説明

誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造

【課題】 誘電体導波管のプリント配線板上への実装構造において、非接触結合による位置ずれに対する影響を少なく保ったまま、従来のものよりも小型化する。
【解決手段】 信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、を具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロストリップ線路が形成されたプリント配線板上に誘電体導波管を実装する誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造と、これを利用した分岐回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電体導波管をプリント配線板上に実装する構造として、特許第4133747号の実装構造をなどがある。この実装構造は誘電体導波管の底面部に形成した結合電極パターンとマイクロストリップの終端に形成された結合電極パターンをスペーサーによって空隙を設けて対向させ、キャビティ内に収容することで電磁結合を生じさせ、マイクロストリップと誘電体導波管の間で高周波のエネルギーを伝送できる構造としていた。
【0003】
上記実装構造はマイクロストリップの導体パターンと誘電体導波管の導体パターンが非接触となっているため、導体パターンの接触状態に関わりなく安定したエネルギー伝送が行えるという利点がある。
【0004】
しかしながら、この実装構造は比較的長い寸法値を必要とする。例えば比誘電率4.5の誘電体により断面積4.5mm×2.5mmの誘電体導波管を作成し、実装構造を設計した場合23GHzから28GHzの周波数帯で変換を行うためには、誘電体導波管の底面に設ける結合導体パターンの長さは6.6mmとなる。これは誘電体導波管内を伝搬するTEモードの電磁波の管内波長が23GHzでは9.7mmであり、28GHzでは6.5mmであるので、管内波長に対し0.7から1.0程度の長さとなっている。プリント配線板上に搭載する部品としてはできるだけ小型化することが望まれているので、さらに小型の実装構造の実現は重要な課題であった。
【特許文献1】特開平8-148913号公報
【特許文献2】特許第3493265号公報
【特許文献3】特許第3517148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、誘電体導波管のプリント配線板上への実装構造において、非接触結合による位置ずれに対する影響を少なく保ったまま、従来のものよりも小型化を行うものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、を具えてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
マイクロストリップの終端部と誘電体導波管底面のスロットを近接させることで、両者が電磁的に結合しマイクロストリップと誘電体導波管の間で高周波のエネルギーを伝送することができる。上記の電磁的結合部はキャビティ内に収容されているので、電磁エネルギーの漏洩がなく、損失が少ない。結合部には空気層が介在するのみで、誘電体などの損失を生じるものがないので低損失となる。
【0008】
結合構造が物理的に接触していないので、両者の接触状態に左右されず、実装時の位置ずれによる伝送特性の劣化を防ぐことができ、誘電体導波管の位置決め精度を緩和できる。誘電体導波管に設ける電極パターンは最小限のスロットだけなので、全体構造の小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
誘電体導波管の底面にスロットを形成する。この誘電体導波管を搭載するプリント配線板上に形成されたマイクロストリップは終端開放状態とする。誘電体導波管をプリント配線板上に搭載する際、誘電体導波管底面に形成されたスロットがマイクロストリップと接触することなく距離を保ったまま近接するようにする。
【0010】
上記スロットとマイクロストリップが収容されるようキャビティが形成されるように導体壁が設けられる。周囲の導体壁はマイクロストリップ線路が進入する一部が取り除かれているのみである。結合部のプリント基板周縁にも導体壁が設けられており、プリント基板と誘電体導波管の底面で形成される平行面と共にキャビティを構成する。
【実施例】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。図1は、本発明に使用する誘電体導波管10の斜視図である。誘電体導波管の底面に進行方向と直交するスロット11を形成する。誘電体導波管はスロット部のみ誘電体が露出しており、その他の全面は導電膜で覆われている。
【0012】
誘電体導波管10は、図2に示すように、プリント配線板14に搭載される。プリント配線板上のマイクロストリップ15は終端開放状態となっており、誘電体導波管底面に対し一定の間隔を保ったまま対向するように配置される。この部位の周囲に導体壁16を設け、プリント配線板14と誘電体導波管10は導体壁16によって生じる間隙を介して密着固定させられる。
【0013】
マイクロストリップ15と誘電体導波管10は対向させられた導体パターンによって電磁的に結合され、両者の間で電磁波の伝送が可能となる。スロット11とマイクロストリップ15の位置関係は、マイクロストリップ15の開放終端部から四分の一波長程度の磁界強度が最大になる場所にスロット11を配置することで、十分な結合が得られる。磁界強度最大の位置は理論的には開放端から四分の一波長の位置であるが、マイクロストリップ15の開放端の縁端効果があるため、四分の一波長の位置よりも短くなる。また、誘電体導波管10底面のスロット11の形成される位置について言及すると、誘電体導波管10の短絡終端部よりおおよそ半波長の位置が磁界最大となるため、この位置にスロット11が形成される。
【0014】
高周波においては、伝送線路の接合部の不連続部により大きな放射損が生じ、伝送特性の劣化が著しくなる傾向があるが、ここで用いている接続構造においては、不連続部が導体壁によって形成された空洞内に収容されているため、電磁界が空間中に放射されるということが生じにくくなっている。
【0015】
