説明

試料分析チップ、試料分析方法及び試料分析装置

【課題】生体分子の反応や蛍光測定を阻害することがなく、且つ気泡による蛍光強度検出阻害を解決できる試料分析チップ及び試料分析方法を提供すること。
【解決手段】基材に複数のウェルと、各ウェルに繋がる流路と、流路に溶液を注入するための注入口とを有し、該基材を回転させてウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、前記流路が、前記注入口と連絡し、前記ウェルより回転中心側に設けられた主流路を有し、前記ウェルの上面がウェルの上部中心に向けて突出した凹形状となっていることを特徴とする試料分析チップを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応の検出や分析等に用いる試料分析チップ及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リアルタイムPCR(Polymerase chain reaction)や二本鎖DNA定量法など、生体分子の解明方法として蛍光色素を応用した技術が知られている。これらはμ−TAS (Total Analysis System) と呼ばれており、1個のチップやカートリッジに複数の反応室(以下、ウェル)や流路を供えたものであり、複数の検体の解析、あるいは複数の反応を行うことができる。これらの技術はチップ及びカートリッジを小型化することで扱う薬品を少量にすることが出来、様々なメリットがあるとされてきた。
【0003】
そのメリットとは例えば従来使用していた強酸や強アルカリ薬品の分量が微量化することで人体への影響や環境への影響が格段に低くなること、また、生化学反応等に用いられる高額な蛍光試薬類の消費量が微量化することで分析、反応に費やすコストを低減できること、などが挙げられる。
【0004】
チップやカートリッジを用いて生化学反応を効率よく行うためには、複数のウェルにそれぞれ異なる種類の薬品や検体、酵素を分注し、これら薬品や検体、酵素と反応を起こす試薬を一本ないし数本の主導管からまとめてウェルに流し入れ、複数の反応を生じさせる必要がある。
【0005】
この手法を用いれば、複数種の検体を同じ試薬で同時に処理したり、また逆に一種類の検体に同時に複数の処理を施すことが可能となり、従来かかっていた時間や手間を大幅に減らすことが可能である。
【0006】
しかし、検体を含むサンプル液には少なからず空気が混入している。ウェル内において空気が混入しているサンプル液と蛍光色素を反応させた場合、その混合溶液には気泡が生じる。
【0007】
気泡は一般に溶液の表面に浮上する。その状態でウェル内の蛍光色素の強度を測定しようとする場合(以下、測光)、分子から発せられる蛍光波長は気泡を通過する際変化し、特定波長の蛍光強度を認識する検出プローブが認識できなくなる。これにより、検出される蛍光強度は著しく低下する。
【0008】
特許文献1では、ウェル内に生成される気泡を抑制するため、流路内に熱を加える手法であるが、20〜30度の温度では完全に気泡の生成を抑制することは不可能である。
【0009】
特許文献2では、ウェルを親水化することが発生を抑制する手法であるが、ウェル表面を親水化することで、生体分子との非特異的な結合を生み出す可能性が示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−151772
【特許文献2】特開2007−333440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような従来技術を鑑みて、本発明は生体分子の反応や蛍光測定を阻害することがなく、且つ気泡による蛍光強度検出阻害を解決できる試料分析チップ及び試料分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような問題を解決するために為された本発明の請求項1に係る発明は、基材に複数のウェルと、各ウェルに繋がる流路と、流路に溶液を注入するための注入口とを有し、該基材を回転させてウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、前記流路が、前記注入口と連絡し、前記ウェルより回転中心側に設けられた主流路を有し、前記ウェルの上面がウェルの上部中心に向けて突出した凹形状となっていることを特徴とする試料分析チップである。
また請求項2に係る発明は、前記注入口から各前記ウェルへ繋がる主流路が、回転中心方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の試料分析チップである。
また請求項3に係る発明は、前記基材が光透過性材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料分析チップである。
