説明

試料長期保存装置

【課題】生体細胞や組織等の対象試料に対応して氷晶発生前の過冷却温度帯を精度良く設定できて、長期保存可能な試料長期保存装置を提供する。
【解決手段】対象試料4を過冷却温度帯まで冷却可能な冷却装置8と、対象試料を収納する冷却室1と、温度測定装置12,15と、冷却室に磁界を付与する磁場発生装置9,10,11と、過冷却温度に設定する温度制御装置15,16とを備え、付与する磁場は静磁場、変動磁場でX,Y,Z方向とし、その強度は0.05mT〜1T、周波数は0.1Hz〜300KHzで、独立に任意可変し得、磁場の重畳により回転磁場も付与し得る。冷却室と冷凍装置間には熱絶縁空間とこれに充填する伝熱流体の供給装置を持ち、この冷却温度により過冷却の解除操作も可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料長期保存装置に係わり、特に、対象試料に対応して過冷却温度帯を精度良く設定し得、もって細胞・組織の損傷を低減して長期の保存を可能にした試料長期保存装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、農学、生物学、工学などの分野において生体細胞や組織を長期に保存する技術の研究が進められてきている。その主体的な技術は凍結・保存・解凍する手段であるが、これらの過程で組織内の水の氷晶が粗大化することにより細胞・組織を機械的に損傷することが避けられない状態にある。
食品の分野では、凍結対象物に変動磁場や音波等の微弱エネルギーを印加させながら凍結することにより、氷晶が微細化して凍結対象物の細胞が破壊されない状態で凍結されるものが主流になりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4041673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の保存方法の問題点は、凍結・保存・解凍する過程で氷晶の粗大化を防止しても、最終的には組織内の水の氷晶により細胞・組織を機械的に損傷することが避けられない状態にあることである。
【0005】
本発明は、凍結・保存・解凍する過程において氷晶を生成しない過冷却状態に注目し、対象試料に対応して過冷却温度帯を精度良く設定できることを特徴とし、細胞・組織の損傷を低減して長期の保存を可能にしたことを特長とする装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明にあっては、食品や生体材料組織等の試料を長期間にわたって保存する試料長期保存装置において、該保存対象試料を収納する冷却室と、該冷却室を保存対象試料の過冷却温度帯まで冷却可能な冷却装置と、該冷却室を加熱する加熱装置と、該冷却室の温度を測定する温度測定装置と、該冷却室に磁界を付与する磁場発生装置と、該温度測定装置で検出した温度値に基づいて該冷却装置と該加熱装置との作動を制御することで、該冷却室の温度を設定された任意値に調節する温度制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明にあっては、前記冷却装置として冷媒にノンフロンを用いたスターリングエンジン式冷凍機を採用したことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明にあっては、前記磁場発生装置が、XYZの三方向の内の少なくとも一方向の磁界を付与する磁場発生手段でなることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明にあっては、前記磁場発生装置が、XYZの三方向の内の少なくとも二方向の磁界を付与する二つの磁場発生手段を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明にあっては、前記磁場発生装置が、XYZの三方向の磁界を付与する三つの磁場発生手段を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明にあっては、前記磁場発生手段は、静磁場または変動磁場を独立的に、あるいは静磁場と変動磁場とを同時に発生可能な磁場発生手段でなることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明にあっては、前記磁場発生手段は、磁場強度を可変させる磁場強度可変調節手段を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明にあっては、前記磁場発生手段は、変動磁場の周波数を可変させる周波数可変調節手段を有していることを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明にあっては、前記静磁場の強度は対象試料に対応して0.05T〜1Tの範囲に設定され、変動磁場の周波数は0.1Hz〜300KHzの範囲とすることを特徴とする。
【0015】
請求項10に係る発明にあっては、前記加熱装置の加熱体が試料冷却室と冷凍装置の間に設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項11に係る発明にあっては、前記試料冷却室と前記冷却装置との間に、熱絶縁空間が設けられるとともに、該熱絶縁空間内に冷却時に伝熱流体を充填する一方、加熱時に該伝熱流体を該熱絶縁空間内から排出する伝熱流体給排手段が設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項12に係る発明にあっては、前記伝熱流体には、二次冷媒としてブライン液または不凍液、エチレングリコール等の流体熱伝達促進溶液が用いられていることを特徴とする。
