説明

試料採取装置、この試料採取装置を備える物質分析システムおよびこの物質分析システムを備える検査システム

【課題】多くの被採取対象から迅速、かつ、効率的に危険物質を検出すること。
【解決手段】複数の人物9を順次入れ替わり導入して人物9に付着した物質を試料として採取するためのサンプリング装置1であって、人物9にエアを吹き付けて人物9から試料を吹き落とすエアシャワ21と、吹き落とされた試料を捕捉するトラップフィルタ25と、人物9が入れ替わるごとにトラップフィルタ25を交換する交換機構とを備えるサンプリング装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料採取装置、この試料採取装置を備える物質分析システムおよびこの物質分析システムを備える検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空港内や公共施設内に危険物が持ち込まれることを防止する危険物検出装置として、採取対象から採取した試料を加熱・気化することにより危険物を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−301749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の検出技術は、試料となる爆発物の粉末等が付着していると考えられる箇所、例えばパソコンのキーボードや鞄のハンドル等を検査片で拭き取ることにより試料を採取し、検査片等ごとに試料を加熱・気化して検出するため、連続で検出をすることができないという不都合が生じる。そのため、検出に労力と時間を要することとなり、大量の検査を短時間で行うことができないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、多くの被採取対象から迅速、かつ、効率的に危険物質を検出することができる試料採取装置、この試料採取装置を備える物質分析システムおよびこの物質分析システムを備える検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、複数の被採取対象を順次入れ替わり導入して該被採取対象に付着した物質を試料として採取するための試料採取装置であって、前記被採取対象に気流を吹き付けて該被採取対象から前記試料を吹き落とす気流吹出し部と、吹き落とされた前記試料を捕捉する捕捉部と、前記被採取対象が入れ替わるごとに前記捕捉部を交換する交換機構とを備える試料採取装置を提供する。
【0006】
本発明の試料採取装置によれば、被採取対象に付着した試料が、気流吹出し部により吹き付けられた気流によって吹き落とされ、捕捉部により捕捉される。したがって、簡易な方法で被採取対象から迅速に試料を採取することができる。また、この捕捉部は、交換機構によって被採取対象ごとに交換されるので、各被採取対象から個別に試料を採取することができる。
【0007】
例えば、人物を被採取対象とした場合、その人物が火薬等の危険物質を扱い、人体や衣服等に火薬粒子等が付着していれば、人物ごとに迅速にその危険物質を採取することができる。なお、被採取対象としては、例えば、人物、衣服、手荷物等が挙げられる。
【0008】
上記発明においては、前記捕捉部が、フィルタであることとしてもよい。
このように構成することで、被採取対象から吹き落とされた試料が混入する気流がフィルタを通過するだけで、試料を捕捉することができる。
【0009】
本発明は、上記発明に係る試料採取装置と、該試料採取装置により採取された試料に含まれる前記物質を気化させる気化部と、該気化部により気化された前記物質を分析する物質分析部とを備える物質分析システムを提供する。
【0010】
本発明の物質分析システムによれば、物質分析部によって得られた分析結果により、被採取対象に付着していた物質が判明する。本発明に係る分析システムは、迅速かつ個別に試料を採取可能な試料採取装置を用いているので、大量の検査を短時間で行うことができる。
【0011】
本発明は、上記発明に係る物質分析システムと、該物質分析システムにより前記物質が分析された前記被採取対象が通過する開閉制御可能なゲートと、前記物質分析システムによって検出された前記物質の分析情報に応じて、前記被採取対象が前記ゲートを通過する前に該ゲートの開閉を制御する開閉制御部とを備える検査システムを提供する。
【0012】
