診断機能付きボールペンおよびペンシステム
【課題】ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できるようにすること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るボールペン10Aは、着磁されたボールと、ボールを回転自在に抱持するとともに、ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、ホルダの外側近傍に配置される磁気センサ118,120,122,124と、磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部300と、データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部310とを備える。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るボールペン10Aは、着磁されたボールと、ボールを回転自在に抱持するとともに、ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、ホルダの外側近傍に配置される磁気センサ118,120,122,124と、磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部300と、データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部310とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記情報から各種の診断・判定を行なう診断機能付きボールペンおよびペンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールペンには様々な付加機能が与えられている。例えば、特許文献1には、ボールペンなどの筆記具の先端にローラを取り付け、筆記の際に同時にローラも筆記面に接触させるようにしてローラの回転を検出することにより測長してデジタル表示する、測長機能を有する筆記具が開示されている。
【特許文献1】実公平3−31586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、筆記部分と測長部分とが別々であるため、正確な側長を行なうことができず、また、筆記具としての機能を損ない易い。また、最近のボールペンにおいては、測長機能のみならず、更なる機能の付加が求められており、広範囲の用途で使用できる多機能型ボールペンの需要が増大しつつある。特に、ボールペンによる筆記情報は、様々な診断・判定に用いることが可能であり、これに関連した機能の付加は市場でのニーズが高い。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる診断機能付きボールペンおよびボールペンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の診断機能付きボールペンは、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するとともに、前記ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部と、前記データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部とを備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の診断機能付きボールペンシステムは、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するとともに、前記ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサとを備えるボールペンと、前記ボールペンに設けられ或いは前記ボールペンとは別個に設けられ、前記磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部と、前記ボールペンとは別個に設けられ、前記データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、筆記用のボールを用いて筆記情報を検出するとともに、その検出情報を用いて各種の診断・判定を行なうことができるため、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる、幅広い用途を有する診断機能付きボールペンおよびボールペンシステムを提供できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明診断機能付きボールペンによれば、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部と、を具備しているので、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、磁気センサを2つ備え且つ主に筆記距離の計測に適したボールペンの基本概念図である。ボール12は着磁されており、好ましくはそれを抱持するホルダ14も着磁されている。ホルダ14の外側にホルダ14を挟んで2つの磁気センサ16,18が設けられており、矢印20,22で示すそれらの感磁方向はホルダ14がつくる磁界の方向に直角であり、ボール12およびホルダ14がつくる磁界の方向と交差しており、同じ方向を向いている。磁気センサ16,18としては、例えば、高い磁気検出感度を示す磁気インピーダンス(MI)素子とその検出回路からなるMIセンサを用いることが好ましい。
【0010】
磁気センサ16,18の感磁方向は、本来、磁界の検出には適さない、磁界に直角な方向であるが、筆記に伴ってボール12が回転すると、図2の(a)に示されるようなボールの回転に呼応した信号が得られる。図2のような2つの磁気センサ16,18の感磁方向を同じ向きとする配置では、2つの磁気センサ16,18から互いに逆位相で変化する信号が出力される一方、ボールペン10を手に持って振るときは図2の(b)に示されるように同相で変化する信号が出力される。
【0011】
一方、磁気センサ16,18の感磁方向を互いに対向する向きとする配置では、この同相/逆相の関係が逆になり、ペン振りの際には逆位相に、筆記の際には同相になる。
したがって、両センサ16,18からの出力が逆位相のとき(後者の場合では同相のとき)のセンサ出力の変化からボール12の回転を検出することができる。なお、本発明では、後述するように、両センサ16,18の出力のそれぞれから増加および減少のパターンを検出することにより、ボールの回転を検出する。
【0012】
図3は、ボールペン10の斜視図であり、図中、24は後述する診断結果等の情報をデジタル表示するためのLCD表示器である。図4はボールペン10の中心軸を含みLCD表示機24の面に垂直な平面で切った断面図、図5は中心軸を含みLCD表示器24の面に平行な平面で切った断面図、図6はボールペン10の先端部分の拡大断面図、図7は図6のA−A線に沿う断面図である。なお、図4〜図7中、図1に示される各構成要素と同一の構成要素については、同一の参照符号が付されている。
【0013】
図4〜図7から明らかなように、磁気センサ16,18はホルダ14に対して直接に取り付けられておらず、軸筒30の側に固定されている。したがって、ボール12、ホルダ14、インクチューブ32(図6参照)から成る替え芯の部分はボール12およびホルダ14が着磁されているだけでそれ以外は通常のボールペン替え芯と変わらず、容易に交換可能である。
【0014】
磁気センサ16,18の出力はリード線26,28を介してデータ処理部34へ入力される。データ処理部34では、磁気センサ16,18の出力に基づき、後述する論理にしたがってボール12の回転が検出され、それに基づいて描線の線長(すなわち、筆記距離)が計算される。なお、36は電源となる電池である。
【0015】
図8は、データ処理部34のハードウェア構成の詳細を示すブロック図である。センサ16,18の電圧出力は、フィルタ38,40を経て、必要があれば増幅器42,44で増幅されてマイコン46に内蔵されたA/D変換器48によりデジタル信号に変換され、計数部50へ入力される。計数部50は以下で説明する処理によりセンサ出力の変化からボール12の回転を検出し、線長(筆記距離)に換算する。
【0016】
図9は、ボール12の回転を検出する計数部50における処理のフローチャートである。図9において、まず、過去の状態を示す変数SPをゼロに初期化し(ステップ1000)、センサ出力を取り込み(ステップ1002)、論理フィルタ処理を行なう(ステップ1004)。論理フィルタ処理としては、例えば移動平均処理などを用いることができる。次に、論理フィルタ処理後のセンサ出力のそれぞれに対して、増加パターンおよび減少パターンの検出を行なう(ステップ1006)。
【0017】
増加/減少パターンの検出では、例えばn回(例えばn=3)連続して増加するとき、増加パターンの検出とし、n回連続して減少するとき、減少パターンの検出とする。あるいは、連続するn回のうちm回(例えば、n=5、m=4)増加するとき、増加パターンの検出とし、m回減少するとき、減少パターンの検出としても良い。
【0018】
そして、チャンネル1(センサ16)において増加パターンが検出され且つチャンネル2(センサ18)において減少パターンが検出されるとき(ステップ1008)、現在の状態を表わす変数SCに状態“a”を代入し(ステップ1010)、過去の状態を表わす変数SPが状態“b”を示していれば(ステップ1012)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態示す変数SCの値を過去の状態を示す変数SPに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0019】
