説明

誘電性エラストマー構造体及び誘電部材

【課題】変形させることにより誘電率を容易且つ確実に変更することができる誘電性エラストマー構造体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、エラストマー中に誘電性フィラーを含有するシート状の誘電性エラストマー構造体であって、平面視で、対向位置に負荷入力部位及び変形出力部位を有する環状領域と、この環状領域から延出する拘束領域とを備える誘電性エラストマー構造体である。上記負荷入力部位に力を付加することにより、環状領域は変形し、この変形により環状領域が伸縮することにより、誘電率が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電性エラストマー構造体及びこれを用いた誘電部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波を用いた無線、LAN、RFID(無線認識)、UWB、GPS、地上波デジタル放送、ホームネットワーク等の普及により多くの電磁波デバイスが使用されている。このうち、自動車には、現在位置を認識して目的地への経路を案内するカーナビゲーションシステムが搭載されている。カーナビゲーションシステムは、グローバルポジショニングシステム衛星からの信号を受信し、受信した信号をもとに自動車の現在位置を認識する。そのため、カーナビゲーションシステムは、グローバルポジショニングシステム衛星からの信号を受信することができるアンテナを有する。
【0003】
この電磁波デバイスに使用される材料としては、高誘電率、低誘電正接を示すことが好ましい。電磁波デバイスとして、高誘電率材料を使用した場合には、誘電体内を伝送する波長の圧縮効果によって電磁波デバイスの小型化が図られるという利点を有する。一方、電磁波デバイスとして、低誘電正接材料を使用した場合には、発熱によるエネルギー損失が抑制され、デバイス性能を高めることができるという利点を有する。既存の電磁波デバイスとしてはセラミック性のものが公知であるが、非誘電率を任意に設定できないため、デバイスの設計の自由度が低いという欠点がある。また、非誘電率を任意に設定するために、樹脂タイプ(セラミック粉末と樹脂との混合体)の電磁波デバイスも公知であるが、電極接着性向上のために表面処理が必要となり、またセラミック粉末を高配合した材料を成形することが困難であり、さらには硬くて脆いため耐衝撃性に欠けるという問題を有している。
【0004】
さらに、この電磁波デバイスとしてはゴム中に誘電性フィラーを含むシート状の誘電性エラストマー構造体を有するものが知られている(例えば、特開2008−291206号公報参照)。この電磁波デバイスは、製造時に誘電性エラストマー構造体の誘電性フィラーの含有割合を変更することによって誘電性エラストマー構造体の誘電率を設定して、受信できる信号の周波数を製品に対応して設計変更するものである。ここで、周波数はカーナビゲーションシステムの各メーカに対して一つ割り当てられているので、アンテナとしての誘電性エラストマー構造体の誘電率はカーナビゲーションシステムのメーカ毎に異なっている。
【0005】
このようにカーナビゲーションシステムのメーカ毎に誘電率が異なるので、誘電性エラストマー構造体を製造する際には、カーナビゲーションシステムの各メーカに対応した製品を生産しなければならない。このため、複数の生産ラインを構築する等、誘電率が異なる複数種類の製品に対応することが必要であり、その結果、生産コストが高くなるという不都合を有している。かかるカーナビゲーションシステムの不都合は、上述の無線LAN、RFID等においても生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−291206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、変形することにより誘電率を容易且つ確実に変更することができる誘電性エラストマー構造体と、その誘電性エラストマー構造体を有する誘電部材とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
エラストマー中に誘電性フィラーを含有するシート状の誘電性エラストマー構造体であって、
平面視で、対向位置に負荷入力部位及び変形出力部位を有する環状領域と、この環状領域から延出する拘束領域とを備えることを特徴とする誘電性エラストマー構造体である。
【0009】
