説明

誘電体バリア放電電極の製造方法

【課題】誘電体の欠陥の発生を抑え、誘電体材料の物性から期待される性能を発揮し得る誘電体バリア放電電極の製造方法を提供する。
【解決手段】粉状の誘電体粒子を成形処理して所定形状の成形体を得る第1工程と、成形体を加熱処理して誘電体からなる基板基材を得る第2工程と、基板基材もしくは基板基材から得られる板状基板4の一方の面の全体に導電性の電極膜5が形成された放電電極構造体7を得る第3工程と、放電電極構造体7の表裏面に渡って多数の貫通孔6を得る第4工程と、一対の放電電極構造体7を用い、放電電極構造体7の基板露出面8を対向させた状態で、一対の対向面間で、基板露出面8の外周周縁部に位置され、基板露出面8の中央側に開口を有する環状絶縁体9を挟持して、一体化する第5工程からなる誘電体バリア放電電極10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体バリア放電電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気圧マイクロプラズマを用いた環境浄化技術の開発が積極的に行われている。例えば、下記の特許文献1には、空気などの流体を浄化するのに適した大気圧マイクロプラズマ発生手段に関する技術が開示されている。具体的には、当該マイクロプラズマ発生手段は、表面に誘電体膜が形成されるとともに、プラズマ処理の対象となる流体が流通可能な貫通孔が厚み方向に複数形成された一対の電極板を、数μm〜数百μmの間隔をあけて互いに略平行に配置されてなるプラズマ電極を備えて構成されている。
【0003】
上記プラズマ電極の製造方法に関して、特許文献1には、まず円板状に形成された金属基板を用意し、次に金属基板の表面に融解したセラミックスを吹き付け塗布する(所謂、溶射法を用いる)ことで、金属基板と一体化した誘電体の膜を形成し、当該金属基板を用いて上記プラズマ電極をつくることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−231476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラズマ電極に用いられる誘電体に求められる条件としては、(1)誘電率が高い、(2)誘電損失が小さい、(3)プラズマによりエッチングされにくい、(4)ピンホール、ボイド、クラックなどの欠陥が少ない、ことが挙げられる。このうち、(1)〜(3)の条件を満たせるか否かは、加工方法によらず、用いる材料の物性によって略決定される。一方、(4)の条件に関しては、誘電体の加工方法によって大きく左右される。
【0006】
特許文献1に開示されているように、誘電体の形成に溶射法を用いると、形成される誘電体は、膜中に気孔や介在物の欠陥を含み易く、上記(4)の条件を満たし難い。すなわち、誘電体内に欠陥が出来易く、誘電体材料の物性から期待されるほどには、当該誘電体が性能を発揮できないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、誘電体の欠陥の発生を抑え、誘電体材料の物性から期待される性能を発揮し得る誘電体バリア放電電極の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る誘電体バリア放電電極の製造方法の特徴構成は、粉状の誘電体粒子を成形処理して所定形状の成形体を得る第1工程と、前記第1工程で得られた成形体を加熱処理して誘電体からなる基板基材を得る第2工程と、前記基板基材もしくは前記基板基材から得られる板状基板の一方の面の全体に導電性の電極膜が形成された放電電極構造体を得る第3工程と、前記第3工程で得られた放電電極構造体の表裏面に渡って多数の貫通孔を得る第4工程と、前記第4工程を経て得られる一対の放電電極構造体を用い、放電電極構造体の基板露出面を対向させた状態で、一対の対向面間で、前記基板露出面の外周周縁部に位置され、前記基板露出面の中央側に開口を有する環状絶縁体を挟持して、一体化する第5工程からなる点にある。
【0009】
この特徴構成によれば、粉末状の誘電体粒子を成形処理して得た成形体を加熱処理することにより誘電体バリア放電電極に用いる誘電体を形成するので、誘電体の緻密性を高めることができ、ボイドやクラックなどの発生を抑えることができる。そして、板状に形成された誘電体に対して、電極となる導電性材料を、例えばスパッタリングなどの公知の方法により、膜として塗布することで、誘電体と電極部分とが一体化した放電電極構造体を得ることができる。このように欠陥の発生を抑えた誘電体と、電極部分と、が一体化した放電電極構造体を用いて誘電体バリア放電電極をつくるので、誘電体材料の物性から期待される性能を発揮し得る誘電体バリア放電電極を製造することができる。
