説明

試験台装置

【課題】 駆動系および車両のシミュレーションと、エンジンの車両特有燃焼動作および過渡動作との接続を確立できるエンジン試験台を提供する。
【解決手段】 試験台装置には、アダプタフランジ3を有する連結シャフト2によって電気機械4に連結される試験対象物1を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械4が含まれる。
エンジンにおける実際の車両特有の燃焼および過渡動作と駆動系および車両シミュレーションとの接続を確立できるようにするために、連結シャフト2と駆動および負荷機械4とからなる装置は一定した所定の慣性モーメントを有し、試験対象物1、アダプタフランジ3、連結フランジ2、および試験対象物1を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械4からなるシステムの共振周波数がアイドリング周波数と試験対象物1による部分負荷周波数との間をとるようにアダプタフランジ3の質量および慣性モーメントが選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械に、アダプタフランジおよびトルク測定フランジを有する連結シャフトによって連結される試験対象物と、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械用のフィードバック制御装置とを備えた試験台装置に関する。
【背景技術】
【0002】
快適さに関する消費者の高い期待と共に、高騰する燃料価格ならびに排気ガスおよびCOに関する法的規制は、結果として、非常に革新的な駆動系を備えてコストを最適化した車両に対する需要の絶え間ない増加をもたらす。この理由で、車両メーカーは、迅速かつ目的をはっきりさせて、非常に複雑な駆動系を開発するという難題に直面している。これらの難題に対処するために、様々な戦略が開発されたが、そこでは、戦略アプローチ「ロードツーラブマス(road−to−lab−math)」に基づいた開発プロセスの「フロントローディング」が、中核戦略であると分かった。ここでは、以前には高価なプロトタイプ環境においてのみ処理できた開発作業が、例えば、非特許文献1、非特許文献2または非特許文献3に説明されているように、初期のプロセス段階に再現可能である。プロトタイプ環境は、シミュレーションによって取って代わられることになる。しかしながら、この戦略は、開発者が、完全なシステムとしての車両と同様に、環境と車両の相互作用を検討できる連続的な開発環境が、開発者に利用可能であることを必要とする。
【0003】
運転性の較正などの問題を、エンジン試験台に高品質で再現できるようにするために、後で消費者の快適さに関連する影響をマッピングできることが必要である。現在の試験台システムは、かかる駆動系シミュレーションを最大約8〜10Hzにまでのみマッピングすることができるが、それは不十分であると分かっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】グスチウェイトル K、エリンガー R、ロイブナー E :「ハイブリッド開発プロセスの装置及び方法」19.「モータと環境」会議 グラーツ(Gschweitl K., Ellinger R., Loibner E.: “Werkzeuge und Methoden im Hybrid Entwicklungsprozess”, 19. “Motor und Umwelt”-conference Graz 2007)
【非特許文献2】スチル C、ゲスチウェイテル K:「ハイブリッド駆動装置の体系的有効性」、2.開発方法の国際シンポジウム、ダルムシュタット、2007(Schyr C. Gschweitl K.: “Methodische Validierung von hybriden Antriebsstraengen”, 2. Internationales Symposium fuer Entwicklungsmethodik, Darmstadt, 2007)
【非特許文献3】ベイドル C、ライナー G、スチョエグル P、マルティニ E:「革新的なシミュレーション&試験装置システムによって将来のパワートレインの解析を可能化」32回FISITA自動車会議、ミュンヘン、2008(Beidl C., Rainer G., Schoeggl P., Martini E.: “Enabling Future Powertrain Solutions by innovative Simulation & Testing Toolchains”, 32ndFISITA World Automotive Congress, Munich, 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、試験台装置、特に、上記の説明で明白になった不都合を回避することによって、駆動系および車両のシミュレーションと、エンジンの車両特有燃焼動作および過渡動作との接続を確立できるエンジン試験台を提供することである。