当該誘電性エラストマー構造体は、拘束領域によって拘束されているため負荷入力部位に負荷を与えると環状領域が変形し、この変形により環状領域の各部位が伸縮し、この伸縮によって誘電性エラストマーの誘電率は変化する。つまり、この誘電率は、当該誘電性エラストマー構造体の変形度合いに応じて変化する。このため、この変形度合いを調節することによって、当該誘電性エラストマー構造体の誘電率を所望の数値に変更することができる。よって、例えば当該誘電性エラストマー構造体をアンテナとして利用した場合には、環状部位を所望形状に変形して、当該誘電性エラストマー構造の誘電率を所望の数値に設定でき、このため一つの製品でも所望の周波数の信号を受信できる。
【0010】
当該誘電性エラストマー構造体にあっては、例えば一の拘束領域のみを設けることも可能であるが、環状領域の負荷入力部位及び変形出力部位間の一方側から延出する一の上記拘束領域と、上記負荷入力部位及び変形出力部位間の他方側から延出する他の上記拘束領域とを備えることが好ましい。これにより、負荷入力部位の両側に一対の拘束領域が配設されることになり、負荷入力部位を変形させた際に変形出力部位の変形が大きくなる。つまり、一の拘束領域のみを設けた場合には、変形出力部位以外の変形が大きくなり、変形出力部位の変形が小さくなるが、上記構成のように一対の拘束領域を配設することにより、変形出力部位以外の変形量を小さくし、変形出力部位の変形を大きくすることができる。このように変形出力部位の変形を大きくすることにより、一つの製品で幅広い範囲の誘電率を得ることができる。
【0011】
また、上記構成を採用した場合、拘束領域の延出方向が、負荷入力部位及び変形出力部位を通る方向のうち変形出力部位方向にすることも可能であるが、負荷入力部位方向とすることが好ましい。これにより、変形出力部位の変形を大きくすることができる。つまり、上記拘束領域の延出方向を変形出力部位方向とした場合には拘束領域及び負荷入力部位間の環状領域の変形が大きくなり、その結果変形出力部位の変形が小さくなってしまう。これに対して、上記拘束領域の延出方向を負荷入力部位方向とすることにより拘束領域及び負荷入力部位間の環状領域の変形が小さくなり、変形出力部位の変形を大きくすることができる。
【0012】
また、当該誘電性エラストマー構造体は、変形出力部位のうち負荷入力部位側の反対方向の一部が拘束される構成を採用することが好ましい。これにより、負荷入力部位の変形により変形出力部位に作用する力によって、変形出力部位のうち拘束されない部分が的確且つ確実に伸縮することができる。つまり、変形出力部位の一部が拘束されているため、変形出力部位に作用する力(例えば変形出力部位が負荷入力部位側に変形しようとする力)により、その他の拘束されていない変形出力部位の部分が大きく伸縮されることになる。このため、この変形出力部位の誘電率を大きく変化させることが可能となる。
【0013】
さらに、当該誘電性エラストマー構造体は、上記環状領域及び拘束領域が、負荷入力部位及び変形出力部位を結ぶ線を基準に対称な形状に形成されている構成を採用することが好ましい。これにより、負荷入力部位の変形により環状領域に作用する力が、対象形状の両部分から的確且つ均等に変形出力部位に伝達されることになり、変形出力部位を的確且つ確実に伸縮させることができ、所望の誘電率を容易且つ確実に得ることが可能となる。
【0014】
上記構成を採用した場合には、環状領域の対称形状が方形であることが好ましい。さらに、方形の環状領域の辺部分に負荷入力部位及び変形出力部位を配設することも可能であるが、頂点部分に負荷入力部位及び変形出力部位が配設されている構成を採用することが好ましい。これにより方形の頂点に位置する負荷入力部位の変形によって作用する力が、この頂点に隣接する両辺に伝達されやすく、さらにこの両辺に伝達された力が変形出力部位にも伝達されやすい。このため、負荷入力部位の変形によって環状領域に作用する力により、的確且つ確実に変形出力部位を的確且つ確実に伸縮させることができる。
【0015】
当該誘電性エラストマー構造体は、上記負荷入力部位に0N/m以上20N/m以下の力を負荷すると、変形出力部位の比誘電率が20以下3以上まで変化する構成を採用することが好ましい。これにより、変形出力部位を所望の誘電率に設定変更することができ、例えば幅広い範囲の周波数帯域に対応したアンテナとして利用することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するためになされた発明は、
上記構成からなる当該誘電性エラストマー構造体と、
この誘電性エラストマー構造体に重畳され、誘電性エラストマー構造体の拘束領域が固定される基板と
を備える誘電部材である。
【0017】
当該誘電部材は、負荷入力部位に負荷を与えると環状領域が変形し、誘電性エラストマーの誘電率を変化させることができる。このため、例えば当該誘電部材をアンテナとして利用した場合には、負荷入力機部位の負荷により当該誘電性エラストマー構造の誘電率を所望数値に設定でき、このため一つの製品でも所望の周波数の信号を受信できる。
【0018】
