証券類識別装置および証券類識別方法
【課題】セキュリティデバイスが設けられた証券類等の真偽の判別を正確に行うことのできる識別装置や識別方法が望まれていた。
【解決手段】搬送路202を搬送される紙幣Bのセキュリティデバイスに対し、テラヘルツ光センサ26により所定の波長のテラヘルツ光を照射する。そしてセキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ反射光を受信する。そのために、テラヘルツ光センサには、第1送信子268、第2送信子269および第1受信子271および第2受信子272が備えられている。各受信子271、272で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と比較することにより、紙幣Bのセキュリティデバイスの真偽を判別することができる。
【解決手段】搬送路202を搬送される紙幣Bのセキュリティデバイスに対し、テラヘルツ光センサ26により所定の波長のテラヘルツ光を照射する。そしてセキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ反射光を受信する。そのために、テラヘルツ光センサには、第1送信子268、第2送信子269および第1受信子271および第2受信子272が備えられている。各受信子271、272で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と比較することにより、紙幣Bのセキュリティデバイスの真偽を判別することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙幣の金種、真偽、正損等や、商品券、クーポン券その他の有価証券の真偽、正損等の、証券類の種別や真偽等を識別するための証券類識別装置および証券類識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
証券類には、真偽識別用のセキュリティとして、電磁波に対して特有の特性を示すデバイスが用いられているものがある。
たとえば、特許文献1には、特有の特性を示すセキュリティマークが提案されている。
また、特許文献2には、セキュリティデバイスとしての特殊インキが提案されている。具体的には、フィルム形成バインダーと電気伝導性マイクロ−ワイヤーを含む印刷インキが開示されている。この印刷インキを機密保全文書にマーキングとして印刷することにより、マーキングが、当該印刷インキに含まれるマイクロ−ワイヤーの長さに対応する周波数を有する電磁放射光に曝されたときに、増幅された共鳴アンテナ信号を発生するという構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2008/110775A1公報
【特許文献2】特表2003−515622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたセキュリティマークは、特有の特性を示すデバイスであるが、そのデバイスの検出にはマイクロ波が用いられている。よって、当該デバイスの真偽判別のための検出装置は、大型で、その取り扱いも難しいという課題がある。それゆえ、セキュリティデバイスの検出および真偽判別を迅速にかつ正しく行える装置の開発が望まれる。
【0005】
また、特許文献2に記載の印刷インキに関しても、その印刷インキをセキュリティデバイス(たとえば印刷されたセキュリティマーク)として用いた場合に、当該セキュリティデバイスを正しく識別するための装置や方法が望まれるところである。
この発明は、上記従来技術として提案されているセキュリティデバイスを検出し、セキュリティデバイスが設けられた証券類等の真偽等の判別を正確に行うことのできる識別装置および識別方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、証券類の真偽を判別するための装置であって、真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、前記証券類を搬送するための搬送路と、前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、を含むことを特徴とする証券類識別装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、第1の送信・受信対ユニットは、離散的な第1の周波数のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、第2の送信・受信対ユニットは、離散的な第2の波長のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の波長のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、第1の送信・受信対ユニットは、第1の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、第2の送信・受信対ユニットは、第2の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の偏光波のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の偏光波のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、証券類の真偽を判別するための装置であって、真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、前記証券類を搬送するための搬送路と、前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、を含むことを特徴とする、証券類識別装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、前記証券類のセキュリティデバイスの位置を判別する位置判別手段と、前記位置判別手段で判別された位置にテラヘルツ光が照射されるように、前記搬送路を搬送される前記証券類と前記送信・受信対ユニットとの相対的な位置関係を調整する位置関係調整手段と、をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の証券類識別装置である。
【0011】
請求項6記載の発明は、所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、証券類の前記セキュリティデバイスに対して、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスで反射されるテラヘルツ反射光を受信し、受信されたテラヘルツ反射光の光量が所定範囲内にあるか否かに基づき、当該証券類の真偽判定を行うことを特徴とする、証券類の真偽判別方法である。
【0012】
請求項7記載の発明は、所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の離散的な波長のテラヘルツ光を照射し、テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の波長のテラヘルツ光の反射率とを検出することを含み、前記判定ステップは、検出したそれらテラヘルツ光の反射率の比率によって前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法である。
【0013】
請求項8記載の発明は、所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の偏光波のテラヘルツ光を照射することを含み、テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の偏光波のテラヘルツ反射光を受信すること、および、第2の偏光波のテラヘルツ反射光を受信することを含み、前記判定ステップは、第1の偏光波のテラヘルツ光の受信率と第2の偏光波のテラヘルツ光の受信率との比率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法である。
【0014】
請求項9記載の発明は、所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過した後の透過光を受信し、前記テラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過する透過率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判別し、その判別結果に基づいて証券類の真偽を判別することを特徴とする、証券類の真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、6記載の発明によれば、証券類に設けられたセキュリティデバイスに所定周波数のテラヘルツ光を照射し、その反射光の反射光量または反射率に基づいて証券類に施されたセキュリティデバイスの真偽を判別することができる。
その結果、セキュリティデバイスが真か偽かにより、証券類自体の真偽判別を行うことができる。
【0016】
なお、証券類自体の真偽判別は、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットにより検出される反射テラヘルツ光の光量または反射率に基づくセキュリティデバイスの真偽のみにより行うこともできるが、セキュリティデバイスの真偽判別に加え、証券類を検出する他のセンサとの論理積等を求めることによって、より正確に証券類の真偽判別を行うことも可能である。
【0017】
請求項2、7記載の発明によれば、検出に用いられるテラヘルツ光は、互いに周波数の異なる離散的な第1波長および第2波長のテラヘルツ光が用いられるので、2種類のテラヘルツ光の反射率を対比することにより、より正しくセキュリティデバイスの真偽を判別することが可能である。
請求項3、8記載の発明によれば、証券類のセキュリティデバイスに照射されるテラヘルツ光は、第1の偏光波および第2の偏光波に分けられて照射される。このため、偏光の異なるテラヘルツ光によりセキュリティデバイスの向き等が変化しても、セキュリティデバイスを正しく検知することができ、セキュリティデバイスの真偽判別が正確に行える。
【0018】
さらに、請求項4、9記載の発明のように、証券類のセキュリティデバイスにテラヘルツ光を照射し、セキュリティデバイスで反射される反射光ではなく、セキュリティデバイスを透過した透過光を受信する構成としてもよい。セキュリティデバイスは、テラヘルツ光に対して所定の反射率特性を有するが、それは言い換えるとテラヘルツ光に対して所定の透過率特性を有するということである。このため、セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信し、受信した透過テラヘルツ光を予め定める閾値等と対比することにより、セキュリティデバイスの真偽を判別することが可能である。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、証券類に施されたセキュリティデバイスの位置に対して、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットが適切に対向されるので、セキュリティデバイスに対してテラヘルツ光を照射でき、セキュリティデバイスをテラヘルツ光を用いて正しく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明の一実施例に係る紙幣処理機1の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す紙幣処理機の内部構成を示す概略断面構成図である。
【図3】図3(a)(b)は、図2に示す紙幣処理機1における紙幣識別装置220のセンサ構成の詳細を示す図であり、(a)は紙幣識別装置のセンサ側面構成図、(b)は紙幣識別装置220のセンサ構成平面図である。
【図4】図4は、図3(a)(b)に示す紙幣識別装置220の各構成要素を示すブロック図である。
【図5】図5(A)(B)は、赤色光画像データを用いて金種の識別を行う場合における画素を示し(A)、また、4画素集めてブロック化を行った状態(B)を示す図である。
【図6】図6は、赤色光ラインセンサ21acによる紙幣の金種の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。
【図7】図7は、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の真偽の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。
【図8】図8は、紙幣識別装置220における複数のセンサの検出タイミングチャートを表わす図である。
【図9】図9は、テラヘルツ光センサ26、すなわち、テラヘルツの送信・受信対ユニットの具体的な構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、ユーロ紙幣のホログラムを横方向に走査して得られた反射率を示すグラフである。
【図11】図11は、模擬ホログラム(紙にアルミ箔を貼り付けただけのもので、周期的な微細孔を有さないもの)の反射率のデータの一例を示すグラフである。
【図12】図12は、ユーロ紙幣のホログラムにおけるテラヘルツ光の反射率および透過率と、模擬ホログラムの場合の反射率と透過率との対比を整理して表わす図である。
【図13】図13(a)は一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッド(糸状の線)の模式図であり、図13(b)は5ユーロ紙幣に設けられているセキュリティスレッドを示す図であり、図13(c)はそのセキュリティスレッドに0.75THzのテラヘルツ光を照射した場合の振幅反射率特性を示す図である。
【図14】図14は、100ユーロ紙幣のOVIと1THzのテラヘルツ光の反射波形との関係を示す図である。
【図15】図15は、テラヘルツ光センサ(テラヘルツ光の送信・受信対ユニット)の変形例を示す図であり、テラヘルツ光が証券類Bを透過する構成のテラヘルツ光センサの図解図である。
【図16】図16は、テラヘルツ光センサ103を証券類Bの種類に応じて、証券類Bのセキュリティデバイスに対向させるように移動させる構成を説明するための図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。以下に示す実施形態は、識別対象である証券類が紙幣である場合、すなわち紙幣識別装置を備えた紙幣処理機を例にとって説明する。
なお、かかる実施形態は、この発明の範囲を実施形態に限定する意図ではない。
まず、図1および図2により、この発明に係る紙幣識別装置を備えた紙幣処理機の全体構成について説明する。
【0022】
図1は、一実施例に係る紙幣処理機1の外観を示す斜視図である。図1に示すように、紙幣処理機1は、略直方体形状の筐体92、ホッパー11、第1の集積部(第1のスタッカー)3、第2の集積部(第2のスタッカー)4およびリジェクト部50を備えている。
また、図2は、図1に示す紙幣処理機1の内部構成を示す概略断面構成図であり、主に搬送系とセンサ系を示している。図2に示すように、紙幣処理機1の筐体92内には、搬送部201が設けられており、この搬送部201により、筐体92内で紙幣が1枚ずつ順次搬送されるようになっている。
【0023】
以下、このような構成からなる紙幣処理機1の各構成要素の詳細について説明する。
ホッパー11は、オペレータによって複数の紙幣が積層状態で載置される部位である。紙幣繰出装置10によってこのホッパー11に収容された紙幣が1枚ずつ紙幣処理機1の筐体92の内部に繰り入れられるようになっている。
紙幣繰出装置10は、紙幣の繰り出しを行うフィードローラー12、フィードローラー12に対向するように設けられ当該フィードローラー12との間にゲート部を形成するゲートローラー(逆転ローラー)14、およびホッパー11に収容された紙幣をフィードローラー12に蹴り出すキッカローラー16、18を有している。なお、図2においてはキッカローラー16、18が前後に2つ設けられた例について図示しているが、このような例に限定されることはなく、キッカローラーが1つ(たとえばキッカローラー16のみ)が設けられた構成となっていてもよい。紙幣繰出部10により筐体92内に取り込まれた紙幣は、搬送部201により搬送される。
【0024】