特に、今までは不可能だった内燃機関の回転不規則性を詳細に再現こと、および40Hzまでの誘発された周波数を駆動系から燃焼機関に伝達することができるようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を解決するために、連結シャフトと駆動および負荷機械とからなる装置が一定した所定の慣性モーメントを有することと、試験対象物、アダプタフランジ、連結シャフト、および試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械からなるシステムの共振周波数が試験対象物のアイドリング周波数と部分負荷による周波数との間をとるようにアダプタフランジの質量および慣性モーメントが選択されることとが、本発明に従って提供される。このシステム構成によって、例えば、高度に開発された車両シミュレーションと組み合わせた、不点火を伴う「実際の」燃焼パルスの現実的な再現またはハイブリッド関連の始動/停止動作もまた、今や、試験台上で実行することができる。したがって、この試験台構成は、実際の過渡的な車両挙動との高い相関を必要とするエンジンおよび駆動系エリアにおける作業に極めて適している。
【0007】
特に重要な問題は、最大40Hzまでの駆動系振動の再現、すなわち、この周波数範囲つまりエンジンの動作範囲内にある試験台装置の機械的共振周波数における、機械的振動システムのエンジン−シャフト−負荷ユニットの安全で正確な調節の可能性を伴う再現である。したがって、本発明の有利で例示的な実施形態によれば、アダプタフランジの慣性モーメントは、共振周波数が10Hz〜100Hzの間、好ましくは20Hz〜60Hzの間をとるように選択されることが可能となる。
【0008】
好ましくは、連結シャフトは、等速ジョイントシャフトとして設計される。
【0009】
車両挙動における実際の過渡的なフィードバック効果をシミュレーションによって確実に再現できるようにするために、できるだけ低い固有フライホイール質量および高い調整速度を特徴とする負荷ユニットが必要である。したがって、本発明のさらに例示的な実施形態は、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械が、できるだけ低い慣性モーメントを有することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械が、できるだけ高い慣性モーメントに対するトルク比を有するようにさらに準備される。2つの言及した特徴は、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械が高い加速(減速)能力を有するように準備しなければならない。
【0011】
本発明の特に有利な構成によれば、試験対象物を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械、特に機械の回転子は、角度同期で衝撃状の高トルク負荷に対して対応されている。
【0012】
上述の要件は、駆動および負荷機械が、三相機として、好ましくは別個に励磁される非同期機、または永久磁石によって励磁される同期機として形成された場合に、特にすぐれた方法で実現することができる。
【0013】
下記の説明において、本発明は、好ましい例示的な実施形態および添付の図面に基づいて、より詳細に示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の試験台装置を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図は、試験台装置、例えば、クランクシャフトによって象徴された試験対象物1としての内燃機関を伴うエンジン試験台を示す。前記試験対象物1は、試験対象物1を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械4に、シャフト2およびアダプタフランジ3によって連結される。制御および評価ユニット5は、上位の試験台自動化システムの一部とすることもまたできるが、電気機械4用のフィードバック制御装置6もまた含む。試験対象物1は、実際には組み立てられているが、試験対象物1に連結可能なコンポーネントは、シミュレーションによって代替可能であり、このシミュレーション用に、試験対象物1に連結可能なかかるコンポーネント用の少なくとも1つのモデルが、フィードバック制御装置6において実現され、次にこのモデルから、電気機械4用のフィードバック制御要求が決定される。
【0016】
連結シャフト2および電気機械4からなる装置は、一定した所定の慣性モーメントを有する。さらに、試験対象物1、アダプタフランジ3、連結シャフト2、および電気機械4からなるシステムの共振周波数がアイドリング周波数と試験対象物1の部分負荷による周波数との間、つまり好ましくは約20〜60Hzの間にあるようにアダプタフランジ3の質量および慣性モーメントが選択される。この周波数範囲では、試験対象物1としての内燃機関の回転不規則性の現実的な再現が可能である。なぜなら、誘発された周波数は、駆動系または他のモデルから内燃機関へ伝達されるからである。ここで、シャフト2は、以前の台に対して上方にシフトされた低域通過周波数を備えたローパスフィルタのように動作する。
