説明

試料注入装置

【課題】試料導入装置のニードル外周表面における試料の残存量を減らしてキャリーオーバを抑制する。
【解決手段】洗浄ポート17は洗浄液を貯留する空間をもつ金属製容器からなり、下方に入口19aをもち、上方側面に出口19bをもつ。上面にはニードル2を挿入するためのニードル挿入口21が設けられている。洗浄ポート17にはヒータ28が取り付けられている。ヒータ28を駆動することにより、熱伝導性の洗浄ポート17を介して内部の洗浄液を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードルを用いて試料容器から試料を吸引し、所定の注入部にその試料を注入する試料注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料注入装置は、ニードルで試料容器から試料を吸引し、吸引した試料を例えば液体クロマトグラフのインジェクションポートに注入する。試料容器から試料を吸引する際に付着したニードル外周表面の試料が分析に影響を与えることを防止するために、洗浄液を収容するニードル洗浄部が設けられてインジェクションポートへの試料注入を終えたニードル外周表面をニードル洗浄部で洗浄するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−37984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ニードル洗浄部でのニードルの洗浄は常温の洗浄液でニードル外周表面を洗い流すだけの機構であったため、ニードル外周表面に試料が残存してキャリーオーバを引き起こすことがあった。また、ニードル外周表面に洗浄液が残存していても、ニードル内部の試料がニードル外周表面へ移動しやすくなり、キャリーオーバを引き起こすことがあった。微少量の試料の分析を行なう高感度の液体クロマトグラフではキャリーオーバ量が微小であってもが分析結果に影響を与えることがあった。
【0005】
そこで本発明は、ニードル外周表面における試料や洗浄液の残存量を減少させて、キャリーオーバを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる試料注入装置は、試料の吸引と吐出を行なうためのニードルと、ニードルを挿入して試料を注入するためのインジェクションポートと、内部に洗浄液を収容する空間とその空間の洗浄液内にニードルを導くための挿入口をもつ熱伝導性材料からなる洗浄ポート、洗浄ポートに洗浄液を供給するための洗浄液供給部及び洗浄ポートから洗浄液を排出するための洗浄液排出部からなるニードル洗浄部と、洗浄ポートに取り付けられ洗浄ポート内の洗浄液を加熱するためのヒータと、を備えたものである。
【0007】
洗浄液を加熱することでニードルの洗浄効果が高められることが知られている。例えば特許文献1は、洗浄液を収容した容器からニードルへ洗浄液を送液するための配管の一部がカラムオーブン内を通るように配置している。ニードルへ導かれる洗浄液がカラムオーブンを通過するため、ニードル内部が加熱された洗浄液で洗浄される。
【0008】
しかし、この方法は、ニードルの内部を洗浄するものであり、ニードル外周表面を加熱された洗浄液で洗浄することはできない。これに対し、本発明は、ニードルを挿入してニードル外周表面を洗浄するニードル洗浄部の洗浄ポート内の洗浄液を加熱するためのヒータを備えているため、ニードル外周表面を加熱された洗浄液で洗浄することができる。
【0009】
好ましい実施例として、洗浄ポートの温度を計測する温度センサと、温度センサの計測値に基づいて洗浄ポートの温度がニードル洗浄工程までに所定温度になるようにヒータの発熱量を制御する制御装置と、をさらに備えている例を挙げることができる。このように、ニードル洗浄工程時に洗浄液が所定温度になるように必要な時間にのみヒータの発熱を行なうように制御すれば、ヒータの発熱を常時行なうよりも消費電力を低減することができる。
なお、ヒータとは、例えば洗浄ポートの外周部に巻かれたリボンヒータである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の試料注入装置では、洗浄ポートにヒータを取り付けられ、その内部に収容される洗浄液を加熱することができるので、洗浄ポートにおけるニードル外周表面の洗浄効果が高まり、ニードル外周表面における試料の残存料を少なくしてキャリーオーバを抑制することができる。さらに、洗浄液温度が高いため、洗浄ポートから引き上げられた後のニードルの外周表面に残存した洗浄液の揮発が早まり、ニードル内部から外周表面へ試料が移動しにくくなるので、キャリーオーバがさらに抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試料導入装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】同実施例の洗浄ポートの構造の一例を示す断面図である。
