説明

誘電材料

【課題】絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さい誘電材料を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの表面にグラフト結合した高分子鎖とを含有し、前記高分子鎖の前記カーボンナノチューブへの表面結合密度が、0.01chains/nm以上であることを特徴とする誘電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粒子を含有する誘電材料に関し、より詳しくは、高分子材料と導電性粒子とを複合化した誘電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料に炭素材料を添加すると、比誘電率が飛躍的に増大することが知られている。特に、炭素材料としてカーボンナノチューブを添加すると、少量の添加で大きな比誘電率が得られることが知られている。しかしながら、カーボンナノチューブなどの炭素材料は導電性材料であるため、高分子材料には導電性も付与され、その結果、誘電損失正接が増大し、高分子材料と炭素材料との混合物を誘電材料として使用することは実質的には困難であった。
【0003】
例えば、Appl.Phys.Lett.、2005年、第87巻、042903−1〜042903−3頁(非特許文献1)には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とを混合して調製した複合材料(MWCNT/PVDF)が開示されており、この複合材料において、MWCNTを2体積%添加すると、周波数1kHzにおける比誘電率が約300になることも開示されている。しかしながら、MWCNTを約2体積%添加するだけで、前記複合体の絶縁性は急激に低下し、周波数1kHzにおける誘電損失正接が約0.4となるため、この複合材料を誘電材料として使用することは実質的には困難であった。
【0004】
また、Adv.Mater.、2007年、第19巻、852〜857頁(非特許文献2)には、表面にトリフルオロフェニル基を導入した多層カーボンナノチューブ(TFP−MWCNT)をポリフッ化ビニリデン(PVDF)中に分散させたナノコンポジットが開示されており、このナノコンポジットにおいて、TFP−MWCNTを体積分率が0.08となるように添加すると、周波数1kHzにおける比誘電率が約600になることも開示されている。しかしながら、カーボンナノチューブの表面に低分子化合物を導入しても、カーボンナノチューブは十分に絶縁化されないため、周波数1kHzにおける誘電損失正接が2以上となり、このナノコンポジットを誘電材料として使用することは実質的には困難であった。
【0005】
さらに、Carbon、2009年、第47巻、1096〜1101頁(非特許文献3)には、表面をポリピロールで被覆した多層カーボンナノチューブ(PPy−MWCNT)をポリスチレン中に添加して調製した複合材料が開示されており、この複合材料において、PPy−MWCNTを10質量%添加すると、周波数1MHzにおける比誘電率が約44、誘電損失正接が0.02になることも開示されている。しかしながら、ポリピロールの体積抵抗率が比較的小さい(10〜1010Ω・cm)ため、周波数が100kHz以下になると誘電損失正接が0.02を超過し、誘電損失正接が周波数依存性を示すといった問題があった。
【0006】
一方、特開2010−24263号公報(特許文献1)には、カーボンブラックの表面に重合開始剤を固定化し、この重合開始剤を起点としてメタクリル酸ブチルを重合せしめたポリメタクリル酸ブチル修飾カーボンブラック(CB−PBMA)が開示されている。このCB−PBMAを誘電材料として使用するには、比誘電率が必ずしも十分に高いものではなく、さらに高い比誘電率を有する有機無機複合材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−24263号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lan Wangら、Appl.Phys.Lett.、2005年、第87巻、042903−1〜042903−3頁
【非特許文献2】Zhi−Min Dangら、Adv.Mater.、2007年第19巻、852〜857頁
【非特許文献3】Cheng Yangら、Carbon、2009年、第47巻、1096〜1101頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さい誘電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブの表面に高分子鎖を高密度でグラフト結合せしめることによって、カーボンナノチューブの表面に優れた絶縁性を付与することができ、その結果、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さい誘電材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の誘電材料は、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの表面にグラフト結合した高分子鎖とを含有し、前記高分子鎖の前記カーボンナノチューブへの表面結合密度が、0.01chains/nm以上であることを特徴とするものである。また、本発明の誘電性高分子材料および誘電体は、本発明の誘電材料を含むものである。