【0010】
ここで、前記第1工程において、前記成形体としての誘電体セラミックスからなる板状成形体を得るとともに、前記第2工程において、前記板状成形体を加熱して焼結して前記基板とする基板基材を得、前記第4工程において、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法で前記貫通孔を形成すると好適である。
【0011】
この構成によれば、板状成形体を得るために、誘電体セラミックスのみを用いるため、誘電体に不純物が残留する可能性が低い。よって、より欠陥の発生を抑えた誘電体の基板を得ることができる。また、セラミックスによってつくられた基板は、脆いため、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法といった、基板にかかる応力の少ない穴あけ方法を用いることで、所望の形状の貫通孔を形成でき、さらに貫通孔の形成による欠陥の発生を抑えることができる。よって、より一層誘電体材料の物性から期待される性能を発揮し得る誘電体バリア放電電極を製造できる。
【0012】
また、前記第1工程において、誘電体セラミックスを含む泥漿を得るとともに、前記泥漿を成形、乾燥して成形体を得、前記第2工程において、前記成形体を加熱して焼成して基板基材を得、前記第2工程で得た前記基板基材から板状の基板を切り出し、切り出された前記板状の基板を前記第3工程の処理対象とし、前記第4工程において、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法で前記貫通孔を形成すると好適である。
【0013】
この構成によれば、加熱焼成によって得た基板基材から板状の基板を切り出すので、基板基材の作成時には、基板基材の大きさ及び厚さを気にする必要がない。このため、誘電体セラミックスを用いて、緻密性が高く、ボイドやクラックなどの発生を抑えられる好適な条件で基板基材をつくることができる。また、セラミックスによってつくられた基板は脆いため、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法といった、基板にかかる応力の少ない穴あけ方法を用いることで、所望の形状の貫通孔を形成でき、さらに貫通孔の形成による欠陥の発生を抑えることができる。よって、より一層誘電体材料の物性から期待される性能を発揮し得る誘電体バリア放電電極を製造できる。
【0014】
また、前記誘電体セラミックスが、酸化チタンであると好適である。
【0015】
この構成によれば、酸化チタンの触媒効果により、本製造方法で製造した誘電体バリア放電電極を放電させた場合のイオン種の発生効率が上がる。すなわち、流体の浄化においてより性能の高い誘電体バリア放電電極を製造できる。
【0016】
また、前記誘電体セラミックスが、ルチル型酸化チタンであり、前記第2工程において、焼成処理を、酸素含有雰囲気中で行うと好適である。ここで、酸素含有雰囲気とは、空気もしくは、酸素含有ガスである。
【0017】
ここで、発明者らは、鋭意研究の結果、アナターゼ型酸化チタンを用いた場合には、焼成処理を還元雰囲気下で行っていないにも関わらず酸素欠損が起こり、黒色の低次酸化チタンが生成されることを見出した。低次酸化チタンは導電性を備えるため、誘電体バリア放電電極に用いる誘電体としては適さない。その点、この構成によれば、酸化チタンにより構成され、導電性を備えない誘電体の基板を好適に製造することができる。
【0018】
また、前記誘電体粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記基板の板厚が0.2〜3.0mmであり、前記環状絶縁体が5〜500μmであると好適である。
【0019】
この構成によれば、プラズマの発生効率が良い誘電体バリア放電電極を製造できる。
【0020】
また、前記放電電極構造体における前記板状基板の面積に対する、前記多数の貫通孔の総貫通面接の比である開口率が、40〜60%であると好適である。
【0021】
この構成によれば、圧力損失の増加を抑えることができるとともに、基板の強度を良好に保てる誘電体バリア放電電極を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る誘電体バリア放電電極の模式図
