説明

試料分析装置

【課題】 電気泳動、捕体への転写および検出の各工程を簡易且つ迅速に行って、試料中の生体物質などの物質の分析を行うことができる、試料分析装置を提供する。
【解決手段】 微細溝12aが形成された下側プレート部材12に上側プレート部材14を貼り合わせることにより、装置の内部に泳動流路13が形成される。電気泳動により生体物質などの物質を泳動流路13に沿った方向に移動させる一対の分離用電極18、20が設けられるとともに、電気泳動により生体物質などの物質を捕体24に転写させる一対の転写用電極16、22が泳動流路13内に配置されている。分離用電極18、20の間に電圧を印加して電気泳動を行った後に、転写用電極16、20の間に電圧を印加して泳動方向を切り替えることにより捕体24への転写を行い、その後、泳動流路13内で検出反応を行うことにより、生体物質などの物質を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の電荷を帯びた物質を検出する試料分析装置に関し、特に、DNA、RNA、タンパク質などの生体物質を特異的に検出する試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNAおよびタンパク質を特異的に検出する方法として、それぞれサザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法およびウエスタンブロッティング法が知られている。これらの方法では、電気泳動と捕体への転写(ブロッティング)を順次行い、蛍光・発光試薬や抗原抗体法により目的物質を検出する。
【0003】
これらの方法の例として、タンパク質を特異的に検出するウエスタンブロッティング法について説明する。ウエスタンブロッティング法は、電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせて、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出する手法である。まず、SDS−PAGE(SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)や等電点電気泳動を行い、その後、ゲルからタンパク質を電気的にメンブランに移動させて固定化することにより、ブロット(メンブラン)を作製する。このメンブランとして、タンパク質が結合し易く且つ疎水性の高いニトロセルロースや、さらに疎水性に優れたPVDF(ポリ二フッ化ビニリデン(Polyvinylidene difluoride))が用いられている。続いて、ブロットを目的タンパク質に対する抗体と反応させて目的タンパク質を検出する。この検出方法として、酵素を用いる方法や蛍光を用いる方法などがある。酵素を用いる方法では、AP(アルカリ性ホスファターゼ(alkaline phosphatase))やHRP(ホース・ラディッシュ・ペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase))などで標識した二次抗体を一次抗体に反応させて、酵素活性による発色や化学発光により目的タンパク質を検出する。化学発光による検出では、X線フィルムへの露光検出、あるいは化学発光を検出可能なスキャナを必要とするが、発色法に比べて10〜50倍以上も感度が高いので、微量タンパク質の検出が容易になる。また、蛍光を用いる方法では、Cy3やCy5で標識した二次抗体を蛍光検出するので、定量性に優れている。このようなウエスタンブロッティング法は、優れた分離能のゲル電気泳動と特異性の高い抗原抗体反応とを組み合わせることにより、細胞抽出液などの複雑なタンパク質溶液中に微量に含まれるタンパク質でも明瞭に検出することができ、ライフサイエンスの様々な分野において、目的タンパク質の検出や解析に利用されている。
【0004】
このように、従来のタンパク質などの生体物質を特異的に検出する方法では、電気泳動と捕体への転写を別々の装置で行う必要がある上、電気泳動後のゲルを電気泳動装置から転写装置に移動して転写する際の熟練も必要となる。また、電気泳動、転写および検出の各工程の操作時間が長く、操作に手間がかかる。
【0005】
電気泳動と転写の両方を行う装置として、水平型サブマリン電気泳動装置のプラットホーム上にゲルを水平に載置し、電気泳動槽内に電気泳動用の緩衝液を入れてゲルを浸漬した状態で電気泳動を行った後、プラットホームからゲルを剥して被転写膜に密着させ、これらを板状電極の間に挟み込んでプラットホーム上に載置し、ゲルと被転写膜を緩衝液に浸漬しないようにして、電気的転写を行う装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−28578号公報(段落番号0005−0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された装置では、電気泳動装置を利用して転写を行うことができるものの、電気泳動後のゲルをプラットホームから剥して被転写膜に密着させた後に板状電極の間に挟みこんで再度プラットホームに載置する必要があり、依然として転写の際の熟練が必要である。また、電気泳動、転写および検出の各工程の操作時間が依然として長く、依然として操作に手間がかかる。