また請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の試料分析チップに試料を遠心により前記ウェル内に配液することを特徴とする試料分析方法である。
また請求項5に係る発明は、蛍光測定対象である試料を前記ウェルに収容し、前記試料の光情報を測定することを特徴とする請求項4に記載の試料分析方法である。
また請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有する試料分析装置である。
また請求項7に係る発明は、請求項6に記載の試料分析装置であって、前記ウェルの中心部で検出測定を行なうことを特徴とする試料分析装置である。
【発明の効果】
【0013】
さらには本発明によれば、ウェル内の上部形状が平面型を成していないので、チップを遠心するだけで気泡を端に偏在させることができ、生体分子の反応や蛍光測定を阻害することなく試料分析が可能となる。また、本発明による試料分析チップによれば、簡易で機能的、かつ安全安価な試料分析チップを実現することができる。
【0014】
また流路山部から隣接する流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを前期流路山部に挟まれた流路谷部から連通するウェルに送液することができるため、使用する溶液試料の量をウェルごとに任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の試料分析チップの一様態の平面図
【図2】本発明の試料分析チップ内ウェルの一様態の断面図
【図3】本発明の試料分析チップの斜視図
【図4】気泡除外前の試料配液後ウェルの断面図
【図5】気泡除外前の試料蛍光測定結果
【図6】気泡除外後の試料配液後ウェルの断面図
【図7】気泡除外後の試料蛍光測定結果
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の試料分析チップを図面に基づいて説明する。
図1は本発明の試料分析チップの一様態を示した平面図である。本発明のチップは、基材101上に複数のウェル102と、ウェルに溶液、例えば液体試料(溶液)を送液するための流路を有している。流路は、各ウェルに送液するために、少なくとも各ウェルと連絡する一つの主流路103を有し、さらに主流路とウェルをつなぐ側路105を有する。流路には溶液を注入するための注入口を有する。図1の様態では、主流路の端部に注入口(INLET)及びもう一方の端部に空気の脱出口を兼ねた余剰溶液の出口(OUTLET)を有している。
【0017】
本発明の試料分析チップは当該チップを回転させることにより生じる遠心力により、各ウェル102に配液するものであることから、中央部に回転軸の貫く点(以下、中心点)のある円盤形状であることが好ましいが、チップを貫く回転軸に対して回転可能に形成されていれば特に制限はない。円盤形状であれば、その中心が回転軸となるようにして、その円盤形状のチップに同心円状になるようにウェルを配置することができるため、スペースが効率的である。均等にウェルに配液するには遠心力を均等に掛けることが重要であるが、チップを、INLET/OUTLET107の領域を除き、中心点を軸とする回転対称性を持つように設計することで容易に実現することができる。すなわち、N個のウェルがあるとすると、N回対称となるようにすると、均等に遠心力を掛けることができる。また同心円状にウェルが配置されていることにより、基材を回転させることによって、一箇所の検査領域で全てのウェルの分析が可能である。
【0018】
主流路103はウェルよりも中心点側に形成されている。さらに、本発明の試料分析チップでは、この主流路が、隣り合うウェル間の中心点方向に一つの山を有するように形成されていることを特徴とする。ここで隣り合うウェルとは、主流路からウェルへの送液流路が前後しているウェルを意味する。また、中心点方向への山を有するとは中心点方向への極大点(主流路山部103a)を持つことを意味している。このように、隣り合うウェルの間で中心点方向に一つの山を有するように形成することで、主流路に注入された液体が、チップ回転時に主流路山部で自然と途切れるため、各ウェルへの配液量のバラツキを低減することができる。
【0019】
ウェル102と主流路103との連絡箇所、即ち主流路103と側路105との接続箇所は、主流路の山部と山部の間の谷部130bであることが好ましい。谷部とは主流路の山と山との間で最も中心点から距離が遠い箇所である。この箇所でウェルと主流路を連絡することにより、配液時の主流路への溶液の残留を減らすことができる。
【0020】
また主流路103と、ウェル102との連絡口は、後述する試料分析チップを用いた処理方法に記載するように、チップを回転させる前の段階では、ウェルに溶液が浸入しない程度の幅及び断面積である必要がある。