【0018】
請求項13に係る発明にあっては、前記冷却伝熱流体として、予め対象試料の過冷却温度以下にした冷却伝熱流体を用いることを特徴とする。
【0019】
請求項14に係る発明にあっては、前記試料冷却室内に熱媒体となる流体を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象試料の過冷却状態を安定的に長期間維持でき、もって対象試料を可及的長期間に亘って鮮度良く保存し得る試料長期保存装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る試料長期保存装置の側面断面図を示す。
【図2】図1中のA-A’断面図を示す。
【図3】本発明に係る試料長期保存装置の見取り図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る試料長期保存装置の好適な実施の形態例に付いて添付図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
試料長期保存装置は食品や生体材料組織等の試料を長期間にわたって保存するためのものであり、図1〜図3に示すように、保存対象試料4を収納する試料冷却室1は冷却室本体3と冷却室蓋2とにより区画形成されている。この試料冷却室1は冷却伝導体6を介して冷却装置8に直結されて冷却される構造になっており、冷却室1に設置される対象試料4は試料容器5内に挿入されて冷却されるようになっている。
【0024】
ここで、冷却装置8は冷却室1を保存対象試料4の過冷却温度帯まで冷却可能なものであって、本実施例にあっては、当該冷却装置8にはスターリングクーラーを採用している。このスターリングクーラーはノンフロンで、低電力性、低振動性、低騒音性に優れた環境配慮形冷却装置である。但し、冷却装置8は当該スターリングクーラーに限定されるものではなく、汎用的に用いられている一般的な冷却装置を使用することも可能である。
【0025】
冷却室1内の冷却温度は冷却室壁近傍に設置された温度検出体12により検出され、また対象試料4の温度は図示省略した検出体により検出されるようになっている。また冷却室本体3及び対象試料4の冷却温度は、試料冷却室1と冷凍装置8の間に介在された冷却伝導体6内に組み込まれている加熱体7で調整できる構造になっている。
【0026】
さらに、冷却室本体3及び冷却室蓋2は非磁性体材料で形成されており、この周囲にはXYZ方向の磁界を発生させる磁場発生装置9、10、11が設置されていて、試料冷却室1に均一な三方向からの磁場空間を形成する構造になっている。
【0027】
そして、以上の構造において上記磁場発生装置9、10、11は磁場制御電源14にて駆動され、温度検出体12は温度制御電源15にて駆動され、加熱体7は温度制御電源16にて駆動され、冷却装置8は冷却装置電源18にて駆動され、さらにこれらの全てはシステム制御電源13により最適なシステムコントロールがなされる構造となっている。
【0028】
即ち、温度検出体12と温度制御電源15、加熱体7と温度制御電源16、冷却装置8と冷却装置電源18、さらにシステム制御電源13とによって、温度測定装置及び温度制御装置が構成されており、この温度制御装置は、その冷却速度と目標温度とを対象試料に応じて任意に設定可能な機能を有し、且つその設定精度は±1℃以内の精度を確保し得るように構成されている。そして、当該温度制御装置は、冷却室1の冷却速度とその目標設定温度とを、長期保存する対象試料4に応じた最適な冷却速度と過冷却温度帯とに設定可能になっている。また、当該温度制御装置は温度測定装置と協動して、温度測定装置で検出した冷却室1の温度に基づいて冷却装置8と加熱装置の加熱体7との作動を制御することで、冷却室1の温度を設定された任意値に収束させて自動調節するようになっている。なお、対象試料4は浸漬流体をも含むものとする。
【0029】
また、X,Y,Z方向を指向されて設けられた3つの磁場発生装置9、10、11と磁場制御電源14及びシステム制御電源13とによって、磁場強度を可変させて変動磁場を発生させ得る磁場強度可変調節手段、並びに変動磁場の周波数を可変させ得る周波数可変調節手段が構成されている。磁場強度可変調節手段はX,Y,Z方向を指向した磁場発生装置9、10、11の磁場強度をそれぞれ独立させて、または同時に可変できる機能を有しており、2方向あるいは3方向の磁場強度を異ならせて変動させながら重畳させることによって、冷却室1内に回転磁場をも発生させることができるようになっている。
【0030】
なお、磁場強度並びに周波数を可変させずに一定値に保って制御すれば静磁場が発生することになる。よって、X,Y,Z方向を指向されて設けられた3つの磁場発生装置9、10、11を独立させて制御することにより、それらを選択的に静磁場発生装置または動磁場発生装置として機能させることができ。また、磁場発生装置はX,Y,Z方向を指向させて必ずしも3つ設けなければならないものではなく、少なくとも1つ、あるいは2つ設けるようにしても良い。
【0031】
また、前記磁場の強度は対象試料に対応させて0.05T〜1Tの範囲内の任意値に設定し、変動磁場の周波数は0.1Hz〜300KHzの範囲の任意値に設定するのが望ましい。
【0032】
