説明

誘導性の真核生物発現システム

【課題】真核細胞における目的の組換え分子の大量産生に適切な、厳密に調節された誘導性遺伝子発現システムを提供すること。
【解決手段】真核細胞における、誘導性の遺伝子発現のための組成物および方法。目的のヌクレオチド配列の発現は、転写ブロッキングドメインおよびリガンド結合ドメインからなる調節融合タンパク質によって制御される。リガンド結合ドメインに対する認識リガンドが存在する場合、ヌクレオチド配列の転写はブロックされる。認識リガンドの除去により、目的のヌクレオチド配列は、転写される。本方法は、真核細胞における所望の産物の大量調製に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許出願の記載)
本出願は、米国特許法119(e)の下で、米国仮出願第60/384,004号(2002年5月29日出願)の優先権を主張し、その出願は、本明細書中で、本出願中にその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、真核細胞における誘導性の遺伝子発現のための方法に関する。本発明は、誘導性の遺伝子発現が可能な細胞、このような細胞を含むトランスジェニック動物、ならびに調節融合タンパク質を含むヌクレオチド配列およびタンパク質を、さらに含む。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
細胞における目的の組換えヌクレオチド配列の制御された発現のための種々の方法が、当該分野で公知である。例えば、Noら(Noら(1996)Proc.Natl Acad.Sci.USA 93:3346−3351)は、VP16転写活性化ドメインに融合するエクジソン核レセプターからなるキメラ転写活性化因子を利用する、誘導性の遺伝子発現システムを記載する。誘導物質の存在下で、このキメラ転写活性化因子は、プロモーターから上流の認識配列に結合し、目的のヌクレオチド配列の転写を刺激する。誘導物質の非存在下で、目的のヌクレオチド配列の発現は、減少し、目的のプロモーターのヌクレオチド配列からの転写の基礎レベルに依存する。Gossenら(Gossenら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547−5551)は、キメラタンパク質tTA(VP16転写活性化ドメインに融合するTetRリプレッサータンパク質からなる)に基づく目的のヌクレオチド配列の発現を制御するシステムを記載する。エクジソンシステムと同様に、TetR DNA結合部位を特定するDNA配列は、遺伝子プロモーターの上流に挿入され、それにより、TetR−VP16融合タンパク質の結合が、プロモーターからの転写および目的のヌクレオチド配列の発現を刺激する。VP16転写活性化ドメインを利用する、標的化された転写調節のための最小プロモーターに近位の特定のDNA結合部位に標的化された他のシステムもまた、開発されており、これらとしては、以下が挙げられる:GAL4−VP16(Sadowskiら(1988)Nature 335:563−564)、LexA−VP16(Brentら(1985)Cell 40:729−736)、およびLacI−VP16(Labowら(1990)Mol.Cell.Biol.10:3342−3356)。他のTetRベースのシステムは、以下において記載される:Deuschleら(1995)Mol.Cell.Biol.15:1907−1914およびYaoら(1998)Hum.Gene Ther.13:1939−1950。
最小のプロモーターの使用に関連する、漏出性の発現から生じる問題により、グルココルチコイド核レセプターまたはエストロゲン核レセプターのステロイド結合ドメインの融合を使用するシステムが導かれた。(例えば、Mattioniら(1994)Methods Cell Biol.43:335−352;Louvionら(1993)Gene 131:129−134;Iidaら(1996)J.Virol.70:6054−6059を、参照のこと)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Noら(1996)Proc.Natl Acad.Sci.USA 93:3346−3351
【非特許文献2】Gossenら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547−5551
【非特許文献3】Sadowskiら(1988)Nature 335:563−564
【非特許文献4】Brentら(1985)Cell 40:729−736
【非特許文献5】Labowら(1990)Mol.Cell.Biol.10:3342−3356
【非特許文献6】Deuschleら(1995)Mol.Cell.Biol.15:1907−1914
【非特許文献7】Yaoら(1998)Hum.Gene Ther.13:1939−1950
【非特許文献8】Mattioniら(1994)Methods Cell Biol.43:335−352
【非特許文献9】Louvionら(1993)Gene 131:129−134
【非特許文献10】Iidaら(1996)J.Virol.70:6054−6059
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、真核細胞における目的の組換え分子の大量産生に適切な、厳密に調節された誘導性遺伝子発現システムに関する。本発明のシステムの構成要素としては、以下が挙げられる:転写ブロッキングドメインおよびリガンド結合ドメインを有する融合タンパク質;この融合タンパク質の転写ブロッキングドメインに結合し、ヌクレオチド配列の転写を阻害するオペレーター;およびオペレーターの制御下にあるプロモーター。目的のヌクレオチド配列の発現が阻害されることが所望される場合、このシステムは、融合タンパク質のリガンド結合ドメインに結合可能なリガンドを含み、これにより、融合タンパク質が安定化される。目的のヌクレオチド配列が発現されることが所望される場合、リガンドは除去され、融合タンパク質の不安定化および分解を生じる。従って、認識リガンドの非存在において、融合たんぱく質は、オペレーターから除去され、そして目的のヌクレオチド配列の発現を制御するプロモーターのオペレーター阻害が除去され、それにより、目的のヌクレオチド配列の発現が可能になる。
【0006】
第1の局面において、本発明は、真核細胞において、目的のヌクレオチド配列の発現を誘導する方法であって、この方法は、以下:(a)真核細胞を提供する工程であって、この真核細胞は、以下:(i)調節融合タンパク質(RPR)をコードするヌクレオチド配列であって、ここで、この融合タンパク質は、以下:(1)この目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメインおよび(2)リガンド結合ドメインからなる融合タンパク質である、ヌクレオチド配列;(ii)この目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、この融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)この転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーターを含む、真核細胞である、工程;(b)この融合タンパク質のリガンド結合ドメインに結合するリガンドの存在下で、工程(a)の細胞を所望の密度まで増殖させる工程であって、ここで、この目的のヌクレオチド配列の発現が阻害される、工程;ならびに(c)この細胞の存在下からこのリガンドを除去する工程であって、ここで、この目的のヌクレオチド配列の発現が誘導される工程を、包含する。
