試験体の作成方法
【課題】精度高く強度評価を行うことが可能な試験体の作成方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、強度試験において用いられる試験体の形成方法に関する。まず、母材に対して人工傷を形成する(ステップS2b)。人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成する(ステップS3b)。次に、人工傷が形成された領域を除去する(ステップS4b)。その後に、焼き入れを行う(ステップS5b)。焼き入れは例えば高周波焼入れである。
【解決手段】本発明は、強度試験において用いられる試験体の形成方法に関する。まず、母材に対して人工傷を形成する(ステップS2b)。人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成する(ステップS3b)。次に、人工傷が形成された領域を除去する(ステップS4b)。その後に、焼き入れを行う(ステップS5b)。焼き入れは例えば高周波焼入れである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強度試験方法に用いる試験体の作成方法に関し、特に傷を有する試験体の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工程において、さまざまな理由により割れが発生する部品の強度を試験する場合には、傷がない試験体に静的又は動的に荷重を加えることにより限界応力や破断回数を求め、さらに傷がある試験体に同様の荷重を加えて試験することにより、製品として許容できる許容割れ深さを求めている。
【0003】
図16は、従来の試験方法の流れを示すフローチャートである。まず、無傷の試験体、様々な深さの傷を有する試験体を作成する(S301)。最初に無傷の試験体に対して強度試験を実行し(S302)、限界応力を決定する(S303)。次に、深さd1の人工傷を有する試験体に対して強度試験を行う(S304)。強度試験の結果、破断した場合(S305)には、許容割れ深さを0と判断する(S306)。
【0004】
破断しなかった場合(S305)には、深さd1よりも深いd2の人工傷を有する試験体に対して強度試験を行う(S307)。強度試験の結果、破断した場合(S308)には、許容割れ深さをd1と判断する(S309)。強度試験の結果、破断しなかった場合(S308)には、同様にして、深さを深くしながら、強度試験を行う。このようにして、強度試験を行い、許容割れ深さを決定する(S310)。
【0005】
このような強度試験において用いられる、傷を有する試験体は、放電加工や旋盤加工等の様々な手法により人工傷を付与することによって作成される(例えば、特許文献1)。人工傷を有する試験体を用いるのは、深さが異なる人工傷の付与を比較的容易に行うことができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3041280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、強度試験において用いられる試験体の人工傷について分析したところ、図17の断面図に示されるように、人工傷(図17(a))は、製造工程において実際に発生する焼き割れ等の割れ(図17(b))に比べて、開口幅が多く、また、先端部の形状が大きく異なることを見出した。具体的には、実際の割れ(以下、実割れ)の開口幅は10μm程度であるのに対して、人工傷の開口幅は狭くても0.1mm程度である。また、実割れの先端は鋭いのに対して、人工傷の先端は丸みを帯びている。このため、部品の強度評価において最も重要な先端近傍での応力集中度合いが、人工傷と実割れとでは大きく異なる。
【0008】
図18(a)に示されるように、一様引張応力を受ける無限板上に微小楕円孔が存在するとき、長軸端Aにおける応力は、次式のように表すことができる。
σy=σ0{1+2(a/b)}=σ0{1+2(a/r0)1/2}
【0009】
図18(b)に示されるように、実割れは、b≒0又はr≒0と状態と定義されるため、割れ先端における応力は、無限大、即ち応力を特定できない応力特異場となる。従って、人工傷を有する試験体を用いた強度評価は、実際の割れに対する強度評価と大きく異なる。特に、人工傷を有する試験体の方が、実際の割れを有する試験体に比べて強度が高く評価され、許容割れ深さが深くなるため、実際の部品使用において危険性が増すことになる。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、精度高く強度評価を行うことが可能な試験体の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる試験体の形成方法は、強度試験において用いられる試験体の形成方法であって、母材に対して人工傷を形成する人工傷形成ステップと、人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成させる実割れ形成ステップと、実割れ形成ステップ後に、前記人工傷が形成された領域を除去する実ワーク形状加工ステップと、前記実ワーク形状加工ステップの後に、焼き入れを行う焼入れステップとを備えたものである。
