課電式電路事故探査装置
【課題】 電線の分岐点近傍に位置した場合に何れの方向に事故点があるかを容易に識別することができる課電式電路事故探査装置を提供すること
【解決手段】 直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサ3と、磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに演算処理し、出力表示する表示器8に表示するMPU7と、を備えた。
【解決手段】 直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサ3と、磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに演算処理し、出力表示する表示器8に表示するMPU7と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、課電式電路事故探査装置に関するもので、より具体的には、事故区間の電路にパルス電圧を課電し、当該電路から放射する電波を地上で受信して事故点の判別を行なう構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られるように、電路の事故点の探査に関して、事故区間の電路にパルス電圧を課電することで探査を行なう方法(課電式)がある。この方法の公知文献としては、例えば特許文献1〜3などがある。この公知文献に開示された技術は、図1に示すように、事故区間の電路1に課電装置50を接続して直流の高電圧パルスを課電し、当該事故区間において線路1に流れる充電電流と放電電流の様子から事故点の探査を行なうものであり、カレントトランスなどの近接式の電流センサ100を有した受信機101を電路1に接触させてパルス電流を検出し、事故点の位置を判別している。
【0003】
課電装置50は、例えば特許文献4〜6などに開示があり図2に示すように、直流の高電圧を発生する電源装置51,電荷蓄積用のコンデンサC1,放電用の抵抗R1,抵抗R2とコンデンサC2およびコンデンサC3をπ型に接続した波形整形回路52,放電切り替えのための真空スイッチVS1,電圧出力のための真空スイッチVS2,スイッチ制御回路53などを備えており、コンデンサC1にエネルギを蓄積し、これをスイッチ切り替えに応じて放電することでパルス電圧を出力する構成になっている。
【0004】
つまり課電装置50は所定周期でパルス電圧を出力し、これには、電源装置51は商用電源などを入力して例えば15kVの直流高電圧に変換し、コンデンサC1を充電する。コンデンサC1に蓄積した電荷エネルギは、波形整形回路52を通して真空スイッチVS2により電路1側に放電し、そして例えば10msec後に真空スイッチVS1により強制的に接地させて電路1に充電した電荷は抵抗R1を通して放電する。この一連の動作を例えば4秒おきに繰り返すようになっており、その結果、図3に示すようにパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力する。
【0005】
しかしこの方式は、検出測定のために近接式の電流センサ100を電路1に引っかけることから、作業員が電柱に登る昇柱作業が必要になり、あるいはバケット車での作業が必要になる。このため、事故点を検出するまでに多くの手間と時間がかかり、電路1と地上とにそれぞれ作業員が必要であり作業性が悪い。
【0006】
そこで、例えば特許文献7〜12などに見られるように、事故点の探査を地上で行ない得るような技術の提案がある。当該技術にあっては、電路を流れるパルス電流はアンテナを備えた受信機で受信し、受信信号を所定に判別処理することで事故点の探査を行なうものである。
【0007】
【特許文献1】特開昭57−3056号公報
【特許文献2】特開昭57−3057号公報
【特許文献3】特開昭59−24272号公報
【特許文献4】特開昭48−50238号公報
【特許文献5】特開昭54−140929号公報
【特許文献6】特開昭54−140931号公報
【特許文献7】特開昭55−134365号公報
【特許文献8】特開昭56−3516号公報
【特許文献9】特開昭57−179764号公報
【特許文献10】特開昭58−5676号公報
【特許文献11】特開昭63−243769号公報
【特許文献12】特開昭63−243771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、そうしたアンテナ受信により地上で事故点の探査を行なう装置構成のものでは、以下に示すような問題がある。上記した特許文献7〜12などに見られる技術にあっては、判別処理のロジックは検出信号を単発にタイミング処理する考えのものであり、単位パルスに対しては理論的には判別動作し得るようではあるが、ノイズレベルが高い現場環境では理想動作は望めず実用性に疑問がある。
【0009】
さらに、従来の地上で事故点の探査を行なう装置構成のものでは、配電線の分岐点付近において事故側と非事故側の識別が困難であった。
【0010】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、事故点の探査を地上で行なうことができるとともに、配電線の分岐点近傍に位置した場合に何れの方向に事故点があるかを容易に識別することのできる課電式電路事故探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明に係る課電式電路事故探査装置は、事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電して事故点の探査を行なう課電式電路事故探査装置であって、直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサと、前記磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに出力表示する表示手段と、を備えた。
【0012】