【0007】
転写ブロッキングドメインは、DNAに結合可能であり、かつ隣接するプロモーターからの転写をブロック可能なタンパク質である。より特定の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、細菌性リプレッサータンパク質、バクテリオファージリプレッサータンパク質、真核生物リプレッサータンパク質、または酵母リプレッサータンパク質に由来し得る。より特定の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、細菌性リプレッサータンパク質またはバクテリオファージリプレッサータンパク質に由来する。さらにより特定の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、TetR、LexA、LacI、TrpR、Arc、およびλClからなる群から選択されるリプレッサータンパク質に由来する。別の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、真核生物リプレッサータンパク質に由来する。さらにより特定の実施形態において、このリプレッサータンパク質は、GAL4に由来する。
【0008】
本発明の方法の別の特定の実施形態において、転写ブロッキングドメインは、DNAに結合し得るが切断し得ない変異制限酵素であり、オペレーターが、この制限酵素の認識部位である。より特定の実施形態において、転写ブロッキングドメインは、変異Not1である。
【0009】
特定の実施形態において、リガンド結合ドメインは、ステロイドレセプター、甲状腺レセプターまたはレチノイドレセプターに由来する。より特定の実施形態において、このリガンド結合ドメインは、エストロゲンレセプターに由来し、そしてその同族リガンドは、エストロゲンである。さらにより特定の実施形態において、このエストロゲンレセプターは、1つ以上の変異(例えば、T2変異)を含み、その同族リガンドは、タモキシフェンである。
【0010】
種々の真核細胞が、本発明の方法において使用され得る。これらの真核細胞としては、酵母細胞(例えば、Pichia pastoris)または哺乳動物細胞(例えば、COS、CHO、293、BHKもしくはNS0)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明は、目的のヌクレオチド配列の転写において広範に使用され得、この目的の産物は、mRNAもしくは触媒活性RNA、または転写された目的のヌクレオチド配列から生じる下流産物(例えば、タンパク質もしくはタンパク質フラグメント)のような、転写産物であり得る。このタンパク質またはタンパク質フラグメントとしては、ホルモン、レセプターもしくはレセプターフラグメント、抗体もしくは抗体フラグメント、生物学的に活性なペプチドもしくはタンパク質、酵素、リプレッサータンパク質、またはDNA結合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
第2の局面において、本発明は、調節融合タンパク質(RPR)をコードする、単離されたヌクレオチド配列に特徴を有する。ここで、この融合タンパク質は、(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメイン(このリガンド結合ドメインに結合し得る同族リガンドの存在下で、この融合タンパク質が安定化される)からなる。
【0013】
別の実施形態において、転写ブロッキングドメインは、細菌性リプレッサータンパク質、バクテリオファージリプレッサータンパク質、真核生物リプレッサータンパク質、または酵母リプレッサータンパク質に由来し得る。より特定の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、細菌性リプレッサータンパク質またはバクテリオファージリプレッサータンパク質(例えば、TetR、LexA、LacI、TrpR、Arc、およびλCl)に由来する。別の実施形態において、真核生物リプレッサータンパク質(例えば、GAL4)に由来する。別の特定の実施形態において、この転写ブロッキングドメインは、DNAに結合し得るが切断し得ない変異制限酵素であり、オペレーターが、この制限酵素の認識部位である。この特定の実施形態において、例えば、転写ブロッキングドメインは、変異Not1である。
【0014】
特定の実施形態において、リガンド結合ドメインは、ステロイドレセプター、甲状腺レセプターまたはレチノイドレセプターに由来する。より特定の実施形態において、このリガンド結合ドメインは、エストロゲンレセプターに由来し、そしてその同族リガンドは、エストロゲンである。さらにより特定の実施形態において、このエストロゲンレセプターは、1つ以上の変異(例えば、T2変異)を含み、その認識リガンドは、タモキシフェンである。
【0015】
第3の関連する局面において、本発明は、調節融合タンパク質(RPR)の特徴を有する。ここでこの調節融合タンパク質(RPR)は、(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメイン(このリガンド結合ドメインに結合し得る同族リガンドの存在下で、この融合タンパク質が安定化される)からなる。特定の実施形態において、この調節融合タンパク質(RPR)は、本質的に、(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメイン(このリガンド結合ドメインに結合し得る同族リガンドの存在下で、この融合タンパク質が安定化される)からなる。
【0016】
第4の局面において、本発明は、目的のヌクレオチド配列の誘導性の発現が可能な真核細胞に特徴を有する。ここで、この目的のヌクレオチド配列は、以下を含む:調節融合タンパク質(RPR)をコードするヌクレオチド配列(ここでこの融合タンパク質(RPR)は、(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメインからなる);(ii)この目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、この融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)この転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーター。特定の実施形態において、この真核細胞融合タンパク質は、本質的に以下からなる:(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメインからなる);(ii)この目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、この融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)この転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーター。
【0017】