【0012】
前記人工傷形成ステップの後であって、前記実割れ形成ステップの前に、当該人工傷形成ステップによって形成された人工傷の近傍に、一対のナイフエッジを互いに対向するように取り付けるナイフエッジ取付ステップをさらに備えるようにしてもよい。
【0013】
前記実割れ形成ステップでは、人工傷が形成された面において当該人工傷の両側を支点とし、人工傷が形成された面とは反対側の反対面において当該人工傷と対応する位置に対して所定荷重を付与することによって、実割れを形成させるようにしてもよい。
【0014】
ここで、前記焼入れステップで実行する焼き入れは、高周波焼き入れであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、精度高く強度評価を行うことが可能な試験体の作成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】強度試験方法を実施するための構成を示すブロック図である。
【図2】人工傷での評価と、実割れでの評価の違いを説明するための図である。
【図3】強度試験方法の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明にかかる試験体の作成方法を示す図である。
【図5】本発明にかかる試験体の作成方法を示す図である。
【図6】強度試験方法において許容割れ深さを算出する方法を説明するためのグラフである。
【図7】強度試験方法において割れ深さを推定する処理のフローチャートである。
【図8】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図9】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図10】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図11】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図12】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図13】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図14】強度試験方法において割れ以外から判断する場合に、許容割れ深さを算出する方法を説明するための図である。
【図15】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図16】従来の強度試験方法の流れを示すフローチャートである。
【図17】試験体に設けられた人工傷と実割れを示す断面図である。
【図18】試験体に設けられた人工傷と実割れに対する応力の分布を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の実施の形態にかかる強度試験方法について、図1のブロック図を用いて説明する。当該強度試験方法では、実割れを有する試験体1の強度試験を行うことを特徴とする。具体的には、強度試験機2を用いて当該試験体1の強度試験を実行し、その結果得られる実験データをデーターロガー3に記録する。ここで、強度試験機2は、例えば、引張試験機、曲げ試験機、捩り試験機であり、制御装置を有している。
【0018】
本実施の形態にかかる強度試験方法では、基本的に、試験体に人工傷が付与されているか、実割れが付与されているかが違うのみであるため、従来から用いられている強度試験機2等をそのまま用いることができる。
【0019】
図2を用いて、人工傷での強度評価と、実割れでの強度評価について説明する。図2(a)に示されるように、3種類の深さd1、d2、d3(d1<d2<d3)の人工傷を有する試験体に対して所定の応力を加えた場合、深さd3の試験体のみに傷の進展があったとすると、許容割れ深さはd2と判定される。これに対して、同じように深さd1、d2、d3(d1<d2<d3)の実割れを有する試験体については、人工傷を有する試験体よりも割れが進展しやすいため、例えば図2(b)に示されるように、深さd3の実割れを有する試験体のみならず、深さd2の実割れを有する試験体についても割れが進展する。この場合には、許容割れ深さはd1となり、人工傷を有する試験体の場合と異なった結果となる。
【0020】
続いて、図3に示すフローチャートを用いて、本実施の形態にかかる強度試験方法について説明する。まず、無傷の試験体、様々な深さの実割れを有する試験体を作成する(S101)。実割れを有する試験体の作成方法については、後に詳述する。
最初に無傷の試験体に対して強度試験を実行し(S102)、限界応力を決定する(S103)。次に、深さd1の実割れを有する試験体に対して強度試験を行う(S104)。強度試験の結果、破断した場合(S105)には、許容割れ深さを0と判断する(S106)。
【0021】
破断しなかった場合(S105)には、深さd1よりも深いd2の実割れを有する試験体に対して強度試験を行う(S107)。強度試験の結果、破断した場合(S108)には、許容割れ深さをd1と判断する(S109)。強度試験の結果、破断しなかった場合(S108)には、同様にして、深さを深くしながら、強度試験を行う。このようにして、強度試験を行い、許容割れ深さを決定する(S110)。