【図2】第一実施例に係る第1工程及び第2工程を示す模式図
【図3】第一実施例に係る第3工程乃至第5工程を示す模式図
【図4】第二実施例に係る第1工程及び第2工程を示す模式図
【図5】第二実施例に係る放電電極構造体の図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る誘電体バリア放電電極の製造方法(以下、本方法と略称する)の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1に、本発明に係る製造方法によって製造した誘電体バリア放電電極10の模式図を示す。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る誘電体バリア放電電極10は、片面に電気伝導体からなる導体膜5が塗布されるとともに、厚み方向に多数の貫通孔6が設けられた円板状誘電体4一対と、リング状に形成された絶縁体である環状絶縁体9とから構成されている。一対の円板状誘電体4は、環状絶縁体9を挟んで、多数の貫通孔6の位置が一致するように平行に対向して設けられている。このような構成により、誘電体バリア放電電極10は、大気圧下において導体膜5に高電圧を印加することで、マイクロプラズマを発生させるとともに、マイクロプラズマを発生させた状態において、円板状誘電体4に設けられた貫通孔6に流体を通過させることで、当該流体を除菌することができる。
【0025】
このように流体の除菌に用いることができる誘電体バリア放電電極10の製造にあたり、本方法は、まず初めに、放電電極の誘電体部である円板状誘電体4を、誘電体の粉末を出発原料として加熱処理により形成する点に特徴を有している。この特徴的製法により、誘電体バリア放電電極10の誘電体部の欠陥を抑え、より効果的に放電可能な放電電極を製造できる。
【0026】
以下では、まず、誘電体バリア放電電極10の製造に用いる材料、及び各部材の構造について説明を行った後、誘電体バリア放電電極10の製造方法について説明する。
【0027】
〔材料及び、各部材の構造〕
(誘電体粒子1)
円板状誘電体4を形成するために用いる誘電体粒子1(粉末)としては、SiO2、Al2O3、MgO、ZrO2、Y2O3、PbZrO3−PbTiO3、BaTiO3、TiO2、ZnO等が挙げられる。また、これらを混合した複合酸化物を用いることもできる。中でも、TiO2が、比誘電率、耐絶縁性、触媒効果という観点から好適に採用できる。光触媒作用のあるTiO2を用いた場合、誘電体バリア放電電極10を放電させた際の、イオン種の発生効率を高めることができ、誘電体バリア放電電極10に設けられた貫通孔6を流れる空気を好適に浄化できる。
【0028】
なお、誘電体粒子1の平均粒径としては0.1〜10μmのものが、表面形状及び表面粗さの観点から好適に採用できる。
【0029】
(円板状誘電体4)
円板状誘電体4の板厚は、強度及び誘電率の観点から0.2〜3.0mmでなければならない。より好ましくは、0.5〜1.5mmとすると良い。
【0030】
(導体膜5)
誘電体バリア放電電極10は、大気圧中でマイクロプラズマを発生させるための電極として用いるため、導体膜5に用いる材料としては、高温に強い金属材料が好ましい。具体的には、各種ステンレス鋼や、チタン、パラジウム、アルミニウムが用いられる。さらに好ましくは、放熱性が高く、誘電体バリア放電電極10の温度上昇を比較的抑えることのできるアルミニウムが良い。
【0031】
(貫通孔6)
貫通孔6の孔径はφ1〜5mmとすることが好ましい。貫通孔6の孔径φが1mm未満となると、誘電体バリア放電電極10の製造コストの上昇や、流体を貫通孔6に流通させる際の圧力損失の上昇を招来するおそれがある。そこで、上記のように貫通孔6の孔径φを1mm以上とすることで、円板状誘電体4に貫通孔6を安定的に穿孔でき、製造コストの上昇を抑制することができる。また、圧力損失の上昇も抑制することができる。また、貫通孔6の孔径φが5mmを超えると、貫通孔6を通過する流体がマイクロプラズマにより処理されずに円板状誘電体4に形成された貫通孔6を通過する割合が高くなり、マイクロプラズマによる除菌性能が低下するおそれがある。そこで、貫通孔6の孔径φを5mm以下とすることで、除菌対象の流体がマイクロプラズマにより処理されずに貫通孔6を通過することが抑制され、除菌率の向上を図ることができる。
【0032】
