説明

試料分析方法、試料分析装置、および試験片

【課題】濃度情報が現れる面と反対側の面にコード情報22などの個体情報を付与した試験片1を用いた場合でも、設備費の増加や装置の大型化を最小限に抑えることができながら、個体情報を良好に得ることができる試料分析方法および試料分析装置、ならびに試験片を提供する。
【解決手段】試験片1における分析対象物の濃度情報が現れる試験片1の濃度測定面とは反対側の面に、試験片1の個体に関する個体情報であるコード情報22を示し、試験片1の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、試験片1における濃度測定面の分析対象物の濃度情報を取得し、かつ、試験片1を通して、濃度測定面とは反対側の面のコード情報22を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な信号検出方法を用いて液体試料中に含まれる分析対象物の濃度を測定する試料分析方法および試料分析装置、ならびにその試料分析方法に用いる試験片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、在宅医療および医院や診療所などの地域医療の充実、更には早期診断および緊急性の高い臨床検査の増加などに伴い、臨床検査の専門家でなくても、簡易で迅速に高精度測定が可能な分析装置が要望されるようになってきた。そこで煩雑な操作を伴わず、短時間で信頼性の高い測定ができる、POCT(Point of Care Testing)用の分析装置が注目されている。なお、POCTとは、一般的に開業医、専門医の診察室、病棟および外来患者向け診療所などの「患者の近いところ」で行われる検査の総称である。
【0003】
このPOCTの代表例として、免疫反応を利用したクロマトグラフィー試験片のような乾式のバイオセンサが多数実用化されており、この種のバイオセンサは、試薬の調整が不要で、測定対象となる血液や尿などの液体試料を滴下する等の簡単操作だけで、液体試料中の分析対象物の分析が可能である。
【0004】
このようなクロマトグラフィー用の試験片(以下、単に試験片と呼ぶ)は、血液や尿などの液体試料を添加すると、この液体試料が、試験片上を特異抗体が結合した標識試薬と反応しながら展開して、任意の場所に固定化された別の特異抗体と結合反応し、液体試料中の分析対象物の濃度に応じて呈色するものである。ここで、試験片の呈色結果から分析対象物の濃度に換算するためには、試験片の測定項目毎に異なる検量線や、同項目でもロット毎に異なる検量線の情報や、また試験片の有効期限等の情報(個体情報とも称す)が必要である。これらの呈色結果(濃度情報とも称す)と個別情報とを読み取って入力および確認しながら分析する試料分析装置の一例が、特許文献1、2等に開示されている。
【0005】
図6は、前記特許文献公報1、2に開示された試料分析装置および試料分析方法について説明する図で、図6(a)は試料分析装置に用いられる試験片支持体の全体図、図6(b)は試料分析装置の読み取り光学系の構成を簡略的に示す図である。図6(a)、(b)において、41は試験片40を内部に収納した状態で支持する試験片支持体(試験片のケース)で、この試験片支持体41には、この試験片40が測定する測定項目および試験片40のロットを表す個別情報としてのコード情報42が示されている。また、試験片支持体41には液体試料を滴下(添加)させる滴下窓43が開口されているとともに、試験片の呈色結果(すなわち、分析対象物の濃度情報)を読み取る読み取り窓44も形成されている。
【0006】
この試験片支持体41に収納された試験片の試料を分析する試料分析装置には、集光用レンズ45、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ46などを備えた読み取り装置と、複数個の発光ダイオードを並列した発光素子アレイ47からなる照明装置とが設けられており、発光素子アレイ47で照明された試験片40の表面(測定面)状態が、CCDイメージセンサ46の受光面で結像されて測定される。
【0007】
分析するに際し、まず使用者は、試験片40および試験片支持体41の梱包箱毎に1枚添付されている磁気カードやICカード等を利用して、試験片40の測定項目や製造ロットに対応した検量線と有効期限の情報とを、試料分析装置の読み取り装置に読み取らせて、そのメモリー内に複数記憶させておく。次に、使用者が読み取り装置内に試験片支持体41を挿入すると、読み取り装置のCCDイメージセンサ46によって、試験片40の呈色結果と測定項目および試験片40の製造ロットのコード情報42とが同時に読み込まれる。そして、予め試料分析装置に読み取り装置を介して入力されていた複数の情報から、測定しようとしている試験片40の測定項目と製造ロットに一致した正しい検量線と有効期限を選び出し、分析対象物の濃度を算出する。
【0008】
上記試料分析装置の読み取り装置は、試験片支持体41の表面に記録された、実際に測定しようとする試験片40のコード情報42を、呈色結果の読み取りと同時に自動で読み取ることで、信頼性の高い測定結果を得るものであった。
【0009】
しかし、前記特許文献公報1、2に開示された上記従来構成の読み取り装置においては、試験片支持体(ケース)41の表面に試験片40のコード情報42を記録できる十分な空きスペースがある場合に実施可能なものである。つまり、試験片支持体(ケース)41を使用しないで、試験片単体をむき出しのままで読み取り装置内に挿入するような構成を採用した場合には、試験片の展開層などが設けられている表面にコード情報を記録できる十分な空きスペースが無いので、上記従来構成のシステムでは実際に使用する試験片のコード情報を、読み取り装置内に自動で入力することができなくなってしまう。
【0010】
これに対処する方法としては、図7(a)、(b)に示すように、展開層48などが設けられている試験片40’の、濃度情報が現れる表面側ではなくて、何も設けられていない試験片40’の裏面40a(濃度情報が現れる面と反対側の面)にコード情報42を記載することが考えられる。すなわち、試験片40’の裏面側には展開層48などが設けられていないので、比較的容易かつ良好にコード情報42を記載する(例えば、コード情報42を付与したラベルを貼り付けるなどする)ことができる。そして、この場合には、図8に示すように、コード情報42を読み取る読み取り装置(集光用のレンズ45’やCCDイメージセンサ46’など)や照明装置(発光素子アレイ47’)を別途に設けることで、コード情報42を取得できる。
【特許文献1】特開2006−266882号公報