【0022】
続いて、図4に示すフローチャートを用いて、比較例にかかる試験体の作成方法と、本実施の形態にかかる試験体の作成方法について説明する。
高周波焼き入れ材に対して割れを付与する場合、発明者等は、図4(a)に示す比較例の作成方法に従い、試験体を作成した。まず、母材となる素材を用意した(ステップS1a)。本例では、直径30mmの中実丸棒形状である。この素材に対して、実ワーク形状加工(Sステップ2a)を行った後に焼入れを行った(ステップS3a)。さらに、人工傷を作成するノッチ加工(ステップS4a)を行った後に、実割れを付与した(ステップS5a)。比較例の作成方法では、実割れを付与する段階で、試験体に脆性破壊が生じた。
【0023】
そこで、本実施の形態では、図4(b)に示す作成方法により、試験体を作成した。まず、母材となる素材を用意した(ステップS1b)。本例では、直径30mmの中実丸棒形状である。次に、この素材に対して、ノッチ加工を行い、人工傷を作成した(ステップS2b)。ノッチ加工は、後に実行される実ワーク形状加工において削除される範囲で実行した。本例では、表面から4mm以内の範囲である。
【0024】
ノッチ加工の後に、実割れを付与した(ステップS3b)。実割れの付与方法については、後に詳述する。その次に、実ワーク形状加工(ステップS4b)を行った。実ワーク形状加工では、直径26mmになるように、素材の外周を切削除去した。
【0025】
最後に焼入れを行った(ステップS5b)。焼入れは、高周波焼入れである。このような作成方法によれば、試験体に脆性破壊が発生せず、ねじり試験機等による評価においても高い評価の試験体を得ることができた。
【0026】
続いて、図5を用いて、実割れを有する試験体の作成方法について説明する。まず、図5(a)に示すように、試験体1に対して、実割れの起点となる人工傷11を付与する。人工傷11の付与方法には、例えば、旋盤加工、放電加工がある。試験体1は、図に示されるような板状部材でなくとも、プロペラシャフトで用いられるような円柱状部材等、様々な形状であってもよい。また、試験体1は、例えば、S45C等の炭素鋼である。
【0027】
次に、図5(b)に示すように、3点曲げ繰返しにより、疲労割れ12を付与する。人工傷11を付与した面において当該人工傷11の両側を下から支持した状態において、人工傷11を付与した面とは反対側の面において当該人工傷11の位置に対応する位置(即ち、人工傷11の深さ方向を延長した線と、当該反対側面が接する位置)、またはその近傍に、荷重を繰り返し複数回にわたって、加える。このとき、荷重の大きさは一定であってもよく、少しずつ増加させてもよい。疲労割れ12の発生については、適宜側面を確認することによって検出してもよいが、人工傷11の開口幅を観察することによって検出してもよい。この方法については、後に詳述する。
【0028】
次に、図5(c)に示すように、試験体1の、人工傷11を形成した側の面を研磨して削り、人工傷11を形成した部分、即ち、人工傷11の深さ分だけ、元の面と平行に削り取る。この加工により、試験体1の厚さはt1からt2になり、図5(c)に示すように、一面に疲労割れ11のみが形成された試験体1が作成される。
【0029】
続いて、図6を用いて、引張耐久試験による許容割れ深さの算出方法について説明する。まず、無傷品に対して、一定の応力を複数回にわたって加えて、破断に至るまでの耐久回数を記録する。さらに、異なる応力を加えて破断に至るまでの耐久回数を記録する。実割れ深さd1の試験体についても同様に応力を変化させて耐久回数を記録する。さらに、実割れ深さd2(d1<d2)の試験体についても同様の試験を行う。図6は、横軸を耐久回数、縦軸を応力とした場合の、各試験体に対する耐久試験結果をプロットしたグラフである。
【0030】
図6に示されるように、無傷品と実割れ深さd1の試験体は、同等の結果となっているのに対して、実割れ深さd2は、これらよりも同じ応力を加えた場合に耐久回数が少なくなっている。従って、この例における許容割れ深さは、d1と判定される。
【0031】
続いて、試験体における実割れの開口幅(開口変位)を計測することによって、割れ深さを推定する方法について説明する。図7のフローチャートに示されるように、まずコンプライアンスを導出する(S201)。図8に示されるように、実割れの両側を支点として、実割れの反対側から荷重が付加された状態において、コンプライアンスは、開口変位量/荷重変化量により定義することができる。
【0032】
ここで、開口変位量は、図9(a)で示されるように、実割れ12の開口部にエッジを設けて、クリップゲージ4を引掛けることにより、当該クリップゲージ4内の歪みゲージにより計測することができる。ここで、試験体1にエッジの加工ができない場合には、図9(b)に示されるように、試験体1の実割れ12の両側に穴131、132を形成し、当該穴131、132にそれぞれナイフエッジ51、52を挿入し、固定すればよい。また、試験体1に穴加工ができない場合には、ナイフエッジ61、62を瞬間接着剤等で固定すればよい。
