面に形成された凹部からなる。ゲル収容部42の底部には、カートリッジ配置部22に設けられたニップル24aと連通する注入孔42aが設けられている。分析用カートリッジ40の下面にはゲル収容部42と連通する溝が形成されている。この溝とカートリッジ配置部22の底部に設けられたナトリウムイオン検出部32とによって流路43aが形成される。この流路43aの一部は、ナトリウムイオン検出部32によりナトリウムイオン濃度が検出される第1貯留部43とされている。流路43aの下流は、第2貯留部45に連通している。第2貯留部45は分析用カートリッジ40の表面に設けられた凹部からなり、その開口が光導波路を有する光導波部材44によって閉塞されている。この光導波部材44の下面に、グルコースと反応して変色するグルコース反応体41が設けられている。第2貯留部の底部には、カートリッジ配置部22に設けられたニップル25aと連通する排出孔45aが設けられている。
【0038】
診断支援装置20は、次のようにして収集部材10に収集された組織液に含まれるグルコース及びナトリウムイオン濃度を測定する。まず、図2において、一点鎖線で示されるように、被験者の皮膚に所定時間貼り付けられた収集部材10が皮膚から取り外され、分析用カートリッジ40のゲル収容部42に貼り付けられる。この分析用カートリッジ40が診断支援装置20のカートリッジ配置部22に配置され、可動天板23が閉じられる。
【0039】
操作ボタン34によって測定開始が指示されると、供給部34からタンク26に向けて空気が供給され、タンク26からニップル24aに向けて回収液が送られる。回収液は注入孔42aからゲル収容部42に注入され、ゲル収容部42が回収液で満たされる。この状態で所定時間が経過すると、収集体12に収集された組織液が回収液に拡散する。所定時間が経過したら、供給部24はバイパス路24aを介してゲル収容部42に空気を送り込む。これにより、ゲル収容部42内の液体が流路43aを通じて第1貯留部43および第2貯留部45に送液される。
【0040】
ナトリウムイオン検出部32は、ナトリウムイオン濃度測定用電極によって第1貯留部43に貯留された液体に一定電圧を印加する。このときの電流値は、液体に含まれるナトリウムイオン濃度に比例する。ナトリウムイオン検出部32は、得られた電流値を検出信号として制御部35に出力する。制御部35は、検出信号に含まれる電流値と予め制御部35の記憶部に記憶されている検量線とに基づいて、ナトリウムイオン濃度を取得する。
【0041】
第2貯留部では、回収液中のグルコースとグルコース反応体41とが反応し、グルコース反応体41が変色する。グルコース検出部31は、光源31aから光導波部材44に向かって光を照射し、光導波部材44から出射した光を受光部31bによって受光する。光源31aから光が照射されると、光は、変色したグルコース反応体41により吸光されながら、光導波部材44の内部で反射を繰り返して受光部31bに入射する。したがって、受光部31bにおける受光量はグルコース反応体41の変色度合い、ひいては回収液中のグルコース量に比例する。グルコース検出部31は、得られた受光量を検出信号として制御部35に出力する。制御部35は、検出信号に含まれる受光量と予め制御部35の記憶部に記憶されている検量線とに基づいてグルコース濃度を取得する。
【0042】
ナトリウムイオン濃度およびグルコース濃度が取得されると、供給部24から分析用カートリッジ40にさらに空気が送り込まれる。これにより回収液が排出孔45aおよびニップル25aを介して廃液タンク25に送られ、一連の測定が終了する。
【0043】
〔微細孔形成装置〕
つぎに被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置の一例について説明する。微細孔形成装置は、被験者の皮膚に多数の微細な孔を形成して当該被験者の皮膚からの組織液の抽出を促進する装置である。
【0044】
図4は、本発明の診断支援システムにおける微細孔形成装置の一例に係る穿刺具100の斜視説明図であり、図5は、図4に示される穿刺具100に装着される微細針チップ200の斜視図であり、図6は、穿刺具100によって微細孔が形成された皮膚の断面説明図である。
【0045】
図4〜6に示されるように、穿刺具100は、滅菌処理された微細針チップ200を装着して、当該微細針チップ200の微細針201を生体の表皮(被験者の皮膚300)に当接させることによって、被験者の皮膚300に組織液の抽出孔(微細孔301)を形成する装置である。
【0046】