【0017】
有利なことに、試験対象物1と、アダプタフランジ3と、連結シャフト2と、電気機械4とからなる機械的振動システムの安全で正確な調節は、この周波数範囲、すなわち、エンジンの動作範囲にある、試験台の機械的な共振周波数において、適切なフィードバック制御手段によって、サポートすることができる。そのために、フィードバック制御装置6には、例えば、コントローラ、およびフィードバックブランチに配置された実際値計算ユニットが含まれる。実際値計算ユニットでは、フィードバック制御装置の現在の実際値、および来たるべき、システム遅延のない実際値の予測を、前の作業サイクルの実際値に基づいて処理して、フィードバック制御装置にフィードバックされる修正済みの実際値を形成することができる。
【0018】
有利なことに、連結シャフト2は、等速ジョイントシャフトとして設計されている。それは、対応した剛性およびトルク伝達能力を備えた鋼管8の端部に2つの等速ジョイント7を有する。等速ジョイント7により、試験対象物1および電気機械4の幾何学的配列は、それほど重要ではなく、従来的に用いられているトーションバーと比較して、非常に単純な方法で実現することができる。また、同じシャフト2が多くの異なる試験対象物1用に使用できるのに対して、以前は、シャフト2の設計は、試験対象物1ごとに再計算しなければならなかったし、特別に調整されたシャフトが組み立てられなければならなかった。
【0019】
試験対象物1に連結されたコンポーネントのフィードバック効果の、シミュレーションを介した優れた再現のために、駆動および/または負荷ユニット4は、できるだけ小さな慣性モーメントと同様に、好ましくはできるだけ高い慣性モーメントに対するトルク比を有する。2つの言及した特徴は、「時間単位当たり回転数」の値(rpm/sec)によって再現される、必要な高い加速(減速)能力を保証するが、この値は、好ましくは30,000rpm/sec以上であり、機械の定格モーメント、潜在的過負荷、および慣性モーメントから計算される。
【0020】
本発明の特に有利な構成によれば、電気機械4、特にその回転子は、角度同期で衝撃状の高トルク負荷に対して対応している。また、これに対しては、渦電流および過度の熱発生を防ぐ対策が、特に電気機械4の取り付けリングのエリアで寄与する。
【0021】
言及した要件は、電気機械4が、三相機として、好ましくは別個に励磁される非同期機または永久磁石によって励磁される同期機として形成される場合に、特にすぐれた方法で実現することができる。
【0022】
本発明による試験台装置を用いれば、例えば、試験対象物1としての内燃機関の全速度帯域内の回転不規則性の現実的なマッピングが可能である。これは、車両からエンジン試験台への、SOP指向の開発および較正作業(例えば、運転性、OBD、始動/停止、車両補助駆動システムの開発、構造による雑音の解析など)の再現のための基礎である。これはまた、ガソリンエンジンにおける不点火の検出に関連し、それにより今や、本発明による試験台装置によって、OBD関連の回転不規則信号を車両内でのように得ることができるが、これは、今まで、どんなエンジン試験台でも不可能だった。なぜなら、従来のフィードバック制御と組み合わされた従来の試験台システムは、この挙動を平滑化しているからである。さらに、ハイブリッド駆動にとって特に不可欠なマルチマスフライホイールの動作は、エンジンに向かって増加する回転不規則性によってその動作が特徴づけられるプロトタイプの利用可能性に依存することなくシミュレートすることができる。本発明による特徴によって、燃焼機関に対するマルチマスフライホイールの影響を、今や、体系的かつ非常に効率的な方法で研究することができる。
【0023】
また、エンジン試験台に高品質で再現すべき運転性の較正などの作業のために、後に続く消費者の快適さに関連する影響をマッピングすることが可能でなければならない。運転性は、車両との相互作用中におけるドライバの主観的感覚として理解すべきである。駆動系開発プロセスにおいて、性能、燃料消費、排気ガスおよび運転性を決める開発目標間で区別をするのが普通である。それぞれの目標の設定および最適化は、ほとんどの場合に、異なるプラットホーム上で行われる。すなわち、運転性能および燃料消費は、例えば駆動系試験台で行われ、燃料消費および排気ガスは、例えばローラ動力計で行われる。運転性の設定は、もっぱら、テストドライバの主観的評価に基づいて車両において行われる。しかしながら、満足な運転性設定が達成されない場合には、開発プロセスにおける繰り返しループを回避することができない。全体的な共通の最適条件は、開発目標の別個の設定ゆえに、見つけるのが困難である。
【0024】