【特許文献2】特開2006−284279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、この場合には、試験片40’の展開状態を読み取る集光用レンズ45やCCDイメージセンサ46を備えた読み取り装置と、コード情報(個体情報)42を読み取る集光用レンズ45’やCCDイメージセンサ46’を備えた読み取り装置との2台の読み取り装置が必要となり、試料分析装置として設備費が大幅に増加したり、収納スペースの増加による大型化を招いたりする課題を生じてしまう。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するもので、裏面(濃度情報が現れる面と反対側の面)にコード情報などの個体情報を付与した試験片を用いた場合でも、設備費の増加や装置の大型化を最小限に抑えることができながら、個体情報を良好に得ることができる試料分析方法および試料分析装置、ならびに試験片を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の試料分析方法は、液体試料を試験片に添加し、試験片に現れた液体試料中に含まれる分析対象物の濃度情報と、試験片の個体に関する個体情報とに基づいて、分析対象物を分析する試料分析方法であって、試験片における分析対象物の濃度情報が現れる試験片の濃度測定面とは反対側の面に、試験片の個体に関する個体情報を示し、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、試験片における濃度測定面の分析対象物の濃度情報を取得し、かつ、試験片を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴としたものである。
【0014】
この方法により、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した1つの光検出手段によって、試験片の濃度測定面に現れた濃度情報と、試験片の濃度測定面とは反対側の面に示された個体情報との両方の情報を取得することができて、濃度情報と個体情報とをそれぞれ別個の光検出手段によって取得する場合と比較して、試料分析装置の設備費を安価に済ますことができたり、装置の大型化を抑えたりすることができる。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の試料分析方法は、請求項1記載の試料分析方法において、試験片における濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が出現可能な領域よりも試験片の厚み方向に対して光の透過度の高い個体情報取得用領域を、個体情報が設けられている個体情報領域と試験片厚み方向に対して重なる位置に形成し、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、試験片の前記個体情報取得用領域を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴としたものである。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の試料分析方法は、請求項1または2記載の試料分析方法において、撮像手段を光検出手段としたことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項4に記載の試料分析方法は、請求項2記載の試料分析方法において、試験片に個体情報取得用領域を複数設け、各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報を互いに比較して判定することを特徴としたものである。
【0017】
この方法により、各個体情報取得用領域から得た個体情報を互いに比較して判定し、信頼性の高い個体情報を得ることができる。
また、本発明の請求項5に記載の試料分析方法は、請求項3記載の試料分析方法において、各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報が互いに異なっていた場合に、警告動作および測定中止動作の少なくとも一方を行うことを特徴としたものである。
【0018】
この方法により、各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報が互いに異なっていた場合に、信頼性の低い個体情報を用いることが警告されたり、防止されたりする。
また、本発明の請求項6に記載の試料分析方法は、請求項1記載の試料分析方法において、試験片において個体情報が示されている領域と液体試料が展開する展開領域とが試験片厚み方向に対して重ねられて配置され、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、液体試料が展開することによって光の透過度が高められた領域を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴としたものである。
この方法によっても、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、濃度情報と個体情報との両者を取得可能である。また、液体試料が展開する際に光の透過度が高められること、すなわち試験片が本来有している性質を利用しているため、光の透過度を高める構造などを別途に追加して設けなくても済む利点がある。
【0019】
また、本発明の請求項7に記載の試料分析方法は、請求項6記載の試料分析方法において、撮像手段を光検出手段としたことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項8に記載の試料分析方法は、請求項6記載の試料分析方法において、試験片の濃度測定面の濃度情報を照明する波長とは異なる波長で試験片の個体情報が示された面を照明することを特徴としたものである。
【0020】
この方法により、一方の情報(例えば、個体情報)を撮像して読み取る際に、他方の情報(例えば濃度情報)を誤って読み込んでしまうことを最小限に抑えながら、各情報(濃度情報と個体情報)をそれぞれ良好に撮像して読み取ることができる。
【0021】
また、本発明の請求項9に記載の試料分析装置は、液体試料中に含まれる分析対象物の濃度を、液体試料が添加される試験片を用いて分析する試料分析装置であって、分析対象物の濃度情報が現れる試験片の濃度測定面に臨ませて配置され、試験片における濃度測定面の分析対象物の濃度情報を光検出によって取得し、かつ、試験片を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得する光検出手段を備えたことを特徴としたものである。
【0022】
この構成により、試験片の濃度測定面に臨ませて配置した1つの光検出手段によって、試験片の濃度測定面に現れた濃度情報と、試験片の濃度測定面とは反対側の面に記載された個体情報との両方の情報を取得することができて、試料分析装置の設備費を安価に済ましたり、装置の大型化を最小限に抑えたりすることができる。
