説明

試験具、試験装置及び試験方法

【課題】試験具の設置位置の自由度を向上させる。
【解決手段】密閉された気密室20と圧力室22との差圧により、ピストン16が気密室20側へ付勢され、この付勢力が伝達されてり試験片24に荷重が付与される。シリンダー14内部を大気開放しないので、圧力容器12に貫通孔が不要となり、試験具13は圧力容器12から独立した形態となるため、圧力容器12内に収容する試験具13の数量や設置位置や寸法の自由度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の応力腐食割れ(SCC)を評価するためなどに用いられる試験具、試験装置及び試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の応力腐食割れ(SCC)を評価するために用いられる試験装置としては、特許文献1に開示される試験装置が公知である。
【0003】
特許文献1の試験装置では、シリンダー2を水平にした状態で、高温高圧の水を試験片1及び圧力境界管7外部に通す。ピストン4はシール用Oリング8によりシールされているので、高温高圧水が圧力境界導入管7内に入り込まない。シリンダー2中の試験部の圧力と圧力境界管7中の大気圧との差圧によって荷重が試験片1にかかる。試験片の断面積を変えることで試験片の負荷応力が決まる。試験片1が破断するとピストン4についているピストンロッド4aがボール6を押し、ボール6は圧力境界管7の中を落ちて行く、このボール6の落下時刻とボール6に付けられた番号によりどの試験片がいつ破断したかを知ることができる。
【特許文献1】特開平05−297181号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、シリンダー2が大気開放されるので、シリンダー2と大気とを連通させるための通路を確保する必要がある。このため、大気との間に障害がある場所には、シリンダー2を設置することができない。
【0005】
また、シリンダー2を圧力容器に収容する場合には、シリンダー2と大気との連通させるための通路を確保するために、圧力容器に貫通孔を形成する必要がある。このため、貫通孔が形成される数量や位置や寸法により、圧力容器内に設置するシリンダーの数量や位置や寸法が制限される。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、試験具の設置位置の自由度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る試験具は、密閉された気密室が内部に形成されたシリンダーと、前記シリンダー内部に往復運動可能に設けられ、前記気密室と外部とを仕切り、前記外部と前記気密室との差圧により前記気密室側へ付勢され、その付勢力が試料に伝達されて前記試料に荷重を付与可能なピストンと、を備えている。
【0008】
この構成によれば、外部と気密室内との差圧により、ピストンが気密室側へ付勢されて試料に荷重を付与することが可能となる。
【0009】
ここで、本発明の請求項1の構成では、気密室は密閉されているので、シリンダー内と大気との連通させるための通路を確保する必要がない。このため、シリンダーが大気開放された構成に比して、試験具の設置位置の自由度を向上させることができる。
【0010】
本発明の請求項2に係る試験具は、請求項1の構成において、前記シリンダーまたは前記ピストンに設けられ、前記気密室を開放可能な開閉手段を備えている。
【0011】
この構成によれば、気密室を開放できるので、ピストンを移動させやすくなり、試料をピストンに連結させるのが容易となる。
【0012】
本発明の請求項3に係る試験装置は、加圧された加圧流体が室内に収容され、その室内に試料が配置される圧力室と、前記圧力室の内圧よりも低い内圧とされた前記気密室が内部に形成されたシリンダーと、前記外部としての前記圧力室と前記気密室とを仕切り、前記圧力室内と前記気密室内との差圧により前記気密室側へ付勢されて前記試料に荷重を付与するピストンと、を備えた請求項1又は請求項2に記載の試験具と、を備えている。
【0013】
この構成によれば、圧力室内と気密室内との差圧により、ピストンが気密室側へ付勢されて試料に荷重を付与する。
【0014】
ここで、本発明の請求項3の構成では、気密室は密閉されているので、シリンダー内と大気との連通させるための通路を確保する必要がない。このため、シリンダーが大気開放された構成に比して、試験具の設置位置の自由度を向上させることができる。
【0015】
本発明の請求項4に係る試験装置は、請求項3の構成において、前記ピストンに連結され、前記気密室の気密状態を維持して前記気密室を貫通し、前記圧力室の外部へ引き出されたロッドと、前記ロッドに設けられ、前記ロッド及び前記ピストンを通じて前記試料に荷重を付与するアクチュエータと、を備えている。