【0012】
このような誘電材料において、前記高分子鎖は、前記カーボンナノチューブの表面に共有結合した連結基を介してグラフト結合していることが好ましい。前記連結基としては、官能基を有する芳香族化合物の2価以上の残基が好ましく、前記官能基としては、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基およびアミド基からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0013】
また、前記高分子鎖としては、ラジカル重合により形成されたものが好ましく、ビニル系モノマーを重合せしめたものがより好ましい。前記高分子鎖の数平均分子量としては、1万以上が好ましい。
【0014】
なお、本発明の誘電材料が、絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さいものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、導電性材料であるカーボンナノチューブの表面に高分子鎖を高密度でグラフト結合させると、カーボンナノチューブの表面に緻密な高分子層が形成される。このような緻密な高分子層は絶縁性に優れているため、この高分子層により被覆されたカーボンナノチューブも絶縁性が高くなると推察される。また、このようなカーボンナノチューブにおいては、高分子層の優れた絶縁性に加えて、カーボンナノチューブ内の自由電子によって容易に分極が起こるため、優れた誘電材料として機能すると推察される。特に、本発明の誘電材料においては、カーボンナノチューブの大きいアスペクト比によって高い比誘電率を得ることができるとともに、高分子層の優れた絶縁性によって誘電損失が低く抑えられ、さらに、印加電場の周波数による影響も小さくなり、誘電特性の周波数依存性が小さくなると推察される。
【0015】
一方、カーボンブラックの表面に高分子鎖を高密度でグラフト結合させると、カーボンブラックの表面には緻密な高分子層が形成されるものの、カーボンブラックのアスペクト比がカーボンナノチューブに比べて非常に小さいため、比誘電率が低くなると推察される。
【0016】
また、カーボンナノチューブの表面に低分子化合物をグラフト結合させて低分子化合物層を形成した場合には、低分子化合物層の絶縁性が前記高分子層に比べて低いため、十分な絶縁性が得られず、低分子化合物層により被覆されたカーボンナノチューブの絶縁性も低くなると推察される。また、低分子化合物層により被覆されたカーボンナノチューブにおいては、カーボンナノチューブの大きいアスペクト比により高い比誘電率が得られるものの、低分子化合物層の厚みが十分ではないため、トンネル電流などの影響によりカーボンナノチューブの導電性が十分に遮蔽されず、絶縁性の高分子と混合しても、誘電損失を低く抑えることができず、また、電界の周波数による影響が抑制できず、誘電特性の周波数依存性が大きくなると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さい誘電材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1〜2で得られた複合材料および比較例1〜3で得られた混合物の体積抵抗率とカーボンナノチューブの体積分率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2で得られた複合材料および比較例3で得られた混合物の比誘電率の周波数依存性を示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた複合材料および比較例3で得られた混合物の誘電損失正接の周波数依存性を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3で得られた複合材料、比較例4〜6得られた混合物および比較例7で得られた複合材料の比誘電率とそれらの含まれる粒子の体積分率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明の誘電材料は、カーボンナノチューブと、このカーボンナノチューブの表面にグラフト結合した高分子鎖とを含有するものである。
【0020】
本発明にかかるカーボンナノチューブとしては特に制限はなく、公知のカーボンナノチューブを使用することができる。また、単層、多層(2層以上)のいずれのカーボンナノチューブも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。
【0021】
このようなカーボンナノチューブの平均直径としては特に制限はないが、1〜100nmが好ましく、3〜50nmがより好ましい。カーボンナノチューブの平均直径が前記下限未満になると、誘電材料中のカーボンナノチューブの体積分率を高くすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、高分子鎖のグラフト化が困難となる傾向にある。また、カーボンナノチューブの平均長さとしては特に制限はないが、100nm以上が好ましく、1000nm以上がより好ましい。カーボンナノチューブの平均長さが前記下限未満になると、高い比誘電率が得られにくい傾向にある。カーボンナノチューブの平均長さの上限は特に制限はないが、10μm以下であることが好ましい。なお、カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、例えば、電子顕微鏡観察において無作為に抽出した複数(例えば、n=50)のカーボンナノチューブの直径および長さを測定し、これらの算術平均として求めることができる。