また、チャンネル1(センサ16)において減少パターンが検出され且つチャンネル2(センサ18)において増加パターンが検出されるとき(ステップ1020)、現在の状態を表わす変数SCに状態“b”を代入し(ステップ1022)、過去の状態を表わす変数SPが状態“a”を示していれば(ステップ1024)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態示す変数SCの値を過去の状態を示す変数SPに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0020】
上記以外の場合には、センサ出力の一方で増加パターンが検出され且つ他方で減少パターンが検出される状態を状態“a”または状態“b”とし、いずれにも該当しないときは前回の状態を維持する。なお、筆記せずにペン体を振ったときは、前述のように信号が同相で変化するため、状態“a”にも状態“b”にも該当しない。そして、状態が“a”から“b”へ、または、“b”から“a”へと変化するとき、ボール12が半回転したものとして計数をカウントアップする。これにより、ボール12の回転を検出することができる。
【0021】
以上は、センサ16,18の検出方向が同じ向きの場合である。逆向きに配置される場合には、双方のセンサ出力で増加パターンが検出されるときを状態“a”とし、双方のセンサ出力で減少パターンが検出されるときを状態“b”として、前述した処理を行なえば良い。
【0022】
図10は、ボールペン10で筆記したときの2つのセンサ16,18の出力と回転検出結果を示す。図中、検出された状態を“a”、“b”で示し、回転を検出したタイミングを縦の線で示す。
【0023】
図11は、磁気センサを4つ備え且つ主に筆記方向の計測に適したボールペンの基本概念図である。図11の(a)はボールペン10をボール12の側から見た図であり、(b)はボールペン10を真横から見た図である。
【0024】
参照符号116はインクチューブを示す。ホルダ14の周囲には4つの磁気センサ118,120,122,124がほぼ90°間隔で配置されている。センサ118,120はボールペン10の中心軸126を挟む第1の対を成し、センサ122,124はボールペン10の中心軸126を挟む第2の対を成す。それぞれの対における磁気センサの感磁方向は、図中に矢印で示すように対向するように配置される。なお、センサ対の感磁方向は同じ向きに配置しても良い。
【0025】
磁気センサ118,120,122,124とデータ処理部125は、図示しないボールペン本体に固定されており、予め着磁されたボール12、ホルダ14およびインクチューブ116から成る替え芯をボールペン本体に挿入することにより、図11に示される配置となる。なお、ボール12への着磁の操作は替え芯をボールペン本体に挿入した後に行なっても良い。
【0026】
ボール12を抱持するホルダ14の材料は、洋白などの磁石に引き付けられないものが好ましい。
【0027】
図11の(a)は、ボールペン10により筆記する際の紙面の裏側から見た図に相当するので、紙面の表側から見たときに通常のxy座標となるように、図11の(a)に示すようにx軸およびy軸を定める。図12〜図15はそれぞれ、x方向、−x方向、y方向、および、−y方向に筆記した際の磁気センサ118,120,122,124の出力信号の波形を示す。磁気センサ118,120,122,124は、磁気−インピーダンス効果を利用した磁気センサであり、その磁気分解能は0.2μT、動作範囲は±200μTである。ボール12の径はφ0.7であり、磁化強度は21μTである。φ0.38、φ0.5、φ1.4のボール12でそれぞれ磁化強度が4μT、8μT、120μTのものについても同様な結果が得られている。因みに、東京付近の地磁気は水平方向が約30μT、鉛直方向が35〜40μTである。
【0028】
図12〜図15において、各センサ118,120,122,124の出力信号の1周期は、ボール12の1回転に対応している。図12から分かるように、センサ124からセンサ122へ向かうx軸方向に筆記したとき、筆記方向に直角な方向に配置されたセンサ対118,120からは同位相の信号が出力される。筆記方向に配置されたセンサ対122,124からは位相差θの信号が出力される。そして、筆記方向で後方に配置されたセンサ124の出力信号は、前方に配置されたセンサ122の出力信号よりも位相がθだけ進んでいる。図13の−x方向に筆記した場合には、図12と比べてセンサ122とセンサ124の出力信号の位相関係が逆転している。図14のy方向に筆記した場合には、筆記方向に直角な方向に配置されるセンサ対122,124からの出力信号は同位相になり、筆記方向で後方に配置されたセンサ118の出力信号は、前方に配置されたセンサ120の出力信号よりも位相がθだけ進んでいる。図15の−y方向に筆記した場合には、図14と比べてセンサ118とセンサ120の出力信号の位相関係が逆転している。
【0029】
各センサ対の出力信号の位相差θは、筆記方向とセンサの感磁方向との成す角度が大きくなるにつれて小さくなり、両者の成す角度が小さくなるにつれて大きくなることが判明している。また、この位相差θは、筆記の方向にのみ依存し、筆記の速度に依存しないことも判明している。
【0030】
一方、外部磁界を検出したときは、センサ対の感磁方向は逆向きであるので、センサ対の出力信号は逆位相(位相差180°)で変化するから、位相差により筆記中か否かを判定することができる。なお、センサ対の感磁方向を同じ向きで配置したときは、筆記時の位相差は180°−θ(0≦θ≦θmax)、ボールペン10を手で持って振ったときの位相差はゼロとなる。
【0031】
いずれにしても、センサ対の出力信号の位相差または位相差に相当する量と位相の前後関係を検出することにより、筆記の方向の検出が可能になる。また、図11に示すような配置とすることで、データ処理部125において、x軸方向に配置されたセンサ対122,124の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータを算出することにより、筆記のx軸方向の成分Δxが得られ、y軸方向に配置されたセンサ対118,120の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータを算出することにより筆記のy軸方向の成分Δyが得られる。これらをコンピュータのマウス入力などのポインティングデバイスの入力に接続することにより、ボールペン10をマウスに代わるポインティングデバイスとして使用することができる。
【0032】
各軸の成分Δx,Δyとして用いる前述のセンサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータとしては、例えば、図16に示されるように、進み位相の信号の極大値(または、極小値)から遅れ位相の信号の極大値(または、極小値)までの時間をaとし、遅れ位相の信号の極大値(または、極小値)から進み位相の信号の極小値(または、極大値)までの時間をbとして、x軸方向で後方に配置されたセンサ124からの信号の位相がx軸方向で前方に配置されたセンサ122からの信号の位相よりも進んでいるとき、センサ対122,124の出力信号から得られたax,bxの値により、以下の式(1)によりΔxを計算し、センサ122の出力信号の位相が進んでいるとき、Δxを以下の式(2)により計算する。
Δx=ax/(ax+bx) (1)
Δx=−ax/(ax+bx) (2)
【0033】
y軸方向に配置されたセンサ118からの出力信号の位相がy軸前方に配置されたセンサ120からの出力信号の位相よりも進んでいるとき、センサ対118,120の出力信号から得られたay,byの値により、以下の式(3)によりΔyを計算し、センサ120の出力信号の位相が進んでいるとき、Δyを以下の式(4)により計算する。
Δy=ay/(ay+by) (3)
Δy=−ay/(ay+by) (4)
【0034】
なお、ay/(ay+by),ay/(ay+by)の代わりに、ax/bx,ay/byを用いても良いが、速度変化に対して弱くなる。
【0035】
より具体的には、筆記のx軸成分Δxが正であるとき、図11の(a)に示されるように、x軸方向で後方に位置するセンサ124からの出力信号の位相は前方に位置するセンサ122からの出力信号の位相よりも進んでいるため、図17の(a)(b)に示される、
パターンP1+:センサ124の極大→センサ122の極大→センサ124の極小と、
パターンP2+:センサ124の極小→センサ122の極小→センサ124の極大という2つのパターンが交互に出現する。
【0036】
一方、筆記のx軸成分Δxが負のときは、図17の(c)(d)に示される、
パターンP1−:センサ122の極大→センサ124の極大→センサ122の極小と、
パターンP2−:センサ122の極小→センサ124の極小→センサ122の極大という2つのパターンが交互に出現する。
【0037】
そこで、センサ対122,124の出力信号の極大および極小を連続的に検出し、いずれかのセンサ出力信号の極大または極小が検出される毎に検出時刻Tiを時系列的に記憶するとともに、最新の3回の極大・極小検出結果が上記のP1+,P2+,P1−,P2−のいずれかと一致するかを判定する。そして、P1+またはP2+と一致するときは、式(5)によりΔxを算出し、P1−またはP2−と一致するときは、式(6)によりΔxを算出する。
Δx=(Ti−1−Ti−2)/(Ti−Ti−2) (5)