【0021】
また、ウェル102内に空気を残留させないために、ウェルの中心点に最も距離が近い点で主流路と連結することが好ましい。つまり、側路105を形成する場合には、ウェル側の中心点に最も近い点と、主流路側の谷部を結ぶように形成することが好ましい。
【0022】
図1の様態では、主流路の路幅が主流路山部103aで狭く、主流路谷部103bで広くなっている。主流路山部103aに該当する領域に存在する溶液が少ない方が、配液バラツキが少ないため、山部の主流路の断面積は、他の部分の断面積よりも小さいことが好ましい。したがって、山部の流路幅を狭くする、及び/または、深さを浅くすることが好ましい。また同様の理由で山部に近づくにつれて主流路の断面積が小さくなるようにすることが好ましい。
【0023】
さらに、主流路谷部103bの路幅を広げることで、各ウェル102への配液量を制御することができる。したがって、図1の試料分析チップのように山と山との間の流路をチャンバ様とし、主流路山部から隣接する主流路山部までの主流路の容積を任意に設計すれば、同等の容量のサンプルを両山部に挟まれた谷部から連通するウェルに送液することができるため、任意量の溶液を各ウェルに設定することが可能である。
【0024】
またウェル102の容積は1μl以上100μl以下であることが好ましい。1μlより小さいと、遠心力が十分に働かず、ウェルへの送液が行われ辛く、また100μlよりも大きいと、試薬の混合性が低下したり、ウェル内の温度の均一性が低下する、といった現象が生じる可能性がある。
【0025】
また側路105は中心点の方向から傾いて形成されている。このように側路を傾斜させて形成することにより、遠心力を掛けたときにウェルの空気が側路の内側に沿って主流路方向へ移動し、一方溶液は側路の外側に沿ってウェル方向へ移動するため、スムーズにウェル内へ溶液を移動させることができる。傾斜させる角度としては、中心点の方向と側路との為す角が10度から80度の間であることが好ましい。10度以下だとウェルからの排気とウェルへの溶液の浸入が干渉して溶液の浸入を阻んでしまう場合があり、80度を超えると、側路方向への遠心力が弱く、溶液がウェルへ移動しない場合がある。
【0026】
図2では試料分析チップ内の各ウェル形態の断面図を示した。第一の基材401には、チップを貫通する溶液の注入口203と、注入液がチップに流れ込むための主流路となる溝103と、チップの外周部に延びた各ウェルと連通する側路となる溝105と、チップの外周部のウェルとなる窪み102とが成形されている。なお図2の断面図は注入口(INLET/OUTLET)からウェルまでの経路を模式的に示したものであり、主流路及び側路の形状はこれに限られない。注入される溶液をすべてのウェルに充満するためには、主流路の容積は、各ウェルの容積の合計より大きい必要がある。ただし、ウェルに試薬が固定されている場合、その分反応ウェルに入れる液体試料の量が減るため、流れ込む流路の容積をその分減少してもよい。
【0027】
本発明では、蛍光反応や測定のため、第一基材側で検出測定を行なう場合に、ウェル上部の凹部をサンプル液に含まれる気泡が検出測定を阻害しないよう、遠心操作により気泡を端に寄せる構造に成形されている。すなわち、光透過性の第一の基材に形成されたウェル102の上面501が内側に向けて突出した凹形状となっている。試薬及び試料に気泡が混在している場合、光学的測定に大きな影響を与える可能性があるが、前述した各ウェル102のようにウェル上部を内側に突出した凹形状とすることで、気泡を測定領域であるウェルの中心から取り除くことが可能となる。気泡が混在している場合、ウェルの上部に分散していると考えられるが、試薬との比重及び回転時の遠心力により凹部から遠心部中心の外側に気泡が移動するためである。なお、図2では、ウェル102の上部面501は全体が内側に弧と描く形状となっているが、ウェルの上部面の測定領域のみが内側に突出した凹形状としてもよい。
【0028】
次に本発明の試料分析チップの製造方法について説明する。
【0029】
図3は本発明の試料分析チップの構造の一様態を示した斜視図である。
本発明の試料分析チップはウェル及び流路(主流路及び側路を含む)を形成した第一の基材401に、第二の基材402を貼り合わせることで作製することができる。第一の基材及び第二の基材の少なくとも一方には試料分析装置の具備するチップ回転機構によってチップを回転させるための回転手段として、例えばチップ回転機構に固定するための担持部405を有する。また注入口及び空気の脱出口を兼ねた出口(INLET/OUTLET)のための貫通孔を第一の基材及び第二の基材の一方に、少なくとも一つ形成する。貫通孔は基材を貼り合わせたときに主流路の端部に一致する。以下では、説明の便宜上、蛍光反応等を検出、測定する際に測定する面に位置する基材側を「上側」、下側に位置する側を「下側」とする。
