説明

試料容器の保管ラック、試料容器、および試料保管用セット

【課題】保管ラックから試料容器が脱落することを防止できる試料保管用セットを提供する。
【解決手段】本発明の試料保管用セット1は、保管ラック10と複数個の試料チューブ(試料容器)20とで構成されている。保管ラック10は、格子状に仕切られた収容部11を有しており、収容部の側壁には、試料チューブ20を固定して保持するための突起部12が設けられている。複数個の試料チューブ20は、保管ラック10の収容部11にそれぞれ垂直に立てて保管されている。このとき、保管ラック10に設けられた突起部12と試料チューブ20に設けられた絞り部(凹部)とが嵌合することで、試料チューブ20は固定して保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬研究、生化学的情報の保存研究等の分野において、多数の試料を識別・保管するために使用される試料保管用セットに関するものであり、さらに詳しくは、試料を保持する容器(試料容器)及び該容器を行列状に複数本縦立収容する保管ラックを有する試料保管用セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、創薬研究等の分野においては、試料を溶解した溶液をマイクロチューブと呼ばれる試料容器に封入し、このマイクロチューブを格子状に区画された保管ラックに複数本収容し、冷蔵保管や出し入れ搬送を行っていた。具体的には、8行12列で96個に区画された保管ラックにマイクロチューブを垂直に並び立てて収容し、保管や搬送を行っていた。また、同じ大きさ(底面積)の保管ラックで、より小さいマイクロチューブ、すなわち、超マイクロチューブを収容するために、16行24列で384個の総区画数を有する保管ラックも知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2006−208142公報(公開日:2006年8月10日)
【特許文献2】特許第3421252号公報(発行日:平成15年6月30日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の保管ラックは、格子状に配列された所定の空間内に試料容器を載せているのみであり、試料容器が脱落しないような保持機構を有していない。
【0004】
そのため、万一外部から衝撃が加わったり、保管ラックが傾いたりすると、保管ラックに収容された試料容器は保管ラックから容易に抜け落ちてしまう。通常、実験用の試料が封入された各試料容器は、保管ラックの所定の位置に収容されているが、試料容器から抜け落ちてしまうと、元通りの位置に収納しなおすことは不可能である。また、各試料容器にそれぞれ異なる実験用の試料が封入されている場合、各試料容器を保管ラックの所定の各位置に戻さなければ正確な実験データを得ることが不可能となり、大きな問題となる。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、保管ラックから試料容器が脱落することを防止できる保管ラック、および、この保管ラックを含む試料保管用セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる保管ラックは、上記の課題を解決するために、複数の試料容器を配列して保管する保管ラックであって、格子状に仕切られた各区画に上記試料容器を保管するための収容部を有しており、上記収容部の側壁には、上記試料容器を固定して保持するための突起部が設けられていることを特徴としている。
【0007】
上記の構成によれば、収容部の側壁に突起部が設けられていることによって、当該突起部と嵌合する凹部などが設けられている試料容器が収容部に差し込まれた場合、この試料容器が抜け落ちないように固定して保持することができる。したがって、保管中や搬送中に試料容器を収容した保管ラックに衝撃が加わったとしても、保管ラックから試料容器が抜け落ちることがなく、正しい位置に試料容器を保持した状態を維持することができる。このように、本発明によれば、信頼性の高い保管ラックを提供することができる。
【0008】
本発明の保管ラックにおいて、上記突起部は、上記の格子状に仕切られた各収容部における格子の交差部に設けられていることが好ましい。
【0009】
上記の構成によれば、突起部が格子状の区画の対角線上に形成される(すなわち、各突起部が格子の配列に対して斜めの方向に配置される)ことになる。このように、各突起部が斜めに配置されることで、隣接する収容部に形成された突起部との干渉が少なくなり、バネ効果を有する保管ラックの格子状の収容部にたわみをもたせることができる。そのため、保管ラックからの試料容器の取り出しを容易に行うことができる。
【0010】
本発明の保管ラックにおいて、該保管ラックの試料容器差込み側と反対側の面には、各格子の交差部分に対応する位置に凹みが設けられていることが好ましい。
【0011】