【0023】
また、本発明の請求項10に記載の試料分析装置は、請求項9記載の試料分析装置において、撮像手段を光検出手段としたことを特徴としたものである。
また、本発明の請求項11に記載の試料分析装置は、請求項9または10に記載の試料分析装置において、試験片の濃度測定面を照明する測定面照明手段と、試験片の個体情報が示された面を照明する個体情報照明手段とを備えたことを特徴としたものである。
【0024】
また、本発明の請求項12に記載の試料分析装置は、請求項11に記載の試料分析装置において、個体情報照明手段は赤外光を照射することを特徴としたものである。
また、本発明の請求項13に記載の試料分析装置は、請求項12に記載の試料分析装置において、赤外光の波長が、700nmから1100nmの範囲内であることを特徴としたものである。
【0025】
また、本発明の請求項14に記載の試料分析装置は、請求項9または10に記載の試料分析装置において、試験片の濃度測定面に向けて照明する照明手段と、試験片の個体情報が示された面に臨んで配設され、試験片を通して前記照明手段から入射した光を、個体情報が示された箇所を通して、反射する反射手段とを備えたことを特徴としたものである。
【0026】
この構成により、1つの照明装置によって、試験片の濃度測定面に現れた濃度情報と、試験片の濃度測定面とは反対側の面に示された個体情報との両方の情報を照明することができて、試料分析装置の設備費を安価に済ますことができる。
【0027】
また、本発明の請求項15に記載の試料片は、液体試料が添加され、液体試料中に含まれる分析対象物の濃度に対応する濃度情報が所定の濃度測定面に現れる試験片であって、前記濃度測定面とは反対側の面に試験片の個体に関する個体情報が示され、濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が現れる領域よりも厚み方向に対して光の透過度の高い個体情報取得用領域が形成され、この個体情報取得用領域が、個体情報が示されている個体情報領域と厚み方向に対して重なる位置に設けられていることを特徴としたものである。
【0028】
この構成において、濃度測定面に臨ませた光検出手段によって、濃度情報を取得できるだけでなく、試験片の個体情報取得用領域を通して、個体情報を取得することができる。
また、本発明の請求項16に記載の試料片は、請求項15に記載の試料片において、濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が現れる領域に対応する試験片の厚みよりも薄い個体情報取得用領域としての特定領域が設けられ、この特定領域と個体情報領域とが厚み方向に対して重なる位置に配置されていることを特徴としたものである。
【0029】
この構成により、比較的簡単な構成で、試験片の個体情報取得用領域を形成できる。
また、本発明の請求項17に記載の試料片は、請求項16に記載の試料片において、それぞれ個別に個体情報を識別可能な特定領域が、複数箇所に形成されていることを特徴としたものである。
【0030】
この構成により、各個体情報取得用領域から得た個体情報を互いに比較して、信頼性の高い個体情報を得ることができる。
また、本発明の請求項18に記載の試料片は、液体試料が添加され、液体試料が展開することで、液体試料中に含まれる分析対象物の濃度に対応する濃度情報が、所定の濃度測定面に現れる試験片であって、前記濃度測定面とは反対側の面に試験片の個体に関する個体情報が示され、個体情報が示されている領域と液体試料の展開領域とが厚み方向に対して重ねられて配置され、液体試料が展開することで前記濃度測定面からの個体情報が示されている領域への光の透過度、或いは個体情報が示されている領域から前記濃度測定面への光の透過度が液体試料の非展開時よりも高くなるよう構成されていることを特徴としたものである。
【0031】
この構成によれば、液体試料が展開する試験片において、液体試料が展開する際に光の透過度が高められること、すなわち試験片が本来有している性質を利用しているため、別途に光の透過度を高める構造などを追加して設けなくても済む利点がある。
【0032】
また、本発明の請求項19に記載の試料片は、請求項15〜18の何れか1項に記載の試料片において、クロマトグラフィー用であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の試料分析方法および試料分析装置ならびに試験片によれば、試験片をむき出しのままで、分析対象物の濃度情報を取得する光検出(撮像)手段を、コード情報などの個体情報読み取り用としても兼用することができる。従って、個体情報を読み取るための専用の光検出(撮像)手段を必要としないので、試料分析装置の設備費を安価に済ますことができたり、装置の大型化を抑えたりすることができ、しかも、高い信頼性を有する濃度測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の実施の形態に係る試料分析方法と、試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置と、これら試料分析方法や試料分析装置に用いる試験片とを、図面と共に詳細に説明する。なお、ここで示す実施の形態は、あくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1におけるクロマトグラフィー測定装置とこのクロマトグラフィー測定装置で用いる試験片との各構成を、図1と図2を用いて説明する。図1は、試験片とこの試験片の呈色結果を測定するクロマトグラフィー測定装置の概略構成を示す図、図2(a)は、試験片の表面側を示す平面図、図2(b)は、試験片の裏面側を示す下面図である。
【0036】
図1、図2(a)における1は試験片(クロマトグラフィー試験片)で、この試験片1は、クロマトグラフィー材料を支持するプラスチック等で構成された支持体2上に、液体試料を毛細管現象により展開するニトロセルロース等の繊維質材料からなる展開層3と、液体試料を添加(点着あるいは塗布)するための試料添加部4と、液体試料が展開する流れ方向(この実施の形態では試験片の長手方向)に対して上流側となる一端側領域と下流側となる他端側領域(いわゆるクロマト上流側端部とクロマト下流側端部)以外の部分を密着した状態で被覆する(図1においては簡略的に図示している)プラスチックテープ等からなる透明な液体不透過性シート材8などが設けられて構成されている。なお、展開層3の一部には、展開層3上を液体試料の展開によって溶解可能なように標識試薬が保持された標識試薬保持部5と、展開層3の領域上に特異的タンパク質等の試薬が固定化された試薬固定化部6と、液体試料を最終的に吸収する吸水部7とが設けられている。