【0030】
基材としては、試料に影響を与えないものであり、更に可視光透過性を有したものが好ましい。ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いれば、良好な可視光透過性を得ることができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。また、これらの樹脂材料を使用する場合、チップの耐熱性や強度を確保することもできる。樹脂材料以外としては、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、真鍮、金等の金属材料を挙げることができる。金属材料を用いた場合、加えて熱伝導率及び封止性能に優れる。なお貼り合わせる基材のうち少なくとも上側基材のウェル底部を透明とすることで、蛍光等の検出・分析を外部から行うことができる。なお本発明における「透明」及び「光透過性」とは、検出光の波長領域での平均透過率が70%以上であるものとする。可視光領域(波長350〜780nm)で光透過性材料の材料を用いれば、チップ内での試料状態の視認が容易であるが、これに限られるわけではない。
【0031】
ウェル及び流路を形成する基材の加工方法としては、樹脂材料の場合には、射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などを用いることができる。金属材料の場合には、厚手の基材を用いた研削加工やエッチング、薄手の金属シートにプレス加工や絞り加工を施すことで形成することができる。
【0032】
また、第1の基材として特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリルのいずれかを含む樹脂材料を用いた場合、良好な光透過性、耐熱性、強度を確保することができる。また、第2の基材の厚みが50μm〜3mmの範囲にある場合、良好な光透過性、耐熱
性、強度を確保でき、凹部の加工を確実に行うことができる。
【0033】
また、第2の基材の厚みが10μm〜300μmの範囲にある場合、第1の基材の熱伝導性及び封止性の双方を満足することができる。第1の基材の厚みが300μmよりも大きいと、熱容量が大きくなり、熱応答性が低下するおそれがある。
【0034】
基材を貼り合わせる前に、ウェル102に反応用の試薬を固定する。各ウェルで異なる試薬を用いることができる。各反応ウェルにそれぞれ異なる試薬を固定することによって、1つ検体(試料)に対して複数の処理を施すことができる。また、実際反応を行うための試薬の一部を各ウェルに固定し、残りの試薬は液体試料と一緒に導入するようにしてもよい。
【0035】
試薬501の固定方法としては、例えば第1の基材のウェル部分に液体試薬をピペット等で滴下し、第一の基材401を遠心装置で2000〜3000rpm、5分程度遠心することで適量の液体試薬が液面を平坦な状態で残存するようにして、これを乾燥させることでウェルに固定することができる。
【0036】
また、試薬をウェルに固定した後、ワックスを滴下してもよい。具体的には、ワックスをホットプレート上に溶融させ、ピペットを用いて乾燥させた試薬を覆うように滴下する。このとき、ワックスは数秒で固化する。ワックスは、試薬をウェルの凹部に固定させる役割を有する。
【0037】
基材の貼り合わせ方法としては、一方の基材に接着層として樹脂コーティング層を設け、これを溶融させて両基材を接着する方法が挙げられる。樹脂コーティング層は、熱伝導率の高い金属材料基材に設けて溶融接着することが好ましい。樹脂コーティング層の材料としては、PETやポリアセタール、ポリエステルやポリプロピレン等の樹脂材料を用いることができる。
【0038】
この貼り合わせ方法においては、微細加工しやすく、蛍光測定に好適な光透過性の樹脂材料を第一の基材に用い、第二の材料としては熱伝導率が高く樹脂コーティング層を設けて溶融接着による貼り合わせが容易な金属材料を用いることが好ましい。また金属基材表面に樹脂コーティング層を形成することにより、材料を選定する際に金属基材自体の耐薬品性は考慮しなくて良い。
【0039】
また、基材表面に樹脂コーティング層を形成する際、樹脂コーティング層の下地としてアンカー層を形成することによりレーザを用いた融着が可能である。アンカー層にはレーザ波長光を吸収するカーボンブラック(光吸収性材料)が練り込まれており、レーザ光を照射することにより発熱して樹脂コーティング層を溶融接着することができる。あるいは、アンカー層にカーボンブラックを添加することに代えて、樹脂コーティング層にカーボンブラックを添加したり、樹脂コーティング層の表面を黒色に塗装したりしても良い。例えば波長900nm程度の赤外光フォトダイオードレーザーの光を照射することによっても樹脂コーティング層を効率良く溶融することができる。レーザ溶着は、熱溶着と異なり、チップを加熱する必要がないことから、チップやチップに固定されている試薬に殆ど影響を与えずに 基材の貼り合わせをすることができる。