上記の構成によれば、保管ラックの裏面(試料容器差込み側と反対側の面)に突起部の動きを妨げない空間が設けられることになるため、収容部により多くのたわみを持たせることができる。そのため、試料容器の差込みおよび取り出しを、より容易に行うことができるとともに、突起部の損傷及び破損が少なく、ラックの耐久性を向上させることができる。なお、保管ラックがプラスチックで形成されている場合、高いバネ効果を有しているため、たわみの効果が特に高い。これに加え、材料としてプラスチックを使用すれば、繰り返し使用してもこの効果が損なわれることがなく再現性および耐久性の高い保管ラックを実現することができる。
【0012】
また、保管ラックの裏面に設けられた上記の凹みは、保管ラックの収容部に形成された突起部のバネ効果によるたわみが形成されやすくなることを目的として設けられたものである。そこで、本発明では、上記のような凹みの代わりに、収容部に形成された突起部の動きを妨げないような空間を形成することによっても、収容部により大きなたわみを持たせることができる。
【0013】
本発明の保管ラックにおいて、上記突起部は、上記交差部の全ての箇所に設けられていることが好ましい。
【0014】
つまり、上記突起部は、格子状に仕切られた収容部の4箇所の交差部の全てに設けられていることが好ましい。これにより、試料容器を安定して固定することができる。
【0015】
本発明の保管ラックにおいて、上記突起部は、上記試料容器の差込み面側へ向かって先細る形状を有していることが好ましい。
【0016】
上記の試料容器の差込み面側へ向かって先細る形状とは、保管ラックの表面側へ向かって徐々に突起部の幅が狭くなり、最端部が尖っている形状のことをいう。また、試料容器の差込み方向とは逆の方向に先細る形状であると言い換えることもできる。上記の構成によれば、外周にツメなどの突起物が形成されている試料容器を使用した場合に、該試料容器を収容部に差し込む際に、ツメなどの突起物と突起部の先端とが引っかかりにくくなり、試料容器をより簡単に差し込むことができる。
【0017】
なお、ツメなどの突起物が複数個設けられている場合には、そのうちの何れか1つの突起物を、他の突起物と比べて試料容器の底部側へ長くすることが好ましい。これにより、他よりも長い突起物が最初に収容部の突起部と突起部との間に入り込み、これによって他の突起物の挿入方向がより確実に定められるため、保管ラックの突起部と試料容器の突起物との間でかみ込みが生じすることを防止することができる。
【0018】
本発明にかかる試料保管用セットは、上記の課題を解決するために、上記の何れかの保管ラックと、該保管ラックに収容される試料容器と、を含んで構成されたものである。
【0019】
上記の構成によれば、試料容器の収容部の側壁に突起部が設けられていることによって、試料容器が保管ラックから抜け落ちないように固定して保持することができる。したがって、保管中や搬送中に保管ラックに衝撃が加わったり、保管ラックが傾いたりしても、試料容器が抜け落ちることなく、正しい位置に試料容器を保持した状態を維持することができる。そのため、本発明によれば、繰り返し使用しても試料容器を確実に保持することができ、信頼性および再現性の高い試料保管用セットを提供することができる。
【0020】
本発明の試料保管用セットにおいて、上記試料容器は、上記保管ラックに設けられた突起部と嵌合する凹部を有していることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、試料容器の凹部と保管ラックのバネ効果を有する突起部とが嵌合することにより、試料容器を保管ラックの収容部に確実に固定することができる。
【0022】
本発明の試料保管用セットにおいて、上記試料容器は、円筒形状をしており、上記凹部は、円筒の断面円の直径が他の部分よりも小さくなることによって形成されていることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、凹部の形状を、円筒の断面円の直径が他の部分よりも小さくなった絞り形状とすることにより、凹部を簡単に形成することができるとともに、該凹部にツメ部を容易に形成することができる。
【0024】
本発明の試料保管用セットでは、上記保管ラックにおいて、上記突起部は、上記の格子状に仕切られた各収容部の角部の少なくとも2箇所に設けられており、上記試料容器の絞り部には、上記保管ラックの収容部に収容されたときに、上記突起部の一つと他の突起部との間に入り込むツメ部が設けられていることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、突起部およびツメ部が互いに障害となって、試料容器が保管ラックの収容部内で回転することを防止することができる。これにより、試料容器に例えばネジ式のキャップが被せられている場合に、保管ラックに試料容器がセットされた状態でこのキャップの取り外しを容易に行うことができる。また、試料容器の閉栓および開栓を機械を用いて自動で行う場合に、機械の構造をシンプルにすることができる。