Δx=−(Ti−1−Ti−2)/(Ti−Ti−2) (6)
【0038】
Δyについても同様である。これにより、センサ出力信号の半周期毎にΔx,Δyの値を得ることができる。
【0039】
センサの出力信号の極大および極小の検出に関しては、例えば信号の上昇パターンおよび下降パターンの検出を行ない、前回、上昇パターンが検出されるか又はいずれも検出されない状態から、今回、下降パターンが検出される状態に転じたときを極大の検出とし、前回、下降パターンが検出されるか又はいずれも検出されない状態から、今回、上昇パターンが検出される状態に転じたときを極小の検出とする。
【0040】
上昇/下降パターンの検出に関しては、例えばn回(例えばn=3)連続して上昇するとき、上昇パターンの検出とし、n回連続して下降するとき、下降パターンの検出とする。あるいは、連続するn回のうちm回(例えば、n=5、m=4)上昇するとき、上昇パターンの検出とし、m回減少するとき、下降パターンの検出としても良い。
【0041】
また、極大・極小の検出の際に時刻Tiを記憶する代わりに、前回の検出からの経過時間ΔTi(=Ti−Ti−1)をタイマーで測定して記憶するようにしても良い。この場合には、式(7)または式(8)によりΔxが計算される。
Δx=Ti−1/(ΔTi+Ti−1)(P1+,P2+のとき) (7)
Δx=−Ti−1/(ΔTi+Ti−1)(P1―,P2―のとき) (8)
【0042】
図18は、上記の手順にしたがってデータ処理部125において実行されるΔxの演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0043】
まず、現在のセンサ122,124の出力のA/D変換結果とそれらの過去の履歴とにより、センサ122,124の現在の状態(上昇/下降/いずれでもない)を検出し(ステップ2000)、記憶する(ステップ2002)。次に、今回の状態を前回の状態と比較することによりセンサ122,124の出力の極大・極小を検出し(ステップ2004)、極大・極小が検出されないときは(ステップ2006)、Δxをゼロとして(ステップ2014)、ステップ2000の処理へ戻る。極大・極小が検出されたら(ステップ2006)、そのときのタイマーの値をΔTiとして記憶し、タイマーをゼロから再スタートする(ステップ2008)。次に、センサ122,124の出力の極大・極小の検出履歴がパターンP1+,P2+,P1−,P2−のいずれかと一致するかを判定し(ステップ2010)、いずれとも一致しないときは(ステップ2012)、Δxをゼロとして(ステップ2014)、ステップ2000の処理へ戻る。いずれかと一致するときは(ステップ2012)、一致したパターンに応じて式(7)または式(8)によりΔxを計算する(ステップ2016)。計算されたΔxの値がその最大値Δxmaxよりも大きいときは(ステップ2018)、ボール12の回転による変化ではないと判定して、Δxをゼロとする(ステップ2020)。いずれの場合にも、ステップ2000に戻ってステップ2000以下の処理を一定周期で繰り返す。
【0044】
Δyの計算についても、以上と同様であり、したがって、その説明を省略する。
前述した手法において、筆記中であるか否か、すなわち、ボール12が回転中か否かの判定は、ステップ2018において、
Δx>Δxmax
によって行なわれる。これに代えて、センサ対の出力信号の差動信号が所定の振幅以上で変化することを筆記中と判定するようにしても良い。筆記中でないときはセンサ対の出力信号が逆位相で変化するため差動信号の振幅が小さくなり、筆記中のときは所定の振幅以上で変化するからである。すなわち、図19に示されるように、極大・極小が検出されて(ステップ2006)ΔTiを記憶する際に、差動信号の値(差動)iも記憶する(ステップ2008’)。ステップ2018’において、
|(差動)i−(差動)i−1|>C1、または、
|(差動)i−(差動)i−2|>C2
のときに筆記中と判定し、そうでないときは筆記中でないと判定して、Δx=0とする(ステップ2020)。なお、C1,C2は実験的に決定される定数である。
【0045】
Δx(およびΔy)を上記式(1)〜(6)で計算することに代えて、以下の式により計算すれば、ボール12の回転の半周期毎に実際の移動距離のx成分(およびy成分)を得ることができるので、2次元平面上の実際の移動距離および方向を知ることができる。
Δx=(dx/dx.max)×B×(π/4)/C (9)
Δy=(dy/dy.max)×B×(π/4)/C (10)
【0046】
(9)(10)式中、dxおよびdyはそれぞれ式(1)〜(4)により得られるΔxおよびΔyの値であり、dx.maxおよびdy.maxはそれぞれx軸およびy軸方向に筆記したときに得られるdxおよびdyの最大値であり、Bはボール12の直径、Cはボールペン10の回転率(筆記の際の滑りがないときのボール12の回転数に対する実際の回転数の割合)である。
【0047】
図20には、図1〜図10に示されるボールペン10及び/又は図11〜図19に示されるボールペン10の構成(機能)を基本構成(機能)として備えつつ新たに診断・判別機能を備える本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペン10Aの概略構成が示されている。図示の診断機能付きボールペン10Aは、4つの磁気センサ118,120,122,124(したがって、図11〜図19に示されるボールペン10の構成を基本構成として備えるが、2つの磁気センサ16,18を備える図1〜図10に示されるボールペン10の構成を基本構成として備えていても良い)と、筆記中の筆圧を検出する筆圧センサ126とを有するボール挙動検出部305を備えている。また、診断機能付きボールペン10Aは、磁気センサ118,120,122,124および筆圧センサ126の検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部300と、データ処理部300からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部310と、診断・判定結果(診断・判定部310による診断・判定情報)を表示するための表示部315とを更に備えている。データ処理部300は、図8に示される構成と同様、AD変換器48と、計数部50で成される移動平均処理を行なう移動平均処理部50’とを有するとともに、図11〜図19に関して前述したデータ処理部125と同様の処理を少なくとも行なうx成分・y成分算出部125’を有している。また、表示部315は、図3に示されるLCD表示器24及び/又はLED224を備えている。LED224では、何色が点灯したかにより、予め準備したシート(判定結果シート)または本(診断・判定の仕方が記載された本)などから判定結果を知ることができる。また、LCD表示器24の場合は、例えば表示する番号に準じて、予め準備したシート(判定結果シート)または本(診断・判定の仕方が記載された本)などから結果を判断するようにしても良い。
【0048】
なお、データ処理部300が算出する筆記情報としては、図1〜図19を参照して前述したような筆記距離や筆記方向の他、筆記タイミングや筆圧、筆記文字角度、筆記速度などを挙げることができる。
【0049】
診断・判定部310は、データ処理部300からの筆記情報を取得し、その情報に基づいて、書いた文字の書き方(はね、止め、はらいの仕方や筆記文字角度など)や文字の大きさなどを演算することにより(はね、止めなどの筆記時に生じる特徴的なデータを取得することにより)、書いた人物の性格や心理を診断・判定したり(性格診断)、あるいは、見本となる筆跡情報とユーザが書く文字との差異を検出して筆記正誤判定を行なったり、または、例えば個人のパーソナルコンピュータのパスワード管理などをペンの筆記により行なう場合などにおいて認証判定(筆跡鑑定)を行なったりする。
【0050】
一例として、性格診断を行なう場合について説明すると、診断・判定部310は、データ処理部300からの筆記情報に基づいて、すなわち、筆記方向、筆記タイミング、筆記距離(したがって、筆記速度も)などによって、止め、はね部分(はらい部分)を特定することができる。そのような特定が可能であることは、図21〜図24のデータからも明らかである。すなわち、図21の(a)に示されるように、「止め」では、筆記速度に大きな変動はないが、図21の(b)に示されるように、「止めない」(はらい)場合には、終筆に向かって筆記速度が速くなる傾向がある。筆記速度傾向を見るために20ms間隔(時間間隔は、ボール12の径、磁気変動を数値化する際のサンプリング周波数によって変動する)毎の筆記速度をマイコンで計算し速度変化を導出すると、図22に示されるようになる。図22の(a)は「止め」のときの筆記速度変化を、また、図22の(b)は「はらい」のときの筆記速度変化を示している。また、図23および図24に示されるような筆記文字角度情報を付加すると有益である。これらの情報は、ひらがな「ゆ」の筆記の際のデータであるが、図24に実線枠で示される筆記情報が同じ傾向の部分と、図24に破線枠で示される筆記情報が異なる傾向の部分とを利用するなどして、筆記文字角度および筆記速度の他、筆記距離、筆記タイミングの要素を使用することで、決まった文字の判別したい場所を特定することができるとともに、止め、はらい、はねなどの筆記癖を判定することができ、また、それを性格判断に関連付けることが可能となる。
【0051】