なお、円板状誘電体4の面積に対する、複数の貫通孔6の総貫通面積の比である開口率は、強度の観点から40〜60%とするのが好ましい。
【0033】
(環状絶縁体9)
図1に示すように、一対の円板状誘電体4は、円板状誘電体4の周縁部に沿う形状の環状絶縁体9を間に挟持した状態で互いに固定されている。環状絶縁体9は一様の厚みを有しており、一対の円板状誘電体4は互いに略平行になるように配置される。よって、一対の円板状誘電体4間に形成される空隙の板面に直交する方向の長さdは、このスペーサの厚みにより概ね定められる。一対の円板状誘電体4をこのように配設することで、一対の円板状誘電体4間に形成される空隙を板面に沿う方向において略均一にすることができ、誘電体バリア放電を均一に安定して発生させることが可能となっている。環状絶縁体9の厚みは、5〜500μmとすると好適である。本実施形態においては、環状絶縁体9の厚みは0.1mmとしている。一対の円板状誘電体4間には、波高値が1000V以上の交流電圧が印加される構成とすると好適である。
【0034】
環状絶縁体9は、例えば、ポリエチレン樹脂、テフロン(登録商標)樹脂等の合成樹脂や、セラミックス等の絶縁材料により形成することができる。中でも、耐熱性のあるセラミックスが好ましい。
【0035】
〔第一実施例〕
以下では、本発明の実施例として、鋳込成形法による酸化チタン製の誘電体バリア放電電極10の製造方法を説明する。
【0036】
1.第1工程(泥漿調合、及び鋳込み成形)
第1工程は、図2(a)に示すように、粉状の誘電体粒子1を成形処理して所定形状の成形体2を得る工程である。本実施例では、誘電体粒子1としてルチル型酸化チタンを用いる。まず、ポリエチレン容器の中で、粒径約0.1〜0.3μmのルチル型酸化チタン:500g、イオン交換水:140g、分散剤21:3.5g、バインダ22:15gを混合し、そこに粉砕器具として5mmΦのジルコニア玉石 500gを加え、当該容器をポット架台で24時間回転させることで泥漿23を得る。
【0037】
次に、泥漿23をポリエチレンの容器から取り出し、真空脱気した後、バインダ22を少量添加し、再び真空脱気する。その後、泥漿23を、100×100×8mmの石膏型に流し込み、固化したら脱型、乾燥させる。このようにして、成形体2を得る。
【0038】
2.第2工程(焼成処理、及び切削・研磨)
第2工程は、図2(b)に示すように、第1工程で得られた成形体2を加熱処理して円板状誘電体4を得る工程である。本実施例においては、円板状誘電体4が本発明における「板状の基板」に相当する。
【0039】
本実施例では、まず、成形体2をアルミナの棚板に乗せてカンタルスーパー発熱体が備えられた炉に入れ、1400℃で3時間保持し、自然放冷させる。なお、この焼成処理は、酸素含有雰囲気中で行う。以上の手順により、成形体2を焼成し、成形体2の焼成体である基板基材3を得る。
【0040】
次に、基板基材3を、切断、研磨することで厚さ1.0mm、直径60mmの円板に形成する。これにより、円板状誘電体4を得ることができる。このように一旦、所望の円板よりも大きな形状の基板基材3を作製し、その一部を円板状誘電体4として切り出すことにより、基板基材3の中央部のように比較的品質の良い部分のみを用いて、欠陥の少ない円板状誘電体4を得ることができる。
【0041】
3.第3工程(電気伝導体塗布)
本実施例では、第3工程は、図3(c)に示すように、基板基材3から得られる円板状誘電体4の一方の面の全体に導体膜5が形成された放電電極構造体7を得る工程である。本実施例では、円板状誘電体4の片面全面に渡って、スパッタリングによりAuを含む金属を500〜1000nm成膜する。このようにして、導体と誘電体とが一体に成形された放電電極構造体7を得る。
【0042】
4.第4工程(孔開け)
第4工程は、図3(d)に示すように、第3工程で得られた放電電極構造体7の表裏面に渡って多数の貫通孔6を得る工程である。本実施例では、サンドブラスト加工を両面に施すことにより、円板状誘電体4に直径2.0mmの貫通孔6を、貫通孔6同士の間の最短距離が0.6mm、開口率が48.1%となるように孔開けした。
【0043】
5.第5工程
第5工程では、第4工程を経て得られる放電電極構造体7を2つと、放電電極構造体7と略同径で中央側に開口を有する環状絶縁体9とを用いる。この工程では、図3(e)に示すように、一対の放電電極構造体7を、放電電極構造体7の導体膜5が塗布されていない面である基板露出面8を対向させた状態で、一対の対向面間で、基板露出面8の外周周縁部に位置され、基板露出面8の中央側に開口を有する環状絶縁体9を挟持して、一体化する。これにより、誘電体バリア放電電極10を製造できる。