当該誘電部材は、負荷入力部位を係止し、誘電性エラストマー構造体の変形状態を維持する係止手段をさらに備える構成を採用することが好ましく、これにより例えば各種周波数領域に対応したアンテナとして用いることができる。
【0019】
また、当該誘電部材は、負荷入力部位に連結され、付加される力に応じて変位する負荷変位部をさらに備える構成を採用することが好ましく、これにより例えば作用する力または移動量を負荷入力変位部に伝達することでセンサーとして用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の誘電性エラストマー構造体は、変形することによって誘電率を変更することができるので、例えばアンテナに用いれば、一つの製品で複数の周波数の信号を受信することができ、またセンサーとしても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の誘電部材を模式的に示す説明図であり、(a)は概略的平面図、(b)は正面図である。
【図2】図1の誘電部材の誘電性エラストマー構造体を変形させた状態を説明するための概略的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態として、アンテナとして用いられる誘電部材1を例にとり図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0023】
本実施形態の誘電部材1は、基板2と、基板2の上面に載置されて固定されるシート状の誘電性エラストマー構造体3とを備える。
【0024】
上記基板2の形状は種々の形態のものを採用でき、本実施形態では板状で且つ平面視方形状(正方形状)から構成している。この基板2の材料も種々のものを採用でき、例えば、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、塩化ビニル、メタアクリル、ポリスチレン及びABSの各樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、並びにポリフェニルエーテル樹脂の一種又は二種以上により形成することができ、その他、金属等によっても形成することができる。
【0025】
誘電性エラストマー構造体3は、エラストマー中に誘電性フィラーを含有するものであり、弾性変形可能に設けられている。この誘電性エラストマー構造体3は、平面視で、対向位置に負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを有する環状領域5と、この環状領域5から延出する拘束領域7とを備えている。この誘電性エラストマー構造体3は、負荷入力部位5aに負荷をかけると環状領域5が変形し、変形出力部位5bが伸縮して、この伸縮によって変形出力部位5bの誘電率が変化するものである。
【0026】
この誘電性エラストマー構造体3のエラストマーとしては、ゴムまたは樹脂から構成することができる。ゴムとしては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化リエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム又は天然ゴムが採用可能である。樹脂としては、熱可塑性樹脂を採用可能である。
【0027】
また、誘電性フィラーとしては、種々のものが採用可能であり、例えば、炭素、酸化チタン、チタン酸バリウム、黒鉛、酸化シリコン、フェノール又はガラス繊維から構成することができる。ここで、誘電性フィラーは、エラストマー100重量部に対して、10重量部以上2000重量部以下であることが好ましく、40重量部以上1000重量部以下であることがより好ましく、90重量部以上700重量部以下であることが特に好ましい。上記上限値を超えると誘電性エラストマー構造体3の柔軟性に欠けてしまい変形しにくくなってしまい、また上記下限値未満であると変形による誘電率の変化が小さくなってしまうためである。
【0028】
上記誘電性エラストマー構造体3には、平面視で環状領域5の中央部に変形容易箇所9が形成されている。本実施形態において、この変形容易箇所9は、厚み方向に貫通する貫通孔によって形成されている。この変形容易箇所9は、負荷入力部位5aに負荷がかかっていない状態(無負荷状態)において、平面視で菱形状(方形状)に形成されている。なお、この貫通孔9の菱形状の頂点部分(環状領域5の内縁の頂点部分)は、隣接する辺同士が連続するよう平面視湾曲して形成されている。また、以下の説明において特段の事情のない限り、無負荷状態において厚み方向から見た形状について説明する。さらに、この変形容易箇所9として他の部位(環状領域5等)の厚みよりも薄く設けられた薄肉部を採用することも可能である。
【0029】