図25は、本発明の他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステム500を示している。図示のように、この診断機能付きボールペンシステム500は、前述したボール挙動検出部305とデータ処理部300とを備えるボールペン10A’(本実施形態では、診断・判定部310を備えていない)と、パーソナルコンピュータ(以下、PCという)400及び/又は携帯電話600とから成る。ボールペン10A’は、筆記情報を外部機器であるPC400または携帯電話600へ出力するためのインタフェースとしてUSBドライバ309も備えている。また、PC400は、コード入力部410と、前述した診断・判定部310とを備えている。無論、診断・判定部310をボールペン10A’側に設けて、PC400側でデータの後処理または他の処理を行なうようにしても構わない。その場合、処理自体がボールペン側で完結する利点を使い、ボールペン自体はHID(ヒューマンインタフェース)のマウス、キーボードと同様の動作をさせることが好ましい。また、その場合、USBドライバ309によって送信される情報は、診断・判定部310からの診断・判定情報となる。
【0052】
図26は、診断機能付きボールペンシステムの他の構成を示している。この診断機能付きボールペンシステム500Aは、前述したボール挙動検出部305とデータ処理部300とを備えるボールペン10A”(本実施形態では、診断・判定部310を備えていない)と、PC400とから成る。ボールペン10A”は、筆記情報を含むデータの送受信を外部機器であるPC400との間で行なうための通信制御部550と、筆記情報を記憶するためのメモリ(記憶部)590とを更に備えている。この場合、通信制御部550は、CPU557と、インタフェースとしてのUSBドライバ559とを有する。一方、PC400は、データ受信部420と、前述した診断・判定部310と、ディスプレイ出力部425とを備えている。このような構成では、ボールペン10A”単体では、筆記情報がメモリ590に保存されており、ボールペン10A”とPC400との接続時には、PC400から必要に応じてメモリ590内の情報を引き出すことができる。また、診断・判定結果はディスプレイ出力部425を介して表示部としてのディスプレイ(図示せず)に表示される。無論、診断・判定部310をボールペン10A”側に設けて、PC400側でデータの後処理または他の処理を行なうようにしても構わない。その場合、USBドライバ559によって送信される情報は、診断・判定部310からの診断・判定情報となる。また、メモリ590には診断・判定部310による診断・判定情報が記憶されることになる。
【0053】
図27は、診断機能付きボールペンシステムの更なる他の構成を示している。この診断機能付きボールペンシステム500Bでは、データ収集のみをボールペン側で行ない、ノイズ処理やデータ処理などの制御を全てPC400側で行なう。具体的には、診断機能付きボールペンシステム500Bは、前述したボール挙動検出部305と、AD変換器48とUART319とを有する処理部300’と、RS232Cドライバ349とを有するボールペン10B(本実施形態では、x成分・y成分算出部125’および診断・判定部310を備えていない)と、PC400とから成る。PC400は、データ取得部420と、前述したx成分・y成分算出部125’と、前述した診断・判定部310と、ディスプレイ出力部425とを備えている。また、システム500Bは、専用のUSBドライバ710も備えている。このような構成によれば、データ収集のみを行なうボールペン10B側のスペースを多くとれる利点があり有益である。また、制御を全てPC400側で行なうため、ソフトの処理次第で応用範囲が広がる。
【0054】
以上説明したように、上記構成によれば、筆記用のボール12を用いて筆記情報を検出するとともに、その検出情報を用いて各種の診断・判定を行なうことができるため、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる、幅広い用途を有する多機能型ボールペンおよびボールペンシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】、磁気センサを2つ備え且つ主に筆記距離の計測に適したボールペンの基本概念図である。
【図2】筆記時およびペン振り時のセンサ出力を示す図である。
【図3】図1のボールペンの全体斜視図である。
【図4】図3のLCD表示器の面に垂直な平面で切った断面図である。
【図5】図3のLCD表示器の面に平行な平面で切った断面図である。
【図6】先端部分の拡大断面図である。
【図7】図6のA−Aに沿う断面図である。
【図8】データ処理部のハードウェアの構成を示すブロック図である。
【図9】計数部における処理のフローチャートである。
【図10】回転検出結果を示すグラフである。
【図11】磁気センサを4つ備え且つ主に筆記方向の計測に適したボールペンの基本概念図である。
【図12】図11のx方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図13】図11の−x方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図14】図11のy方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図15】図11の−y方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図16】センサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータの算出を説明するための図である。
【図17】センサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を検出するための4つの極大・極小パターンを示す図である。
【図18】図11のデータ処理部におけるΔx演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図19】Δx演算処理の他の例を示すフローチャートである。
【図20】本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペンの概略構成図である。
【図21】止め、はね部分(はらい部分)の特定が可能であることを立証する波形図である。
【図22】「止め」および「はらい」のときの筆記速度変化を示すグラフ図である。
【図23】筆記文字角度情報を示すグラフ図である。
【図24】筆記文字角度情報を示すグラフ図である。
【図25】本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【図26】本発明の他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【図27】本発明の更に他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
10,10A,10A’,10”,10B ボールペン
12 ボール
14 ホルダ
16,18,118,120,122,124 磁気センサ
300 データ処理部
310 診断・判定部
315 表示部
500,500A,500B ボールペンシステム
590 メモリ(記憶部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記情報から各種の診断・判定を行なう診断機能付きボールペンおよびペンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールペンには様々な付加機能が与えられている。例えば、特許文献1には、ボールペンなどの筆記具の先端にローラを取り付け、筆記の際に同時にローラも筆記面に接触させるようにしてローラの回転を検出することにより測長してデジタル表示する、測長機能を有する筆記具が開示されている。
【特許文献1】実公平3−31586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1では、筆記部分と測長部分とが別々であるため、正確な側長を行なうことができず、また、筆記具としての機能を損ない易い。また、最近のボールペンにおいては、測長機能のみならず、更なる機能の付加が求められており、広範囲の用途で使用できる多機能型ボールペンの需要が増大しつつある。特に、ボールペンによる筆記情報は、様々な診断・判定に用いることが可能であり、これに関連した機能の付加は市場でのニーズが高い。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる診断機能付きボールペンおよびボールペンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の診断機能付きボールペンは、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するとともに、前記ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部と、前記データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部とを備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の診断機能付きボールペンシステムは、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するとともに、前記ボールの表面にインクを供給するためのインク誘導孔を形成するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサとを備えるボールペンと、前記ボールペンに設けられ或いは前記ボールペンとは別個に設けられ、前記磁気センサの検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部と、前記ボールペンとは別個に設けられ、前記データ処理部からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部とを備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、筆記用のボールを用いて筆記情報を検出するとともに、その検出情報を用いて各種の診断・判定を行なうことができるため、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる、幅広い用途を有する診断機能付きボールペンおよびボールペンシステムを提供できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明診断機能付きボールペンによれば、着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部と、を具備しているので、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、磁気センサを2つ備え且つ主に筆記距離の計測に適したボールペンの基本概念図である。