説明

調湿吸ガス剤および調湿吸ガス具

【課題】吸湿特性を利用して酸性ガスを効率的に捕捉しつつ、放湿時に捕捉した酸性ガスを解放させてしまうことがない調湿吸ガス剤、およびこれを利用してなる調湿吸ガス具の提供。
【解決手段】モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物よりなる粉末状をなす調湿材1と粉末状をなす酸性ガスの吸着材2とを主原料として造粒して得られる多孔質の粒状体の集合物に対し、水分調整してなる。調湿吸ガス具は、かかる調湿吸ガス剤を通気性を備えた袋体又は容器に封入してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、調湿機能と酸性ガスの捕捉吸着機能を備えた調湿吸ガス剤、および、調湿対象となる空間内に静置されて、この空間内の調湿をなすと同時にこの空間内にある酸性ガスを捕捉吸着して、この空間内にある物品の劣化を防止する調湿吸ガス具に関する。
【背景技術】
【0002】
ある空間において、調湿と酸性ガスの除去とが同時に必要とされるような場合には、一般に、この空間内にシリカゲルなどの調湿剤を静置させると共に、酸性ガスの化学吸着剤を静置させる手法が採られる。
【0003】
例えば、美術館や博物館にあっては、展示品の劣化を防止するため、これらの展示ケース内の調湿が求められると共に、これらの展示品に悪影響を及ぼす酢酸ガスなどの酸性ガスの除去が求められるところである。かかる酢酸ガスなどは展示ケース内に貼り込まれるクロスの接着剤などから生じるppbレベルのものであるが展示品劣化の因子としてその速やかな除去が求められる。
【0004】
ここで、こうした展示ケース内に調湿剤と化学吸着剤とをそれぞれ静置させた場合、酸性ガスは調湿剤には物理吸着され化学吸着剤には化学吸着されることとなるが、調湿剤は吸放湿を繰り返すため吸湿時に物理吸着された酸性ガスの成分は放湿時に再び展示ケース内に解き放たれてしまう。このため、このようにした場合、展示ケース内の酸性ガスの濃度を漸減はできるものの、急速に低下させることはできない。また、かかる展示ケース内の空間など、調湿と酸性ガスの除去とが同時に必要とされる空間が狭小である場合には、そこに調湿剤と化学吸着剤とを同時に静置させるスペースを確保し得ない場合もある。調湿剤と化学吸着剤とを単純に混合した場合、静置スペースは減少させることはできるとしても、混ぜられた調湿剤の放湿時にそれに物理吸着された酸性ガスの成分を再び解放させてしまう点は変わらない。熱可塑性樹脂を調湿剤とガス吸着剤と共に混練し成形して構成される調湿吸ガス性成形品として特許文献1に示されるものがあるが、この特許文献1に示されるものも調湿剤と吸着剤とが均一に混ざり合い結びついているわけではなく、両者を単純に混合した場合と変わるものではない。
【特許文献1】特開平8−217913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、吸湿特性を利用して酸性ガスを効率的に捕捉しつつ、放湿時に捕捉した酸性ガスを解放させてしまうことがない調湿吸ガス剤、およびこれを利用してなる調湿吸ガス具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、調湿吸ガス剤を、モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物よりなる粉末状をなす調湿材と粉末状をなす酸性ガスの吸着材とを主原料として造粒して得られる多孔質の粒状体の集合物に対し、水分調整してなるものとした。
【0007】
また、調湿吸ガス具を、前記調湿吸ガス剤を通気性を備えた袋体又は容器に封入してなるものとした。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる調湿吸ガス剤によれば、含まれる調湿材の吸湿特性を利用して酸性ガスを効率的に捕捉しつつ、この調湿材と一体化された吸着材によって放湿時に捕捉した酸性ガスを解放させてしまうことがなく、この結果、これが静置された空間内の酸性ガスの濃度を急速に減少させることができる。また、この発明にかかる調湿吸ガス具によれば、調湿と酸性ガスの除去が求められる空間内にこれを静置することにより、封入された調湿吸ガス剤によってこの空間内の調湿をしつつこの空間内にある酸性ガスの濃度を急速に減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0010】
この実施の形態にかかる調湿吸ガス剤は、調湿機能と酸性ガスの捕捉吸着機能を備えた多孔質の粒状体の集合物であって、調湿対象となる空間内に静置されて、この空間内の調湿をなすと同時にこの空間内にある酸性ガスを捕捉吸着するものである。
【0011】
また、この実施の形態にかかる調湿吸ガス具は、かかる調湿吸ガス剤を通気性を備えた袋体又は容器に封入してなり、調湿対象となる空間内に静置することにより、この空間内の調湿と酸性ガスの除去とを通じてこの空間内にある物品の劣化などを防止するために用いられるものである。
【0012】
かかる袋体としては、例えば、織物メッシュや不織布などの通気性を備え、かつ、前記粒状体よりも小さい目を持った袋構成材よりなる袋体を用いることができる。また、かかる容器としては、例えば、前記粒状体よりも小さい通気孔を備えた箱状体を用いることができる。
【0013】
調湿吸ガス剤は、調湿材と吸着材とに必要に応じて結合剤を加えて造粒して生成された粒状体の集合物に対し水分調整をして得られる。
【0014】
調湿材は、モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物よりなり粉末状をなす。かかる調湿材としては、酸性白土、ベントナイトなどが用いられる。
【0015】