【0016】
この構成によれば、圧力室内と気密室内との差圧による試料への荷重に加えて、アクチュエータによりロッドを通じて試料に荷重を付与することができる。このため、試料に付与する荷重を拡大することができる。
【0017】
本発明の請求項5に係る試験方法は、請求項3に記載の試験装置を用いた試験方法であって、前記圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させ、その上昇後に前記圧力室の内圧を目標圧力に上昇させる。
【0018】
この構成によれば、まず、圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させる。圧力室内の加圧流体の温度上昇に伴って、気密室内の温度も上昇することになるため、気密室の内圧が上昇する。これにより、試料に付与される荷重が減る。
【0019】
次に、圧力室内の内圧を目標圧力に上昇させる。これにより、試料に付与される荷重が増える。
【0020】
ここで、圧力室内の内圧を目標圧力に上昇させた後に圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させる構成では、圧力室内の内圧を目標圧力に上昇させたときに試料に付与される荷重が最大荷重となり、試料に付与される最終的な荷重が、最大荷重よりも減る。
【0021】
これに対して、本発明の請求項5の構成では、圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させた後に圧力室内の内圧を目標圧力に上昇させるので、試料に付与される最大荷重と、試料に付与される最終的な荷重との差がなくなるか、または、圧力室内の内圧を目標圧力に上昇させた後に圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させる構成よりも小さくなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記構成としたので、試験具の設置位置の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
(本実施形態に係る試験装置の構成)
まず、本実施形態に係る試験装置の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る試験装置の全体構成を示す概略図である。図2は、本実施形態に係る圧力容器及び試験具の構成を示す概略図である。
【0024】
本実施形態に係る試験装置10は、図1及び図2に示すように、加圧された加圧流体が内部に収容された圧力容器(オートクレーブ)12を備えている。圧力容器12は、図2に示すように、内部を開放する開放部12Cを有する圧力容器本体12Aと、開放部12Cを開閉可能な蓋部材12Bとを備えて構成されている。
【0025】
本実施形態では、加圧流体として、高温高圧(例えば300℃、7〜10MPa)とされた純水が、圧力容器12に収容されている。圧力容器12に収容される加圧流体としては、純水に限られず、その他の液体や、気体(ガス)であっても良い。
【0026】
試験装置10は、図1に示すように、圧力容器12の純水を循環して水質を一定に保つための循環路38を備えている。循環路38には、上流側から下流側に向けて順に、冷却器40、イオン交換樹脂36、水質調整タンク42、低圧ポンプ44、高圧ポンプ46及びヒータ48が設けられている。
【0027】
圧力容器12から排出された純水は、冷却器40で冷却水によって冷却され、イオン交換樹脂36によりイオン濃度が調整され、水質調整タンク42により溶存する酸素等のガス濃度が調整される。さらに、ガス濃度が調整された純水は、低圧ポンプ44及び高圧ポンプ46により、段階的に加圧されて、ヒータ48により昇温されて、再び圧力容器12内に戻るようになっている。
【0028】
なお、試験装置10は、上記のような循環機構を備えないオートクレーブで構成されていても良い。
【0029】
圧力容器12の内部には、図2に示すように、円筒状に形成されたシリンダー14と、シリンダー14内部に往復運動可能に設けられたピストン16とを備えた試験具13が設けられている。なお、シリンダー14の形状は、円筒状に限定されず、転がらないように、四角柱の中央部に断面円形状の丸穴が形成された四角筒形状であってもよい。この試験具13は、圧力容器本体12Aに入れられ、圧力容器本体12Aに蓋部材12Bが閉められて、圧力容器12に収容される。
【0030】