【0044】
なお、放電電極構造体7の周状の一部には切り欠きを設けている。これにより、一対の放電電極構造体7を一体化するにあたり、一対の放電電極構造体7を、夫々の放電電極構造体7に設けられた切り欠きの位置が対向するように配置することで、放電電極構造体7に設けられた多数の貫通孔6の位置を一致させることができる。
【0045】
〔第二実施例〕
以下では、本発明の第二実施例として、加圧成形法による誘電体バリア放電電極10の製造方法を説明する。
【0046】
この第二実施例は、上記第一実施例とは、誘電体バリア放電電極10の製造工程における円板状誘電体4の作製工程(図2における(a)、(b)の工程)のみが異なる。具体的には、上記第一実施例においては、円板状誘電体4を作製するにあたり、所謂、鋳込成形法を用いて基板基材3を作製し、その後に切削、研磨することにより円板状誘電体4を得た。これに対し、第二実施例においては、円板状誘電体4を作製するにあたり、所謂、加圧成形法を用い、誘電体粒子1から直接、円板状誘電体4を得る。すなわち、第二実施例の製造方法は、上記第一実施例に比べ、製造工程数が少なく済み、誘電体バリア放電電極10の製造に係るコストを抑えることが可能となっている。
【0047】
1.第1工程(粉体加圧成形)
第二実施例における第1工程では、図4(a’)に示すように、成形体2を得るにあたり、誘電体粒子1を、第2工程において作製する円板状誘電体4の形状に成形する。具体的には、誘電体粒子1として酸化チタンの粉末を、厚さ1.0mm、直径60mmの円板状に成形可能な円形カーボン製ダイスに入れ、408kg/cm2の加重で加圧成形する。
【0048】
2.第2工程(焼成)
第二実施例における第2工程では、図4(b’)に示すように、円板状の成形体2を加熱、焼結して基板基材3を得る。具体的には、電気炉に成形体2を入れ、室温より100℃/時の速度で加熱し、1400℃に達した時点から4時間保持し、その後自然放冷させて成形体2の焼結体である基板基材3を得る。
【0049】
なお、第二実施例においては、上記第1工程で、成形体2をあらかじめ、誘電体バリア放電電極10を構成する円板状誘電体4の形状に成形済みであるので、成形体2を加熱、焼結して得た基板基材3をそのまま円板状誘電体4として用いることができる。すなわち、上記第一実施例と異なり、基板基材3に対して、切削や研磨を行う必要がない。
【0050】
3.第3〜5工程
第二実施例における第3工程においては、第2工程で得た基板基材3(円板状誘電体4)の一方の面の全体に導電性の導体膜5を形成する。導体膜5の形成方法は上記第一実施例と同様であるので説明を省略する。また、第4工程及び第5工程についても、上記第一実施例と同様のため説明を省略する。
【0051】
最後に、第二実施例に示す方法で作製した放電電極構造体7を図5に示す。このように、加圧成形法を用いた場合でも、放電電極構造体7を十分な強度で作製することが可能であることが確認できた。
【0052】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。
【0053】
(1)上記実施例においては、第1工程における誘電体粒子1の成形を、所謂、鋳込成形法や加圧成形法によって行う例を示したが、静水圧成形法や射出成形法などセラミックスの成形に用いられる公知の方法を用いて構わない。また、より好ましくは、鋳込成形法の発展形でありスラリーをコーターによって薄く押し伸ばして固化させるテープ成形法を用いると良く、この場合、研磨にかかるコストを抑えることができる。
【0054】
なお、通常の鋳込成形法のように、薄く成形することが技術的に困難な場合は、上記実施例1に示すように、第1工程では厚く作り、その後、切削及び研磨によって、薄くすると良い。また、切削及び研削を行う場合は、成形体2の形状は、円板状誘電体4を作製できるだけの大きさがあればよく、どのような形状であっても構わない。
【0055】
(2)上記実施例においては、第3工程における導体膜5の形成を、スパッタリングによって行う場合の例を示したが、円板状誘電体4を破壊せずに、円板状誘電体4の片面に導体を塗布できる方法であればどのような方法を用いても構わない。具体的には、コーティング(めっき)や、インクジェット法、蒸着、溶射などの物体の表面に薄膜を形成するための公知の方法を用いても構わない。
【0056】