【図3】同実施例の制御系統の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、試料注入装置の一実施例を説明する。図1は一実施例の試料注入装置を示す。
試料の吸引と吐出を行なうためのニードル2が試料流路4の先端部に接続されている。ニードル2は図示されていないニードル移動機構によって水平面内方向と垂直方向に移動可能である。試料流路4上にはニードル2先端から吸引した試料を滞留させるサンプルループ6が設けられている。
【0013】
ニードル2の移動範囲内にインジェクションポート12と洗浄ポート17が設けられている。インジェクションポート12はニードル2から試料を注入するためのポートであり、注入された試料は試料導入流路14を介して例えば液体クロマトグラフの分析流路へ導かれるように構成されている。
【0014】
洗浄ポート17は試料吸引後にニードル2の外周表面を洗浄液で洗浄するためのポートである。洗浄ポート17の底部につながる入口19aに洗浄液供給流路18が接続されている。洗浄液供給流路18は送液ポンプ22及び洗浄液容器24を備えて洗浄液供給部を構成しており、送液ポンプ22を駆動することにより洗浄液容器24の洗浄液を洗浄ポート17に供給することができる。洗浄ポート17の上部につながる出口19bに洗浄液排出部としてのドレイン流路20が接続されている。洗浄ポート17、洗浄液供給流路18及びドレイン流路20はニードル洗浄部16を構成している。洗浄液として、例えばメタノール又はアセトニトリルを挙げることができる。
【0015】
図2は洗浄ポート17の一例の断面図である。
洗浄ポート17は洗浄液を貯留する空間をもつ金属製容器からなり、下方に入口19aをもち、上方側面に出口19bをもつ。上面にはニードル2を挿入するためのニードル挿入口21が設けられている。洗浄ポート17にはヒータ28が取り付けられている。ヒータ28は例えば洗浄ポート17の外周部に巻かれたリボンヒータである。ヒータ28を駆動することにより、熱伝導性の洗浄ポート17を介して内部の洗浄液を加熱することができる。洗浄ポート17には温度センサ(図示は省略)が取り付けられており、洗浄ポート17の温度が常時モニタされている。ヒータ28の発熱量は、温度センサによる検出温度に基づいて洗浄ポート17内に貯留された洗浄液温度が例えば40〜60℃程度になるように制御されている。
【0016】
図3は同実施例の制御系統の一例を示すブロック図である。
この試料導入装置は各モジュールを統括制御する演算制御装置32を備えている。演算制御装置32は専用のシステムコントローラ又は汎用のパーソナルコンピュータにより実現される。演算制御部32にはニードル2の動作を制御するニードル駆動制御部32aとニードル洗浄部16を制御する洗浄制御部32bを備えている。
【0017】
ニードル駆動制御部32aは、ニードル2を移動させるためのニードル移動機構34や吸引・吐出機構36を制御する。ニードル移動機構34はニードルを例えば水平面内方向における2方向と垂直方向へ移動させるためのそれぞれのモータを備えている。モータとしては例えばパルスモータを挙げることができる。ニードル駆動制御部32aはニードル駆動機構34のモータへ信号を与えることでニードル2の移動を制御する。吸引・吐出機構36はニードル2先端に流路を介して接続されたシリンジポンプとシリンジポンプのプランジャを駆動するモータやカム機構を備えている。ニードル駆動制御部32aはプランジャを駆動するためのモータに信号を与えることでニードル2の吸引・吐出動作を制御する。
【0018】
洗浄制御部32bはニードル洗浄部16の洗浄液送液ポンプ22及びヒータ28を制御する。洗浄制御部32bは洗浄ポート17に取り付けられた温度センサ30からの検出信号を入力し、その検出信号に基づいて洗浄ポート17の温度が例えば40〜60℃程度になるようにヒータ28の発熱量を制御する。
【0019】