搬送部201は、略水平方向に延びる上部搬送機構202と、上部搬送機構202よりも下方において略水平方向に延びる下部搬送機構203と、上部搬送機構202および下部搬送機構203の間に設けられた中間搬送機構204とを有している。図2に示すように、各搬送機構202、203、204からなる搬送部201は、正面視が略U字形状となっている。ここで、紙幣繰出装置10により筐体92の内部に取り込まれた紙幣は、上部搬送機構202、中間搬送機構204、下部搬送機構203の順に1枚ずつ搬送されるようになっている。上部搬送機構202、中間搬送機構204および下部搬送機構203は、それぞれ、ベルト搬送機構が組み合わされたものからなる。ベルト搬送機構は、一対または3以上のローラーおよび各ローラーに張架された例えばゴムベルトから構成されていてもよい。
【0025】
図2に示すように、搬送部201の上部搬送機構202には、紙幣の金種、真偽、正損あるいは新旧等の紙幣を識別するための紙幣識別装置220が設けられている。この紙幣識別装置220の構成の詳細については後述する。
図2に示すように、下部搬送機構203のさらに下方には、2つの集積部3、4が並列に配設されている。各集積部3、4は、筐体92内に取り込まれた紙幣のうち、紙幣識別装置220により正常であると判定された紙幣を、たとえば金種別に積層状態で収納するようになっている。
【0026】
より具体的には、下部搬送機構203には、2つの分岐爪60、62が直列に配設されている。下部搬送機構203において、搬送される紙幣のうちの所定の紙幣は、下部搬送機構203から分岐させてそれぞれ集積用羽根車3a、4aに送られる。集積用羽根車3a、4aは、それぞれ、第1の集積部3、第2の集積部4に接続されている。分岐爪60、62により、下部搬送機構203から分岐させられた紙幣は、それぞれ、集積用羽根車3a、4aを経て、第1の集積部3または第2の集積部4に送られるようになっている。
【0027】
図1に示すように、各集積部3、4に集積された紙幣は、オペレータにより紙幣処理機1の正面側から自在に取り出し可能となっている。
下部搬送機構203の下流側端部には、リジェクト部50への紙幣の集積を行う放出ローラー54および放出ローラー54に対向するように設けられた対向ローラー56が設けられている。下部搬送機構203の下流側端部に送られた紙幣は、この放出ローラー54と対向ローラー56の間から放出される。そして、この放出させられた紙幣は、放出ローラー54に摺接された回転式の札叩きゴム55によりリジェクト部50に集積されるようになっている。このような回転式の札叩きゴム55によって、放出ローラー54と対向ローラー56との間から放出させられた紙幣の後端縁が叩かれることにより、リジェクト部50においてリジェクト紙幣を集積し易くなる。
【0028】
図1および図2に示すように、リジェクト部50にはストッパ52が設けられている。このストッパ52により、放出ローラー54と対向ローラー56との間から放出された紙幣がリジェクト部50からはみ出して、筐体92外へ放出されるのが防止される。ストッパ52は、図2において、時計回りに手動で回動させることができるようになっている。オペレータは、手動でストッパ52を、図2において時計回りに回動させることにより、リジェクト部50に収容された紙幣を自在に取り出すことができる構成である。
【0029】
図1に示すように、紙幣処理機1の筐体92には、操作部103および表示部105が設けられている。操作部103は、オペレータからの指示を受けるための入力キーを有している。表示部105は、たとえばLCDディスプレイからなり、各集積部3、4における紙幣の集積情報をそれぞれ表示するようになっている。具体的には、表示部105は、各集積部3、4における、収容されるべき紙幣の金種、真偽、正損(正券であるか損券であるか)、新旧、収容された紙幣の枚数、および収容された紙幣の合計金額のうちの少なくとも1つの情報を表示するようになっている。
【0030】
次に、紙幣処理機1のセンサ系について説明する。図2に示すように、紙幣繰出装置10には、ホッパー11に紙幣が集積されているか否かを検知するセンサ71が設けられている。また、搬送部201における上部搬送機構202の入口部分にはセンサ72が設けられている。このセンサ72は、紙幣が筐体92内に取り込まれたことを検知する。
センサ73、74、75は、それぞれ、搬送部201における下部搬送機構203に順番に配置されている。各センサ73、74、75の間に分岐爪60、62が位置している。センサ73は、分岐爪60の上流側に設置されており、下部搬送機構203において搬送される全ての紙幣を検知する。一方、センサ74は、分岐爪60の下流側であって、分岐爪62よりも上流側に設置されている。このセンサ74は、下部搬送機構203を搬送される紙幣のうち、分岐爪60により第1の集積部3へ分岐させられなかった紙幣を検知する。さらに、センサ75は、分岐爪62の下流側に設置されている。このセンサ75は、下部搬送機構203を搬送される紙幣のうち、分岐爪62により第2の集積部4へ分岐させられなかった紙幣、すなわち集積部3および集積部4へ集積されなかった紙幣を検知する。
【0031】
センサ76、77は、それぞれ、分岐ライン3a、4aに設けられており、下部搬送機構203から分岐させられて各分岐ライン3a、4aに送られた紙幣を検知する。
第1の集積部3、第2の集積部4の中段部分には、それぞれ、センサ78、79が設けられている。各センサ78、79は、各集積部3、4において紙幣が立位状態となる等、紙幣が各集積部3、4において異常状態で集積されたときに、このことを検出する。さらに、第1の集積部3、第2の集積部4の下段部分には、それぞれ、センサ80、81が設けられている。各センサ80、81は、各集積部3、4に紙幣が収容されているいか否かを検知する。また、リジェクト部50にも、センサ82が設けられている。このセンサ82は、リジェクト部50に紙幣が収容されているか否かを検知する。
【0032】
次に、紙幣識別装置220の構成について、図3(a)(b)を参照して説明する。図3(a)(b)は、図2に示す紙幣処理機1における紙幣識別装置220のセンサ構成の詳細を示す図である。図3(a)は、紙幣識別装置220のセンサ構成側面図であり、図3(b)は、紙幣識別装置220のセンサ構成平面図である。
図3(a)(b)において、紙幣は参照符号Bで表わされている。
【0033】
紙幣識別装置220には、紙幣の搬送方向に見て、最も上流側にタイミングセンサ20が設けられているとともに、最も下流側にタイミングセンサ28が設けられている。
タイミングセンサ20は、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側にそれぞれ設けられたタイミングセンサ20a、20bを含んでいる。これらタイミングセンサ20a、20bは、紙幣Bが、紙幣識別装置220に到来したことを検知するようになっている。
【0034】
また、タイミングセンサ28も、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側に設けられたタイミングセンサ28a、28bを含んでいる。これらタイミングセンサ28a、28bは、紙幣Bが、紙幣識別装置220から送出されることを検知するようになっている。
紙幣識別装置220には、タイミングセンサ20およびタイミングセンサ28の間に、ラインセンサ21、厚み検知センサ22、磁気センサ24およびテラヘルツ光の送信・受信対ユニット26が、搬送方向上流側から順に設けられている。
【0035】
ラインセンサ21は、可視光である赤色光の光源21a、およびこの光源21aからの赤色光が紙幣Bに当たることにより反射される反射光を受光するイメージセンサ21cを有する反射型の赤色光ラインセンサ21acと、赤外光の光源21b、およびこの光源21bからの赤外光が紙幣Bを透過することによる透過光を受光するイメージセンサ21cを有する透過型の赤外光ラインセンサ21bcとが組み合わされていて、光源を時分割して発光させてイメージセンサ21cを共通に使えるようにしたラインセンサである。
【0036】
なお、光源21aから発せられる可視光としては、赤色に限られず、青色、緑色など、紙幣に印刷されたインクの色に応じて、適宜選択可能にしてもよい。
厚み検知センサ22は、搬送される紙幣Bを上下から挟むように配置されたローラーを含んでいる。搬送される紙幣Bがこのローラー間を通る際に、紙幣の厚みに応じてたとえば上方のローラーが変位するので、その変位量を検知する構成である。紙幣Bにテープ等の異物が貼着されている場合等には、厚み検知センサ22により紙幣Bの厚み異常が検知される。
【0037】
磁気センサ24は、紙幣Bに印刷されたインクに磁気インクが用いられている場合に、その磁気インクの磁気量を検知するためのセンサである。
テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、たとえば、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側にそれぞれ設けられた送信・受信対ユニット26a、26bを含んでいる。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26(26a、26b)は、このように、複数設けられ、紙幣の搬送方向に対して交叉方向に配置されてもよいし、搬送方向に沿って配置されてもよい。また、単独であってもよい。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、後述するように、所定波長のテラヘルツ光を送信子から送信する。そして、紙幣Bにより反射されたテラヘルツ光を受信子で受信する構成を有するセンサである。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、さらに、搬送路に対向する位置と、退避位置とに変位可能に設けられた基準板260を含んでいる。そして、紙幣Bを通す前に基準板260を搬送路に対向させ、基準板260で反射されたテラヘルツ光の反射量を測定し、次に、紙幣Bにより反射されたテラヘルツ光の反射量を測定する。
【0038】
なお、以下、送信・受信対ユニット26のことを、テラヘルツ光センサ26とも称する。テラヘルツ光センサ26(26a、26b)の具体的な構成や機能については後述するが、テラヘルツ光センサ26(26a、26b)は、主として、紙幣に設けられたホログラムや偽造防止用の透かし紋様等のセキュリティデバイスの真偽を検知するために用いられる。
【0039】
また、図3(a)(b)では、テラヘルツ光センサ26(26a、26b)は、搬送される紙幣Bに対して上面側に設けられているが、これに限らず、テラヘルツ光センサ26は下面側に配置され、上面側に基準板260が配置されていてもよい。
図4は、図3(a)(b)に示す紙幣識別装置220の各構成要素を示すブロック図である。図4に示すように、各センサ21ac、21bc、24、26(26a、26b)は、評価値算出部30に接続されている。各センサ21ac、21bc、24、26(26a、26b)の検出出力は、当該評価値算出部30へ送られるようになっている。評価値算出部30は、各センサから与えられる検出信号を分析、評価し、各センサからの信号に基づいて、紙幣の評価値を算出する。
【0040】
なお、図4では、説明の便宜上、タイミングセンサ20(20a、20b)、28(28a、28b)および厚み検知センサ22に関しては、図示も説明も省略されている。
たとえば、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣が検知されると、この検知結果は評価値算出部30に送られ、この検知結果から、予め設定された特定の第1評価値算出式によって赤色光ラインセンサ21acにかかる評価値が算出される。また、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の検知結果から、予め設定された特定の第2評価値算出式によって赤外光ラインセンサ21bcにかかる評価値が算出される。
【0041】
同様に、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26による紙幣の検知結果から、それぞれ予め設定された特定の第3、第4評価値算出式によって、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26にかかる評価値が算出される。
このようにして、評価値算出部30において、各センサ21ac、21bc、24、26により検知された検知結果に基づいて、それぞれ評価値が算出される。
【0042】
また、図4に示すように、評価値算出部30には識別部32が接続されている。評価値算出部30により算出された各評価値は、識別部32に送られる。識別部32は、評価値算出部30により算出された各評価値に基づいて、紙幣の金種や紙幣の真偽等を識別する。
次に、紙幣識別装置220における評価値の算出方法について詳述する。
【0043】
紙幣識別装置220に紙幣Bが搬送されてくると、まず、タイミングセンサ20(20a、20b)により紙幣Bの到来が検知される。
ラインセンサ21は、図3(b)に示すように、紙幣の通路の下側において、赤色光LEDアレイ21aを受光用のイメージセンサ21cの前後に備えており、搬送される紙幣Bに対して赤色光を照射するようになっている。また、紙幣の通路の上側において、赤外光を発する赤外光LEDアレイ21bが、イメージセンサ21cに対向させて、紙幣の搬送通路を挟んで配設されている。
【0044】
より具体的には、イメージセンサ21cは、受光素子が0.25mmピッチに並べられており、紙幣Bの搬送に同期したパルスを生成するメカクロック(図示せず)を用いて紙幣Bの搬送の1.5mmピッチでイメージセンサ21cの読み出しを行う。ここで、2種類の光源の発光およびその光の読み出しは時分割して行う。識別対象となる紙幣Bが、たとえば米ドル紙幣である場合には、米ドル紙幣は幅156mm、長さ66mmの大きさであるから、理論的には横方向に624画素、縦方向には44ライン分の読み出しがあり、27,456個の画素データが1光源に対して読み出される。実際には、紙幣の通路の幅方向における通過位置(寄せ位置)、紙幣の搬送遅れ、紙幣の斜行等を考慮して、より大きな領域の走査が行われる。
【0045】
紙幣Bがラインセンサ21上を搬送されていくとき、当該紙幣Bは少なからず斜行状態で搬送され、また通路幅が紙幣Bの長手長よりも広いので、横方向に通過位置が個々に変わる。このため、紙幣Bの外形状により、その紙幣Bの斜行角度および紙幣部分の中央座標を求めて、斜行がないとともに寄せ位置が基準点にある画像に補正を行う。
この補正方法については、特開2001−101473号に開示されている。特開2001−101473号について言及することにより、その内容はこの明細書に含まれるものとする。具体的には、紙幣の赤色光源の画像を赤色光センサ21acで読み取り、紙幣の外縁の上側に基づく中心座標の算出および斜行角抽出処理を行う。そして、その結果を用いて、メモリに取り込まれた赤色画像データおよび赤外画像データの回転・移動処理を行うことにより、以後の処理において寄せ位置と斜行角を考慮する必要がなくなる。
【0046】
次に、赤色光画像データを用いて金種の識別を行う。図5(A)(B)に示すように、画素を所定の数だけ集めてブロックを形成する。図5(A)は画素を示し、図5(B)は4画素を集めてブロック化を行った状態を示している。ブロックを示すにあたり、Aijという符号を用いている。ここで、iという文字は横方向の座標を示しており、jという文字は縦方向の座標を示している。このブロックAijのブロック値、すなわち4画素の合計値をBijとして表わす。このブロック化の方法は経験的に決まるようになっている。
【0047】
識別対象となる紙幣として、たとえば米ドル紙幣を用いた場合には、紙幣の表面にあっては、人物画像の位置、人物画像の描かれている部分の縁の位置、人物の上着の位置、および文字の位置を考慮して、また、紙幣の裏面にあっては、建物のある部分、空のある部分、インクのない白地部分等の位置を考慮して、紙幣の金種と搬送方向を分類するために使用するブロックを求め、算出式と、分類のための閾値を予め用意しておく。
【0048】
そして、たとえば、上限値1>B11+B34>下限値1という評価式を複数作成する。なお、B11+B34は評価値算出式であり、上限値1、下限値1は閾値である。ここでは評価式として加算式を例に挙げたが、評価式としては加算および減算を混在させた式であってもよく、加減乗除のうち少なくとも1つを含む式であってもよい。また、評価式において微分値をとるようにしてもよい。また、加算するブロック値は2個に限定されることはなく、複数個用いてもよく、これらを混合させたものであってもよい。実際には、分類すべき金種、搬送方向に対してより分類効果の高いブロックが選ばれることとなる。また、評価式を複数用いる理由は、1つの評価式では特定の金種間が分類できるが、別の特定の金種間が分類できない、つまり、評価値が同じになる場合が存在しているので、これを補って精度良く金種を分類するためである。