吸着材は、粉末状をなし、酸性ガスを化学吸着するものである。かかる吸着材としては、除去すべき酸性ガスが酢酸ガスである場合、消石灰(水酸化カルシウム)や炭酸カリウムなどが用いられる。
【0016】
前記結合剤としては、コロイダルシリカなどを用いることができる。
【0017】
造粒は、前記粒状体を生成すると共に、生成される粒状体を多孔質構造のものとし、調湿材と吸着材とをできるだけ粒の揃った均一な粒子とし、さらにこれらを偏頗なく混ぜ合わせ一体化させるためになされる。調湿材と吸着材は、造粒に先立ち、あるいは、造粒と同時に混練される。湿式造粒では加水がなされる。造粒は圧縮造粒、撹拌混合造粒、転動造粒、流動層造粒などの周知の方法でなすことができるが、前記の多孔質構造化と両材の粒子の均一化及び混合状態の均質化の観点からは、かかる造粒は、押出造粒によってなすことが最適と認められた。典型的には、かかる押出造粒によって、前記調湿材と吸着材を主原料としてこれらから直径1mm〜3mmで長さ4mm〜8mmの長細い粒状体を生成する。
【0018】
各材料は、調湿材40〜90wt%、吸着材10〜60wt%の割合で配合することができるが、調湿性能及びガス吸着性能の双方を十分に満足させる観点からは、調湿材60〜80wt%、吸着材20〜40wt%の割合で配合することが最適と認められた。
【0019】
調湿吸ガス剤の水分調整は、例えば、調湿対象空間が相対湿度55%に保たれるべき空間である場合には、調湿吸ガス剤がこの空間に調湿吸ガス剤を静置したときにこの空間を相対湿度55%とする吸放湿特性を持つようになされる。より具体的には、かかる吸放湿特性の付与は、典型的には、乾燥させた調湿吸ガス剤に一定量の水分を付与することでなされる。このときに付与すべき水分量は、例えば調湿吸ガス剤に相対湿度55%とする吸放湿特性を持たせる場合には、乾燥させた調湿吸ガス剤(試験用)を相対湿度55%に保たれた空間に吸湿が止まるまで(調湿吸ガス剤の吸湿による重量増加がなくなった状態、以下平衡状態という。)静置し、その静置前(吸湿前)の重量とこの平衡状態での重量との差を求めることで把握することができる。
【0020】
このように水分調整された粒状体の集合物、すなわち、調湿吸ガス剤は、気密状態で包装などされ、使用時に開梱されて使用に供される。前記調湿吸ガス具にあっても、気密状態で包装などされ、使用時に開梱されて使用に供される。
【0021】
かかる調湿吸ガス剤は、粒状物の集合物であり、かつ、多孔質構造を有することから、高い調湿能力とガス吸着能力を有する。調湿材の吸湿作用によって調湿吸ガス剤の静置された空間内の酸性ガスは粒状物内に取り込まれる。取り込まれた酸性ガス成分は調湿材に物理吸着され、また、吸着材に化学吸着される。調湿材の放湿作用により調湿材に物理吸着されていた酸性ガス成分は解放されるが、造粒によって調湿材と吸着材は偏頗なく一体化されていることから、調湿材と吸着材とを単純に混合した場合と異なり、解放された酸性ガス成分は吸着材に捕捉吸着されて粒状物から抜け出すことがない。すなわち、かかる調湿吸ガス剤によれば、含まれる調湿材の吸湿特性を利用して酸性ガスを効率的に捕捉しつつ、この調湿材と一体化された吸着材によって放湿時に捕捉した酸性ガスを解放させてしまうことがなく、この結果、これが静置された空間内の酸性ガスの濃度を急速に減少させることができる。図1にかかる調湿吸ガス剤の一粒の構造のイメージを模式的に示す。調湿材1と吸着材2は偏頗なく一体化されており、また、かかる調湿吸ガス剤の一粒は多孔質構造を持っている。(図1において孔を符号3で示す。)
【実施例】
【0022】
以下の実施例と、比較例1および2を用意し、以下の試験条件の下で試験を行った。
【0023】
実施例:酸性白土70重量部、消石灰30重量部、結合剤5重量部を造粒して得られた粒状体の集合物
比較例1:粒状の酸性白土70重量部と粒状の消石灰30重量部との混合物
比較例2:シリカゲル70重量部と粒状の消石灰30重量部との混合物
【0024】
(試験条件)
実施例、比較例1、比較例2をそれぞれ、酢酸2gを静置させた50Lの密閉容器内に静置し、24時間放置させ酢酸を吸着させた。直径25mm、長さ350mmのガラスカラムに、酢酸を吸着させた実施例、比較例1、比較例2をそれぞれ50mmの長さで充填し、相対湿度20%RHのエアを3.0L/minの通気量で通気させた。通気2時間後と24時間後にそれぞれガス検知管法(下記の表では検知管法と称する。)とイオンクロマトグラフ法(下記の表ではIC法と称する。)によりガラスカラムの下流側の酢酸ガス濃度を測定した。その結果を以下に示す。
【表1】

【0025】
実施例は、比較例1および比較例2に比べて、時間の経過にかかわらず酢酸ガスの脱離放出量が明らかに少ないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】調湿吸ガス剤の概念構成図
【符号の説明】
【0027】
1 調湿材
2 吸着材
3 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物よりなる粉末状をなす調湿材と粉末状をなす酸性ガスの吸着材とを主原料として造粒して得られる多孔質の粒状体の集合物に対し、水分調整してなる調湿吸ガス剤。
【請求項2】
請求項1記載の調湿吸ガス剤を通気性を備えた袋体又は容器に封入してなる調湿吸ガス具。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−289955(P2008−289955A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135278(P2007−135278)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(596042578)日本ピュアテック株式会社 (15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】