【0022】
また、このようなカーボンナノチューブにおいては、ラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)は特に制限されないが、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。G/Dが前記下限未満になると、カーボンナノチューブの導電性が低下するため、十分な比誘電率が得られにくい傾向にある。
【0023】
本発明にかかる高分子鎖としては、前記カーボンナノチューブの表面に高密度でグラフト結合するものであれば特に制限はないが、グラフト化が簡便であるという観点から、ラジカル重合(より好ましくは、リビングラジカル重合)により形成された高分子鎖が好ましい。
【0024】
前記ラジカル重合に使用するモノマーとしてはラジカル重合性モノマーであれば特に制限はないが、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和カルボン酸エステルモノマー、不飽和カルボン酸アミドモノマー、芳香族ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーといったビニル系モノマーが好ましい。また、前記ラジカル重合性モノマーにおいては、ハロゲン原子や、シアノ基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アルコキシ基などの官能基が置換していてもよい。
【0025】
前記不飽和カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸といった不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、メサコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸といった不飽和ジカルボン酸、マレイン酸モノエチルといった不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルなどが挙げられる。前記不飽和カルボン酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルといった(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。前記不飽和カルボン酸アミドモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、2−ビニルナフタレン、4−ブロモスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、2−ビニルピリジンなどが挙げられる。前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレンといったアルケン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエンといったアルカジエンなどが挙げられる。本発明かかる高分子鎖は、このようなラジカル重合性モノマー1種の単独重合により形成されたものであっても、2種以上の共重合により形成されたものであってもよい。
【0026】
本発明の誘電材料においては、このような高分子鎖が、前記カーボンナノチューブの表面に、0.01chains/nm以上の表面結合密度でグラフト結合している。高分子鎖の表面結合密度が前記下限未満になると、高分子鎖により形成される高分子層の絶縁性が低下するため、誘電材料の絶縁性が低下するとともに、誘電損失が大きくなり、さらに誘電特性の周波数依存性も大きくなる傾向にある。また、誘電損失がより小さくなり、誘電特性の周波数依存性もより小さくなるという観点から、高分子鎖の表面結合密度は、0.03chains/nm以上であることが好ましく、0.05chains/nm以上であることがより好ましい。高分子鎖の表面結合密度の上限は、カーボンナノチューブの表面に高分子鎖がグラフト結合できる限り特に制限はない。
【0027】
なお、前記高分子鎖の表面結合密度は以下のようにして算出することができる。すなわち、先ず、本発明の誘電材料の熱重量減少量を熱重量分析(窒素雰囲気下、昇温速度:10℃/分、温度範囲:室温〜600℃)により測定する。次に、この熱重量減少量から誘電材料中の高分子鎖およびカーボンナノチューブの含有率を算出する。そして、これらの含有率、高分子鎖の数平均分子量、カーボンナノチューブの比表面積から、高分子鎖の表面結合密度を算出する。
【0028】
本発明にかかる高分子鎖の数平均分子量としては特に制限はないが、1万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、5万以上が特に好ましい。高分子鎖の数平均分子量が前記下限未満になると、高分子鎖により形成される高分子層の絶縁性が低下するため、誘電材料の絶縁性が低下するとともに、誘電損失が大きくなり、さらに誘電特性の周波数依存性も大きくなる傾向にある。高分子鎖の数平均分子量の上限としては特に制限はないが、100万以下であることが好ましい。