図3は実際の接続構造の構成図で、図4は組立後の状態を示す。マイクロストリップ35が形成されているプリント配線板34内部には接続部の周囲にビアホール37の列が設けられ、プリント配線板端面の導体壁の代用となっている。誘電体導波管30はスペーサ38を介して、プリント配線板34上に固定させられる。スペーサ38は導電性材料を用いた物を用いてもよいが、樹脂材料やプリント配線板材料で作成し内壁に導体をめっきした物を用いることもできる。とにかく、マイクロストリップの開放終端部とスロットの対向部分を導体壁で収容するような形にできれば良い。
【0016】
上記の変換構造を電磁界シミュレータで計算して得られた結果を図5に示す。この計算では、プリント配線板として0.254mm厚の基板(比誘電率2.2)を用い、断面寸法4.5mm×2.5mmの誘電体導波管(比誘電率4.5)を0.4mm厚のスペーサを介してプリント配線板の上に固定している。およそ23GHzから27GHzの周波数範囲でリターンロス10dB程度となる変換特性が得られている。
【0017】
伝送特性の広帯域化やインピーダンス整合の改善をするために、誘電体導波管に設けるスロットの形状を図6のようにダンベル形(H形)にすることも考えられる。 図7の例ではインピーダンス整合を取るために、結合部におけるマイクロストリップのパターンを単純な開放終端とせずに、スタブを介し先端の約四分の一波長分の線路幅を細くしている。図7のようなスロット形状とマイクロストリップの終端構造を最適化して得られた変換特性を図8に示す。これは電磁界シミュレータで計算した結果であるが、23GHzから28GHzの周波数範囲で、24dBよりも良好なリターンロスとなっている。挿入損失も低減され0.3dB以下となっている。
【0018】
上述した変換構造においては、誘電体導波管は長手方向の一方が短絡終端されている。一方、誘電体導波管の端部を短絡せずに、両端を入出力ポートにしたとき、スロットから入力された電力が分配される分岐回路として利用することができる。誘電体導波管底面のスロットは両ポートに対し対称となる形状にできるので、図9に示したように、中央位置に配置した場合、スロットからの入力は半分ずつに分配されると同時に位相を揃えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は高周波帯で用いられる誘電体導波管と外部回路との接続構造、あるいは分波器等として利用する結合構造に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に使用する誘電体導波管を示す斜視図
【図2】本発明の実施例を示す分解斜視図
【図3】本発明に使用する誘電体導波管を示す斜視図
【図4】本発明の他の実施例を示す斜視図
【図5】本発明による変換構造の特性の説明図
【図6】本発明に使用する他の誘電体導波管を示す斜視図
【図7】本発明に使用する誘電体導波管を示す斜視図
【図8】本発明による変換構造の特性の説明図
【図9】本発明に使用する誘電体導波管を示す斜視図
【符号の説明】
【0021】
10、30:誘電体導波管
11:スロット
14、34:プリント配線板
15、35:マイクロストリップ
16:導体壁
37:ビアホール
38:スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えてなる誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造。
【請求項2】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体がH形に露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向し、当該先端が分岐されて当該スロットとインピーダンス整合されたマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えてなる誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造。
【請求項3】
当該マイクロストリップはプリント配線板上に設けられており、その周囲を囲む導体膜が裏面のアース導体とビアホール接続されてキャビティが形成される請求項1または請求項2記載の誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造。
【請求項4】
当該マイクロストリップはプリント配線板上に設けられており、マイクロストリップの先端の周囲を囲む導体が裏面のアース導体とビアホール接続されるとともに、誘電体導波管とプリント配線板との間にスロットに対向する位置に空隙を具えた導体板のスペーサが配置されてキャビティが形成される請求項1または請求項2記載の誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造。
【請求項5】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体が露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向するマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えて、前記マイクロストリップから信号を分岐する誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造を用いた分波回路。
【請求項6】
信号の入出力部分以外の全面が導体膜で覆われた誘電体ブロックで構成されるとともに底面に誘電体がH形に露出するスロットを具えた誘電体導波管、
先端部分が開放されて終端しており、その開放されて終端する先端部分が誘電体導波管の前記スロットに間隔を置いて対向し、当該先端が分岐されて当該スロットとインピーダンス整合されたマイクロストリップ、
マイクロストリップの外部回路と接続するために引き出される部分を除いて、誘電体導波管の前記スロットをマイクロストリップの前記先端部分の周囲を囲む導体壁で構成されたキャビティ、
を具えて、前記マイクロストリップから信号を分岐する誘電体導波管‐マイクロストリップ変換構造を用いた分波回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−141644(P2010−141644A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316570(P2008−316570)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)