第5の局面において、本発明は、目的のヌクレオチド配列の誘導性の発現が可能な真核細胞を含むトランスジェニック動物に特徴を有する。ここで、この目的のヌクレオチド配列は、以下を含む:調節融合タンパク質(RPR)をコードするヌクレオチド(ここでこの融合タンパク質は、(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメインからなる);(ii)この目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、この融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)この転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーター。
【0018】
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
真核細胞において、目的のヌクレオチド配列の発現を誘導する方法であって、該方法は、以下:
(a)真核細胞を提供する工程であって、該真核細胞は、以下:(i)調節融合タンパク質(RPR)をコードするヌクレオチド配列であって、ここで、該融合タンパク質は、以下:(1)該目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメインおよび(2)リガンド結合ドメインからなる、ヌクレオチド配列;(ii)該目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、該融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)該転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーターを含む、工程;
(b)該融合タンパク質のリガンド結合ドメインに結合するリガンドの存在下で、工程(a)の細胞を所望の密度まで増殖させる工程であって、ここで、該目的のヌクレオチド配列の発現が阻害される、工程;ならびに
(c)該細胞の存在下から該リガンドを除去する工程であって、ここで、該目的のヌクレオチド配列の発現が誘導される、工程、
を、包含する、方法。
(項目2)
前記転写ブロッキングドメインが、細菌性転写ブロッキングタンパク質、バクテリオファージ転写ブロッキングタンパク質、真核生物転写ブロッキングタンパク質、または酵母転写ブロッキングタンパク質に由来する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記転写ブロッキングドメインが、TetR、LexA、LacI、TrpR、ArcおよびλClからなる群から選択される、細菌性転写ブロッキングタンパク質に由来する、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記転写ブロッキングドメインが、真核生物転写ブロッキングタンパク質に由来し、該真核転写ブロッキングタンパク質はGAL4である、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記転写ブロッキングドメインが、DNAに結合し得るが切断し得ない変異制限酵素であり、前記オペレーターが、該制限酵素の認識部位である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記転写ブロッキングドメインが、変異Not1酵素である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記リガンド結合ドメインが、ステロイドレセプター、甲状腺レセプターまたはレチノイドレセプターに由来する、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記リガンド結合ドメインが、エストロゲンレセプターに由来し、そして、その同族リガンドがエストロゲンである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記リガンド結合ドメインが、エストロゲンに由来し、そして、その同族リガンドがタモキシフェンである、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結する前記プロモーターが、CMV、SV40、ラウス肉腫ウイルス、メタロチオネイン、ノパリンシンテターゼ、カリフラワーモザイクウイルス35S RNA、リブロース2リン酸カルボキシラーゼ、Gal4、アルコールデヒドロゲナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ、アルカリホスファターゼ、エラスターゼI;インスリン;免疫グロブリン;マウス乳癌ウイルス;アルブミン;α−胎児タンパク質;α1−アンチトリプシン;β−グロビン;およびミオシン軽鎖−2に由来する、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記プロモーターが、CMV−MIEである、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記真核細胞が、COS細胞、CHO細胞、293細胞、BHK細胞、またはNSO細胞からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記オペレーターが、TetOまたはArcOである、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記オペレーターが、前記プロモーターのすぐ下流に位置する、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記オペレーターが、前記プロモーターの10塩基対以内に位置する、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記リガンドの非存在下の前記目的のヌクレオチド配列の発現が、該リガンド存在下の該目的のヌクレオチド配列の発現より少なくとも20倍高い、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記リガンドの非存在下の前記目的のヌクレオチド配列の発現が、該リガンド存在下の該目的のヌクレオチド配列の発現より少なくとも50倍高い、項目16に記載の方法。
(項目18)
調節融合タンパク質をコードする、単離されたヌクレオチド配列であって、ここで、該融合タンパク質は、以下:(1)目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメイン、および(2)リガンド結合ドメインからなり、ここで、該リガンド結合ドメインに結合し得る同族リガンドの存在下で該融合タンパク質が安定化される、ヌクレオチド配列。
(項目19)
項目18に記載のヌクレオチド配列によってコードされる、調節融合タンパク質。
(項目20)
目的のヌクレオチド配列の発言を誘導し得る真核生物であって、調節融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、ここで、該融合タンパク質は、以下:(1)該目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメインおよび(2)リガンド結合ドメインからなる、ヌクレオチド配列;(ii)該目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、該融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)該転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーターを含む、真核細胞。