【0029】
なお、前記高分子鎖の数平均分子量は、以下のようにして決定する。すなわち、先ず、高分子鎖をグラフト結合せしめる際に遊離の重合開始剤を共存させ、高分子鎖のグラフト化とともに、遊離の高分子化合物を合成する。この高分子化合物と、同時に生成した高分子鎖がグラフト結合したカーボンナノチューブ(本発明の誘電材料)とを分離し、回収した前記高分子化合物の数平均分子量を、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて測定する。得られた高分子化合物の数平均分子量を前記高分子鎖の数平均分子量とする。
【0030】
また、前記高分子鎖の体積抵抗率としては、1014Ω・cm以上が好ましく、1016Ω・cm以上がより好ましい。高分子鎖の体積抵抗率が前記下限未満になると、高分子鎖により形成される高分子層の絶縁性が低下するため、誘電材料の絶縁性が低下するとともに、誘電損失が大きくなり、さらに誘電特性の周波数依存性も大きくなる傾向にある。なお、高分子鎖の体積抵抗率の上限としては特に制限はない。
【0031】
なお、前記高分子鎖の体積抵抗率は、以下のようにして決定する。すなわち、前記高分子鎖の数平均分子量を決定する場合と同様にして合成し、回収した高分子化合物を15mm×15mm×1mmの試験片に成形する。次に、この試験片の両面に、スパッタリングによりAu蒸着膜を形成する。このAu蒸着膜を電極として2端子法(直流、印加電圧:50V)により前記高分子化合物の体積抵抗率を室温で測定し、この測定値を高分子鎖の体積抵抗率とする。
【0032】
本発明の誘電材料において、このような高分子鎖は、前記カーボンナノチューブの表面に、直接グラフト結合していてもよいが、前記カーボンナノチューブの表面に共有結合した連結基を介してグラフト結合していることが好ましい。これにより、カーボンナノチューブの表面に高分子鎖がより高密度にグラフト結合した誘電材料を得ることができる。このように高分子鎖が高密度にグラフト結合して形成された高分子層は、より高い絶縁性を示すため、誘電材料の絶縁性も向上し、さらに、誘電損失がより低くなり、誘電特性の周波数依存性もさらに小さいものとなる傾向にある。
【0033】
本発明にかかる連結基としては、高分子鎖をカーボンナノチューブの表面にグラフト結合できるものであれば特に制限はないが、例えば、高分子鎖を形成する際に用いられる重合開始剤をカーボンナノファイバーの表面に固定化することができる2価以上の基が挙げられる。このような基としては、官能基を有する芳香族化合物(より好ましくは、芳香族ジアゾニウム塩)の2価以上の残基が好ましく、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基およびアミド基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する芳香族化合物(さらに好ましくは、芳香族ジアゾニウム塩)の2価以上の残基がより好ましく、下記式(1)〜(6):
−Ar−N< (1)
−Ar−NH− (2)
−Ar−O− (3)
−Ar−S− (4)
−Ar−COO− (5)
−Ar−CONH− (6)
(式(1)〜(6)中のArは、アリーレン基を表す。)
のいずれかで表される、芳香環を含有する2価または3価の基が特に好ましい。このような連結基の少なくとも1つの末端はカーボンナノチューブの炭素原子と結合し、残りの末端の少なくとも1つは前記高分子鎖と結合している。
【0034】
本発明の誘電材料は、絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さいものである。このような誘電材料の具体的な誘電特性としては、比誘電率が4以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、1kHz〜10MHの周波数領域全域において、誘電損失正接が0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.02以下であることが特に好ましい。さらに、本発明の誘電材料の体積抵抗率としては、1012Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がより好ましい。
【0035】
また、本発明の誘電材料におけるカーボンナノチューブの体積分率としては0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。カーボンナノチューブの体積分率が前記上限を超えると、誘電材料の絶縁性が低下したり、誘電損失が大きくなったりする傾向にある。
【0036】
本発明の誘電材料は、熱プレスなどの加熱加工により所望の形状の誘電体に成形したり、溶媒に分散して、キャストやスピンコート、ディップコート、塗布といった公知の塗膜形成方法により誘電膜を形成したり、前記誘電体や前記誘電膜を電極間に配置して誘電体素子を形成したり、様々な方法により成形加工することが可能である。
【0037】