前記出力レベルを一定期間記憶保持する記憶手段を設け、前記表示手段には、記憶手段に記憶した過去のデータも合わせて表示するようにするとよい。さらに前記3方向のベクトル合成した出力レベルを前記表示手段に表示する機能を備えるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、課電電流に伴い発生する磁界を検出することで、事故点の探査を地上で行なうことができるとともに、配電線の分岐点近傍に位置した場合に何れの方向に事故点があるかを容易に識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図4は、本発明の好適な一実施の形態を示している。本実施形態において、課電式電路事故探査装置2は、磁界検出のための磁界センサ3を有し、課電装置50により事故区間の電路1に課電することで配電線を流れる電流に起因して発生する磁界fを、磁界センサ3を用いて地上で検出し、その検出結果に基づいて事故点の判別を行なう構成になっている。課電装置50は前述した図2に示す構成のものであり、図3のようなパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力するようになっている。
【0015】
図5は、本実施形態の課電式電路事故探査装置2のブロック図を示している。この課電式電路事故探査装置2は、磁界センサ3として3つの1軸磁界センサ3a,3b,3cを用意し、それらを相互に直交するように配置する。これにより、XYZの直交座標系の3軸方向の磁界を各磁界センサ3a,3b,3cにて検出可能となる。以後、3つの1軸磁界センサを区別して説明するときは、X軸磁界センサ3a,Y軸磁界センサ3b,Z軸磁界センサ3cと記載する。なお、各1軸磁界センサ3a,3b,3cは、本実施形態ではソレノイドや、ピックアップコイルを用いて形成している。
【0016】
各1軸磁界センサ3a,3b,3cの出力は、それぞれバンドパスフィルタ4と増幅器5の直列回路に接続され、各増幅器5の出力をA/D変換器6を介してMPU7に与えるように構成する。これにより、磁界の検出が3系統備えることになるため、磁界検出がX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の3方向について別々に行なえ、MPU7における信号処理により、各軸方向の磁界測定値をそれぞれ単独にあるいは任意の2軸又は3軸の合成値(ベクトル合成)として求め、表示部8に出力表示することができる。
【0017】
図6は、課電パルスの配電線伝送特性を示している。この特性より、測定周波数は1kHz〜100kHzが最適であるため、バンドパスフィルタ4は係る周波数帯を通過するように設定される。
【0018】
図7は、地絡事故が発生している場合の課電パルスによる磁界微分波形を示している。地絡事故が発生している場合、図4にも示すように電路(配電線)1には、地絡電流が流れ、それに伴い電路1を中心にその周囲に磁界が発生する。地絡電流は、課電パルスがONのときに流れるため、地絡電流に伴う磁界も間欠的(4秒に1回)に発生することになる。そして、各1軸磁界センサ3a,3b,3cにて検出され、出力される測定値は、課電電流によってできる磁界の微分値であるため、正確には積分をすべきであるが、本実施形態では、電流の有無を検出できればよいので、積分処理はせずに装置構成の簡略化を図った。もちろん、積分回路を実装しても良い。
【0019】
また、課電パルスは4秒間に1回ONするとともに、1サイクルの4秒という時間はばらつきを有するので、係るONに伴い生じる課電電流ひいては磁界を確実に検出するため、基準レベルを設定し、MPU7は、その基準レベルを超えた信号が入力された場合に課電電流に伴う磁界が発生していると判断し、係る信号が入力されたときより少し前のデータから記録するようにした。
【0020】
MPU7は、入力データ(磁界センサの出力に対して信号処理(周波数フィルタリング&増幅&AD変換)したもの)に対し、ユーザから指定された条件でデータ表示をすべく所定の処理をし、表示部8に表示する。ここでユーザからの指示は、XYZのどの軸方向の磁界或いは合成磁界について、どの表示機能を用いて表示するかである。この指示は、課電式電路事故探査装置2が専用の装置であれば、各指示を与えるための入力スイッチの押下等により与えられ、課電式電路事故探査装置2が汎用のコンピュータを用いて構成される場合には、キーボードその他の入力装置を操作して与えられる。
【0021】
本実施形態で用意された表示機能は、オシロスコープ機能と、棒グラフ機能がある。前者のオシロスコープ機能は、ディジタル・オシロスコープのように、予め任意に定められた基準レベル以上の信号が入力された際に掃引するレベルトリガ機能を設け、トリガ検出よりも少し前の時間から波形を表示するものである。
【0022】
後者の棒グラフ機能は、トリガ(基準レベル以上)で検出されたレベルを時系列に複数回分表示するものである。本実施形態では、さらに図8(a)に示すように、表示領域の左端に課電点の近く(課電装置50から10から20m離れた点)における磁界の測定レベルを常時表示し(図中ハッチングで示す)、トリガ検出したレベルを左方向に移動しながら表示する表示形態と、図8(b)に示すように、トリガ検出に基づいて算出した相対レベルを左方向に移動しながら表示する表示形態と、を有する。ここで、相対レベルとは、まず課電点の近く(課電装置50から10から20m離れた点)における磁界の基準測定レベルを取得し、各トリガ検出したレベルを上記基準測定レベルで除算することで求める。前回トリガ検出してから一定時間(4秒+α)経過してもトリガ検出しない場合にはその回は磁界を検出しなかったとしてレベル(相対レベル)を0とするとともに次のレベル検出に備える。
【0023】
本装置は、上記の表示機能を実現すべく基準測定レベルを記憶する記憶部と、各1軸センサ3a,3b,3cの3系統から入力された値、及びまたはそれらをベクトル合成した値を、時系列に記憶する記憶部と、を備えており、MPU7は、それらの記憶部に所定のデータを格納する。記憶部は、MPU7が備えるようにしても良い。また、記憶保持するデータは、トリガ検出したレベルであり、所定時間(4秒間+α)経過しても基準レベルを超える信号を受信しない場合には、係る回の記憶保持するデータのレベルは“0”とする。
【0024】
次に、本実施形態の課電式電路事故探査装置2により、事故点の方向を認識するための動作原理を説明する。図9に示すような単純なT字型の分岐線路(A点:分岐点)において、地絡事故がB点で発生した場合(図9(a)参照)と、C点で発生した場合(図9(b)参照)について、それぞれの磁界分布を考える。ここで電線L1上に分岐点(A点)が存在し、A点とB点とを結ぶ電線L2と、電線L1とは、直交している。
【0025】