試験具13は、例えば、圧力容器本体12Aに設けられた棚(図示省略)に、軸方向(長手方向)が横方向(水平方向)に沿うように載せられる。なお、試験具13を棚に載せる方向は、任意の方向とすることができる。また、圧力容器12に収容される試験具13は、単数であっても、複数であっても良い。また、試験具13は、圧力容器本体12Aに設けられた取付部に取り付ける構成であってもよく、また、圧力容器本体12Aに設けられた固定部によって圧力容器本体12A内で固定されていても良い。
【0031】
試験具13のシリンダー14は、内部が、ピストン16によって2つの部屋に仕切られている。この2つの部屋は、シリンダー14の外部(圧力容器12の内部)と連通する連通室18と、シリンダー14の外部(圧力容器12の内部)とは連通せずに遮断された気密室20となっている。
【0032】
連通室18は、シリンダー14に形成された開口部23によって圧力容器12内部と連通しており、圧力容器12に収容された加圧流体が連通室18に流入し、連通室18内部にも、加圧された加圧流体が収容される。これにより、圧力容器12の内部には、加圧流体が収容される圧力室22が、連通室18及び試験具13の周囲に形成される。
【0033】
シリンダー14の連通室18には、試料の一例としての棒状をした試験片24が配置されている。試験片24としては、例えば、ステンレス鋼、Ni基合金などの高耐食性金属材料が用いられる。なお、試験片24としては、耐食性の低い金属材料や、セラミックス、プラスチックなどの非金属材料を用いても良い。
【0034】
試験片24の一端部(図2における上端部)は、シリンダー14の一端部(図2における上端部)に設けられた固定部26に固定されている。具体的には、試験片24の一端部に形成されたねじ部25が、固定部26に形成されたねじ孔27にねじ込まれることで、試験片24の一端部は、固定部26に固定されている。
【0035】
試験片24の他端部(図2における下端部)は、ピストン16に固定されている。具体的には、試験片24の他端部に形成されたねじ部35が、ピストン16に形成されたねじ孔37にねじ込まれることで、試験片24の他端部は、ピストン16に固定されている。
【0036】
試験片の固定のされ方は、試験片の形状により適切な方法が選定でき、例えば、端部に広がりを有する試験片の場合は、その広がりを断面コの字状の固定部により固定されることができる。
【0037】
このように、試験片24はピストン16に直接的に連結(係合)しており、ピストン16の移動力(付勢力)がピストン16から試験片24に伝達するようになっている。
【0038】
ピストン16には、気密室20を密閉するためのOリング28が設けられている。
【0039】
シリンダー14の他端部(図2における下端部)には、シリンダー14の内外を連通される口部30が形成されている。口部30の外周には、ねじ部32が形成されている。
【0040】
また、シリンダー14の口部30には、気密室20を開放可能な開閉手段の一例としてのキャップ34が設けられている。このキャップ34は、ねじ部32に螺合して固定されている。これにより、シリンダー14が封止され、密閉された気密室20が形成される。一方、キャップ34が口部30から外されることにより、気密室20は開放される。
【0041】
ここで、気密室20は、圧力容器12の内圧(例えば、7〜10MPa)よりも低い内圧(例えば、0.1MPa)とされている。気密室20は、大気圧の環境下においてシリンダー14の口部30にキャップ34を閉めて密閉空間とされている。従って、気密室20には、大気圧である空気が封入されている。なお、気密室20は、大気圧よりも低圧力に減圧してから密閉する構成であっても良い。
【0042】
ピストン16は、圧力容器12と気密室20との差圧により気密室20側へ付勢され、その付勢力が試験片24に伝達されて、試験片24に負荷を与える。本実施形態では、試験片24は、引っ張り応力を負荷される。
【0043】
試験片24に負荷される荷重Fは、圧力室22の内圧Pa、気密室20の内圧Ps、ピストン16の断面積Spとしたとき、(Pa−Ps)*Spとなる。
【0044】
荷重を負荷した状態の試験片24を、圧力室22内に浸漬し、ひび発生の有無等を調べることができる。浸漬の期間は長期間(例えば、500〜7000時間)でも良いし、短期間でも良い。連続して浸漬しても良いし、間欠的に浸漬し、浸漬しては観察することを繰り返しても良い。
【0045】
なお、図3に示すように、気密室20を開放可能な開閉手段の一例としては、ボルト29であってもよい。また、29のような気密室開放用のボルトは、ピストン側に設置されていてもよい。この構成では、シリンダー14の他端部(図3における下端部)には、ねじ孔31が形成され、このねじ孔31にボルト29が螺合して固定される。
【0046】
また、上記の実施形態では、棒状をした試験片24を用いているが、種々の試験片を用いることができる。例えば、図4及び図5に示すように、切込みが形成されたCT(CompactTension)試験片54を用いても良い。