【0008】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、電気泳動、捕体への転写および検出の各工程を簡易且つ迅速に行って、試料中の生体物質などの物質の分析を行うことができる、試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による試料分析装置は、内部に流路が形成された装置本体と、流路内に配置された捕体と、電気泳動により試料中の物質を流路に沿った方向に移動させる一対の分離用電極と、流路内に配置されて電気泳動により試料中の物質を捕体に転写させる一対の転写用電極とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この試料分析装置において、装置本体に、流路の一端部に連通し且つ外部に開口する第1の開口部と、流路の他端部に連通し且つ外部に開口する第2の開口部を形成するのが好ましい。また、一対の分離用電極は、それぞれ第1および第2の開口部近傍に配置されるのが好ましい。さらに、一対の転写用電極が流路に固定され、これらの一対の転写用電極の間に捕体が配置されるのが好ましい。この場合、捕体が一対の転写用電極の一方に固定されるのが好ましい。また、一対の転写用電極が透明材料からなるのが好ましい。
【0011】
また、上記の試料分析装置において、流路が、互いに略平行に延びる複数の流路部からなるようにしてもよい。この場合、複数の流路部の各々が、分離用流路部と、この分離用流路部に沿って両側に延びる一対の転写用流路部とからなり、これらの一対の転写用流路部のそれぞれに一対の転写用電極の各々が配置されるようにしてもよい。
【0012】
また、上記の試料分析装置において、流路が、分離用流路部と、この分離用流路部に沿って両側に延びる一対の転写用流路部とからなり、これらの一対の転写用流路部のそれぞれに一対の転写用電極の各々が配置されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置本体の流路内で試料中の物質の電気泳動、捕体への転写および検出の各工程を行うことにより、操作が非常に簡易になり、各工程に要する時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による試料分析装置の実施の形態では、電気泳動、捕体への転写および検出の各工程を行うための微小流路(マイクロチャネル)が1つのチップに形成され、この微小流路内で電気泳動を行った後、泳動方向を切り替えて捕体への転写を行い、その後、微小流路内で検出反応を行うことにより、試料中の生体物質などの物質を分析することができるようになっている。このように、1つのチップの微小流路内で試料中の物質の電気泳動、捕体への転写および検出の各工程を行うことにより、操作が非常に簡易になり、各工程に要する時間を大幅に短縮することができる。具体的には、微小流路を使用することによる試料中の物質の敏速な電気泳動を行うことが可能になり、電気泳動後に泳動方向を切り替えることにより捕体への転写を簡易且つ連続的に行うことが可能になり、微小流路内において試料中の物質と検出試薬との敏速な反応を行うことが可能になる。
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明による試料分析装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1〜図7は、本発明による試料分析装置の第1の実施の形態を示している。図1に示すように、本実施の形態の試料分析装置10は、例えば、オリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質などの生体物質を含む試料を分析する装置であり、互いに貼り合わされた略矩形の平面形状の下側プレート部材12と上側プレート部材14とから構成されている。下側プレート部材12および上側プレート部材14は、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの樹脂材料またはガラス材料により形成され、同一の材料により形成されるのが好ましい。同一の材料により形成すると、下側プレート部材12と上側プレート部材14の表面電荷を同一にすることができるため、電気泳動の際の試料中の物質に対する電気浸透流を均一にすることができ、試料中の物質の流れを一定にすることができる。
【0017】
図3、図5および図6に示すように、下側プレート部材12には、上側プレート部材14に対向する面(上面)の略中央部に、細長い直線状の微細溝12aが形成されている。この微細溝12aは、一辺の長さが50〜100μm程度の略矩形の断面を有し(図7参照)、数センチメートル程度の長さを有する。微細溝12aの底面の一部には、厚さ0.1μm程度の透明導電材料からなる転写用電極16が設けられている。この転写用電極16は、微細溝12aと略同一の幅を有し、微細溝12aに沿って延びている。また、下側プレート12の上面には、微細溝12aの一端部の近傍に厚さ0.1μm程度の分離用電極18が設けられている。