【0037】
また、図2(b)に示すように、本発明の実施の形態に係る試験片1では、液体試料が展開される展開層3が設けられている面(表面とも称す)と反対側の面(裏面とも称す)に、試験片1の個体に関する個体情報としてのコード情報22(図2(b)においてはバーコードの場合を示す)が記載されている。ここで、個体情報であるコード情報22としては、試験片1の測定項目毎に異なる検量線や、試験片1の製造ロット毎に異なる検量線の情報、試験片1の測定項目の情報、また試験片1の有効期限等の情報等が記載される。コード情報22は、透明な粘着テープ25に印刷して試験片に貼り付けても良く、直接試験片1に印刷しても良い。
【0038】
また、図1等に示すように、本発明の実施の形態に係る試験片1においては、支持体2上の幅方向中央寄り部分に展開層3が設けられ、展開層3の両側には、薄肉とされた、個体情報取得用領域としての特定領域(薄肉特定領域)21a、21bが形成されている。ここで、コード情報22は、試験片1の厚み方向に対して何れの特定領域21a、21bにも重なるよう広い領域に示されている。
【0039】
次に、このように構成された試験片1における液体試料の展開動作について説明する。まず液体試料を試料添加部4に添加すると、この液体試料は展開層3を展開し始め、標識試薬保持部5の領域に達する。次に、標識試薬保持部5の領域に保持された標識試薬が液体試料の展開により溶解され、液体試料とともに展開層3を下流側へ展開する。展開層3上には試薬固定化部6が設けられており、液体試料中に分析対象物を含む場合には、試薬固定化部6に固定化されている特異的タンパク質が、分析対象物と標識試薬との複合体に対して結合反応を起こし、試薬固定化部6の領域に呈色反応を示す(呈色反応として出現する)。一方、液体試料中に分析対象物を含まない場合には結合反応は起こらず、呈色反応も現れない。そして最終的に、液体試料は展開層3の最下流領域まで展開し、試験片1の展開動作は終了する。
【0040】
この試験片1の分析対象物を分析する試料分析装置としてのクロマトグラフィー測定装置は、試験片1の表面側(展開層3が設けられている面側)を照明する発光素子9と、試験片1の裏面側(コード情報22が記載されている面側)を照明する発光素子20と、絞り10と、集光レンズ11と、撮像素子12と、計測部19とを備えている。計測部19には、信号変換部13、画像処理部14、吸光度算出部15、濃度判定部16、出力部17およびコード情報検出部18が設けられている。なお、この実施の形態では、絞り10と、集光レンズ11と、撮像素子12とにより撮像手段が構成されており、この撮像手段が試験片1の表面側に臨ませて配置されて、試験片1の表面側から撮像するようになっている。
【0041】
発光素子9としてはランプや発光ダイオードや半導体レーザ等が使用され、発光素子9は、試験片1の展開層3が設けられている表面(濃度測定面とも称す)側を照明する濃度測定面照明手段としての機能をもつ。一方、発光素子20は、試験片1のコード情報22が記載されている裏面(濃度測定面と反対側の面)側を照明する個体情報照明手段としての機能をもつ。絞り10は試験片1から散乱された散乱光の絞りを行う。集光レンズ11は撮像素子12に散乱光を集光させ、試験片1の表面などの像を撮像素子12の面上に結像させる。そして、撮像素子12ではその光を電気信号に変換する。また、計測部19は、撮像素子12からの電気信号を信号変換部13でデジタル信号に変換し、画像処理部14で撮像素子12の各画素についてのノイズ成分を除去しながら測定領域の画像を抽出する画像処理を行う。画像処理を行った後に、吸光度算出部15で試薬固定化部6の呈色の度合を吸光度として算出し、前記吸光度を利用して濃度判定部16で、あらかじめ計測部19に入力されている濃度換算式から液体試料中の分析対象物の濃度を計算し、出力部17で前記濃度を表示する。
【0042】
ここでは、試験片1の濃度測定面側を照明する発光素子9として、波長が610nmの発光ダイオードを使用している。この波長は、金コロイド(標識試薬)と血液(液体試料)との吸光度差が十分得られる条件から選択したものである。また、この後の説明においては、標識試薬に金コロイド、また液体試料に血液を用いた場合について述べる。なお、発光素子9としてランプを使用して、光学フィルタで波長を制限して照明しても同様の効果が得られる。また、撮像素子12にはCCDイメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを使用する。
【0043】
次に、試験片1のコード情報22の読み取り動作を、図1と図2を用いて説明する。図2(a)、(c)、(d)は、2本の厚さの薄い特定領域21a、21bを備えた試験片1の状態を示したものである。
【0044】
図2(a)は、波長610nmの発光ダイオードからなる発光素子9によって照明した試験片1の表面側を示す図であり、液体試料としての血液が展開層3を展開する前の状態を示している。上述したように、3は血液(液体試料)を展開する展開層、4は血液を添加するための試料添加部、5は標識試薬保持部、6は呈色反応を示している試薬固定化部(図中では呈色していない状態なので、点線で場所のみ示している。)、21aと21bは厚さの薄い特定領域である。
【0045】
ここで、特定領域21a、21bは、例えば、展開層3や支持体2(図2では図示していない)をCOレーザ等で溶融させて作製することができるが、この他にも、エキシマレーザ、アルゴンレーザ、YAGレーザ等の他のレーザや、加熱した金属を接触させることでも展開層3や支持体2を溶融させることが可能であり、カッター等の刃物で切り出すことでも特定領域21a、21bの作製が可能である。
【0046】
図2(b)に示すように、コード情報22は、試験片1の裏面から平面視して、厚さの薄い特定領域21a、21bと重なる位置に配設されている。図2(c)および(d)は、発光ダイオードからなる発光素子20によって試験片1の裏面側を照明し、表面側をCCDイメージセンサ(撮像素子12)で撮像した様子を示したものである。厚さの薄い特定領域21a、21bでは、裏面側に備えたコード情報22が、この薄い領域を通過する光によって、コード情報確認部23a、23bに示すように確認することができる。これは、通常では試験片1の裏面側から照明された光は、支持体2や繊維質の展開層3を通る際に強く散乱されるのであるが、展開層3および支持体2の厚さを薄くすることによって、散乱が少なくなって照明光が表面側に到達し易くなるので、裏面側のコード情報22が確認できるようになったものである。なお、図2(c)、(d)に示す状況においては共に裏面側から照明されている場合を示しているので、実際は、厚さの薄い特定領域21a、21bを通過する光以外は暗くて見えていない。ここで厚さの薄い特定領域21a、21bの厚さは、少なくとも展開層3が全て無くなる程、薄くすることが望ましい。これは、展開層3が光を強く散乱させる凹凸の激しい繊維質だからである。