ボール12は着磁されており、好ましくはそれを抱持するホルダ14も着磁されている。ホルダ14の外側にホルダ14を挟んで2つの磁気センサ16,18が設けられており、矢印20,22で示すそれらの感磁方向はホルダ14がつくる磁界の方向に直角であり、ボール12およびホルダ14がつくる磁界の方向と交差しており、同じ方向を向いている。磁気センサ16,18としては、例えば、高い磁気検出感度を示す磁気インピーダンス(MI)素子とその検出回路からなるMIセンサを用いることが好ましい。
【0010】
磁気センサ16,18の感磁方向は、本来、磁界の検出には適さない、磁界に直角な方向であるが、筆記に伴ってボール12が回転すると、図2の(a)に示されるようなボールの回転に呼応した信号が得られる。図2のような2つの磁気センサ16,18の感磁方向を同じ向きとする配置では、2つの磁気センサ16,18から互いに逆位相で変化する信号が出力される一方、ボールペン10を手に持って振るときは図2の(b)に示されるように同相で変化する信号が出力される。
【0011】
一方、磁気センサ16,18の感磁方向を互いに対向する向きとする配置では、この同相/逆相の関係が逆になり、ペン振りの際には逆位相に、筆記の際には同相になる。
したがって、両センサ16,18からの出力が逆位相のとき(後者の場合では同相のとき)のセンサ出力の変化からボール12の回転を検出することができる。なお、本発明では、後述するように、両センサ16,18の出力のそれぞれから増加および減少のパターンを検出することにより、ボールの回転を検出する。
【0012】
図3は、ボールペン10の斜視図であり、図中、24は後述する診断結果等の情報をデジタル表示するためのLCD表示器である。図4はボールペン10の中心軸を含みLCD表示機24の面に垂直な平面で切った断面図、図5は中心軸を含みLCD表示器24の面に平行な平面で切った断面図、図6はボールペン10の先端部分の拡大断面図、図7は図6のA−A線に沿う断面図である。なお、図4〜図7中、図1に示される各構成要素と同一の構成要素については、同一の参照符号が付されている。
【0013】
図4〜図7から明らかなように、磁気センサ16,18はホルダ14に対して直接に取り付けられておらず、軸筒30の側に固定されている。したがって、ボール12、ホルダ14、インクチューブ32(図6参照)から成る替え芯の部分はボール12およびホルダ14が着磁されているだけでそれ以外は通常のボールペン替え芯と変わらず、容易に交換可能である。
【0014】
磁気センサ16,18の出力はリード線26,28を介してデータ処理部34へ入力される。データ処理部34では、磁気センサ16,18の出力に基づき、後述する論理にしたがってボール12の回転が検出され、それに基づいて描線の線長(すなわち、筆記距離)が計算される。なお、36は電源となる電池である。
【0015】
図8は、データ処理部34のハードウェア構成の詳細を示すブロック図である。センサ16,18の電圧出力は、フィルタ38,40を経て、必要があれば増幅器42,44で増幅されてマイコン46に内蔵されたA/D変換器48によりデジタル信号に変換され、計数部50へ入力される。計数部50は以下で説明する処理によりセンサ出力の変化からボール12の回転を検出し、線長(筆記距離)に換算する。
【0016】
図9は、ボール12の回転を検出する計数部50における処理のフローチャートである。図9において、まず、過去の状態を示す変数SPをゼロに初期化し(ステップ1000)、センサ出力を取り込み(ステップ1002)、論理フィルタ処理を行なう(ステップ1004)。論理フィルタ処理としては、例えば移動平均処理などを用いることができる。次に、論理フィルタ処理後のセンサ出力のそれぞれに対して、増加パターンおよび減少パターンの検出を行なう(ステップ1006)。
【0017】
増加/減少パターンの検出では、例えばn回(例えばn=3)連続して増加するとき、増加パターンの検出とし、n回連続して減少するとき、減少パターンの検出とする。あるいは、連続するn回のうちm回(例えば、n=5、m=4)増加するとき、増加パターンの検出とし、m回減少するとき、減少パターンの検出としても良い。
【0018】
そして、チャンネル1(センサ16)において増加パターンが検出され且つチャンネル2(センサ18)において減少パターンが検出されるとき(ステップ1008)、現在の状態を表わす変数SCに状態“a”を代入し(ステップ1010)、過去の状態を表わす変数SPが状態“b”を示していれば(ステップ1012)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態示す変数SCの値を過去の状態を示す変数SPに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0019】
また、チャンネル1(センサ16)において減少パターンが検出され且つチャンネル2(センサ18)において増加パターンが検出されるとき(ステップ1020)、現在の状態を表わす変数SCに状態“b”を代入し(ステップ1022)、過去の状態を表わす変数SPが状態“a”を示していれば(ステップ1024)、ボール12の回転を示すカウント値をアップし(ステップ1014)、現在の状態示す変数SCの値を過去の状態を示す変数SPに移し(ステップ1016)、センサ出力の過去データを更新して(ステップ1018)ステップ1002の処理へ戻る。
【0020】
上記以外の場合には、センサ出力の一方で増加パターンが検出され且つ他方で減少パターンが検出される状態を状態“a”または状態“b”とし、いずれにも該当しないときは前回の状態を維持する。なお、筆記せずにペン体を振ったときは、前述のように信号が同相で変化するため、状態“a”にも状態“b”にも該当しない。そして、状態が“a”から“b”へ、または、“b”から“a”へと変化するとき、ボール12が半回転したものとして計数をカウントアップする。これにより、ボール12の回転を検出することができる。
【0021】
以上は、センサ16,18の検出方向が同じ向きの場合である。逆向きに配置される場合には、双方のセンサ出力で増加パターンが検出されるときを状態“a”とし、双方のセンサ出力で減少パターンが検出されるときを状態“b”として、前述した処理を行なえば良い。
【0022】
図10は、ボールペン10で筆記したときの2つのセンサ16,18の出力と回転検出結果を示す。図中、検出された状態を“a”、“b”で示し、回転を検出したタイミングを縦の線で示す。
【0023】
図11は、磁気センサを4つ備え且つ主に筆記方向の計測に適したボールペンの基本概念図である。図11の(a)はボールペン10をボール12の側から見た図であり、(b)はボールペン10を真横から見た図である。
【0024】
参照符号116はインクチューブを示す。ホルダ14の周囲には4つの磁気センサ118,120,122,124がほぼ90°間隔で配置されている。センサ118,120はボールペン10の中心軸126を挟む第1の対を成し、センサ122,124はボールペン10の中心軸126を挟む第2の対を成す。それぞれの対における磁気センサの感磁方向は、図中に矢印で示すように対向するように配置される。なお、センサ対の感磁方向は同じ向きに配置しても良い。
【0025】
磁気センサ118,120,122,124とデータ処理部125は、図示しないボールペン本体に固定されており、予め着磁されたボール12、ホルダ14およびインクチューブ116から成る替え芯をボールペン本体に挿入することにより、図11に示される配置となる。なお、ボール12への着磁の操作は替え芯をボールペン本体に挿入した後に行なっても良い。
【0026】
ボール12を抱持するホルダ14の材料は、洋白などの磁石に引き付けられないものが好ましい。
【0027】
図11の(a)は、ボールペン10により筆記する際の紙面の裏側から見た図に相当するので、紙面の表側から見たときに通常のxy座標となるように、図11の(a)に示すようにx軸およびy軸を定める。図12〜図15はそれぞれ、x方向、−x方向、y方向、および、−y方向に筆記した際の磁気センサ118,120,122,124の出力信号の波形を示す。磁気センサ118,120,122,124は、磁気−インピーダンス効果を利用した磁気センサであり、その磁気分解能は0.2μT、動作範囲は±200μTである。ボール12の径はφ0.7であり、磁化強度は21μTである。φ0.38、φ0.5、φ1.4のボール12でそれぞれ磁化強度が4μT、8μT、120μTのものについても同様な結果が得られている。因みに、東京付近の地磁気は水平方向が約30μT、鉛直方向が35〜40μTである。