図4に示されるように、穿刺具100は、筐体101と、この筐体101の表面に設けられたリリースボタン102と、筐体101の内部に設けられたアレイチャック103及びバネ部材104と、筐体101の下部101aに形成された鍔部とを備えている。筐体101の下部101aの下端面(皮膚に当接する面)には、前記微細針チップ200が通過可能な開口(図示せず)が形成されている。バネ部材104はアレイチャック103を下端面に向かう方向に付勢する機能を有する。アレイチャック103は下端に微細針チップ200を装着することができる。微細針チップ200の下面には、複数の微細針201が形成されている。微細針チップ200の下面は、10mm(長辺)×5mm(短辺)の大きさからなる。また、穿刺具100は、アレイチャック103をバネ部材104の付勢力に逆らって上方(反穿刺方向)に押し上げた状態で固定する固定機構(図示せず)を有しており、使用者(被験者)がリリースボタン102を押下することにより、当該固定機構によるアレイチャック103の固定が解除され、バネ部材104の付勢力によって当該アレイチャック103が移動し、開口から突出した微細針チップ200の微細針201が皮膚を穿刺するように構成されている。これにより、図5に示すように、皮膚300の表皮内にとどまり真皮までは到達しないような大きさの微細孔301が被験者の皮膚に形成される。
【0047】
〔収集部材〕
つぎに被験者の皮膚から組織液を収集する収集部材10について説明する。収集部材10は被験者の皮膚から組織液を収集するために被験者の皮膚に貼付され、所定時間経過後に皮膚から取り外されて診断支援装置による測定に供される。
【0048】
図7は、保持シート11と、この保持シート11に保持された収集体12とを備えた収集部材10の斜視説明図であり、図8は、図7のA−A線断面図である。
【0049】
収集体12は、被験者の皮膚から抽出した組織液を保持可能な保水性を有するゲルからなっており、抽出媒体としての純水を含有している。このゲルは、組織液を収集することが可能であれば特に限定されないが、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種の親水性ポリマーから形成されたゲルが好ましい。ゲルを形成する親水性ポリマーは、ポリビニルアルコール単独又はポリビニルピロリドン単独であってもよく、また両者の混合物であってもよいが、ポリビニルアルコール単独又はポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの混合物であることがより好ましい。
【0050】
ゲルは、親水性ポリマーを水溶液中で架橋する方法により形成することができる。ゲルは、親水性ポリマーの水溶液を基材上に塗工して塗膜を形成し、該塗膜中に含まれる親水性ポリマーを架橋する方法により形成することができる。親水性ポリマーの架橋法としては、化学架橋法や放射線架橋法などがあるが、ゲル中に各種化学物質が不純物として混入し難い点より、放射線架橋法を採用することが望ましい。
【0051】
収集体12は、図7〜8に示される例では直方体形状を呈しており、皮膚と当接する面のサイズは7mm×12mmである。ただし、収集体12の形状及びサイズは、これに限定されるものではない。
【0052】
保持シート11は、小判形状のシート本体11aと、このシート本体11aの片面に形成された粘着剤層11bとで構成されており、前記粘着剤層11bが形成された側の面が粘着面とされている。収集体12は、同じく小判形状の、台紙としても機能する剥離シート13のほぼ中央に配設されており、この収集体12を覆うように前記保持シート11が剥離シート13に貼付されている。収集体12は、保持シート11の粘着面の一部によって当該保持シート11に保持されている。保持シート11の面積は、組織液収集時における収集体12の乾燥を防ぐために、収集体12を覆うことが可能な大きさを有している。すなわち、保持シート11によって収集体12を覆うことにより、組織液収集時に皮膚と保持シート11との間を気密に保つことができ、組織液収集時に収集体12に含まれる水分が蒸発するのを抑制することができる。
【0053】
保持シート11のシート本体11aは、無色透明又は有色透明であり、当該シート本体11aの表面側(粘着剤層11bと反対側の面)から、保持シート11に保持されている収集体12を目視にて容易に確認することができる。シート本体11aは、組織液の蒸発や収集体の乾燥を防ぐため透湿性が低いものが好ましい。シート本体11aの材質としては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルムなどが挙げられ、その中でもポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルムが好ましい。シート本体11aの厚さは、特に限定されないが、概ね0.025〜0.5mm程度である。