【0033】
コンプライアンスを複数種類の実割れ深さを有する試験体について求める。図10に示す例では、実割れ深さd1、d2、d3の試験体についてコンプライアンスを求めている。次に、図11に示されるように、実割れ深さとコンプライアンスの検量線を作成する(S202)。そして、実割れ深さの推定を行おうとする試験体に対して図12で示されるように荷重を加えながら、開口変位を計測してコンプライアンスを計算し、そして計算されたコンプライアンスより図13に示す検量線を参照して実割れ深さを推定する(S203)。
【0034】
このようにして、実割れ深さを推定する方法を使用すれば、図14に示されるように、実割れ以外から破断する場合であっても、割れの進展を観察することができ、進展がない深さd1を許容割れ深さと判定することができる。
【0035】
なお、円柱形状の試験体(丸棒)において開口変位をクリップゲージ4により計測する場合には、図15に示されるように、試験体の外形に沿って湾曲した形状71をエッジ72の下方の面に有するナイフエッジ7を用いることが好ましい。
【0036】
また、上述の例では、引張耐久試験を取り上げたが、これに限らず、強度試験として曲げ試験、捩り試験、衝撃試験等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 試験体
2 強度試験機
3 データロガー
4 クリップゲージ
51,52,61,62,7 ナイフエッジ
11 人工傷
12 実割れ
【技術分野】
【0001】
本発明は強度試験方法に用いる試験体の作成方法に関し、特に傷を有する試験体の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造工程において、さまざまな理由により割れが発生する部品の強度を試験する場合には、傷がない試験体に静的又は動的に荷重を加えることにより限界応力や破断回数を求め、さらに傷がある試験体に同様の荷重を加えて試験することにより、製品として許容できる許容割れ深さを求めている。
【0003】
図16は、従来の試験方法の流れを示すフローチャートである。まず、無傷の試験体、様々な深さの傷を有する試験体を作成する(S301)。最初に無傷の試験体に対して強度試験を実行し(S302)、限界応力を決定する(S303)。次に、深さd1の人工傷を有する試験体に対して強度試験を行う(S304)。強度試験の結果、破断した場合(S305)には、許容割れ深さを0と判断する(S306)。
【0004】
破断しなかった場合(S305)には、深さd1よりも深いd2の人工傷を有する試験体に対して強度試験を行う(S307)。強度試験の結果、破断した場合(S308)には、許容割れ深さをd1と判断する(S309)。強度試験の結果、破断しなかった場合(S308)には、同様にして、深さを深くしながら、強度試験を行う。このようにして、強度試験を行い、許容割れ深さを決定する(S310)。
【0005】
このような強度試験において用いられる、傷を有する試験体は、放電加工や旋盤加工等の様々な手法により人工傷を付与することによって作成される(例えば、特許文献1)。人工傷を有する試験体を用いるのは、深さが異なる人工傷の付与を比較的容易に行うことができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案第3041280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、強度試験において用いられる試験体の人工傷について分析したところ、図17の断面図に示されるように、人工傷(図17(a))は、製造工程において実際に発生する焼き割れ等の割れ(図17(b))に比べて、開口幅が多く、また、先端部の形状が大きく異なることを見出した。具体的には、実際の割れ(以下、実割れ)の開口幅は10μm程度であるのに対して、人工傷の開口幅は狭くても0.1mm程度である。また、実割れの先端は鋭いのに対して、人工傷の先端は丸みを帯びている。このため、部品の強度評価において最も重要な先端近傍での応力集中度合いが、人工傷と実割れとでは大きく異なる。
【0008】
図18(a)に示されるように、一様引張応力を受ける無限板上に微小楕円孔が存在するとき、長軸端Aにおける応力は、次式のように表すことができる。
σy=σ0{1+2(a/b)}=σ0{1+2(a/r0)1/2}
【0009】
図18(b)に示されるように、実割れは、b≒0又はr≒0と状態と定義されるため、割れ先端における応力は、無限大、即ち応力を特定できない応力特異場となる。従って、人工傷を有する試験体を用いた強度評価は、実際の割れに対する強度評価と大きく異なる。特に、人工傷を有する試験体の方が、実際の割れを有する試験体に比べて強度が高く評価され、許容割れ深さが深くなるため、実際の部品使用において危険性が増すことになる。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、精度高く強度評価を行うことが可能な試験体の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる試験体の形成方法は、強度試験において用いられる試験体の形成方法であって、母材に対して人工傷を形成する人工傷形成ステップと、人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成させる実割れ形成ステップと、実割れ形成ステップ後に、前記人工傷が形成された領域を除去する実ワーク形状加工ステップと、前記実ワーク形状加工ステップの後に、焼き入れを行う焼入れステップとを備えたものである。