【0047】
また図2(c)は、厚さの薄い特定領域21a、21bが正常である試験片1の状態を示しているが、図2(d)は厚さの薄い特定領域21bの一部に、不連続になっている不良部位24が存在する場合を示している。この不良部位24は、厚さの薄い特定領域21の作製不良や表面に付着したゴミ等によって発生するものである。ここで、発光素子20には発光ダイオードを使用しているが、波長はCCDイメージセンサ(撮像素子12)が受光可能で、コード情報22を印刷したインク等が吸収する範囲であれば任意のもので良く、発光素子20として、発光ダイオード以外にも半導体レーザやランプを使用しても良い。
【0048】
以上の構成において、試験片1を発光素子20により裏面側から照明した状態で、撮像素子12で試験片1を表面側から撮像して電気信号に変換し、信号変換部13で電気信号をデジタル信号に変換した後、画像処理部14で撮像素子12の各画素についてのノイズ成分を除去し、かつ測定領域を抽出する画像処理を行う。そして、コード情報検出部18において、前記特定領域21a、21bに対応する箇所から得られた画像に基づいて、それぞれ実際のコード情報を得る。ここで、特定領域21aから得られたコード情報と、特定領域21bから得られたコード情報とが一致すれば、クロマトグラフィー測定装置は正しい情報が確認できたと判断し、得られたコード情報を濃度判定部16へ送り、試験片1の正しい有効期限や検量線情報を得ることができ、分析対象物の濃度換算が可能となる。
【0049】
また、図2(d)に示すような不良状態であって、特定領域21aから得られたコード情報と、特定領域21bから得られたコード情報とが一致しなかった場合には、誤ったコード情報の可能性があると判断し、クロマトグラフィー測定装置は出力部17へのエラー表示によって使用者に警告を行い、測定中であった試験片1の測定動作を中止する。
【0050】
なお、図2で示した試験片1は必ずしもクロマトグラフィー試験片である必要はなく、また、厚さの薄い特定領域21a、21bなどの、濃度情報が現れる展開層3が設けられている領域よりも厚み方向に対して光の透過度の高い個体情報取得用領域が形成されており、かつ、この個体情報取得用領域(特定領域21a、21b)が、個体情報としてのコード情報22が示されている領域と厚み方向に対して重なる位置に設けられている試験片であればよく、これによれば、試験片1を通して、本発明の個体情報としてのコード情報22を良好に読み出すことができる。
【0051】
また、コード情報22を検出する動作は、試験片1をクロマトグラフィー測定装置内に挿入した状態で行えばよく、血液(液体試料)が展開層3を展開する前、展開中、展開後の何れの場合であっても可能となるものである。
【0052】
このような試料分析方法ならびに試料分析装置、試験片1を採用することにより、試験片1の濃度測定面に臨ませて配置した1組の撮像手段(集光レンズ11や撮像素子12)によって、試験片1の濃度測定面(試薬固定化部6や展開部3が設けられている試験片1の面)に現れた濃度情報である呈色反応の情報を取得できるだけでなく、試験片1の濃度測定面とは反対側の面(試験片1の裏面)に示された個体情報としてのコード情報22をも撮像して取得することができる。したがって、濃度情報と個体情報とをそれぞれ別個の撮像手段によって撮像して取得する場合と比較して、試料分析装置の設備費を安価に済ますことができ、また、試料分析装置の大型化を抑制できる。
【0053】
また、上記のように、個体情報取得用領域(特定領域21a、21b)を2箇所など、複数箇所に設けて、各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報(コード情報22)を互いに比較して判定し、個体情報が互いに異なっていた場合には、警告動作および測定中止動作の少なくとも一方の動作を行うことで、信頼性の低い個体情報を用いることが防止されて、信頼性の高い個体情報を得ることができ、ひいては分析精度の信頼性を向上させることができる。
【0054】
なお、上記した試験片1の厚さの薄い特定領域21a、21bは、展開層3の展開方向に沿って形成されているので、添加された液体試料としての血液が、展開時に試験片1の幅方向に広がることを防止して、液体試料としての血液を微量で済ますことができる作用や、血液が良好に展開方向に進むことが促進されて、測定時間を短縮化できる効果もある。
【0055】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る試料分析方法と、試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置を、図3を用いて説明する。また、実施の形態1では、光検出手段として撮像素子を用いた場合のクロマトグラフィー測定装置を説明したが、この実施の形態2では、光検出手段にフォトダイオード等の受光素子を用いた場合を説明する。ここで、クロマトグラフィー試験片1には図1及び図2で示したものと同様のものを使用する。
【0056】
図3に示すクロマトグラフィー測定装置は、クロマトグラフィー試験片1の表面側(展開層3が設けられている面側)を照明する発光素子9と、試験片1の裏面側(コード情報22が記載されている面側)を照明する発光素子20と、集光レンズ51及び53と、受光素子54と、計測部19とを備えている。計測部19には、信号変換部13、吸光度算出部15、濃度判定部16、出力部17およびコード情報検出部18が設けられている。
【0057】
発光素子9及び20としては、ランプや発光ダイオードや半導体レーザ等が使用され、発光素子9は、試験片1の展開層3が設けられている表面(濃度測定面とも称す)側を、レンズ51によって集光して照明する濃度測定面照明手段としての機能をもつ。一方、発光素子20は、試験片1のコード情報22が記載されている裏面(濃度測定面と反対側の面)側を、レンズ53によって集光して照明する個体情報照明手段としての機能をもつ。受光素子54は、クロマトグラフィー試験片1における散乱光を受光して電気信号に変換する。また、計測部19は、受光素子54からの電気信号を信号変換部13でデジタル信号に変換し、吸光度算出部15で試薬固定化部6の呈色の度合を吸光度として算出し、前記吸光度を利用して濃度判定部16で、あらかじめ計測部19に入力されている濃度換算式から液体試料中の分析対象物の濃度を計算し、出力部17で前記濃度を表示する。
【0058】
ここでは、試験片1の濃度測定面側を照明する発光素子9として、波長が610nmの発光ダイオード、また受光素子54として、フォトダイオードを使用している。