また、環状領域5は、平面視で、上記変形容易箇所9の外周側を囲むように環状に設けられており、上記変形容易箇所9の外形と略相似形の外周部を有する。
【0030】
環状領域5の頂点部分には、上記負荷入力部位5a及び変形出力部位5bが設けられている。このように、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bが頂点部分に設けられ、且つ環状部位が菱形状であるため、環状領域5の環状領域5が、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを結ぶ線を基準に対称な形状に形成されている。
【0031】
また、環状領域5の辺部分を構成する四つの辺部材のうち負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの内縁(変形容易箇所9側の縁部)は、中央部分(二つの頂点部分から離れた位置)が内側(変形容易箇所9の中心側)に向けて湾曲した形状を有している。また、この負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの外縁(内縁に対向する側の縁部)は、負荷入力部位5aから中央部分にかけて内側に向けて湾曲した形状を有している。
【0032】
さらに、環状領域5の辺部材のうち変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bの内縁は、中央部分が内側に向けて湾曲した形状を有している。また、この変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bの外縁は、外側(上記内側の反対側)に向けて湾曲している。さらに、この変形出力部位5bに近接する二つの辺部材6bは、負荷入力部位5a側の頂点部分に近接して他の部位よりも幅(辺部材の辺方向と直交する平面方向の幅)が狭い幅狭部6cとして設けられている。
【0033】
上記環状領域5の大部分は、基板2に固着されておらず、基板2に対してスライド変形可能に設けられている。ここで、環状領域5のうち変形出力部位5bの一部5cが、上記基板2に固着(拘束)されている。この変形出力部位5bの固着部位5cは、変形出力部位5bのうち負荷入力部位5a側の反対方向(外側方向)の一部が拘束されている。換言すれば、変形出力部位5bのうち外側の固着部位5cが基板2に固着されており、この固着部位5cから変形容易箇所9までの部分が基板2に固着されない変形スライド可能な部位として機能している。
【0034】
ここで、この変形出力部位5bの位置する環状領域5の頂点部位の外縁は、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを結ぶ線に対して垂直に設けられ、この外縁から内側に一定範囲の領域5cで変形出力部位5bは基板2に固着(拘束)されている。
【0035】
また、上記誘電性エラストマー構造体3は、一対の拘束領域7を備えている。具体的には、環状領域5の負荷入力部位5a及び変形出力部位5b間の一方側(図示上上側)から延出する一の上記拘束領域7と、上記負荷入力部位5a及び変形出力部位5b間の他方側(下側)から延出する他の上記拘束領域7とを備えている。この二つの拘束領域7は、環状領域5の四つの辺部材のうち負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの外縁であって、中央部分の変形出力部位5b側(右側)の部分からそれぞれ延出されている。
【0036】
また、この一対の拘束領域7の延出方向は、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを通る方向と平行で、且つこの方向のうち負荷入力部位5a方向とされている。
【0037】
この拘束領域7のうち延出端部7a(左側端部)が基板2と固着されている。これにより、負荷入力部位5aは、一対の拘束領域7の基板2との固定部分に挟まれた位置に配設されている。また、上記拘束領域7が、環状領域5の四つの辺部材のうち負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの外縁であって、中央部分の変形出力部位5b側(右側)の部分から延出されているため、上記拘束領域7の固定部分と負荷入力部位5aとの間には切欠き部が形成されている。さらに、上記拘束領域7は、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを結ぶ線を基準に対称な形状に形成されている。
【0038】
当該誘電部材1は、負荷入力部位5aに一定の力を負荷すると、変形により変形出力部位5bの比誘電率が変化するように設けられている。ここで、当該誘電部材1は、負荷入力部位5aに0N/m以上20N/m以下の力を負荷すると、変形出力部位5bの比誘電率が20以下3以上まで変化するよう構成されていることが好ましい。