駆動系開発プロセス中に運転性のシミュレーションおよび客観的評価のための方法を用いることによって、上記の問題を回避することが可能である。エンジン試験台への統合によって、多くの設定作業は、今や、開発プロセスにおいて、より早く実行することができる。ここでまた、10Hz〜100Hz、好ましくは20Hz〜60Hzにおけるシステムの共振周波数に、試験台装置を本発明に従って設定することが、有利である。なぜなら、多くの運転操作が、この範囲内で振動を生じるからである。例えば、運転操作「チップイン」の振動(アクセルペダルによって引き起こされる正のボナンザ効果)は、最大40Hzに達する可能性がある。
【0025】
さらに、本発明による試験台装置は、様々な連結されたコンポーネントの影響に関連する問題の時間および材料節約解析を、複数の実際のコンポーネントを用いた試験を実行する必要なしに、例えば始動または停止の場合に、言及した周波数範囲におけるこれらのコンポーネントのフィードバック効果をシミュレートすることによって、可能にする。また、高価な試験車両もコンポーネントプロトタイプも必要ではなく、ハードウェアの変更または変形の再現が、短い時間の内に可能であり、他のコンポーネントを、実際の車両におけるよりも速く交換することができ、試験は、互いに容易に比較することができる。なぜなら、開発環境は、常に一定に保たれ、包括的な測定機器が、必要に応じて使用できるからである。
【符号の説明】
【0026】
1 試験対象物
2 連結シャフト
3 アダプタフランジ
4 電気機械
5 制御および評価ユニット
6 フィードバック制御装置
7 等速ジョイント
8 鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象物(1)を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための電気機械(4)に、アダプタフランジ(3)を有する連結シャフト(2)によって連結された前記試験対象物(1)と、前記試験対象物(1)を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための前記電気機械(4)用のフィードバック制御装置と、を備えた試験台装置であって、連結シャフト(2)と駆動および負荷機械(4)とからなる前記装置が一定した所定の慣性モーメントを有することと、試験対象物(1)、アダプタフランジ(3)、連結シャフト(2)、および前記試験対象物(1)を駆動しかつそれに負荷をかけるための電気機械(4)からなるシステムの共振周波数がアイドリング周波数と前記試験対象物(1)の部分負荷との間をとるように前記アダプタフランジ(3)の質量および慣性モーメントが選択されることを特徴とする試験台装置。
【請求項2】
前記アダプタフランジ(3)の慣性モーメントが、前記システム(1、2、3、4)の共振周波数が10Hz〜100Hzの間、好ましくは20Hz〜60Hzの間にあるように選択されることを特徴とする、請求項1に記載の試験台装置。
【請求項3】
前記連結シャフト(2)が、等速ジョイントシャフトとして設計されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の試験台装置。
【請求項4】
前記試験対象物(1)を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための前記電気機械(4)が、できるだけ低い慣性モーメントを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の試験台装置。
【請求項5】
前記試験対象物(1)を駆動しかつそれに負荷をかけるための前記電気機械(4)が、できるだけ高い慣性モーメントに対するトルク比を有することを特徴とする、請求項4に記載の試験台装置。
【請求項6】
前記試験対象物(1)を駆動しかつ/またはそれに負荷をかけるための前記電気機械(4)、特に前記機械の回転子が、角度同期で衝撃状の高トルク負荷に対して対応していることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の試験台装置。
【請求項7】
前記駆動および負荷機械(4)が、三相機として、好ましくは別個に励磁される非同期機、または永久磁石によって励磁される同期機として構成されることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の試験台装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−2455(P2011−2455A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−136141(P2010−136141)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(398055255)アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (30)
【Fターム(参考)】