【0012】
前記人工傷形成ステップの後であって、前記実割れ形成ステップの前に、当該人工傷形成ステップによって形成された人工傷の近傍に、一対のナイフエッジを互いに対向するように取り付けるナイフエッジ取付ステップをさらに備えるようにしてもよい。
【0013】
前記実割れ形成ステップでは、人工傷が形成された面において当該人工傷の両側を支点とし、人工傷が形成された面とは反対側の反対面において当該人工傷と対応する位置に対して所定荷重を付与することによって、実割れを形成させるようにしてもよい。
【0014】
ここで、前記焼入れステップで実行する焼き入れは、高周波焼き入れであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、精度高く強度評価を行うことが可能な試験体の作成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】強度試験方法を実施するための構成を示すブロック図である。
【図2】人工傷での評価と、実割れでの評価の違いを説明するための図である。
【図3】強度試験方法の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明にかかる試験体の作成方法を示す図である。
【図5】本発明にかかる試験体の作成方法を示す図である。
【図6】強度試験方法において許容割れ深さを算出する方法を説明するためのグラフである。
【図7】強度試験方法において割れ深さを推定する処理のフローチャートである。
【図8】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図9】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図10】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図11】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図12】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図13】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図14】強度試験方法において割れ以外から判断する場合に、許容割れ深さを算出する方法を説明するための図である。
【図15】強度試験方法において割れ深さを推定する処理を説明するための図である。
【図16】従来の強度試験方法の流れを示すフローチャートである。
【図17】試験体に設けられた人工傷と実割れを示す断面図である。
【図18】試験体に設けられた人工傷と実割れに対する応力の分布を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の実施の形態にかかる強度試験方法について、図1のブロック図を用いて説明する。当該強度試験方法では、実割れを有する試験体1の強度試験を行うことを特徴とする。具体的には、強度試験機2を用いて当該試験体1の強度試験を実行し、その結果得られる実験データをデーターロガー3に記録する。ここで、強度試験機2は、例えば、引張試験機、曲げ試験機、捩り試験機であり、制御装置を有している。
【0018】
本実施の形態にかかる強度試験方法では、基本的に、試験体に人工傷が付与されているか、実割れが付与されているかが違うのみであるため、従来から用いられている強度試験機2等をそのまま用いることができる。
【0019】
図2を用いて、人工傷での強度評価と、実割れでの強度評価について説明する。図2(a)に示されるように、3種類の深さd1、d2、d3(d1<d2<d3)の人工傷を有する試験体に対して所定の応力を加えた場合、深さd3の試験体のみに傷の進展があったとすると、許容割れ深さはd2と判定される。これに対して、同じように深さd1、d2、d3(d1<d2<d3)の実割れを有する試験体については、人工傷を有する試験体よりも割れが進展しやすいため、例えば図2(b)に示されるように、深さd3の実割れを有する試験体のみならず、深さd2の実割れを有する試験体についても割れが進展する。この場合には、許容割れ深さはd1となり、人工傷を有する試験体の場合と異なった結果となる。
【0020】
続いて、図3に示すフローチャートを用いて、本実施の形態にかかる強度試験方法について説明する。まず、無傷の試験体、様々な深さの実割れを有する試験体を作成する(S101)。実割れを有する試験体の作成方法については、後に詳述する。
最初に無傷の試験体に対して強度試験を実行し(S102)、限界応力を決定する(S103)。次に、深さd1の実割れを有する試験体に対して強度試験を行う(S104)。強度試験の結果、破断した場合(S105)には、許容割れ深さを0と判断する(S106)。