【0028】
図12〜図15において、各センサ118,120,122,124の出力信号の1周期は、ボール12の1回転に対応している。図12から分かるように、センサ124からセンサ122へ向かうx軸方向に筆記したとき、筆記方向に直角な方向に配置されたセンサ対118,120からは同位相の信号が出力される。筆記方向に配置されたセンサ対122,124からは位相差θの信号が出力される。そして、筆記方向で後方に配置されたセンサ124の出力信号は、前方に配置されたセンサ122の出力信号よりも位相がθだけ進んでいる。図13の−x方向に筆記した場合には、図12と比べてセンサ122とセンサ124の出力信号の位相関係が逆転している。図14のy方向に筆記した場合には、筆記方向に直角な方向に配置されるセンサ対122,124からの出力信号は同位相になり、筆記方向で後方に配置されたセンサ118の出力信号は、前方に配置されたセンサ120の出力信号よりも位相がθだけ進んでいる。図15の−y方向に筆記した場合には、図14と比べてセンサ118とセンサ120の出力信号の位相関係が逆転している。
【0029】
各センサ対の出力信号の位相差θは、筆記方向とセンサの感磁方向との成す角度が大きくなるにつれて小さくなり、両者の成す角度が小さくなるにつれて大きくなることが判明している。また、この位相差θは、筆記の方向にのみ依存し、筆記の速度に依存しないことも判明している。
【0030】
一方、外部磁界を検出したときは、センサ対の感磁方向は逆向きであるので、センサ対の出力信号は逆位相(位相差180°)で変化するから、位相差により筆記中か否かを判定することができる。なお、センサ対の感磁方向を同じ向きで配置したときは、筆記時の位相差は180°−θ(0≦θ≦θmax)、ボールペン10を手で持って振ったときの位相差はゼロとなる。
【0031】
いずれにしても、センサ対の出力信号の位相差または位相差に相当する量と位相の前後関係を検出することにより、筆記の方向の検出が可能になる。また、図11に示すような配置とすることで、データ処理部125において、x軸方向に配置されたセンサ対122,124の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータを算出することにより、筆記のx軸方向の成分Δxが得られ、y軸方向に配置されたセンサ対118,120の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータを算出することにより筆記のy軸方向の成分Δyが得られる。これらをコンピュータのマウス入力などのポインティングデバイスの入力に接続することにより、ボールペン10をマウスに代わるポインティングデバイスとして使用することができる。
【0032】
各軸の成分Δx,Δyとして用いる前述のセンサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータとしては、例えば、図16に示されるように、進み位相の信号の極大値(または、極小値)から遅れ位相の信号の極大値(または、極小値)までの時間をaとし、遅れ位相の信号の極大値(または、極小値)から進み位相の信号の極小値(または、極大値)までの時間をbとして、x軸方向で後方に配置されたセンサ124からの信号の位相がx軸方向で前方に配置されたセンサ122からの信号の位相よりも進んでいるとき、センサ対122,124の出力信号から得られたax,bxの値により、以下の式(1)によりΔxを計算し、センサ122の出力信号の位相が進んでいるとき、Δxを以下の式(2)により計算する。
Δx=ax/(ax+bx) (1)
Δx=−ax/(ax+bx) (2)
【0033】
y軸方向に配置されたセンサ118からの出力信号の位相がy軸前方に配置されたセンサ120からの出力信号の位相よりも進んでいるとき、センサ対118,120の出力信号から得られたay,byの値により、以下の式(3)によりΔyを計算し、センサ120の出力信号の位相が進んでいるとき、Δyを以下の式(4)により計算する。
Δy=ay/(ay+by) (3)
Δy=−ay/(ay+by) (4)
【0034】
なお、ay/(ay+by),ay/(ay+by)の代わりに、ax/bx,ay/byを用いても良いが、速度変化に対して弱くなる。
【0035】
より具体的には、筆記のx軸成分Δxが正であるとき、図11の(a)に示されるように、x軸方向で後方に位置するセンサ124からの出力信号の位相は前方に位置するセンサ122からの出力信号の位相よりも進んでいるため、図17の(a)(b)に示される、
パターンP1+:センサ124の極大→センサ122の極大→センサ124の極小と、
パターンP2+:センサ124の極小→センサ122の極小→センサ124の極大という2つのパターンが交互に出現する。
【0036】
一方、筆記のx軸成分Δxが負のときは、図17の(c)(d)に示される、
パターンP1−:センサ122の極大→センサ124の極大→センサ122の極小と、
パターンP2−:センサ122の極小→センサ124の極小→センサ122の極大という2つのパターンが交互に出現する。
【0037】
そこで、センサ対122,124の出力信号の極大および極小を連続的に検出し、いずれかのセンサ出力信号の極大または極小が検出される毎に検出時刻Tiを時系列的に記憶するとともに、最新の3回の極大・極小検出結果が上記のP1+,P2+,P1−,P2−のいずれかと一致するかを判定する。そして、P1+またはP2+と一致するときは、式(5)によりΔxを算出し、P1−またはP2−と一致するときは、式(6)によりΔxを算出する。
Δx=(Ti−1−Ti−2)/(Ti−Ti−2) (5)
Δx=−(Ti−1−Ti−2)/(Ti−Ti−2) (6)
【0038】
Δyについても同様である。これにより、センサ出力信号の半周期毎にΔx,Δyの値を得ることができる。
【0039】
センサの出力信号の極大および極小の検出に関しては、例えば信号の上昇パターンおよび下降パターンの検出を行ない、前回、上昇パターンが検出されるか又はいずれも検出されない状態から、今回、下降パターンが検出される状態に転じたときを極大の検出とし、前回、下降パターンが検出されるか又はいずれも検出されない状態から、今回、上昇パターンが検出される状態に転じたときを極小の検出とする。
【0040】
上昇/下降パターンの検出に関しては、例えばn回(例えばn=3)連続して上昇するとき、上昇パターンの検出とし、n回連続して下降するとき、下降パターンの検出とする。あるいは、連続するn回のうちm回(例えば、n=5、m=4)上昇するとき、上昇パターンの検出とし、m回減少するとき、下降パターンの検出としても良い。
【0041】
また、極大・極小の検出の際に時刻Tiを記憶する代わりに、前回の検出からの経過時間ΔTi(=Ti−Ti−1)をタイマーで測定して記憶するようにしても良い。この場合には、式(7)または式(8)によりΔxが計算される。
Δx=Ti−1/(ΔTi+Ti−1)(P1+,P2+のとき) (7)
Δx=−Ti−1/(ΔTi+Ti−1)(P1―,P2―のとき) (8)
【0042】
図18は、上記の手順にしたがってデータ処理部125において実行されるΔxの演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0043】
まず、現在のセンサ122,124の出力のA/D変換結果とそれらの過去の履歴とにより、センサ122,124の現在の状態(上昇/下降/いずれでもない)を検出し(ステップ2000)、記憶する(ステップ2002)。次に、今回の状態を前回の状態と比較することによりセンサ122,124の出力の極大・極小を検出し(ステップ2004)、極大・極小が検出されないときは(ステップ2006)、Δxをゼロとして(ステップ2014)、ステップ2000の処理へ戻る。極大・極小が検出されたら(ステップ2006)、そのときのタイマーの値をΔTiとして記憶し、タイマーをゼロから再スタートする(ステップ2008)。次に、センサ122,124の出力の極大・極小の検出履歴がパターンP1+,P2+,P1−,P2−のいずれかと一致するかを判定し(ステップ2010)、いずれとも一致しないときは(ステップ2012)、Δxをゼロとして(ステップ2014)、ステップ2000の処理へ戻る。いずれかと一致するときは(ステップ2012)、一致したパターンに応じて式(7)または式(8)によりΔxを計算する(ステップ2016)。計算されたΔxの値がその最大値Δxmaxよりも大きいときは(ステップ2018)、ボール12の回転による変化ではないと判定して、Δxをゼロとする(ステップ2020)。いずれの場合にも、ステップ2000に戻ってステップ2000以下の処理を一定周期で繰り返す。
【0044】
Δyの計算についても、以上と同様であり、したがって、その説明を省略する。
前述した手法において、筆記中であるか否か、すなわち、ボール12が回転中か否かの判定は、ステップ2018において、
Δx>Δxmax
によって行なわれる。これに代えて、センサ対の出力信号の差動信号が所定の振幅以上で変化することを筆記中と判定するようにしても良い。筆記中でないときはセンサ対の出力信号が逆位相で変化するため差動信号の振幅が小さくなり、筆記中のときは所定の振幅以上で変化するからである。すなわち、図19に示されるように、極大・極小が検出されて(ステップ2006)ΔTiを記憶する際に、差動信号の値(差動)iも記憶する(ステップ2008’)。ステップ2018’において、
|(差動)i−(差動)i−1|>C1、または、
|(差動)i−(差動)i−2|>C2
のときに筆記中と判定し、そうでないときは筆記中でないと判定して、Δx=0とする(ステップ2020)。なお、C1,C2は実験的に決定される定数である。