【0039】
また、上記誘電性エラストマー構造体3の基板2への固着は、種々の方法を採用可能であるが、例えば接着剤による固着方法をとることができる。この接着剤として、種々のものを採用でき、例えばアクリレート、メタクリレート、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム又はシリコンをベースとする感圧接着剤であってもよいし、ポリオレフィン、ポリエレフィン、熱可塑性ポリウレタン若しくはポリアミド又はそれらのコポリマであってもよいし、スチレンブロックコポリマ等のブロックポリマをベースとするホットメルト接着剤であっても採用可能である。なお、誘電性エラストマー構造体3の基板2への固着方法は、例えばピン止め等、種々の方法を採用することができ、誘電性エラストマー構造体3の拘束領域7(及び変形出力部位5bの一部5c)のスライドが規制される手段であれば種々のものが採用可能である。
【0040】
また、当該誘電部材1は、誘電性エラストマー構造体3の負荷入力部位5aを係止し、誘電性エラストマー構造体3の変形状態を維持する係止手段(図示省略)をさらに備えている。この係止手段は種々の構造のものを採用可能であり、例えば基板2に対して固定された筒部を設け、この筒部に出退可能に設けられたピストン部材から係止手段を構成し、このピストン部材によって負荷入力部位5aを押圧し且つ押圧状態を維持するよう構成することも可能である。また、例えば基板2の表面の負荷入力部位5a付近に孔を形成し、この孔に挿入脱可能なピンから係止手段を構成し、この孔に挿入着したピン(係止手段)を負荷入力部位5aに当接させて、負荷入力部位5aの変形を維持するよう構成することも可能である。
【0041】
上記構成からなる当該誘電部材1は、以下のように使用することができる。
【0042】
まず、負荷入力部位5aに負荷をかけていない状態(図1参照)において、誘電性エラストマー構造体3は一定の誘電率を有し、このため一定の周波数の信号を受信するアンテナとして機能する。
【0043】
そして、負荷入力部位5aに負荷をかけて、誘電性エラストマー構造体3を変形させると(図2参照)、誘電性エラストマー構造体3の各部位が伸縮することにより、誘電率が変化する。つまり、無負荷状態とは誘電率が変化するため、異なる周波数の信号を受信することができるようになる。このため、受信したい周波数に応じて、負荷入力部位5aへの負荷を変更し誘電性エラストマー構造体3を変形させることにより、所望の周波数を受信できるアンテナとして利用することができる。つまり、同一構造の誘電性エラストマー構造体3を多数製造しておき、この誘電性エラストマー構造体3の変形量を調節することにより、多種の周波数のアンテナとして利用でき、各種メーカのカーナビゲーションシステムの商品に用いることができる。
【0044】
特に、負荷入力部位5aの両側(図示上、上側及び下側)に一対の拘束領域7が配設されているので、負荷入力部位5aを変形させた際に変形出力部位5bの変形(伸長)が大きくなるため、一つの製品で幅広い範囲の誘電率を得ることができる。さらに、この一対の拘束領域7は環状領域5からの延出方向が、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを通る方向のうち負荷入力部位5a方向であるので、延出方向を変形出力部位5b方向とした場合に比して、変形出力部位5bの変形が大きい。
【0045】
また、変形出力部位5bのうち負荷入力部位5a側の反対方向の一部が基板2に固定されているので、負荷入力部位5aの変形により変形出力部位5bに作用する力が、変形出力部位5bのうち固定されない部分が的確且つ確実に伸縮することができる。
【0046】
さらに、当該誘電性エラストマー構造体3は、環状領域5及び拘束領域7が、負荷入力部位5a及び変形出力部位5bを結ぶ線を基準に対称な形状に形成されているので、負荷入力部位5aの変形により環状領域5に作用する力が、対象形状の両部分から的確且つ均等に変形出力部位5bに伝達されることになり、変形出力部位5bを的確且つ確実に伸縮させることができる。
【0047】
また、方形の環状領域5の頂点部分に負荷入力部位5a及び変形出力部位5bが配設されているので、方形の頂点に位置する負荷入力部位5aの変形により作用する力が、この頂点に隣接する両辺に伝達されやすく、さらにこの両辺に伝達された力が変形出力部位5bにも伝達されやすい。このため、負荷入力部位5aの変形により環状領域5に作用する力によって、的確且つ確実に変形出力部位5bを伸縮させることができる。
【0048】