【0054】
収集部材10は、収集体12が被験者の微細孔形成領域(組織液の抽出を促進させるために前記穿刺具100によって被験者の皮膚300に複数の微細孔301が形成された領域)に配置されるように、保持シート11の粘着面によって当該被験者の皮膚300に貼付される。そして、収集体12を微細孔形成領域に配置した状態で所定時間、例えば60分以上、好ましくは180分以上放置することにより、微細孔を介して抽出される組織液を当該収集体12に収集する。
【0055】
〔診断支援方法〕
つぎに前記診断支援システムを用いた診断支援方法について説明する。
図9は、本発明の診断支援方法の流れを示すフローチャートである。
【0056】
まず、ステップS1において、被験者は就寝前の第1の時点(時刻t1)で適宜の方法により血糖値を測定し、測定値BG1(第1血糖値情報)及び測定時刻t1を記録する。
血糖測定方法は、血糖値を測定できる方法であれば特に限定されず、従来公知の方法が適用できる。血糖値の測定には、迅速な測定が可能である点で自己血糖測定機器を用いることが好ましい。自己血糖測定機器としては市販の機器を用いることができ、例えば、グルテストエブリ(三和化学研究所)、ワンタッチウルトラ(ジョンソンアンドジョンソン)、ニプロフリースタイル(ニプロ)、ナチュラレット(アークレイ)などが挙げられる。
【0057】
ついで、ステップS2において、被験者の皮膚300をアルコールなどを用いて清拭し、測定結果の外乱要因となる物質(汗、塵など)を除去する。その後、当該被験者の皮膚に、前述した微細針チップ200を装着した穿刺具100の鍔部105を配置し、ついでリリースボタン102を押圧して微細針チップ200の微細針201を被験者の皮膚300に接触させることで、皮膚300に微細孔301を形成する。微細孔を形成することで、皮膚300からの組織液の抽出を促進させることができる。また、このような構成によれば、就寝前に微細孔を形成すれば、その後は組織液の抽出を促進する処理を行う必要がない。そのため、例えばイオントフォレイシスのように、睡眠中に電気を印加したりする必要がなく、被験者の睡眠に及ぼす影響が小さくて済む。
【0058】
ついで、ステップS3において、穿刺具100を被験者の皮膚300から離し、その後微細孔301が形成された領域(微細孔形成領域)に収集体12が配置されるように、収集部材10の保持シート11を被験者の皮膚300に貼付する。収集部材10を皮膚に貼付した状態で被験者は適時就寝をする。被験者はシート状の部材を皮膚に貼付しているだけであるので、装置を腕に装着したり、センサを皮膚に差し込んだりする従来技術に比べて負担が大幅に軽減される。また、寝返りなどによって収集部材10が被験者の皮膚から外れることもなく、確実に組織液を収集することができる。
【0059】
ついで、起床後において、被験者は皮膚に貼付しておいた収集部材10を取り外す(ステップS4)。
ついで、被験者は、ステップS5においてステップS1と同様にして、第2の時点(時刻t2)で適宜の方法により血糖値を測定し、測定値BG2(第2血糖値情報)及び測定時刻t2を記録する。
【0060】
ついで、ステップS6において、被験者により、測定値BG1及びBG2、並びに時刻t1及びt2が操作ボタン34の操作により診断支援装置20に入力される。
ついで、ステップS7において、被験者の皮膚300から取り外された収集部材10が分析用カートリッジ40の所定箇所に貼付され、この分析用カートリッジ40が診断支援装置20のカートリッジ配置部22に配置される。
【0061】
ついで、ステップS8において、制御部35は、カートリッジ配置部22に配置された分析用カートリッジ40に対する所定の解析処理を実行する。
なお、前記実施の形態では、ステップS4において収集部材10を取り外した後に、ステップS5において血糖値情報(BG1)を測定し、さらにステップS6において測定値BG1を入力しているが、起床後にまずBG1を測定して入力を行い、その後収集部材を取り外すようにしてもよい。
【0062】
つぎに診断支援方法における解析処理について詳細に説明する。図10は、診断支援装置20の制御部35によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS10において、制御部35は、ステップS6で入力された測定値BG1及びBG2、並びに時刻t1及びt2に基づいて、血中濃度―時間曲線下面積AUC1(第1積算値)を算出する。
【0063】