【0045】
Δx(およびΔy)を上記式(1)〜(6)で計算することに代えて、以下の式により計算すれば、ボール12の回転の半周期毎に実際の移動距離のx成分(およびy成分)を得ることができるので、2次元平面上の実際の移動距離および方向を知ることができる。
Δx=(dx/dx.max)×B×(π/4)/C (9)
Δy=(dy/dy.max)×B×(π/4)/C (10)
【0046】
(9)(10)式中、dxおよびdyはそれぞれ式(1)〜(4)により得られるΔxおよびΔyの値であり、dx.maxおよびdy.maxはそれぞれx軸およびy軸方向に筆記したときに得られるdxおよびdyの最大値であり、Bはボール12の直径、Cはボールペン10の回転率(筆記の際の滑りがないときのボール12の回転数に対する実際の回転数の割合)である。
【0047】
図20には、図1〜図10に示されるボールペン10及び/又は図11〜図19に示されるボールペン10の構成(機能)を基本構成(機能)として備えつつ新たに診断・判別機能を備える本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペン10Aの概略構成が示されている。図示の診断機能付きボールペン10Aは、4つの磁気センサ118,120,122,124(したがって、図11〜図19に示されるボールペン10の構成を基本構成として備えるが、2つの磁気センサ16,18を備える図1〜図10に示されるボールペン10の構成を基本構成として備えていても良い)と、筆記中の筆圧を検出する筆圧センサ126とを有するボール挙動検出部305を備えている。また、診断機能付きボールペン10Aは、磁気センサ118,120,122,124および筆圧センサ126の検出出力に基づいて各種の筆記情報を算出するデータ処理部300と、データ処理部300からの筆記情報に基づいて各種の診断・判定を行なう診断・判定部310と、診断・判定結果(診断・判定部310による診断・判定情報)を表示するための表示部315とを更に備えている。データ処理部300は、図8に示される構成と同様、AD変換器48と、計数部50で成される移動平均処理を行なう移動平均処理部50’とを有するとともに、図11〜図19に関して前述したデータ処理部125と同様の処理を少なくとも行なうx成分・y成分算出部125’を有している。また、表示部315は、図3に示されるLCD表示器24及び/又はLED224を備えている。LED224では、何色が点灯したかにより、予め準備したシート(判定結果シート)または本(診断・判定の仕方が記載された本)などから判定結果を知ることができる。また、LCD表示器24の場合は、例えば表示する番号に準じて、予め準備したシート(判定結果シート)または本(診断・判定の仕方が記載された本)などから結果を判断するようにしても良い。
【0048】
なお、データ処理部300が算出する筆記情報としては、図1〜図19を参照して前述したような筆記距離や筆記方向の他、筆記タイミングや筆圧、筆記文字角度、筆記速度などを挙げることができる。
【0049】
診断・判定部310は、データ処理部300からの筆記情報を取得し、その情報に基づいて、書いた文字の書き方(はね、止め、はらいの仕方や筆記文字角度など)や文字の大きさなどを演算することにより(はね、止めなどの筆記時に生じる特徴的なデータを取得することにより)、書いた人物の性格や心理を診断・判定したり(性格診断)、あるいは、見本となる筆跡情報とユーザが書く文字との差異を検出して筆記正誤判定を行なったり、または、例えば個人のパーソナルコンピュータのパスワード管理などをペンの筆記により行なう場合などにおいて認証判定(筆跡鑑定)を行なったりする。
【0050】
一例として、性格診断を行なう場合について説明すると、診断・判定部310は、データ処理部300からの筆記情報に基づいて、すなわち、筆記方向、筆記タイミング、筆記距離(したがって、筆記速度も)などによって、止め、はね部分(はらい部分)を特定することができる。そのような特定が可能であることは、図21〜図24のデータからも明らかである。すなわち、図21の(a)に示されるように、「止め」では、筆記速度に大きな変動はないが、図21の(b)に示されるように、「止めない」(はらい)場合には、終筆に向かって筆記速度が速くなる傾向がある。筆記速度傾向を見るために20ms間隔(時間間隔は、ボール12の径、磁気変動を数値化する際のサンプリング周波数によって変動する)毎の筆記速度をマイコンで計算し速度変化を導出すると、図22に示されるようになる。図22の(a)は「止め」のときの筆記速度変化を、また、図22の(b)は「はらい」のときの筆記速度変化を示している。また、図23および図24に示されるような筆記文字角度情報を付加すると有益である。これらの情報は、ひらがな「ゆ」の筆記の際のデータであるが、図24に実線枠で示される筆記情報が同じ傾向の部分と、図24に破線枠で示される筆記情報が異なる傾向の部分とを利用するなどして、筆記文字角度および筆記速度の他、筆記距離、筆記タイミングの要素を使用することで、決まった文字の判別したい場所を特定することができるとともに、止め、はらい、はねなどの筆記癖を判定することができ、また、それを性格判断に関連付けることが可能となる。
【0051】
図25は、本発明の他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステム500を示している。図示のように、この診断機能付きボールペンシステム500は、前述したボール挙動検出部305とデータ処理部300とを備えるボールペン10A’(本実施形態では、診断・判定部310を備えていない)と、パーソナルコンピュータ(以下、PCという)400及び/又は携帯電話600とから成る。ボールペン10A’は、筆記情報を外部機器であるPC400または携帯電話600へ出力するためのインタフェースとしてUSBドライバ309も備えている。また、PC400は、コード入力部410と、前述した診断・判定部310とを備えている。無論、診断・判定部310をボールペン10A’側に設けて、PC400側でデータの後処理または他の処理を行なうようにしても構わない。その場合、処理自体がボールペン側で完結する利点を使い、ボールペン自体はHID(ヒューマンインタフェース)のマウス、キーボードと同様の動作をさせることが好ましい。また、その場合、USBドライバ309によって送信される情報は、診断・判定部310からの診断・判定情報となる。
【0052】
図26は、診断機能付きボールペンシステムの他の構成を示している。この診断機能付きボールペンシステム500Aは、前述したボール挙動検出部305とデータ処理部300とを備えるボールペン10A”(本実施形態では、診断・判定部310を備えていない)と、PC400とから成る。ボールペン10A”は、筆記情報を含むデータの送受信を外部機器であるPC400との間で行なうための通信制御部550と、筆記情報を記憶するためのメモリ(記憶部)590とを更に備えている。この場合、通信制御部550は、CPU557と、インタフェースとしてのUSBドライバ559とを有する。一方、PC400は、データ受信部420と、前述した診断・判定部310と、ディスプレイ出力部425とを備えている。このような構成では、ボールペン10A”単体では、筆記情報がメモリ590に保存されており、ボールペン10A”とPC400との接続時には、PC400から必要に応じてメモリ590内の情報を引き出すことができる。また、診断・判定結果はディスプレイ出力部425を介して表示部としてのディスプレイ(図示せず)に表示される。無論、診断・判定部310をボールペン10A”側に設けて、PC400側でデータの後処理または他の処理を行なうようにしても構わない。その場合、USBドライバ559によって送信される情報は、診断・判定部310からの診断・判定情報となる。また、メモリ590には診断・判定部310による診断・判定情報が記憶されることになる。
【0053】
図27は、診断機能付きボールペンシステムの更なる他の構成を示している。この診断機能付きボールペンシステム500Bでは、データ収集のみをボールペン側で行ない、ノイズ処理やデータ処理などの制御を全てPC400側で行なう。具体的には、診断機能付きボールペンシステム500Bは、前述したボール挙動検出部305と、AD変換器48とUART319とを有する処理部300’と、RS232Cドライバ349とを有するボールペン10B(本実施形態では、x成分・y成分算出部125’および診断・判定部310を備えていない)と、PC400とから成る。PC400は、データ取得部420と、前述したx成分・y成分算出部125’と、前述した診断・判定部310と、ディスプレイ出力部425とを備えている。また、システム500Bは、専用のUSBドライバ710も備えている。このような構成によれば、データ収集のみを行なうボールペン10B側のスペースを多くとれる利点があり有益である。また、制御を全てPC400側で行なうため、ソフトの処理次第で応用範囲が広がる。
【0054】
以上説明したように、上記構成によれば、筆記用のボール12を用いて筆記情報を検出するとともに、その検出情報を用いて各種の診断・判定を行なうことができるため、ボールペンとしての機能を損なうことなく筆記情報を有効に活用できる、幅広い用途を有する多機能型ボールペンおよびボールペンシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】、磁気センサを2つ備え且つ主に筆記距離の計測に適したボールペンの基本概念図である。
【図2】筆記時およびペン振り時のセンサ出力を示す図である。
【図3】図1のボールペンの全体斜視図である。
【図4】図3のLCD表示器の面に垂直な平面で切った断面図である。