また、本発明の誘電材料を高分子材料に添加することによって、誘電特性が付与された高分子材料(誘電性高分子材料)を調製し、この誘電性高分子材料を成形加工して各種誘電体を形成することも可能である。前記高分子材料としては特に制限はなく、本発明の誘電材料を構成する高分子鎖と同種の高分子鎖を有する高分子材料であっても、異種の高分子鎖を有する高分子材料であってもよいが、高分子材料中に本発明の誘電材料を均一に分散させることができ、その結果、優れた誘電特性を得ることができるという観点から、同種の高分子鎖を有する高分子材料が好ましい。
【0038】
本発明の誘電材料は、例えば、カーボンナノチューブの表面に重合開始剤を固定化し、この重合開始剤を起点として、表面開始重合を行ない、高分子鎖を成長させることによって製造することができる。この方法によりカーボンナノチューブの表面に重合開始剤を固定化すると、高分子鎖を高密度でカーボンナノチューブの表面にグラフト結合させることができる。また、この方法によれば、重合反応の進行度を調製することによって高分子鎖の数平均分子量を容易に調整することができる。
【0039】
前記表面開始重合としては、ラジカル重合(好ましくは、リビングラジカル重合)を利用したものが好ましい。また、重合開始剤としては特に制限はないが、カーボンナノチューブの表面に高密度で固定化できるという観点から、特開2010−24263号公報に記載の重合開始剤、すなわち、ハロゲン化メチル芳香族化合物誘導体が好ましい。
【0040】
カーボンナノチューブの表面に重合開始剤を固定化する方法としては、カーボンナノチューブの表面に高密度で重合開始剤を固定化できるという観点から、特開2010−24263号公報に記載の方法が好ましく、特に、カーボンナノチューブの表面に反応性官能基を導入した後、この反応性官能基に重合開始剤を反応させることによって重合開始剤を固定化する方法が好ましい。
【0041】
カーボンナノチューブの表面に反応性官能基を導入する方法としては、カーボンナノチューブの表面に高密度で反応性官能基を導入できるという観点から、Bahr,J.L.ら、Chem.Mater.、2001年、第13巻、3823〜3824頁に記載の方法、すなわち、カーボンナノチューブの表面に反応性官能基を有する芳香族ジアゾニウム塩を付加反応させる方法が好ましい。
【0042】
導入する反応性官能基としては、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基およびアミド基などが挙げられ、中でも、重合開始剤との反応性が高いという観点からアミノ基が好ましい。
【0043】
以下、本発明の誘導材料の調製方法の一例を詳細に説明するが、本発明の誘導材料は、この方法によって得られるものに限定されない。
【0044】
先ず、下記式(7):
【0045】
【化1】

【0046】
(式(7)中、CNTはカーボンナノチューブを表し、Arはアリーレン基を表し、Xは反応性官能基を表す。)
に従って、カーボンナノチューブの表面に反応性官能基を有する芳香族ジアゾニウム塩を付加させる。すなわち、カーボンナノチューブと前記反応性官能基を有する芳香族アミン塩とを混合し、この混合物に溶媒と水を添加し、さらにジアゾ化剤を添加して前記反応を進行させる。このとき、ジアゾ化剤の添加によって、反応性官能基を有する芳香族アミン塩から反応性官能基を有する芳香族ジアゾニウム塩が生成し、これがカーボンナノチューブの表面に付加する。
【0047】
前記ジアゾ化剤としては、亜硝酸、亜硝酸エステル(例えば、亜硝酸メチル、亜硝酸イソアミル)、亜硝酸のアルカリ金属塩(例えば、亜硝酸ナトリウム)などが挙げられる。また、前記付加反応における反応温度としては0〜100℃が好ましく、反応時間としては1〜24時間が好ましい。
【0048】
次に、反応性官能基を導入したカーボンナノチューブと重合開始剤であるハロゲン化メチル芳香族化合物誘導体と溶媒とを混合し、下記式(8):
【0049】
【化2】

【0050】
(式(8)中、CNTはカーボンナノチューブを表し、Xは反応性官能基を表し、Xはハロゲン原子を表し、XはXとXの反応によって生成する2価の基を表し、Arはアリーレン基を表し、Yは重合開始能を有する官能基を表し、iは1〜3の整数である。)
に従って、前記反応性官能基により前記ハロゲン化メチル芳香族化合物誘導体中のハロゲン原子を置換し、カーボンナノチューブの表面に重合開始剤を固定化する。この反応における反応温度としては20〜120℃が好ましく、反応時間としては1〜24時間が好ましい。なお、ハロゲン化メチル芳香族化合物誘導体は、特開2010−24263号公報に記載の方法により調製することができる。
【0051】
前記式(8)中のXは、反応性官能基の残基であり、例えば、3級アミノ基(−N<)、2級アミノ基(−NH−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、カルボキシル基(−COO−)、アミド基(−CONH−)などが挙げられる。また、Yとしては、2−ブロモイソ酪酸残基などの特開2010−24263号公報に記載の重合開始能を有する官能基が挙げられる。
【0052】
次に、重合開始剤が固定化されたカーボンナノチューブ、重合性モノマー、重合触媒などを混合し、下記式(9):
【0053】
【化3】

【0054】
(式(9)中、CNTはカーボンナノチューブを表し、XはXとXの反応によって生成する2価の基を表し、Arはアリーレン基を表し、Yは重合開始能を有する官能基を表し、Polymerは高分子鎖を表し、iは1〜3の整数である。)