【0047】
この構成では、試験片54は、ピストン16及び固定部26に直接的に取り付けられるのでなく、間接的に連結(係合)している。すなわち、固定部26には、試験片54を固定するための固定部材56が設けられている。ピストン16には、試験片54を固定するための固定部材58が設けられており、ピストン16の移動力(付勢力)が、固定部材58を介して、ピストン16から試験片54に伝達するようになっている。
【0048】
固定部材56及び固定部材58は、それぞれ、一対の側板56A、一対の側板58Aを有し、側面視にてコの字状(Uの字状)をしている。試験片54は、一対の側板56A及び一対の側板58Aの間に挿入され、一対の側板56A及び一対の側板58Aを貫通する固定ピン60及び固定ピン62により、一端部及び他端部が固定されている。
【0049】
また、上記の実施形態は、試験片24に引っ張り応力を付与していたが、ピストン16が試験片24に付与する応力としては、これに限られず、曲げ、圧縮、捻り等であってもよい。この一例として、曲げ試験を行うための試験具の構成について、後述する。
【0050】
また、上記の実施形態は、圧力容器12と気密室20との差圧により、試験片24に負荷を与えていたが、これに加えて、試験片24に負荷を与えるアクチュエータを備える構成であってもよい。試験片24に負荷を与えるアクチュエータを備える構成について後述する。
【0051】
(本実施形態に係る試験装置10による試験方法及び本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態に係る試験装置10による試験方法及び本実施形態の作用効果を説明する。
【0052】
試験装置10による試験方法では、まず、試験具13に試験片24を取り付ける。次に、試験片24が取り付けられた試験具13を圧力容器本体12Aに入れ、蓋部材12Bが閉められて、試験具13が圧力容器12に収容される。
【0053】
次に、圧力容器12に加圧流体を収容する。これにより、圧力室22の内圧が気密室20の内圧よりも高くなり、圧力室22内と気密室20内との差圧により、ピストン16が気密室20側へ付勢され、この付勢力が伝達されて試験片24に荷重が付与される。
【0054】
ここで、特許文献1のように、仮に、シリンダー14内部に気密室20を形成せず、シリンダー14内部を大気開放する場合には、圧力容器12に貫通孔を形成し、その貫通孔に試験具13を取り付ける必要がある。このため、貫通孔が形成される数量や位置や寸法により、圧力容器12内に収容する試験具13の数量や位置や寸法が制限される。
【0055】
これに対して、本実施形態に係る試験装置10及びその試験方法によれば、シリンダー14内部を大気開放しないので、圧力容器12に貫通孔が不要となり、試験具13は圧力容器12から独立した形態となるため、圧力容器12内に収容する試験具13の数量や設置位置や寸法の自由度が向上する。
【0056】
また、本実施形態に係る試験装置10及びその試験方法によれば、仮に、圧力室22内の加圧流体がピストン16とシリンダー14との間からリークしても、密閉空間とされた気密室20に流入することになる。このため、シリンダー14が大気開放された構成に比して、圧力室22に収容された加圧流体が装置外部に漏洩しにくい。
【0057】
また、シリンダー14が大気開放された構成では、シリンダー14の内圧は一定となるが、本実施形態では、シリンダー14は、気密室20によって密閉空間となっているので、シリンダー14(気密室20)の内圧が上昇することが考えられる。気密室20の内圧が上昇すると、試験片24への負荷荷重が低下する。
【0058】
気密室20の内圧が上昇する原因としては、例えば、加圧流体を昇温する過程において、気密室20内部の温度も上昇することが考えられる。本実施形態では、例えば、室温27℃(300K)から試験温度327℃(600K)に昇温させる。これにより、気密室20の内圧は、例えば、0.1MPaから0.2MPaに2倍上昇する。しかしながら、圧力室22の内圧7〜10MPaに比較すると、0.2MPaは小さいため、試験片24への負荷荷重の低下は低い。このように、設定される試験条件(試験温度・圧力室22の内圧・気密室20の内圧)によって、試験片24への負荷荷重の低下を小さく抑えることが可能となる。
【0059】
また、気密室20の内圧が上昇する原因としては、例えば、ピストン16の移動に伴う気密室20の容積の減少が考えられる。
【0060】
しかしながら、荷重負荷時における試験片24の変形(ひずみ)は、弾性範囲内か、1〜2%程度であるため、ピストン16の変位は小さい。ピストン16の変位による気密室20の内圧上昇は、試験条件にもよるが温度上昇による気密室20の内圧上昇よりも、小さいものと考えられる。
【0061】