また、図3に示すクロマトグラフィー測定装置は、試験片1に対して、発光素子9からの照明光をレンズ51によって集光させて照射し、発光素子20を消灯した状態で、照明光と試験片1とを相対的に移動させながら、試験片1における反射散乱光の光量変化を、受光素子54で検出する。そして時間的な光量変化に基づいて吸光度を算出して濃度判定を行う。
【0059】
次に、発光素子20からの照明光をレンズ53によって集光させて、個体情報取得用領域(特定領域21aまたは21b)に向けて照明し、発光素子9を消灯した状態で、照明光と試験片1とを相対的に移動させながら、試験片1における反射散乱光の光量変化を、受光素子54で検出する。ここで発光素子20からの照明光は集光しているので、図2におけるコード情報22の明暗部(黒または白で構成された帯状の部位)とスポット状の照明光の位置関係によって、厚さの薄い特定領域21を通過する光量が変化する。従って、照明光と試験片1との相対的な移動に伴う光量変化に基づいて、個体情報取得用領域の個体情報(コード情報22)を読み取ることができる。
【0060】
また、コード情報22を検出する動作は、試験片1をクロマトグラフィー測定装置内に挿入した状態で行えばよく、血液(液体試料)が展開層3を展開する前、展開中、展開後の何れの場合であっても可能となるものである。
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る試料分析方法と、試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置と、これら試料分析方法や試料分析装置に用いる試験片とを、図4、図5を用いて説明する。
【0061】
図4に示すように、この実施の形態3に用いられる試験片1は、上記実施の形態1とほぼ同様な構成を有しているが、この試験片1については、上記実施の形態1の試験片1に設けられていた厚さの薄い特定領域21a、21bが形成されていない点が異なる。また試験片1の幅方向に対しては全幅に近い範囲で展開層3が形成されている。なお、展開層3の一部に、展開層3上を液体試料の展開によって溶解可能なように標識試薬が保持された標識試薬保持部5と、展開層3の領域上に特異的タンパク質等の試薬が固定化された試薬固定化部6と、液体試料を最終的に吸収する吸水部7とが設けられている点は、実施の形態1に用いられる試験片1と同じである。また、4は、液体試料を添加するための試料添加部、8は、液体試料が展開する流れ方向の両端部以外の部分を密着した状態で被覆しているプラスチックテープ等からなる透明な液体不透過性シート材である。また、この実施の形態3においても、試験片1における、展開層3が設けられている面と反対側の面(いわゆる裏面)に、試験片1の個体に関する個体情報としてのコード情報22が記載されている。
【0062】
また、この実施の形態3においては、試験片1の裏面側を照明する発光ダイオードからなる発光素子20が赤外光で照明するよう構成されている点が、実施の形態1と異なる(詳しくは、後述する)。
【0063】
このクロマトグラフィー測定装置の動作について説明する。
図5(a)は、波長610nmの発光ダイオード(発光素子9)によって、表面側が照明された試験片1の表面側の様子を示すものであり、血液(液体試料)を試料添加部4に添加した後、展開層3の終端部まで展開が終了した状態を示している。6は呈色反応を示している試薬固定化部、31は血液(液体試料)とともに展開層3を下流側へ展開した金コロイド(標識試薬)である。
【0064】
図5(b)は、試験片1の裏面側の状態を示している。22は血液(液体試料)が展開する領域と重なる位置に備えたコード情報である。このコード情報22は、透明な粘着テープ25に印刷して試験片1に貼り付けても良く、直接、試験片1に印刷しても良い。
【0065】
図5(c)は、波長850nmの発光ダイオード(発光素子20)によって、裏面側を照明した試験片1を表面側からCCDイメージセンサ(撮像素子12)で撮像した様子であり、血液(液体試料)が展開層3の途中位置32まで展開した状態を示している。血液が展開した領域では、裏面側に備えたコード情報22を血液が展開した領域を通過する光で、展開領域33で示すように確認することができる。しかし血液(液体試料)がまだ展開していない領域では、図示の通りコード情報22は確認できない。これは、試験片1が乾燥した状態では裏面側から照明された光は、支持体2や繊維質の展開層3を通過することによって強く散乱されることによる。しかし、血液(液体試料)が展開層3を展開すれば、展開層3の内部に液体が満たされることになる。従って、展開層3の内部は光学的には凹凸の小さい状態となり、散乱が減少することになるからである。これは、いわゆる光学的マッチングと呼ばれる現象であって、磨りガラスに液体を付着させるとガラスの透明性が高くなり、透けて見えるようになることと同等である。なお、図5(c)は、コード情報22を読み取る原理を説明するために図示しており、実際にはこのような状態で測定装置の読み取り動作は行わない。
【0066】
図5(d)は、図5(c)から、さらに血液(液体試料)が展開層3においてその終端部まで展開した状態を示している。この状態では、図示の通り、裏面側に示したコード情報22を全て確認することが可能となる。ここで、呈色反応を示している試薬固定化部6や、展開層3の終端まで展開した金コロイド(標識試薬)31は、図5(a)に示す、発光素子9で照明した状態で確認できる場合でも、図5(c)及び(d)に示す、発光素子20で照明した状態では影響が小さくなる。これは、試験片1の裏面側を照射する発光素子20の照明光が、その波長に金コロイド(標識試薬)の吸光が小さな850nmの赤外線を使用しているためである(なお、金コロイド(標識試薬)の、波長850nmの場合の吸光量は、波長610nmの光に対する吸光量と比較して、約半減する)。従って、試験片1の裏面側から照明する光の波長を赤外線(赤外光)とすることで、展開層3に存在する金コロイド(標識試薬)の影響を減少させて、裏面側に備えたコード情報22をより良好に確認できるようになった。なお、発光ダイオード(発光素子)20の波長は、赤外線の中でもCCDイメージセンサ(撮像素子12)が受光可能な700nmから1100nmまでが有効である。但し、必ずしも実施の形態3で説明した波長に限定されるものではなく、CCDイメージセンサ(撮像素子12)が受光可能な波長であれば、コード情報22を読み取ることは可能である。
【0067】
すなわち、このような構成の試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置を用いて、試験片1を発光素子20により裏面側から照明して、表面側の像をCCDイメージセンサ(撮像素子12)で撮像して電気信号に変換し、信号変換部13で電気信号をデジタル信号に変換した後、画像処理部14で撮像素子12の各画素についてのノイズ成分を除去し、測定領域を抽出する画像処理を行う。そしてコード情報検出部18において、コード情報に変換し、得られたコード情報を濃度判定部16へ送り、試験片1の正しい有効期限や検量線情報を得ることができ、分析対象物の濃度換算が可能となる。