【0049】
評価式の作成方法は、上限値1>B11+B34>下限値1、上限値2>B13+B45>期限値2、…といずれのブロック値に注目するかを全ての組み合わせを考慮して金種と搬送方向が分類できるものを探し、これについて、金種と方向毎の上限値と下限値とを決定する。
これらの評価式は一般に複数個必要である。これらのブロック値の加算等の評価値の算出は、紙幣1枚に対して一通り行えば、後は、上限値と下限値の閾値内にその加算値が入っているかどうかを調べればよい。赤色光ラインセンサ21acが走査した紙幣のブロック値を元に評価値が求まるので、この比較判断処理は短時間で行うことができる。図6は、赤色光ラインセンサ21acによる紙幣の金種の識別にかかる閾値テーブルを示す。
【0050】
次に、赤外線ラインセンサ21bcにより読み取られる赤外光の画像データを用いた真偽判定について説明する。赤色光と同様に、紙幣の画像の斜行角と中心座標が求まることから、これを用いて赤外光の画像データについても斜行角と寄せ位置に依存しないような基本位置に画像データを回転・移動処理する。評価値算出式、評価値も赤色光の画像データによる金種の識別と同様のタイプのものが使用される。赤外光は、紙幣に印刷されているインクの分光吸収特性が可視光とは異なる特性を示すため、赤外光は紙幣の真偽の判定を行うのに適している。
【0051】
図7は、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の真偽の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。上限値と下限値が、紙幣の金種、搬送方向毎に、閾値テーブルにおいて用意されている。
厚み検知センサ22の検知出力に対しては、識別対象である紙幣の種類毎の厚みデータが予め記憶されており、検出された紙幣の厚みが、記憶された厚みデータのそれぞれと比較されることにより、紙幣の真偽や紙幣に異物が貼着されているか否か等の評価が行われる。
【0052】
磁気センサ24は、前述したように紙幣に印刷されたインク中の磁気量を検出するためのセンサである。磁気センサ24は、たとえばメカクロックに同期して、たとえば0.25mmピッチというような一定間隔毎に、磁気信号の読み出しを行う。
この明細書では、発明の特徴と直接関係しないため、これら厚み検知センサ22および磁気センサ24による判定方向の詳細に関する説明は省略する。
【0053】
さらに、紙幣識別装置220には、テラヘルツ光センサ26が備えられている。テラヘルツ光センサ26の具体的な構成およびセンシング動作については、明細書記載の便宜上、後にまとめて説明をすることにする。ここでは、テラヘルツ光センサ26により検出される内容について簡単に触れると、次の通りである。
紙幣が、たとえばユーロ紙幣の場合には、ユーロ紙幣に施されているホログラムを検出し、その真偽を判別することができる。また、紙幣にセキュリティスレッドが施されている場合には、そのスレッドを検出して、真偽の判別を行うことができる。さらに、紙幣にパールインクで印刷が施されている場合には、パールインクを検出して、その結果に基づいて紙幣の真偽の判別を行うことができる。さらに、紙幣にOVI(オプティカル光学可変インク)による印刷が施されている場合には、かかるインクによる印刷の有無を検出して、紙幣の真偽の判別を行うことができる。
【0054】
テラヘルツ光センサ26を用いると、このような紙幣のホログラム、スレッド、パールインクによる印刷、またはOVIによる印刷等の検出を行うことができ、紙幣の真偽の判別が行える。紙幣におけるホログラム配置領域等は、金種、方向の情報により予めわかっているから、たとえば、赤色光ラインセンサ21acの出力に基づき、紙幣に施されているホログラムの位置等を抽出し、その位置をテラヘルツ光センサ26で検出する構成とすることが望ましい。
【0055】
次に、このような構成からなる紙幣処理機1の動作について説明する。
まず、紙幣の束がホッパー11に収容され、このホッパー11に収容された紙幣は紙幣繰出装置10により紙幣処理機1の内部に取り込まれる。そして、紙幣処理機1の内部に取り込まれた紙幣は搬送部201により搬送され、紙幣識別装置220に送られる。
紙幣識別装置220において、図3に示すように、赤色光ラインセンサ21ac、赤外光ラインセンサ21bc、厚み検知センサ22、磁気センサ24およびテラヘルツ光センサ26により、それぞれ、紙幣の検知が行われる。
【0056】
より具体的には、図8に示すようなタイミングチャートに基づいて処理が行われる。
まず、赤色光ラインセンサ21acからは紙幣の金種と搬送方向の識別結果が出力される。また、赤外光ラインセンサ21bcからは、真正な紙幣の金種と搬送方向の候補の上方が出力される。さらに、厚み検知センサ22からは、紙幣の厚みに関するデータが出力される。また、磁気センサ24からは、磁気インクのデータに基づき、真正な紙幣の金種の候補の情報が出力される。さらに、テラヘルツ光センサ26からは、紙幣のホログラム、スレッドその他のセキュリティデバイスに関する出力が得られる。
【0057】
紙幣の金種、搬送方向および真偽の総合的な識別は、全てのセンサ21ac、21bc、22、24、26による識別の結果が揃った時点で、たとえば各センサ21bc、24、26の真正であろうと識別された紙幣の金種と方向の候補に対して、赤色光ラインセンサ21acの特定した金種と搬送方向が含まれているかどうかにより、赤色光ラインセンサ21acにより決められた紙幣の金種の真偽が識別される。仮に、赤色光ラインセンサ21acの出力に基づく判定が10ドル紙幣のA方向であるときにおいて、赤外光ラインセンサ21bc、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26の出力の全てに真正となる金種、搬送方向に10ドル紙幣のA方向があれば、識別結果は10ドル紙幣のA方向の真券として出力される。逆に、いずれかのセンサ21bc、24、26の出力に該当金種、搬送方向がなければ、識別結果は10ドル紙幣のA方向の偽券と判断される。
【0058】
最終的な金種、真偽の識別としては、各センサ21ac、21bc、24、26から得られた検出信号に基づく識別結果の論理積演算を行い、赤色光ラインセンサ21acから得られた紙幣の金種と搬送方向に対して真正であると全ての各センサ21bc、24、26が判断しているならば、真正な金種を最終識別結果とできるが、どれかの真偽識別用のセンサ21bc、24、26が赤色光ラインセンサ21acの金種に真のフラグを立てていなければ、赤色光ラインセンサ21acが示した金種の偽券として最終の識別結果をたとえば表示部105や上位装置に出力する。なお、この説明では、厚み検出センサ22の出力については省略されているが、このセンサ22の出力を、識別に加えても構わない。
【0059】
ここで、識別対象となる紙幣について、各センサ21ac、21bc、24、26により紙幣の検知が行われてから、紙幣の金種や真偽について識別が行われるまでの動作について、図8のタイミングチャートを用いてさらに詳細に説明する。
図8は、図3に示す紙幣識別装置220において、各センサ21ac、21bc、24、26により紙幣の検知が行われてから、紙幣の検知結果に基づいて評価値が算出されてこの評価値から紙幣の最終的な識別が行われるまでの期間を、センサ21ac、21bc、24、26毎に時系列で示す説明図である。
【0060】
図8において、参照符号21atは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が行われてから、赤色光による紙幣の金種の識別が行われるまでの期間を示す。このうち、参照符号21asは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号21aeは、紙幣の金種の識別が終了する時刻を示す。同様に、参照符号21btは、赤外光ラインセンサ21bcにより紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間を示す。このうち、参照符号21bsは、赤外光ラインセンサ21bcにより紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号21beは、紙幣の金種および真偽の識別が終了する時刻を示す。また、参照符号24tは、磁気センサ24により紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間を示し、参照符号26tは、テラヘルツ光センサ26により紙幣の検知が行われてから紙幣の真偽の識別が行われるまでの期間を示す。
【0061】
ここで、参照符号24s、26sは、それぞれ、磁気センサ24およびテラヘルツ光センサ26によりそれぞれ紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号24e、26eは、それぞれ、紙幣の金種および真偽の識別が終了する時刻を示す。
また、参照符号32sは、全てのセンサ21ac、21bc、24、26による識別の結果が揃った時点で、各センサ21bc、24、26の真正であろうと識別された紙幣の金種と方向の候補に対して、赤色光ラインセンサ21acの特定した金種と搬送方向が含まれているかどうかの識別が開始される時刻を示し、32eは、このような識別が終了する時刻を示す。
【0062】
ここで、図8に示すように、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が行われてから紙幣の金種の識別が行われるまでの期間21atは、他のセンサ21bc、22、24、26により紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間21bt、22t、24t、26tよりも長い。しかしながら、図8に示すように、紙幣の第1の種別(具体的には、金種)の識別動作と、紙幣の第2の種別(具体的には、真偽)の識別動作とが並行で行われるようになっているので、紙幣の金種および真偽の両方の識別を行うための演算処理時間を短くすることができる。
【0063】
以上のように、この実施形態の紙幣処理機1によれば、識別対象となる紙幣について各センサ21ac、21bc、24、26により検知を行い、紙幣の検知結果に基づいて、予め設定された1つの評価値算出式セット(第1評価値算出式〜第4評価値算出式が組み合わされたもの)により紙幣のそれぞれの評価値を算出し、紙幣のそれぞれの評価値に基づいて、紙幣の金種、真偽等のそれぞれに対応する複数の予め設定された閾値を用いて紙幣の金種、真偽等を識別するようになっている。このため、紙幣の金種等のそれぞれに対応する複数の評価値算出式の全てを用いて紙幣のそれぞれの評価値を算出する場合と比較して、使用される評価値算出式セットで一通り演算すればよいだけで複数金種分の評価値算出演算を行うことがないので、紙幣の金種や真偽等を識別するのに必要な演算処理は1回でよく、演算時間を短くすることができる。しかも、紙幣の金種や真偽等のそれぞれの対応する予め設定された複数の閾値を用いて紙幣を識別しているので、紙幣の金種等の違いにもかかわらず使用される閾値が1つのみとなっている場合と比較して、紙幣の金種や真偽等の識別の精度を高くすることができる。
【0064】
次に、この実施形態の紙幣識別装置220に設けられているテラヘルツ光センサ26について、詳細に説明をする。
図9は、テラヘルツ光センサ26、すなわち、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットの具体的な構成を表わすブロック図である。
テラヘルツ光センサ26には、第1レーザー261および第2レーザー262が備えられている。第1レーザー261から出力されるレーザー光は光ファイバ263およびファイバカプラ264を経由し、また、第2レーザー262から出力されるレーザー光は光ファイバ265およびファイバカプラ264を経由して、ファイバカプラ264で混合されたレーザー光は、光ファイバ266および267を介して第1送信子268および第2送信子269へ与えられる。また、バイアス電圧発生源270で発生されるバイアス電圧が、第1送信子268および第2送信子269へ与えられる。
【0065】
第1送信子268および第2送信子269では、それぞれ、第1レーザー261のレーザー光の周波数と第2レーザー262のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を照射位置に向けて放射する。照射位置には、紙幣Bが搬送されて来る前は、金属の基準板260が位置されている。よって、放射されたテラヘルツ光は基準板260で反射され、それぞれ、第1送信子268および第2送信子269に対で設けられた第1受信子271および第2受信子272で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ275および第2プリアンプ276へ与えられる。そして、各プリアンプ275、276において増幅された信号は、A/Dコンバータ277でデジタル信号に変換され、CPU278へ与えられ、基準受信量(基準反射光量)として記憶される。
【0066】
次いで、紙幣Bが搬送され、第1送信子268および第2送信子269は、それぞれ、第1レーザー261のレーザー光の周波数と第2レーザー262のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を紙幣Bの表面に向けて放射する。放射されたテラヘルツ光は紙幣Bで反射され、それぞれ、第1送信子268および第2送信子269に対で設けられた第1受信子271および第2受信子272で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ275および第2プリアンプ276へ与えられる。そして、各プリアンプ275、276において増幅された信号は、A/Dコンバータ277でデジタル信号に変換され、CPU278へ与えられる。
【0067】
このように、基準板260による基準受信量を求めておくことにより、反射比率を得ることができる。また、受信量を比較する場合には、基準板260による受信量を一定値とすればよい。
図9に示す構成において、第1送信子268および第1受信子271の対26a、第2送信子269および第2受信子272の対26bは、共に、ユニット化されているのが配置や取り扱いの上で好ましい。
【0068】
第1送信子268および第1受信子271の対26aと、第2送信子269および第2受信子272の対26bとは、同じ構成を有しているが、両者は、回転角を90°異ならせて設置されている。
このため、偏光方向を見ると、第1送信子268から放射され、紙幣Bで反射されて第1受信子271で受信されるテラヘルツ光は、P偏光のテラヘルツ光である。また、第2送信子269から放射され、紙幣Bで反射されて第2受信子272で受信されるテラヘルツ光は、S偏光のテラヘルツ光である。
【0069】
ここで、テラヘルツ光の周波数について説明しておく。第1レーザー261、第2レーザー262から出力される各レーザー光の波長をそれぞれλ1、λ2とすると、第1送信子268および第2送信子269から放射されるテラヘルツ光の周波数fは、
f=c・(λ2−λ1)/λ1・λ2
となる。ここに、cは光速である。
【0070】
ところで、テラヘルツ光センサ26によれば、証券類に施された次のような真偽識別用のセキュリティデバイスの検知が可能である。
(1)ホログラム
たとえばユーロ紙幣では、ホログラムとして、デメタライズ技術でアルミ箔等の金属箔を加工し、金属箔膜に微細孔を周期的に配置したドットアレイ構造が採用されている。その周期的構造が一般的な二次元金属フォトニック結晶と呼ばれているものに相当する。このフォトニック結晶構造は、テラヘルツ光に反応する特徴を有する。このため、ユーロ紙幣のホログラムの真偽は、テラヘルツ光センサ26により検知することができる。また、格子状のホログラムの場合も、テラヘルツ光センサ26により検知することができる。
(2)スレッド
一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッドは、フィルムとアルミを貼り合わせた糸状の物質であり、金属としての性質を持つ。従って、テラヘルツ光は、その金属面で100%近く反射する。また、テラヘルツ光は、紙・インクに対して透過性が良く、紙の内部に埋め込まれたスレッド(金属物)を検出できる。よって、テラヘルツ光センサ26により、証券類にセキュリティスレッドが使用されている場合、そのスレッドを検知できる。