【0026】
また、上記の構成によれば、試料容器の回転防止と離脱防止とが同時に実現でき、試料容器の安全性を確保することができる。
【0027】
なお、上記ツメ部は、試料容器の底へ向かって先細る形状を有していることが好ましい。ここで、上記の試料容器の底へ向かって先細る形状とは、試料容器の底へ向かって徐々にツメ部の幅が狭くなり、最端部が尖っている形状のことをいう。このような形状を有していることによって、試料容器の保管ラックへのセッティングをよりスムーズに行うことができる。
【0028】
本発明の試料保管用セットにおいて、上記ツメ部は、上記試料容器に複数設けられており、上記の複数のツメ部の何れか一つの長さが、他のツメ部と比べて該試料容器の底方向に長くなっていることが好ましい。
【0029】
上記の構成によれは、試料容器を保管ラックの収容部に収容するときに、他のツメ部と比較して長いツメ部が最初に保管ラックの収容部の空間(各突起部同士の間)に入り込む。そして、これによって試料容器の挿入方向(回転方向)が決定され、隣接する各突起部の間に各ツメ部を一つずつ確実に収めることができる。
【0030】
これにより、試料容器を収容部に差し込む際に試料容器の回転が規制されるため、複数のツメ部が収容部の同一の空間(突起部と突起部との間)に入り込んでしまい、ツメ部と突起部とのかみ込みが生じることを防止することができる。特に、自動の試料容器収容機を使用した場合、手動で行う試料容器の出し入れのように微妙な位置調整を行うことができないが、上記のような構成を有していれば、試料容器の挿入方向が長いツメ部によって決定され、これに導かれるように他のツメ部が各空間に入り込むため、試料容器をよりスムーズに収容部に収めることが可能となる。
【0031】
本発明にかかる試料容器は、上記の課題を解決するために、上記の何れかの試料保管用セットを構成している試料容器であって、上記保管ラックに設けられた突起部と嵌合する凹部を有していることを特徴としている。
【0032】
上記の構成によれば、運搬中や保管中に保管ラックから試料容器が脱落することを防止することができる。そのため、本発明の試料容器によれば、保管における信頼性の高い試料保管用セットを実現することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の保管ラックは、以上のように、複数の試料容器を配列して保管する保管ラックであって、格子状に仕切られた各区画に上記試料容器を保管するための収容部を有しており、上記収容部の側壁には、上記試料容器を固定して保持するための突起部が設けられていることを特徴としている。
【0034】
本発明の試料保管用セットは、以上のように、本発明の何れかの保管ラックと、該保管ラックに収容される試料容器と、を含んで構成されているものである。
【0035】
本発明によれば、試料容器の収容部の側壁に突起部が設けられていることによって、試料容器が保管ラックから抜け落ちないように固定して保持することができる。したがって、保管中や搬送中に保管ラックに衝撃が加わったり、保管ラックが傾いたりしても、試料容器が抜け落ちることなく、正しい位置に試料容器を保持した状態を維持することができる。そのため、本発明によれば、信頼性の高い試料保管用セットを提供することができる。したがって、本発明の試料保管用セットを使用すれば、国内外への試料の輸送時にも高い信頼性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の一実施形態について図1〜図7に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。本実施の形態では、創薬研究用の試料を溶解した溶液を封入する試料チューブと、該試料チューブを保管する保管ラックとから構成される試料保管用セットについて説明する。
【0037】
図1には、本発明の一実施の形態にかかる試料保管用セット1の外観を示す。
図1に示すように、本実施の形態の試料保管用セット1は、試料を保持する試料チューブ20(試料容器)と、複数の試料チューブ20を配列して保管する保管ラック10とから構成されている。
【0038】
図2(a)には、保管ラック10の外観を示す。保管ラック10は、格子状に区画された収容部11(具体的には、8行12列で96個に区画された収容部)を有している。この収容部11に試料チューブ20を垂直に並び立てて収容し、保管や搬送を行う。本実施の形態においては、収容部11の側壁に、試料チューブ20を固定して保持するための突起部12が設けられている。
【0039】
図2(b)には、試料チューブ20の外観を示す。試料チューブ20は、概略的には円筒形状を有しており、この円筒の一方が塞がれて底部22を形成し、内部に試料を保持することができる。底部付近には、円筒の断面円の直径が他の部分よりも小さくなった絞り部(凹部)21が設けられている。
【0040】
