説明

試験管を用いた超臨界抽出方法

【課題】
大規模な設備や多量のサンプルを必要とすることなく、正確な分析に必要とされるだけの微量物質の抽出が可能となる、安価で、かつ、コンタミネーションのない方法を見出すこと。
【解決手段】
市販のガラス製試験管を用い、試験管の約半分量のメタノールを入れて封緘した後、試験管内のメタノールと同じ液面になるように耐圧ステンレス容器の中にもメタノールを加えて密封する。次に、その耐圧ステンレス容器をオーブンで加熱するだけで、試験管の破損もなく、微量のサンプルのメタノールによる超臨界抽出ができる。試験管は使い捨てであり、コンタミネ−ションもなく、微量物質分析の精度も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な設備や多量のサンプルを必要とせずに、安価な市販のガラス製試験管を用いて、微量のサンプルを超臨界抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超臨界流体抽出装置として知られている装置(例えば、特許文献1参照)は、設備が大型で、高価である。また、リアクター(サンプルを入れる容器)も小型のものでも100mlのサイズであり、抽出に必要なサンプルもそれに応じて数mgは最低限必要であり、微量のサンプルからの超臨界抽出が出来ないという欠点があった。さらに、直接、リアクターの内部にサンプルと抽出する液体を入れるため、完全な洗浄が困難であり、コンタミネ−ションの可能性も生じるという欠点があった。
【0003】
また、トナーなどの固形サンプルをテトラヒドロフランなどの溶媒にて樹脂成分を抽出する方法として、ソックスレー抽出法が、よく知られており(例えば、特許文献2参照)、乾燥塗膜の破片から、塗料の成分を抽出する方法としても用いられる。しかしながら、この方法では、抽出効率が悪く、長時間を要するという欠点があり、加えて、上記の超臨界抽出方法と同様、容器の洗浄不十分によるコンタミネ−ションの懸念も存在する。
【特許文献1】特許第3432513号公報
【特許文献2】特開2001−272812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、サンプル量が微量の場合でも、正確な分析に必要とされるだけの物質の抽出が可能であり、かつ、安価でコンタミネ−ションの懸念もない超臨界抽出をする方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を進めた結果、安価な市販のガラス製試験管を用いて、微量なサンプルから超臨界抽出ができることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)抽出しようとする微量のサンプルを試験管に入れ、試験管の容積のおよそ半分量のメタノールを加えた後、溶融によって試験管の封入口を封鎖する工程と、(2)試験管の体積の 1.1〜10倍の容積を有する耐圧ステンレスの容器に試験管を入れた後、耐圧ステンレス容器の中に試験管内のメタノールと液面が同じになるようにメタノールを加える工程と、(3)耐圧ステンレス容器を密封し、オーブンにて加熱し、メタノールが超臨界状態になるまで加熱する工程を経ることによって、微量物質の超臨界抽出方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、用いる試験管が内径3〜5mm、長さ50〜100mmであることを特徴とする微量物質の超臨界抽出方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、封入された試験管容積の約半分量のメタノールと同じ液面になるように耐圧ステンレス容器の中にもメタノールを封入し、オーブンで加熱するだけで、試験管の破損もなく、微量のサンプルのメタノールによる超臨界抽出ができた。また、試験管は使い捨てのため、洗浄不十分等の理由によるコンタミネ−ションの心配もなく、微量物質分析の精度も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明は、市販のガラス製試験管と、耐圧ステンレス容器とオーブンがあれば、超臨界抽出が可能であり、乾燥塗膜の微量の破片から定性分析ができる画期的な手法である。
【0011】
本発明に用いる試験管は、特に限定がなく、市販の試験管を用いることができる。好ましくは、微量サンプルに用いることから、内径が3〜5mm、長さが50〜100mmであり、試験管の肉厚は、2〜4mmのものが好ましい。
【0012】
本発明に用いる耐圧ステンレス容器は、特に限定はなく、加圧された状況下で密閉状態が維持できるものであればよい。但し、試験管の内圧を考慮すると、耐圧ステンレス容器の長さは、試験管の長さとほぼ同じ長さが好ましい。試験管の長さよりも長すぎる場合は、試験管の内圧が高くなりすぎてガラスが破裂する可能性がある。
【0013】
本発明の第1工程は、抽出しようとする微量のサンプルを試験管に入れ、試験管の容積のおよそ半分量のメタノールを加えた後、加熱によって試験管の封入口を封鎖する工程であるが、メタノールの量が、厳密に試験管の1/2の容量である必要はない。半分よりも少ない量では、溶媒量が少なくなって、抽出効率が悪くなり、また、半分より多い量では、抽出濃度が薄くなり、逆に、耐圧ステンレス容器に入れるメタノールの量も多くなって不経済になることから、およそ、半分量であることが好ましい。
【0014】
本発明において、メタノールを抽出剤として用いる理由は、塗膜中の微量有機物の抽出に、比較的低い温度と圧力(240℃×7.9MPa)で超臨界状態に到達し、取扱いが容易であることによる。 従って、特殊な耐圧容器を必ずしも必要としない利点がある。
【0015】
例えば、水の超臨界条件は、374℃×22MPaであり、メタノールに比べて約130℃高い温度で、かつ圧力が3倍である。また、有機物質の抽出効率を考えた場合、水よりもメタノールの方が効率がよい。
【0016】
本発明に用いられる微量のサンプルは、乾燥塗膜の場合、カッターナイフで薄いフレーク状に削ぎ取って採取することができる。サンプル量については、抽出する目的の物質にもよるが、0.1〜20mgが好ましい。