【0018】
図1、図2、図5および図6に示すように、上側プレート部材14には、微細溝12aの一端および分離用電極18に対向して開口し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(泳動ポリマーおよび試薬の注入・排出口)14aが形成されている。また、上側プレート部材14には、微細溝12aの他端に連通し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(空気抜きポート)14bが形成されている。さらに、上側プレート部材14には、微細溝12aの他端付近に連通し且つ外部に開口するように、貫通孔(試料注入口)14cが形成されている。この貫通孔14cの外部に開口する開口部の形状は略円形であり、この略円形の開口部が細長い微細な連通溝14dを介して略円形の凹部14eに連通している。この凹部14eは、連通溝14dよりも深く形成されている。一方、貫通孔14cの下側プレート部材12に対向する開口部の形状は、電気泳動による分解能を向上させるために、外部に開口する開口部よりも小さな略矩形であり(図4参照)、両開口部の間には傾斜部が形成されている(図5および図6参照)。また、上側プレート部材14には、厚さ0.1μm程度の略L字形の分離用電極20が設けられており、この分離用電極20は、凹部14eの内壁面の連通溝14dと反対側の内壁面に沿って延びる部分と、上側プレート部材14の上面に沿って延びる部分とからなる(図5および図6参照)。
【0019】
また、図5および図6に示すように、上側プレート部材14の裏面(下側プレート部材12に対向する面)には、下側プレート部材12の微細溝12a内に設けられた転写用電極16に対向するように、厚さ0.1μm程度の細長い直線状の透明導電材料からなる転写用電極22が設けられ、その転写用電極22の下側プレート部材12側の表面に転写用電極22と略同一の形状および大きさで厚さ数μmのニトロセルロース膜などのタンパク質吸収材からなる捕体24が設けられている(図4〜図6参照)。なお、この捕体24として、ニトロセルロース膜などの膜の他、目的物質を吸着などにより補足可能なコート剤などの素材や微細網目構造などを利用することができる。
【0020】
上述した下側プレート部材12に上側プレート部材14を接着剤などにより貼り合わせることにより、微細溝12aの開口部が上側プレート部材14によって閉塞されて泳動流路13が形成され、図1および図5に示すような本実施の形態の試料分析装置10を作製することができる。
【0021】
次に、上述した本実施の形態の試料分析装置10を用いて生体物質を分析する方法について説明する。まず、貫通孔14c、連通溝14dおよび凹部14eを泳動バッファで満たし、その後、注入・排出口14aから泳動ポリマーを注入して、泳動流路13を泳動ポリマーで満たす。次に、試料注入口14cから負に帯電した生体物質を含む試料を注入した後、分離用電極18、20の間に電圧を印加して電気泳動を行うことにより、分子量の差に基づいて転写用電極16、22の長手方向の範囲内において生体物質を分離する。次に、分離用電極18、20の間の電圧の印加を止めた後、転写用電極16、22の間に電圧を印加して電気泳動方向を上下方向に切り替えることにより、分離した生体物質を捕体24に転写する。次に、泳動ポリマーを泳動流路13から排出した後、注入・排出口14aから洗浄バッファを注入して補体24を洗浄し、洗浄バッファを排出する。次に、注入・排出口14aから、捕体24上の生体物質と後述する抗体との非特異的結合などの反応を防ぐ処理(ブロッキング処理)を行うためのブロッキング溶液を注入してブロッキング処理を行った後、ブロッキング溶液を排出する。次いで、注入・排出口14aから洗浄バッファを注入して補体24を洗浄し、洗浄バッファを排出する。次に、注入・排出口14aから抗体を注入して反応させた後、抗体を排出する。その後、注入・排出口14aから洗浄バッファを注入して補体24を洗浄し、洗浄バッファを排出する。続いて二次抗体を注入して反応させた後、洗浄する。その後、検出試薬を注入し、最後に、スキャニングによって目的物質(バンド)を検出する。この一連の分析工程における液体の排出は、上側プレート部材14の貫通孔14a、14bおよび14cのうちの1つ以上を用いて加圧や吸引などによって行うことができる。
【0022】
このように、本実施の形態の試料分析装置は、オリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質などの生体物質の電気泳動による分離機構と、これらの生体物質の捕体への転写機構と、比色・蛍光・発光試薬又は抗原抗体反応による目的物質の検出機構を備えているので、操作が非常に簡易になり、各工程に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0023】