このAUC1は、図11に示されるように、横軸を時間とし、縦軸を血糖値とする血糖―時間グラフを考えた場合に、第1の時点t1を示す時間軸に垂直な直線m1と、第2の時点t2を示す時間軸に垂直な直線m2と、第1の時点の血糖値BG1と第2の時点の血糖値BG2とを結ぶ直線nと、時間軸とによって囲まれる台形の面積(第1積算値)である。なお、図11において、実際の血糖値は曲線で示されるように変化しているとする。このとき、前記曲線よりも下であって、時間軸よりも上の部分の面積(図において斜線で示される部分の面積)が実際のAUCである。
【0064】
ついで、ステップS11aにおいて、制御部35は、上述した測定処理を実行することにより、収集部材10に収集された組織液に含まれるグルコースおよびナトリウムイオン濃度を取得する。
【0065】
ついで、ステップS11において、制御部35は、得られたグルコース濃度Glc及びナトリウムイオン濃度Naと、抽出時間t(t2−t1)を下記式(1)に代入し、AUC2(第2積算値)を算出する。
AUC2=Glc×vol/{a×(Na×vol/t)+b} ・・・(1)
上記式において、volは収集体(ゲル)12の体積である。a及びbは実験により求められる定数である。
上記式(1)によってAUCが算出される原理については、国際公開2010/013808号に詳細に説明されている。なお、国際公開第2010/013808号の内容は参照として本明細書中に組み込まれる。
【0066】
ここで、本実施の形態による診断支援方法の原理について説明する。
AUC1は、図11からも明らかなように、第1の時点t1から第2の時点t2にかけて血糖値が直線的に変化したと仮定したときの血糖―時間曲線下面積である。別の観点からみれば、AUC1とは、就寝前から起床後にかけて、血糖値が谷状の曲線を描くことなく単調に推移した場合の血糖―時間曲線下面積の理想値である。
【0067】
一方、実際の血糖値曲線は、図11に示したように、一般的に第1の時点t1から第2の時点t2にかけて谷状の曲線を描くため、実際のAUCは、理想値であるAUC1とは乖離した値になる。被験者に夜間低血糖状態が存在した場合には、健常者に比べて血糖値曲線の谷がさらに深くなるため、実際のAUCとAUC1との乖離もさらに大きくなる。したがって、実際のAUCとAUC1とを比較してそれらの乖離の程度を把握することにより、被験者に夜間低血糖状態が存在した可能性が高いか否かを推測することができる。
【0068】
そこで、本実施の形態の診断支援方法では、収集体(ゲル)に収集された組織液中のグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度に基づいて実際のAUC(AUC2)を推定し、AUC1とAUC2とを比較することにより、被験者に夜間低血糖状態が存在した可能性を推定する。このように、収集体(ゲル)を用いて抽出される組織液中のグルコース濃度及びナトリウムイオン濃度並びに上記式(1)に基づいて算出(推定)されるAUCと、実際に被験者の血液を複数回採取して得られる血糖値に基づいて得られるAUCとが高い相関を示すことは実証されている(国際公開第2010/013808号パンフレット参照)。
【0069】
なお、時刻t1は就寝前にSMBGを測定した時刻であり、時刻t2は起床後にSMBGを測定した時刻であり、このt1からt2までの時間は、厳密にいうと組織液の抽出時間(収集部材が皮膚に貼付されていた時間)とは相違している。しかしながら、時刻t1から収集部材が皮膚に貼付されるまでの時間、及び収集部材が皮膚から取り外されてから時刻t2までの時間は、いずれも通常2〜3分程度であり、収集部材が皮膚に貼付されている全体の時間(通常、7〜8時間程度)に比べるとわずかな時間であるので、前記相違を無視しても血糖AUCの算出結果にはほとんど影響がない。
【0070】
ついで、ステップS12において、制御部35は、横軸をAUC1とし、縦軸をAUC2とする座標において、ステップS10で算出されたAUC1及びステップS11で算出されたAUC2で表される点(AUC1、AUC2)が、予め求めておいたカットオフライン(基準線)よりも下であるか否かの判断を行なう。
【0071】
図12は、このようなカットオフラインの一例を示す図であり、図12において、Hで示される点は、AUC1に対してAUC2の値が小さく、カットオフラインよりも下に位置する。すなわち、図11において、時刻t1から時刻t2に至る間の血糖値の低下の程度が大きく(血糖値曲線の谷が深い)、血糖値が70mg/dl以下に低下した状態(夜間低血糖)が起こっている可能性が高いと考えられる。一方、図12において、Lで示される点は、AUC1とAUC2の値の差(AUC1−AUC2)が小さく、カットオフラインよりも上に位置する。すなわち、図11において、時刻t1から時刻t2に至る間の血糖値の低下の程度が小さく(血糖値曲線の谷が浅い)、血糖値が70mg/dl以下に低下した状態(夜間低血糖)が起こっている可能性が低いと考えられる。