【0017】
本発明の第2工程は、試験管の体積の 1.1〜10倍の容積を有する耐圧ステンレスの容器に試験管を入れ、耐圧ステンレス用に試験管内のメタノールと液面が同じになるようにメタノールを加える工程である。耐圧ステンレス容器の容積は、試験管の体積の 1.1〜10倍の容積が好ましく、5〜9倍がさらに好ましい。耐圧ステンレス容器の容積が、試験管の体積の 1.1倍未満の場合は、耐圧ステンレス容器内に封入するメタノールが少なくなりすぎて、耐圧ステンレス容器内のメタノール蒸気圧が十分ではないことによって試験管が破損する可能性がある。また、耐圧ステンレス容器の容積が、試験管の体積の10倍を超える場合は、超臨界抽出に及ぼす影響はないが、耐ステンレス容器内に封入するメタノールが無駄である。
【0018】
また、本発明の第2工程において、耐圧ステンレスの容器内のメタノールと試験管内のメタノールの液面を同じ高さにする理由は、耐圧ステンレス容器内のメタノールの蒸気圧と試験管内のメタノールの蒸気圧とを同じにすることで、試験管にかかる内圧と外圧を等しくし、試験管の破損を防ぐ目的がある。ステンレス容器が透明ではないため、メタノールの液面を目視によって判断することができず、計算によって行うことが好ましい。 具体的な計算方法は、実施例1の箇所で記述する。
【0019】
耐圧ステンレス容器内のメタノールの高さが、試験管内のメタノールの高さに比べて、低すぎる(メタノール量が少なすぎる)場合、試験管の内圧が高くなりすぎて、試験管が破裂する可能性がある。また、耐圧ステンレス容器内のメタノールの高さが、試験管内のメタノールの高さに比べて、高すぎる(メタノール量が多すぎる)場合、ステンレス容器の内圧が高くなりすぎて、試験管を押しつぶす可能性がある。
【0020】
本発明の第3工程は、耐圧ステンレス容器を密封し、オーブンにて加熱し、メタノールが超臨界状態にまで溶融する工程である。オーブンの温度は、240〜300℃が好ましい。240℃未満の温度では、メタノールの超臨界条件には至らない可能性があり、300℃を超えた場合には、試験管の内圧が高くなりすぎて、破損をする可能性がある。オーブンが、適正な温度条件であれば、試験管内のメタノールは、70〜200気圧となり、超臨界条件は実現していると考えられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例、比較例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、これらの例になんら限定されるものではない。
<実施例1>
カッターナイフで削ぎ取った塗膜 0.3mgを、図1に示す内径 3mm(外径 5mm)で長さが65mm(底部の厚み 5mm)の市販のガラス製試験管に入れ、メタノールの高さが試験管の約半分の30mmになるようにメタノール 0.21mlを加えたのち、ガスバーナーを用いて、試験管を封緘する。次に、内径10mmの耐圧ステンレス容器に、封緘した試験管を収納し、メタノールの高さが試験管内のメタノールと同じになるように、2.06mlのメタノールを加える。次にこの耐圧ステンレス容器を密封し、オーブンにて280℃にて2時間加熱したのち、室温にまで冷却放置した。塗膜からメタノールによって抽出された成分をGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)装置にて分析を行ったところ、図4に示すような塗膜中に含まれる添加剤の微量成分の定性分析ができた。
【0022】
メタノール量は、次に示す計算に基づく。但し、試験管は小さいので、低部は球形であるが無視し、円筒形であると仮定して計算する。
ガラス管に加えるメタノール量:内径 3mmの円筒に、30mmの高さになる量として計算。(図1参照)
1.5×1.5×3.14×30=212mm (約0.21ml)
耐圧ステンレス容器に加えるメタノールの量:内径 10mmの円筒内に、外径 5mmで高さが35mm(30mmに試験管低部の厚み5mm)の円筒が中に入っているものとして計算。(図2、図3参照)
(5×5×3.14−2.5×2.5×3.14)×35=2061mm (約2.06ml)
<比較例1>
耐圧ステンレス容器に加えるメタノールの量を実施例の半分量の1.1mlとした以外は、実施例1と同じにしたところ、試験管が破裂して、塗膜中の微量成分の抽出ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】メタノールを半分量加えた試験管の断面図
【図2】耐圧ステンレス容器に試験管を入れた処の真上から見た平面図
【図3】メタノールを半分量加えた試験管と同じ高さのメタノールを加えた耐圧ステンレス容器の断面図
【図4】抽出した微量成分のGC−MS分析チャート
【符号の説明】
【0024】
11:メタノール、12:試験管(内径3mm、外径5mm)、13:耐圧ステンレス容器(内径10mm)
14:試験管の封緘部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)抽出しようとする微量のサンプルを試験管に入れ、試験管の容積のおよそ半分量のメタノールを加えた後、溶融によって試験管の封入口を封鎖する工程、
(2)試験管の体積の 1.1〜10倍の容積を有する耐圧ステンレスの容器に試験管を入れた後、耐圧ステンレス容器の中に試験管内のメタノールと液面が同じになるようにメタノールを加える工程、
(3)耐圧ステンレス容器を密封し、オーブンにて加熱し、メタノールが超臨界状態になるまで加熱する工程、
を経ることによる、微量物質の超臨界抽出方法。
【請求項2】
試験管が内径3〜5mm、長さ50〜100mmであることを特徴とする請求項1記載の微量物質の超臨界抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−247499(P2006−247499A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66433(P2005−66433)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】