本発明の検査システムによれば、開閉制御部が、物質分析システムによって検出された物質に基づき、被採取対象のゲート通過の可否を管理する。例えば、物質分析システムにより危険性のある物質が検出されなかった被採取対象はゲートが開放されて通過することができ、火薬等の危険物質が検出された被採取対象はゲートが封鎖されて通過を妨げられる。
【0013】
本発明に係る検査システムは、物質分析システムとゲートとを離して設置することができる。被採取対象がゲートに到達するまでに物質を検出することにより、物質分析システムにおいて被採取対象の検査が渋滞するのを回避することができる。したがって、被採取対象が多い場合でも短時間で効率よく危険物質等の検査が行われ、ゲート内に不審者が侵入したり不審物が持ち込まれたりするのを防ぐことができる。
【0014】
上記発明においては、前記被採取対象が個別に有する識別情報を取得する識別情報取得部と、前記物質分析システムによって検出された前記物質の分析情報と前記識別情報取得部によって取得された前記識別情報とを関連付けて記憶する記憶部と、前記被採取対象の前記識別情報を再取得する識別情報再取得部とを備え、前記開閉制御部が、前記識別情報再取得部によって再取得された前記識別情報を前記記憶部に記憶されている前記識別情報と照合し、該識別情報に関連付けられている前記物質の分析情報を読み出すこととしてもよい。
【0015】
このように構成することで、物質分析システムにより検出された分析情報が被採取対象の識別情報と関連付けられて記憶部に記憶される。識別情報再取得部により、記憶部に記憶されている識別情報と一致する識別情報を再取得し、開閉制御部により、その識別情報と関連付けられて記憶されている物質の分析情報に応じてゲートの開閉を制御するので、被採取対象のゲート通過の可否を的確に管理することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多くの被採取対象から迅速、かつ、効率的に危険物質を検出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る一実施形態に係る試料採取装置、この試料採取装置を備える物質分析システムおよびこの物質分析システムを備える検査システムについて、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る検査システム100は、例えば、図1に示すように、空港の税関や入場ゲート等の常設された危険物質の検査エリアにおいて用いられるものであり、危険物質等の検査が行われる第1のゲート3と、検査エリアの出口である第2のゲート(ゲート,記憶部)5と、第2のゲート5の開閉を制御するサーバ(開閉制御部)7とを備えている。
【0018】
なお、危険物質としては、例えば、トリニトロトルエン、トリアセトントリパーオキサイド、ニトログリセリン、へキソーゲン(トリメチレントリニトラミン;RDX)、ペンスリット(ペンタエリスリトールテトラナイトレート;PETN)、ニトロメタン、エチレングリコールジニトラート(EGDN)、オクトーゲン(HMX)、5‐ニトロ‐2,4‐ジヒドロ‐1,2,4‐トリアゾール‐3‐オン(NTO)、ヘキサメチレントリパーオキサイドジアミン(HMTD)、モノアミノトリニトロベンゼン(MATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)等の爆発物等が挙げられる。
【0019】
第1のゲート3は、人物9(図2参照)の識別情報を取得するとともに、その人物9に付着している物質を検査するものである。第1のゲート3は、人物9が所持する切符番号を読み取り人物9の識別情報として取得する図示しない識別情報取得機(識別情報取得部)と、危険物質の検査を行う物質分析システム10とを備えている。
【0020】
物質分析システム10は、図2および図3に示すように、例えば、人物9の人体や衣服に付着している火薬粒子等の物質を試料として採取するサンプリング装置(試料採取装置)1と、サンプリング装置1により採取された試料に含まれる物質を気化する気化容器(気化部)11と、気化容器11において気化された物質を分析して爆発物等の危険物質を検出する試料分析装置(試料分析部)13とを備えている。
【0021】
サンプリング装置1は、ウォークスルータイプの装置であり、床15と、天井17と、これら床15と天井17とを繋ぐ一対の壁19とによって角筒状に形成されたエアシャワ(気流吹出し部)21に人物9を順次入れ替わり導入して試料の採取を行うようになっている。