試料チューブ20の容量は、特に限定はされないが、96個に区画された収容部を有する保管ラック10の場合には、0.1〜2.0mlの試料チューブが一般的に多用されるため、本実施の形態の試料チューブ20の容量も上記のような容量であることが好ましい。
【0041】
上記のように、本実施の形態の試料保管用セット1では、保管ラック10に突起部12が設けられており、試料チューブ20に絞り部21が設けられている。そして、突起部12が、絞り部21に部分的に嵌まり込むことにより、収容部11に差し込まれた試料チューブ20を固定して保持することができる。そのため、本発明の試料保管用セットでは、搬送中や保管中に、保管ラックから試料容器が脱落することを防止することができる。
【0042】
以下に、保管ラック10の構造について、より具体的に説明する。
図3(a)には、保管ラック10を表面側から見た場合の平面図を示す。図3(b)には、保管ラック10を裏面側から見た場合の平面図を示す。なお、ここで表面側とは、試料チューブ20が差し込まれる側のことを意味し、裏面側とはその反対側のことを意味する。また、図4(a)には、保管ラック10に設けられた一収容部11とその周辺部分(図3(a)において一点鎖線で囲んだ部分)を拡大して示す。また、図4(b)は、図4(a)に示す一収容部11とその周辺部分(図3(b)において一点鎖線で囲んだ部分)を裏面側から見た場合の拡大図である。
【0043】
図3(a)(b)に示すように、8行12列に並んで配置された各収容部11は、格子状に配置された側壁13で仕切られた各区画によって形成されている。
【0044】
そして、図3(a)(b)および図4(a)(b)に示すように、側壁13で形成された格子の各交差部分(一方向に配置された側壁とこれに直交する他方向に配置された側壁とが交差した部分、図3(a)において破線で囲んだ部分)に突起部12が設けられている。つまり、各突起部12は各格子の対角線上に形成されている。
【0045】
これによれば、試料チューブ20を収容部11に差し込んだり、試料チューブ20を収容部11から取り出したりするときに、保管ラック10にたわみを持たせることができる。そのため、試料チューブ20の差込み及び取り出しを容易に行うことができるとともに、保管ラック10を壊れにくい構造にすることができる。
【0046】
つまり、図4(b)に示すように、突起部12が形成されている側壁13の裏側に凹部14が設けられていることによって空間が形成されるため、突起部12がバネ効果によって動くことが可能となり、収容部11により大きなたわみを持たせることができる。そのため、試料チューブ20の差込みおよび取り出しを、スムーズに行うことができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、突起部12は格子状の側壁の交差部分の全ての箇所に設けられている。すなわち、図4(a)(b)に示すように、一収容部につき4箇所の突起部が設けられている。これにより、試料チューブ20を収容部11に安定して固定することができる。
【0048】
但し、本発明は必ずしもこのような構成には限定されず、突起部は少なくとも1つ設けられていればよい。より確実に試料チューブを保持するためには、突起部は2つ以上設けられていることが好ましい。
【0049】
また、図3(b)に示すように、保管ラック10の裏面側には、各格子の交差部分(図3(b)において破線で囲んだ部分)に対応する位置に空間を形成してスプリング効果を持たせるための凹部(凹み)14が設けられている。このような凹部14が設けられていることによって、試料チューブ20が差し込まれたときに収容部11に設けられた突起部12が動くことのできる空間ができ、収容部11により大きなたわみを形成することができる。これによって、試料チューブ20の差込みおよび取り出しを、より容易に行うことができる。また、試料チューブ20の出し入れを繰り返し行っても、保管ラック10が変形したり破損したりせず、耐久性および再現性に優れた試料保管用セットを提供することができる。
【0050】
本実施の形態では、図3(b)に示すように、各格子の交差部分に位置する凹部14aだけではなく、格子状に配置された各収容部11の外周部分にも、凹部14bが形成されている。さらに、保管ラック10には、図3(b)に示すように、凹部14bのさらに外側に、保管ラック10の表面から裏面を貫通する孔部15が設けられている。
【0051】
このように、外周部分に凹部14bおよび孔部15が設けられていることによって、保管ラック10の端部に位置する収容部11aに関しても、試料チューブ20が差し込まれたときに突起部12が動くことのできる空間ができ、収容部11aにより大きなたわみを形成することができる。これにより、端部に位置する収容部11aと、中央部分に位置する収容部11bとが、同一の条件で試料チューブ10を収容することができる。
【0052】