図9(a)に示すように、B点で地絡事故が発生した場合、B点で電線L2の鏡像と短絡しC点では開放端となる。この状態で分岐点(A点)よりも上流側の電線L1の任意の箇所に課電パルスを印加すると、課電電流は、課電装置→A点→B点と流れ、電線L1,L2の周囲に磁界が発生する。このときの任意の座標(点P)における磁界Htは、電線L1とその鏡像が作る磁界がH1、電線L2とその鏡像が作る磁界がH2、地絡電流(事故点における電線から地面に向けて流れる電流)が作る磁界がH3とした場合に、磁界H1,H2,H3の合力(ベクトル合成)したものとなる(図9(a)参照)。
【0026】
そして、各方向成分並びに3軸のベクトル合成した磁界の空間分布は、図10に示すようになる。この空間分布は、作業員が課電式電路事故探査装置2を持って検査することを考慮し、電線から課電式電路事故探査装置2までの垂直距離を8m(電線の地上からの距離10m−地上高2m)とし、磁界の有限長線路の計算式であるビ・オサバールの法則により算出した。
【数1】
【0027】
また、磁界の3軸のベクトル合成Htは、下記式により求められる。
【数2】
【0028】
同様に、C点で地絡事故を発生した場合の任意の座標(点P)における磁界分布は図9(b)に示すようになり、各方向成分並びに合成成分の空間分布は図11に示すようになる。
【0029】
図10,図11から明らかなように、課電電流に基づき発生する磁界をX,Y,Z軸の各成分に分けて計測し、出力することで、地絡事故の発生箇所を容易に識別することができる。例えば、電線に沿って移動した場合、仮に間違った方向(非事故点側)に進んだとしても、少なくとも10m程度進むとX軸方向の磁界成分のレベルが0となるのでわかるし、その前でも徐々にX軸方向の磁界成分のレベルが下がっていることを認識できれば、間違っているおそれが高いことを理解できる。
【0030】
また、X軸方向成分とY軸方向成分の磁界の空間分布状態を示す図10,図11の(a),(b)から明らかなように、電線と直角方向のみを観測することで分岐点(A点)に来た場合にどちらの方向に地絡事故が発生しているかを識別することができる。更に、地絡事故点の直近において電線と直角方向成分が急激に増加するため、係る情報から地絡事故点を容易に特定することができる。
【0031】
Z軸方向成分の磁界の空間分布状態を示す図10,図11の(c)から明らかなように、電線と直角方向に対して左右で磁界の極性が変わる。従って、例えば複数本の電線が平行になっているような場合に、課電式電路事故探査装置2が複数本の電線の間に位置させることで、どちら側の電線で短絡事故が発生しているかを容易に認識することができる(課電電流が流れている電線を特定できる)。また、片側の極性のみ測定することで事故点までの経路をたどることができる。この場合には、最終的な事故点は、X軸成分あるいはY軸成分を測定して特定することになる。
【0032】
図10,図11の(d)に示すように、磁界の3軸のベクトル合成Htも、事故点の位置により異なる空間分布を示すため、当該3軸をベクトル合成した出力に基づいても短絡事故の事故点を特定することができる。
【0033】
さらに、本実施形態で検出可能な事故は、完全地絡事故はもちろんのこと、放電性地絡事故や抵抗性地絡事故の場合も課電電流は課電点から事故点に至る経路にしか流れないので、上記の各種の方式により事故点に至る経路並びに事故点の特定を行なうことができる。
【0034】
次に、具体例に基づき本実施形態における事故点の探査方式(動作原理)を説明する。図12から図15に示すように、直線方向に2つの十字路の交差点が設けられた道路網に沿って配電線が敷設されているエリアで探査を行なう場合、以下のようになる。まず、図示のように配電線の分岐点は、A1とA2の2カ所あり、課電装置と事故点はそれぞれ図示する位置に存在しているものとする。この場合に、各地点Pnにおいて計測した結果は、それぞれ表示部に表示されたようになる。
【0035】
まず図12は、X方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、P1,P2では、進行方向(課電電流の流れる方向と一致)であるX軸方向成分が一定の出力レベルとなっている。そして、第1の分岐点A1で、左右いずれかに曲がり、そのまま配電線に沿って進むと、地点P3,P4では、近接する配電線に電流が流れていないので、図示するようにX軸方向成分は出力レベルが0となる。従って、作業員は、間違った方向に進んでしまったことを知り、第1の分岐点A1に戻り、元来た道の延長方向にまっすぐ進むことになる。
【0036】
すると、地点P5に示すように、ある一定の出力レベルが現れるため、この方向に進んできたことが正しいことが確認できる。また、X軸方向成分の出力レベルが徐々に小さくなっている。このことは、現在の進行方向の延長方向には事故点が無く、途中の分岐点でいずれかの方向に曲がる必要があることを示唆している。つまり、係る延長方向に存在する分岐点(図示の場合にはA2)よりも更に直線方向での延長方向は開放端となり、電流は流れないのでX軸方向成分のレベルは小さくなる。そして、実際に第2の分岐点A2を超えた地点P6では、出力レベルが0になる。
【0037】
また、第2の分岐点A2で左折した場合(非事故点側に進んだ場合)、事故点とは逆方向に進むことになるので、出力レベルは反転する。さらに、そのまま進むと、事故点から徐々に離反していくため、その出力レベルも徐々に小さくなる。これにより、間違った方向に進んでいる(逆側に曲がった)ことが理解でき、第2の分岐点A2まで戻り、正しい方向に進むことができる。
【0038】
逆に、第2の分岐点A2で右折した場合(事故点側に進んだ場合)、一定以上の出力レベルが表示される(P8,P9参照)。そして、地点P9のように事故点に近くなると、その出力レベルも徐々に大きくなる。これにより、事故点に近づいていることがわかる。なお、図示省略するが、事故点を行き過ぎると、その出力レベルは低下するので、事故点を特定できる。
【0039】
図13は、Y方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、地点P1,P2では、課電電流が流れている方向と直交方向であるY軸方向成分の出力レベルは0となる。また、その途中の地点P10において立ち止まると共に、横を向く(図示の場合、配電線を背にする)と、Y軸方向成分の出力レベルが一定以上のものとなる。
【0040】
また、第1の分岐点A1で左折又は右折した場合には、地点P10における表示と同様の原理によりY軸方向成分の出力レベルが現れる。但し、地点P10の場合は同一箇所に立ち止まっていたため、出力レベルはほぼ同一の値を維持したが、地点P3,P4の場合は、課電電流が流れている配電線から徐々に離れるため、その出力レベルは徐々に小さくなる。
【0041】