また、ピストン16の気密室の軸方向長さを大きく設定することにより、ピストン16の移動に伴う気密室20の容積の減少の割合、すなわち気密室の圧力上昇の影響を小さくできる。このため、試験片24への負荷荷重の低下を小さく抑えることが可能となる。
【0062】
以上のように、ピストン16の変位による気密室20の内圧上昇、及び温度上昇による気密室20の内圧上昇に起因する試験片24への負荷荷重の低下の影響は、抑制することができる。
【0063】
また、気密室20の内圧上昇による試験片24への負荷荷重の低下は抑制できるので、試験片24に作用する作用応力は、ほぼ一定であり、その作用応力を明確に算出可能となる。
【0064】
なお、試験をする際には、圧力室22内の加圧流体を目標温度に上昇させ、その上昇後に圧力室22の内圧を目標圧力に上昇させる方法をとってもよい。
【0065】
この方法によれば、圧力室22内の加圧流体の温度上昇に伴って、気密室20内の温度も上昇することになるため、気密室20の内圧が上昇する。これにより、試験片24に付与される荷重が減る。
【0066】
次に、圧力室22内の内圧を目標圧力に上昇させることにより、試験片24に付与される荷重が増える。
【0067】
ここで、圧力室22内の内圧を目標圧力に上昇させた後に圧力室22内の加圧流体を目標温度に上昇させる構成では、圧力室22内の内圧を目標圧力に上昇させたときに試験片24に付与される荷重が最大荷重となり、試験片24に付与される最終的な荷重が、最大荷重よりも減る。圧力室22内の加圧流体の温度上昇に伴う気密室20の内圧上昇のため、試験片24に付与される荷重が減るからである。
【0068】
これに対して、圧力室22内の加圧流体を目標温度に上昇させた後に圧力室22内の内圧を目標圧力に上昇させる場合では、試験片24に付与される最大荷重と、試験片24に付与される最終的な荷重との差がなくなるか、または、圧力室22内の内圧を目標圧力に上昇させた後に圧力室22内の加圧流体を目標温度に上昇させる方法よりも小さくなる。
【0069】
(曲げ試験を行うための試験具の構成)
次に、曲げ試験を行うための試験具の構成について説明する。
【0070】
図6は、曲げ試験を行うための試験具の正面図である。図7は、曲げ試験を行うための試験具の側面図である。なお、試験具13と同一の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
曲げ試験を行うための試験具113は、図6及び図7に示すように、一端部(図6及び図7における上端部)が開放され、他端部(図6及び図7における下端部)が閉鎖された円筒状のシリンダー114を備えている。
【0072】
シリンダー114には、曲げ試験片124を支持する支持部材126を支持する一対の支持部128が形成されている。一対の支持部128は、シリンダー114の開放端部からシリンダー114の軸方向(図6及び図7における上方)に沿って突出しており、支持部材126を2点で支持している。
【0073】
支持部材126はブロック状に形成されている。支持部材126には、シリンダー114の半径方向に沿って配置された2つのピン130が、間隔を置いて設けられている。2つのピン130に、曲げ試験片124の両端部が当接している。
【0074】
曲げ試験片124は、直方体形状にされた棒状に形成されている。曲げ試験片124は、その長手方向が、シリンダー114の半径方向に沿って配置されている。曲げ試験片124の長手方向中間部には、切り込み124Aが支持部材126に対向するシリンダー114側の対向面に形成されている。
【0075】
一方、ピストン16には、ピストン16から曲げ試験片124に向けて伸びるロッド136が設けられている。ロッド136は、支持部128と同様に、シリンダー114の開放端部からシリンダー114の軸方向(図6及び図7における上方)に沿って伸び出ている。
【0076】
ロッド136の先端部には、曲げ試験片124を押圧するための押圧部材138が設けられている。押圧部材138は、4つの板体で囲まれて側面視にて枠状に形成されている。押圧部材138の対向する側板138Aには、曲げ試験片124の背面側でピン132が貫通しており、ピン132が側板138Aに固定されている。
【0077】
これにより、ピン132が曲げ試験片124の背面側の長手方向中央部をシリンダー114側へ押圧する。このとき、曲げ試験片124は、支持部材126との対向面側の長手方向両端部がピン130に支持されるので、曲げ試験片124に曲げ応力が付与される。
【0078】
このように、試験片124はピストン16に間接的に係合しており、ピストン16の移動力(付勢力)が、ロッド136、押圧部材138、ピン132を介して、ピストン16から試験片124に伝達するようになっている。
【0079】