特に、環状領域5の辺部分を構成する四つの辺部材のうち負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの内縁は、中央部分が内側に向けて湾曲した形状を有しているので、負荷入力部位5aの変形により作用する力が、負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aを介して、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6b伝達されやすい。また同様に、負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aの外縁は、負荷入力部位5aから中央部分にかけて内側に向けて湾曲した形状を有しているので、負荷入力部位5aの変形により作用する力が、負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aを介して、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6b伝達されやすい。さらに、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bの内縁は、中央部分が内側に向けて湾曲した形状を有しているので、負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aに伝達された力が、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bを介して変形出力部位5bに伝達されやすい。また同様に、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bの外縁は、外側に向けて湾曲しているので、負荷入力部位5aに近接する側の二つの辺部材6aに伝達された力が、変形出力部位5bに近接する側の二つの辺部材6bを介して変形出力部位5bに伝達されやすい。さらに、変形出力部位5bに近接する二つの辺部材6bは、負荷入力部位5a側の頂点部分に近接して他の部位よりも幅が狭い幅狭部6cとして設けられているので、この変形出力部位5bに近接する二つの辺部材6bが変形しやすく、このため変形出力部位5bの伸長が的確になされる。
【0049】
また、当該誘電性エラストマー構造体3は、負荷入力部位5aに対して押圧力を付与することにより、変形出力部位5bを伸長するよう構成されているため、例えば負荷入力部位5aを引っ張るような力を負荷するものに比して構造が容易となる利点を有する。
【0050】
さらに、負荷入力部位5aに0N/m以上20N/m以下の力を負荷すると、変形出力部位5bの比誘電率が20以下3以上まで変化するよう構成されているので、変形出力部位5bを所望の誘電率に設定変更することができ、例えば幅広い範囲の周波数帯域に対応したアンテナとして利用することができる。
【0051】
本実施形態の誘電部材1は上述の構成により上記利点を奏するものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内で適宜設計変更可能である。
【0052】
つまり、上記実施形態においては、変形容易箇所9として貫通孔9を有するものであったが、本発明はこれに限定されない。また貫通孔9を形成する場合にあっても、上記方形状のものに限定されるものではなく、種々の形態の貫通孔を採用可能であり、例えば円形や楕円形の貫通孔を採用することも可能である。ただし、何れの形状をとった場合であっても、上記実施形態のように、貫通孔(変形容易領域)の形状は、負荷入力部位及び変形出力部位を結ぶ線を基準に対称な形状に形成されていることが好ましい。
【0053】
また、上記実施形態においては、誘電性エラストマー構造体3を基板2に、一対の拘束領域7及び変形出力部位5bの一部で固定するものであったが、本発明はこれに限定されない。つまり、例えば一つの拘束領域7により誘電性エラストマー構造体3が基板2に固定されているものも本発明の意図する範囲内である。また、変形出力部位5bの一部が基板2に固定されていることも本発明の必須の要件ではなく、変形出力部位5bが基板2に一切固着されていないものも本発明の意図する範囲内である。
【0054】
また、上記実施形態においてはアンテナとして利用するものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばセンサーとして用いることも可能である。つまり、上記係止手段に代えて、負荷変位部をさらに備え、この負荷変位部が付加される力に応じて変位するとともに負荷入力部位に連結された構成を採用することが可能である。
【実施例】
【0055】
(実施例1〜5)