に従って、カーボンナノチューブに固定化された重合開始剤の重合開始能を有する官能基を起点として、重合反応(好ましくは、ラジカル重合反応、より好ましくはリビングラジカル重合反応)を行い、カーボンナノチューブの表面に高分子鎖をグラフト結合せしめる。前記重合性モノマーとしては、上述したラジカル重合性モノマーなどが挙げられ、重合触媒としては、公知のものを使用することができる。重合反応温度および重合反応時間については、重合性モノマーの種類、目的とする高分子鎖の数平均分子量などに応じて適宜設定することができる。
【0055】
これら一連の反応において用いられる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒が挙げられる。
【0056】
下記式(10)〜(15)には、上述した方法と同様にして、高分子鎖としてビニル系ポリマー鎖をグラフト結合せしめた本発明の誘電材料の化学式を示す。
【0057】
【化4】

【0058】
前記式(10)〜(15)中、RおよびRは特に制限されないが、通常、重合開始剤の残基である。また、RおよびRは、重合せしめたビニル系モノマーの種類によって決まる官能基または置換基である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例で使用した2−ブロモイソ酪酸−p−(ブロモメチル)ベンジルは、予め、特開2010−24263号公報に記載の実施例1に準拠して合成した。
【0060】
(実施例1)
<アミン修飾カーボンナノチューブの合成>
多層カーボンナノチューブ(Nanocyl社製「Nanocyl−7000」、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、比表面積220m/g、密度1.8g/cm。以下「MWCNT」と略す。)2.4gとp−フェニレンジアミン二塩酸塩18.1g(100mmol)とを混合し、この混合物にジメチルアセトアミド(DMAc)300mlおよび水100mlを添加し、5℃に冷却した。得られた分散液に亜硝酸イソアミル14.1ml(105mmol)を添加した後、窒素気流中、超音波処理を施しながら、下記式(16):
【0061】
【化5】

【0062】
で表される反応を40℃で8時間行なった。反応生成物(MWCNT−PhNH)をろ過により精製し、真空乾燥した。
【0063】
<重合開始剤修飾カーボンナノチューブの合成>
MWCNT−PhNH2.8gに、2−ブロモイソ酪酸−p−(ブロモメチル)ベンジル3.5g(10mmol)、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン0.90g(4.2mmol)およびDMAc280mlを添加し、超音波処理を施しながら、下記式(17):
【0064】
【化6】

【0065】
(前記式(17)中、kは1または2である。)
で表される反応を40℃で24時間行なった。反応生成物(MWCNT−Br)をろ過により精製した後、真空乾燥させた。
【0066】
<ポリメタクリル酸ブチルがグラフト結合したカーボンナノチューブの合成>
前記MWCNT−Br0.60gと臭化銅(I)28.6mg(200μmol)と2−ブロモイソ酪酸ベンジル1.9μl(10μmol)とを混合し、この混合物にDMAc80mlを添加し、超音波処理を施してMWCNT−Brを含む溶液を調製した。なお、前記2−ブロモイソ酪酸ベンジルは、遊離のPBMAを同時に合成するための重合開始剤である。この溶液に2,2’−ビピリジル62.4mg(400μmol)およびメタクリル酸n−ブチル(BMA)40ml(250mmol)を添加し、60℃で1時間攪拌して、下記式(18):
【0067】
【化7】

【0068】
(下記式(18)中のkは、前記式(17)中のkと同義であり、nはポリメタクリル酸n−ブチル鎖(PBMA鎖)の重合度を表す。)
で表される重合反応を行なった。反応生成物をメタノールで再沈させた後、ベンゼンに溶解させて遠心分離(41000rpm)を施し、複合材料(MWCNT−PBMA)と遊離のPBMAとを分離した。
【0069】
精製されたMWCNT−PBMA中のPBMA鎖の数平均分子量Mnは、前記重合反応において同時に合成して回収した前記遊離のPBMAの数平均分子量と同じであると仮定し、これをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC、カラム:東ソー(株)製「TSKgel G4000HR」、カラム温度:30℃、溶離液:テトラヒドロフラン、流量:1ml/分)を用いて測定し、Mn=6.4万と決定した。
【0070】
また、前記MWCNT−PBMAについて窒素雰囲気下で熱重量分析(昇温速度:10℃/分、温度範囲:室温〜600℃)を行い、重量減少量からMWCNT−PBMA中のMWCNTおよびPBMA鎖の含有率を算出したところ、それぞれ37質量%および50質量%であった。従って、PBMA鎖の数平均分子量とMWCNTの比表面積を考慮してPBMA鎖のMWCNTへの表面結合密度を求めたところ、0.058chains/nmであり、また、MWCNTの密度を考慮してMWCNTの体積分率を求めたところ、0.26であった。
【0071】
(実施例2)