なお、保管ラック10の材料は特に限定はされないが、より大きなたわみを持たせることができるように、プラスチックなどの可塑性を有する素材を材料とすることが好ましい。保管ラック10がプラスチックで形成されていれば、プラスチックの板バネ効果によってより大きなたわみを持たせることができる。
【0053】
続いて、試料チューブ20の構造について、より具体的に説明する。
図5には、試料チューブ20を側面から見た様子を示す。なお、本発明の試料チューブ20には、内部の試料を密封するためのキャップが付属品として設けられていてもよいので、図5にはキャップ25も併せて示す。図5に示すキャップ25は、ネジ式のキャップであり、試料チューブ20内の試料がこぼれないように密封することができる。
【0054】
図5に示すように、試料チューブ20は、概略的には円筒形状を有しており、この円筒の一方が塞がれて底部22を形成し、内部に試料を保持することができる。底部付近には、円筒の断面円の直径が他の部分よりも小さくなった絞り部(凹部)21が設けられている。
【0055】
また、試料チューブ20において、絞り部21の底部22により近い部分には、円断面の直径がさらに小さくなることによって形成された係止用凹部24が設けられている。この係止用凹部24に、保管ラック10の収容部11の底面付近に形成された最突起部12aがかみ込むことで、保管ラック10に試料チューブ20が係止される。なお、保管ラック10の収容部11に設けられた最突起部12については、後述する。
【0056】
さらに、試料チューブ20の絞り部22には、複数個(本実施の形態では4個)のツメ部23が設けられている。このツメ部23は、試料チューブ20が保管ラック10の収容部11内に収容されたときに、該収容部の突起部12の設けられていない側壁(すなわち、交差部分以外の側壁)の一部に嵌まり込む。言い換えれば、収容部11の側壁13に複数個設けられた突起部12のうち、隣接し合う突起部12・12同士の間に、上記ツメ部23は入り込む。
【0057】
図6(a)および(b)には、ツメ部23が設けられた試料チューブ20が、保管ラック10の収容部11に差し込まれる様子を示す。なお、図6(a)に示す保管ラック10は、図3(a)に示す保管ラック10のA−A’断面であり、図6(b)に示す保管ラック10は、図3(a)に示す保管ラック10のB−B’断面である。
【0058】
なお、図6(a)および図6(b)に示すように、保管ラック10の各突起部12の底面付近には、収容部11に差し込まれた試料チューブ20を確実に係止するための最突起部12aが設けられている。
【0059】
これらの図に示すように、収容部11に試料チューブ20が差し込まれると、突起部12とツメ部23とが互い違いに配置される。
【0060】
上記の構成によれば、突起部およびツメ部が互いに障害となって、試料容器が保管ラックの収容部内で回転することを防止することができる。これにより、試料容器にネジ式のキャップが被せられている場合に、このキャップの取り外しを、保管ラック10に試料チューブ20をセットした状態で容易に行うことができる。また、機械を用いて閉栓および開栓を自動で行う場合に、機械の構造をシンプルにすることができる。
【0061】
このように、本実施の形態の試料保管用セット1では、保管ラック10の突起部12と試料チューブ20のツメ部23との組み合わせによって、試料チューブ20の回転防止と離脱防止の両方を実現することができる。このような構成によって、試料容器の安定性を最大限確保することができる。
【0062】
なお、本実施の形態ではツメ部23の数は4個であったが、本発明はこのような構成に限定はされない。本発明では、隣接する各突起部の間に入り込む少なくとも1つのツメ部が試料容器に設けられていればよい。なお、本実施の形態のような一つの収容部11に4個の突起部12を有する保管ラック10の場合には、各空間(隣接する各突起部の間)に一つずつのツメ部が収容されるため、ツメ部が4個設けられていることが最も好ましい。
【0063】
本実施の形態では、図6(a)(b)に示すように、突起部12およびツメ部23の先端部はともに、尖った形状を有している。ここで、突起部12の先端部とは、試料チューブ20が差し込まれる側の先端部のことであり、ツメ部23の先端部とは、底部22に最も近い側の先端部のことである。言い換えれば、突起部12は、試料チューブ20の差込み面側へ向かって先細る形状を有しており、ツメ部23は、試料容器の底へ向かって先細る形状を有している。
【0064】
このように、突起部12およびツメ部23の互いに向き合う側の先端部が尖った形状を有していることで、互いの先端部が引っかかりにくくなり、試料チューブ20をスムーズに収容部11に納めることができる。
【0065】
以上のように、本実施の形態の試料保管用セットでは、上記絞り部21の一部分に保管ラック10の突起部12が嵌まり込むことによって、保管ラック10の収容部11に試料チューブ20を固定して保持することができる。そのため、運搬中や保管中に保管ラック10から試料チューブ20が脱落するのを防止することができる。
【0066】
図7には、保管ラック10と試料チューブ20とが嵌合した状態を示す。