(3)パールインク
証券類には、傾けると色が変化するインク(一般に、「パールインク」と称される)で印刷されているものが多い。インク成分は、二酸化チタンが使用されていることが多く、かかる成分のパールインクは、テラヘルツ光に対して、高い反射率を示す。よって、パールインクの検知を、テラヘルツ光センサ26により正確に行うことができる。
(4)OVI(オプティカル光学可変インク)
OVIとは、傾けると印刷されたインクの色が変化して見えるインクのことである。OVIは、アルミで作られた反射層を持っていることが多い。このため、テラヘルツ光センサ26によってOVIの有無を検知することができる。
【0071】
以上のように、テラヘルツ光センサ26によれば、紙幣や証券類に施されたホログラム、スレッド、パールインク、OVIといったセキュリティデバイスの検知が可能である。
次に、セキュリティデバイスを、具体的にどのように検出・判別するのかについて、ユーロ紙幣を実例にして説明をする。
(1)ユーロ紙幣のホログラムの判別について
前述したように、ユーロ紙幣には、セキュリティデバイス(真偽識別用素子)としてホログラムが採用されている。ホログラムは、金属薄膜に周期的に微細な孔があけられた二次元金属フォトニック結晶としての性質を有する。
【0072】
そこで、テラヘルツ光を用いたユーロ紙幣のホログラムの真偽判別は、次のようにして行うことができる。
まず、紙幣識別装置220におけるテラヘルツ光センサ26(図3参照)の対向面(紙幣の通路)に参照用金属板を配置した構成にする。そして、紙幣が到達していない場合に参照用金属板にテラヘルツ光を照射し、その反射強度を予め測定しておく。それを参照値Refとする。
【0073】
次に、搬送路を紙幣Bが通過するときには、たとえば1ミリピッチでテラヘルツ光の反射強度を測定する。測定値を信号Samとする。
そして、参照値Refと信号Samとから、
反射率=信号Sam/参照値Ref
を算出する。
【0074】
ユーロ紙幣のホログラムを横方向に走査して得られた上記の反射率を、図10に示す。図10では、0.73THzのテラヘルツ光を用いた。
また、模擬ホログラム(紙にアルミ箔を貼り付けただけの、周期的な微細孔を有さないもの)の反射率のデータを、図11に示す。図11でも、0.73THzのテラヘルツ光を用いた。
【0075】
図10および図11の対比から、微細孔がある場合は、二次元金属フォトニック結晶としての光学特性から、透過し易い周波数領域が存在することがわかる。言い換えれば、透過し易いことは、反射率が下がるということである。
従って、図10から、反射率の部分ピークaと部分ボトムbとの差cを、
c=a/bとして算出し、
c=1.5以上の場合はユーロ紙幣が真、c=1.2以下の場合はユーロ紙幣が偽、というように判定することができる。
【0076】
なお、この閾値は、一例を挙げただけであり、実際の検出結果に基づいて閾値は随時変更可能である。
以上の内容を整理すると、図12の図表として表わせる。
すなわち、図12を参照して、ユーロ紙幣のホログラムには、周期的な微細孔があいているため、その微細孔の領域において、テラヘルツ光は反射率が下がり、逆に透過率が上がるのである。
【0077】
テラヘルツ光は、金属に当たると金属内の自由電子に衝突し跳ね返される(反射する/透過しない/進入しない、とも言える。)。従って、周期的に配列された微細孔がない場合は、テラヘルツ光は、導電性の金属に対しては100%近く反射する。
一方、周期的に配列された二次元金属フォトニック結晶として扱われるホログラムに対しては、特定の計算式で示される遮断周波数および解析周波数の周波数特性を有し、透過する。
【0078】
それゆえ、異なる周波数特性を有するホログラムに対して、それぞれ、真券の場合の反射特性、透過特性を予め測定しておき、それから外れた特性が検出された場合は、偽造紙幣(ホログラム偽造)と識別することが可能である。
(2)ユーロ紙幣のスレッドの判別について
一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッド(糸状の線)は、図13(a)に示すように、フィルムに金属を蒸着させた糸状のものが紙に漉き込まれたものである。このため、紙を透かして見ると、紙の中に漉き込んである糸状金属が見える。偽造スレッドは、見た目が同じになるように細工したものが多いが、金属(糸状の金属)が使用されていないことが殆どである。
【0079】
それゆえ、テラヘルツ光を照射し、その反射率を測定することにより、スレッドの真偽を判別することができる。
図13(b)は、5ユーロ紙幣に設けられているセキュリティスレッドを示し、図13(c)は、そのセキュリティスレッドに0.75THzのテラヘルツ光を照射した場合の振幅反射率特性を示している。この特性によれば、セキュリティスレッドのピーク値は0.5以上である。
【0080】
つまり、5ユーロ紙幣のセキュリティスレッドの真偽を見る際には、反射率が0.5以上あれば「真」と判断できることがわかる。
なお、この閾値も、一例にすぎず、実際の紙幣や証券類のスレッドによって、任意の閾値が選ばれることになる。
(3)ユーロ紙幣のOVIの判別について
ユーロ紙幣には、OVI(光学可変インク)がセキュリティ用として使用されている。傾けると色が変化するインクであり、前述したように、アルミの反射層を持つ。従って、テラヘルツ光が照射されると、高い反射率を示す。
【0081】
一方、偽造OVIは、傾けると色だけが変化するような細工をしたものが殆どである。よって、OVIにアルミ片(金属)が使用されているかいないかは、テラヘルツ光を照射し、そのテラヘルツ反射光を測定して、反射率を検知すればわかるから、OVIの真偽判別が可能となる。
図14は、100ユーロ紙幣のOVIと1THzのテラヘルツ光の反射波形との関係を示す図である。
【0082】
図14における○で囲った1、2、3、4、5の部分が、OVIのインク部分である。
判断基準としては、OVIのインク部分から、たとえば90%以上の反射率が得られた場合に、OVIインクが使用されている(紙幣が真券)と判別することが可能である。
以上のように、テラヘルツ光センサ26により、紙幣や証券類に施されたセキュリティデバイスにテラヘルツ光を照射し、反射されるテラヘルツ反射光を検知して、その反射率や反射率の変化特性を測定することにより、証券類に施されたセキュリティデバイスの真偽判別、ひいては証券類の真偽判別が行える。
【0083】
次に、テラヘルツ光センサ26につき、その変形例をいくつか例を挙げて説明する。
図9において、テラヘルツ光センサ26の具体的な構成を説明した。図9に示すテラヘルツ光センサ26では、送信・受信対ユニット26aは、P偏光のテラヘルツ光の照射および受信を行い、送信・受信対ユニット26bは、S偏光のテラヘルツ光の照射および受信を行う構成を説明した。
【0084】
このように、複数組、たとえば2組のテラヘルツ光の送信・受信対ユニット26a、26bを設け、各送信・受信対ユニット26a、26bが、互いに異なる第1の偏光波としてのP偏光および第2の偏光波としてのS偏光のテラヘルツ光を照射し、その反射光を受信する構成とすることにより、セキュリティデバイスを異なる偏光のテラヘルツ光で検知することができ、セキュリティデバイスの向き等にかかわらず、セキュリティデバイスをより正しく検知することができる。
【0085】
特に、セキュリティデバイスがたとえば格子状のホログラム構造の場合には、格子状のホログラムをP偏光のテラヘルツ光で観察する場合と、S偏光のテラヘルツ光で観察する場合とでは、その反射率特性が変化するので、両偏光波の反射率特性に基づいて格子状のホログラム構造を正しく検出することができる。
しかし、テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26a、26bは、図9に示される構成に限られるわけではなく、複数の送信・受信対ユニット26a、26bを設けた場合において、各送信・受信対ユニット26a、26bが、互いに波長の異なる離散的なテラヘルツ光の照射および受信を行うものであってもよい。
【0086】
互いに波長の異なる離散的なテラヘルツ光の照射および受信が、送信・受信対ユニット26a、26bで行われる構成とした場合、波長の異なるテラヘルツ光の反射率同士を比較し、その比率に基づいてセキュリティデバイスの真偽判別を良好に行うことができる。
さらに、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットは、図9に示すように2組備えられた構成に限られるものではなく、1組であってもよいし、3組以上であっても構わない。
【0087】
さらに、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットは、図9に示すように、証券類Bのセキュリティデバイスで反射された反射光を受信する構成に限定されるものではなく、図15に示すように、送信子26aから所定波長のテラヘルツ光が送信され、そのテラヘルツ光が証券類Bのセキュリティデバイスを透過した透過光が受信子26bで受信される構成としてもよい。
【0088】
前述したように、証券類Bのセキュリティデバイスには、所定の波長のテラヘルツ光に対して、特定の反射率を示す。セキュリティデバイスが特定の反射率を示すということは、換言すれば、セキュリティデバイスは、所定波長のテラヘルツ光に対して特定の透過率を有するということである。
それゆえ、受信子26bによりセキュリティデバイスを透過する所定波長のテラヘルツ光を受信する構成にし、受信したテラヘルツ光の受信率により、セキュリティデバイスの真偽判別を行う構成としてもよい。
【0089】
また、図16に示すように、証券類Bを搬送するための搬送路100の上流側に、証券類Bの種類検出センサ101を設け、搬送路100を搬送される証券類Bの種類がまず種類検出センサ101で検出される構成とする。種類検出センサ101で証券類Bの種類が検出された場合、種類データテーブル102に記憶された証券類の種類に基づき、証券類Bのどの位置にセキュリティデバイスが設けられているかを把握することができる。そして搬送路100の下流側に備えられたテラヘルツ光センサ103が、証券類Bに施されたセキュリティデバイスに対向する位置になるように、搬送路100の搬送方向に交叉方向にテラヘルツ光センサ103が変位される。この変位はたとえば移動ユニット104により行われる。その結果、テラヘルツ光センサ103により証券類Bに施されたセキュリティデバイスに対し、確実にテラヘルツ光が照射され、その反射光または透過光が検知される。
【0090】
かかる構成は、テラヘルツ光センサ103が、送信・受信対ユニットとして小型化され、テラヘルツ光の照射範囲が限られている場合であっても、テラヘルツ光の照射範囲を証券類Bにおけるセキュリティデバイスに確実に対応付けることができるという利点がある。
この発明は、以上説明した実施形態に係る紙幣識別装置に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0091】
たとえば、紙幣識別装置220では、赤色光ラインセンサ21ac、赤外光ラインセンサ21bc、厚み検知センサ22、磁気センサ24等が併設されたものを説明したが、テラヘルツ光センサ26のみにより、紙幣その他の証券類のセキュリティデバイスの真偽を判別する構成の装置としてもよい。
あるいは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の種別を検知するとともに、テラヘルツ光センサ26により紙幣の真偽を識別するという、2種類のセンサだけを有する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 紙幣処理機
220 紙幣識別装置
202 上部搬送機構
21 ラインセンサ
26、103 テラヘルツ光センサ
26a、26b テラヘルツ光の送信・受信対ユニット(テラヘルツ 光センサ)
268 第1送信子
269 第2送信子
271 第1受信子
272 第2受信子
B 紙幣または証券類
【技術分野】
【0001】
この発明は、紙幣の金種、真偽、正損等や、商品券、クーポン券その他の有価証券の真偽、正損等の、証券類の種別や真偽等を識別するための証券類識別装置および証券類識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
証券類には、真偽識別用のセキュリティとして、電磁波に対して特有の特性を示すデバイスが用いられているものがある。
たとえば、特許文献1には、特有の特性を示すセキュリティマークが提案されている。
また、特許文献2には、セキュリティデバイスとしての特殊インキが提案されている。具体的には、フィルム形成バインダーと電気伝導性マイクロ−ワイヤーを含む印刷インキが開示されている。この印刷インキを機密保全文書にマーキングとして印刷することにより、マーキングが、当該印刷インキに含まれるマイクロ−ワイヤーの長さに対応する周波数を有する電磁放射光に曝されたときに、増幅された共鳴アンテナ信号を発生するという構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2008/110775A1公報
【特許文献2】特表2003−515622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたセキュリティマークは、特有の特性を示すデバイスであるが、そのデバイスの検出にはマイクロ波が用いられている。よって、当該デバイスの真偽判別のための検出装置は、大型で、その取り扱いも難しいという課題がある。それゆえ、セキュリティデバイスの検出および真偽判別を迅速にかつ正しく行える装置の開発が望まれる。
【0005】
また、特許文献2に記載の印刷インキに関しても、その印刷インキをセキュリティデバイス(たとえば印刷されたセキュリティマーク)として用いた場合に、当該セキュリティデバイスを正しく識別するための装置や方法が望まれるところである。
この発明は、上記従来技術として提案されているセキュリティデバイスを検出し、セキュリティデバイスが設けられた証券類等の真偽等の判別を正確に行うことのできる識別装置および識別方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、証券類の真偽を判別するための装置であって、真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、前記証券類を搬送するための搬送路と、前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、を含むことを特徴とする証券類識別装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、第1の送信・受信対ユニットは、離散的な第1の周波数のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、第2の送信・受信対ユニットは、離散的な第2の波長のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の波長のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、第1の送信・受信対ユニットは、第1の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、第2の送信・受信対ユニットは、第2の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の偏光波のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の偏光波のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、証券類の真偽を判別するための装置であって、真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、前記証券類を搬送するための搬送路と、前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、を含むことを特徴とする、証券類識別装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、前記証券類のセキュリティデバイスの位置を判別する位置判別手段と、前記位置判別手段で判別された位置にテラヘルツ光が照射されるように、前記搬送路を搬送される前記証券類と前記送信・受信対ユニットとの相対的な位置関係を調整する位置関係調整手段と、をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の証券類識別装置である。