【0021】
破断しなかった場合(S105)には、深さd1よりも深いd2の実割れを有する試験体に対して強度試験を行う(S107)。強度試験の結果、破断した場合(S108)には、許容割れ深さをd1と判断する(S109)。強度試験の結果、破断しなかった場合(S108)には、同様にして、深さを深くしながら、強度試験を行う。このようにして、強度試験を行い、許容割れ深さを決定する(S110)。
【0022】
続いて、図4に示すフローチャートを用いて、比較例にかかる試験体の作成方法と、本実施の形態にかかる試験体の作成方法について説明する。
高周波焼き入れ材に対して割れを付与する場合、発明者等は、図4(a)に示す比較例の作成方法に従い、試験体を作成した。まず、母材となる素材を用意した(ステップS1a)。本例では、直径30mmの中実丸棒形状である。この素材に対して、実ワーク形状加工(Sステップ2a)を行った後に焼入れを行った(ステップS3a)。さらに、人工傷を作成するノッチ加工(ステップS4a)を行った後に、実割れを付与した(ステップS5a)。比較例の作成方法では、実割れを付与する段階で、試験体に脆性破壊が生じた。
【0023】
そこで、本実施の形態では、図4(b)に示す作成方法により、試験体を作成した。まず、母材となる素材を用意した(ステップS1b)。本例では、直径30mmの中実丸棒形状である。次に、この素材に対して、ノッチ加工を行い、人工傷を作成した(ステップS2b)。ノッチ加工は、後に実行される実ワーク形状加工において削除される範囲で実行した。本例では、表面から4mm以内の範囲である。
【0024】
ノッチ加工の後に、実割れを付与した(ステップS3b)。実割れの付与方法については、後に詳述する。その次に、実ワーク形状加工(ステップS4b)を行った。実ワーク形状加工では、直径26mmになるように、素材の外周を切削除去した。
【0025】
最後に焼入れを行った(ステップS5b)。焼入れは、高周波焼入れである。このような作成方法によれば、試験体に脆性破壊が発生せず、ねじり試験機等による評価においても高い評価の試験体を得ることができた。
【0026】
続いて、図5を用いて、実割れを有する試験体の作成方法について説明する。まず、図5(a)に示すように、試験体1に対して、実割れの起点となる人工傷11を付与する。人工傷11の付与方法には、例えば、旋盤加工、放電加工がある。試験体1は、図に示されるような板状部材でなくとも、プロペラシャフトで用いられるような円柱状部材等、様々な形状であってもよい。また、試験体1は、例えば、S45C等の炭素鋼である。
【0027】
次に、図5(b)に示すように、3点曲げ繰返しにより、疲労割れ12を付与する。人工傷11を付与した面において当該人工傷11の両側を下から支持した状態において、人工傷11を付与した面とは反対側の面において当該人工傷11の位置に対応する位置(即ち、人工傷11の深さ方向を延長した線と、当該反対側面が接する位置)、またはその近傍に、荷重を繰り返し複数回にわたって、加える。このとき、荷重の大きさは一定であってもよく、少しずつ増加させてもよい。疲労割れ12の発生については、適宜側面を確認することによって検出してもよいが、人工傷11の開口幅を観察することによって検出してもよい。この方法については、後に詳述する。
【0028】
次に、図5(c)に示すように、試験体1の、人工傷11を形成した側の面を研磨して削り、人工傷11を形成した部分、即ち、人工傷11の深さ分だけ、元の面と平行に削り取る。この加工により、試験体1の厚さはt1からt2になり、図5(c)に示すように、一面に疲労割れ11のみが形成された試験体1が作成される。
【0029】
続いて、図6を用いて、引張耐久試験による許容割れ深さの算出方法について説明する。まず、無傷品に対して、一定の応力を複数回にわたって加えて、破断に至るまでの耐久回数を記録する。さらに、異なる応力を加えて破断に至るまでの耐久回数を記録する。実割れ深さd1の試験体についても同様に応力を変化させて耐久回数を記録する。さらに、実割れ深さd2(d1<d2)の試験体についても同様の試験を行う。図6は、横軸を耐久回数、縦軸を応力とした場合の、各試験体に対する耐久試験結果をプロットしたグラフである。
【0030】
図6に示されるように、無傷品と実割れ深さd1の試験体は、同等の結果となっているのに対して、実割れ深さd2は、これらよりも同じ応力を加えた場合に耐久回数が少なくなっている。従って、この例における許容割れ深さは、d1と判定される。
【0031】
続いて、試験体における実割れの開口幅(開口変位)を計測することによって、割れ深さを推定する方法について説明する。図7のフローチャートに示されるように、まずコンプライアンスを導出する(S201)。図8に示されるように、実割れの両側を支点として、実割れの反対側から荷重が付加された状態において、コンプライアンスは、開口変位量/荷重変化量により定義することができる。
【0032】