一方、地点P5では、第2分岐点A2から事故点に向けて流れる課電電流に基づく磁界を検出し、第2の分岐点A2に近づくほどY方向成分の出力レベルも徐々に大きくなる。そして、第2の分岐点A2をそのまま直進した場合、地点P6に示すように、事故点から徐々に離れることからそのY方向成分の出力レベルも徐々に小さくなる。よって、このケースでは、作業員は間違った方向に進んでいることが理解でき、第2の分岐点A2に戻り、いずれかの方向に曲がり、検査を続けることになる。
【0042】
また、地点P5から第2の分岐点A2に至り、そこにおいて左折した場合、地点P7に示すように、出力レベルが徐々に小さくなっているため、やはり作業員は間違った方向に進んでいることが理解でき、第2の分岐点A2に戻り、事故点を探すべく別の方向に進むことになる。
【0043】
また、地点P5から第2の分岐点A2に至り、そこにおいて右折した場合、地点P8に示すように、当初は第2の分岐点A2よりも上流側を流れる課電電流による磁界の影響を受け、ある程度の出力レベルとなるが、ある程度移動し、地点P9に至ると、P1等と同様にY方向成分の出力レベルは小さくなる。第2の分岐点A2の下流側の地点であるP6,P7,P8の各表示状態から明らかなように、Y方向成分の出力レベルの履歴から事故点に向かって進んでいるのか或いは非事故点に向かって進んでいるのかを容易に識別できる。
【0044】
図14は、Z方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。そして、係る磁界は、配電線を中心とした円周方向に発生するため、配電線の左側と右側とでは、磁界の向きが異なる。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、地点P1,P2と、地点P1′,P2′とでは、Z方向成分の出力レベルの絶対値はほぼ等しくなるものの、極性が反転される。従って、Z方向成分の出力レベルの極性を見ることで、作業員の左右どちら側の配電線に課電電流が流れているかがわかる。
【0045】
課電電流は、課電装置→第1の分岐点A1→第2の分岐点A2→事故点と流れるので、その経路に沿って移動している場合、Z方向成分の出力レベルの絶対値はほぼ一定の値を出力し続ける(P1,P2,P1′,P2′,P5,P8参照)。逆に当該経路から離れる配電線に沿って移動した場合、Z方向成分の出力レベルは徐々に小さくなる(P3,P4,P6,P7参照)。
【0046】
また、事故点ではZ方向、つまり配電線から地面に向かって課電電流が流れそれに基づいて磁界が発生することから、事故点に近づくとZ方向成分の出力レベルは小さくなる(P9,P9′参照)。このように、Z方向成分の出力レベルに基づいても、事故点に至ることができる。
【0047】
図15は、XYZの3軸の合成ベクトルについての結果を示している。図から明らかなように、課電電流が流れている配電線に沿って移動している場合には、その出力レベルは一定以上になる。但し、図示のように、事故点が課電電流の流れている配電線の延長方向から異なる方向に存在する場合(第2の分岐点A2で右に曲がる)、たとえば地点P5のようにその分岐点(A2)に近づくと、その分岐点から事故点に向かう課電電流に伴う磁界の影響も受けるため、出力レベルは徐々に小さくなる。また、課電電流が流れる経路から離れる配電線に沿って移動した場合、合成ベクトルの出力レベルは徐々に小さくなる(P3,P4,P6,P7参照)。
【0048】
また、熱雑音レベルに近い低レベル信号の観測や、ダイナミックレンジを改善するため、増幅器の後段にログアンプを接続しても良い。但し、ログアンプは正極でのみ使用可能であるため、前段に半波または全波整流回路、または検波回路を設けることになる。
【0049】
更にまた、課電パルス信号は、周期が約4秒間でパルス幅が約10msecであり、立ち上がりが数10μsecとなり、立ち上がりが高速であるのに比べて周期が非常に長い。そこで、AD変換器の前段にピークホールド回路を接続すると確実にパルスを検出することができる。このとき、ピークホールド回路の周波数特性を数100kHzにし、ホールド時間を数10msecとすると、サンプリング周期が数msec〜数10msecと、課電パルスの立ち上がりより遅い速度にしても課電パルスのピークを容易に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する図である。
【図2】課電装置の基本構成を示す回路図である。
【図3】課電するパルス電圧の波形を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する構成図である。
【図5】本発明に係る課電式電路事故探査装置の好適な一実施形態を示している。
【図6】配電線の周波数特性(P−Spice計算値)を示すグラフである。
【図7】課電パルスによる磁界微分波形を示すグラフである。
【図8】表示形態の一例を示す図である。
【図9】動作原理を説明する図である。
【図10】動作原理を説明する図である。
【図11】動作原理を説明する図である。
【図12】X方向成分についての結果を示す図である。
【図13】Y方向成分についての結果を示す図である。
【図14】Z方向成分についての結果を示す図である。
【図15】ベクトル合成した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 電路
2 課電式電路事故探査装置
3 磁界センサ
3a X軸磁界センサ
3b Y軸磁界センサ
3c Z軸磁界センサ
4 バンドパスフィルタ
5 増幅器
6 A/D変換器
7 MPU
8 表示器
50 課電装置
f 磁界
【技術分野】
【0001】
本発明は、課電式電路事故探査装置に関するもので、より具体的には、事故区間の電路にパルス電圧を課電し、当該電路から放射する電波を地上で受信して事故点の判別を行なう構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られるように、電路の事故点の探査に関して、事故区間の電路にパルス電圧を課電することで探査を行なう方法(課電式)がある。この方法の公知文献としては、例えば特許文献1〜3などがある。この公知文献に開示された技術は、図1に示すように、事故区間の電路1に課電装置50を接続して直流の高電圧パルスを課電し、当該事故区間において線路1に流れる充電電流と放電電流の様子から事故点の探査を行なうものであり、カレントトランスなどの近接式の電流センサ100を有した受信機101を電路1に接触させてパルス電流を検出し、事故点の位置を判別している。