前記MWCNT−PBMAを合成する際の重合時間を4時間に変更し、且つ遊離の重合開始剤(2−ブロモイソ酪酸ベンジル)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして複合材料(MWCNT−PBMA)を調製した。なお、この実施例においては、遊離の重合開始剤を添加していないため、遊離のPBMAは合成されない。得られたMWCNT−PBMAにおけるMWCNTの体積分率を実施例1と同様にして求めたところ、0.091であった。
【0072】
(実施例3)
前記MWCNT−PBMAを合成する際の重合時間を12時間に変更した以外は実施例2と同様にして複合材料(MWCNT−PBMA)を調製した。なお、この実施例においても、実施例2と同様に、遊離の重合開始剤を添加していないため、遊離のPBMAは合成されない。得られたMWCNT−PBMAにおけるMWCNTの体積分率を実施例1と同様にして求めたところ、0.037であった。
【0073】
(実施例4)
前記MWCNT−PBMAを合成する際の重合時間を2時間に変更した以外は実施例2と同様にして複合材料(MWCNT−PBMA)を調製した。なお、この実施例においても、実施例2と同様に、遊離の重合開始剤を添加していないため、遊離のPBMAは合成されない。得られたMWCNT−PBMAにおけるMWCNTの体積分率を実施例1と同様にして求めたところ、0.12であった。
【0074】
(比較例1〜3)
ポリメタクリル酸n−ブチル(アルドリッチ社製、以下「PBMA」と略す。)と、実施例1と同様にして合成したMWCNT−Brとを、MWCNTの体積分率が約0.04、約0.07、約0.09となるように混合した。得られた混合物(MWCNT−Br/PBMA)中のMWCNTの正確な体積分率を、実施例1と同様に熱重量分析により測定したところ、それぞれ0.038、0.068、0.095であった。
【0075】
(比較例4〜6)
PBMA(アルドリッチ社製)と、チタン酸バリウム(BaTiO、(株)高純度化学研究所製、平均粒子径1μm)とを、BaTiOの体積分率が約0.1、約0.3、約0.5となるように混合した。得られた混合物(BaTiO/PBMA)中のBaTiOの正確な体積分率を、実施例1と同様に熱重量分析により測定したところ、それぞれ0.12、0.30、0.50であった。
【0076】
(比較例7)
<アミン修飾カーボンブラックの合成>
MWCNTの代わりにカーボンブラック(三菱化学(株)製「MA600」、平均粒子径20nm、比表面積140m/g。以下「CB」と略す。)10gを用い、p−フェニレンジアミン二塩酸塩の量を3.6g(20mmol)に、DMAcの量を60mlに、水の量を20mlに、亜硝酸イソアミルの量を2.8ml(21mmol)に、反応時間を7時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてアミン修飾カーボンブラック(CB−PhNH)を合成した。
【0077】
<重合開始剤修飾カーボンブラックの合成>
MWCNT−PhNHの代わりにCB−PhNH10gを用い、2−ブロモイソ酪酸−p−(ブロモメチル)ベンジルの量を2.1g(6.0mmol)に、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンの量を0.43g(2.0mmol)に、DMAcの量を80mlに、反応時間を12時間に変更した以外は、実施例1と同様にして重合開始剤修飾カーボンブラック(CB−Br)を合成した。
【0078】
<ポリメタクリル酸ブチルがグラフト結合したカーボンブラックの合成>
前記CB−Br0.90gと臭化銅(I)28.6mg(200μmol)とを混合し、この混合物にDMAc60mlを添加し、超音波処理を施して前記CB−Brを分散させた。この分散液にメタクリル酸n−ブチル(BMA)30ml(190mmol)および2,2’−ビピリジル62.4mg(400μmol)を添加し、60℃で1時間攪拌して重合反応を行なった。反応生成物をメタノールで再沈した後、乾燥してカーボンブラックの表面にポリメタクリル酸ブチルがグラフト結合した複合材料(CB−PBMA)を得た。このCB−PBMAにおけるCBの体積分率を実施例1と同様にして求めたところ、0.43であった。
【0079】
<電気特性>
実施例1〜4で得られたMWCNT−PBMA、比較例1〜3で得られたMWCNT−Br/PBMA、比較例4〜6得られたBaTiO/PBMA、および比較例7で得られたCB−PBMAのそれぞれについて、体積抵抗率、比誘電率、誘電損失正接を以下の方法により測定した。
【0080】
先ず、各粉末試料を温度90℃、圧力10MPaでプレス成形して15mm×15mm×1mmの試験片を作製した。この試験片の両面に、スパッタリングによりAu蒸着膜を形成した。このAu蒸着膜を電極として2端子法(直流、印加電圧:50V)により体積抵抗率を室温で測定した。また、インピーダンスアナライザー(アジレント・テクノロジーズ社製「4194A」)を用いた容量法により、周波数100Hz〜40MHzの範囲における比誘電率および誘電損失正接を室温で測定した。
【0081】
図1は、実施例2〜3で得られたMWCNT−PBMAおよび比較例1〜3で得られたMWCNT−Br/PBMAの体積抵抗率をMWCNTの体積分率に対してプロットしたグラフである。なお、図1には、前記PBMA(アルドリッチ社製)のみを前記条件でプレス成形して作製した試験片の体積抵抗率も、MWCNTの体積分率=0として示した。これらの結果から明らかなように、MWCNTの表面にPBMA重合の重合開始剤を結合させたもの(MWCNT−Br)をPBMAと混合しても、MWCNTの体積分率が増加すると、体積抵抗率が急激に低下することがわかった。一方、MWCNTの表面にPBMAをグラフト結合させた場合(MWCNT−PBMA)には、MWCNTの体積分率が増加しても体積抵抗率の急激な低下は認められず、導電性のMWCNTの体積分率の増加に伴う電気抵抗の低下が大幅に抑制されることがわかった。