図8は、本発明による試料分析装置の第1の実施の形態の変形例の泳動流路の断面を拡大して示している。上述した第1の実施の形態では、図7に示すように、下側プレート部材12の微細溝12aの底面に転写用電極16を設けるとともに、この転写用電極16に対向するように上側プレート部材14の裏面(下側プレート部材12に対向する面)に転写用電極22を設け、この転写用電極22上に捕体24を設けることにより、泳動流路13の上下方向に転写用電圧を印加したが、本変形例では、図8に示すように、泳動流路13の対向する側面に一対の転写用電極16、22を設け、転写用電極22上に捕体24を設けることにより、泳動流路13の図中左右方向に転写用電圧を印加するようになっている。その他の構成は、上述した第1の実施の形態と同様である。このような構成により、転写用電極16、22を透明導電材料により形成しなくても、図中上下方向に光を当てて目的物質からの蛍光などを検出することが可能になる。
【0024】
なお、光を効率的に照射して目的物質からの蛍光などを検出し易くするために、上側プレート部材14や下側プレート部材12に、光制御機能(レンズやプリズムなどによる集光・光路変換機能)や、光拡散機能(光が通過する少なくとも1つの異材質との界面を粗面にすることによって得られる機能)を設けてもよい。
【0025】
[第2の実施の形態]
図9および図10は、本発明による試料分析装置の第2の実施の形態の微細溝の断面を拡大して示している。本実施の形態は、微細溝112aの形状と、転写用電極116、122および捕体124の配置以外は、上述した第1の実施の形態と同様であるので、第1の実施の形態と異なる構成について説明し、その他の構成の説明を省略する。
【0026】
図9に示すように、本実施の形態の微細溝112a(泳動流路113)は、第1の実施の形態の下側プレート部材12と同様の(図示しない)下側プレート部材に形成された細長い直線状の分離用溝部112bと、この分離用溝部112bの両側に分離用溝部112bと平行に形成された細長い直線状の一対の転写用溝部112cと、これらの転写用溝部112cと分離用溝部112bとを連通させる一対の連通部112dとから構成されている。
【0027】
分離用溝部112bは、上述した第1の実施の形態の微細溝12aと同様に、(図示しない)下側プレート部材の(図示しない)上側プレート部材に対向する面(上面)の略中央部に形成され、一辺の長さが50〜100μm程度の略矩形の断面を有し、数センチメートル程度の長さを有する。
【0028】
転写用溝部112cは、それぞれ分離用溝部112bの幅と同程度の幅を有し、分離用溝部112bの深さよりも深く、分離用溝部112bよりも短く形成されている。一方の転写用溝部112cの底面には、厚さ0.1μm程度の転写用電極116が設けられており、他方の転写用溝部112cの底面には、厚さ0.1μm程度の転写用電極122が設けられている。これらの転写用電極116、122は、転写用溝部112cと略同一の幅を有し、転写用溝部112cに沿ってその略全長にわたって延びている。また、転写用電極122の上には、第1の実施の形態と同様に、転写用電極122と略同一の形状および大きさで厚さ数μmのニトロセルロース膜などのタンパク質吸収材からなる捕体124が設けられている。
【0029】
連通部112dは、それぞれ転写用溝部112cと略同一の長さを有し、電気泳動の際に分離用溝部112bに満たされた泳動ポリマーが図9の転写用溝部112cと連通部112dの境界部に点線で示すように表面張力によって転写用溝部112cに入らない程度の微小な深さを有する。
【0030】
上述した本実施の形態の試料分析装置を用いて生体物質を分析する際には、図9に示すように、分離用溝部112bを泳動ポリマーで満たし、(図示しない)一対の分離用電極に電圧を印加して電気泳動を行った後、図10に示すように転写用溝部112cを泳動バッファで満たし、転写用電極122、116の間に電圧を印加して捕体124への転写を行い、その後、微細溝112a内で検出反応を行うことにより、生体物質を分析する。
【0031】
この実施の形態の試料分析装置でも、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0032】
[第3の実施の形態]
図11および図12は、本発明による試料分析装置の第3の実施の形態を示している。本実施の形態は、複数の微細溝212aを形成した以外は、上述した第1の実施の形態と同様であるので、第1の実施の形態と異なる構成について説明し、その他の構成の説明を省略する。
【0033】
図11に示すように、本実施の形態の下側プレート部材212には、図12に示す上側プレート部材214に対向する面(上面)に、複数の細長い直線状の微細溝(泳動流路)212aが互いに平行に延びるように形成されている。これらの微細溝212aは、各々の一端側において、微細溝212aに対して垂直に延びる微細溝212bによって互いに連通している。この微細溝212bは、その略中央部において、微細溝212aと反対側に突出する微細溝212cに連通している。各々の微細溝212aは、上述した第1の実施の形態と同様に、一辺の長さが50〜100μm程度の略矩形の断面を有し、数センチメートル程度の長さを有する。同様に、微細溝212bおよび微細溝212cは、一辺の長さが50〜100μm程度の略矩形の断面を有する。