【0003】
課電装置50は、例えば特許文献4〜6などに開示があり図2に示すように、直流の高電圧を発生する電源装置51,電荷蓄積用のコンデンサC1,放電用の抵抗R1,抵抗R2とコンデンサC2およびコンデンサC3をπ型に接続した波形整形回路52,放電切り替えのための真空スイッチVS1,電圧出力のための真空スイッチVS2,スイッチ制御回路53などを備えており、コンデンサC1にエネルギを蓄積し、これをスイッチ切り替えに応じて放電することでパルス電圧を出力する構成になっている。
【0004】
つまり課電装置50は所定周期でパルス電圧を出力し、これには、電源装置51は商用電源などを入力して例えば15kVの直流高電圧に変換し、コンデンサC1を充電する。コンデンサC1に蓄積した電荷エネルギは、波形整形回路52を通して真空スイッチVS2により電路1側に放電し、そして例えば10msec後に真空スイッチVS1により強制的に接地させて電路1に充電した電荷は抵抗R1を通して放電する。この一連の動作を例えば4秒おきに繰り返すようになっており、その結果、図3に示すようにパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力する。
【0005】
しかしこの方式は、検出測定のために近接式の電流センサ100を電路1に引っかけることから、作業員が電柱に登る昇柱作業が必要になり、あるいはバケット車での作業が必要になる。このため、事故点を検出するまでに多くの手間と時間がかかり、電路1と地上とにそれぞれ作業員が必要であり作業性が悪い。
【0006】
そこで、例えば特許文献7〜12などに見られるように、事故点の探査を地上で行ない得るような技術の提案がある。当該技術にあっては、電路を流れるパルス電流はアンテナを備えた受信機で受信し、受信信号を所定に判別処理することで事故点の探査を行なうものである。
【0007】
【特許文献1】特開昭57−3056号公報
【特許文献2】特開昭57−3057号公報
【特許文献3】特開昭59−24272号公報
【特許文献4】特開昭48−50238号公報
【特許文献5】特開昭54−140929号公報
【特許文献6】特開昭54−140931号公報
【特許文献7】特開昭55−134365号公報
【特許文献8】特開昭56−3516号公報
【特許文献9】特開昭57−179764号公報
【特許文献10】特開昭58−5676号公報
【特許文献11】特開昭63−243769号公報
【特許文献12】特開昭63−243771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、そうしたアンテナ受信により地上で事故点の探査を行なう装置構成のものでは、以下に示すような問題がある。上記した特許文献7〜12などに見られる技術にあっては、判別処理のロジックは検出信号を単発にタイミング処理する考えのものであり、単位パルスに対しては理論的には判別動作し得るようではあるが、ノイズレベルが高い現場環境では理想動作は望めず実用性に疑問がある。
【0009】
さらに、従来の地上で事故点の探査を行なう装置構成のものでは、配電線の分岐点付近において事故側と非事故側の識別が困難であった。
【0010】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、事故点の探査を地上で行なうことができるとともに、配電線の分岐点近傍に位置した場合に何れの方向に事故点があるかを容易に識別することのできる課電式電路事故探査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明に係る課電式電路事故探査装置は、事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電して事故点の探査を行なう課電式電路事故探査装置であって、直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサと、前記磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに出力表示する表示手段と、を備えた。
【0012】
前記出力レベルを一定期間記憶保持する記憶手段を設け、前記表示手段には、記憶手段に記憶した過去のデータも合わせて表示するようにするとよい。さらに前記3方向のベクトル合成した出力レベルを前記表示手段に表示する機能を備えるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、課電電流に伴い発生する磁界を検出することで、事故点の探査を地上で行なうことができるとともに、配電線の分岐点近傍に位置した場合に何れの方向に事故点があるかを容易に識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図4は、本発明の好適な一実施の形態を示している。本実施形態において、課電式電路事故探査装置2は、磁界検出のための磁界センサ3を有し、課電装置50により事故区間の電路1に課電することで配電線を流れる電流に起因して発生する磁界fを、磁界センサ3を用いて地上で検出し、その検出結果に基づいて事故点の判別を行なう構成になっている。課電装置50は前述した図2に示す構成のものであり、図3のようなパルス幅10msec,繰返し周期4sec,波高値15kVの矩形パルスを出力するようになっている。
【0015】
図5は、本実施形態の課電式電路事故探査装置2のブロック図を示している。この課電式電路事故探査装置2は、磁界センサ3として3つの1軸磁界センサ3a,3b,3cを用意し、それらを相互に直交するように配置する。これにより、XYZの直交座標系の3軸方向の磁界を各磁界センサ3a,3b,3cにて検出可能となる。以後、3つの1軸磁界センサを区別して説明するときは、X軸磁界センサ3a,Y軸磁界センサ3b,Z軸磁界センサ3cと記載する。なお、各1軸磁界センサ3a,3b,3cは、本実施形態ではソレノイドや、ピックアップコイルを用いて形成している。
【0016】
各1軸磁界センサ3a,3b,3cの出力は、それぞれバンドパスフィルタ4と増幅器5の直列回路に接続され、各増幅器5の出力をA/D変換器6を介してMPU7に与えるように構成する。これにより、磁界の検出が3系統備えることになるため、磁界検出がX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の3方向について別々に行なえ、MPU7における信号処理により、各軸方向の磁界測定値をそれぞれ単独にあるいは任意の2軸又は3軸の合成値(ベクトル合成)として求め、表示部8に出力表示することができる。