図1も参照してこの試料導入装置の動作について説明する。ニードル移動機構34を駆動することによりニードル2を所定の試料容器2の位置へ移動させ、試料容器8内にニードル2の先端部を挿入する。吸引・吐出機構36を吸引駆動することにより、試料をサンプルループ6に滞留させる。その後、ニードル移動機構34を駆動することによりニードル2をインジェクションポート12の位置へ移動させて先端部をインジェクションポート12内に挿入する。吸引・吐出機構36を吐出駆動することにより、インジェクションポート12から試料を注入する。
【0020】
インジェクションポート12への試料注入後、ニードル移動機構34を駆動することによりニードル2を洗浄ポート17の位置へ移動させ、洗浄ポート17内にニードル2の先端部を挿入する。洗浄ポート17内に40〜60℃程度の温度の洗浄液を貯留し、ニードル2の外周表面を洗浄する。ニードル2の洗浄後、ニードル移動機構34を駆動することによりニードル2を所定のホームポジションへ戻す。送液ポンプ22を駆動して新たな洗浄液を洗浄ポート17に供給することで汚れた洗浄液を新たな洗浄液で置換する。
【0021】
ヒータ28を駆動するタイミングは、ニードル2が洗浄ポート17に挿入されたときに洗浄ポート17内の洗浄液が適温となるようなタイミングであることが好ましいが、ニードル2が洗浄ポート17に挿入されてからヒータ28を駆動してもよい。ただし、ニードル2が洗浄ポート17内に挿入される前、例えば試料のサンプリング工程の間に加熱が行われるほうが、ニードル2が洗浄ポート17に挿入されてから加熱を開始するよりも洗浄工程の時間を短縮できる。また、ヒータ28を常時駆動するようにしてもよいが、上記のように、ニードル2が洗浄ポート17に挿入されるまでに洗浄液が適温になるように必要な時間だけヒータ28を駆動したほうが消費電力を低減できる。
【0022】
また、この実施例では、洗浄ポート17に温度センサ30を取り付けて、その検出信号に基づいて洗浄ポート17の温度を制御するように構成されているが、必ずしも洗浄ポート17に温度センサ30を取り付ける必要はない。洗浄液を加熱する目的は洗浄効果を高めることであるため、洗浄液温度を厳格に調整する必要はない。そのため、例えばヒータ28の駆動時間を規定しておくなどの方法により、洗浄ポート17内部の洗浄液を洗浄効果が高まる程度に加熱すればよい。
【0023】
以上のように、洗浄ポート17内の洗浄液の温度を高めるようにすれば、洗浄液によるニードル2外周表面の洗浄効果を高めることができるだけでなく、洗浄後、洗浄ポート17から引き上げられたニードル2外周表面に付着した洗浄液の揮発が早まり、ニードル2外周表面に残存する液滴量が少なくなるので、ニードル2の内部から外周表面へ試料が移動しにくくなり、キャリーオーバが抑制される。
【符号の説明】
【0024】
2 ニードル
4 試料流路
6 サンプルループ
8 試料容器
10 ラック
12 インジェクションポート
14 試料導入流路
16 ニードル洗浄部
17 洗浄ポート
18 洗浄液供給流路
19a 洗浄液入口
19b 洗浄液出口
20 ドレイン流路
22 送液ポンプ
24 洗浄液容器
28 ヒータ
30 温度センサ
32 演算制御装置
34 ニードル駆動制御部
36 吸引・吐出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の吸引と吐出を行なうためのニードルと、
前記ニードルを挿入して試料を注入するためのインジェクションポートと、
内部に洗浄液を収容する空間とその空間の洗浄液内にニードルを導くための挿入口をもつ熱伝導性材料からなる洗浄ポート、前記洗浄ポートに洗浄液を供給するための洗浄液供給部及び洗浄ポートから洗浄液を排出するための洗浄液排出部からなるニードル洗浄部と、
前記洗浄ポートに取り付けられ前記洗浄ポート内の洗浄液を加熱するためのヒータと、を備えた試料注入装置。
【請求項2】
前記洗浄ポートの温度を計測する温度センサと、
前記温度センサの計測値に基づいて前記洗浄ポートの温度がニードル洗浄工程までに所定温度になるように前記ヒータの発熱量を制御する制御装置と、をさらに備えている請求項1に記載の試料導入装置。
【請求項3】
前記ヒータは前記洗浄ポートの外周表面に巻かれたリボンヒータである請求項1又は2に記載の試料導入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22036(P2011−22036A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168055(P2009−168055)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)