【0040】
次に本発明の試料分析チップを用いた試料分析方法について説明する。
【0041】
本発明の試料分析チップは、例えば、DNA、タンパク質等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。各ウェル102に試薬を固定し、液体試料を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルで異なる試薬を用いることができる。あるいは試料を各ウェルに固定し、液体試薬を各ウェルに配液する。この場合には各ウェルに異なる試料を用いることができる。
【0042】
次に第一の基材401と第二の基材402を貼り合わせた本発明の試料分析チップに対して、まず、注入口107から試薬等の溶液を主流路103に注入する。この段階では、主流路のみが溶液で満たされ、前述のように側路には浸入していない。これは、溶液の表面張力と、ウェル側には空気の抜け穴がないことによりウェル側からの空気圧があるためである。
【0043】
次に、試料分析方法に用いる試料分析装置には試料分析チップを回転させるためのチップ回転機構を有する。チップ回転機構には、公知一般の遠心装置を用いることができる。試料分析装置に試料分析チップを設置し、回転機構によりチップの中心点でチップの垂直方向を回転軸として、チップを回転させる。回転速度としては溶液に掛かる遠心力が前述の空気圧と表面張力に打ち勝って、ウェルに流入する回転速度が必要である。チップの形態にも寄るが、約1000rpm以上であることが好ましい。チップの回転速度が約1000rpmより小さいと、ウェルに溶液が流入せず、液量が一定にならない恐れがある。
【0044】
液体試料の配液後、試料・試薬の反応を阻害しないオイルを同様の工程で各ウェルに配液してもよい。オイルの注入によって、反応中に液の蒸発を防ぐことができる。オイルには先に配液した溶液よりも比重が軽いものを用いる必要がある。チップを回転させ、遠心力によって配液した際に、側路側で各ウェルの栓の役割をするためである。オイルの種類としては、試料・試薬の反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、ミネラルオイルやシリコンオイルを好適に用いることができる。
【0045】
ワックスを試薬の固定に用いる場合には、試料分析装置に電熱線等からなるヒータやペルチェ素子を用いた温度制御手段を備えていてもよい。ワックスの融点以上にチップを加熱することでワックスを溶融させ、ウェル内で試薬と溶液(試料)を混合させることができる。また当該温度制御手段は、例えばPCR反応等の試薬の反応制御にも用いることができる。
【0046】
その後、ウェルで試薬及び試料を混合し、反応状態を蛍光検出等の手法によって分析することができる。試料分析装置は、試料分析チップの基材上側のウェルの位置で測定を行なうための検出測定手段を有する。回転機構によりチップを回転させて、所定のウェルを測定することができる。本発明の試料分析チップでは基材の上側を透明とすることで、チップの外部から光学的測定を行なうことが可能である。
【0047】
試薬及び試料に気泡が混在している場合、光学的測定に大きな影響を与える可能性があるが、前述したように各ウェル102のウェル上面501を内側に突出した凹形状とすることで、気泡を測定領域であるウェルの中心から取り除くことが可能となる。気泡が混在している場合、ウェルの上部に分散していると考えられるが、試薬との比重及び回転時の遠心力により凹面から遠心部中心の外側に気泡が移動するためである。
【0048】
以上のように各工程で試料分析チップに作用させる機構を備えることで、省スペースかつ試料分析の容易な試料分析装置とすることができる。
【0049】
次に本発明の試料分析方法の例を説明する。
【0050】
遺伝子解析の1例としては、例えばK‐ras遺伝子変異の検出や、生殖細胞変異の検出が挙げられる。K‐ras遺伝子変異の特定はがん治療のために特定方法の確立が望まれており、生殖細胞変異の特定は薬効の推定等に利用できると考えられている。
【0051】
・SNPsの検出
ヒトゲノムの中には、その約0.1%に個人特有の塩基配列の違いが存在し、SNP(Single Nucleotide Polymorphism)と呼ばれおり、生殖細胞変異のひとつである。SNPの特定方法の一つとして、例えば蛍光を用いたPCR‐PHFA(PCR−Preferential Homoduplex Formation Assay)法が利用されている。PCR‐PHFA法は検出変異部位を増幅するPCR工程と、増幅断片と対応プローブによる競合的鎖置換反応工程から成り立っている。当該方法によれば、蛍光試薬の発光差によって変異を検出するが、本発明の試料分析チップを用いることで、各ウェルの配液バラツキが少ないため、正確なSNPs検出を行うことが出来る。また上記以外のSNP検出方法としてインベーダー法(登録商標)、Taqman PCR法等についても同様に本発明の試料分析チップを用いることが可能である。