(項目21)
項目20に記載の細胞を含む、トランスジェニック動物。
(項目22)
真核細胞において、目的のヌクレオチド配列由来の産物の生成を制御する方法であって、該方法は、以下:
(a)真核細胞を提供する工程であって、該真核細胞は、以下:(i)調節融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列であって、ここで、該融合タンパク質は、以下:(1)該目的のヌクレオチド配列の発現を阻害し得る転写ブロッキングドメインおよび(2)リガンド結合ドメインからなる、ヌクレオチド配列;(ii)該目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結し、該融合タンパク質に結合するオペレーターによって制御される、プロモーター;および(iii)該転写ブロッキングドメインに結合し得、隣接するプロモーターからの転写をブロックし得る、オペレーターを含む、工程;
(b)該融合タンパク質のリガンド結合ドメインに結合するリガンドの存在下で、工程(a)の細胞を所望の密度まで増殖させる工程であって、ここで、該目的のヌクレオチド配列の発現が阻害される、工程;
(c)該細胞の存在下から該リガンドを除去する工程であって、ここで、該目的のヌクレオチド配列の発現が誘導され、そして該目的のヌクレオチド配列の産物が生成される、工程
を、包含する、方法。
(項目23)
前記目的のヌクレオチド配列の産物が、RNA、タンパク質またはタンパク質フラグメントである、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記リガンドの存在下の前記目的のヌクレオチド配列の発現が、該リガンド非存在下の該目的のヌクレオチド配列の発現より100倍低い、項目22に記載の方法。
他の目的および有利性は、以下の詳細な説明を概説することから明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、CMVプロモーターからのTetR−ERLBDT2の発現に望ましい、pTE313の構造を表す。
【図2】図2は、CMVプロモーターからのヒトFCγRIの発現(テトラサイクリンリプレッサーによって調節される)に望ましい、pTE158の構造を表す。
【図3】図3は、TetR−ERLBDT2によって調節されるhFcγRI遺伝子を発現するCHO K1クローンを単離するために使用される、2つの戦略の概要を示す。
【図4】図4は、OHT存在下もしくは非存在下、またはOHTおよびDoxの存在下において増殖したCHO Kl−FcR/pTE313クローンD124(FITC−Fcで染色した)のフローサイトメトリヒストグラムを示す。
【図5】図5は、融合タンパク質Arc2−ERLBDT2の概略図である。
【図6】図6は、CMV−MIEプロモーター/エンハンサー(TATAボックス)のすぐ下流に、直列するアークオペレーター(arc operator)を有する、CMV−MIE/AOのハイブリッドプロモーター(配列番号7)の概略図である。
【図7】図7は、OHT存在下または非存在下で増殖した、CHO K1−FcR/pTE534クローンC17(EITC−Fc)のフローサイトメトリのヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法を説明する前に、本発明は、記載される特定の方法および特定の実験条件に限定されず、このような方法および条件は変わり得ることが、理解されるべきである。また、本明細書中で使用される用語は、特定の実施形態を説明するのみの目的であり、限定することを意図しない。何故なら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲にのみ限定されるからである。
本明細書中および特許請求の範囲の中で使用される場合、単数形「a」「an」および「the」は、その文脈が明らかに指示しない限り、複数の言及を含む。従って、例えば、「方法」の言及は、本明細書中で記載される型ならびに/または本開示を読むことで当業者に明らかになる、1つ以上の方法および/もしくは工程などを含む。
【0021】
他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書中に記載のものと類似または等価の任意の方法および材料が、本発明を実施または試験するために使用され得るが、ここでは、好ましい方法および材料が、記載される。本明細書中で言及された全ての刊行物は、この刊行物が引用されたことに関する方法および/または材料を説明するために、本明細書中で参考として援用される。
【0022】
(一般的説明)
本発明は、真核細胞における遺伝子発現が、オペレーター(このオペレーターは、調節融合タンパク質(RFP)によって調節される)によって制御される強いプロモーターを使用して厳密に調節され得るという概念に、一部基づく。このRFPは、本質的に転写ブロッキングドメイン、およびその活性を調節するリガンド結合ドメインからなる。リガンド結合ドメインの同族リガンドの存在下において、RFPはオペレーターに結合し、それにより、GOIの転写を妨げる。同族リガンドが取り除かれた場合、RFPは、不安定化され、そして目的のヌクレオチド配列の転写が進行する。
【0023】
本明細書中に記載される調節システムは、目的のヌクレオチド配列の発現の厳密に調節された制御と、大量産生に適した、目的のヌクレオチド配列の高レベルの発現が可能な細胞株の単離を組み合わせるという、特有の利点を提供する。「厳密に調節された」は、本発明の融合タンパク質のリガンド結合ドメインに結合するリガンドの存在下で、目的のヌクレオチド配列の転写が実質的に低下する(例えば、リガンド存在下で、リガンド非存在下で見られる転写のレベルと比較して、転写における少なくとも20分の1への低下が達成される)を意味する。より特定の実施形態において、本発明の方法は、リガンド存在下の転写において、少なくとも50分の1へ以下の低下を達成する。さらにより特定の実施形態において、本発明の方法は、リガンド存在下の転写において、100分の1以下への低下を達成する。本発明の方法によって達成される転写制御の程度の例は、図4および図7において示される。本発明の方法によって達成される転写の調節の程度はまた、リガンド非存在下における目的のヌクレオチド配列の発現における相違によっても述べられ、これは、リガンド存在下における目的のヌクレオチド配列の発現よりも、少なくとも20倍より大きく、好ましくは少なくとも50倍より大きく、より好ましくは少なくとも100倍より大きく。
【0024】
目的のヌクレオチド配列を高レベルで発現可能な細胞株の単離は、厳密な調節を必要とするが、目的のヌクレオチド配列の発現誘導は、好ましくは、誘導体の添加よりむしろ誘導体の除去によって達成され、これは、大量産生の間にリガンドの添加を必要とするシステムに対して製造コストを削減する手段として、実質的に商業的に重要である。本発明は、これらの要求を満足させる調節システムを説明する。
【0025】
(目的のヌクレオチド配列)