【0022】
具体的には、サンプリング装置1は、人物9にエア(気流)を吹き付けて人物9に付着している試料を吹き落とす前記エアシャワ21と、噴出されたエアが吸入される吸入口23と、人物9から吹き落とされて、エアとともに吸入口23に吸い込まれた試料を捕捉するトラップフィルタ(捕捉部,フィルタ)25と、トラップフィルタ25を人物9ごとに交換する図示しない交換装置(交換機構)とを備えている。
【0023】
エアシャワ21は、天井17および壁19に複数のエア噴出口(図示略)を有しており、人物9に対して上方および左右の各エア噴出口からエアを噴出するようになっている。また、エアシャワ21は、識別情報取得機と関連して作動するようになっている。
【0024】
具体的には、識別情報取得機により人物9の識別情報が取得されると、エアシャワ21のエアが所定時間噴出され、その間に人物9がエアシャワ21を通過することで人物9に付着している試料が吹き落とされるようになっている。なお、エアシャワ21は、気流により試料を吹き落とすことができればよく、エア噴出口から噴出されるエアをフィルタ等によって浄化する必要はない。
【0025】
吸入口23は、床15にメッシュ状に設けられた複数の穴であり、床15下で1つの流路32に接続されている。
トラップフィルタ25は、床15下の流路32に配置されており、図4に示すように、板状の金属フィルタ29と、金属フィルタ29上に貼り付けられた吸着材31とを備えている。
【0026】
金属フィルタ29は、例えば、厚みが約50〜500μ(例えば、約100μ程度)のステンレス、銅またはアルミ部材である。金属フィルタ29には、厚み方向に貫通する直径約1μ〜1mmの穴が全面にわたりメッシュ状に設けられており、エアが通過できるようになっている。
【0027】
吸着材31は、例えば、厚みが数10〜100μ程度(例えば、100μ)の繊維部材であり、約1μ径の粒子を捕捉することができるようになっている。吸着材31としては、例えば、フッ素樹脂繊維(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PDVF(ポリフッ化ビニリデン))やカーボン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0028】
交換装置は、エアシャワ21のエアが噴出されるたびに、すなわち、人物9が入れ替わるたびに、流路32に装着されているトラップフィルタ25とフィルタバッファ(図示略)にストックされている新しいトラップフィルタ25とを交換するようになっている。また、交換装置は、流路32に装着されていたトラップフィルタ25を気化容器11へ搬送するようになっている。
【0029】
気化容器11は、トラップフィルタ25が搬入される搬入口33と、搬入されたトラップフィルタ25を加熱する気化ヒータ35とを備えている。この気化容器11は、気化ヒータ35により、トラップフィルタ25の吸着材31に付着している試料を大気圧条件下で加熱して、試料に含まれる物質を気化させるようになっている。
【0030】
試料分析装置13は、気化容器11に流通可能に接続され、気化した物質を吸引する試料導入装置37と、試料導入装置37により吸引された物質を分析して爆発物等の危険物質を検出する検出装置39と、検出装置39により得られた検出結果から物質を分析する判定装置(図示略)とを備えている。
【0031】
試料導入装置37は、気化容器11に一端が接続された差動排気配管41と、この差動排気配管41の他端に接続された差動排気ポンプ43と、差動排気配管41および検出装置39とを接続するキャピラリ管45とを備えている。
【0032】
差動排気配管41は、気化容器11と差動排気ポンプ43とが流通可能になるように接続されている。なお、差動排気配管41は、気化容器11側の流路(すなわち、上流側の流路)の流路断面積が、差動排気ポンプ43側の流路(すなわち、下流側の流路)の流路断面積に比べて小さく形成されていることが望ましい。このようにすることで、差動排気ポンプ43側の流路内部の圧力を低くしても、大気圧条件下の気化容器11内部との圧力差を保ち易くすることができる。
【0033】