【0068】
また、このような試料分析方法ならび試料分析装置、試験片1を採用すると、上記実施の形態1のように試験片1に、厚さの薄い特定領域21a、21bを形成しなくても済むので、試験片1としては構造が簡素化され、ひいては、試験片1の製造コストを安価にできる利点がある。
なお、本実施の形態3においても実施の形態2で説明した様に、試験片1の表面側及び裏面側からの照明光を集光し、照明光と試験片1とを相対的に移動させる構成においても同様の効果が得られる。
【0069】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る試料分析方法と、試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置と、これら試料分析方法や試料分析装置に用いる試験片とを、図6を用いて説明する。
【0070】
この実施の形態4では、実施の形態1と同様な構成の試験片1が用いられており、図2(b)に示す場合と同様に、試験片1における展開層3が設けられている表面と反対側の面(いわゆる裏面)に、試験片1の個体に関する個体情報としてのコード情報22が記載されている。なお、コード情報22は、透明な粘着テープ25に印刷して試験片1に貼り付けても良く、直接試験片1に印刷しても良い。図6における25は、コード情報22が印刷された粘着テープで、図面においては、分かり易いように誇張して示している。また、試験片1における幅方向に対する展開層3の両側には、展開層3が設けられずに薄肉とされた、個体情報取得用領域としての特定領域21a、21bが形成されている。
【0071】
この実施の形態4に係る試料分析装置の一例としてのクロマトグラフィー測定装置では、試験片1が載置される箇所に、反射手段としてのミラー36が配設されている。そして、試験片1の表面側(展開層3が設けられている側)を照明する発光素子9から、試験片1の特定領域21a、21bに入射した光がミラー36によって反射され、この光によって、コード情報22も照明されるよう構成されている。したがって、実施の形態1の場合と異なり、試験片1の裏面側を照明する発光素子20は設けられておらず、不要である。
【0072】
上記構成において、図6(b)に示すように、試験片1の表面(展開層3が設けられている面)側を照明する発光素子9の照明光37の一部は、支持体2およびコード情報22を印刷した粘着テープ25を通過してミラー36に到達する。そしてミラー36の表面で到達光が反射するので、この反射光によって、試験片1を下側から照明し、これにより、撮像素子12などの撮像手段により、コード情報22を撮像して認識することができる。
【0073】
この構成によれば、試験片1の裏面側を照明する発光素子20を設けなくて済むので、試料分析装置の設備費をさらに安価に済ますことができ、また、試料分析装置をさらに小型化することができる利点がある。
【0074】
なお、上記の実施の形態では、個別情報(コード情報22)としてバーコードが記載されている場合を述べたが、これに限るものではなく、各種記号以外に、数字等の各種文字などが記載されていてもよく、情報を認識可能なものであれば何でもよい。
【0075】
また、上記実施の形態においては、試験片1として、液体試料が展開されて、濃度に対応する情報が、試験片1の表面側特定箇所に現れるものの場合を述べたが、これに限るものではなく、上記実施の形態1、2、4で述べた装置や方法では、液体試料が展開されるものに限らず、試験片の所定箇所で分析対象物の濃度情報が現れる各種の試験片に同様な技術を適用可能である。
【0076】
また、上記実施の形態では、試験片1が単体でむき出しのままで装置内に挿入される構成の場合を述べたが、これに限るものではなく、試験片支持体(ケース)によって、試験片を支持する構成の場合にも適用可能である。但し、この場合には、試験片支持体における濃度情報や個体情報が示されている箇所は、光が透過できる構造とすることが必要である。なお、この場合において、ミラーなどの反射手段を採用する場合には、試験片支持体(ケース)自体に鏡などの反射手段を内装するようにしてもよい。
【0077】
なお、本実施の形態4においても実施の形態2で説明した様に、試験片1の表面側からの照明光を集光し、照明光と試験片1とを相対的に移動させる構成においても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明にかかる試料分析装置は、試験片の濃度測定面とは反対側の面に示した個体情報を読み取る機能を備えているので、試験片の正しい情報が自動で得られる高信頼なクロマトグラフィー測定装置などに限らず、その他の試料分析装置や試料分析方法としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施の形態1に係るクロマトグラフィー測定装置(試料分析装置)の概略構成を示す図
【図2】同実施の形態1に係るクロマトグラフィー測定装置に用いる試験片を示す図で、(a)は試験片の表面側を示す平面図、(b)は試験片の裏面側を示す下面図、(c)および(d)は、それぞれ、発光素子によって試験片の裏面側を照明して撮像素子で撮像した様子を示した図
【図3】本発明の実施の形態2に係るクロマトグラフィー測定装置(試料分析装置)の概略構成を示す図
【図4】本発明の実施の形態3に係るクロマトグラフィー測定装置(試料分析装置)の概略構成を示す図
【図5】同実施の形態3に係るクロマトグラフィー測定装置に用いる試験片を示す図で、(a)は試験片の表面側を示す平面図、(b)は試験片の裏面側を示す下面図、(c)および(d)は、それぞれ、発光素子によって試験片の裏面側を照明して撮像素子で撮像した様子を示した図
【図6】(a)は本発明の実施の形態4に係るクロマトグラフィー測定装置(試料分析装置)の概略構成を示す図、(b)は試験片をおいた状態を示す図((a)のA−A’線断面図)
【図7】(a)は従来の試験片を示す平面図、(b)は従来の試験片におけるコード情報の読み取り動作を説明する図
【図8】(a)および(b)は従来の試験片を示す平面図および下面図
【図9】従来の試験片におけるコード情報の読み取り動作を説明する図
【符号の説明】
【0080】
1 試験片(クロマトグラフィー試験片)
2 支持体
3 展開層
4 試料添加部
5 標識試薬保持部
6 試薬固定化部
7 吸水部
8 液体不透過性シート材
9、20 発光素子
10 絞り
11、51、53 集光レンズ
12 撮像素子
13 信号処理部
14 画像処理部
15 吸光度算出部