(試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置の構成)
次に、試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置の構成について説明する。図8は、試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置の全体構成を示す概略図である。図9は、試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置における試験具及び圧力容器の構成を示す概略図である。なお、試験装置10と同一の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0080】
試験片54に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置100では、図8及び図9に示すように、加圧された加圧流体が内部に収容された圧力容器(オートクレーブ)212を備えている。圧力容器212は、図9に示すように、内部を開放する開放部212Cを有する圧力容器本体212Aと、開放部212Cを開閉可能な蓋部材212Bとを備えて構成されている。
【0081】
本実施形態では、加圧流体として、高温高圧(例えば300℃、7〜10MPa)とされた純水が、圧力容器212に収容されている。圧力容器212に収容される加圧流体としては、純水に限られず、その他の液体や、気体(ガス)であっても良い。
【0082】
試験装置100は、図8に示すように、圧力容器212の純水を循環して水質を一定に保つための循環路38を備えている。循環路38には、上流側から下流側に向けて順に、冷却器40、イオン交換樹脂36、水質調整タンク42、低圧ポンプ44、高圧ポンプ46及びヒータ48が設けられている。
【0083】
圧力容器212から排出された純水は、冷却器40で冷却水によって冷却され、イオン交換樹脂36によりイオン濃度が調整され、水質調整タンク42より溶存する酸素等のガス濃度が調整される。さらに、ガス濃度が調整された純水は、低圧ポンプ44及び高圧ポンプ46により、段階的に加圧されて、ヒータ48により昇温されて、再び圧力容器212内に戻るようになっている。なお、図8においては、後述のシリンダー214を省略して図示している。
【0084】
なお、試験装置100は、上記のような循環機構を備えないオートクレーブで構成されていても良い。
【0085】
圧力容器212の内部には、図9に示すように、円筒状に形成されたシリンダー214と、シリンダー214内部に往復運動可能に設けられたピストン216とを備えた試験具213が設けられている。この試験具213は、圧力容器本体212Aに入れられ、圧力容器本体212Aに蓋部材212Bが閉められて、圧力容器212に収容される。
圧力容器212に収容される試験具213は、単数であっても、複数であっても良い。
【0086】
試験具213のピストン216は、シリンダー214内部に形成された気密室220と、シリンダー214外部に形成された圧力室222とを仕切っている。気密室220は、シリンダー214の外部(圧力容器212の内部)とは連通せずに遮断された密閉空間とされている。
【0087】
加圧流体が収容される圧力室222は、シリンダー214の外部(周囲)に形成されている。
【0088】
圧力容器212内の圧力室222には、試料の一例として、切込みが形成されたCT(CompactTension)試験片54が配置されている。試験片54としては、例えば、ステンレス鋼、Ni基合金などの高耐食性金属材料が用いられる。なお、試験片54としては、耐食性の低い金属材料や、セラミックス、プラスチックなどの非金属材料を用いても良い。
【0089】
試験片54は、一端部が、圧力容器212(蓋部材212B)に設けられた支持部材226に支持されている。支持部材226は、蓋部材212Bからシリンダー214の軸方向(図8における上方)に沿って延出された一対の支持部228と、一対の支持部228の先端部に掛け渡された支持体230と、支持体230に取り付けられた固定部材256と、を備えて構成されている。
【0090】
ピストン216には、試験片54を固定するための固定部材258がロッド254を介して設けられており、ピストン216の移動力(付勢力)が、固定部材258を介して、ピストン216から試験片54に伝達するようになっている。
【0091】
固定部材256及び固定部材258は、それぞれ、一対の側板256A、一対の側板258Aを有し、側面視にてコの字状(Uの字状)をしている(図5参照、図9においては、一方の側板256A、258Aを図示)。試験片54は、一対の側板256A及び一対の側板258Aの間に挿入され、一対の側板256A及び一対の側板258Aを貫通する固定ピン260及び固定ピン262により、一端部及び他端部が固定されている。