【0082】
図2および図3は、実施例2で得られたMWCNT−PBMA、比較例3で得られたMWCNT−Br/PBMA、およびPBMAの比誘電率ε’および誘電損失正接tanδを測定周波数に対してプロットしたグラフである。これらの結果から明らかなように、MWCNTの表面にPBMAをグラフト結合させることによって、1kHz〜10MHzの周波数領域における比誘電率が20程度となり、PBMAのみの場合(ε’=2.7)に比べて、比誘電率が7倍以上となることがわかった。また、前記周波数領域における誘電損失正接については、MWCNTの表面にPBMAをグラフト結合させても、PBMAのみの場合と同程度(tanδ=0.02以下)に維持されることがわかった。さらに、MWCNT−PBMAにおいては、絶縁性が高いため、比誘電率および誘電損失正接の周波数依存性が、PBMAの場合と同様に非常に小さくなることがわかった。これに対して、MWCNTの表面にPBMA重合の開始剤を結合させたもの(MWCNT−Br)をPBMAと混合すると、比誘電率および誘電損失正接の周波数依存性が大きくなり、特に、周波数が小さくなるにつれて、比誘電率および誘電損失正接が著しく増大することがわかった。
【0083】
図4は、実施例2〜4で得られたMWCNT−PBMA、比較例4〜6得られたBaTiO/PBMA、および比較例7で得られたCB−PBMAの比誘電率を粒子(MWCNT、BaTiO、CB)の体積分率に対してプロットしたグラフである。なお、図4には、前記PBMA(アルドリッチ社製)のみを前記条件でプレス成形して作製した試験片の比誘電率も、粒子の体積分率=0として示した。これらの結果から明らかなように、同じ体積分率で比較すると、MWCNTの表面にPBMAをグラフト結合させることによって、CBの表面にPBMAをグラフト結合させたり、BaTiOとPBMAとを混合した場合に比べて、比誘電率が高くなることがわかった。
【0084】
以上の結果から明らかなように、本発明のMWCNT−PBMAは、高い体積抵抗率と高い比誘電率を有する誘電材料として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、絶縁性に優れ、高い比誘電率と低い誘電損失とを兼ね備え、さらに誘電特性の周波数依存性が小さい誘電材料を得ることが可能となる。
【0086】
したがって、本発明の誘電材料は、家電製品、携帯電話、自動車などに使用する各種コンデンサ(例えば、カップリング回路、バイパス回路、デカップリング回路、スイッチング電源回路、スナバ回路、平滑化回路、フィルタ回路、発振回路)など、高い絶縁性と優れた誘電特性が要求される用途に用いられる誘電材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの表面にグラフト結合した高分子鎖とを含有し、前記高分子鎖の前記カーボンナノチューブへの表面結合密度が、0.01chains/nm以上であることを特徴とする誘電材料。
【請求項2】
前記高分子鎖が、前記カーボンナノチューブの表面に共有結合した連結基を介してグラフト結合していることを特徴とする請求項1に記載の誘電材料。
【請求項3】
前記連結基が、官能基を有する芳香族化合物の2価以上の残基であることを特徴とする請求項2に記載の誘電材料。
【請求項4】
前記官能基が、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基およびアミド基からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の誘電材料。
【請求項5】
前記高分子鎖が、ラジカル重合により形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の誘電材料。
【請求項6】
前記高分子鎖が、ビニル系モノマーを重合せしめたものであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の誘電材料。
【請求項7】
前記高分子鎖の数平均分子量が、1万以上であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の誘電材料。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の誘電材料を含有することを特徴とする誘電性高分子材料。
【請求項9】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の誘電材料を含有することを特徴とする誘電体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−188476(P2012−188476A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51081(P2011−51081)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】