【0011】
請求項6記載の発明は、所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、証券類の前記セキュリティデバイスに対して、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスで反射されるテラヘルツ反射光を受信し、受信されたテラヘルツ反射光の光量が所定範囲内にあるか否かに基づき、当該証券類の真偽判定を行うことを特徴とする、証券類の真偽判別方法である。
【0012】
請求項7記載の発明は、所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の離散的な波長のテラヘルツ光を照射し、テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の波長のテラヘルツ光の反射率とを検出することを含み、前記判定ステップは、検出したそれらテラヘルツ光の反射率の比率によって前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法である。
【0013】
請求項8記載の発明は、所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の偏光波のテラヘルツ光を照射することを含み、テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の偏光波のテラヘルツ反射光を受信すること、および、第2の偏光波のテラヘルツ反射光を受信することを含み、前記判定ステップは、第1の偏光波のテラヘルツ光の受信率と第2の偏光波のテラヘルツ光の受信率との比率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法である。
【0014】
請求項9記載の発明は、所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過した後の透過光を受信し、前記テラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過する透過率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判別し、その判別結果に基づいて証券類の真偽を判別することを特徴とする、証券類の真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、6記載の発明によれば、証券類に設けられたセキュリティデバイスに所定周波数のテラヘルツ光を照射し、その反射光の反射光量または反射率に基づいて証券類に施されたセキュリティデバイスの真偽を判別することができる。
その結果、セキュリティデバイスが真か偽かにより、証券類自体の真偽判別を行うことができる。
【0016】
なお、証券類自体の真偽判別は、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットにより検出される反射テラヘルツ光の光量または反射率に基づくセキュリティデバイスの真偽のみにより行うこともできるが、セキュリティデバイスの真偽判別に加え、証券類を検出する他のセンサとの論理積等を求めることによって、より正確に証券類の真偽判別を行うことも可能である。
【0017】
請求項2、7記載の発明によれば、検出に用いられるテラヘルツ光は、互いに周波数の異なる離散的な第1波長および第2波長のテラヘルツ光が用いられるので、2種類のテラヘルツ光の反射率を対比することにより、より正しくセキュリティデバイスの真偽を判別することが可能である。
請求項3、8記載の発明によれば、証券類のセキュリティデバイスに照射されるテラヘルツ光は、第1の偏光波および第2の偏光波に分けられて照射される。このため、偏光の異なるテラヘルツ光によりセキュリティデバイスの向き等が変化しても、セキュリティデバイスを正しく検知することができ、セキュリティデバイスの真偽判別が正確に行える。
【0018】
さらに、請求項4、9記載の発明のように、証券類のセキュリティデバイスにテラヘルツ光を照射し、セキュリティデバイスで反射される反射光ではなく、セキュリティデバイスを透過した透過光を受信する構成としてもよい。セキュリティデバイスは、テラヘルツ光に対して所定の反射率特性を有するが、それは言い換えるとテラヘルツ光に対して所定の透過率特性を有するということである。このため、セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信し、受信した透過テラヘルツ光を予め定める閾値等と対比することにより、セキュリティデバイスの真偽を判別することが可能である。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、証券類に施されたセキュリティデバイスの位置に対して、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットが適切に対向されるので、セキュリティデバイスに対してテラヘルツ光を照射でき、セキュリティデバイスをテラヘルツ光を用いて正しく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、この発明の一実施例に係る紙幣処理機1の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す紙幣処理機の内部構成を示す概略断面構成図である。
【図3】図3(a)(b)は、図2に示す紙幣処理機1における紙幣識別装置220のセンサ構成の詳細を示す図であり、(a)は紙幣識別装置のセンサ側面構成図、(b)は紙幣識別装置220のセンサ構成平面図である。
【図4】図4は、図3(a)(b)に示す紙幣識別装置220の各構成要素を示すブロック図である。
【図5】図5(A)(B)は、赤色光画像データを用いて金種の識別を行う場合における画素を示し(A)、また、4画素集めてブロック化を行った状態(B)を示す図である。
【図6】図6は、赤色光ラインセンサ21acによる紙幣の金種の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。
【図7】図7は、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の真偽の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。
【図8】図8は、紙幣識別装置220における複数のセンサの検出タイミングチャートを表わす図である。
【図9】図9は、テラヘルツ光センサ26、すなわち、テラヘルツの送信・受信対ユニットの具体的な構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、ユーロ紙幣のホログラムを横方向に走査して得られた反射率を示すグラフである。
【図11】図11は、模擬ホログラム(紙にアルミ箔を貼り付けただけのもので、周期的な微細孔を有さないもの)の反射率のデータの一例を示すグラフである。
【図12】図12は、ユーロ紙幣のホログラムにおけるテラヘルツ光の反射率および透過率と、模擬ホログラムの場合の反射率と透過率との対比を整理して表わす図である。
【図13】図13(a)は一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッド(糸状の線)の模式図であり、図13(b)は5ユーロ紙幣に設けられているセキュリティスレッドを示す図であり、図13(c)はそのセキュリティスレッドに0.75THzのテラヘルツ光を照射した場合の振幅反射率特性を示す図である。
【図14】図14は、100ユーロ紙幣のOVIと1THzのテラヘルツ光の反射波形との関係を示す図である。
【図15】図15は、テラヘルツ光センサ(テラヘルツ光の送信・受信対ユニット)の変形例を示す図であり、テラヘルツ光が証券類Bを透過する構成のテラヘルツ光センサの図解図である。
【図16】図16は、テラヘルツ光センサ103を証券類Bの種類に応じて、証券類Bのセキュリティデバイスに対向させるように移動させる構成を説明するための図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。以下に示す実施形態は、識別対象である証券類が紙幣である場合、すなわち紙幣識別装置を備えた紙幣処理機を例にとって説明する。
なお、かかる実施形態は、この発明の範囲を実施形態に限定する意図ではない。
まず、図1および図2により、この発明に係る紙幣識別装置を備えた紙幣処理機の全体構成について説明する。
【0022】
図1は、一実施例に係る紙幣処理機1の外観を示す斜視図である。図1に示すように、紙幣処理機1は、略直方体形状の筐体92、ホッパー11、第1の集積部(第1のスタッカー)3、第2の集積部(第2のスタッカー)4およびリジェクト部50を備えている。
また、図2は、図1に示す紙幣処理機1の内部構成を示す概略断面構成図であり、主に搬送系とセンサ系を示している。図2に示すように、紙幣処理機1の筐体92内には、搬送部201が設けられており、この搬送部201により、筐体92内で紙幣が1枚ずつ順次搬送されるようになっている。
【0023】
以下、このような構成からなる紙幣処理機1の各構成要素の詳細について説明する。
ホッパー11は、オペレータによって複数の紙幣が積層状態で載置される部位である。紙幣繰出装置10によってこのホッパー11に収容された紙幣が1枚ずつ紙幣処理機1の筐体92の内部に繰り入れられるようになっている。
紙幣繰出装置10は、紙幣の繰り出しを行うフィードローラー12、フィードローラー12に対向するように設けられ当該フィードローラー12との間にゲート部を形成するゲートローラー(逆転ローラー)14、およびホッパー11に収容された紙幣をフィードローラー12に蹴り出すキッカローラー16、18を有している。なお、図2においてはキッカローラー16、18が前後に2つ設けられた例について図示しているが、このような例に限定されることはなく、キッカローラーが1つ(たとえばキッカローラー16のみ)が設けられた構成となっていてもよい。紙幣繰出部10により筐体92内に取り込まれた紙幣は、搬送部201により搬送される。
【0024】
搬送部201は、略水平方向に延びる上部搬送機構202と、上部搬送機構202よりも下方において略水平方向に延びる下部搬送機構203と、上部搬送機構202および下部搬送機構203の間に設けられた中間搬送機構204とを有している。図2に示すように、各搬送機構202、203、204からなる搬送部201は、正面視が略U字形状となっている。ここで、紙幣繰出装置10により筐体92の内部に取り込まれた紙幣は、上部搬送機構202、中間搬送機構204、下部搬送機構203の順に1枚ずつ搬送されるようになっている。上部搬送機構202、中間搬送機構204および下部搬送機構203は、それぞれ、ベルト搬送機構が組み合わされたものからなる。ベルト搬送機構は、一対または3以上のローラーおよび各ローラーに張架された例えばゴムベルトから構成されていてもよい。
【0025】
図2に示すように、搬送部201の上部搬送機構202には、紙幣の金種、真偽、正損あるいは新旧等の紙幣を識別するための紙幣識別装置220が設けられている。この紙幣識別装置220の構成の詳細については後述する。
図2に示すように、下部搬送機構203のさらに下方には、2つの集積部3、4が並列に配設されている。各集積部3、4は、筐体92内に取り込まれた紙幣のうち、紙幣識別装置220により正常であると判定された紙幣を、たとえば金種別に積層状態で収納するようになっている。
【0026】
より具体的には、下部搬送機構203には、2つの分岐爪60、62が直列に配設されている。下部搬送機構203において、搬送される紙幣のうちの所定の紙幣は、下部搬送機構203から分岐させてそれぞれ集積用羽根車3a、4aに送られる。集積用羽根車3a、4aは、それぞれ、第1の集積部3、第2の集積部4に接続されている。分岐爪60、62により、下部搬送機構203から分岐させられた紙幣は、それぞれ、集積用羽根車3a、4aを経て、第1の集積部3または第2の集積部4に送られるようになっている。
【0027】
図1に示すように、各集積部3、4に集積された紙幣は、オペレータにより紙幣処理機1の正面側から自在に取り出し可能となっている。
下部搬送機構203の下流側端部には、リジェクト部50への紙幣の集積を行う放出ローラー54および放出ローラー54に対向するように設けられた対向ローラー56が設けられている。下部搬送機構203の下流側端部に送られた紙幣は、この放出ローラー54と対向ローラー56の間から放出される。そして、この放出させられた紙幣は、放出ローラー54に摺接された回転式の札叩きゴム55によりリジェクト部50に集積されるようになっている。このような回転式の札叩きゴム55によって、放出ローラー54と対向ローラー56との間から放出させられた紙幣の後端縁が叩かれることにより、リジェクト部50においてリジェクト紙幣を集積し易くなる。
【0028】
図1および図2に示すように、リジェクト部50にはストッパ52が設けられている。このストッパ52により、放出ローラー54と対向ローラー56との間から放出された紙幣がリジェクト部50からはみ出して、筐体92外へ放出されるのが防止される。ストッパ52は、図2において、時計回りに手動で回動させることができるようになっている。オペレータは、手動でストッパ52を、図2において時計回りに回動させることにより、リジェクト部50に収容された紙幣を自在に取り出すことができる構成である。
【0029】
図1に示すように、紙幣処理機1の筐体92には、操作部103および表示部105が設けられている。操作部103は、オペレータからの指示を受けるための入力キーを有している。表示部105は、たとえばLCDディスプレイからなり、各集積部3、4における紙幣の集積情報をそれぞれ表示するようになっている。具体的には、表示部105は、各集積部3、4における、収容されるべき紙幣の金種、真偽、正損(正券であるか損券であるか)、新旧、収容された紙幣の枚数、および収容された紙幣の合計金額のうちの少なくとも1つの情報を表示するようになっている。
【0030】
次に、紙幣処理機1のセンサ系について説明する。図2に示すように、紙幣繰出装置10には、ホッパー11に紙幣が集積されているか否かを検知するセンサ71が設けられている。また、搬送部201における上部搬送機構202の入口部分にはセンサ72が設けられている。このセンサ72は、紙幣が筐体92内に取り込まれたことを検知する。
センサ73、74、75は、それぞれ、搬送部201における下部搬送機構203に順番に配置されている。各センサ73、74、75の間に分岐爪60、62が位置している。センサ73は、分岐爪60の上流側に設置されており、下部搬送機構203において搬送される全ての紙幣を検知する。一方、センサ74は、分岐爪60の下流側であって、分岐爪62よりも上流側に設置されている。このセンサ74は、下部搬送機構203を搬送される紙幣のうち、分岐爪60により第1の集積部3へ分岐させられなかった紙幣を検知する。さらに、センサ75は、分岐爪62の下流側に設置されている。このセンサ75は、下部搬送機構203を搬送される紙幣のうち、分岐爪62により第2の集積部4へ分岐させられなかった紙幣、すなわち集積部3および集積部4へ集積されなかった紙幣を検知する。
【0031】
センサ76、77は、それぞれ、分岐ライン3a、4aに設けられており、下部搬送機構203から分岐させられて各分岐ライン3a、4aに送られた紙幣を検知する。
第1の集積部3、第2の集積部4の中段部分には、それぞれ、センサ78、79が設けられている。各センサ78、79は、各集積部3、4において紙幣が立位状態となる等、紙幣が各集積部3、4において異常状態で集積されたときに、このことを検出する。さらに、第1の集積部3、第2の集積部4の下段部分には、それぞれ、センサ80、81が設けられている。各センサ80、81は、各集積部3、4に紙幣が収容されているいか否かを検知する。また、リジェクト部50にも、センサ82が設けられている。このセンサ82は、リジェクト部50に紙幣が収容されているか否かを検知する。
【0032】
次に、紙幣識別装置220の構成について、図3(a)(b)を参照して説明する。図3(a)(b)は、図2に示す紙幣処理機1における紙幣識別装置220のセンサ構成の詳細を示す図である。図3(a)は、紙幣識別装置220のセンサ構成側面図であり、図3(b)は、紙幣識別装置220のセンサ構成平面図である。
図3(a)(b)において、紙幣は参照符号Bで表わされている。
【0033】