以下に、本発明を用いてワルファリン(抗血液凝固剤。心臓病や高血圧用の薬として用いられる)に対する副作用に関与するSNPついてPCR‐PHFA法を使った解析例を説明する。
【0052】
血液などから得られる検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。なお、ワルファリンに関与するSNPの検出にはVKORC1やCYP2C9内のSNPが議論されることが多く、CYP2C9*2やCYP2C9*3などが有名である。検体からこれらのSNPを含む遺伝子断片をマルチプレックスPCRにて増幅する。
【0053】
上記の検出方法では、一つのSNPを判定するために2つの検出用のウェルが必要となるので1検体試料につき10個以上のウェルが形成された試料分析チップを使用すると良く、それぞれのウェルに競合的鎖置換反応を行うためのSNP検出用の試薬を固定する。
【0054】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。各ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出する。一つのSNPに対し2つのウェルのうち一つのみ陽性反応ならばホモ、二つ陽性ならヘテロと判定することができる。
【0055】
・K‐ras遺伝子変異の検出
上記遺伝子変異の検出用のウェルにはプローブ核酸を含む試薬が固定される。K‐ras遺伝子の検出は野生型と13種類の変異があるので少なくとも14のウェルが形成された本発明の試料分析チップを使用し、当該ウェルのそれぞれに対応した試薬が固定化されていることが好ましい。
【0056】
大腸癌などのがん細胞を採取し、検体核酸を精製して、溶液試料とする。本発明の試料分析チップに注入前または注入後配液前に、検体核酸の増幅を行なう。サンプルを送液し、PCRを行う。
【0057】
上記PCRにより核酸が増幅された試料を、各ウェルに配液充填する。
【0058】
ウェルを温調し、前記試薬に混入された蛍光試薬の発光差によって変異を検出することができる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明における実施例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>SNPs解析チップ
SNPsチップ基材として、ポリプロピレン樹脂を用いて、図1に示すような円盤状の外形を持ち、同心円上に波状の主流路103と、主流路谷部103bに連絡口を持つ側路105と、側路の末端にウェル102を有するチップを射出成形により形成した。この基材(ポリプロピレン基材)にはそれぞれ23個のウェル及び側路が形成されている。本実施例のチップは、図4に示すように、ウェルの形状はウェル上面501が内側向けて突出した凹型形状となるように設計した。また比較例として、図6に示すようにウェルの上面502が平坦(非凹型形状)なチップを作製した。なお、実施例及び比較例の主流路は周期的に面積を変え、隣接する主流路山部103aの間の主流路の容積は12μLとなるように設計した。
【0061】
上記ポリプロピレン基材と貼り合わせる第二の基材として、樹脂コーティング層としてポリプロピレン樹脂がコーティングされたアルミシート基材を用いた。樹脂コーティング層には、厚みが約0.07mmのものを使用した。樹脂コーティング層は融点が120度前後であり、アルミニウム側に熱を与えれば溶融するように該アルミ基材にコーティングされている。
【0062】
さらに、アルミニウム層と樹脂コーティング層の間にカーボンを練りこんだアンカー層が設けられ、レーザ光照射による発熱でも樹脂コーティング層が溶融する構成となっている。
【0063】
該ポリプロピレン基材上のウェルにはインベーダー反応用プローブ試薬とDNAポリメラーゼ、クリベースといった酵素類をピペットで滴下し乾燥固定させた。
【0064】
該ポリプロピレン基材と該アルミ基材を重ね合わせ、アルミ基材側に130度以上の熱を加えることで、該樹脂コーティング層を溶融させて該ポリプロピレン基材とアルミ基材を溶着した。
【0065】
上記の工程で作製したチップに、精製されたゲノムを加えたバッファ溶液を溶液試料としてピペットにて送液し、主流路103に充填した。この段階ではウェル及び側路には試料は浸入していなかった。
【0066】