この図に示すように、保管ラック10側に設けられた突起部12が、試料チューブ20側の絞り部21に嵌まり込んでいる。また、保管ラック10の収容部11内の突起部12の底面側に設けられた最突起部12aが、係止用凹部24に食い込むことによって、より強固に固定されている。これにより、図7に示すように、試料チューブ20の底部22から係止用凹部24までが、保管ラック10の収容部11から外側へ突き出ている。
【0067】
ここで、係止用凹部24部分の試料チューブ20外径をΦaとし、絞り部21部分の試料チューブ20の外径をΦbとする(図5参照)。また、最突起部12aが形成された底部付近の収容部11の内径をΦAとし、その上部の収容部11の内径をΦBとする(図6(a)参照)。
【0068】
このとき、ΦaよりもΦAの方がやや大きくなっており、ΦbよりもΦBの方がやや大きくなっていることが好ましい。そして全体として、Φa<ΦA<Φb<ΦBの関係を有していることが好ましい。これによれば、図7に示すような嵌合を円滑に行うことができるとともに、嵌合状態を安定して維持することができる。
【0069】
なお、本実施の形態の試料チューブ20には、図5に示すように、キャップ25が付属品として設けられていてもよい。試料チューブ20にキャップ25が被せられていることで、保管中や運搬中に試料チューブ20から内部の試料がこぼれることを防止することができる。また、内部の試料に異物が混入することを防止できるとともに、温度や湿度の変化によって試料の状態が大きく変化することを防止することもできる。
【0070】
図8には、他の形状のキャップを有する試料チューブ20aを示す。図8に示す試料チューブ20aには、ネジ式のキャップではなく、軟らかい材質(例えば、ゴム、エラストマー)でできたキャップ25aが取り付けられる。また、図8に示す試料チューブ20aでは、4つ設けられたツメ部のうち、一つのツメ部23aが、他のツメ部23bと比べて、試料チューブ20の底方向に長くなっている。
【0071】
これによれば、試料チューブ20を保管ラック10の収容部11に収容するときに、他のツメ部23bと比較して長いツメ部23aが最初に保管ラック10の収容部11の空間(各突起部同士の間)に入り込む。そして、これによって試料チューブ20の挿入方向(回転方向)が決定され、隣接する各突起部の間に残りの各ツメ部23bを一つずつ確実に収めることができる。
【0072】
これにより、試料チューブ20を収容部11に差し込む際に試料チューブ20の回転が規制されるため、複数のツメ部が収容部の同一の空間(突起部と突起部との間)に入り込んでしまい、ツメ部と突起部とのかみ込みが生じることを防止することができる。特に、自動の試料チューブ収容機を使用した場合、手動で行う試料容器の出し入れのように微妙な位置調整を行うことができないが、試料チューブ20が上記のような形状を有していれば、試料チューブの挿入方向が長いツメ部23aによって決定され、これに導かれるように他のツメ部23bが各空間に入り込むため、試料チューブ20をよりスムーズに収容部11に収めることが可能となる。
【0073】
また、試料容器の底部には、2次元コードが貼付または印字されていてもよい。この2次元コードについては、特許文献1に記載されている2次元コードなど、従来公知のものを適用できるため、その説明を省略する。
【0074】
なお、本発明の試料容器に上記のような2次元コードが付けられており、この2次元コードで方向性が求められる場合には、保管ラックに収納される各試料容器は、コードが全て同じ向きになるように収容部に収められることが、コード読取装置などの構成を単純にすることができるという点で望ましい。そのために、本発明の試料容器には、コードが全ての試料容器で同じ向きになるように位置決め用の突起部が設けられているとともに、保管ラックには、上記の位置決め用の突起部と嵌合する凹部が設けられていることが好ましい。
【0075】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の試料保管用ラックを用いれば、保管ラックから試料チューブが脱落することなく、サンプルを封入した試料チューブを安定した状態で保管することができる。このように、本発明の試料保管用ラックは従来品と比較して信頼性及び利便性が高いため、創薬研究、医学実験などの分野に適用できる。また、本発明の試料保管用ラックは、国内外の搬送用の保管容器として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる試料保管用セットを示す斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示す試料保管用セットを構成する保管ラックを示す斜視図であり、(b)は、図1に示す試料保管用セットを構成する試料チューブを示す斜視図である。