(3)上記実施例においては、第4工程における円板状誘電体4の穴開けを、サンドブラスト加工によって行う例を示したが、加工時に円板状誘電体4にかかる応力の少ない穴開け方法であればどのような方法を用いても構わない。具体的には、機械加工であれば、ウォータジェット加工や超音波加工、非機械加工であれば、レーザー加工、電子ビーム加工、及びイオンビーム加工などの公知の方法を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
誘電体バリア放電を起こすための電極として利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 :誘電体粒子
2 :成形体
3 :基板基材
4 :円板状誘電体(板状基板)
5 :導体膜(電極膜)
6 :貫通孔
7 :放電電極構造体
8 :基板露出面
9 :環状絶縁体
10 :誘電体バリア放電電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の誘電体粒子を成形処理して所定形状の成形体を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた成形体を加熱処理して誘電体からなる基板基材を得る第2工程と、
前記基板基材もしくは前記基板基材から得られる板状基板の一方の面の全体に導電性の電極膜が形成された放電電極構造体を得る第3工程と、
前記第3工程で得られた放電電極構造体の表裏面に渡って多数の貫通孔を得る第4工程と、
前記第4工程を経て得られる一対の放電電極構造体を用い、放電電極構造体の基板露出面を対向させた状態で、一対の対向面間で、前記基板露出面の外周周縁部に位置され、前記基板露出面の中央側に開口を有する環状絶縁体を挟持して、一体化する第5工程からなる誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記成形体としての誘電体セラミックスからなる板状成形体を得るとともに、
前記第2工程において、前記板状成形体を加熱して焼結して前記基板とする基板基材を得、
前記第4工程において、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法で前記貫通孔を形成する請求項1に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、誘電体セラミックスを含む泥漿を得るとともに、前記泥漿を成形、乾燥して成形体を得るとともに、
前記第2工程において、前記成形体を加熱して焼成して基板基材を得、
前記第2工程で得た前記基板基材から板状の基板を切り出し、
切り出された前記板状の基板を前記第3工程の処理対象とし、
前記第4工程において、サンドブラスト法、ウォータージェット法、若しくはレーザー加工法で前記貫通孔を形成する請求項1に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項4】
前記誘電体セラミックスが、酸化チタンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項5】
前記誘電体セラミックスが、ルチル型酸化チタンであり、
前記第2工程において、焼成処理を、酸素含有雰囲気中で行う請求項3に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項6】
前記誘電体粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記基板の板厚が0.2〜3.0mmであり、前記環状絶縁体が5〜500μmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。
【請求項7】
前記放電電極構造体における前記板状基板の面積に対する、前記多数の貫通孔の総貫通面積の比である開口率が、40〜60%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の誘電体バリア放電電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−204201(P2012−204201A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68892(P2011−68892)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】