【0017】
図6は、課電パルスの配電線伝送特性を示している。この特性より、測定周波数は1kHz〜100kHzが最適であるため、バンドパスフィルタ4は係る周波数帯を通過するように設定される。
【0018】
図7は、地絡事故が発生している場合の課電パルスによる磁界微分波形を示している。地絡事故が発生している場合、図4にも示すように電路(配電線)1には、地絡電流が流れ、それに伴い電路1を中心にその周囲に磁界が発生する。地絡電流は、課電パルスがONのときに流れるため、地絡電流に伴う磁界も間欠的(4秒に1回)に発生することになる。そして、各1軸磁界センサ3a,3b,3cにて検出され、出力される測定値は、課電電流によってできる磁界の微分値であるため、正確には積分をすべきであるが、本実施形態では、電流の有無を検出できればよいので、積分処理はせずに装置構成の簡略化を図った。もちろん、積分回路を実装しても良い。
【0019】
また、課電パルスは4秒間に1回ONするとともに、1サイクルの4秒という時間はばらつきを有するので、係るONに伴い生じる課電電流ひいては磁界を確実に検出するため、基準レベルを設定し、MPU7は、その基準レベルを超えた信号が入力された場合に課電電流に伴う磁界が発生していると判断し、係る信号が入力されたときより少し前のデータから記録するようにした。
【0020】
MPU7は、入力データ(磁界センサの出力に対して信号処理(周波数フィルタリング&増幅&AD変換)したもの)に対し、ユーザから指定された条件でデータ表示をすべく所定の処理をし、表示部8に表示する。ここでユーザからの指示は、XYZのどの軸方向の磁界或いは合成磁界について、どの表示機能を用いて表示するかである。この指示は、課電式電路事故探査装置2が専用の装置であれば、各指示を与えるための入力スイッチの押下等により与えられ、課電式電路事故探査装置2が汎用のコンピュータを用いて構成される場合には、キーボードその他の入力装置を操作して与えられる。
【0021】
本実施形態で用意された表示機能は、オシロスコープ機能と、棒グラフ機能がある。前者のオシロスコープ機能は、ディジタル・オシロスコープのように、予め任意に定められた基準レベル以上の信号が入力された際に掃引するレベルトリガ機能を設け、トリガ検出よりも少し前の時間から波形を表示するものである。
【0022】
後者の棒グラフ機能は、トリガ(基準レベル以上)で検出されたレベルを時系列に複数回分表示するものである。本実施形態では、さらに図8(a)に示すように、表示領域の左端に課電点の近く(課電装置50から10から20m離れた点)における磁界の測定レベルを常時表示し(図中ハッチングで示す)、トリガ検出したレベルを左方向に移動しながら表示する表示形態と、図8(b)に示すように、トリガ検出に基づいて算出した相対レベルを左方向に移動しながら表示する表示形態と、を有する。ここで、相対レベルとは、まず課電点の近く(課電装置50から10から20m離れた点)における磁界の基準測定レベルを取得し、各トリガ検出したレベルを上記基準測定レベルで除算することで求める。前回トリガ検出してから一定時間(4秒+α)経過してもトリガ検出しない場合にはその回は磁界を検出しなかったとしてレベル(相対レベル)を0とするとともに次のレベル検出に備える。
【0023】
本装置は、上記の表示機能を実現すべく基準測定レベルを記憶する記憶部と、各1軸センサ3a,3b,3cの3系統から入力された値、及びまたはそれらをベクトル合成した値を、時系列に記憶する記憶部と、を備えており、MPU7は、それらの記憶部に所定のデータを格納する。記憶部は、MPU7が備えるようにしても良い。また、記憶保持するデータは、トリガ検出したレベルであり、所定時間(4秒間+α)経過しても基準レベルを超える信号を受信しない場合には、係る回の記憶保持するデータのレベルは“0”とする。
【0024】
次に、本実施形態の課電式電路事故探査装置2により、事故点の方向を認識するための動作原理を説明する。図9に示すような単純なT字型の分岐線路(A点:分岐点)において、地絡事故がB点で発生した場合(図9(a)参照)と、C点で発生した場合(図9(b)参照)について、それぞれの磁界分布を考える。ここで電線L1上に分岐点(A点)が存在し、A点とB点とを結ぶ電線L2と、電線L1とは、直交している。
【0025】
図9(a)に示すように、B点で地絡事故が発生した場合、B点で電線L2の鏡像と短絡しC点では開放端となる。この状態で分岐点(A点)よりも上流側の電線L1の任意の箇所に課電パルスを印加すると、課電電流は、課電装置→A点→B点と流れ、電線L1,L2の周囲に磁界が発生する。このときの任意の座標(点P)における磁界Htは、電線L1とその鏡像が作る磁界がH1、電線L2とその鏡像が作る磁界がH2、地絡電流(事故点における電線から地面に向けて流れる電流)が作る磁界がH3とした場合に、磁界H1,H2,H3の合力(ベクトル合成)したものとなる(図9(a)参照)。
【0026】
そして、各方向成分並びに3軸のベクトル合成した磁界の空間分布は、図10に示すようになる。この空間分布は、作業員が課電式電路事故探査装置2を持って検査することを考慮し、電線から課電式電路事故探査装置2までの垂直距離を8m(電線の地上からの距離10m−地上高2m)とし、磁界の有限長線路の計算式であるビ・オサバールの法則により算出した。
【数1】
【0027】
また、磁界の3軸のベクトル合成Htは、下記式により求められる。
【数2】
【0028】
同様に、C点で地絡事故を発生した場合の任意の座標(点P)における磁界分布は図9(b)に示すようになり、各方向成分並びに合成成分の空間分布は図11に示すようになる。
【0029】
図10,図11から明らかなように、課電電流に基づき発生する磁界をX,Y,Z軸の各成分に分けて計測し、出力することで、地絡事故の発生箇所を容易に識別することができる。例えば、電線に沿って移動した場合、仮に間違った方向(非事故点側)に進んだとしても、少なくとも10m程度進むとX軸方向の磁界成分のレベルが0となるのでわかるし、その前でも徐々にX軸方向の磁界成分のレベルが下がっていることを認識できれば、間違っているおそれが高いことを理解できる。
【0030】
また、X軸方向成分とY軸方向成分の磁界の空間分布状態を示す図10,図11の(a),(b)から明らかなように、電線と直角方向のみを観測することで分岐点(A点)に来た場合にどちらの方向に地絡事故が発生しているかを識別することができる。更に、地絡事故点の直近において電線と直角方向成分が急激に増加するため、係る情報から地絡事故点を容易に特定することができる。