本発明の方法は、任意の目的のヌクレオチド配列の転写を制御するために広範に使用され得る。本発明の方法は、所望のタンパク質またはタンパク質フラグメント(例えば、融合またはキメラのタンパク質またはペプチド)を産生するために使用され得る。さらに、目的の産物は、転写産物(例えば、mRNAもしくは触媒活性RNA、または最初の転写産物の作用から生じる下流産物)であり得る。
【0026】
目的のタンパク質としては、ホルモン、レセプターもしくはレセプターフラグメント、抗体もしくは抗体フラグメント、生物学的に活性なペプチドもしくはタンパク質、酵素、リプレッサータンパク質、またはDNA結合タンパク質が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0027】
(プロモーター)
本明細書中で使用される場合、「プロモーター」は、作動可能に連結した(すなわち、適切なシグナルが存在する場合、目的のヌクレオチド配列の転写を可能にする方法で連結した)DNA配列の直接転写に十分なDNA配列を示す。目的のヌクレオチド配列の発現は、当該分野で公知の任意のプロモーターまたはエンハンサーエレメントの制御下に置かれ得る。
【0028】
本発明において使用され得る有用なプロモーターとしては、以下が挙げられ得るが、これらに限定されない:SV40初期プロモーター領域、ラウス肉腫ウイルスの長い3’末端反復配列に含まれるプロモーター、メタロチオネイン遺伝子の調節配列、マウスサイトメガロウイルスIEプロモーターまたはヒトサイトメガロウイルスIEプロモーター(Gossenら,(1995)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 89:5547−5551);ノパリン(nopaline)シンテターゼプロモーター領域、カリフラワーモザイクウイルス35S RNAプロモーター、および光合成酵素リブロース2リン酸カルボキシラーゼのプロモーターを含む植物発現ベクター;酵母または他の真菌類由来のプロモーターエレメント(例えば、Gal4プロモーター)、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター、および組織特異性を示し、トランスジェニック動物において利用されている以下の動物転写調節領域:エラスターゼI;インスリン;免疫グロブリン;マウス乳腺癌ウイルス;アルブミン;α−フェトプロテイン;α1−抗トリプシン;β−グロビン;およびミオシン軽鎖−2。
【0029】
(オペレーター)
本明細書中で使用される場合、「オペレーター」は、遺伝子がRFPのオペレーターへの結合によって調節され得、結果としてGOIの転写を妨げるかまたは可能にするような方法によって、遺伝子内またはその近傍に導入される、DNA配列を示す。原核細胞およびバクテリオファージにおける多くのオペレーターは、よく特徴付けられている(Neidhardt編,Escherichia coli and Salmonella;Cellular and Molecular Biology 2d. Vol2 ASM Press,Washington D.C.1996)。これらとしては、E.coliのLexA遺伝子のオペレーター領域(LexAペプチドに結合する)ならびに乳糖オペレーターおよびトリプトファンオペレーター(E.coliのLacIおよびtrpR遺伝子にコードされるリプレッサータンパク質に結合する)が挙げられるが、これらに限定されない。これらとしてはまた、λP遺伝子およびファージP22ant/mnt遺伝子に由来するバクテリオファージオペレーター(λcIおよびP22arcによってコードされるリプレッサータンパク質に結合する)が挙げられる。代替の実施形態において、RFPの転写ブロッキングドメインが制限酵素である場合、オペレーターは、その酵素の認識配列である。当業者は、このオペレーターが、プロモーターに隣接するか、または3’側でなければならず、これにより、プロモーターによって転写を制御し得ることを理解する。例えば、米国特許第5,972650号(本明細書中で参考として援用される)は、tetO配列が、TATAボックスから特定の距離の範囲内に存在することを明確に述べている。特定の実施形態において、オペレーターは、好ましくは、プロモーターのすぐ下流に置かれる。他の実施形態において、このオペレーターは、プロモーターから10塩基対以内に置かれる。
【0030】
(転写ブロッキングドメイン)
本明細書中で使用される場合、転写ブロッキングドメインは、オペレーターとのその相互作用の結果として転写をブロッキング可能な任意のドメインであり得る。このようなドメインは、細菌、バクテリオファージ、または酵母に由来し得、そしてその機能がリガンド結合に依存するリプレッサーまたはその誘導体(例えば、TetR、LexA、LacIおよびArc)が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、転写ブロッキングドメインは、哺乳動物細胞(例えば、Yinら1995 J.Virol.69:6209−6218に記載されるように)または植物細胞(例えば、Wildeら1994 Plant Mol.Biol.24:38に記載されるように)に由来し得る。転写ブロッキングドメインはまた、合成的に作製され得る。例えば、転写ブロッキングドメインは、DNAを切断し得ないように変異された制限酵素であり得る。このような場合、この酵素の認識配列は、オペレーターとして使用される。
【0031】
(リガンド結合ドメイン)
融合タンパク質のオペレーターと相互作用する能力が転写ブロッキングドメインで制御される一方、融合タンパク質の活性は、リガンド結合ドメインによって調節される。リガンド結合ドメインは、その同族リガンドに結合した場合、機能的なポリペプチドを与える(例えば、ポリペプチドを安定化する)、任意のポリペプチドに由来し得る。リガンド結合ドメインは、天然に存在するリガンド結合ドメインおよびその機能的誘導体を含むことを意味する。本明細書中で使用する場合、「同族リガンド」は、リガンド結合ドメイン、およびその機能的誘導体に結合する天然に存在するリガンドを含む。このようなリガンド結合ドメインの例としては、ステロイドレセプター、グルココルチコイドレセプター、レチノイドレセプターおよび甲状腺レセプターのリガンド結合ドメインが挙げられるが、これらに限定されない(Eilersら(1989)Nature 340:66−68;Picardら(1988)Cell 54:1073−1080)。実施例1〜3は、融合タンパク質の転写ブロッキングドメインがTetRであり、リガンド結合ドメインがT2変異を有するエストロゲンレセプターリガンド結合ドメイン(ERLBDT2;Feilら(1997)Biochem.Biophys.Res.Commun.237:752−757)である本発明の1つの実施形態を説明する。TetO配列が強力なCMV−MIEプロモーターの下流および近位に置かれる場合、CMV−MIE/TetOプロモーターからの目的のヌクレオチド配列(この場合hFcγRI)の転写は、タモキシフェンの存在下でブロックされ、タモキシフェンの除去によりブロック解除される。
【0032】
(細胞選択方法論)
本発明の方法は、目的のヌクレオチド配列について高産生率を有する細胞を産生する。以下の実験の章において記載される方法に加えて、当該分野で公知の種々の選択プロセスが使用され得る。1つの好ましい実施形態において、選択プロセスは、2002年11月14日に公開されたUSSN 20020168702(本明細書中で詳細に参考として援用される)に記載される、「FASTR」方法論である。FASTR方法論は、融合タンパク質の直接スクリーニングによる、本発明のサイトカイン特異的融合タンパク質を分泌する細胞の迅速な単離のための高スループットスクリーニング方法である。