紙幣識別装置220には、紙幣の搬送方向に見て、最も上流側にタイミングセンサ20が設けられているとともに、最も下流側にタイミングセンサ28が設けられている。
タイミングセンサ20は、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側にそれぞれ設けられたタイミングセンサ20a、20bを含んでいる。これらタイミングセンサ20a、20bは、紙幣Bが、紙幣識別装置220に到来したことを検知するようになっている。
【0034】
また、タイミングセンサ28も、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側に設けられたタイミングセンサ28a、28bを含んでいる。これらタイミングセンサ28a、28bは、紙幣Bが、紙幣識別装置220から送出されることを検知するようになっている。
紙幣識別装置220には、タイミングセンサ20およびタイミングセンサ28の間に、ラインセンサ21、厚み検知センサ22、磁気センサ24およびテラヘルツ光の送信・受信対ユニット26が、搬送方向上流側から順に設けられている。
【0035】
ラインセンサ21は、可視光である赤色光の光源21a、およびこの光源21aからの赤色光が紙幣Bに当たることにより反射される反射光を受光するイメージセンサ21cを有する反射型の赤色光ラインセンサ21acと、赤外光の光源21b、およびこの光源21bからの赤外光が紙幣Bを透過することによる透過光を受光するイメージセンサ21cを有する透過型の赤外光ラインセンサ21bcとが組み合わされていて、光源を時分割して発光させてイメージセンサ21cを共通に使えるようにしたラインセンサである。
【0036】
なお、光源21aから発せられる可視光としては、赤色に限られず、青色、緑色など、紙幣に印刷されたインクの色に応じて、適宜選択可能にしてもよい。
厚み検知センサ22は、搬送される紙幣Bを上下から挟むように配置されたローラーを含んでいる。搬送される紙幣Bがこのローラー間を通る際に、紙幣の厚みに応じてたとえば上方のローラーが変位するので、その変位量を検知する構成である。紙幣Bにテープ等の異物が貼着されている場合等には、厚み検知センサ22により紙幣Bの厚み異常が検知される。
【0037】
磁気センサ24は、紙幣Bに印刷されたインクに磁気インクが用いられている場合に、その磁気インクの磁気量を検知するためのセンサである。
テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、たとえば、紙幣の搬送方向に直交する幅方向の右側および左側にそれぞれ設けられた送信・受信対ユニット26a、26bを含んでいる。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26(26a、26b)は、このように、複数設けられ、紙幣の搬送方向に対して交叉方向に配置されてもよいし、搬送方向に沿って配置されてもよい。また、単独であってもよい。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、後述するように、所定波長のテラヘルツ光を送信子から送信する。そして、紙幣Bにより反射されたテラヘルツ光を受信子で受信する構成を有するセンサである。テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26は、さらに、搬送路に対向する位置と、退避位置とに変位可能に設けられた基準板260を含んでいる。そして、紙幣Bを通す前に基準板260を搬送路に対向させ、基準板260で反射されたテラヘルツ光の反射量を測定し、次に、紙幣Bにより反射されたテラヘルツ光の反射量を測定する。
【0038】
なお、以下、送信・受信対ユニット26のことを、テラヘルツ光センサ26とも称する。テラヘルツ光センサ26(26a、26b)の具体的な構成や機能については後述するが、テラヘルツ光センサ26(26a、26b)は、主として、紙幣に設けられたホログラムや偽造防止用の透かし紋様等のセキュリティデバイスの真偽を検知するために用いられる。
【0039】
また、図3(a)(b)では、テラヘルツ光センサ26(26a、26b)は、搬送される紙幣Bに対して上面側に設けられているが、これに限らず、テラヘルツ光センサ26は下面側に配置され、上面側に基準板260が配置されていてもよい。
図4は、図3(a)(b)に示す紙幣識別装置220の各構成要素を示すブロック図である。図4に示すように、各センサ21ac、21bc、24、26(26a、26b)は、評価値算出部30に接続されている。各センサ21ac、21bc、24、26(26a、26b)の検出出力は、当該評価値算出部30へ送られるようになっている。評価値算出部30は、各センサから与えられる検出信号を分析、評価し、各センサからの信号に基づいて、紙幣の評価値を算出する。
【0040】
なお、図4では、説明の便宜上、タイミングセンサ20(20a、20b)、28(28a、28b)および厚み検知センサ22に関しては、図示も説明も省略されている。
たとえば、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣が検知されると、この検知結果は評価値算出部30に送られ、この検知結果から、予め設定された特定の第1評価値算出式によって赤色光ラインセンサ21acにかかる評価値が算出される。また、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の検知結果から、予め設定された特定の第2評価値算出式によって赤外光ラインセンサ21bcにかかる評価値が算出される。
【0041】
同様に、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26による紙幣の検知結果から、それぞれ予め設定された特定の第3、第4評価値算出式によって、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26にかかる評価値が算出される。
このようにして、評価値算出部30において、各センサ21ac、21bc、24、26により検知された検知結果に基づいて、それぞれ評価値が算出される。
【0042】
また、図4に示すように、評価値算出部30には識別部32が接続されている。評価値算出部30により算出された各評価値は、識別部32に送られる。識別部32は、評価値算出部30により算出された各評価値に基づいて、紙幣の金種や紙幣の真偽等を識別する。
次に、紙幣識別装置220における評価値の算出方法について詳述する。
【0043】
紙幣識別装置220に紙幣Bが搬送されてくると、まず、タイミングセンサ20(20a、20b)により紙幣Bの到来が検知される。
ラインセンサ21は、図3(b)に示すように、紙幣の通路の下側において、赤色光LEDアレイ21aを受光用のイメージセンサ21cの前後に備えており、搬送される紙幣Bに対して赤色光を照射するようになっている。また、紙幣の通路の上側において、赤外光を発する赤外光LEDアレイ21bが、イメージセンサ21cに対向させて、紙幣の搬送通路を挟んで配設されている。
【0044】
より具体的には、イメージセンサ21cは、受光素子が0.25mmピッチに並べられており、紙幣Bの搬送に同期したパルスを生成するメカクロック(図示せず)を用いて紙幣Bの搬送の1.5mmピッチでイメージセンサ21cの読み出しを行う。ここで、2種類の光源の発光およびその光の読み出しは時分割して行う。識別対象となる紙幣Bが、たとえば米ドル紙幣である場合には、米ドル紙幣は幅156mm、長さ66mmの大きさであるから、理論的には横方向に624画素、縦方向には44ライン分の読み出しがあり、27,456個の画素データが1光源に対して読み出される。実際には、紙幣の通路の幅方向における通過位置(寄せ位置)、紙幣の搬送遅れ、紙幣の斜行等を考慮して、より大きな領域の走査が行われる。
【0045】
紙幣Bがラインセンサ21上を搬送されていくとき、当該紙幣Bは少なからず斜行状態で搬送され、また通路幅が紙幣Bの長手長よりも広いので、横方向に通過位置が個々に変わる。このため、紙幣Bの外形状により、その紙幣Bの斜行角度および紙幣部分の中央座標を求めて、斜行がないとともに寄せ位置が基準点にある画像に補正を行う。
この補正方法については、特開2001−101473号に開示されている。特開2001−101473号について言及することにより、その内容はこの明細書に含まれるものとする。具体的には、紙幣の赤色光源の画像を赤色光センサ21acで読み取り、紙幣の外縁の上側に基づく中心座標の算出および斜行角抽出処理を行う。そして、その結果を用いて、メモリに取り込まれた赤色画像データおよび赤外画像データの回転・移動処理を行うことにより、以後の処理において寄せ位置と斜行角を考慮する必要がなくなる。
【0046】
次に、赤色光画像データを用いて金種の識別を行う。図5(A)(B)に示すように、画素を所定の数だけ集めてブロックを形成する。図5(A)は画素を示し、図5(B)は4画素を集めてブロック化を行った状態を示している。ブロックを示すにあたり、Aijという符号を用いている。ここで、iという文字は横方向の座標を示しており、jという文字は縦方向の座標を示している。このブロックAijのブロック値、すなわち4画素の合計値をBijとして表わす。このブロック化の方法は経験的に決まるようになっている。
【0047】
識別対象となる紙幣として、たとえば米ドル紙幣を用いた場合には、紙幣の表面にあっては、人物画像の位置、人物画像の描かれている部分の縁の位置、人物の上着の位置、および文字の位置を考慮して、また、紙幣の裏面にあっては、建物のある部分、空のある部分、インクのない白地部分等の位置を考慮して、紙幣の金種と搬送方向を分類するために使用するブロックを求め、算出式と、分類のための閾値を予め用意しておく。
【0048】
そして、たとえば、上限値1>B11+B34>下限値1という評価式を複数作成する。なお、B11+B34は評価値算出式であり、上限値1、下限値1は閾値である。ここでは評価式として加算式を例に挙げたが、評価式としては加算および減算を混在させた式であってもよく、加減乗除のうち少なくとも1つを含む式であってもよい。また、評価式において微分値をとるようにしてもよい。また、加算するブロック値は2個に限定されることはなく、複数個用いてもよく、これらを混合させたものであってもよい。実際には、分類すべき金種、搬送方向に対してより分類効果の高いブロックが選ばれることとなる。また、評価式を複数用いる理由は、1つの評価式では特定の金種間が分類できるが、別の特定の金種間が分類できない、つまり、評価値が同じになる場合が存在しているので、これを補って精度良く金種を分類するためである。
【0049】
評価式の作成方法は、上限値1>B11+B34>下限値1、上限値2>B13+B45>期限値2、…といずれのブロック値に注目するかを全ての組み合わせを考慮して金種と搬送方向が分類できるものを探し、これについて、金種と方向毎の上限値と下限値とを決定する。
これらの評価式は一般に複数個必要である。これらのブロック値の加算等の評価値の算出は、紙幣1枚に対して一通り行えば、後は、上限値と下限値の閾値内にその加算値が入っているかどうかを調べればよい。赤色光ラインセンサ21acが走査した紙幣のブロック値を元に評価値が求まるので、この比較判断処理は短時間で行うことができる。図6は、赤色光ラインセンサ21acによる紙幣の金種の識別にかかる閾値テーブルを示す。
【0050】
次に、赤外線ラインセンサ21bcにより読み取られる赤外光の画像データを用いた真偽判定について説明する。赤色光と同様に、紙幣の画像の斜行角と中心座標が求まることから、これを用いて赤外光の画像データについても斜行角と寄せ位置に依存しないような基本位置に画像データを回転・移動処理する。評価値算出式、評価値も赤色光の画像データによる金種の識別と同様のタイプのものが使用される。赤外光は、紙幣に印刷されているインクの分光吸収特性が可視光とは異なる特性を示すため、赤外光は紙幣の真偽の判定を行うのに適している。
【0051】
図7は、赤外光ラインセンサ21bcによる紙幣の真偽の識別にかかる閾値テーブルを示す図である。上限値と下限値が、紙幣の金種、搬送方向毎に、閾値テーブルにおいて用意されている。
厚み検知センサ22の検知出力に対しては、識別対象である紙幣の種類毎の厚みデータが予め記憶されており、検出された紙幣の厚みが、記憶された厚みデータのそれぞれと比較されることにより、紙幣の真偽や紙幣に異物が貼着されているか否か等の評価が行われる。
【0052】
磁気センサ24は、前述したように紙幣に印刷されたインク中の磁気量を検出するためのセンサである。磁気センサ24は、たとえばメカクロックに同期して、たとえば0.25mmピッチというような一定間隔毎に、磁気信号の読み出しを行う。
この明細書では、発明の特徴と直接関係しないため、これら厚み検知センサ22および磁気センサ24による判定方向の詳細に関する説明は省略する。
【0053】
さらに、紙幣識別装置220には、テラヘルツ光センサ26が備えられている。テラヘルツ光センサ26の具体的な構成およびセンシング動作については、明細書記載の便宜上、後にまとめて説明をすることにする。ここでは、テラヘルツ光センサ26により検出される内容について簡単に触れると、次の通りである。
紙幣が、たとえばユーロ紙幣の場合には、ユーロ紙幣に施されているホログラムを検出し、その真偽を判別することができる。また、紙幣にセキュリティスレッドが施されている場合には、そのスレッドを検出して、真偽の判別を行うことができる。さらに、紙幣にパールインクで印刷が施されている場合には、パールインクを検出して、その結果に基づいて紙幣の真偽の判別を行うことができる。さらに、紙幣にOVI(オプティカル光学可変インク)による印刷が施されている場合には、かかるインクによる印刷の有無を検出して、紙幣の真偽の判別を行うことができる。
【0054】
テラヘルツ光センサ26を用いると、このような紙幣のホログラム、スレッド、パールインクによる印刷、またはOVIによる印刷等の検出を行うことができ、紙幣の真偽の判別が行える。紙幣におけるホログラム配置領域等は、金種、方向の情報により予めわかっているから、たとえば、赤色光ラインセンサ21acの出力に基づき、紙幣に施されているホログラムの位置等を抽出し、その位置をテラヘルツ光センサ26で検出する構成とすることが望ましい。
【0055】
次に、このような構成からなる紙幣処理機1の動作について説明する。
まず、紙幣の束がホッパー11に収容され、このホッパー11に収容された紙幣は紙幣繰出装置10により紙幣処理機1の内部に取り込まれる。そして、紙幣処理機1の内部に取り込まれた紙幣は搬送部201により搬送され、紙幣識別装置220に送られる。
紙幣識別装置220において、図3に示すように、赤色光ラインセンサ21ac、赤外光ラインセンサ21bc、厚み検知センサ22、磁気センサ24およびテラヘルツ光センサ26により、それぞれ、紙幣の検知が行われる。
【0056】
より具体的には、図8に示すようなタイミングチャートに基づいて処理が行われる。
まず、赤色光ラインセンサ21acからは紙幣の金種と搬送方向の識別結果が出力される。また、赤外光ラインセンサ21bcからは、真正な紙幣の金種と搬送方向の候補の上方が出力される。さらに、厚み検知センサ22からは、紙幣の厚みに関するデータが出力される。また、磁気センサ24からは、磁気インクのデータに基づき、真正な紙幣の金種の候補の情報が出力される。さらに、テラヘルツ光センサ26からは、紙幣のホログラム、スレッドその他のセキュリティデバイスに関する出力が得られる。
【0057】
紙幣の金種、搬送方向および真偽の総合的な識別は、全てのセンサ21ac、21bc、22、24、26による識別の結果が揃った時点で、たとえば各センサ21bc、24、26の真正であろうと識別された紙幣の金種と方向の候補に対して、赤色光ラインセンサ21acの特定した金種と搬送方向が含まれているかどうかにより、赤色光ラインセンサ21acにより決められた紙幣の金種の真偽が識別される。仮に、赤色光ラインセンサ21acの出力に基づく判定が10ドル紙幣のA方向であるときにおいて、赤外光ラインセンサ21bc、磁気センサ24、テラヘルツ光センサ26の出力の全てに真正となる金種、搬送方向に10ドル紙幣のA方向があれば、識別結果は10ドル紙幣のA方向の真券として出力される。逆に、いずれかのセンサ21bc、24、26の出力に該当金種、搬送方向がなければ、識別結果は10ドル紙幣のA方向の偽券と判断される。
【0058】