【図3】(a)は、図2(a)に示す保管ラックを試料容器差込み側から見た平面図である。(b)は、図2(a)に示す保管ラックを、試料容器差込み側とは反対の側から見た平面図である。なお、(a)および(b)では、保管ラックの収容部に試料チューブを差し込む様子を示している。
【図4】(a)は、図3(a)に示す保管ラックにおいて一点鎖線で囲んだ部分を拡大して示す図である。(b)は、図3(b)に示す保管ラックにおいて一点鎖線で囲んだ部分を拡大して示す図である。
【図5】図1に示す試料保管用セットを構成する試料チューブの側面図である。なお、本図では、試料チューブに被せるキャップもあわせて示す。
【図6】(a)は、図3(a)に示す保管ラックのA−A’断面を示す図である。(b)は、図3(a)に保管ラックのB−B’断面を示す図である。
【図7】保管ラックと試料チューブとが嵌合した状態を示す断面図である。
【図8】本発明の試料チューブの他の形態の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 試料保管用セット
10 保管ラック
11 収容部
12 突起部
13 側壁
14 凹部(凹み)
14a 凹部(凹み)
14b 凹部(凹み)
20 試料チューブ(試料容器)
21 絞り部(凹部)
22 底部
23 ツメ部
23a ツメ部(長いツメ部)
23b ツメ部
25 キャップ
25a キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料容器を配列して保管する保管ラックであって、
格子状に仕切られた各区画に上記試料容器を保管するための収容部を有しており、
上記収容部の側壁には、上記試料容器を固定して保持するための突起部が設けられていることを特徴とする保管ラック。
【請求項2】
上記突起部は、上記の格子状に仕切られた各収容部における格子の交差部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の保管ラック。
【請求項3】
該保管ラックの試料容器差込み側と反対側の面には、各格子の交差部分に対応する位置に凹みが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の保管ラック。
【請求項4】
上記突起部は、上記交差部の全ての箇所に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の保管ラック。
【請求項5】
上記突起部は、上記試料容器の差込み面側へ向かって先細る形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の保管ラック。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の保管ラックと、
該保管ラックに収容される試料容器と、
を含んで構成されている試料保管用セット。
【請求項7】
上記試料容器は、上記保管ラックに設けられた突起部と嵌合する凹部を有していることを特徴とする請求項6に記載の試料保管用セット。
【請求項8】
上記試料容器は、円筒形状をしており、
上記凹部は、円筒の断面円の直径が他の部分よりも小さくなることによって形成されていることを特徴とする請求項7に記載の試料保管用セット。
【請求項9】
上記保管ラックにおいて、上記突起部は、上記の格子状に仕切られた各収容部の角部の少なくとも2箇所に設けられており、
上記試料容器の絞り部には、上記保管ラックの収容部に収容されたときに、上記突起部の一つと他の突起部との間に入り込むツメ部が設けられていることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の試料保管用セット。
【請求項10】
上記ツメ部は、上記試料容器に複数設けられており、
上記の複数のツメ部の何れか一つの長さが、他のツメ部と比べて該試料容器の底方向に長くなっていることを特徴とする請求項9に記載の試料保管用セット。
【請求項11】
請求項6〜9の何れか1項に記載の試料保管用セットを構成している試料容器であって、
上記保管ラックに設けられた突起部と嵌合する凹部を有していることを特徴とする試料容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−275476(P2008−275476A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120053(P2007−120053)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(502327481)神戸バイオロボティクス株式会社 (10)
【出願人】(390021669)椿本興業株式会社 (20)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【出願人】(500003567)エフシーアール アンド バイオ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】