【0072】
制御部35は、点(AUC1、AUC2)が予め求めておいたカットオフライン(基準線)よりも下であると判断する(Yes)と、ステップS13へ処理を進め、当該ステップS13において、夜間低血糖状態が存在した可能性が高い旨の診断支援情報を生成する。一方、制御部35は、点(AUC1、AUC2)が予め求めておいたカットオフライン(基準線)よりも上であると判断する(No)と、ステップS14へ処理を進め、当該ステップS14において、夜間低血糖状態が存在した可能性が低い旨の診断支援情報を生成する。
【0073】
ついで、ステップS15において、制御部35は、ステップS13又はステップS14で生成した夜間低血糖状態が存在した可能性が高いか低いかに関する診断支援情報と、ステップS10において算出されたAUC1と、ステップS11において算出されたAUC2とを診断支援装置20の表示部33に表示する。
【0074】
<カットオフラインの設定>
つぎにステップS12で用いたカットオフラインの設定方法について説明する。
図13は、複数の被験者について従来公知のCGMS(持続血糖モニタリングシステム)を用いて得られた経時的な血糖値の変動データを解析した解析データを示す図である。横軸は就寝時(22時)においてCGMSにより得られた血糖値と、起床時(8時)においてCGMSにより得られた血糖値とから、上記AUC1の算出方法にしたがって算出したAUCである。縦軸は、22時から8時までの間にCGMSにより得られた血糖値を積分して得られたAUCである。図13において、横軸の値がAUC1に相当し、縦軸の値がAUC2に相当する。また、黒丸(●)は夜間低血糖状態が存在した陽性の被験者を示し、白丸(○)は夜間低血糖状態が存在しなかった陰性の被験者を示している。陽性群及び陰性群のそれぞれについて、AUC1をxとし、AUC2をyとする一次の近似式を求めることができる。
【0075】
図12に示されるデータ例では、陽性群の近似式は以下の式(1)となり、陰性群の近似式は以下の式(2)となる。
y=0.5511x+176.85 ・・・・・・(1)
(R=0.8815)
y=0.6464x+396.29 ・・・・・・(2)
(R=0.5956)
前記式(1)及び(2)で示される近似式は、図13に示されるように交点を有する。陽性群の近似式をY=aX+b、陰性群の近似式をY=cX+dとすると、2つの近似式の交点(P,Q)は
P=(d−b)/(a−c)
Q=(ad−bc)/(a−c)
で表される。
そして、この交点を通る直線をカットオフラインとすることができる。かかるカットオフラインは、スクリーニングの目的に応じて傾きを変更することができる。傾きがAのときのカットオフラインはY=AX−AP+Qで表される。
【0076】
前記カットオフラインの傾きによって、スクリーニングの感度及び特異性が決まる。例えば、図14に示される3本のカットオフラインのうち、最も傾きの大きいカットオフラインR1は、陽性群よりも上方を通過する直線であるので、実際に夜間低血糖である被験者(陽性患者)を陽性(夜間低血糖の可能性が高い)と判断する可能性は高まるが、実際には夜間低血糖でない被験者(陰性患者)を夜間低血糖の可能性が高いと判断する場合がやや多くなる(擬陽性が増える)。つまり、感度を100%に近づけることができるが、特異度がやや低下する。一方、最も傾きの小さいカットオフラインR3は、陰性群よりも下方を通過する直線であるので、実際は夜間低血糖ではない被験者(陰性患者)を陰性(夜間低血糖の可能性が低い)と判断する可能性は高まるが、実際には夜間低血糖である被験者(陽性患者)を夜間低血糖の可能性が低いと判断する場合がやや多くなる(擬陰性が増える)。つまり、特異度を100%に近づけることができるが、感度がやや低下する。カットオフラインR2は、カットオフラインR3とカットオフラインR1の間の傾きであり、感度及び特異度をある程度満足させることができる。
【0077】
〔他の変形例〕
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施の形態では、被験者の就寝前の時刻t1における血糖値と、起床後の時刻t2における血糖値とを測定し、両血糖値に基づいてAUC1を算出しているが、就寝前の時刻t1における血糖値BG1だけ、又は、起床後の時刻t2における血糖値BG2だけに基づいてAUC1を算出してもよい。
【0078】