【0092】
ピストン216には、気密室220の気密状態を維持して気密室220を貫通し、圧力室222の外部へ引き出されたロッド270が連結されている。
【0093】
シリンダー214には、ロッド270とシリンダー214との間をシールするためのOリング272が設けられている。また、蓋部材212Bには、ロッド270と圧力容器212(蓋部材212B)との間をシールするためのOリング274が設けられている。また、ピストン216には、ピストン216とシリンダー214をシールするためのOリング232が設けられている。
【0094】
ロッド270先端部には、図8に示すように、ロッド270及びピストン216を通じて試験片54に荷重を付与するアクチュエータ280が設けられている。アクチュエータ280は、油圧や電動力を用いて、ロッド270に引っ張り荷重を付与する。
【0095】
一般に試料への最大負荷荷重はアクチュエータの容量に依存するが、試験装置100ではアクチュエータ等装置の改造を行うことなく、ピストンおよびシリンダーの追設のみにより、試料への最大負荷荷重をピストンに作用する差圧分だけ増大させることができる。
【0096】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本実施形態に係る試験装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る圧力容器及び試験具の構成を示す概略図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る圧力容器及び試験具の他の構成を示す概略図である。
【図4】図4は、CT試験片を用いた場合の試験具の構成を示す正面図である。
【図5】図5は、CT試験片を用いた場合の試験具の構成を示す側面図である。
【図6】図6は、曲げ試験を行うための試験具の正面図である。
【図7】図7は、曲げ試験を行うための試験具の側面図である。
【図8】図8は、試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置の全体構成を示す概略図である。
【図9】図9は、試験片に負荷を与えるアクチュエータを備える試験装置における試験具及び圧力容器の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0098】
10 試験装置
13 試験具
14 シリンダー
16 ピストン
20 気密室
22 圧力室
24 試験片
29 ボルト
34 キャップ
54 試験片
100 試験装置
113 試験具
114 シリンダー
124 試験片
213 試験具
214 シリンダー
216 ピストン
220 気密室
222 圧力室
270 ロッド
280 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉された気密室が内部に形成されたシリンダーと、
前記シリンダー内部に往復運動可能に設けられ、前記気密室と外部とを仕切り、前記外部と前記気密室との差圧により前記気密室側へ付勢され、その付勢力が試料に伝達されて前記試料に荷重を付与可能なピストンと、
を備えた試験具。
【請求項2】
前記シリンダーまたは前記ピストンに設けられ、前記気密室を開放可能な開閉手段を備えた請求項1に記載の試験具。
【請求項3】
加圧された加圧流体が室内に収容され、その室内に試料が配置される圧力室と、
前記圧力室の内圧よりも低い内圧とされた前記気密室が内部に形成されたシリンダーと、前記外部としての前記圧力室と前記気密室とを仕切り、前記圧力室内と前記気密室内との差圧により前記気密室側へ付勢されて前記試料に荷重を付与するピストンと、を備えた請求項1又は請求項2に記載の試験具と、
を備えた試験装置。
【請求項4】
前記ピストンに連結され、前記気密室の気密状態を維持して前記気密室を貫通し、前記圧力室の外部へ引き出されたロッドと、
前記ロッドに設けられ、前記ロッド及び前記ピストンを通じて前記試料に荷重を付与するアクチュエータと、
を備えた請求項3に記載の試験装置。
【請求項5】
請求項3に記載の試験装置を用いた試験方法であって、
前記圧力室内の加圧流体を目標温度に上昇させ、その上昇後に前記圧力室の内圧を目標圧力に上昇させる試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−156582(P2010−156582A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334150(P2008−334150)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】