最終的な金種、真偽の識別としては、各センサ21ac、21bc、24、26から得られた検出信号に基づく識別結果の論理積演算を行い、赤色光ラインセンサ21acから得られた紙幣の金種と搬送方向に対して真正であると全ての各センサ21bc、24、26が判断しているならば、真正な金種を最終識別結果とできるが、どれかの真偽識別用のセンサ21bc、24、26が赤色光ラインセンサ21acの金種に真のフラグを立てていなければ、赤色光ラインセンサ21acが示した金種の偽券として最終の識別結果をたとえば表示部105や上位装置に出力する。なお、この説明では、厚み検出センサ22の出力については省略されているが、このセンサ22の出力を、識別に加えても構わない。
【0059】
ここで、識別対象となる紙幣について、各センサ21ac、21bc、24、26により紙幣の検知が行われてから、紙幣の金種や真偽について識別が行われるまでの動作について、図8のタイミングチャートを用いてさらに詳細に説明する。
図8は、図3に示す紙幣識別装置220において、各センサ21ac、21bc、24、26により紙幣の検知が行われてから、紙幣の検知結果に基づいて評価値が算出されてこの評価値から紙幣の最終的な識別が行われるまでの期間を、センサ21ac、21bc、24、26毎に時系列で示す説明図である。
【0060】
図8において、参照符号21atは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が行われてから、赤色光による紙幣の金種の識別が行われるまでの期間を示す。このうち、参照符号21asは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号21aeは、紙幣の金種の識別が終了する時刻を示す。同様に、参照符号21btは、赤外光ラインセンサ21bcにより紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間を示す。このうち、参照符号21bsは、赤外光ラインセンサ21bcにより紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号21beは、紙幣の金種および真偽の識別が終了する時刻を示す。また、参照符号24tは、磁気センサ24により紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間を示し、参照符号26tは、テラヘルツ光センサ26により紙幣の検知が行われてから紙幣の真偽の識別が行われるまでの期間を示す。
【0061】
ここで、参照符号24s、26sは、それぞれ、磁気センサ24およびテラヘルツ光センサ26によりそれぞれ紙幣の検知が開始される時刻を示し、参照符号24e、26eは、それぞれ、紙幣の金種および真偽の識別が終了する時刻を示す。
また、参照符号32sは、全てのセンサ21ac、21bc、24、26による識別の結果が揃った時点で、各センサ21bc、24、26の真正であろうと識別された紙幣の金種と方向の候補に対して、赤色光ラインセンサ21acの特定した金種と搬送方向が含まれているかどうかの識別が開始される時刻を示し、32eは、このような識別が終了する時刻を示す。
【0062】
ここで、図8に示すように、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の検知が行われてから紙幣の金種の識別が行われるまでの期間21atは、他のセンサ21bc、22、24、26により紙幣の検知が行われてから紙幣の金種および真偽の識別が行われるまでの期間21bt、22t、24t、26tよりも長い。しかしながら、図8に示すように、紙幣の第1の種別(具体的には、金種)の識別動作と、紙幣の第2の種別(具体的には、真偽)の識別動作とが並行で行われるようになっているので、紙幣の金種および真偽の両方の識別を行うための演算処理時間を短くすることができる。
【0063】
以上のように、この実施形態の紙幣処理機1によれば、識別対象となる紙幣について各センサ21ac、21bc、24、26により検知を行い、紙幣の検知結果に基づいて、予め設定された1つの評価値算出式セット(第1評価値算出式〜第4評価値算出式が組み合わされたもの)により紙幣のそれぞれの評価値を算出し、紙幣のそれぞれの評価値に基づいて、紙幣の金種、真偽等のそれぞれに対応する複数の予め設定された閾値を用いて紙幣の金種、真偽等を識別するようになっている。このため、紙幣の金種等のそれぞれに対応する複数の評価値算出式の全てを用いて紙幣のそれぞれの評価値を算出する場合と比較して、使用される評価値算出式セットで一通り演算すればよいだけで複数金種分の評価値算出演算を行うことがないので、紙幣の金種や真偽等を識別するのに必要な演算処理は1回でよく、演算時間を短くすることができる。しかも、紙幣の金種や真偽等のそれぞれの対応する予め設定された複数の閾値を用いて紙幣を識別しているので、紙幣の金種等の違いにもかかわらず使用される閾値が1つのみとなっている場合と比較して、紙幣の金種や真偽等の識別の精度を高くすることができる。
【0064】
次に、この実施形態の紙幣識別装置220に設けられているテラヘルツ光センサ26について、詳細に説明をする。
図9は、テラヘルツ光センサ26、すなわち、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットの具体的な構成を表わすブロック図である。
テラヘルツ光センサ26には、第1レーザー261および第2レーザー262が備えられている。第1レーザー261から出力されるレーザー光は光ファイバ263およびファイバカプラ264を経由し、また、第2レーザー262から出力されるレーザー光は光ファイバ265およびファイバカプラ264を経由して、ファイバカプラ264で混合されたレーザー光は、光ファイバ266および267を介して第1送信子268および第2送信子269へ与えられる。また、バイアス電圧発生源270で発生されるバイアス電圧が、第1送信子268および第2送信子269へ与えられる。
【0065】
第1送信子268および第2送信子269では、それぞれ、第1レーザー261のレーザー光の周波数と第2レーザー262のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を照射位置に向けて放射する。照射位置には、紙幣Bが搬送されて来る前は、金属の基準板260が位置されている。よって、放射されたテラヘルツ光は基準板260で反射され、それぞれ、第1送信子268および第2送信子269に対で設けられた第1受信子271および第2受信子272で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ275および第2プリアンプ276へ与えられる。そして、各プリアンプ275、276において増幅された信号は、A/Dコンバータ277でデジタル信号に変換され、CPU278へ与えられ、基準受信量(基準反射光量)として記憶される。
【0066】
次いで、紙幣Bが搬送され、第1送信子268および第2送信子269は、それぞれ、第1レーザー261のレーザー光の周波数と第2レーザー262のレーザー光の周波数の差のテラヘルツ領域の周波数を有するテラヘルツ光を紙幣Bの表面に向けて放射する。放射されたテラヘルツ光は紙幣Bで反射され、それぞれ、第1送信子268および第2送信子269に対で設けられた第1受信子271および第2受信子272で受信される。そして受信されたテラヘルツ反射光の信号は第1プリアンプ275および第2プリアンプ276へ与えられる。そして、各プリアンプ275、276において増幅された信号は、A/Dコンバータ277でデジタル信号に変換され、CPU278へ与えられる。
【0067】
このように、基準板260による基準受信量を求めておくことにより、反射比率を得ることができる。また、受信量を比較する場合には、基準板260による受信量を一定値とすればよい。
図9に示す構成において、第1送信子268および第1受信子271の対26a、第2送信子269および第2受信子272の対26bは、共に、ユニット化されているのが配置や取り扱いの上で好ましい。
【0068】
第1送信子268および第1受信子271の対26aと、第2送信子269および第2受信子272の対26bとは、同じ構成を有しているが、両者は、回転角を90°異ならせて設置されている。
このため、偏光方向を見ると、第1送信子268から放射され、紙幣Bで反射されて第1受信子271で受信されるテラヘルツ光は、P偏光のテラヘルツ光である。また、第2送信子269から放射され、紙幣Bで反射されて第2受信子272で受信されるテラヘルツ光は、S偏光のテラヘルツ光である。
【0069】
ここで、テラヘルツ光の周波数について説明しておく。第1レーザー261、第2レーザー262から出力される各レーザー光の波長をそれぞれλ1、λ2とすると、第1送信子268および第2送信子269から放射されるテラヘルツ光の周波数fは、
f=c・(λ2−λ1)/λ1・λ2
となる。ここに、cは光速である。
【0070】
ところで、テラヘルツ光センサ26によれば、証券類に施された次のような真偽識別用のセキュリティデバイスの検知が可能である。
(1)ホログラム
たとえばユーロ紙幣では、ホログラムとして、デメタライズ技術でアルミ箔等の金属箔を加工し、金属箔膜に微細孔を周期的に配置したドットアレイ構造が採用されている。その周期的構造が一般的な二次元金属フォトニック結晶と呼ばれているものに相当する。このフォトニック結晶構造は、テラヘルツ光に反応する特徴を有する。このため、ユーロ紙幣のホログラムの真偽は、テラヘルツ光センサ26により検知することができる。また、格子状のホログラムの場合も、テラヘルツ光センサ26により検知することができる。
(2)スレッド
一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッドは、フィルムとアルミを貼り合わせた糸状の物質であり、金属としての性質を持つ。従って、テラヘルツ光は、その金属面で100%近く反射する。また、テラヘルツ光は、紙・インクに対して透過性が良く、紙の内部に埋め込まれたスレッド(金属物)を検出できる。よって、テラヘルツ光センサ26により、証券類にセキュリティスレッドが使用されている場合、そのスレッドを検知できる。
(3)パールインク
証券類には、傾けると色が変化するインク(一般に、「パールインク」と称される)で印刷されているものが多い。インク成分は、二酸化チタンが使用されていることが多く、かかる成分のパールインクは、テラヘルツ光に対して、高い反射率を示す。よって、パールインクの検知を、テラヘルツ光センサ26により正確に行うことができる。
(4)OVI(オプティカル光学可変インク)
OVIとは、傾けると印刷されたインクの色が変化して見えるインクのことである。OVIは、アルミで作られた反射層を持っていることが多い。このため、テラヘルツ光センサ26によってOVIの有無を検知することができる。
【0071】
以上のように、テラヘルツ光センサ26によれば、紙幣や証券類に施されたホログラム、スレッド、パールインク、OVIといったセキュリティデバイスの検知が可能である。
次に、セキュリティデバイスを、具体的にどのように検出・判別するのかについて、ユーロ紙幣を実例にして説明をする。
(1)ユーロ紙幣のホログラムの判別について
前述したように、ユーロ紙幣には、セキュリティデバイス(真偽識別用素子)としてホログラムが採用されている。ホログラムは、金属薄膜に周期的に微細な孔があけられた二次元金属フォトニック結晶としての性質を有する。
【0072】
そこで、テラヘルツ光を用いたユーロ紙幣のホログラムの真偽判別は、次のようにして行うことができる。
まず、紙幣識別装置220におけるテラヘルツ光センサ26(図3参照)の対向面(紙幣の通路)に参照用金属板を配置した構成にする。そして、紙幣が到達していない場合に参照用金属板にテラヘルツ光を照射し、その反射強度を予め測定しておく。それを参照値Refとする。
【0073】
次に、搬送路を紙幣Bが通過するときには、たとえば1ミリピッチでテラヘルツ光の反射強度を測定する。測定値を信号Samとする。
そして、参照値Refと信号Samとから、
反射率=信号Sam/参照値Ref
を算出する。
【0074】
ユーロ紙幣のホログラムを横方向に走査して得られた上記の反射率を、図10に示す。図10では、0.73THzのテラヘルツ光を用いた。
また、模擬ホログラム(紙にアルミ箔を貼り付けただけの、周期的な微細孔を有さないもの)の反射率のデータを、図11に示す。図11でも、0.73THzのテラヘルツ光を用いた。
【0075】
図10および図11の対比から、微細孔がある場合は、二次元金属フォトニック結晶としての光学特性から、透過し易い周波数領域が存在することがわかる。言い換えれば、透過し易いことは、反射率が下がるということである。
従って、図10から、反射率の部分ピークaと部分ボトムbとの差cを、
c=a/bとして算出し、
c=1.5以上の場合はユーロ紙幣が真、c=1.2以下の場合はユーロ紙幣が偽、というように判定することができる。
【0076】
なお、この閾値は、一例を挙げただけであり、実際の検出結果に基づいて閾値は随時変更可能である。
以上の内容を整理すると、図12の図表として表わせる。
すなわち、図12を参照して、ユーロ紙幣のホログラムには、周期的な微細孔があいているため、その微細孔の領域において、テラヘルツ光は反射率が下がり、逆に透過率が上がるのである。
【0077】
テラヘルツ光は、金属に当たると金属内の自由電子に衝突し跳ね返される(反射する/透過しない/進入しない、とも言える。)。従って、周期的に配列された微細孔がない場合は、テラヘルツ光は、導電性の金属に対しては100%近く反射する。
一方、周期的に配列された二次元金属フォトニック結晶として扱われるホログラムに対しては、特定の計算式で示される遮断周波数および解析周波数の周波数特性を有し、透過する。
【0078】
それゆえ、異なる周波数特性を有するホログラムに対して、それぞれ、真券の場合の反射特性、透過特性を予め測定しておき、それから外れた特性が検出された場合は、偽造紙幣(ホログラム偽造)と識別することが可能である。
(2)ユーロ紙幣のスレッドの判別について
一般的に証券類に使用されているセキュリティスレッド(糸状の線)は、図13(a)に示すように、フィルムに金属を蒸着させた糸状のものが紙に漉き込まれたものである。このため、紙を透かして見ると、紙の中に漉き込んである糸状金属が見える。偽造スレッドは、見た目が同じになるように細工したものが多いが、金属(糸状の金属)が使用されていないことが殆どである。
【0079】
それゆえ、テラヘルツ光を照射し、その反射率を測定することにより、スレッドの真偽を判別することができる。
図13(b)は、5ユーロ紙幣に設けられているセキュリティスレッドを示し、図13(c)は、そのセキュリティスレッドに0.75THzのテラヘルツ光を照射した場合の振幅反射率特性を示している。この特性によれば、セキュリティスレッドのピーク値は0.5以上である。
【0080】
つまり、5ユーロ紙幣のセキュリティスレッドの真偽を見る際には、反射率が0.5以上あれば「真」と判断できることがわかる。
なお、この閾値も、一例にすぎず、実際の紙幣や証券類のスレッドによって、任意の閾値が選ばれることになる。
(3)ユーロ紙幣のOVIの判別について
ユーロ紙幣には、OVI(光学可変インク)がセキュリティ用として使用されている。傾けると色が変化するインクであり、前述したように、アルミの反射層を持つ。従って、テラヘルツ光が照射されると、高い反射率を示す。
【0081】
一方、偽造OVIは、傾けると色だけが変化するような細工をしたものが殆どである。よって、OVIにアルミ片(金属)が使用されているかいないかは、テラヘルツ光を照射し、そのテラヘルツ反射光を測定して、反射率を検知すればわかるから、OVIの真偽判別が可能となる。
図14は、100ユーロ紙幣のOVIと1THzのテラヘルツ光の反射波形との関係を示す図である。
【0082】
図14における○で囲った1、2、3、4、5の部分が、OVIのインク部分である。
判断基準としては、OVIのインク部分から、たとえば90%以上の反射率が得られた場合に、OVIインクが使用されている(紙幣が真券)と判別することが可能である。
以上のように、テラヘルツ光センサ26により、紙幣や証券類に施されたセキュリティデバイスにテラヘルツ光を照射し、反射されるテラヘルツ反射光を検知して、その反射率や反射率の変化特性を測定することにより、証券類に施されたセキュリティデバイスの真偽判別、ひいては証券類の真偽判別が行える。
【0083】
次に、テラヘルツ光センサ26につき、その変形例をいくつか例を挙げて説明する。
図9において、テラヘルツ光センサ26の具体的な構成を説明した。図9に示すテラヘルツ光センサ26では、送信・受信対ユニット26aは、P偏光のテラヘルツ光の照射および受信を行い、送信・受信対ユニット26bは、S偏光のテラヘルツ光の照射および受信を行う構成を説明した。