【図5】図3のLCD表示器の面に平行な平面で切った断面図である。
【図6】先端部分の拡大断面図である。
【図7】図6のA−Aに沿う断面図である。
【図8】データ処理部のハードウェアの構成を示すブロック図である。
【図9】計数部における処理のフローチャートである。
【図10】回転検出結果を示すグラフである。
【図11】磁気センサを4つ備え且つ主に筆記方向の計測に適したボールペンの基本概念図である。
【図12】図11のx方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図13】図11の−x方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図14】図11のy方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図15】図11の−y方向に筆記した際の各センサの出力信号の波形を示すグラフである。
【図16】センサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を示すデータの算出を説明するための図である。
【図17】センサ対の出力信号の位相差および位相の前後関係を検出するための4つの極大・極小パターンを示す図である。
【図18】図11のデータ処理部におけるΔx演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図19】Δx演算処理の他の例を示すフローチャートである。
【図20】本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペンの概略構成図である。
【図21】止め、はね部分(はらい部分)の特定が可能であることを立証する波形図である。
【図22】「止め」および「はらい」のときの筆記速度変化を示すグラフ図である。
【図23】筆記文字角度情報を示すグラフ図である。
【図24】筆記文字角度情報を示すグラフ図である。
【図25】本発明の一実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【図26】本発明の他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【図27】本発明の更に他の実施形態に係る診断機能付きボールペンシステムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
10,10A,10A’,10”,10B ボールペン
12 ボール
14 ホルダ
16,18,118,120,122,124 磁気センサ
300 データ処理部
310 診断・判定部
315 表示部
500,500A,500B ボールペンシステム
590 メモリ(記憶部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁されたボールと、
前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、
前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、
前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部と、
を具備したことを特徴とする診断機能付きボールペン。
【請求項2】
前記診断部による診断結果を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項3】
筆記情報または前記診断結果を外部機器に出力するためのインタフェースを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項4】
筆記情報または前記診断結果を記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項5】
前記診断部は、予め登録された筆記者の筆記情報を用いて認証判定を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項6】
前記診断部は、前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて、筆記文字の正誤判定を行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項7】
前記データ処理部は、筆記方向、筆記距離、筆記文字角度、筆記タイミングを測定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項8】
前記データ処理部は、筆記距離、筆記文字角度、筆記タイミングを使用して、決まった文字の特定箇所の筆記情報を抽出することを特徴とする請求項7記載の診断機能付きボールペン。
【請求項9】
着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部とを備えたボールペンと、
筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部を備えた情報機器と、
を具備したペンシステムであって、
前記ボールペンから前記情報機器へオンライン又は無線通信にて前記筆記情報を伝達することを特徴とするペンシステム。
【請求項10】
着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力を通信形式に対応した信号形式に変換する処理部とを備えたボールペンと、
前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部とを備えた情報機器と、
を具備したペンシステムであって、
前記ボールペンから前記情報機器へオンライン又は無線通信にて前記磁気センサの検出出力を送信することを特徴とするペンシステム。
【請求項11】
前記情報機器は、携帯電話機またはパーソナルコンピュータであることを特徴とする請求項9又は請求項10記載のペンシステム。
【請求項1】
着磁されたボールと、
前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、
前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、
前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部と、
を具備したことを特徴とする診断機能付きボールペン。
【請求項2】
前記診断部による診断結果を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項3】
筆記情報または前記診断結果を外部機器に出力するためのインタフェースを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項4】
筆記情報または前記診断結果を記憶する記憶部を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項5】
前記診断部は、予め登録された筆記者の筆記情報を用いて認証判定を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項6】
前記診断部は、前記データ処理部で算出された筆記情報に基づいて、筆記文字の正誤判定を行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項7】
前記データ処理部は、筆記方向、筆記距離、筆記文字角度、筆記タイミングを測定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の診断機能付きボールペン。
【請求項8】
前記データ処理部は、筆記距離、筆記文字角度、筆記タイミングを使用して、決まった文字の特定箇所の筆記情報を抽出することを特徴とする請求項7記載の診断機能付きボールペン。
【請求項9】
着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部とを備えたボールペンと、
筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部を備えた情報機器と、
を具備したペンシステムであって、
前記ボールペンから前記情報機器へオンライン又は無線通信にて前記筆記情報を伝達することを特徴とするペンシステム。
【請求項10】
着磁されたボールと、前記ボールを回転自在に抱持するホルダと、前記ホルダの外側近傍に配置される磁気センサと、前記磁気センサの検出出力を通信形式に対応した信号形式に変換する処理部とを備えたボールペンと、
前記磁気センサの検出出力に基づいて筆記情報を算出するデータ処理部と、筆記情報に基づいて筆記者の性格を診断する診断部とを備えた情報機器と、
を具備したペンシステムであって、
前記ボールペンから前記情報機器へオンライン又は無線通信にて前記磁気センサの検出出力を送信することを特徴とするペンシステム。
【請求項11】
前記情報機器は、携帯電話機またはパーソナルコンピュータであることを特徴とする請求項9又は請求項10記載のペンシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−89346(P2010−89346A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260602(P2008−260602)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】
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