【0033】
(トランスジェニック動物)
本発明はまた、本発明の融合タンパク質を発現するトランスジェニック動物の作製を企図する。例えば、哺乳動物において、目的のヌクレオチド配列の発現を調節することが望ましい場合がある。本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子は、哺乳動物のゲノムに統合され得、それにより、そのプロモーターが融合タンパク質に反応し得るように操作される、目的のヌクレオチド配列の発現を調節する。さらに、トランスジェニック動物は、目的のヌクレオチド配列の供給源として有用であり得る。
【0034】
トランスジェニック動物は、受精卵細胞の雄性前核への核酸構築物の導入(例えば、微量注入法、レトロウイルス感染)し、卵細胞を偽妊娠した養母動物(female foster animal)において発生させることによって産生され得る。発現ベクターにおいて有用な、何らかの調節配列または他の配列は、トランスジェニック配列の一部を形成し得る。組織特異的調節配列は、導入遺伝子の発現を特定の細胞に向けるために、導入遺伝子に作動可能に連結され得る。
【0035】
(キット)
本発明はまた、本発明の少なくとも1つの融合タンパク質を満たした1つ以上の容器を含むキットを提供する。必要に応じて、このような容器は、医薬品または生物学的製品の製造、使用、販売を規制する行政機関により定められた形態で認められ得、この形態は、(a)ヒト投与のための製造、使用、販売の機関による承認、(b)使用の説明、またはこの両方を反映する。
【0036】
(特定の実施形態)
実施例1は、pTE313プラスミド、pTE084プラスミド、およびpTE158プラスミドの構築を記載する。pTE313を、調節融合タンパク質TetR−ERLBDT2の高レベル発現のために設計した。これは、TetR−ERLBDT2融合遺伝子がCMV−MIEプロモーターによって駆動される第1の独立した発現カセット、およびSV40プロモーターによって駆動されるブラスチシジン(blasticidin)抵抗性遺伝子である第2の独立したカセットを含む(図1)。pTE084を、hFcγRI(ヒトIgGのFcドメインに対する高親和性細胞表面レセプター)の高レベル発現のために設計した。2つの縦列のTetRオペレーターを、pTE084内のCMV−MIEプロモーター/エンハンサーのすぐ下流に配置することによって、pTE158を産生した(図2)。pTE313によるトランスフェクション後にTetR−ERLBDT2 RFPによって調節されたhFcγRI遺伝子を発現するCHO K1細胞を、実施例2において記載されるように産生し、そして同定した。
【0037】
pTE313によるトランスフェクション後にTetR−ERLBDT2 RFPによって調節されるhFcγRI遺伝子を発現するクローンを単離するために、2つの戦略が、使用される(図3)。両戦略を、TetR−ERLBDT2 RFPのCHO K1−FcR細胞の導入および単離後に得られた細胞の同じプールから開始した(実施例3)。これらの結果は、組換え遺伝子の発現は、TetR−ERLBDT2によって厳密に調節され得、そして発現の誘導は、タモキシフェン存在下におけるドキシサイクリンの添加またはタモキシフェンの除去のどちらかによって達成され得ることを、明らかに示す(図4)。培地からの低分子の除去による目的のヌクレオチド配列の発現の誘導を、希釈または培地交換によって容易に達成した。このことは、大規模に発現を誘導するための、対費用効果の高い手段を提供する。さらに、これらのデータは、発現の厳密な調節は、TetR−ERLBDT2調節融合タンパク質によって達成され得ることを示す。
【0038】
hFcγRI(CMV−ME/ArcO2プロモーターによって駆動される)を発現するCHO K1細胞を、実施例4および実施例5において記載のように産生した。Arc−ERLBDT2によって調節される誘導性細胞株を、図3において示した戦略と同様の戦略によって選択し、そしてOHTの増殖培地中の存在に対する応答における厳密な調節を示した(実施例6および図7)。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本発明の方法および化合物をいかに作製しそして使用するかについて、当業者に完全な開示および記載を提供するために示され、本発明者らがその発明とみなす範囲を限定することを意図しない。使用した数(例えば、量、温度など)に関し、正確を期するよう努力したが、幾つかの実験的誤差およびずれは勘定に入れられるべきである。示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、そして圧力は大気圧またはその近くである。
【0040】
(実施例1.pTE313、pTE084およびpTE158の構築)
pTE313を、pTA−ER−LBD−T2(T2変異を有するヒトエストロゲンレセプターリガンド結合ドメイン(ERLBDT2)(Feilら,1997 Biochem Biophys Res Commun 237:752−757)をコードする)由来の975bpのEcoR Iフラグメント(平滑化)をpcDNA6/TR(Invitrogenカタログ番号V−1025−20)のEcoR I部位(平滑化、TetR C末端のすぐ後のリンカー領域中)内に連結することにより、構築した。T2変異であるG400V、M543A、およびL544Aにより、エストラジオールアナログであるドキシサイクリンとの結合に対する特異性を与えられる。ライゲーションによって生じた所望のプラスミドにおいてERLBDT2をコードするフラグメントの、連結から生じる適切な方向を、DNA配列決定によって確かめた。この構築により、エストロゲンレセプターのアミノ酸N304〜V595(Genbank登録番号P03372)と融合したTetR(Genbank登録番号AAF75608)のアミノ酸M1〜S207からなる融合タンパク質をコードする遺伝子が生じた。この遺伝子によってコードされるキメラタンパク質もまた、エストロゲンレセプターにおいて、T2変異であるG400V、M543A、およびL544Aを有する。プラスミドpTE313は、CMV−MIEプロモーターによって駆動されるTetR−ERLBDT2融合遺伝子であるカセットを含み、そしてSV40プロモーターによって駆動されるブラスチシジン抵抗性遺伝子である第2のカセットを含む(図1)。
【0041】
pTE084を、ヒトFcγRI(GenBank登録番号M21091)をコードするpCAE100由来の1,436bpのXba Iフラグメントを、pRG821(G418に抵抗性を付与する、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(npt)遺伝子をコードするベクター)のXbaI部位内に連結することによって、構築した。このライゲーションから生じる、所望のプラスミドにおけるhFcgRIの方向性は、Not I、Pst I、Eco RI、およびStu Iでの制限マッピングによって試験され得る。2つの縦列のTetRオペレーターをコードするDNAフラグメントを、pTE084中のCMV−MIEプロモーター/エンハンサーのすぐ下流に配置し、pTE158を作製した(図2)。このプラスミドにおいて、CMV−MIEプロモーターからのhFcγRIの転写は、TetRまたはTetR−ERLBDT2によって調節された。
【0042】
(実施例2.CMV−MIE/TetOによって駆動されるhFcγRIを発現するCHO K1誘導体の構築)
CHO K1細胞(3×10細胞)を、LipofectamineTM(Life Technologies;Rockville,MD)を製造業者の指示に従って用いて、pTE158でトランスフェクトした。細胞を、500μg/mlのG418(Life Technologies)を含む培地(10%ウシ胎仔血清、90%Ham’s F−12、2mM L−グルタミン;全ての試薬は、Life Technologies,Rockville,MDから)内に、12日間置いた。G418抵抗性の細胞を、トリプシン処理し、プールし、そしてFITC結合ヒトIgG Fcフラグメント(FITC−hFc;Jackson ImmunoResearch Laboratories,West Grove,PA)で染色した。簡潔には、10cm培養プレート上で増殖させた細胞を、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウム非含有のダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(Life Technologies)で1回洗浄した。2mlの0.25%トリプシン(Life Technologies)を、各プレートに添加し、そして37℃で4〜5分インキュベートした。このプレートを、細胞がプレートから解離するまで旋回した。4mlの培地を、細胞の離れた各プレートに直ちに加えた。細胞を、次いで、1,000×g、4分間の遠心分離によって回収し、培地で希釈した、4mlの2μg/ml FITC−hFcに再懸濁した。細胞を、次いで、プラットフォーム振盪機(platform shaker)上に置き、そして1時間室温で染色した。未結合のFITC−hFcを除去するため、細胞を、8mlのPBSで2回洗浄した。FITC−hFcと結合することが可能な洗浄した細胞を、MofloTMセルソーター(Cytomation;Fort Collins,CO)においてフローサイトメトリで測定した。FITC−hFcは、非トランスフェクト親CHO K1細胞を染色しなかったが、G418抵抗性pTE158トランスフェクトプールにおいて蛍光の分布を生じた。G418抵抗性集団由来の蛍光細胞の全プールを、フローサイトメトリによって収集し、展開し、次いでhFcγRIの発現についてのフローサイトメトリによって分析した。この集団における、最高15%蛍光を有する細胞を単離し、プールし、そして展開し、hFcγRIを高レベルで発現するG418抵抗性細胞の集団を生じた。この細胞の集団を、CHO K1−FcRと名付け、そしてpTE313のトランスフェクション後、TetR−ERLBDT2 RFPによって調節されるhFcγRI遺伝子を発現するクローンを単離するために、使用した。
【0043】
(実施例3.TetR−ERLBDT2によって調節されるhFcγRI発現を有する、CHO K1細胞株の構築)
CHO K1−FcR細胞(2×10細胞)を、LipofectamineTMを用いてpTE313でトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、500μg/mlのG418および10μg/mlのブラスチシジンで14日間、pTE158およびpTE313の両プラスミドについて選択した。フローサイトメトリによる分析の2日前、細胞を、200nMタモキシフェン(OHT)含有培地中でインキュベートし、TetR−ERLBDT2の活性を安定化し、hFcgRIの発現を抑制した。細胞を、FITC−hFcで染色し、そして最低2%の蛍光を有し、hFcγRI発現の抑制を示すこれらの細胞を、回収し、プールA1を得た。次いで、このプールを、図3において概略される2つの戦略のための細胞の供給源として使用した。
【0044】
TetR−ERLBDT2によって調節されるhFcγRIを発現したクローンを、ドキシサイクリン(Dox)の存在または非存在によってTetR−ERLBDT2活性を操作することによって単離した。1つの戦略は、OHTおよびDoxの存在下で高レベルのhFcγRIを発現する細胞を単離し、続いて、OHT存在下Doxの非存在下で非発現細胞を単離することを包含した。あるいは、OHT存在下Doxの非存在下で低レベルのhFcγRIを発現する細胞を最初に単離し、次いで、高発現細胞をOHT存在下でDoxでの誘導によってこのプールから単離した。両戦略は、誘導条件または抑制条件を変えた下での一連の細胞単離、ならびにOHTおよびDoxの両方の非存在下での高レベルのhFcγRIを発現した単一細胞の最終的な単離を、使用した(図3)。
【0045】
プールA1を200nM OHT存在下で7日間展開し、次いで、2つのシャーレに分けた;1つのシャーレは、1μg/mlのDox培地を含み、他方は含まなかった。細胞を、3日間インキュベートし、次いで、FITC−hFcで染色し、hFcγRIの存在を検出した。1μg/mlのDoxで誘導した、培養物からの上位60%のhFcγRI陽性細胞を、単離し、プールB11を得た。そして最低30%の蛍光を有する細胞を、Dox非含有培地中で増殖した細胞から単離し、プールB12を得た。プールB11を、Dox非含有200nMタモキシフェン中で増殖し、そして最低1%の蛍光を有する細胞を回収し、プールC11を得た。プールB12を200nM OHTおよび1μg/mlのDox中で増殖し、hFcγRI陽性細胞の上位1%をプールとして回収し、プールC12を得た。次いで、C11およびC12の両プールを、OHTおよびDoxの両方を非含有の下で展開した。次いで、OHTおよびDoxの非存在下で最高レベルのhFcγRIを発現した細胞(上位1%)を、96ウェルプレート上に、1ウェルにつき1細胞でソートした。これらの細胞は、誘導または抑制されたhFcγRI発現の単離を変えた結果として、hFcγRIの低い非誘導性発現を有し、そしてOHTの除去によって誘導された場合、高レベルのhFcγRIを有するべきである。
【0046】
展開後、10個の独立したクローンを、OHT除去または1μg/mlのDoxの添加によるそのhFcγRI誘導について、FITC−hFcでの免疫染色およびフローサイトメトリによる分析によって特徴付けた。1つのクローン(プールC12からのD124)の分析は、Doxなしでは、hFcγRIの検出可能レベルが存在しないことを示したが、一方、高レベルのhFcγRI発現が、OHTおよびDoxの非存在下において、観察された。さらに、OHT存在下で増殖した細胞への1μg/mlでのDoxの添加もまた、高レベルのhFcγRI発現をもたらした。このクローンにおけるhFcγRI発現のレベル(OHTの除去またはOHT存在下での1μg/mlのドキシサイクリンによる誘導から生じる)は、識別不能であった(図4)。
【0047】
(実施例4.pTE528、pTE529、およびpTE534の構築)
ファージP22 Arcリプレッサー遺伝子は、53アミノ酸(ファージP22ゲノムDNA(GenBank登録番号NC002371)のヌクレオチド38,336〜38,494にコードされる、M1〜A53)の転写リプレッサーをコードする。Arcによって媒介される転写抑制は、ダイマーのオペレーターの半分部分への配列付加に関する。以前、15アミノ酸リンカーによって繋げられた2つのArcタンパク質からなる単一鎖ダイマーは、野生型リプレッサーよりもarcオペレーターDNAに対する高親和性を有することが示された(Robinsonら(1996)Biochemistry 35:109−116)。単一鎖ダイマーのオペレーターDNAについてのより高い親和性の利点を得るために、6個のヒスチジン残基からなるHisタグ配列を融合したこの単一鎖Arcダイマーをコードした合成DNAを、設計した。444bpのこの合成XhoI/NotI DNAフラグメントを、pUC119内にクローン化し、そしてpCU119−Arc2−His6(Blueheron Technology Inc.)を得た。次いで、このArc2ダイマー遺伝子を、このプラスミドから切り出し、Arc2遺伝子の発現がUbcプロモーター/β−グロブリンイントロンに依存するように、pRG985のXhoI部位およびNotI部位にクローン化し、pTE528を得た。
【0048】
Arc2−ERLBDT2融合タンパク質(図5)を、ヒトERLBDT2コードDNAを上述のように含むpTE502からの3361bpのBamHIフラグメントを、pTE528のBamHI部位内に連結することによって構築し、pTE529を得た。生じたArc2−ERLBDT2融合タンパク質は、Arc2遺伝子とERLBDT2遺伝子との間に(TetR−ERLBDT2におけるTetRとERLBDT2との間(配列番号3)と同様に)、同じ11アミノ酸リンカー(AYSGSRELIRL)(配列番号1)を有した。
【0049】
CMV−MIE/TOプロモーターにおける、TetオペレーターのArcオペレーター(ファージP22ゲノム(Genbank登録番号NC002371)中の38,273塩基対〜38,293塩基対によってコードされる)への交換のために、pTE158を、以下のプライマーセットを用いたPCRによってDNAフラグメントを増幅するためのテンプレートとして使用した:(5’−GAGTATTTACGGTAAACTGCCCACTT−3’ (配列番号4)および5’GAGAGATCTGAGTCGACATAGTAGAGTGCTTCTATCATGAATAGTAGAGTGCTTCTATCATGAGCTCTGCTTATATAGACCTCCCA−3’)(配列番号5)。縦列のArcオペレーターをコードするこのPCR産物を、NdeIおよびSalIで消化し、そしてpTE158内の同じ部位にクローン化した。CMV−MIE/AOハイブリッドプロモーターは、2つの縦列のarcオペレーターを、CMV−MIEプロモーター/エンハンサーのすぐ下流に有する(図6)(配列番号6)。結果として、Arc2−ERLBDT2転写リプレッサーは、pTE534におけるCMV−MIE/AOプロモーターからのhFcγRIの転写を調節し得る。
【0050】
(実施例5.CMV−MIE/ArcO2プロモーターによって駆動されるhFcγRIを発現するCHO K1誘導体の構築)
CHO K1細胞(2×10)を、上述のように、LipofectamineTMを使用して、pTE534でトランスフェクトした。この細胞を、400μg/mlのG418(Invitrogen Life Technologies)含有の培養培地(10%ウシ胎仔血清、90%Ham’s F−12、2mM L−グルタミン;全ての試薬は、Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CAから)内に、12日間置いた。G418耐性の細胞を、上述のように、トリプシン処理し、プールし、そして2μg/mlのFITC結合ヒトIgG Fcフラグメント(FITC−hFc)で染色した。FITC−hFcは、非トランスフェクト親CHO K1細胞を染色しなかった。hFcγRIを発現する細胞は、FITC−hFcと結合し、そしてその蛍光に基づいて、MofloTMセルソーターにおいて、フローサイトメトリによって単離した。この集団において、最高3%の蛍光を有する細胞を、単離し、プールし、そして展開した。このhFcγRI陽性プールを、FITC−hFcでの細胞表面染色を繰り返し、集団中の上位30%の最も蛍光を発する細胞をソーティングすることによって富化し、プールBを得た。hFcγRIを発現する上位20%以内の細胞プールBを単離し、プールCを得た。プールC2(CHOK1/pTE534)を使用し、Arc−ERLBDT2によって調節される誘導性細胞株を産生した。
【0051】
(実施例6.Arc−ERLBDT2依存性hFcγRI発現を有するCHO K1細胞株の構築)
CHO K1/pTE534細胞(2×10/シャーレ)を、LipofectamineTMを使用して、pRG985(空ベクター)またはpTE529のどちらかでトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、OHT非存在下で、400μg/mlのG418および10μg/mlのピューロマイシンで14日間選択した。細胞を、上述のように、FITC−hFcで染色し、そしてフローサイトメトリで分析した。pRG985でトランスフェクトした細胞は、親細胞に類似し、分析の前にOHTの存在下で増殖させてもさせなくても、同様のhFcγRI染色プロフィールを有した。対照的に、pTE529でトランスフェクトされたCHO K1/pTE534細胞におけるhFcγRI発現は、増殖培地中のOHTの存在に対し、顕著な応答を示した。増殖培地中のOHTの非存在下において、G418およびピューロマイシンに耐性な細胞の大部分が、hFcγRI発現に対し陽性であり、そしてhFcγRI陽性細胞の上位30%を、プールとしてソートした。このプールをOHT存在下で10日間展開し、hFcγRI発現について染色し、そしてフローサイトメトリで分析した。このプール中の70%以上の細胞が、OHT存在下でhFcγRIを発現せず、そして最低30%を発現するこれらの細胞を、プールとしてソートした。次いで、これらの細胞を、培地中のOHTの非存在下で展開した。OHT非存在下で最高レベルのhFcγRIを発現した細胞(上位1%)を、96ウェルプレート中に1ウェルにつき1細胞でソートした。
【0052】
OHTの培地中の存在に対する応答において厳密な調節を示すクローンを、フローサイトメトリによってさらに特徴付けた。これらのクローンにおけるhFcγRI発現のOHT依存性調節を、フローサイトメトリ後/および引き続いてのFITC−hFcでの免疫染色によって確認した。OHTが培地中に存在した場合、1つのクローン(C17)において、検出可能なレベルのhFcγRIは、何も観察されなかったが、一方、OHTの非存在下での増殖は、これらのクローンにおいて、hFcγRIの発現を誘導した(図7)。
【0053】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152152(P2011−152152A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−110860(P2011−110860)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【分割の表示】特願2004−508560(P2004−508560)の分割
【原出願日】平成15年5月28日(2003.5.28)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】