エラストマーとしてエチレンプロピレンゴム(住友化学製の「エスプレンEPDM301」)、誘電性フィラーとしてチタン酸バリウム(堺化学工業製の「BT01」)し、エラストマーに誘電性フィラー及び添加剤を混合して図1に示すような形状にシート成形した後、金型に充填して加圧下で150℃×30min加硫することで誘電性エラストマー構造体を得た。この構造体の外形寸法は、20mm×20mm×t2mmとした。誘電性フィラーの配合量を票1に示すように変更して実施例1〜5の誘電性エラストマー構造体を作成した。
【0056】
(比較例1)
誘電性フィラーを配合しない以外は上記実施例と同様にして比較例1の誘電性エラストマー構造体を得た。
【0057】
(特性の評価)
上記実施例1〜7の誘電性エラストマー構造体及び比較例1の誘電性エラストマー構造体を用い、負荷入力部位を押圧する荷重を0、5、10及び20N/mに変え、周波数1000MHzでの比誘電率を測定した。また、各誘電性エラストマー構造体の柔軟性がある場合を○、ない場合を×として評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
上記表1に示すように、本願発明の誘電性エラストマー構造体は、比較例1の誘電性エラストマー構造体と比較して、荷重により誘電率が変化した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の誘電性エラストマー構造体及び誘電部材は、例えばカーナビゲーションシステム、無線LAN又はホームネットワーク等におけるアンテナを構成する部材等として用いることができ、さらにはセンサーとしても用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 誘電部材
2 基板
3 誘電性エラストマー構造体
5 環状領域
5a 負荷入力部位
5b 変形出力部位
5c 固着部位
6a 辺部材
6b 辺部材
6c 幅狭部
7 拘束領域
7a 延出端部
9 変形容易箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー中に誘電性フィラーを含有するシート状の誘電性エラストマー構造体であって、
平面視で、対向位置に負荷入力部位及び変形出力部位を有する環状領域と、この環状領域から延出する拘束領域とを備えることを特徴とする誘電性エラストマー構造体。
【請求項2】
上記環状領域の負荷入力部位及び変形出力部位間の一方側から延出する一の上記拘束領域と、上記負荷入力部位及び変形出力部位間の他方側から延出する他の上記拘束領域とを備える請求項1に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項3】
上記拘束領域の延出方向が、負荷入力部位及び変形出力部位を通る方向のうち負荷入力部位方向である請求項2に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項4】
上記変形出力部位のうち負荷入力部位側の反対方向の一部が拘束される請求項1、請求項2又は請求項3に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項5】
上記環状領域が、負荷入力部位及び変形出力部位を結ぶ線を基準に対称な形状に形成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項6】
上記環状領域の対称形状が方形であり、頂点部分に上記負荷入力部位及び変形出力部位が配設されている請求項5に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項7】
上記負荷入力部位に0N/m以上20N/m以下の力を負荷すると、変形出力部位の比誘電率が20以下3以上まで変化する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の誘電性エラストマー構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の誘電性エラストマー構造体と、
この誘電性エラストマー構造体に重畳され、誘電性エラストマー構造体の拘束領域が固定される基板と
を備える誘電部材。
【請求項9】
上記負荷入力部位を係止し、誘電性エラストマー構造体の変形状態を維持する係止手段をさらに備える請求項8に記載の誘電部材。
【請求項10】
上記負荷入力部位に連結され、付加される力に応じて変位する負荷変位部をさらに備える請求項8に記載の誘電部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−248340(P2012−248340A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117426(P2011−117426)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】