【0084】
このように、複数組、たとえば2組のテラヘルツ光の送信・受信対ユニット26a、26bを設け、各送信・受信対ユニット26a、26bが、互いに異なる第1の偏光波としてのP偏光および第2の偏光波としてのS偏光のテラヘルツ光を照射し、その反射光を受信する構成とすることにより、セキュリティデバイスを異なる偏光のテラヘルツ光で検知することができ、セキュリティデバイスの向き等にかかわらず、セキュリティデバイスをより正しく検知することができる。
【0085】
特に、セキュリティデバイスがたとえば格子状のホログラム構造の場合には、格子状のホログラムをP偏光のテラヘルツ光で観察する場合と、S偏光のテラヘルツ光で観察する場合とでは、その反射率特性が変化するので、両偏光波の反射率特性に基づいて格子状のホログラム構造を正しく検出することができる。
しかし、テラヘルツ光の送信・受信対ユニット26a、26bは、図9に示される構成に限られるわけではなく、複数の送信・受信対ユニット26a、26bを設けた場合において、各送信・受信対ユニット26a、26bが、互いに波長の異なる離散的なテラヘルツ光の照射および受信を行うものであってもよい。
【0086】
互いに波長の異なる離散的なテラヘルツ光の照射および受信が、送信・受信対ユニット26a、26bで行われる構成とした場合、波長の異なるテラヘルツ光の反射率同士を比較し、その比率に基づいてセキュリティデバイスの真偽判別を良好に行うことができる。
さらに、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットは、図9に示すように2組備えられた構成に限られるものではなく、1組であってもよいし、3組以上であっても構わない。
【0087】
さらに、テラヘルツ光の送信・受信対ユニットは、図9に示すように、証券類Bのセキュリティデバイスで反射された反射光を受信する構成に限定されるものではなく、図15に示すように、送信子26aから所定波長のテラヘルツ光が送信され、そのテラヘルツ光が証券類Bのセキュリティデバイスを透過した透過光が受信子26bで受信される構成としてもよい。
【0088】
前述したように、証券類Bのセキュリティデバイスには、所定の波長のテラヘルツ光に対して、特定の反射率を示す。セキュリティデバイスが特定の反射率を示すということは、換言すれば、セキュリティデバイスは、所定波長のテラヘルツ光に対して特定の透過率を有するということである。
それゆえ、受信子26bによりセキュリティデバイスを透過する所定波長のテラヘルツ光を受信する構成にし、受信したテラヘルツ光の受信率により、セキュリティデバイスの真偽判別を行う構成としてもよい。
【0089】
また、図16に示すように、証券類Bを搬送するための搬送路100の上流側に、証券類Bの種類検出センサ101を設け、搬送路100を搬送される証券類Bの種類がまず種類検出センサ101で検出される構成とする。種類検出センサ101で証券類Bの種類が検出された場合、種類データテーブル102に記憶された証券類の種類に基づき、証券類Bのどの位置にセキュリティデバイスが設けられているかを把握することができる。そして搬送路100の下流側に備えられたテラヘルツ光センサ103が、証券類Bに施されたセキュリティデバイスに対向する位置になるように、搬送路100の搬送方向に交叉方向にテラヘルツ光センサ103が変位される。この変位はたとえば移動ユニット104により行われる。その結果、テラヘルツ光センサ103により証券類Bに施されたセキュリティデバイスに対し、確実にテラヘルツ光が照射され、その反射光または透過光が検知される。
【0090】
かかる構成は、テラヘルツ光センサ103が、送信・受信対ユニットとして小型化され、テラヘルツ光の照射範囲が限られている場合であっても、テラヘルツ光の照射範囲を証券類Bにおけるセキュリティデバイスに確実に対応付けることができるという利点がある。
この発明は、以上説明した実施形態に係る紙幣識別装置に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0091】
たとえば、紙幣識別装置220では、赤色光ラインセンサ21ac、赤外光ラインセンサ21bc、厚み検知センサ22、磁気センサ24等が併設されたものを説明したが、テラヘルツ光センサ26のみにより、紙幣その他の証券類のセキュリティデバイスの真偽を判別する構成の装置としてもよい。
あるいは、赤色光ラインセンサ21acにより紙幣の種別を検知するとともに、テラヘルツ光センサ26により紙幣の真偽を識別するという、2種類のセンサだけを有する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 紙幣処理機
220 紙幣識別装置
202 上部搬送機構
21 ラインセンサ
26、103 テラヘルツ光センサ
26a、26b テラヘルツ光の送信・受信対ユニット(テラヘルツ 光センサ)
268 第1送信子
269 第2送信子
271 第1受信子
272 第2受信子
B 紙幣または証券類
【特許請求の範囲】
【請求項1】
証券類の真偽を判別するための装置であって、
真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、
前記証券類を搬送するための搬送路と、
前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、
前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする証券類識別装置。
【請求項2】
前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、
第1の送信・受信対ユニットは、離散的な第1の周波数のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
第2の送信・受信対ユニットは、離散的な第2の波長のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の波長のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置。
【請求項3】
前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、
第1の送信・受信対ユニットは、第1の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
第2の送信・受信対ユニットは、第2の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の偏光波のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の偏光波のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置。
【請求項4】
証券類の真偽を判別するための装置であって、
真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、
前記証券類を搬送するための搬送路と、
前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、
前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする、証券類識別装置。
【請求項5】
前記証券類のセキュリティデバイスの位置を判別する位置判別手段と、
前記位置判別手段で判別された位置にテラヘルツ光が照射されるように、前記搬送路を搬送される前記証券類と前記送信・受信対ユニットとの相対的な位置関係を調整する位置関係調整手段と、
をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の証券類識別装置。
【請求項6】
所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、
証券類の前記セキュリティデバイスに対して、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、
照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスで反射されるテラヘルツ反射光を受信し、
受信されたテラヘルツ反射光の光量が所定範囲内にあるか否かに基づき、当該証券類の真偽判定を行うことを特徴とする、証券類の真偽判別方法。
【請求項7】
所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の離散的な波長のテラヘルツ光を照射し、
テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の波長のテラヘルツ光の反射率とを検出することを含み、
前記判定ステップは、検出したそれらテラヘルツ光の反射率の比率によって前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法。
【請求項8】
所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の偏光波のテラヘルツ光を照射することを含み、
テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の偏光波のテラヘルツ反射光を受信すること、および、第2の偏光波のテラヘルツ反射光を受信することを含み、
前記判定ステップは、第1の偏光波のテラヘルツ光の受信率と第2の偏光波のテラヘルツ光の受信率との比率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法。
【請求項9】
所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、
証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、
照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過した後の透過光を受信し、
前記テラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過する透過率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判別し、その判別結果に基づいて証券類の真偽を判別することを特徴とする、証券類の真偽判別方法。
【請求項1】
証券類の真偽を判別するための装置であって、
真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、
前記証券類を搬送するための搬送路と、
前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスで反射されたテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、
前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする証券類識別装置。
【請求項2】
前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、
第1の送信・受信対ユニットは、離散的な第1の周波数のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
第2の送信・受信対ユニットは、離散的な第2の波長のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の波長のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置。
【請求項3】
前記送信・受信対ユニットは、2以上設けられており、
第1の送信・受信対ユニットは、第1の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
第2の送信・受信対ユニットは、第2の偏光波のテラヘルツ光の照射および受信を行うものであり、
前記判別手段は、第1の送信・受信対ユニットから得られる第1の偏光波のテラヘルツ光の反射率と、第2の送信・受信対ユニットから得られる第2の偏光波のテラヘルツ光の反射率との比率に基づいて、前記証券類の真偽を判別することを特徴とする、請求項1記載の証券類識別装置。
【請求項4】
証券類の真偽を判別するための装置であって、
真偽判別対象となる証券類は、所定のセキュリティデバイスを有するものであり、
前記証券類を搬送するための搬送路と、
前記搬送路を搬送される前記証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定のテラヘルツ光を照射するための送信子、および、前記証券類の前記セキュリティデバイスを透過したテラヘルツ光を受信するための受信子を含むテラヘルツ光の送信・受信対ユニットと、
前記受信子で受信されたテラヘルツ光の光量を予め設定された光量と対比し、前記証券類の真偽を判別する判別手段と、
を含むことを特徴とする、証券類識別装置。
【請求項5】
前記証券類のセキュリティデバイスの位置を判別する位置判別手段と、
前記位置判別手段で判別された位置にテラヘルツ光が照射されるように、前記搬送路を搬送される前記証券類と前記送信・受信対ユニットとの相対的な位置関係を調整する位置関係調整手段と、
をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の証券類識別装置。
【請求項6】
所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、
証券類の前記セキュリティデバイスに対して、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、
照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスで反射されるテラヘルツ反射光を受信し、
受信されたテラヘルツ反射光の光量が所定範囲内にあるか否かに基づき、当該証券類の真偽判定を行うことを特徴とする、証券類の真偽判別方法。
【請求項7】
所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の離散的な波長のテラヘルツ光を照射し、
テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の波長のテラヘルツ光の反射率と、第2の波長のテラヘルツ光の反射率とを検出することを含み、
前記判定ステップは、検出したそれらテラヘルツ光の反射率の比率によって前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法。
【請求項8】
所定の波長のテラヘルツ光を照射するステップは、複数の偏光波のテラヘルツ光を照射することを含み、
テラヘルツ反射光を受信するステップは、第1の偏光波のテラヘルツ反射光を受信すること、および、第2の偏光波のテラヘルツ反射光を受信することを含み、
前記判定ステップは、第1の偏光波のテラヘルツ光の受信率と第2の偏光波のテラヘルツ光の受信率との比率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判定することを含むことを特徴とする、請求項6記載の証券類の真偽判別方法。
【請求項9】
所定のセキュリティデバイスを有する証券類の真偽を、前記セキュリティデバイスの真偽を判別することにより判別する証券類の真偽判別方法であって、
証券類の前記セキュリティデバイスに対し、所定の波長のテラヘルツ光を照射し、
照射されたテラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過した後の透過光を受信し、
前記テラヘルツ光が前記セキュリティデバイスを透過する透過率に基づいて、前記セキュリティデバイスの真偽を判別し、その判別結果に基づいて証券類の真偽を判別することを特徴とする、証券類の真偽判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−34172(P2011−34172A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177491(P2009−177491)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】
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