16 濃度判定部
17 出力部
18 コード情報検出部
19 計測部
21a、21b 特定領域
22 コード情報
25 粘着テープ
36 ミラー
54 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を試験片に添加し、試験片に現れた液体試料中に含まれる分析対象物の濃度情報と、試験片の個体に関する個体情報とに基づいて、分析対象物を分析する試料分析方法であって、
試験片における分析対象物の濃度情報が現れる試験片の濃度測定面とは反対側の面に、試験片の個体に関する個体情報を示し、
試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、試験片における濃度測定面の分析対象物の濃度情報を取得し、かつ、試験片を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴とする試料分析方法。
【請求項2】
試験片における濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が出現可能な領域よりも試験片の厚み方向に対して光の透過度の高い個体情報取得用領域を、個体情報が設けられている個体情報領域と試験片厚み方向に対して重なる位置に形成し、
試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、試験片の前記個体情報取得用領域を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項3】
光検出手段は、撮像手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の試料分析方法。
【請求項4】
試験片に個体情報取得用領域を複数設け、各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報を互いに比較して判定することを特徴とする請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項5】
各個体情報取得用領域の撮像データから得た個体情報が互いに異なっていた場合に、警告動作および測定中止動作の少なくとも一方を行うことを特徴とする請求項3に記載の試料分析方法。
【請求項6】
試験片において個体情報が示されている領域と液体試料が展開する展開領域とが試験片厚み方向に対して重ねられて配置され、
試験片の濃度測定面に臨ませて配置した光検出手段により、液体試料が展開することによって光の透過度が高められた領域を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項7】
光検出手段は、撮像手段であることを特徴とする請求項6に記載の試料分析方法。
【請求項8】
試験片の濃度測定面の濃度情報を照明する波長とは異なる波長で試験片の個体情報が示された面を照明することを特徴とする請求項6または7に記載の試料分析方法。
【請求項9】
液体試料中に含まれる分析対象物の濃度を、液体試料が添加される試験片を用いて分析する試料分析装置であって、
分析対象物の濃度情報が現れる試験片の濃度測定面に臨ませて配置され、試験片における濃度測定面の分析対象物の濃度情報を光検出によって取得し、かつ、試験片を通して、濃度測定面とは反対側の面の個体情報を取得する光検出手段を備えたことを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
光検出手段は、撮像手段であることを特徴とする請求項9に記載の試料分析装置。
【請求項11】
試験片の濃度測定面を照明する測定面照明手段と、試験片の個体情報が示された面を照明する個体情報照明手段とを備えたことを特徴とする請求項9または10に記載の試料分析装置。
【請求項12】
個体情報照明手段は赤外光を照射することを特徴とする請求項11に記載の試料分析装置。
【請求項13】
赤外光の波長が、700nmから1100nmの範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の試料分析装置。
【請求項14】
試験片の濃度測定面に向けて照明する照明手段と、試験片の個体情報が示された面に臨んで配設され、試験片を通して前記照明手段から入射した光を、個体情報が示された箇所を通して、反射する反射手段とを備えたことを特徴とする請求項9または10記載の試料分析装置。
【請求項15】
液体試料が添加され、液体試料中に含まれる分析対象物の濃度に対応する濃度情報が所定の濃度測定面に現れる試験片であって、
前記濃度測定面とは反対側の面に試験片の個体に関する個体情報が示され、
濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が現れる領域よりも厚み方向に対して光の透過度の高い個体情報取得用領域が形成され、この個体情報取得用領域が、個体情報が示されている個体情報領域と厚み方向に対して重なる位置に設けられていることを特徴とする試験片。
【請求項16】
濃度情報が出現しない領域に、濃度情報が現れる領域に対応する試験片の厚みよりも薄い個体情報取得用領域としての特定領域が設けられ、この特定領域と個体情報領域とが厚み方向に対して重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項15に記載の試験片。
【請求項17】
それぞれ個別に個体情報を識別可能な特定領域が、複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項16に記載の試験片。
【請求項18】
液体試料が添加され、液体試料が展開することで、液体試料中に含まれる分析対象物の濃度に対応する濃度情報が、所定の濃度測定面に現れる試験片であって、
前記濃度測定面とは反対側の面に試験片の個体に関する個体情報が示され、
個体情報が示されている領域と液体試料の展開領域とが厚み方向に対して重ねられて配置され、
液体試料が展開することで前記濃度測定面からの個体情報が示されている領域への光の透過度、或いは個体情報が示されている領域から前記濃度測定面への光の透過度が液体試料の非展開時よりも高くなるよう構成されていることを特徴とする試験片。
【請求項19】
クロマトグラフィー用であることを特徴とする請求項15〜18の何れか1項に記載の試験片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−150856(P2009−150856A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331274(P2007−331274)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】