【0031】
Z軸方向成分の磁界の空間分布状態を示す図10,図11の(c)から明らかなように、電線と直角方向に対して左右で磁界の極性が変わる。従って、例えば複数本の電線が平行になっているような場合に、課電式電路事故探査装置2が複数本の電線の間に位置させることで、どちら側の電線で短絡事故が発生しているかを容易に認識することができる(課電電流が流れている電線を特定できる)。また、片側の極性のみ測定することで事故点までの経路をたどることができる。この場合には、最終的な事故点は、X軸成分あるいはY軸成分を測定して特定することになる。
【0032】
図10,図11の(d)に示すように、磁界の3軸のベクトル合成Htも、事故点の位置により異なる空間分布を示すため、当該3軸をベクトル合成した出力に基づいても短絡事故の事故点を特定することができる。
【0033】
さらに、本実施形態で検出可能な事故は、完全地絡事故はもちろんのこと、放電性地絡事故や抵抗性地絡事故の場合も課電電流は課電点から事故点に至る経路にしか流れないので、上記の各種の方式により事故点に至る経路並びに事故点の特定を行なうことができる。
【0034】
次に、具体例に基づき本実施形態における事故点の探査方式(動作原理)を説明する。図12から図15に示すように、直線方向に2つの十字路の交差点が設けられた道路網に沿って配電線が敷設されているエリアで探査を行なう場合、以下のようになる。まず、図示のように配電線の分岐点は、A1とA2の2カ所あり、課電装置と事故点はそれぞれ図示する位置に存在しているものとする。この場合に、各地点Pnにおいて計測した結果は、それぞれ表示部に表示されたようになる。
【0035】
まず図12は、X方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、P1,P2では、進行方向(課電電流の流れる方向と一致)であるX軸方向成分が一定の出力レベルとなっている。そして、第1の分岐点A1で、左右いずれかに曲がり、そのまま配電線に沿って進むと、地点P3,P4では、近接する配電線に電流が流れていないので、図示するようにX軸方向成分は出力レベルが0となる。従って、作業員は、間違った方向に進んでしまったことを知り、第1の分岐点A1に戻り、元来た道の延長方向にまっすぐ進むことになる。
【0036】
すると、地点P5に示すように、ある一定の出力レベルが現れるため、この方向に進んできたことが正しいことが確認できる。また、X軸方向成分の出力レベルが徐々に小さくなっている。このことは、現在の進行方向の延長方向には事故点が無く、途中の分岐点でいずれかの方向に曲がる必要があることを示唆している。つまり、係る延長方向に存在する分岐点(図示の場合にはA2)よりも更に直線方向での延長方向は開放端となり、電流は流れないのでX軸方向成分のレベルは小さくなる。そして、実際に第2の分岐点A2を超えた地点P6では、出力レベルが0になる。
【0037】
また、第2の分岐点A2で左折した場合(非事故点側に進んだ場合)、事故点とは逆方向に進むことになるので、出力レベルは反転する。さらに、そのまま進むと、事故点から徐々に離反していくため、その出力レベルも徐々に小さくなる。これにより、間違った方向に進んでいる(逆側に曲がった)ことが理解でき、第2の分岐点A2まで戻り、正しい方向に進むことができる。
【0038】
逆に、第2の分岐点A2で右折した場合(事故点側に進んだ場合)、一定以上の出力レベルが表示される(P8,P9参照)。そして、地点P9のように事故点に近くなると、その出力レベルも徐々に大きくなる。これにより、事故点に近づいていることがわかる。なお、図示省略するが、事故点を行き過ぎると、その出力レベルは低下するので、事故点を特定できる。
【0039】
図13は、Y方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、地点P1,P2では、課電電流が流れている方向と直交方向であるY軸方向成分の出力レベルは0となる。また、その途中の地点P10において立ち止まると共に、横を向く(図示の場合、配電線を背にする)と、Y軸方向成分の出力レベルが一定以上のものとなる。
【0040】
また、第1の分岐点A1で左折又は右折した場合には、地点P10における表示と同様の原理によりY軸方向成分の出力レベルが現れる。但し、地点P10の場合は同一箇所に立ち止まっていたため、出力レベルはほぼ同一の値を維持したが、地点P3,P4の場合は、課電電流が流れている配電線から徐々に離れるため、その出力レベルは徐々に小さくなる。
【0041】
一方、地点P5では、第2分岐点A2から事故点に向けて流れる課電電流に基づく磁界を検出し、第2の分岐点A2に近づくほどY方向成分の出力レベルも徐々に大きくなる。そして、第2の分岐点A2をそのまま直進した場合、地点P6に示すように、事故点から徐々に離れることからそのY方向成分の出力レベルも徐々に小さくなる。よって、このケースでは、作業員は間違った方向に進んでいることが理解でき、第2の分岐点A2に戻り、いずれかの方向に曲がり、検査を続けることになる。
【0042】
また、地点P5から第2の分岐点A2に至り、そこにおいて左折した場合、地点P7に示すように、出力レベルが徐々に小さくなっているため、やはり作業員は間違った方向に進んでいることが理解でき、第2の分岐点A2に戻り、事故点を探すべく別の方向に進むことになる。
【0043】
また、地点P5から第2の分岐点A2に至り、そこにおいて右折した場合、地点P8に示すように、当初は第2の分岐点A2よりも上流側を流れる課電電流による磁界の影響を受け、ある程度の出力レベルとなるが、ある程度移動し、地点P9に至ると、P1等と同様にY方向成分の出力レベルは小さくなる。第2の分岐点A2の下流側の地点であるP6,P7,P8の各表示状態から明らかなように、Y方向成分の出力レベルの履歴から事故点に向かって進んでいるのか或いは非事故点に向かって進んでいるのかを容易に識別できる。
【0044】
図14は、Z方向成分についての結果を示している。課電パルスの印加に伴い、電流は、課電装置から事故点に向けて流れ、その電流が流れる配電線の周囲に磁界が発生する。そして、係る磁界は、配電線を中心とした円周方向に発生するため、配電線の左側と右側とでは、磁界の向きが異なる。従って、作業員が課電装置を接続した課電点から配電線に沿って移動すると、地点P1,P2と、地点P1′,P2′とでは、Z方向成分の出力レベルの絶対値はほぼ等しくなるものの、極性が反転される。従って、Z方向成分の出力レベルの極性を見ることで、作業員の左右どちら側の配電線に課電電流が流れているかがわかる。