【0034】
図11に示すように、全ての微細溝212aを横断して覆うように、厚さ0.1μm程度の透明導電材料からなる転写用電極216が設けられており、各々の微細溝212aの底面以外の部分に絶縁材料を塗布することにより、転写用電極216が各々の微細溝212aの底面のみにおいて露出するようになっている。この転写用電極216は、下側プレート部材212の周縁部に設けられた端子216aを介して(図示しない)電源に接続されるようになっている。また、下側プレート部材212の上面には、微細溝212cの近傍に厚さ0.1μm程度の分離用電極218が設けられている。さらに、下側プレート部材212の周縁部には、上側プレート部材214を下側プレート部材212に貼り合わせたときに、後述する上側プレート部材214に設けられた分離用電極220の端子220aを外部に露出させるための切欠き部212dが形成されている。
【0035】
図12に示すように、上側プレート部材214には、微細溝212cおよび分離用電極218に対向して開口し且つ外部に開口するように、断面が略円形の貫通孔(泳動ポリマーおよび試薬の注入・排出口)214aが形成されている。また、上側プレート部材214には、各々の微細溝212aの他端に連通し且つ外部に開口するように、断面が略円形の複数の貫通孔(空気抜きポート)214bが形成されている。さらに、上側プレート部材214には、各々の微細溝212aの他端付近に連通し且つ外部に開口するように、複数の貫通孔(試料注入口)214cが形成されている。これらの貫通孔214cの外部に開口する開口部の形状は略円形であり、これらの略円形の開口部がそれぞれ細長い微細な連通溝214dを介して略円形の凹部214eに連通している。これらの凹部214eは、それぞれ連通溝214dよりも深く形成されている。一方、上述した第1の実施の形態と同様に、各々の貫通孔214cの下側プレート部材212に対向する(図示しない)開口部の形状は、外部に開口する開口部よりも小さな略矩形であり、両開口部の間には(図示しない)傾斜部が形成されている。また、上述した第1の実施の形態と同様に、上側プレート部材214には、厚さ0.1μm程度の略L字形の複数の分離用電極220が設けられており、これらの分離用電極220は、それぞれ凹部214eの内壁面の連通溝214dと反対側の内壁面に沿って延びる部分と、上側プレート部材214の上面に沿って延びる部分とからなる。また、これらの分離用電極220は、上側プレート部材214の周縁部に設けられた端子220aを介して(図示しない)電源に接続されるようになっている。
【0036】
また、上側プレート部材214の裏面(下側プレート部材212に対向する面)には、下側プレート部材212に設けられた転写用電極216に対向するように、厚さ0.1μm程度の(図12において点線で示す)転写用電極222が設けられている。この転写用電極222は、上側プレート部材214の周縁部に設けられた(図12において点線で示す)端子222aを介して(図示しない)電源に接続されるようになっている。また、転写用電極222の下側プレート部材212側の表面には、上述した第1の実施の形態と同様に、転写用電極222と略同一の形状および大きさで厚さ数μmのニトロセルロース膜などのタンパク質吸収材からなる(図示しない)捕体が設けられている。
【0037】
なお、上述した転写用電極216、222および捕体をそれぞれの泳動流路に別々に設けるようにしてもよい。すなわち、本実施の形態の転写用電極216、222および捕体を、上述した第1の実施の形態の転写用電極16、22および捕体24と同様の形状にしてもよい。
【0038】
さらに、上側プレート部材214の周縁部には、上側プレート部材214を下側プレート部材212に貼り合わせたときに、下側プレート部材212に設けられた転写用電極216の端子216aおよび分離用電極218をそれぞれ外部に露出させるための切欠き部214f、214gが形成されている。
【0039】
上述した下側プレート部材212に上側プレート部材214を接着剤などにより貼り合わせることにより、本実施の形態の試料分析装置を作製することができる。
【0040】
この実施の形態の試料分析装置でも、上述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、複数の微細溝212aが設けられているので、複数の目的物質を同時に検出することができ、第1および第2の実施の形態と比べて、複数の目的物質を迅速に検出することができる。
【0041】
なお、上述した第1〜第3の実施の形態において、分析対象物質は、生体物質に限定されず、電気泳動による分離が可能な帯電物質であればよい。また、上述した第1〜第3の実施の形態において、生体物質を分離した後の転写方向が分離のための泳動方向に対して直交する方向であるとして説明したが、転写方向はそのような方向に限定されず、分離のための泳動方向と異なる方向であればよい。さらに、上述した第1〜第3の実施の形態において、下側プレート部材に形成した溝の断面形状、幅および深さは、上述した断面形状などに特に限定されない。例えば、上述した第1および第3の実施の形態において、溝の断面形状(図7および図8に対応する断面形状)は、矩形に限定されず、台形、三角形、円弧状など、電気泳動を妨げない形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による試料分析装置の第1の実施の形態の斜視図である。