また、差動排気配管41には、差動排気配管41の内壁に熱が伝達するように配管周りに配管用ヒータ42が配置され、差動排気配管41全体の内壁が加熱されるようになっている。なお、配管用ヒータ42は、例えば、公知のリボンヒータであり、試料導入装置37の作動中において、100℃以上200℃以下で加熱されるようになっている。
【0034】
また、差動排気配管41の差動排気ポンプ43側には、差動排気ポンプ43の排気流量を制御する調整弁44が設けられている。差動排気配管41は、石英から形成することとしてもよいし、あるいは、差動排気配管41の内壁を石英で覆うこととしてもよい。このようにすることで、物質が差動排気配管41の内壁に付着滞留するのを防止することができる。
【0035】
差動排気ポンプ43は、図示しない吸気口と排気口とを備え、吸気口が差動排気配管41の下流側の端部に流通可能に接続されている。また、差動排気ポンプ43は、差動排気配管41内の気体を吸気口から吸引して排気口から外部に排出することにより、差動排気配管41内を排気して減圧するようになっている。
【0036】
キャピラリ管45は、例えば、内径が約0.3mm、外径が約0.4mmであって、長さが約10cmからなる石英製の細管である。また、キャピラリ管45は、一端が差動排気配管41に接続され、他端が検出装置39内のイオン化チャンバ(図示略)に直結されている。このキャピラリ管45は、差動排気配管41の下流側の配管内部と検出装置39のイオン化チャンバ内部との圧力差を保ちつつ、これらを流通可能に接続するようになっている。
【0037】
検出装置39は、例えば、質量分析法により試料分析を行う質量分析装置である。この検出装置39は、キャピラリ管45が接続されるイオン化チャンバ(図示略)と、イオン化チャンバから送られてきた物質のイオンを検出する検出部(図示略)と、検出装置39内を減圧状態に維持する真空ポンプ47とを備えている。なお、質量分析法は、分解能が高く、かつ、誤報率が低い。
【0038】
イオン化チャンバは、キャピラリ管45を介して送られてきた気流に含まれる物質をイオン化して、イオンを生成させるようになっている。
検出部は、イオン化チャンバにより生成されたイオンを質量の違いによって分離して検出し、物質の構造および組成等を分析するようになっている。また、検出部は、得られた質量分析のスペクトルを判定装置へ送るようになっている。
【0039】
真空ポンプ47は、検出装置39内、特にイオン化チャンバ内を約10−3Paの高真空状態に維持するようになっている。これにより、イオン化チャンバにおいて生成されたイオンが、安定かつ分解せずに検出部に送られるようになっている。なお、検出装置39内の圧力は、キャピラリ管45と差動排気ポンプ43との間に設けられた圧力計(図示略)によって測定することができるようになっている。また、検出装置39の外周周りにはヒータ(図示略)が設けられ、検出装置39の壁面およびイオン化チャンバが加熱されるようになっている。
【0040】
判定装置は、予め計測された様々な火薬等の危険物質の質量分析パターン(例えば、強度と質量数の関係等)のデータベースを有している。この判定装置は、図5に示すように、検出部から送られてきた物質の質量分析のスペクトルと、データベース上の火薬の質量分析パターンとを照合し、物質が火薬等の危険物質かどうかを判定するようになっている。判定装置により得られた判定結果は分析情報として出力され、識別情報取得機により取得された識別情報と関連付けられてサーバ7へ送られるようになっている。
【0041】
第2のゲート5は、第1のゲート3を通過した人物9の識別情報を再取得する識別情報再取得機(識別情報再取得部)49を備えている。
識別情報再取得機49は、人物9が所持する切符番号を読み取り、人物9の識別情報を再取得するようになっている(以下、識別情報再取得機49により取得された情報を「再取得識別情報」という。)。識別情報再取得機49により取得された再取得識別情報は、サーバ7へ送られるようになっている。
【0042】
サーバ7は、識別情報取得機および判定装置から関連付けられて送られてくる識別情報および分析情報を記憶するようになっている。また、サーバ7は、識別情報再取得機49から送られてくる再取得識別情報を、記憶されている識別情報と照合するようになっている。そして、再取得識別情報と一致する識別情報に関連付けられている分析情報に基づいて、第2のゲート5の開閉を制御するようになっている。
【0043】