送液後、5000rpmにてチップ中心を軸としてチップを回転させたところ、各ウェルには11μLの試料が送液された。チップに遠心力を与える手段として、化学、生物反応における試薬の分離などに用いられる卓上小型遠心機を利用した簡易な遠心装置を作成し、これを用いた。遠心時の回転数は回転数測定器にて測定して調整した。
【0067】
なお、遠心時のチップの回転方向に関しては、側路の傾き方向に対していずれの方向に回転させた場合でも回転数の増加中はチップ内の液挙動に影響を及ぼすが、ウェルの配液のばらつきに影響しない事が確認できた。
【0068】
続いて、反応に阻害の無いミネラルオイルを同様の手法で送液したところ、試料はウェルを満たし、残った溶液で側路の半分程度を満たし、オイルは側路の残り半分と流路谷の8割を満たした。
【0069】
なお、本実施例はウェル22箇所に反応用試薬としてインベーダー反応用プローブを固定した。また、反応結果の成否を判定するために、コンタミネーションの有無の確認としてネガティブコントロールを1箇所に設定し、1枚のチップ上で反応試験を行った。
【0070】
該反応容器がオイルによって独立した状態の試料分析チップに95℃と68℃を交互に35サイクルかけ、PCR反応によってサンプルのゲノムを増幅する。続いて、63℃で30min温調することにより、酵素反応によりウェル内で蛍光検出反応を生じる。
【0071】
また、このときチップのポリプロピレン基材側は透明であることから、蛍光検出をポリプロピレン基材を通して外部から行った。本実施例では光電子増倍管と光ファイバを組み合わせた蛍光検出装置によって上記蛍光反応を測定した。
【0072】
図5は本実施例である凹型形状のウェル上面501を有するチップを用いて反応を行った1つのウェルの結果であり、気泡701による蛍光強度検出阻害が生じていないことが確認された。
【0073】
図7は比較例である非凹型形状のウェル上面502を有するチップを用いて検出された蛍光反応によるSNPsの解析結果のグラフである。各グラフの縦軸は検出された光の強度であり、蛍光の強度を示す。横軸は時間軸である。矢印で示すように、気泡701による蛍光強度検出阻害が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の反応チップは、例えば核酸等の試料において生化学物質の検出や分析に用いることができる。特にSNPの変異を検出できることから、がんなどの遺伝子、生殖細胞や体細胞遺伝子の変異を検出する手法へ利用することができる。また、複数の溶液を混合する容器、反応容器として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
101・・・基材
102・・・ウェル
103・・・主流路
103a・・主流路山部
103b・・主流路谷部
105・・・側路
107・・・INLET/OUTLET
401・・・第一の基材
402・・・第二の基材
405・・・担持部
501・・・ウェル上面(凹型形状)
502・・・ウェル上面(非凹型形状)
701・・・気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に複数のウェルと、各ウェルに繋がる流路と、流路に溶液を注入するための注入口とを有し、該基材を回転させてウェルに溶液を配液する試料分析チップであって、
前記流路が、前記注入口と連絡し、前記ウェルより回転中心側に設けられた主流路を有し、前記ウェルの上面がウェルの上部中心に向けて突出した凹形状となっていることを特徴とする試料分析チップ。
【請求項2】
前記注入口から各前記ウェルへ繋がる主流路が、回転中心方向に対して傾いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の試料分析チップ。
【請求項3】
前記基材が光透過性材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料分析チップ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の試料分析チップに試料を遠心により前記ウェル内に配液することを特徴とする試料分析方法。
【請求項5】
蛍光測定対象である試料を前記ウェルに収容し、前記試料の光情報を測定することを特徴とする請求項4に記載の試料分析方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の試料分析チップを設置し、回転させる手段と、
前記ウェルでの反応を検出するための検出測定手段と、を有する試料分析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の試料分析装置であって、前記ウェルの中心部で検出測定を行なうことを特徴とする試料分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate