説明

誘導電動機

【課題】かご形誘導電動機における回転子導体及び短絡環構造に関し、短絡環の内径が大きいため回転子の銅損が大きくなり効率が低下する問題がある点である。
【解決手段】本発明は、回転子鉄心と、この回転子鉄心の外周近くに間隔を置いて設置された多数の回転子スロットと、これらの回転子スロットに埋め込まれた回転子導体と、回転子鉄心の両端に設置された短絡環を備えたかご形誘導電動機において、回転子鉄心の外径Drに対する短絡環の内径Deの比De/Drを0.5以下とし、かつ回転子導体の径方向高さhbの比hb/Drを0.2以上かつ0.3以下としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はかご形誘導電動機に係わり、特に回転子導体及び短絡環構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のかご形誘導電動機において、回転子導体及び短絡環構造に関する公知例として、特許文献1には、短絡環の内周面に放熱片を設けるため、短絡環の内径を小さくした従来技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−263758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の従来技術においては、回転子導体及び短絡環構造に関する技術の開示はあるが、回転子導体の径方向高さが小さいため回転子の銅損が大きくなり効率が低下するという問題があった。そもそも特許文献1においては、短絡環の内径を小さくすることに着目した技術の開示があるのみで、回転子導体の径方向高さについて着目がなされておらず、非効率であった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、高効率なかご形誘導電動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明においては、例えば、回転子導体の径方向高さに着目し、回転子鉄心の外径Drに対する短絡環の内径Deの比De/Drを0.5以下とし、かつ回転子導体の径方向高さhbの比hb/Drを0.2以上かつ0.3以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の代表的な一つによれば、高効率なかご形誘導電動機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【図2】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の非特許文献1のIE3規格に対する効率特性図。
【図3】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の回転子導体及び短絡環の体積の和。
【図4】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の回転子導体及び短絡環の体積の和で効率を割った商。
【図5】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【図6】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【図7】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【図8】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【図9】本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示した実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。固定子10は、固定子鉄心11と、固定子鉄心11の内周近くに間隔を置いて設置された多数の固定子スロット12と、固定子スロット12に巻装された固定子巻線13を備える。
【0011】
回転子20においては、回転子鉄心21と、回転子鉄心21の外周近くに間隔を置いて設置された多数の回転子スロット22と、回転子スロット22に埋め込まれた回転子導体23と、回転子鉄心21の両端に設置された短絡環24と、回転子鉄心の内周側に設置されたシャフト25を備えたかご形誘導電動機において、回転子鉄心の外径Drに対する短絡環の内径Deの比となるDe/Drを0.5以下とし、かつ回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.2以上かつ0.3以下としている。
【0012】
さらに、シャフトの外径よりも短絡環の内径Deを大きくしている。
【0013】
図2は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の標準規格IEC60034−30に対する効率特性図を示すものである。
【0014】
図2に示されるように、De/Drが0.5以下、かつhb/Drが0.2〜0.3の範囲で、非特許文献1のIE3規格を達成しており、De/Drが0.5以下、かつhb/Drが0.2〜0.3の範囲が高効率なかご形誘導電動機を提供するための条件であることが分かる。これら数値範囲は、単なる設計事項ではなく、回転子導体の径方向高さ方向における損失を考慮し、かつ、IEC上の規格をも満たす条件であり、容易に導かれる類のものではない。
【0015】
図3は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の回転子導体及び短絡環の体積の和である。
【0016】
ここでは、短絡環の内径Deを変化させると同時に短絡環の幅Weを変化させる。これにより短絡環の断面積が変化しないようにしている。短絡環と回転子の外径は変化させていない。
【0017】
また、短絡環の体積は短絡環の径と断面積に比例する。このことから、De/Drが小さいほど短絡環24の体積は小さくなり、かご形誘導電動機の材料費を低減することができる。
【0018】
図3において、hb/Drが大きくなるに連れて回転子導体と短絡環の体積の和が大きくなっているため、効率が最大となる点よりも、hb/Drを小さくしたほうが、大きくするよりも少ない材料費で同じ効率を得られる。
【0019】
図4は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の回転子導体及び短絡環の体積の和で効率を割った商である。De/Drが小さいほど、回転子導体及び短絡環の体積の和の割に高い効率を得られることができるため、かご形誘導電動機の材料費を低減することができる。
【実施例2】
【0020】
図5は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。実施例1のかご形誘導電動機においては、短絡環24の内径側ほど短絡環の幅Weを大きくしている。図2〜図4の効率特性検討の際に、短絡環24の内径側ほど電気抵抗が小さく電流が流れ易いという知見を得た。
【0021】
これら知見により、短絡環24の内径側ほど短絡環の幅Weを大きくするという技術思想が生まれた。このような構成とすることで、電流が流れやすい短絡環24の内径側に多くの電流が集まり、短絡環24全体の電気抵抗が小さくなる。
【0022】
すなわち、短絡環24で発生する銅損と呼ばれる電気的な損失が低減され、より高効率なかご形誘導電動機を提供できる。
【0023】
さらに、短絡環の断面積が同じでも、短絡環の幅Weを内径側ほど大きくし、外径側ほど小さくしたほうが、短絡環の体積は小さくなるため、かご形誘導電動機の材料費を低減することができる。
【実施例3】
【0024】
図6は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。実施例1のかご形誘導電動機において、回転子導体の径方向高さhbを、短絡環24に近いほど高くしている。
【0025】
このような構成とすることで、電流が流れやすい短絡環24の内径側に多くの電流が集まり、短絡環24全体の電気抵抗が小さくなる。
【0026】
すなわち、短絡環24で発生する銅損が低減され、より高効率なかご形誘導電動機を提供できる。
【実施例4】
【0027】
図7は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。実施例1のかご形誘導電動機において、回転子鉄心の外周面からの回転子導体の距離Aよりも、回転子鉄心の外周面からの短絡環の距離Bのほうを大きくしている。
【0028】
ここで、短絡環の体積は、短絡環の径に比例するため、短絡環の外径が小さくなり、かご形誘導電動機の材料費を低減することができる。
【0029】
また、回転子導体23に流れる電流の高調波成分は、外周側に集中するため、短絡環24に流れる高調波電流を低減できる。さらに、固定子巻線13と短絡環24との距離が大きくなるため、電飾防止対策となる。
【実施例5】
【0030】
図8は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。実施例1のかご形誘導電動機において、短絡環24の外径と内径の差が、回転子鉄心に近いほど大きくしている。
【0031】
ここで、短絡環の径方向高さは、回転子鉄心から最も離れた位置でA、逆に最も近い場所でBとした場合、A<Bの関係になる。そうすることで、回転子導体23と短絡環24をダイカストで製作する際、ダイカストの型を短絡環24から取り外し易くなる。
【実施例6】
【0032】
図9は、本発明の一実施例によるかご形誘導電動機の部分断面図である。実施例1のかご形誘導電動機において、回転子導体の径方向高さhbを、短絡環24に近いほど片側のみ高くしている。
【0033】
ここで、回転子導体23と短絡環24をダイカストで製作する際、図9の右側からダイカスト材を流し込めば、短絡環24と回転子導体23との段差がなくなり、ダイカストが容易になる。
【実施例7】
【0034】
本実施例は、実施例1のかご形誘導電動機において、極数を6極以下とする。図2のように短絡環の内径Deを小さくすることで効率が向上する。しかしながら、図示はしていないが、極数が小さいほど効率向上の効果が大きい。8極以上であると効果がほとんどなく、極数は6極以下とすることが望ましい。
【実施例8】
【0035】
ここでは、上述した実施例1〜実施例7のかご形誘導電動機を、ファンを駆動するかご誘導電動機の駆動システムに適用することについて説明する。
【0036】
実施例1〜実施例7の短絡環24は、短絡環の内径Deを小さくしているため、回転子の慣性が小さく、ファンを素早く加速させることができる。
【0037】
また、実施例1〜実施例7のかご形誘導電動機は、高効率でかつ材料費を低減できるため、高効率でかつ安価なかご誘導電動機の駆動システムを提供できる。
【0038】
また、適用システムとしては、ポンプ,ミル,ドリルなどでもよく、これらシステムに実施例1乃至実施例7のかご形誘導電動機を適用することでも、起動時間を短くでき、また、効率でかつ安価なかご誘導電動機の駆動システムを提供できる。
【符号の説明】
【0039】
10 固定子
11 固定子鉄心
12 固定子スロット
13 固定子巻線
20 回転子
21 回転子鉄心
22 回転子スロット
23 回転子導体
24 短絡環
25 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心と、この固定子鉄心の内周近くに間隔を置いて設置された多数の固定子スロットと、これらの固定子スロットに巻装された固定子巻線を有する固定子と、回転子鉄心と、この回転子鉄心の外周近くに間隔を置いて設置された多数の回転子スロットと、これらの回転子スロットに埋め込まれた回転子導体と、回転子鉄心の両端に設置された短絡環を有する回転子を備えたかご形誘導電動機において、
回転子鉄心の外径Drに対する短絡環の内径Deの比となるDe/Drを0.5以下としたことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項2】
請求項1記載のかご形誘導電動機において、
前記回転子鉄心の内周側にシャフトが配置され、シャフトの外径よりも前記短絡環の内径Deが大きいことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項3】
請求項1又は2記載のかご形誘導電動機において、
前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.2以上としたことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のかご形誘導電動機において、
前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.3以下としたことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のかご形誘導電動機において、
前記短絡環の内径側ほど幅が大きくなるように構成したことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項6】
請求項1乃至5記載のかご形誘導電動機において、
前記回転子導体の径方向高さが、前記短絡環に近いほど高いことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項7】
請求項1乃至6記載のかご形誘導電動機において、
前記回転子鉄心の外周面からの距離が、前記回転子導体よりも前記短絡環の方が大きいことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項8】
請求項1乃至7記載のかご形誘導電動機において、
前記短絡環の外周と内周の差が、前記回転子鉄心に近いほど大きいことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項9】
請求項1乃至8において、回転子導体の径方向高さが、前記短絡環に近いほど、片側のみ高いことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項10】
請求項1乃至9記載のかご形誘導電動機において、極数を6極以下とすることを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項11】
固定子鉄心と、
前記固定子鉄心に間隔を置いて設置された固定子スロットと、
前記固定子スロットに巻装された固定子巻線を有する固定子と、
前記回転子鉄心と、前記回転子鉄心に間隔を置いて設置された回転子スロットと、
前記回転子スロットに埋め込まれた回転子導体と、
前記回転子鉄心の両端に設置された短絡環とを有する回転子を備えたかご形誘導電動機であって、
前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.2以上とし、前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.3以下とし、
前記回転子導体の径方向高さが、前記短絡環に近いほど高くなるよう構成されたことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項12】
固定子鉄心と、
前記固定子鉄心に間隔を置いて設置された固定子スロットと、
前記固定子スロットに巻装された固定子巻線を有する固定子と、
前記回転子鉄心と、前記回転子鉄心に間隔を置いて設置された回転子スロットと、
前記回転子スロットに埋め込まれた回転子導体と、
前記回転子鉄心の両端に設置された短絡環とを有する回転子を備えたかご形誘導電動機であって、
前記回転子鉄心の外径Drに対する短絡環の内径Deの比となるDe/Drを0.5以下とし、前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.2以上とし、前記回転子鉄心の外径Drに対する前記回転子導体の径方向高さhbの比となるhb/Drを0.3以下としたことを特徴とするかご形誘導電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−5697(P2013−5697A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137955(P2011−137955)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】