この変形例について図15を参照して説明する。図15(a)は、就寝前の時刻t1における血糖値BG1のみに基づいてAUC1を算出する場合の模式図である。図15(b)は、起床後の時刻t2における血糖値BG2のみに基づいてAUC1を算出する場合の模式図である。
【0079】
図15(a)の例では、AUC1は、第1の時点t1を示す時間軸に垂直な直線m1と、第2の時点t2を示す時間軸に垂直な直線m2と、第1の時点の血糖値BG1を通過する時間軸に並行な直線nと、時間軸とによって囲まれる長方形の面積である。この例では、第2の時刻t2における血糖値BG2は測定しない。第2の時刻t2は、収集部材10を取り外した時刻である。
【0080】
図15(b)の例では、AUC1は、第1の時点t1を示す時間軸に垂直な直線m1と、第2の時点t2を示す時間軸に垂直な直線m2と、第2の時点の血糖値BG2を通過する時間軸に並行な直線nと、時間軸とによって囲まれる長方形の面積である。この例では、第1の時刻t1における血糖値BG1は測定しない。第1の時刻t1は、収集部材10を皮膚に貼り付けた時刻である。
このように、就寝前の時刻t1における血糖値BG1だけ、又は、起床後の時刻t2における血糖値BG2だけに基づいてAUC1を算出する形態であれば、血糖値を測定する回数が少なくて済む。被験者にとっても採血の回数が少なくて済み、負担が小さくなる。
【0081】
図16は、上記変形例にしたがってCGMSを用いて得られた経時的な血糖値の変動データを解析した解析データを示す図である。縦軸は、就寝前(22時)の血糖値だけを用いて、図15(a)を参照して説明した方法にしたがって算出したAUCである。縦軸が異なる以外は図12を参照して説明した形態と同様の要領で複数の被験者をスクリーニングした。この場合、感度89%、特異度96%であり、就寝前の血糖値だけでも良好にスクリーニングされていることが分かる。
【0082】
また、前述した実施の形態では、就寝前の血糖値BG1及び起床後の血糖値BG2から算出されるAUC1、及び、AUC2の2軸に基づいて低血糖状態を評価する例を示したが、このような構成に限られない。例えば、BG1、BG2、AUC2の3軸に基づいて低血糖状態を評価する形態であってもよい。
【0083】
また、前述した実施の形態では、陽性群を近似する直線と陰性群を近似する直線との交点を通るカットオフラインを設定し、このカットオフラインよりも(AUC1,AUC2)が上であるか下であるかという条件に基づいて、夜間低血糖状態が存在した可能性が高いか否かの判断をしているが、このような構成に限られない。例えば、AUC1とAUC2との差が所定の閾値よりも大きいか否かという条件、又はAUC2/AUC1が所定の閾値よりも大きいか否かという条件に基づいて、夜間低血糖が存在した可能性が高いか否かの判断を行うこともできる。
【0084】
また、前述した実施の形態では、単体の診断支援装置20が、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度の取得、AUC1及びAUC2の算出、並びに診断支援情報の生成を行っているが、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度の取得する装置、AUC1及びAUC2の算出する装置、及び診断支援情報の生成を行う装置を別の装置とすることもできる。
【0085】
また、前述した実施の形態では、夜間低血糖状態の存否に関する診断支援情報を生成する形態を例にとって説明しているが、本発明の診断支援方法によれば、夜間に限らず昼間における低血糖状態の存否に関する診断支援を行うこともできる。さらに、収集部材を皮膚に貼付する第1の時点から第2の時点に至るまで、被験者は必ずしも就寝していなくてもよく、部分的に目を覚ましている時間帯があってもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 収集部材
11 保持シート
12 収集体
20 診断支援装置
22 カートリッジ配置部
23 可動天板
24 送液部
25 廃液部
26 タンク
30 検出部
31 グルコース検出部
32 ナトリウムイオン検出部
33 表示部
34 操作ボタン
35 制御部
40 分析用カートリッジ
100 穿刺具(微細孔形成装置)
200 微細針チップ
201 微細針
300 皮膚
301 微細孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は前記第1の時点から所定時間経過した後の第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報を取得する工程と、
前記被験者の皮膚に、組織液を収集可能な収集部材を前記第1の時点から第2の時点まで配置する工程と、