【0045】
課電電流は、課電装置→第1の分岐点A1→第2の分岐点A2→事故点と流れるので、その経路に沿って移動している場合、Z方向成分の出力レベルの絶対値はほぼ一定の値を出力し続ける(P1,P2,P1′,P2′,P5,P8参照)。逆に当該経路から離れる配電線に沿って移動した場合、Z方向成分の出力レベルは徐々に小さくなる(P3,P4,P6,P7参照)。
【0046】
また、事故点ではZ方向、つまり配電線から地面に向かって課電電流が流れそれに基づいて磁界が発生することから、事故点に近づくとZ方向成分の出力レベルは小さくなる(P9,P9′参照)。このように、Z方向成分の出力レベルに基づいても、事故点に至ることができる。
【0047】
図15は、XYZの3軸の合成ベクトルについての結果を示している。図から明らかなように、課電電流が流れている配電線に沿って移動している場合には、その出力レベルは一定以上になる。但し、図示のように、事故点が課電電流の流れている配電線の延長方向から異なる方向に存在する場合(第2の分岐点A2で右に曲がる)、たとえば地点P5のようにその分岐点(A2)に近づくと、その分岐点から事故点に向かう課電電流に伴う磁界の影響も受けるため、出力レベルは徐々に小さくなる。また、課電電流が流れる経路から離れる配電線に沿って移動した場合、合成ベクトルの出力レベルは徐々に小さくなる(P3,P4,P6,P7参照)。
【0048】
また、熱雑音レベルに近い低レベル信号の観測や、ダイナミックレンジを改善するため、増幅器の後段にログアンプを接続しても良い。但し、ログアンプは正極でのみ使用可能であるため、前段に半波または全波整流回路、または検波回路を設けることになる。
【0049】
更にまた、課電パルス信号は、周期が約4秒間でパルス幅が約10msecであり、立ち上がりが数10μsecとなり、立ち上がりが高速であるのに比べて周期が非常に長い。そこで、AD変換器の前段にピークホールド回路を接続すると確実にパルスを検出することができる。このとき、ピークホールド回路の周波数特性を数100kHzにし、ホールド時間を数10msecとすると、サンプリング周期が数msec〜数10msecと、課電パルスの立ち上がりより遅い速度にしても課電パルスのピークを容易に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する図である。
【図2】課電装置の基本構成を示す回路図である。
【図3】課電するパルス電圧の波形を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る一例を示し、電路における事故点探査の概要を説明する構成図である。
【図5】本発明に係る課電式電路事故探査装置の好適な一実施形態を示している。
【図6】配電線の周波数特性(P−Spice計算値)を示すグラフである。
【図7】課電パルスによる磁界微分波形を示すグラフである。
【図8】表示形態の一例を示す図である。
【図9】動作原理を説明する図である。
【図10】動作原理を説明する図である。
【図11】動作原理を説明する図である。
【図12】X方向成分についての結果を示す図である。
【図13】Y方向成分についての結果を示す図である。
【図14】Z方向成分についての結果を示す図である。
【図15】ベクトル合成した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 電路
2 課電式電路事故探査装置
3 磁界センサ
3a X軸磁界センサ
3b Y軸磁界センサ
3c Z軸磁界センサ
4 バンドパスフィルタ
5 増幅器
6 A/D変換器
7 MPU
8 表示器
50 課電装置
f 磁界
【特許請求の範囲】
【請求項1】
事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電して事故点の探査を行なう課電式電路事故探査装置であって、
直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサと、
前記磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに出力表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする課電式電路事故探査装置。
【請求項2】
前記出力レベルを一定期間記憶保持する記憶手段を設け、
前記表示手段には、記憶手段に記憶した過去のデータも合わせて表示するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項3】
前記3方向のベクトル合成した出力レベル、または前記3方向のうちの任意2方向をベクトル合成した出力レベルを前記表示手段に表示する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項1】
事故区間の電路に課電装置によりパルス電圧を課電して事故点の探査を行なう課電式電路事故探査装置であって、
直交する3方向(X,Y,Z)の磁界を検出する磁界センサと、
前記磁界センサで検出したX方向成分と、Y方向成分と、Z方向成分に基づく出力レベルを成分ごとに出力表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする課電式電路事故探査装置。
【請求項2】
前記出力レベルを一定期間記憶保持する記憶手段を設け、
前記表示手段には、記憶手段に記憶した過去のデータも合わせて表示するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【請求項3】
前記3方向のベクトル合成した出力レベル、または前記3方向のうちの任意2方向をベクトル合成した出力レベルを前記表示手段に表示する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の課電式電路事故探査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−191023(P2008−191023A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26352(P2007−26352)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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