ここで、開口変位量は、図9(a)で示されるように、実割れ12の開口部にエッジを設けて、クリップゲージ4を引掛けることにより、当該クリップゲージ4内の歪みゲージにより計測することができる。ここで、試験体1にエッジの加工ができない場合には、図9(b)に示されるように、試験体1の実割れ12の両側に穴131、132を形成し、当該穴131、132にそれぞれナイフエッジ51、52を挿入し、固定すればよい。また、試験体1に穴加工ができない場合には、ナイフエッジ61、62を瞬間接着剤等で固定すればよい。
【0033】
コンプライアンスを複数種類の実割れ深さを有する試験体について求める。図10に示す例では、実割れ深さd1、d2、d3の試験体についてコンプライアンスを求めている。次に、図11に示されるように、実割れ深さとコンプライアンスの検量線を作成する(S202)。そして、実割れ深さの推定を行おうとする試験体に対して図12で示されるように荷重を加えながら、開口変位を計測してコンプライアンスを計算し、そして計算されたコンプライアンスより図13に示す検量線を参照して実割れ深さを推定する(S203)。
【0034】
このようにして、実割れ深さを推定する方法を使用すれば、図14に示されるように、実割れ以外から破断する場合であっても、割れの進展を観察することができ、進展がない深さd1を許容割れ深さと判定することができる。
【0035】
なお、円柱形状の試験体(丸棒)において開口変位をクリップゲージ4により計測する場合には、図15に示されるように、試験体の外形に沿って湾曲した形状71をエッジ72の下方の面に有するナイフエッジ7を用いることが好ましい。
【0036】
また、上述の例では、引張耐久試験を取り上げたが、これに限らず、強度試験として曲げ試験、捩り試験、衝撃試験等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 試験体
2 強度試験機
3 データロガー
4 クリップゲージ
51,52,61,62,7 ナイフエッジ
11 人工傷
12 実割れ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度試験において用いられる試験体の形成方法であって、
母材に対して人工傷を形成する人工傷形成ステップと、
人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成させる実割れ形成ステップと、
実割れ形成ステップ後に、前記人工傷が形成された領域を除去する実ワーク形状加工ステップと、
前記実ワーク形状加工ステップの後に、焼き入れを行う焼入れステップとを備えた、試験体の形成方法。
【請求項2】
前記人工傷形成ステップの後であって、前記実割れ形成ステップの前に、当該人工傷形成ステップによって形成された人工傷の近傍に、一対のナイフエッジを互いに対向するように取り付けるナイフエッジ取付ステップを備えたことを特徴とする請求項1記載の試験体の形成方法。
【請求項3】
前記実割れ形成ステップでは、人工傷が形成された面において当該人工傷の両側を支点とし、人工傷が形成された面とは反対側の反対面において当該人工傷と対応する位置に対して所定荷重を付与することによって、実割れを形成させることを特徴とする請求項1又は2記載の試験体の形成方法。
【請求項4】
前記焼入れステップで実行する焼き入れは、高周波焼き入れであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の試験体の形成方法。
【請求項1】
強度試験において用いられる試験体の形成方法であって、
母材に対して人工傷を形成する人工傷形成ステップと、
人工傷が形成された試験体に対して所定荷重を付与して、当該人工傷を起点として実割れを形成させる実割れ形成ステップと、
実割れ形成ステップ後に、前記人工傷が形成された領域を除去する実ワーク形状加工ステップと、
前記実ワーク形状加工ステップの後に、焼き入れを行う焼入れステップとを備えた、試験体の形成方法。
【請求項2】
前記人工傷形成ステップの後であって、前記実割れ形成ステップの前に、当該人工傷形成ステップによって形成された人工傷の近傍に、一対のナイフエッジを互いに対向するように取り付けるナイフエッジ取付ステップを備えたことを特徴とする請求項1記載の試験体の形成方法。
【請求項3】
前記実割れ形成ステップでは、人工傷が形成された面において当該人工傷の両側を支点とし、人工傷が形成された面とは反対側の反対面において当該人工傷と対応する位置に対して所定荷重を付与することによって、実割れを形成させることを特徴とする請求項1又は2記載の試験体の形成方法。
【請求項4】
前記焼入れステップで実行する焼き入れは、高周波焼き入れであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の試験体の形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−216930(P2010−216930A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62763(P2009−62763)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】
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