具体的には、サーバ7は、識別情報再取得機49によって取得された人物9の再取得識別情報と一致する識別情報に関連付けられている物質の分析情報が、第1のゲート3において火薬等の危険物質ではないと判定されたものである場合には、第2のゲート5を開放してその人物9を通過させ、一方、第1のゲート3において火薬等の危険物質であると判定されたものである場合には、第2のゲート5を封鎖して人物9を通過させないようになっている。
【0044】
このように構成された本実施形態に係る試料採取装置1、この試料採取装置1を備える物質分析システム10およびこの物質分析システム10を備える検査システム100の作用について、図6に示すフローチャート図を用いて説明する。
第1のゲート3に人物9が入ると(ステップSA1)、識別情報取得機により切符に付与された切符番号が読み取られ、人物9の識別情報が取得される。続いて、物質分析システム10のエアシャワ21において、人物9に所定時間エア(気流)が吹き付けられ、人体や衣服に付着している試料が吹き落とされる(ステップSB1)。
【0045】
人物9から吹き落とされた試料は気流に乗って床15へと流され、エアとともに吸入口23に吸引される。エアが床15下のトラップフィルタ25を通過すると、エアに混入している試料が吸着材31に付着する。これにより、人物9に付着していた試料がトラップフィルタ25によって捕捉される(ステップSB2)。
【0046】
エアシャワ21のエアの噴出が終了すると、交換装置により、流路32に装着されているトラップフィルタ25が気化容器11へと搬送され(ステップSB3)、フィルタバッファにストックされている新しいトラップフィルタ25が流路32に装着される(ステップSC1)。
【0047】
第1のゲート3においては、ウォークスルータイプのサンプリング装置1を用いたことにより、短時間で効率よく試料を採取することができる。具体的には、人物9が第1のゲート3に入ってから通過するまでの約3秒間で識別情報の取得および試料の採取を行うことができる。また、人物9ごとにトラップフィルタ25を交換するので、個別に試料を捕捉することができる。
【0048】
続いて、第1のゲート3を通過した人物9は第2のゲート5へと向かい、その間に、試料分析装置13によりトラップフィルタ25によって捕捉された試料の分析が行われる。
【0049】
気化容器11においては、気化ヒータ35の作動により、トラップフィルタ25の吸着材31に吸着している試料が大気圧条件下で加熱気化される。また、検出装置39においては、真空ポンプ47の作動により、イオン化チャンバ内が約10−3Paの高真空状態に維持される。なお、検出装置39内の圧力は、キャピラリ管45と差動排気ポンプ43との間に設けられた圧力計によって測定することができる。
【0050】
この状況で、差動排気配管41においては、差動排気ポンプ43の作動により差動排気配管41内が排気されて減圧状態とされ、気化容器11において気化された物質が気流とともに差動排気配管41内に吸引される。差動排気配管41内に吸引された物質を含む気流は、配管用ヒータ42が100℃以上200℃以下に熱せられて差動排気配管41全体の内部が加熱されることにより、物質が内壁に付着滞留することなく差動排気配管41内を通過する。この気流の一部は、差動排気配管41の下流側からキャピラリ管45を通って検出装置39に導入される。
【0051】
ここで、調整弁44の弁機構を調整して差動排気ポンプ43の排気流量を制御し、例えば、差動排気配管41内に約100sccmの流量で物質を含む気流を吸引する。そして、差動排気配管41の下流側の配管内の圧力を50Pa以上70kPa以下の減圧状態に維持する。また、差動排気ポンプ43の作動により、気流を約98sccmの流量で排気口から外部に排出するとともに、その気流の一部をキャピラリ管45を介して約2sccmの流量で検出装置39に導入させる。
【0052】
このようにすることで、差動排気配管41の下流側の配管内部と約10−3Paに維持される検出装置39のイオン化チャンバ内部との圧力差が、大気圧条件下の気化容器11内部と検出装置39のイオン化チャンバ内部との圧力差に比べて小さくなるので、差動排気配管41の下流側の配管内とイオン化チャンバ内との圧力差を圧力損失の少ない流路を用いて保つことができる。
【0053】