【図2】図1の試料分析装置の平面図である。
【図3】図1の試料分析装置の下側プレート部材の平面図である。
【図4】図1の試料分析装置の上側プレート部材の裏面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】図1の試料分析装置の下側プレート部材と上側プレート部材を貼り合わせる前の状態を示す断面図である。
【図7】図2のVII−VII線に沿って切断した試料分析装置の微細溝の断面を拡大して示す図である。
【図8】本発明による試料分析装置の第1の実施の形態の変形例における微細溝の断面を拡大して示す図である。
【図9】本発明による試料分析装置の第2の実施の形態における微細溝の断面を拡大して示す図であり、電気泳動時の状態を説明する図である。
【図10】本発明による試料分析装置の第2の実施の形態における微細溝の断面を拡大して示す図であり、転写時の状態を説明する図である。
【図11】本発明による試料分析装置の第3の実施の形態の下側プレート部材の平面図である。
【図12】本発明による試料分析装置の第3の実施の形態の上側プレート部材の平面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 試料分析装置
12、212 下側プレート部材
12a、112a、212a、212b、212c 微細溝
13、113 泳動流路
14、214 上側プレート部材
14a、214a 貫通孔(泳動ポリマーおよび試薬の注入・排出口)
14b、214b 貫通孔(空気抜きポート)
14c、214c 貫通孔(試料注入口)
14d、214d 連通溝
14e、214e 凹部
16、116、216 転写用電極
18、218 分離用電極
20、220 分離用電極
22、122、222 転写用電極
24、124 捕体
112b 分離用溝部
112c 転写用溝部
112d 連通部
212d、214f、214g 切欠き部
216a、220a、222a 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路が形成された装置本体と、前記流路内に配置された捕体と、電気泳動により前記流路に沿った方向に試料中の物質を移動させる一対の分離用電極と、前記流路内に配置されて電気泳動により試料中の物質を捕体に転写させる一対の転写用電極とを備えたことを特徴とする、試料分析装置。
【請求項2】
前記装置本体に、前記流路の一端部に連通し且つ外部に開口する第1の開口部と、前記流路の他端部に連通し且つ外部に開口する第2の開口部が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記一対の分離用電極が、それぞれ前記第1および第2の開口部近傍に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記一対の転写用電極が前記流路に固定され、これらの一対の転写用電極の間に前記捕体が配置されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記捕体が前記一対の転写用電極の一方に固定されていることを特徴とする、請求項4に記載の試料分析装置。
【請求項6】
前記一対の転写用電極が透明材料からなることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項7】
前記流路が、互いに略平行に延びる複数の流路部からなることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項8】
前記流路が、分離用流路部と、この分離用流路部に沿って両側に延びる一対の転写用流路部とからなり、これらの一対の転写用流路のそれぞれに前記一対の転写用電極の各々が配置されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の試料分析装置。
【請求項9】
前記複数の流路部の各々が、分離用流路部と、この分離用流路部に沿って両側に延びる一対の転写用流路部とからなり、これらの一対の転写用流路部のそれぞれに前記一対の転写用電極の各々が配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の試料分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−71494(P2006−71494A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255993(P2004−255993)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】