また、試料長期保存装置はその冷却、過熱をより高速で効率的に制御し易くし得る構造を有している。即ち、図1〜図3に示すように、冷却室本体3と冷凍装置8間に熱絶縁体22を介して熱絶縁空間を設けるとともに、この熱絶縁空間には伝熱流体19を充填または排出できる配管20を通して、当該配管20には開閉弁21を設け、とおして伝熱流体制御できる伝熱流体制御装置を設けた構造である。この構造において冷却時は熱絶縁空間に伝熱流体19を充填させて冷却伝熱の効率を上げ、加熱時にはこの伝熱流体19を排出して熱絶縁空間として冷却室本体3の加熱温度上昇速度を早くできる構造としたものである。この構造によれば冷却室本体3と冷却装置8が分離(熱容量の減少)されることにより冷却/加熱速度がアップされ、より短時間の制御と精度の向上化が図れるようになる。
【0033】
また、前記冷却伝熱流体19として、予め対象試料4の過冷却温度以下にした冷却伝熱流体を用いるようにすれば、当該冷却伝熱流体19を試料冷却室1内に充填させることで対象試料4の過冷却状態を任意に解除できるようになし得る。
【0034】
さらに、試料容器5を含む試料冷却室1内の全体に、または試料容器5内のみに熱媒体となる流体を充填するようにすれば、対象試料4全体への熱伝達の均一化と効率化とが図れるようになる。
【符号の説明】
【0035】
1 冷却室
2 室蓋
3 室本体
4 対象試料
5 試料容器
6 冷却伝導体
7 加熱体
8 冷却装置
9 X方向静磁場および変動磁場発生装置
10 Y方向静磁場および変動磁場発生装置
11 Z方向静磁場および変動磁場発生装置
12 温度検出体
13 システム制御電源
14 磁場制御電源
15 温度制御電源
16 温度制御電源
17 冷却装置電源
18 伝熱流体制御電源
19 伝熱流体
20 配管
21 開閉弁
22 熱絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品や生体材料組織等の試料を長期間にわたって保存する試料長期保存装置であって、
該保存対象試料を収納する冷却室と、
該冷却室を保存対象試料の過冷却温度帯まで冷却可能な冷却装置と、
該冷却室を加熱する加熱装置と
該冷却室の温度を測定する温度測定装置と、
該冷却室に磁界を付与する磁場発生装置と、
該温度測定装置で検出した温度値に基づいて該冷却装置と該加熱装置との作動を制御することで、該冷却室の温度を設定された任意値に調節する温度制御装置と、
を備えたことを特徴とする試料長期保存装置。
【請求項2】
前記冷却装置として冷媒にノンフロンを用いたスターリングエンジン式冷凍機を採用したことを特徴とする請求項1に記載の試料長期保存装置。
【請求項3】
前記磁場発生装置が、XYZの三方向の内の少なくとも一方向の磁界を付与する磁場発生手段でなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項4】
前記磁場発生装置が、XYZの三方向の内の少なくとも二方向の磁界を付与する二つの磁場発生手段を有していることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項5】
前記磁場発生装置が、XYZの三方向の磁界を付与する三つの磁場発生手段を有していることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項6】
前記磁場発生手段は、静磁場または変動磁場を独立的に、あるいは静磁場と変動磁場とを同時に発生可能な磁場発生手段でなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項7】
前記磁場発生手段は、磁場強度を可変させる磁場強度可変調節手段を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項8】
前記磁場発生手段は、変動磁場の周波数を可変させる周波数可変調節手段を有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項9】
前記磁場の強度は対象試料に対応して0.05T〜1Tの範囲に設定され、変動磁場の周波数は0.1Hz〜300KHzの範囲とすることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項10】
前記加熱装置の加熱体が試料冷却室と冷凍装置の間に設けられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項11】
前記試料冷却室と前記冷却装置との間に、熱絶縁空間が設けられるとともに、該熱絶縁空間内に冷却時に伝熱流体を充填する一方、加熱時に該伝熱流体を該熱絶縁空間内から排出する伝熱流体給排手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項12】
前記伝熱流体には、二次冷媒としてブライン液または不凍液、エチレングリコール等の流体熱伝達促進溶液が用いられていることを特徴とする請求項11に記載の試料長期保存装置。
【請求項13】
前記冷却伝熱流体として、予め対象試料の過冷却温度以下にした冷却伝熱流体を用いることを特徴とする請求項11または12のいずれかに記載の試料長期保存装置。
【請求項14】
前記試料冷却室内に熱媒体となる流体を充填することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の試料長期保存装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−103775(P2011−103775A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259313(P2009−259313)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(500063435)株式会社アビー (3)
【Fターム(参考)】