すなわち、内径が0.3mm,管長が10cmのキャピラリ管45を用いて、差動排気配管41と検出装置39との圧力差を保つことができる。これにより、キャピラリ管45を通過するのに掛かる時間を大幅に削減することができ、気化容器11において気化された物質を検出装置39へ短時間で導入することが可能となる。なお、気化容器11において加熱されたトラップフィルタ25は、フィルタバッファへと搬送される(ステップSC2)。
【0054】
検出装置39においては、質量分析法によって試料分析が行われる。具体的には、イオン化チャンバに導入された物質がイオン化されて、イオンが検出部へと送られる。そして、検出部により、イオンが質量の違いによって分離されて検出され、物質の構造および組成等が分析される。検出部により分析された質量分析のスペクトルは判定装置へと送られる(ステップSB4)。
【0055】
判定装置においては、検出部から送られてきた物質の質量分析のスペクトルが、データベース上の火薬等の危険物質の質量分析パターンと照合され(ステップSB5)、物質が火薬等の危険物質かどうか判定される(ステップSB6)。この判定結果は、判定装置から分析情報として出力され、識別情報取得機により取得された識別情報と関連付けられてサーバ7へと送られる。
【0056】
検出装置39へ物質を短時間で導入させることが可能な試料導入装置37を備える物質分析システム10を採用したことにより、気化容器11において気化された物質が差動排気配管41内に吸引されてから、約1秒後に検出装置39においてイオンの検出信号を得ることができる。したがって、人物9が第1のゲート3から第2のゲート5へと移動する間に、人物9の識別情報および物質の分析情報をサーバ7に記憶させることが可能となる。
【0057】
第2のゲート5においては、識別情報再取得機49により、人物9の切符番号が再度読み取られ、再取得識別情報としてサーバ7へ送られる。サーバ7においては、識別情報再取得機49から送られてきた再取得識別情報が、記憶されている識別情報と照合される。そして、再取得識別情報と一致する識別情報に関連付けられている物質の分析情報に基づいて第2のゲート5の開閉が制御される。
【0058】
例えば、物質の分析情報が、火薬等の危険物質ではないと判定されたものである場合には(ステップSB6「OK」)、第2のゲート5が開放され(ステップSA2)、人物9のゲート通過が可能となる。一方、分析情報が、火薬等の危険物質であると判定されたものである場合には、第2のゲート5が封鎖され(ステップSA3)、人物9のゲート通過が妨げられる。この場合、人物9は職務質問等を受けることとなる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係るサンプリング装置1、このサンプリング装置1を備える物質分析システム10およびこの物質分析システム10を備える検査システム100によれば、試料の採取および物質の分析が行われる第1のゲート3と、検査エリアの通過の可否が行われる第2のゲート5とを離して設置することができる。人物9が第2のゲート5に到達するまでに物質が検出されることにより、物質分析システム10において人物9の検査が渋滞するのを回避することができる。したがって、乗客等が大勢いる場合でも短時間で効率よく危険物質の検査を行い、第2のゲート5より先や輸送手段に不審者が侵入したり不審物が持ち込まれたりするのを防ぐことができる。
【0060】
なお、本実施形態においては、エアシャワ21として、床15、天井17および一対の壁19からなる角筒状のものを例示して説明したが、これに代えて、例えば、床および一対の壁からなる電車の改札機のようなものを採用してもよい。この場合、一対の壁に配置されたエア噴出口により、人物9に対して横方向からエアを吹き付けることとすればよい。また、本実施形態においては、被採取対象として、人物9を例示して説明したが、例えば、手荷物等の物品に付着している物質を検査することとしてもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、検出装置39として質量分析装置を採用して質量分析法により危険物質を検出することを例示して説明したが、これに代えて、イオンモビリティースペクトル分析法(IMS)、ルミノール化学蛍光反応分析、ラマン分光分析またはガスクロマトグラフ質量分析法(GC‐MS)等により危険物質を検出することとしてもよい。
【0062】
また、本実施形態に係るサンプリング装置1、このサンプリング装置1を備える物質分析システム10およびこの物質分析システム10を備える検査システム100は、以下のように変形することができる。