被験者の皮膚に所定時間配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する工程と、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する工程と
を含むことを特徴とする、診断支援方法。
【請求項2】
診断支援情報を生成する工程は、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第1積算値を取得する工程、
グルコース情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第2積算値を取得する工程、及び
第1積算値及び第2積算値に基づいて診断支援情報を生成する工程を含む、請求項1に記載の診断支援方法。
【請求項3】
第1積算値が、第1血糖値情報及び第2血糖値情報に基づいて取得され、且つ
第1積算値が、血糖―時間グラフにおける、第1の時点を示す時間軸に垂直な直線と、第2の時点を示す時間軸に垂直な直線と、第1の時点の血糖値と第2の時点の血糖値とを結ぶ直線と、時間軸とによって囲まれる領域の面積である、請求項2に記載の診断支援方法。
【請求項4】
第2積算値が、収集部材に蓄積されたグルコースの量に基づき算出される値である、請求項2又は3に記載の診断支援方法。
【請求項5】
診断支援情報を生成する工程は、第1積算値と、第2積算値と、所定の条件とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する、請求項2〜4のいずれかに記載の診断支援方法。
【請求項6】
収集部材を配置する被験者の皮膚に微細孔を形成する工程をさらに含む請求項1〜5のいずれかに記載の診断支援方法。
【請求項7】
前記第1の時点が、被験者が就寝する前の時点であり、
前記第2の時点が、被験者が起床した後の時点である、請求項1〜6のいずれかに記載の診断支援方法。
【請求項8】
就寝前の被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は起床後の被験者の血糖値に関する第2血糖値情報を取得する工程と、
被験者の就寝前から起床後まで、被験者の皮膚に組織液を収集可能な収集部材を配置する工程と、
収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する工程と、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する工程と
を含むことを特徴とする、診断支援方法。
【請求項9】
被験者の組織液を収集可能な収集部材と、
被験者の皮膚に、第1の時点から、第1の時点から所定時間経過した第2の時点まで配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する取得部と、
第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する解析部と
を備えたことを特徴とする、診断支援システム。
【請求項10】
解析部は、
第1血糖値情報及び/又は第2血糖値情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間におけるグルコース量の第1積算値を取得し、
グルコース情報に基づいて、第1の時点から第2の時点までの所定時間における被験者体内のグルコース量の第2積算値を取得し、
第1積算値及び第2積算値に基づいて診断支援情報を生成する、請求項9に記載の診断支援システム。
【請求項11】
被験者の皮膚に微細孔を形成する微細孔形成装置をさらに含む請求項9または10に記載の診断支援システム。
【請求項12】
被験者の皮膚に、第1の時点から、第1の時点から所定時間経過した第2の時点まで配置された収集部材に収集された組織液に含まれるグルコースの量に関するグルコース情報を取得する取得部と、
第1の時点における被験者の血糖値に関する第1血糖値情報及び/又は第2の時点における被験者の血糖値に関する第2血糖値情報と、グルコース情報とに基づいて、被験者における低血糖状態の存否に関する診断を支援する診断支援情報を生成する解析部と
を備えたことを特徴とする、診断支援装置。




【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−200565(P2011−200565A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72522(P2010−72522)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】