例えば、図7に示すように、サンプリング装置201が、更に、ミリ波の電磁波を用いた透視装置を備えることとしてもよい。この場合、エアシャワ21の壁19にミリ波発信アンテナ,受信アンテナ221を配置することとすればよい。このようにすることで、人物9が爆発物等の危険物質を扱ったかどうかに加えて、その危険物質を所有しているかどうかを判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る検査システムの全体を示す概略図である。
【図2】図1の検査システムの物質分析システムが備えるサンプリング装置の縦断面図である。
【図3】図1の検査システムの物質分析システムが備える気化容器および試料分析装置を示す該略図である。
【図4】図2のサンプリング装置が備えるトラップフィルタの横断面図である。
【図5】判定装置における物質の質量分析のスペクトルとデータベース上の火薬の質量分析パターンとの照合を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る検査システムの作用を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の一実施形態の変形例に係る検査システムのサンプリング装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 サンプリング装置(試料採取装置)
5 第2のゲート(ゲート,記憶部)
7 サーバ(開閉制御部)
9 人物(被採取対象)
10 物質分析システム
11 気化容器(気化部)
13 試料分析装置(試料分析部)
21 エアシャワ(気流吹出し部)
25 トラップフィルタ(捕捉部,フィルタ)
49 識別情報再取得機(識別情報再取得部)
100 検査システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被採取対象を順次入れ替わり導入して該被採取対象に付着した物質を試料として採取するための試料採取装置であって、
前記被採取対象に気流を吹き付けて該被採取対象から前記試料を吹き落とす気流吹出し部と、
吹き落とされた前記試料を捕捉する捕捉部と、
前記被採取対象が入れ替わるごとに前記捕捉部を交換する交換機構と
を備える試料採取装置。
【請求項2】
前記捕捉部が、フィルタである請求項1に記載の試料採取装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の試料採取装置と、
該試料採取装置により採取された試料に含まれる前記物質を気化させる気化部と、
該気化部により気化された前記物質を分析する物質分析部と
を備える物質分析システム。
【請求項4】
請求項3に記載の物質分析システムと、
該物質分析システムにより前記物質が分析された前記被採取対象が通過する開閉制御可能なゲートと、
前記物質分析システムによって検出された前記物質の分析情報に応じて、前記被採取対象が前記ゲートを通過する前に該ゲートの開閉を制御する開閉制御部と
を備える検査システム。
【請求項5】
前記被採取対象が個別に有する識別情報を取得する識別情報取得部と、
前記物質分析システムによって検出された前記物質の分析情報と前記識別情報取得部によって取得された前記識別情報とを関連付けて記憶する記憶部と、
前記被採取対象の前記識別情報を再取得する識別情報再取得部と
を備え、
前記開閉制御部が、前記識別情報再取得部によって再取得された前記識別情報を前記記憶部に記憶されている前記識別情報と照合し、該識別情報に関連付けられている前記物質の分析情報を読み出す請求項4に記載の検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−204545(P2009−204545A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48792(P2008−48792)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度文部科学省科学技術総合研究委託業務、「重要課題解決型研究等の推進 テロ対策のための爆発物検出・処理統合システムの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】